事前通告
その日の授業もつつがなく終了した後、陽太と鏡花の二人はいつも通り演習場へ特訓に、そして静希と明利が帰ろうとしたとき、なぜか戻ってきた城島に呼び止められ職員室まで連行された
もうこの時点で静希も明利もいやな予感しかしなかった
「時間を取らせてすまんな、一応事前に伝えておこうと思ってな」
「なんかもう面倒事のにおいがプンプンですけど・・・いったい何の用ですか?」
思い切り眉間にしわを寄せている静希の表情を見てそんな嫌そうな顔をするなとたしなめたうえで、城島は書類をいくつか取り出していく
「実は今度の校外実習の件なんだがな・・・先に伝えておくことがあってな」
「・・・何でおれに?それなら班長の鏡花に伝えるべきじゃ・・・」
校外実習の内容は教師から各班の班長に伝えられるべき事項だ、ただの班員である静希に伝えるようなものではない
「いや、別に誰でもよかったんだが、あの場にいたのがお前たちだったんでな」
そういって城島は一枚の紙を見せる
そこには今回の実習の内容が簡単に記されている
一番上の概要部分には護衛と記されている
今回もどうやら実習内容は護衛のようだった
これを知らせるのであればなおさら班長である鏡花がふさわしいと思うのだが、なぜ誰でもよかったのだろうか
「護衛ですか・・・前みたいな荒事にならなきゃいいですけど・・・」
「残念だが間違いなく荒事になるだろうな、今回の実習の中でそれの危険度は最も高い」
その言葉に静希と明利は顔を見合わせる
護衛が一番危険度が高いとはどういうことだろうか
その理由を知ろうと二人は内容の記されている紙を注視する
内容はフィールドワークをする研究者、平坂照幸という人物の同行と護衛、これだけ見ればそれほど問題のある内容とは思えない
だが問題はそこから先だった
その研究者がフィールドワークをする場所が問題だったのだ
「あの・・・これマジですか?」
「あぁ、今回お前達が行くのは富士の樹海・・・これで危険度ナンバーワンの理由がわかったか?」
富士の樹海、この日本で有数の魔素濃度の高さを誇る場所でもあり、最も人が入りにくい場所でもある
しかもその森は魔素濃度の高さから奇形種が多く、独特の生態系を作っているともされている
軍によって完全封鎖されている場所なのだが、時折内部調査のために研究者などがその場所を見に行くことがあると聞く
しかも今回護衛する研究者の研究内容が奇形種に関してのものばかり
つまりは奇形種の対応を静希達がやらなくてはならないということになる
護衛とは名ばかりの奇形種とのふれあいツアーというわけだ
「この内容、実はお前たちへの直接指名でもある・・・完全奇形を討伐した経験を持つ班にということと、お前たちが『切り裂き魔』深山雪奈の直接の後輩にあたるというのも理由に含まれるだろう」
一年生の中で奇形種を討伐した班はいくつか存在する
だが完全奇形を討伐したのは静希達一班のみだ
そういう意味で最も戦闘能力の高い班だと判断されたのかもしれない
「・・・何で普通の班よりも早く知らせたんですか・・・?」
「危険だから準備期間を長くしてやろうという私の配慮だ、あとはまぁ、経験者に話を聞く余裕を持たせてやろうと思ってな」
経験者、つまりは雪奈の班のことだ
以前彼女の班は研究者の護衛という形で奇形種の群れを観測し、それを討伐している
無論ほかの班との合同だったとはいえ、その経験があるというのは大きい
特に雪奈は静希達と個人的なつながりがある、詳しく話を聞くことができるというわけだ
雪奈たちが行ったのは樹海ではないかもしれないが、護衛状態での戦闘がどのようなものであるかの意見は得られるだろう
もっとも、雪奈ではたぶんまともな意見は聞けないだろうから熊田やその班員に聞かなくてはならないが
「一応言っておくが、今回も悪魔などの気配はないそうだ、まぁこの数日のうちに何かあれば随時連絡を入れるが、恐らく大丈夫だろう」
「喜んでいいのか微妙ですよそれ」
護衛だというのに最初から戦闘を行うことがほぼ確定してしまっているのでは安心できない
戦闘など避けて通るべき内容なのに、これでは複数の奇形種との戦闘がメインで護衛はあくまでおまけのような扱いだ
「でも静希君、奇形種って言っても動物とは限らないから、植物のかもしれないし・・・」
「その可能性もあればいいけど・・・間違いなく戦闘になるだろうなぁ・・・」
場所は森、この班ではかなり好条件ともいえるが、それは相手も同じこと
むしろ動物はそこに住んでいるわけで、彼らのホームグラウンドと言っても過言ではない
「これって俺らだけですか?それともどこかと合同?」
「一応軍の人間が一緒に行くことになっている、索敵に秀でた人間も多く連れていくと言っていたな」
恐らくは町崎からの情報だろう、それはかなり嬉しい内容だ
静希達だけでいつ来るかもわからない奇形種と相対するのは正直不安が残る
以前のように奇形種へのスペシャリストはいないのだから
「ちなみに詳細資料ってもらえます?」
「それはダメだ、周りの班より早く渡すのでは贔屓になってしまう、お前たちに早く知らせるのはあくまで準備を早くさせるためだ、その所は理解しておけ」
確かに周りより早く詳細資料を渡されればそれだけ不公平になる
それでも事前に最低限の情報を渡してくれただけ感謝するべきだろう
「とりあえず連絡は以上だ、何か質問は?」
「ありません・・・お心遣い感謝します」
はっきり言ってこれまでの実習の中で一番気が重くなる内容だ
ただの奇形種の討伐だったら数に限りがあるだけまだましなのだが、今回はどれくらいの数と戦闘するかがわかっていない
それこそゼロかもしれないし、何十と戦うことになるかもしれない
危険度が高いのに研究者を守りながらやらなくてはいけないんだから性質が悪い
今までの中でも難易度はかなり高いだろう
もっとも、悪魔や神格などがかかわっていなかった書面上での話であって、実際にどれほどの難易度かはやってみないことにはわからない
とりあえずは特訓中の二人にこのことを伝えるのと、雪奈に頼んで彼女の班の人間に意見を求めるのが優先だろう
あとは長期戦にも耐えられるように武装を充実させ、研究者のことを調べるのと現地の状況や地形をできる限り把握しておきたいところである
職員室から退室して大きくため息をついて、やるべきことに優先順位をつけながら並べていく
「なんだか大変なことになってきたね」
「まったくだよ・・・とりあえず陽太たちに言わなきゃな・・・たぶんいつものところにいるだろうし、行ってみるか」
静希と明利はとにもかくにもこの事実を二人に話すべく、いつも訓練に用いているコンクリ床の演習場へと向かうと、そこには炎を空高く巻き上げながら槍の維持に努めている陽太とその様子を近くで眺めている鏡花の姿がある
集中を高めている陽太をよそに、こちらにやってくる静希と明利に気づいた鏡花が二人の姿を確認して首をかしげる
「あれ?あんたたちどうしたのよ」
てっきりすでに帰ったと思っていたのだろう、普段来ない二人が演習場に来たことで何かあったのだろうかと勘繰っている
事実、何かあったからここにきているわけなのだが
「ちょっとな、陽太にも伝えておきたいからちょっと訓練止めてもらっていいか?」
「今日は調子よさそうだったんだけどね・・・まぁしょうがないか」
陽太の様子を眺めて少し残念そうにしてから鏡花は足で地面をたたく
それと同時に陽太の展開している槍を包むように周囲の地面が形状を変え、さらに並行して陽太の体の周りを強固な壁が作られていく
自らの周囲に異変が生じたことで集中を切らして槍の形状を保てなくなったのか、その槍に込められた炎が一気に暴発する
だが周囲を強固な壁で覆われていたおかげか、その炎はわずかに周囲に漏れながらも上空へと、大砲のように高く舞い上がり霧散していく
ただ暴発させただけでは周囲に被害が及ぶが、このように炎の逃げ場を上空のみに絞れば被害は格段に減らすことができる
陽太と訓練している鏡花だからこそ思いつく対応だった
「おい鏡花!何で止めたんだよ!いいところだったのに!」
鏡花が意図的に邪魔をしたことに気づいたからか、陽太は能力を解除して壁の向こうから叫んでいた
さすがに本人も調子がいいところを急に止められて憤慨している様子だった
もう一度鏡花が地面を足で叩くと陽太の周りにできていた壁が元の地面へと戻っていく
「あれ?お前らなんでいるんだ?」
鏡花と似たような反応をしている陽太は、特訓を邪魔されたことよりも静希と明利がこの場にいることの方が不可解だったようだ
「あぁ、訓練中悪いな、伝えておくことがあって、今度の校外実習のことについてだ」
「校外実習?何であんたが・・・もしかして都合が悪くなったわけ?親族が亡くなったとか?」
校外実習の日程はあらかじめ知らされていたために、何らかの都合が悪ければ事前に欠席することも可能だが、ほとんど認められない
それこそ本人の体調不良や身内に不幸でもない限りは欠席理由にはならない
すでに先方に話が通っているうえに班員にも迷惑をかけることになるのだ、ある種当然かもしれないが、今回はそういう内容ではない
「いや、うちの親戚はぴんぴんしてるよ、そうじゃなくて校外実習の内容についてだ」
「内容?なんで班長の鏡花じゃなくてお前が?」
陽太もなぜ静希と明利が伝えに来たか気になっているようだった
とりあえず先ほど城島に通り魔的に捕獲されたという旨を伝えてから本題に入る
「今回の実習内容はかなり危険らしくてな、それ相応の準備が必要だそうだ」
「危険って・・・いつもそうだったじゃない、今さら危険がどうのって言われてもそんなに驚かないわよ?」
「そうだぜ、なんだったら最初にやった実習が最高に危険だった、あれ以上はないだろ?」
二人からしたらすでに危険に対する耐性はかなり高くなっており、ちょっとやそっとでは驚かなくなってしまっている
よいことなのかは微妙だが、二人はあきれたように笑っている、自分たちでもこんな風になってしまったことに笑うしかないようだった
「一応、危険だからって準備期間を長くするのが目的らしいんでな、それ相応の準備をするべきだと思う」
静希からすれば準備期間ほどうれしいものはない、しっかりと事前準備が行えるだけで戦闘能力はかなり変わるからだ
数日間準備できることは大きなアドバンテージとなるだろう
誤字報告が五件溜まったので複数まとめて投稿
今回の話実際にある地名が出てきてますがこの話はフィクションです、実際の樹海はこんなことはありませんのであしからず
これからもお楽しみいただければ幸いです