高学歴信者を心酔させた「オウム麻原」マインドコントロール術、4つのカギ
社会週刊新潮 2016年8月23日号別冊「輝ける20世紀」探訪掲載
「麻原彰晃」はいかにして「超高学歴信者」を心服させたか(2)
筑波大学大学院化学研究科を修了している土谷正実や、京大大学院医学研究科で学んだ“厚生大臣”遠藤誠一など、オウム真理教内でのヒエラルキーの上部を占めたのは超高学歴信者たちだった。教祖・麻原彰晃はいかにして彼らをマインドコントロールしていたのか。その謎を解くカギは「アルタード・ステイツ・オブ・コンシャスネス」(ASC)。人が幻覚などを見る状態を指すが、教団はこれを神秘体験と称していたのである。
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では、麻原はどのような術でそれを成し遂げていたのか。このマインドコントロールのプログラムを読み解くカギは4つあった。
「まず第一に、『感覚遮断』が挙げられます」
と解説するのは、精神科医の片田珠美氏である。
「オウムは信者を狭い個室に閉じ込め、アイマスクと耳栓をつけさせ、瞑想させていたそうですが、人はそのような状態に置かれると一気に不安に陥ります。自分を守るために五感が鋭敏になる。幻覚が出現しやすくなり、同時に非常に暗示にかかりやすくなるのです」
さらに続けて、
「第二の手法は、『飢餓』です。食事を制限されると、人間は血糖値が下がって、幻視や幻聴を体験しやすくなる。『オウム食』は低カロリーで、断食修行も推奨されていたとのことですから、彼らは慢性的に飢餓状態に追い込まれていた。このようなやり方は古今東西の伝統的な宗教でもよく見られる古典的な手法です。さらに第三の手法として、睡眠の制限が挙げられる。人間を強制的に眠らせないようにすると、意識が朦朧とし、混乱してくる。医学用語で『せん妄』と言い、認知症患者によく見られる症状です。突然、人が襲ってくるなどの幻視が見えやすくなる。意識が混濁していますから、暗示にもかかりやすくなる。その時に“お布施するぞ、お布施するぞ”などといった麻原の説法テープを聞かされれば、認知機能が低下している影響もあって、その内容を受け容れてしまうのです」*配偶者以外との性交禁止
では、最後のカギは何か。
「第四の手法は、性欲の制限です。これで食欲、睡眠欲、性欲という人間の三大欲求の全てを遮断することになる。ASCへの到達がより速く、強固になります」
確かに教祖はハーレムの中の雄オットセイよろしく美人信者たちとの情交に耽っていたが、一般信者は、配偶者以外との性交は破戒行動として禁止されていた。
「彼らはこうしたASCの体験を、超能力を秘めた教祖の教えによって導かれたものと錯覚してしまった」
教団の外報部長を務めた上祐史浩氏も著書『オウム事件 17年目の告白』で、
〈さまざまな神秘体験は、基本的にヨーガの行法で得られるもので、麻原の力に頼る必要はないものだった。(中略)当時の私たちは、麻原の神秘力によるものと錯覚していた〉 と結論付けている。
ちなみに禅宗や真言密教など既存の宗教にもASCに至る技術を有するものがある。山に籠って野を駆け巡り、滝に打たれる修験僧が幻覚を見やすいことは容易に推察されよう。しかし彼らはこれを警戒し、修行僧にハードルを課すという。
日本脱カルト協会代表理事で、立正大学心理学部対人・社会心理学科教授の西田公昭氏はこう語る。
「たとえば日蓮宗の荒行でも精神の知覚異常は生じます。でも“悟りを開いた”など言おうものなら、師たる高僧に“それに何の意味がある”と退けられてしまう。そうすることで彼らは歳月をかけ、修行僧の人格の完成を待ち、宗教者として成熟させていくのです」
それがオウムでは、「解脱への前触れだ。君は第1ステージをクリアした」と持て囃し、まるで自動車教習所のように段階を設け、「解脱者」講習のバーゲンセールを行っていたのだ。
(3)へつづく
特集「『オウム真理教』最大の謎を完全解明する! 『麻原彰晃』はいかにして『超高学歴信者』を心服させたか?」より
◎上記事は[デイリー新潮]からの転載・引用です *強調(太字)は来栖
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* 「麻原彰晃」はいかにして「超高学歴信者」を心服させたか(3)無力感、そこに投げかけた麻原の言葉
* 「麻原彰晃」はいかにして「超高学歴信者」を心服させたか(2)マインドコントロール術、4つのカギ
* 「麻原彰晃」はいかにして「超高学歴信者」を心服させたか(1)“ASC”でコントロール
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