機関車工学:上巻(その205)過熱蒸気機関車の成績
第5章 過熱蒸気機関車の成績
1.取扱いに注意を要すること
複式機関車は常にその諸部を完全にし、極めて細心に運転してはじめてその効能を発揮するものなり。この事実は過熱蒸気機関車にも全く適応す。
2.石炭及び水の節約
飽和蒸気の固有する温度よりも、華氏200度以上過熱したる蒸気を利用するとき、相当の注意を施せば石炭の節約25「パーセント」を得べきも、これを怠れば15「パーセント」に落ち、なお顧みざれば10「パーセント」以下に下るべし。
既に10「パーセント」以下の利益とすれば、過熱器の元利及び維持費等を控除せば、残る利益は若干もなかるべし。これ反対論者の反対する要旨なりと言えども、主張者も反対者も互いに極端に走るの弊あるをもって、著者は過熱器の現在における発達の程度に徴し、石炭15「パーセント」、水25「パーセント」の節約はこれを得るに難からずと信ず。
3.牽引力を増加すること
蒸気使用量少なきをもって、汽缶の蒸気発生力は常に余力あり。普通の機関車は常にその蒸気発生力不足のために、牽引力を制限せらるるに反し、過熱蒸気機関車はこの憂少なく、充分にその粘着力を利用し得べし。
また平均実効圧力の増加は、多くの場合において10「パーセント」以上なり。故に数多の実例に徴するに同種の飽和蒸気機関車に比し、30ないし40「パーセント」の牽引力を増加するに難からず。
4.高圧力の蒸気を使用するの必要なきこと
機関車における蒸気の常用圧力は年々増加の傾向ありて、外国においては200ポンドの圧力は普通以下のものに属し、225ポンドないし240ポンドのものを使用するもの少なからず。
けだし強大なる機関車においては、その力は汽缶の大きさに制限せらるるをもって、圧力を高むるはこれを償はんとするものにして、200ポンド以上の高圧力は好んでこれを用ふるにあらず。しかるに過熱蒸気の性質として熱の利用上より見るに、むしろ低圧の蒸気を過熱するを利益とし、150ポンドないし170ポンドの蒸気を用ふるを相当とす。
また「シュミット」氏等の研究とプロイセン官有鉄道の実験とに徴すれば、過熱蒸気を使用するものは飽和蒸気を使用するものに比し、「シリンダー」の直径を増大するを利益とす。
しかして「シリンダー」の大きさは、45「パーセント」の「カット・オフ」をもって最大牽引力を発生し得るよう設計し、20ないし30「パーセント」の「カット・オフ」をもって常用に供すべし。しかしてもし常用「カット・オフ」にて牽引力に余裕を来たすときは、適宜「レギュレーター・バルブ」にて蒸気を絞り圧力を減殺するを良しとす。
けだし過熱蒸気は飽和蒸気と異なり、流動性に富むをもって圧力減少せらるるとも、「シリンダー」内に「ワイヤー・ドローイング」を起すことなく、且つ「レギュレーター・バルブ」にて絞られたる蒸気は、比較的乾燥せるをもって過熱器の効力を増進するの利益あり。
5.粘着力の割合
「ガルベ」氏は連結車輪上の重量と、「シリンダー」及び動輪の直径との間に、左の関係を付与するをもって最も適当なりとせり。
d 「シリンダー」の直径(インチ)
ℓ 「ストローク」(インチ)
D 動輪の直径(インチ)
W₁ 連結車輪上の重量(トン)
この関係は常用速度において、20ないし30「パーセント」の「カット・オフ」を用ひて、「シリンダー」の馬力があたかも汽缶の供給する蒸発馬力と均衡するに至らしめ、40ないし50「パーセント」の「カット・オフ」においては、既に機関車の粘着力によりて制限せらるる、最大牽引力を発生するに相当するものなり。
6.汽缶修繕費の節約
200ポンド以上の蒸気を使用する汽缶は、蒸気の漏洩、「ステー」の折損、「スケール」の堆積等故障多くして、得るところは失うところより少なきの批評さへ免れず。故に過熱蒸気機関車における圧力の低下は、著しく修繕費を節約すること論を待たず。
また同じ圧力の場合にありても、蒸発水量において25「パーセント」を減ずるとすれば、汽缶の負担はそれだけ軽減せられ、汽缶大修繕の時期を延長し得るの理なり。総て機関車の大修繕は、汽缶の大修繕により決せらるるものなれば、機関車使用の点より見れば、機関車の数を総数の3分の1だけ増加したる割合と同じ。
その他水量の節約に伴ふ利益は、洗缶度数を少なくすること。補水せずして長距離を走行し得ること。給水費を節約し得ること等にして、これらの利益を数え来れば、過熱器の修繕費は別に意とするに足らざるべし。
7.給油の困難
給油の完不完は過熱器の死活問題なり。「サイト・フィード」給油器はその給油確実ならずして、必要の個所に油の供給を欠ぐことあり。故に100度以上も過熱したる場合には、強制圧力給油器にて給油するを必要とし、「カット・オフ」を遅くして運転するときは、特に多分の給油を行はざるべからず。
しかも570度以上の温度を有する蒸気をもって、50「パーセント」以上の「カット・オフ」を永続して運転するときは、「シリンダー」の過熱はなはだしく、給油上充分の保証を得ず。故に給油問題は未だ改良の余地あるものなり。
8.汽缶蒸発力の減少
過熱蒸気汽缶においては、石炭1ポンドに対し水を蒸発し得る分量が、飽和蒸気汽缶におけるものよりもやや減少せり。その割合はプロイセン及び米国における実験によれば、2「パーセント」ないし5「パーセント」の減少に当る。
この主もなる原因は火焔が過熱管を温めたる後、なお相当の有用なる温度を保ちつつ「スモーク・ボックス」に逃出するに帰すべし。しかれども一般伝熱面の割合の適否、通風の強弱、または過熱器付属の「ダンパー」の改良等、未だ研究し尽さざるものあらんも知るべからず。
9.複式機関車に過熱蒸気を使用すること
過熱蒸気単式機関車は、飽和蒸気複式機関車よりも経済にして、石炭の節約10「パーセント」内外なることは、各国の実験によりて証せられたり。しかれども複式機関車に過熱蒸気を応用することは未定の問題に属せり。
「フォン・ボリス」氏は、氏の実験の結果に徴して、未来の機関車は過熱蒸気を利用する4個「シリンダー」複式機関車なるべしと予言し、「ガルベ」氏はこれに対して単式過熱蒸気機関車なるべしとし、なお特別急行列車用として4個「シリンダー」を使用する場合にも、総て単式過熱蒸気を使用すべきものなりと主張せり。
意見異なると言えども、いずれも未来の機関車は過熱蒸気機関車なりと言うに一致し、その単式なるか果た複式なるかは吾人の研究を要する問題なりとす。
10.成績の比較
第38表は普通の機関車、すなわち飽和蒸気機関車と過熱蒸気機関車との比較試運転、または実地仕業上の成績を集蒐したるものにして、もって読者の参考に供せり。
第39表は最近の設計に係る、「シュミット」式過熱蒸気機関車の明細を掲げたるものにして、第352図ないし第354図は2~3の略図を示す。
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