「模写は作品ではない」過去発言が強烈なブーメランに…大御所クリエイター・江口寿史の大炎上で問われるSNS時代の責任と倫理

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漫画家の江口寿史さんに、トレース(なぞり描き)によりイラストを作成していたのではないかとの疑惑が上がり、SNSでは炎上騒動が起きた。いわゆる「トレパク(トレースによるパクリ)」は、インターネットで問題視されやすいが、こと今回の事案はスピーディーに物事が動いた印象を受ける。また、発端となったイラストのみならず、江口さんの過去作品も続々と検証されている。加えて、他の漫画家やイラストレーターに関しても、同様に「トレパクをしているのではないか」といった疑いの目が向けられている。ここまで盛り上がった要因は何だったのか。

前編『【江口寿史トレパク疑惑で大炎上】大御所クリエイターの輝かしいキャリアが一瞬で崩壊した“3つの要因”』より続く。

過去発言からの強烈なブーメラン

前編では3つの要因を紹介したが、最後に一番の要因として「過去発言との不一致」に言及したい。中でも注目されているのが、出版社・集英社インターナショナルが2021年6月に掲載したnote記事だ。これは同年3月に行われたトークイベントのレポートなのだが、そこで江口さんは「ネット上の画像はみんなフリーだと思ってる節がある。そこらへんの意識の低さはありますよね」などと発言していた。

また2024年9月には、一般ユーザーのX投稿に対して、「『少し江口寿史さん調』じゃなくハッキリとおれの絵の模写でしょう。模写はあくまで模写であってあなたの作品ではないからね」とクギを刺すような返信を送っている。

インターネットの普及によって、なんらかの不祥事が起きた際に、すぐ過去発言との整合性を問われるケースは珍しくなくなった。かつて「意識の低さ」を嘆き、「模写はあなたの作品ではない」と断言していた人物であれば、そのズレが生む“ブーメラン”は強力になる。

本件から波及して、SNS上では他の漫画家をめぐる“パクリ”疑惑も指摘されている。具体名は控えるが、連載開始から30~40年以上にわたり、人気を集めている作品に言及する投稿も少なくない。

しかし、これらには「ポーズや構図を参考にしているだけだ」といった擁護も多い。当然ながら、そこには権利意識をめぐる時代の変化もあるだろうが、「元ネタへのリスペクトがあるか」や、「そのイラストがなくても作品が成立するか」といった判断基準もありそうだ。

これらに照らすと、ルミネの件では、「1枚絵」の作品そのものが、「元ネタを軽んじた過程」のもとで制作された可能性が高い。もし模写が“肉付け”する手段にとどまらず、作品の“大黒柱”として扱われていたならば、他作品と同列で議論するのは難しくなるだろう。

ベテランこそアップデートが必要

これらの要因を見て感じることは、やはり「時代に合わせられなかった点」が、最大の問題なのではないかということだ。SNSでの“燃えにくいお作法”はもちろんながら、クリエイターとしてのアップデートも不足していたように感じられる。

コンプライアンス意識の高まりから、いまや権利保護はあらゆる面で前提条件となっている。知り合いのマンガ編集者は、今回の件について「パロディやオマージュは、今はちゃんと先方の許諾を取らないとダメ、と法務部門からキツく言われている」と語っていた。今回のクライアントは出版社ではなかったが、それと同品質のチェック体制を取っていれば、イラストの使用前に対応できた可能性はある。

そこで疑問なのが、本当に「権利侵害の対策」は行われていたのかという点だ。まさか「大御所だから変なことはしないだろう」といった信頼だけで動いてはいなかっただろうか。もしそうであれば、別の作家にも、続々と同様の疑惑が出てきておかしくない。

これから江口さんのイラストを“クロ認定”する企業には、ぜひ「どのようなチェック体制を取っていたか」も、あわせて公表してほしい。従来の慣習を振り返り、時代に合わせた形に変えない限り、まっとうに活動しているクリエイターにも疑いの目が向けられてしまうだろう。

クライアント側に求められる対応

いま筆者がもっとも心配している点は、今回のケースを「江口さんの個人的な問題だ」として処理してしまうことだ。もしも「トレパク探し」がゲーム感覚で終わってしまえば、その先に学びは生まれない。

大手企業が手がけるクリエイティブの多くには、広告代理店が介在している。江口さんのイラストを使用している各社が、どのような経緯や制作過程のもとで、どれだけ関与しているか。矢面に立つのは出稿主だが、そこだけに責任があるのだろうか。

「制作過程」とやらが、つまびらかにならない以上、再発防止策は講じられない。例えば、広告担当者は江口さんに「モチーフとした作品はあるか」と、一言聞いていたか。YESかNOでも、状況は変わる。

生成AIなどの技術進歩により、数年前では見逃されていた“パクリ疑惑”も、高精度で検出されるようになった。少しでも怪しい要素があれば、遅かれ早かれ、明るみに出る時代だ。そんな時、どのような対処が適切なのか。クリエイターの責任を問うのは当然ながら、依頼するクライアント側も、念には念を入れて「もしも」を考える必要があるのだろう。

【前編を読む】「江口寿史トレパク疑惑で大炎上」大御所クリエイターの輝かしいキャリアが一瞬で崩壊した”3つの要因”