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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」
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遭遇率と信頼

「陽太、炎を消しなさい」


「はいよ」


陽太の炎が消えた瞬間、森との境界線の部分に巨大な土の壁ができていく


一方向だけでなく、ぽっかり空いた空間を覆うように大きな壁が作られていくのだ


地面がその分陥没していくが木々のないこの空間は森から完全に断絶されていく


一分ほどかかって高さ三メートルほどの壁が完全にこの空間を覆い隠した


「ふぅ、オーダーはこれでよかったかしら?」


「完璧、それにしても随分高くしたな」


静希達は一時的に警戒状態を解除している、その様子を見て戦う必要がなくなったと理解したのか警戒状態を解除していく


「一応、木に登って飛び越えてくることも想定してるからね、厚さはそんなにないけど、調査時間分の時間は稼げるでしょ」


とはいえ、これだけの範囲にこれだけの高さの土を一度に変換できるあたり、さすが鏡花というべきだろう、変換に関してはトップレベルの実力を持っていると言っていい


「平坂さん、時間は稼ぎましたから、できる限り早く調査をお願いしますね」


「あぁ、ありがとう、ではさっさと終わらせようか」


平坂はあいた穴やなぎ倒された木々を中心に調査をし続け、その間も明利は壁の外にいる奇形種を警戒し続けていた


向こうが奇形種である以上、能力を使う可能性は十分にある


そして明利の視線の先に常に陽太を含めた前衛の人間を配置することで一時的な防衛ラインを敷いていた


「にしても、出るときどうするの?これだけの量だと戻すのも時間かかるんだけど」


ただの形状変換であればすぐにでも元に戻せるのだろうが、外周すべてに土の壁を作ったために相当な体積になってしまっている


これを戻すのにも作った時と同様に分単位で時間がかかるだろう


「奇形種の方の壁だけ残して、ほかの壁だけ先に戻せばどれくらい短縮できる?」


「周りを先に解除していいならそれこそ数秒で終わるわよ、でも相手は動くのよ?一つの場所におとなしくしてくれてるとは思えないし、壁を移動しながら戻してたんじゃ時間かかりすぎるわよ」


鏡花の実力ならそびえたつ壁を移動しながらでも周囲にある壁をもとの状態に戻せるだろうが、今この時点で奇形種に接近されてから十分以上経過している


これ以上時間をかけるのは得策ではないと鏡花自身も分かっているのだ


「なら厚さを変えて総量を減らして一気に回収は?」


「ん、まぁそれくらいなら可能かな・・・それでも三十秒近くかかるわよ?」


「三十秒なら前衛が何とかしてくれるだろ、この後のルートを確認でき次第移動開始しよう」


これ以上留まるのが危険であることが平坂にも伝わったのか、数分後には急いで調査が終了したことを告げる彼の姿があった


次に見る場所は同じく奇形種との戦闘地点、戦闘があったせいなのか、近くには小川が流れているという情報もある


川があるなら少しそこで休みたいところだった


長期間封鎖されているだけあって自然豊かなのはいいことなのだが、情報が最新ではない以上あまり当てにしすぎるのもどうかと思ってしまう


「よし、ルートはこんなもんか、それじゃ移動開始します!鏡花、お前は殿に残って壁を回収し終わったら前列に来い」


「了解、明利、相手の位置をお願いね」


「任せて」


全員に再度緊張感がまし、土の壁が徐々に薄くなり、陥没した地面が元に戻っていく


そして奇形種のいる地点とは反対側の壁が回収されていく


「移動を開始します!殿の方々!鏡花をお願いします!」


再び野太い声が響く中、陽太を先頭にして移動を開始する


三十秒もかからずに壁は回収され、すぐさま鏡花は最前列へと走る


壁が取り除かれたことで奇形種にも動きがあったのだろう、僅かに隊に緊張が走るが静希達はすでにその場から姿を消し、森の中へと進行していた


「ふいー・・・戦闘とは別の意味で緊張したわ・・・」


「お疲れ、この後こんなことが何度も続くかもしれないぞ?」


「うえぇ、勘弁してよ・・・」


森に入ってからまだ数時間しか経過していないのにもかかわらず奇形種との遭遇数が異常なほどに多い


戦わないように努めているが、それもいつまで続くか


まだ単体で活動している奇形種だからいいものの、これで複数の奇形種と同時に遭遇したらそれこそ戦闘は避けられないかもしれない


明利の種をあたりにばらまいて進行方向に敵がいないかを随時確認してはいるものの、必ず穴はできてしまう


そういう部分を部隊の索敵係が埋めてくれているが、それも万全とはいえないだろう


いつ敵が来るかわからない緊張感というのは何度も味わってきたが、今回のそれは今までのとはケタが違う


奇形種であるということがわかっているうえに、この遭遇率の高さを知ってしまったのだ


本当に次の瞬間襲い掛かってくる輩がいてもおかしくないのだ


そんな中前線を学生に任せるあたりどうかしているとしか思えない


さらに言うなら、そんな状況なのに迷わず前に進める陽太も、本当にどうかしている


先程から視力と聴力に集中しながらも静希達の指示に従って迷わず前進を続けている


恐らく数秒後に奇形種が眼前に現れても即座に対応できるだけの集中力を維持しているのだろう


考えないということは才能と鏡花も言っていたが、確かにその通りだなと静希は実感した


先程も鏡花が能力を解けと言った瞬間に陽太は能力を解除した


いきなり奇形種に襲い掛かられることだって考えられただろうにそれをしない


信頼という形でもあるのだろうが、その度合いの桁が違うのだ


陽太の前衛としての適性の高さは知っていたが、これほどまでに陽太を頼もしく思ったことはない


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