山上信吾(以下山上): 非常に重要なご指摘です。日本では一般的な認識ではありませんが、捕鯨もまさにインテリジェンスが直接的に関わる問題なんですよね。
反捕鯨団体によるキャンペーン、メディアを通じたイメージ戦略、特定の価値観の国際的浸透などは、まさに情報戦・認知戦の側面を持ちます。しかし、日本の社会では、捕鯨問題がそのような「情報戦」の文脈で語られることはほとんどありません。
欧米社会の一部には、日本の特異性を強調して叩きにかかる風潮が存在しています。日本人はまずそのような現実があるという認識から始めなければいけないのですが、そこに対するインテリジェンスもまた不十分です。
反捕鯨運動が強烈に展開されていた頃、外務省の中には「国際社会の潮流に逆らって捕鯨を頑なに続けることは日本の国益を損うのではないか」と物知り顔で説く先輩が少なからずいました。まさに、情報戦・認知戦との意識が欠如している証左です。
実際、「IWC脱退」のオペレーションにあたっても、当時の国家安全保障会議事務局(NSS)の大幹部の間でも、こうした意識を鋭敏に持っていた兼原信克次長のような人物もいれば、「とにかく捕鯨問題には関わりたくない」という態度を露骨に出す人物もいました。
欧州にいまだ残る「日本異質論」
山上: 日本の特異性が批判の対象となるのは、捕鯨問題だけではありません。典型的なのは死刑制度です。欧米諸国はほとんど廃止しているのに、なぜ日本は主要先進国でありながら死刑制度を維持しているのか、やっぱり日本人は異質ではないか、という意識は欧米人の底流にずっと存在しています。
外交の場でも人権に関する話題になるとたびたびそれが噴出し、欧米の報道や人権団体のキャンペーンにおいても、繰り返し批判の対象になってきました。つまり、日本の死刑制度は、欧米の一般市民の意識の中に、日本の特異性の象徴として刷り込まれている側面があるわけです。
外薗健一朗(以下外薗): 欧米人からすると「日本人はなんて“時代遅れ”で“非人道的”なんだ」ということですね。
山上: おっしゃる通りです。だからこそ死刑制度を維持している日本のロジックや日本人の心情をしっかりと説明しなければいけないのです。でも法務省や外務省の広報は受け身に終始している感があります。あえて言えば、アメリカの幾つかの州で死刑制度が維持されていることに大いに助けられている面が大です。