野狐人〜西村賢太 周りの周りの人たち〜第五回 かたり場読書会 編
か:平成が産んだ怪物って感じです。
落:ベタ褒め 笑
土砂降りの雨の中、今回は真ん中テーブル席よりスタート
落日堂(以下、落):何か注文しましょうか。
かたり場読書会(以下、か):青リンゴサワー、きびなご唐揚げ、鶏皮串を2本で。
落:ポテトフライ、赤ウインナー揚、ジンジャーエールを。改めまして、今日はよろしくお願いします。かたり場さんには昨年「西村賢太生誕祭」で司会をやっていただいてお世話になりました。
DJ、他にラッキーストライク吸い放題など。司会をかたり場読書会さんにお願いした。
撮影:東村愚太
か:こちらこそよろしくお願いします。あの日は凄い緊張しました。
落:慣れてるんだろうなって思って見てましたよ。
か:何より、伊藤さんの歌を目の前で聴けたというのが嬉しかったです。腹に響きました。
落:かたり場さん、伊藤さんの真正面でしたもんね。1年以上経ってしまいましたが、なかなかお会いしてゆっくり話が出来る機会がなくて…すいません。今更ですがありがとうございました。
か:楽しかったです。
「良いとか悪いとかじゃなくて、ただそうなんだ、って話です 笑」
落:早速なんですけどかたり場さん、出身地を教えてください。
か:三浦市って知ってますか?
落:京急の…
か:終点の三崎口です。神奈川県の。
落:昔電気屋のバイトで、スナックの照明を取り付けに行った記憶があります。遊びに行った訳ではないので大した思い出がないんですけど、どんな場所なんですか?
か:三浦市はとても特徴的な地域です。私が生まれ育ったのは、主に引橋から先のエリアですが、三方を海に囲まれていて、ある意味では“ガラパゴス化”されたような土地だと思います。漁港があり、昔はマグロの水揚げでとても景気が良かったのですが、今ではほとんど揚がらなくなってしまいました。
落:そうなんですか?三崎口と言えばマグロってイメージです。ずっと。
か:地域の本とか読むのか好きなんですけど…
落:地域の歴史とかの本ですかね?かたり場さん、そんな本好きそう。似合いますね 笑
か:三浦市の市民性として、あまり商売が得意ではないところがあります。マグロの漁獲量が盛んだった時代でも、マグロ船の会社を経営していたのは、もともと四国や小田原出身の人たちでした。地元の人で大きな資本を持っていた人はほとんどおらず、商売を広げる力が弱かったように思います。また、誰かが突出して成功することをあまり歓迎しないような空気もあって、そうした土地柄が、今の状況にも少なからず影響しているのかもしれません。
落:のほほんと楽しくやってるって県民性とか市民性ではないのですね。
か:みんな一緒じゃないとダメ、みたいな。上り調子だと良く思わないけど、不幸になってると助けるんですよ。
落:いいような悪いような。
か:まあ、良いとか悪いとかじゃなくて、ただそうなんだ、って話です 笑
落:ああ、なるほどです。ただ、事実だと 笑
か:農業と漁業の盛んな地域でだったので、地域性として「みんな平等」みたいな空気がありました。大人になって横浜に出てから、改めて自分のいた地域を思い返すとそう感じます。
落:ありますよね、そういうの。大人になってから、ああ自分が居た地域はこうだったんだな、とか。
か:それで本読んだりウィキペディア見てなるほどなって。
落:子供の頃、学校で地域の歴史の勉強ってしませんでしたか?
か:あれは贔屓した情報とか祭りの事しか載ってませんでした から 笑
落:確かに、真実書いても地元の人誰も得しないですもんね 笑
「西村賢太に関しては、信濃路で酒飲みながらが一番真面目な姿勢だったと思ってます」
落:今の生活の中心ってなんですか?まあ基本的には仕事だとは思いますが。
か:仕事がどうしても忙しいんですが…
落:そんな中、「かたり場読書会」ですよね。
か:月1でやってます。
落:何年くらいやってるんですか?
か:6年やってます。
落:どういった流れで「かたり場読書会」は始まったんですか?
か:前の会社でバスケのサークルをやってたのですが辞めてしまって。何か違う事を始めたいなあって思ったんです。樺沢紫苑先生ってご存知ですか?精神科医の。
落:すいません、全く知りません…
か:樺沢紫苑先生には色んな著書があるのですが、「読んだら忘れない読書術」という本に色々な読書の方法が書いありました。その中に『人と共有する』って項目があってそこで初めて【読書会】という物があるって知りました。で、当時はツイッターを殆どやってなかったんですけど調べてみたら結構いっぱいあって。半年くらい色んなところに参加してから「かたり場読書会」を始めました。
落:そういうのは大事ですよね。まずは行ってみないと。「かたり場読書会」の他と比べて違ってた特色みたいなのってなんですか?俺も一度西村賢太がテーマで参加しました。ここ信濃路で 笑。でも他を知らないので是非教えて欲しいです。
か:話題としてのタブーはありません。公共の場では話しにくいテーマ、たとえば戦争や宗教、死についてなど――も、きちんと語りましょうというスタンスです。少し哲学対話のような要素も取り入れつつ、あまりアカデミックになりすぎないようにしています。学術的になってくると、どうしても「誰が正しいか」という話になってしまうこともあるので気をつけています。
落:大いにありそうですね 笑
か:あとは言いっぱなしにしてるんですよ。
落:ああなるほど。否定も肯定もなく、ただ聞く、ですね。議論とかじゃなくて。
か:そうするとちょっとデリケートな話題でも対立を生まずにいきます。まあ最初に趣旨を掲げてる中皆さん参加していただいてるので、特に問題が起こる事もないんですけど。
落:なんでそういう形態にしたんですか?
か:色々と他の読書会に参加してみて、、、
落:多分、違和感を持った部分をやらないように、ってことですかね 笑
か:はい、自分なりにですが。
落:それ、すごく聞きたいです。
か:たとえば、話す量に偏りがあるとか。
落:あぁ、それはキツいですねえ…あるあるなのかも知れないですけど。
か:自分の中で感想が浮かんでも、遠慮して言えなかったり。あとは、みんなが友達同士のような話し方で仲良くしていると、輪の中に入りにくかったこともありました。
落:初めて来た人にはしんどいですよね。
か:そういう雰囲気はなくしたいと思っていて。本当は仲が良くても、だから読書会のときは敬語で話すようにしています。誰かが孤立しないようには気をつけていますね。
落:それは気遣いですね。おかげで、俺が参加したときもすごく楽しめました。
か:常連さんも多いんですけど、毎回自己紹介、毎回ですます調で話していて。皆が対等に話して対等に楽しめるようにしています。真面目にやってますよ 笑
落:俺が西村賢太がテーマのかたり場読書会に参加した時は、信濃路で皆さんお酒飲みながらでしたけど普段はお酒なんかナシですよね?
か:はい、でも西村賢太に関しては、信濃路で酒飲みながらが一番真面目な姿勢だったと思ってます 笑
落:確かにそうかもしれませんね。
〜ここで奥座敷へ移動〜
「問題にぶち当たるととりあえず本を読む」
か:タバコ1本いただいていいですか?
落:どうぞ。かたり場さんタバコ吸うんですね。
か:長井さん(落日堂)といる時だけです。
落:なんか俺のせいですいません 笑
か:ラッキーストライクが美味そうで。
落:信濃路にはやはりラッキーストライクが合います。子供の頃はどんな子だったんですか?
か:あまり人に馴染めなかったですかね。
落:あ、そうですか?そんな風に見えませんね。
か:友達はわりとすぐに出来るんですけど、言っちゃいけない事を言ってしまうんですよね。悪気はないんですけど、だってそうじゃん、みたいな言い方して、嫌われて、1人になってるという。
落:早くも話が西村賢太に近づいて来ましたかね。
か:人間関係のしくじりは多いですね。自分でもデリカシーが足りないところがあるなと思っています。 でも、読書のおかげで少しずつ改善してきました。 今は、職場に当時の自分に似たような部下がいて、共感できる部分もあるんですが…やっぱり困ってますね 笑
落:使い様ではありますよね。でも管理するのは大変そうです。
か:で、問題にぶち当たるととりあえず本を読む様にはなって行きました。生きづらさから本を読むと言いますか。人に相談出来るタイプじゃないので。学生の時だと司馬遼太郎とか池波正太郎、太宰治、芥川龍之介とか。自分しかこんなの読んでないだろうって。勉強も出来なかったので劣等感からの読書へ、ですよね。西村賢太で言うところの藤澤清造や田中英光と言いますか。俺はちょっと違うぜ、って 笑
落:かたり場さんは学生時代とかモテた方でしたか?どちらにも見えると言いますか、判断難しいなって思います。
か:モテなかったです。スポーツ出来ない、勉強出来ない、モテない、で。バスケ部にはいたんですけどずっと補欠でつまらなくて。
落:かたり場さんのイメージ、少し違いましたね。割とお堅い生活をしてきたのかなって思っていました。
か:高校のときとかはめっちゃだらしなかったですよ、よく、悪くなくてだらしない奴っているじゃないですか?悪くないのにあんまり学校来ない、みたいな 笑 高校の時はそんな生活してました。
「駅で欲しいって言えなかった」
落:高校卒業してからはどうしたんですか?
か:特に何も考えずに工業高校卒業してスーパーに就職したんですけど、そこのチーフが厳しくて半年くらいで辞めてしまいましたね。西村賢太もすぐ仕事辞めちゃいますよね。
落:まあ、10代の頃なんてそんなもんだとは思うんですよね。ぼちぼち、仕事をすぐに辞めちゃってた西村賢太の話に行きましょう。あ、その前に小さな質問をお願いします。かたり場さん、好きな食べ物はなんですか?
か:ないです。安いと美味く感じます。
落:だいぶ好きな答えです。ありがとうございます。もう1つ…好きな女性のタイプを教えてください!
か:昔は松雪泰子です。
落:わかります。俺は「デトロイト・メタル・シティ」の社長役が大好きでした。
か:駅に貼ってあった資生堂の松雪泰子ポスターが欲しかったけど、駅で欲しいって言えなかった思い出がありますねえ。あとは吉川ひなのです!
落:ああ、モデルさん系といった感じで共通点あるかもですね。でも少し意外な感じにも思えます。なんでだろう。わからないですけど。
「やっぱり人の心がわからなかったですね」
落:さて、西村賢太です。ざっくりと、かたり場さんが思う西村賢太の魅力ってなんですかね?
か:非インテリがちゃんと貧困を書いたところが最初に惹かれた理由です。
落:リアルな貧困って事ですかね。
か:ダメな奴はいつまで経ってもダメだから幻想を抱くなよ!ってちゃんと突きつけてくれました。貧困街、例えば山谷を書いたルポなんかも好きで読みましたが、どうしても少し美化されてます。この人にはこの人なりの理由があってこんな生活をしている、みたいな。西村賢太が書く文章はインテリが書くダメ人間とは全く違いますよね。ちゃんと臭ってくる。三畳間の香りと便所の香りと。
落:半分切ったペットボトルと 笑
か:人に、西村賢太何から読んだらいいですか?って聞かれるとやっぱり「苦役列車」って答えています。
落:やはりそうなりますか。西村賢太に出会って自身が変わった部分ってありますか?
か:自分が人からハブられて辛い思いをしてた時期の事とか、あとはキュロットの股間の部分を嗅いで臭えとか、同じ事をやった訳ではありませんけどスケベな部分、貫多ほどではないけど自分のそんなダメな部分を消化させてくれた。それでもいいんだよって肯定された気分になりましたね。
読んでる人は皆そうですかね。
落:そんな風に思いながら読んでる人は多いでしょうね。
か:立川談志が凄い好きなんですけど、「落語とは業の肯定である」って談志の言葉があって。
落:是非聞かせてください。
か:赤穂浪士の47人がいるだろ?と。赤穂藩には300人いたんだ。その中で仇討ちに行ったのが47人、その47人が講談なんだよ。そして仇討ちに行かなかった47人以外、逃げちゃった奴らの話が落語なんだって。本当は人間なんて逃げたいんだよ。逃げて普通に生活すりゃあいいじゃないか、って。飲んじゃいけないけど飲んじゃう、やんなきゃいけない事はやらない、寝ちゃいけない時に寝る、それが人間の業なんだ、それが落語なんだって。それを西村賢太は小説、ああいった形で全て書いてくれてるなって思っています。カタルシスと言いますか、あの時の自分を表現してくれてるな、って。あとは園芸屋さんの話が好きで。
落:「疒の歌」ですね。
か:あれ1番切ないじゃないですか。普段は何となく合わせてるけど、本当は皆俺の事煙たかったんだ…って。
落:2次会誘われなかったり。
か:貫多それやっちゃダメだ!って。なのにどんどん悪い方悪い方に進んで行って。
落:期待を裏切らないですよね。
か:しかも、それでも出勤するところが凄いじゃないですか。
落:それは金貰う為に仕方なかったからなのか、あとは悔しかったからか、もしかしたらまだワンチャンそんな筈はないって思ってたんですかね。事務の女の子だけはわかってくれてる筈って。そんな訳ないんですけど。
か:俺も10代の時はそんな甘さを持っていたと思います。やっぱり人の心がわからなかったですね。
「理不尽になる理由がまた理不尽」
落:西村賢太死んだ時ってどう思いましたか?か:まずはびっくりしました。
落:当時は読んでましたか?
か:新刊は買ってたけど当時はもうあまり出てなかったじゃないですか。テレビにも出なくなってて。
落:旬は過ぎちゃったって感じでしたかね。
か:お父さんの話をもっと読みたかったって思ってたんですよね。でも本当に悩んでる事ってなかなか人に話する事が出来ないじゃないですか。お母さんの話とかお姉さんの話が割とある中、お父さんの話があまりなくて。だからお父さんに対する話がメイン、父に対して自分がどう思ってるか…たまにチラッと導入はあるのですが、そんな話を書いて西村賢太は人生の終焉を迎えるんだろうなって思っていましたから、聞きたかったし読みたかったなあって思いました。だから死んだ時は寂しさと同時に、これでお父さんの話は読めなくなったか、って。相当時間がかかるなとは思っていましたけど、諦めがありましたね。
落:お父さんの話をもっと読んでみたかったってのは他の人からも聞いた記憶があります。そう思ってる人は多いのかもしれませんね。
か:絶対これは書いて終わるだろうって思ってた部分で、そこを読まないと西村賢太のコアな部分はわからないだろうなって。犯罪加害者の家族って立場から始まってますから、絶望感というか劣等感というか。自分は所詮こうだって不貞腐れた感じで。
落:そこにルーツというか、なんでこんな人間になってしまったか、そこが明るみになる前に死んでしまって分析する事も出来なくなってしまった感じですかね。
か:はい、本当はもっと違った人生だったんだろうなって思います。だから残念ですよね。西村賢太って、クズがクズである理由をちゃんと書いてくれてるんですよね。理不尽な行動の裏側をちゃんと心理描写してくれてて。で、理不尽になる理由がまた理不尽なんですけど 笑 でも俺はこう思ったから殴る。あそこまで明確に、赤裸々に書いてくれてる人はいないですよ。私小説の流儀なんでしょうね。藤澤清造とか葛西善蔵を軽く読んだんですけど、そこから西村賢太まで、意外と系譜になってってるんだなって思いました。ちゃんと家賃踏み倒したり。あとは西村賢太小説は邪悪な寅さんって思ってます 笑 いつもパターン決まってるじゃないですか。
落:ああ、そうですよね。そんなのは凄く良いですよね。
か:どっかに勤めて、女の子に岡惚れして、仕事もうまくいかなくなり、フラれて、夜の街に鬱憤を晴らしにいく。パターン化してるという意味では水戸黄門ともいいますかね。
落:それもテクニックですかね。そこまでいける人なんてそうはいませんよね。
か:でもシンプルに、小説の才能は無茶苦茶ある人だったと思います。
落:今、西村賢太に対して思う事ってなんですか?ありますか?
か:一言でいえば、もうあんな作家は出て来ないと思います。平成が産んだ怪物って感じです 笑
意図的に書ける文章じゃないですよ。あんな生活して、あのくらいの学歴の人は、普通あんな小説を書けないと思います。だから奇跡的な人です。
落:ベタ褒め 笑
「司馬の説明癖」
落:かたり場さんの、他に好きな作家を教えてください。
か:やはり司馬遼太郎ですね。絶大です。燦然と輝いてます。
落:俺はあまり知らないので聞きたいです。どんな作品に惹かれたのですか?
か:1番は「関ヶ原」です。上、中、下、とあります。司馬遼太郎は説明が凄いんですよね。絶対に読者がわかるように説明してくれるんです。行間読ませたりも上手くて。司馬の説明癖って言葉があるくらいです 笑
落:最後に、今後の目標、やりたい事を教えてください。
か:小さくてもいいから文学賞を獲りたいです。
落:そうですよね。かたり場さんは小説書いて文フリとかに出店したりしてますよね。
か:今まで3冊出してます。なんでもいいから賞を獲りたいですね。
落:結構売れるものなんですか?
か:70冊くらいですかね。
落:それって多分、なかなかの数字ですよね。行けるんじゃないでしょうか。凄いです。
か:書く時間が取れないのが1番の悩みです。
落:俺なんかもう、集中力がだんだん落ちてきてしまって…何をやるにもタバコばっかり吸ってますよ。
か:ブラウンノイズって知ってますか?家でたまにやる気が全く出なくなる時があって。何にもしたくなくなっちゃって。このノイズ聴くと途端に体が動くようになって集中も出来る様になるんですよ。
落:なんですかそれは?リンク送ってください!早く!!
150分ほど話をしていました。かたり場氏もしっかりと本に救われて今まで生きてきた様でした。自分の良くない部分を読書により改善、そして自身が立ち上げた「かたり場読書会」では時に西村賢太を取り上げ、参加者達と西村賢太を誰よりも楽しんでいる。まんま、西村賢太を読んできた人じゃないですか。
野狐人〜西村賢太 周りの周りの人たち〜
第5回 かたり場読書会 編 終了


コメント