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なぜ企業は自民党に献金するのか 献金上位10社に聞いた

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自民党は1月、企業などの献金を透明化する新たな政治資金規正法改正案を衆院に提出した。一方、野党は企業献金の禁止に向けて法案の共同提出を探っており、与野党の攻防が激しさを増している。

企業献金をどう見直していくべきなのか。見解はアカデミアの中でも統一されていない。

「憲法違反だ」と政治資金規正法に詳しい神戸学院大学法学部の上脇博之教授は話し、明確に否定する。政党政治に詳しい中北浩爾中央大学教授は「企業や労働組合を含め、様々な団体が政党を資金的に支える方がいい」と肯定的に捉える。

実は企業の側にも解決しなければならない側面がある。企業が政策面で自社の利益を誘導させるために献金を行えば、それは賄賂になりかねない。従って献金を行う企業には、直接的に最終利益につながらない献金を行うしかるべき理由があるはずだ。

株主への説明責任が求められる企業統治(ガバナンス)の中で、企業は政治献金についてどう整理しているのか。日経ビジネスは献金額の多い企業にアンケートを実施した。

特定政党に献金集中

自民党の政治資金団体である国民政治協会(国政協)への献金額は、官報に記載されている。2024年公表の国政協への献金額上位10社は、住友化学トヨタ自動車キヤノン日産自動車野村ホールディングス日立製作所三菱重工業ゼンショーホールディングス大和証券グループ本社日本製鉄

今回、これらの企業に対して政治献金への認識を問い合わせた。質問は5点。(1)なぜ自民党の政治資金団体に献金を行うのか(2)政治資金パーティー券の購入を行っている場合の目的や過去の明細(3)パーティー券の明細を開示しない場合、その理由(4)株主利益との相反についての考え方(5)取締役会で献金を決議するかどうか。

トヨタ自動車とキヤノンは、個別の質問に答えなかった。その上でトヨタは「日本経済の発展に資するとの観点から、政治資金規正法にのっとり対応している」とコメントしている。

個別質問に回答した企業は、その全てが献金を行う目的に社会貢献などを理由に挙げた。「『政策本位の政治の実現』や『議会制民主主義の健全な発展』のための企業の寄付は、企業の社会的役割の一環として重要性を有する」(日立製作所)

こうした回答は、前述のように賄賂とならないという観点でも、当然のものだ。「政策へのぼんやりした影響力が期待されているのだろう」とガバナンスに詳しい大和総研の鈴木裕主席研究員は推測する。

だが、読者には次の疑問が生じるだろう。「なぜ自民党という特定政党だけに献金を行うのか」

議会制民主主義が健全に発展することは、確かに企業活動の基盤である日本社会を維持・発展させるために重要だ。それなのに、与党と議論を戦わせる存在であるべき野党に対しては、なぜ企業からの献金が極端に少ないのか。

今回の問い合わせでは、「自民党の政治資金団体『だけ』に献金する理由を教えてください」と質問していた。だが、この質問に正対して答えた企業はほとんどなかった。

例えば、大和証券グループ本社は「政党は、民主主義を支える重要な役割を担っており、政党の健全な発展に協力することは、企業も期待されるところです」と回答。「なぜ自民党なのか」と改めて問うたが、「お送りした回答で、当社の回答とさせていただく」と答えた。多くの企業がこうした対応だった。

例外的な存在は、住友化学と三菱重工だ。住友化学は「経団連の自由民主党を中心とする与党の政策(取り組み・実績ならびに課題)の評価と主な野党についてもどのような政策を主張しているかの検証を実施し、これを踏まえて寄付を行っている」と回答した。三菱重工も同様に、経団連の政策評価を踏まえて自民党を献金先として選んだと説明する。

事実上の政治献金であるパーティー券の取り扱いについての質問に対しては、すべての企業が明細を開示しなかった。

株主利益との利益相反懸念

企業献金を行えば株主にとって重要である最終利益は減少するが、個別質問に回答した全企業が利益相反の問題は発生しないと回答した。野村ホールディングスは「各種寄付を通じて社会が発展することにより健全な資本市場や金融業界が育まれ、株主の利益につながると考えている」とした。

取締役会の決議を経て企業献金を実施しているかという質問に対しても、ほとんどの企業が明確な回答を控えた。そんな中、住友化学は「社内規程に基づき定められたプロセスを踏んでおり、一定の基準を超える寄付については、取締役会に付議し、決議を経て、実行しております」と回答した。

NTT子会社が献金の是非

24年の官報によれば、NTTドコモは1200万円、NTTデータは750万円を国政協に献金している。両社の親会社であるNTTの大株主は財務大臣で3分の1の株式を保有する。

政治資金規正法では政府出資企業の企業献金は禁止されており、NTT本体は自民党への献金をしていない。だが、総務省によると子会社を設立するなど別法人格からの献金であれば、一般論として政治資金規正法に抵触しない。上脇教授は、「現行の政治資金規正法はこのように、簡単に骨抜きにできる」と指摘する。

NTT本体は、「政治資金規正法にのっとり、各社の自主的な判断に基づき実施している」との見解を示した。

なぜ自民党(国政協)への献金なのか。NTTは各子会社の判断とした上で、「NTTグループとしては電気通信事業法をはじめとした関係法令の制改定はもとより、ICT(情報通信技術)の利活用組織といった各種政策の影響を受けることから、政策ないし政治と一切関わりを持たないことは困難である一方、事業の公共性等に鑑み、政治的中立の立場を保持するとのスタンスであり特定の政党を支持するものではない」と回答。NTTデータとNTTドコモに献金目的を問い合わせたところ、「企業の社会的役割の一環」などと答えた。

NTTの株主の財務省は、「NTTの監督については、NTT法に基づき総務大臣が行っているため、個別の案件につきましては、総務省にお尋ねください」とした。総務省でNTTの政策を担う総合通信基盤局事業政策課は「NTTグループの企業献金が政治資金規正法に基づいているかは担当ではないので、コメントできない」と回答した。

企業献金を巡っては、企業側のルールも曖昧な点がある。EY新日本監査法人によれば「政治献金については、表示科目や表示区分について会計上の明示的なルールはない」という。営業外費用に計上するか販売費及び一般管理費に計上するかは、経営者の裁量に委ねられている。

日本の政治にかかるお金を、企業はこれまで一定の割合で負担してきた。ただ、自民党の政治資金問題を機に、その曖昧性に厳しい視線が向けられるようになってきている。

企業だけでなく業界団体や労働組合などの団体や個人も含めて、日本の政治のコストを誰がどう負担していくべきなのか。その議論の上で、企業には、ガバナンスの観点から政治献金の意義をきちんと位置付けることが求められる。

(日経ビジネス 八巻高之)

[日経ビジネス電子版 2025年2月10日の記事を再構成]

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