MAMOR 最新号

11月号

定価:780円(税込)

 陸上自衛隊で唯一の存在である「部隊訓練評価隊」。対抗形式の訓練を通じて全国の部隊を適正に評価し、陸自全体の強さを底上げするために活動する彼らの任務や装備について紹介しよう。

全国の普通科部隊の「道場」 富士訓練センター

 全国の普通科部隊が、自らを鍛えるために挑む「道場」。それが、部隊訓練評価隊を中心とした「富士訓練センター」、通称FTCと呼ばれる組織だ。

 FTCには、訓練の統裁および評価分析を行う部隊訓練評価隊本部(北富士駐屯地)、敵役部隊となる評価支援隊(滝ヶ原駐屯地)、そして機動訓練評価装置など訓練で使う器材や施設が含まれる。

「私たちの隊員は、皆高いモチベーションと使命感を持ち、自ら考える能力を持っています。それが、強さの源泉ですね」と、部隊訓練評価隊隊長の加々尾1佐

「FTCでは、1~2個普通科中隊を基幹とする部隊による、攻撃または防御訓練を行うことができます。年間、約20回の訓練を運営しており、2000年の創立以来、約450回の訓練を実施してきました」と語るのは、部隊訓練評価隊隊長の加々尾哲郎1等陸佐だ。

 同隊は、訓練の結果を客観的・計数的に評価し、現代戦の実相に近い環境下で、総合的な訓練ができるようにしよう、という狙いから設立された。

画像: 訓練終了後は、専用の講堂に集まってAAR(After Action Review)と呼ばれる研究会が行われる。部隊訓練評価隊が収集・分析したデータを惜しみなく使って訓練結果を詳細に検討する

訓練終了後は、専用の講堂に集まってAAR(After Action Review)と呼ばれる研究会が行われる。部隊訓練評価隊が収集・分析したデータを惜しみなく使って訓練結果を詳細に検討する

「訓練部隊は、対抗部隊である評価支援隊を相手に訓練を行い、後日、機動訓練評価装置による交戦結果や、部隊に同行する部隊評価分析官(OC/Observer Controller)らによる評価・分析をもって研究会を開催。そこで定量的・定性的評価を伝えます」

戦闘を「評価」して気付きを与える

画像: 訓練では、部隊評価分析官(OC)と呼ばれるチェック係が各部隊に複数人同行し、定性的な情報を収集する。OCは、障害処理の成否などの状況判定も行う、審判兼評価係の役割を担っているのだ。彼らは訓練参加部隊と見分けがつくようにヘルメットではなく帽子をかぶっている

訓練では、部隊評価分析官(OC)と呼ばれるチェック係が各部隊に複数人同行し、定性的な情報を収集する。OCは、障害処理の成否などの状況判定も行う、審判兼評価係の役割を担っているのだ。彼らは訓練参加部隊と見分けがつくようにヘルメットではなく帽子をかぶっている

 ここでポイントとなるのが、部隊訓練評価隊は訓練部隊に対し「戦闘指導」をしない、ということだ。彼らは訓練を通じて実戦的な教訓を伝え、さらに収集・分析されたデータを基に訓練結果や部隊の現状を教えはするが、どうしたら部隊が強くなるのか、ということについては部隊側に考えさせる。

「隊員同士の団結力が強いですね。そして各隊員が自主自律し、全ての隊員が考えながら動くことができる強みがあります」と語るのは、評価支援隊・第1普通科中隊長の佐藤3佐

「訓練部隊に生きた教訓を持って帰ってもらうため、対抗部隊として『強い敵』であり続けなくてはならないと考えます」と語るのは、評価支援隊第1普通科中隊長の佐藤善太郎3等陸佐。

評価支援隊・第2普通科中隊長の塩澤3佐は、「評価支援隊は、ホームグラウンドの北富士演習場でなくても一番強い部隊だと思います。経験値が一番豊富ですから」と胸を張る

 同じく第2普通科中隊長の塩澤公規3等陸佐は「訓練部隊に勝つことを通じて、彼らが真に戦える部隊へ育つように寄与します」と胸を張る。

 これまで450戦ほどの訓練で、1度しか負けていないという自信と誇りが感じ取れる。2022年8月に着任した前出・佐藤3佐は「正直、プレッシャーは大きいですね。私に代わったから負けた、と言われることがないように全力を尽くします」とも語ってくれた。

「今回の訓練でも、新たな戦車の戦い方を実践してみます。常に戦い方を進化させていくことが強さを維持する方法でもあります」とは、評価支援隊・戦車中隊長の石山3佐の言葉だ

 訓練部隊の成長に貢献するため、対抗部隊である評価支援隊もまた、日々鍛錬を欠かさない。戦車中隊長を務める石山正茂3等陸佐はこう語る。

「私たちも、訓練のたびに必ず反省点を明確にし、改善しています。これを年20回も繰り返しているわけですから、並の部隊には負けません」。

評価支援隊・戦車中隊先任上級曹長の清水畑曹長は、「訓練では、実戦を意識して、常に注意が欠落しないよう、隊員たちを指導しています。気の緩みが落とし穴になります」と言う

 戦車中隊で曹士を束ねる清水畑嘉昭陸曹長も「評価支援隊の隊員は、強い勝利への執念を持つとともに、学びながら常に進化を続けています」と同調する。

訓練では対抗部隊を務める評価支援隊隊長の小菅2佐。「全隊員が任務完遂、つまり必ず勝つという信念を持ち、常に真剣勝負の訓練を繰り返しています。これこそが強さの源です」

 そして評価支援隊長の小菅祐山2等陸佐は次のようにまとめてくれた。

「私たちの任務は『ミッションリハーサル』、つまりいざ有事となっても対応できるような訓練の場を提供すること。そのためにも、自ら強い部隊でなくてはならないのです」

 最後に、改めて加々尾1佐に今後FTCとして目指すところを聞いた。

「急速に変化する安全保障環境を考慮し、ドローンなどによる偵察や電磁波・サイバーなど領域を横断した作戦への対応など、部隊のニーズに合わせた訓練環境を提供できるようにしていきたいと考えています」

戦闘訓練の勝ち負けを見極める、特殊な装備を紹介

 部隊訓練評価隊独自の装備に「機動訓練評価装置」がある。戦闘訓練に関するデータをリアルタイムで収集し、射撃の当たり外れなどを正確に判定することができる装置だ。

 この装置によって客観的なデータを基に戦闘訓練を分析することができるようになったことで、隊員らはより真剣に、より本気で、訓練と向き合うようになった。

人員用レーザー送受信装置(バトラー)

 ヘルメットや防弾チョッキ型の装置に受光装置が取り付けられており、レーザー光線が当たると銃弾が命中したことになる。人員の被害状況は左胸に装着された「損耗表示器」で示され、負傷した部位、軽傷・重傷・死亡などの判定、負傷を与えた火器が表示される。

画像: 人員用レーザー送受信装置(バトラー)

 実弾の代わりにレーザー光線を発する装置を小銃や機関銃に装着。このレーザーが当たったかどうかで被害を判定する。訓練では空包を撃つため、音の迫力は実弾とさほど変わらない。

戦闘車両用レーザー送受信装置

画像1: 戦闘車両用レーザー送受信装置
画像2: 戦闘車両用レーザー送受信装置

 戦車や装甲車、対戦車ミサイルなどにもレーザーの発光・受信装置が取り付けられる。車体各所に装着されているのが受信機。車体上部のパトランプ状のものは、攻撃が当たると点灯・回転し、被害を受けたことが一目で分かる。

設置式弾着現示装置

画像: 設置式弾着現示装置

 特定の座標に砲撃があったというデータが送られると、その範囲にある現示装置が作動。色の付いた煙を出し、音響によって「ここに砲撃がありました」と周囲に知らせる。

交戦訓練用 対人・対戦車地雷

画像: 対戦車地雷

対戦車地雷

 戦闘訓練に用いる模擬地雷。130キログラム以上の荷重がかかったときに作動する、主に敵車両を破壊するための対戦車地雷(上)のほか、日本政府が「対人地雷禁止条約」を批准しているため、自衛隊は持たない「対人地雷」(下)も、敵が使うことを想定して用意されている。

対人地雷

 対人地雷は、仕掛けワイヤーを張っておき、そこに人が引っかかったときに作動するようにできる。どちらも半径4メートルの範囲が有効距離で、作動時にそのエリアにいた隊員・車両が被害判定を受ける。

データ収集装置

 場内6カ所に設置された基地局と駐屯地にある司令塔「統裁運用室」は光ファイバーで結ばれ、情報はリアルタイムに処理されていく。駐屯地で分析を行うために、演習場には各種データ収集装置が用意されている

 北富士演習場内の4カ所には、場内の様子を撮影できる固定式のカメラが設置されている。カメラの画角やズームはリモートで行える。

 演習場内で収集したデータを処理して、駐屯地のデータ分析センターに送るための装置。トラックに搭載され、移動も容易だ。

 訓練部隊の動きを空から見張るドローン。後の評価に用いるための映像を撮影するために飛ばしている。器材は基本的に市販のものと同じだ。

評価装置の導入で、正確な判定が可能に

田中公正2等陸尉

 評価支援隊本部・第4係主任の田中公正2等陸尉は、機動訓練評価装置導入のメリットを次のように語る。

「導入される2000年までの戦闘訓練は、審判役の人間による判定で結果を出していました。人間の判断では主観も入りますし、結論を不服に思う隊員が必ず出るものでした。

 システムの導入によって、隊員や車両の動きも全て分かりますし、射撃の結果も明確に出ます。客観的なデータを基に、皆が納得のできる結論が得られ、そこから冷静に教訓を導き出すことができるようになりました」

(MAMOR2022年12月号)

<文/臼井総理 写真/荒井健>

戦え!防御陣VS攻撃陣 最強の敵役が国防を鍛える

 四方を海に囲まれた日本では、歴史上「海軍」が大きな役割を果たしてきた。

 戦国時代の水軍から江戸・幕末の近代海軍の誕生を経て、明治の帝国海軍、そして、昭和の開戦、戦後の海上自衛隊発足へと連なる洋上の戦士たちの系譜を知るために、その組織や装備、戦い方の変遷の航跡を振り返り、さらには未来の海戦の予想までを含めて解説しよう。

戦国~明治新政府:戦国時代後期から大名が編成した水軍が誕生

画像: 江戸時代初期に、江戸幕府2代将軍の徳川秀忠が命じて造らせたという、徳川家の軍艦「安あ 宅たけ丸まる」の想像図 出典/ Wikimedia Commons

江戸時代初期に、江戸幕府2代将軍の徳川秀忠が命じて造らせたという、徳川家の軍艦「安あ 宅たけ丸まる」の想像図 出典/ Wikimedia Commons

 日本の海軍は、諸説あるが、戦国時代の「水軍」に始まるともいわれる。村上氏などで知られる「海賊」を一部の戦国大名が戦力として活用。豊臣政権では海賊行為は禁止され「水軍」を統制下に置いた。

 江戸時代に入ると大船建造が禁止されるなど軍事的な水軍は衰退するが、江戸末期になると外国船の来航が増加。幕府が海防強化のために西洋式軍艦を輸入し、幕末には幕府海軍がつくられた。

 明治新政府はこれを継承して近代海軍の整備を本格化。大日本帝国海軍の基礎を築いた。

1872年:大日本帝国海軍が誕生。日清戦争で初の連合艦隊を編成

 明治新政府は当初、独立した海軍を持っていなかったが、1872年に陸軍省・海軍省を設置し、「大日本帝国海軍」が誕生した。

 94年に始まった日清戦争では、開戦6日後に主力部隊の「常備艦隊」と二線級部隊の「警備艦隊(西海艦隊)」を統合した「連合艦隊」が編成され、以降、日露戦争を含む戦時、大規模演習時に臨時編成されていたが、1923年以降は常設の組織となった。

 日清戦争では初めての近代的海戦である黄海海戦を経験し、勝利を飾る。日本が列強入りを果たす原動力となった。

1905年:日露戦争中の日本海海戦でロシアが誇るバルチック艦隊に勝利

画像: 1905年5月27日の早朝、バルチック艦隊との決戦に出撃する連合艦隊 出典/ Wikimedia Commons

1905年5月27日の早朝、バルチック艦隊との決戦に出撃する連合艦隊 出典/ Wikimedia Commons

 1904年に始まった日露戦争における05年の日本海海戦では、遠征してきたロシアのバルチック艦隊を旧日本海軍が撃破。

 この際、東郷平八郎司令長官の指揮、参謀の秋山真之の作戦案の下、五島列島からウラジオストクまでの600海里を7段に分け、4日3晩ぶっ通しで、戦艦の砲戦や水雷戦隊の夜戦などの追撃戦を仕掛ける7段構えの戦法で勝利をつかんだ。

 大国ロシアを海戦で破り、日露戦争に事実上の勝利を収めたことから、以降旧日本海軍は日本海海戦をモデルとし、艦隊が直接対峙して砲戦や魚雷戦を繰り広げる戦略戦術に重きを置くようになる。

1922、30年:軍縮条約で主力艦の建艦が中止。「特型駆逐艦」が建造される

画像: 特型駆逐艦の『吹雪』。ワシントン海軍軍縮条約の制限を受けない補助艦艇の強化のため、建造された新型駆逐艦 出典/ Wikimedia Commons

特型駆逐艦の『吹雪』。ワシントン海軍軍縮条約の制限を受けない補助艦艇の強化のため、建造された新型駆逐艦 出典/ Wikimedia Commons

 1922年、ワシントン海軍軍縮条約が締結された。第1次世界大戦が終わった後も各国が軍拡を続けたため、建艦競争を抑制するため戦勝5カ国(アメリカ、イギリス、日本、フランス、イタリア)が結んだもので、主力艦の建艦が中止となった。

 さらに30年のロンドン海軍軍縮条約では、主力艦以外の補助艦の建艦にも制限がかけられた。

 ワシントン海軍軍縮条約をきっかけに、当時は条約の制限外であった補助艦艇を強化すべく生まれた日本の新型駆逐艦に、「特型駆逐艦」(『吹雪』型駆逐艦)がある。「量の制限を質で超える」ことを目標に、小型で航海性能の優れた船体に重武装を搭載した特型駆逐艦の登場は、他国に衝撃を与え、次のロンドン海軍軍縮条約で駆逐艦が細かく規制されるきっかけにもなった。

1933年:旧日本海軍のスーパーウエポン「酸素魚雷」が開発される

画像: 第2次世界大戦中、ワシントンD.C.のアメリカ海軍本部前に展示されていた、日本の九三式魚雷(酸素魚雷) 出典/ Wikimedia Commons

第2次世界大戦中、ワシントンD.C.のアメリカ海軍本部前に展示されていた、日本の九三式魚雷(酸素魚雷) 出典/ Wikimedia Commons

 正式名称「九三式魚雷」。旧日本海軍が開発した巡洋艦、駆逐艦用魚雷だ。

 従来型の魚雷よりも高速で長射程、かつ航跡をほぼ引かないため敵が見つけづらいという、高性能な魚雷だった。最大速度約50ノット、最大射程約40キロメートル。

 旧日本海軍では「酸素魚雷」を水雷戦闘力の要とし、多数の魚雷を一斉に発射して敵艦を撃破する戦術を磨くことになる。

1934、36年:2つの条約から脱退。「陽炎型駆逐艦」が建造されていく

画像: 陽炎型駆逐艦の『舞風』。同型に『雪風』も。軍縮条約の制限に縛られず、復元性能や船体強度にも留意して造られた新鋭駆逐艦だった 出典/ Wikimedia Commons

陽炎型駆逐艦の『舞風』。同型に『雪風』も。軍縮条約の制限に縛られず、復元性能や船体強度にも留意して造られた新鋭駆逐艦だった 出典/ Wikimedia Commons

 先に挙げた2つの海軍軍縮条約から1934年と36年に脱退した日本は、来たるべき戦争に備えて多数の艦艇を建造する。

 駆逐艦も条約の制約から脱した新型として「陽炎型駆逐艦」を建造。同型19隻のなかに『雪風』もあった。

『吹雪』型が対艦戦に特化していたのに対し、『陽炎』型は高射角の機関銃を搭載するなど、対空戦も考慮した造りに進化した。

1941年:旧日本海軍の航空機による真珠湾攻撃でアメリカの太平洋艦隊に大打撃

画像: 1941年12月8日未明、日本の艦上攻撃機が奇襲攻撃を行い、炎と煙に包まれるアメリカ海軍の真珠湾基地。航空攻撃の有効性が注目された 出典/ Wikimedia Commons

1941年12月8日未明、日本の艦上攻撃機が奇襲攻撃を行い、炎と煙に包まれるアメリカ海軍の真珠湾基地。航空攻撃の有効性が注目された 出典/ Wikimedia Commons

 1941年12月8日未明、旧日本海軍の空母6隻を中心とする機動部隊が、太平洋戦争開戦直後、ハワイ・オアフ島のアメリカ海軍真珠湾基地を奇襲攻撃。戦艦4隻撃沈などの戦果を挙げた。

 当時、航空機によって戦艦を撃沈することは難しいと考えられていたが、真珠湾攻撃の成功と、その直後のマレー沖海戦で、イギリスの戦艦が旧日本海軍の航空攻撃のみで撃沈されたことを受け、航空機による攻撃の有効性が世界に知れ渡った。

 これに大きな衝撃を受けたアメリカは、「大艦巨砲主義」から「航空主兵」への転換を一気に進めることとなる。

1942年:艦隊同士の戦い、スラバヤ沖海戦で、旧日本海軍は砲撃、魚雷戦に勝利する

 1942年2月27日、太平洋戦争初の艦隊同士の海戦「スラバヤ沖海戦」が始まった。
 ジャワ島攻略に向かう旧日本軍輸送船団を護衛する日本の巡洋艦・駆逐艦による艦隊と、連合国軍の艦隊が激突。7時間にも及ぶ砲撃戦、魚雷戦の結果、連合国軍の巡洋艦2隻、駆逐艦5隻を撃沈。

 日本側の被害は駆逐艦1隻の損傷のみという、旧日本海軍が一方的な勝利を収め、日本の水雷戦隊の戦闘能力の高さを世に知らしめることとなった。土日返上で猛訓練に励んでいた錬成のたまものでもあった。

1942年:ミッドウェー海戦で、旧日本海軍は大敗北を喫し、戦局が転換

 太平洋戦争の転換点とも呼ばれたミッドウェー海戦。旧日本海軍の空母4隻を中心とする機動部隊と、アメリカ海軍の空母3隻を中心とする機動部隊が激突し、空母同士の大規模な航空戦が繰り広げられた。

 この戦いで日本は空母4隻を全て失った。一方でアメリカ軍の空母損失は1隻にとどまり、優秀なパイロットを多数失った旧日本海軍は、開戦以来の優勢から一転、苦しい戦いを強いられることになった。

1944年:海軍空母機動部隊同士の戦い、マリアナ沖海戦で壊滅的な敗北

画像: 1944年6月20日午後遅く、マリアナ諸島沖でアメリカ海軍の航空機から攻撃を受ける日本の艦隊

1944年6月20日午後遅く、マリアナ諸島沖でアメリカ海軍の航空機から攻撃を受ける日本の艦隊

 1944年6月15日、アメリカ軍が日本の重要拠点の1つ、マリアナ諸島のサイパン島に上陸を開始。これを迎え撃つため、旧日本海軍も空母9隻を主力とする機動部隊を差し向けたが、アメリカ海軍は空母15隻で対抗。

 19日から20日にかけて起きたマリアナ沖海戦で、旧日本海軍は大敗を喫した。その結果、旧日本海軍が誇る機動部隊は航空戦力のほとんどを失い、またマリアナ諸島の島々も相次いで失陥してしまった。

1944年:史上最大の海戦、レイテ沖海戦で戦艦『武蔵』が沈没

画像: 1944年10月25日、レイテ沖海戦で、行動や意図を知られないように煙幕を張るアメリカ海軍の駆逐艦と護衛駆逐艦 出典/ Wikimedia Commons

1944年10月25日、レイテ沖海戦で、行動や意図を知られないように煙幕を張るアメリカ海軍の駆逐艦と護衛駆逐艦 出典/ Wikimedia Commons

 マリアナ沖海戦で敗退した旧日本軍は、フィリピン奪回を目指して進撃してくるアメリカ軍を陸・海軍の総力を挙げて迎え撃った。

 海では「レイテ沖海戦」が行われ、旧日本海軍は大規模な艦隊を投入したが、そのかいもなく大敗し、空母4隻、戦艦3隻を含む多数の艦艇を失った。この中には、世界最大級の戦艦『大和』の姉妹艦である『武蔵』も含まれていた。

 一方でアメリカ空母の活動を封じるための非常策として、航空機による体当たり自爆攻撃を行う旧日本海軍の「神風特別攻撃隊」が初出撃。以降多数の「特攻機」を送り出す始まりとなった。

1945年:坊ノ岬沖海戦で海上特攻隊として向かった戦艦『大和』が撃沈

画像: 1945年4月7日、東シナ海でアメリカ海軍の空母機動部隊の攻撃を受ける日本の戦艦『大和』 出典/ Wikimedia Commons

1945年4月7日、東シナ海でアメリカ海軍の空母機動部隊の攻撃を受ける日本の戦艦『大和』 出典/ Wikimedia Commons

 1945年4月1日、連合国軍が沖縄本島に上陸を開始。もはや大規模に艦隊を動かすことすらできなくなっていた旧日本海軍は、4月6日、残存艦艇のうち戦艦『大和』を中心に、軽巡洋艦『矢矧』、駆逐艦『雪風』を含む8隻の合計10隻による艦隊を「海上特攻隊」として沖縄へ向けて出発させた。

 翌7日、艦隊はアメリカ海軍機動部隊の航空機による2度の大空襲を受ける。集中攻撃された『大和』は同日14時23分に沈没。生き残って日本に帰れたのは、『雪風』を含む駆逐艦4隻だけだった。この戦いにより、旧日本海軍の組織的な戦闘は終わった。

1945年終戦後:敗戦時に残存した艦艇の多くは、「復員輸送船」、「賠償艦」に

画像: 賠償艦となった『雪風』は、1947年7月に中華民国に引き渡され、『丹陽』と改名し、活躍を続けた 出典/ Wikimedia Commons

賠償艦となった『雪風』は、1947年7月に中華民国に引き渡され、『丹陽』と改名し、活躍を続けた 出典/ Wikimedia Commons

 太平洋戦争終結時、アジアや太平洋の島々には多数の日本人が残留していた。軍人はもちろん、民間人も多かった。

 これらの人々を日本に引き揚げさせるため、旧海軍の残存艦艇はもちろん、アメリカ軍から与えられた輸送船も動員して、大規模な「復員輸送」が行われた。

 旧海軍の艦艇は武装を外し、仮設の居住区や厨房を設けて人員輸送を行えるように改造。『雪風』などの駆逐艦は、比較的近距離の東南アジア、中華民国、朝鮮からの復員輸送に従事したという。

 復員輸送に活躍した旧海軍艦艇は、その役目を終えた後、一部は「賠償艦」として戦勝国に引き渡された。多くの場合、引き渡し後にスクラップにされているが、旧ソ連や中華民国(後の台湾)に引き渡された艦艇の中には、その後も名前を変えて使われ続けたものもある。

 ちなみに駆逐艦『雪風』は、中華民国に賠償艦として引き渡され、『丹陽』と改名し、同国海軍の主力艦として活躍したとされる。

1954年〜現在:復員任務、機雷掃海任務を経て、海上自衛隊が誕生。今も活躍を続ける

画像: アデン湾において、アメリカ海軍と海賊対処に関する共同訓練を行う、海自の海賊対処行動水上部隊

アデン湾において、アメリカ海軍と海賊対処に関する共同訓練を行う、海自の海賊対処行動水上部隊

 復員輸送は、海軍省から第2復員省、復員庁へと引き継がれ、1947年ごろまで行われた。

 日本の海上警察任務、そして日本近海に日本とアメリカ双方が敷設した機雷の掃海作業は、復員庁から運輸省を経て、48年に発足した海上保安庁に引き継がれた。

 52年、海上保安庁の中に「海上警備隊」を設置。これが前身となり、54年に海上自衛隊が発足する。以降、海上保安庁から引き継いだ掃海作業をはじめ、日本の海の国防は海自が受け持つこととなる。

 アメリカ軍の援助も得つつ着々と力を付けた海自は、80年、初めてリムパック(環太平洋合同演習)に参加し、アメリカ軍以外の世界各国の海軍と肩を並べて演習に参加できるまでになった。

画像: 1991年、ペルシャ湾に派遣された海自の掃海部隊は、近くを石油のパイプラインが通り、海流の激しい危険な場所の掃海を担当した

1991年、ペルシャ湾に派遣された海自の掃海部隊は、近くを石油のパイプラインが通り、海流の激しい危険な場所の掃海を担当した

 平成に入ると、1991年の湾岸戦争の戦後処理で、自衛隊初の海外派遣となるペルシャ湾掃海部隊派遣が行われ、翌92年に成立した「国際平和協力法」のもと、海自は世界中に活躍の場を広げていくようになった。

 2009年からは、貿易大国・日本にとって重要な航路に当たるソマリア沖・アデン湾を航行する民間商船を襲う海賊事件の発生が急増したことを受け、自衛隊による商船の防護活動(海賊対処行動)を行っている。

 11年にはジブチ共和国に自衛隊の拠点が設置され、活動は現在も続いている。

未来:無人の水上ドローンや長射程のミサイルなど非接触型の打撃戦が主流に

 太平洋戦争までは、海戦といえば水上艦隊同士が艦砲射撃や雷撃戦という形でぶつかり合うようなスタイル、いわば「日本海海戦」のようなイメージがあったが、この先、そのような海戦は行われるのだろうか? 

 戦略論や作戦術などに詳しい元海上自衛官の石原敬浩氏に聞いた。

「今後は起きにくいでしょうね。現代のロシアのウクライナ侵攻を見ても明らかなように、無人の水上ドローンや長射程の対艦ミサイルのような兵器による『非接触型の打撃戦』が主流になってきています。

 一方で、ステルス技術が極限まで進化した場合や、狭い海域に民間船、漁船が多数混在する状況下での戦いなど、最終的に人間の目視による識別や攻撃可否の判断が必要な局面も考えられますので、局地的な水上艦同士の接近戦が再発する可能性はゼロではありません」

 技術は進化しても、最後に国を、人の命を守るのは「人の意志」なのかもしれない。海上自衛隊で活動する艦艇乗りたちは、戦いの様相がいかに変わっても、日本を守るべく、今日も海のどこかで腕を磨いているのだ。

(MAMOR2025年9月号)

<文/臼井総理 写真提供/防衛省>

洋上の戦士たちの系譜

※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

  

 陸上自衛隊が艦艇を持つということで、2024年10月ニュースとなった。四方を海に囲まれた日本になくてはならない装備、「たたかう船=艦艇」について紹介。とくに、搭載される主な兵器について解説する。

艦艇に搭載される兵器を兵装という。現代の艦艇が搭載している代表的な5つの兵装について、しくみや役割を見ていこう。

チャフ

画像: 護衛艦の甲板上に搭載されたチャフ発射機。6連装で、チャフを積んだロケット弾を発射する 出典/U.S. Navy

護衛艦の甲板上に搭載されたチャフ発射機。6連装で、チャフを積んだロケット弾を発射する 出典/U.S. Navy

 敵のレーダーによる探知を妨害するための兵装。アルミ箔などの電波を反射する物体を搭載した弾を装置から遠方に発射し、搭載物を空中にバラまく。レーダー上ではあたかも艦艇がいるように映るため、敵を欺くことができる。艦艇のほか、航空機に搭載されることもある。

機関砲

画像: 護衛艦にも搭載されている、近接防空システム。接近してくるミサイルなどに対し、レーダーで照準を合わせて大量の砲弾を撃ち込む 写真提供/防衛省

護衛艦にも搭載されている、近接防空システム。接近してくるミサイルなどに対し、レーダーで照準を合わせて大量の砲弾を撃ち込む 写真提供/防衛省

 機関銃よりも大口径(一般に20ミリ以上)の弾を使い、連続射撃が可能な砲のことを指す。護衛艦にも搭載される、飛来するミサイルや敵航空機からの防御を担当する近接防空システム(CIWS:Close-in weapon system)の1種「ファランクス」は、迎撃探知用のアンテナや多砲身の機関砲が搭載され、自律的に対象を迎撃することができる。

魚雷、アスロック

画像: 発射される魚雷とアスロックのイメージ。護衛艦から発射されたアスロックは、目標付近まで飛翔して魚雷を分離する。魚雷より目標を素早く攻撃でき、より遠くまで届く

発射される魚雷とアスロックのイメージ。護衛艦から発射されたアスロックは、目標付近まで飛翔して魚雷を分離する。魚雷より目標を素早く攻撃でき、より遠くまで届く

 魚雷とは元々、「魚形水雷」の略で、細長い形状をし、スクリュープロペラなどの推進力を使って水中を自力航行する武器。敵艦艇の喫水線下を破壊し浸水させることを狙ったもの。アスロック(ASROC:Anti Submarine ROCket)は、魚雷に飛ぶためのロケット・モーターを付けている。

 艦艇から空中に発射され、一定距離を飛んだ後はパラシュートが開き、着水する。その後は魚雷として航走し、敵潜水艦を撃破する。魚雷をいち早く敵潜水艦が存在する海域に運べる手段だ。

大砲

画像: 護衛艦による、5インチ砲の射撃。1分間に20発近くの速度で連続発射でき、対空射撃から対地攻撃まで幅広く使える 写真提供/防衛省

護衛艦による、5インチ砲の射撃。1分間に20発近くの速度で連続発射でき、対空射撃から対地攻撃まで幅広く使える 写真提供/防衛省

 艦艇に搭載する大砲。レーダーやミサイルが発達した現代では、艦艇同士が大砲を撃ち合う戦闘はほとんど起こらないとみられ、第2次世界大戦期のような40センチ以上の砲弾を使用する大砲は搭載せず、搭載しても1門のみの艦艇が多い。

 対空射撃や対艦・対地射撃などに用いられる現代の大砲は、コンピューターやレーダーにより制御されているため命中率は過去の大砲とは比べものにならない。

対空ミサイル、対艦ミサイル

アメリカ海軍のイージス艦のVLS(垂直発射装置)から連続して発射される艦対空ミサイル 出典/U.S. Navy

 ミサイル(誘導弾)は、その目標によって名称が異なる。敵航空機やミサイルを迎撃するのが「対空ミサイル」、敵艦艇を迎撃するのが「対艦ミサイル」。それぞれのミサイルを艦艇に搭載すると「艦対空ミサイル」、「艦対艦ミサイル」となる。

(MAMOR2025年3月号)

<文/臼井総理>

知っておきたい国守る船の基礎知識

※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

 どんなに厳しい状況でも生き延びて任務を果たす、陸上自衛隊レンジャー隊員たちが身に付けるサバイバル術は、国を守る究極の術だ。

 ここでは彼らが冬山で実践する「凍傷対策」「安全な地形の確認の仕方」「体温低下の防ぎ方」について紹介していく。

冬季遊撃レンジャーは、凍傷対策を怠らない

足先の感覚がなくなる前に、時折、屈伸運動を挟んで末端まで血流が行き渡るようにし、凍傷を防ぐ

 雪中戦で高い戦闘能力を発揮するのが、真駒内駐屯地(北海道)で実施される教育を修了した冬季遊撃レンジャーだ。部隊では、冬季の戦闘術を磨く中で、凍傷に対する対策を講じている。

 凍傷は、冬季遊撃レンジャー隊員の戦闘力をそぐ。重症ともなると患部を切断するはめになることもあり、要注意だ。

 凍傷の原因は、手足末端の血管が収縮し、血液の流れる量が減少するため。そこで冬季遊撃レンジャー隊員は、手足に冷えを感じたら、血流を促すように腕を大きく回したり、屈伸運動をしたりする。指先の感覚がなくなった場合には症状が進行していることが分かるので、脇の下などに手を入れて温め、感覚が戻るかを随時確認する。

行動を停止するときは安全な地形か確認する

画像: 行動停止中は、雪面からの冷気で体を冷やさないよう、あえてザックの上に座ることもある

行動停止中は、雪面からの冷気で体を冷やさないよう、あえてザックの上に座ることもある

 冬季遊撃レンジャー隊員が積雪時に屋外で行動を停止する場合は、雪崩の危険が少ない場所、雪面に穴や空洞がないかなど、地形を確認する。さらに頭の上にも注意する。木の上からの落雪などでけがをすることもあるからだ。

冬季遊撃レンジャーは、重ね着やこまめなカロリー摂取で低体温症を防ぐ

画像: あらかじめ食品保存袋などに入れて携帯していたナッツやチョコレートなどを補給する冬季遊撃レンジャー隊員

あらかじめ食品保存袋などに入れて携帯していたナッツやチョコレートなどを補給する冬季遊撃レンジャー隊員

 凍傷対策と併せて、冬季遊撃レンジャー隊員は低体温症への備えも欠かさない。低体温症は、体が激しく震えるなどの初期症状を経て、さらに体温が低下すると思考力も低下し、しまいには運動機能も低下して意識を失うこともある。

 その予防のため、冬季遊撃レンジャー隊員たちは体温を下げないように努めている。まずは冬用の防寒戦闘服の下に衣類を重ねて着用する。水は空気より熱伝導率がはるかに高く、ぬれた衣類を着ていると体温がすぐに奪われるため、汗などを吸って乾きにくい綿素材は避け、速乾性の高い化学素材の服を選ぶ。さらに重ね着をして、服と服の間に空気の層を作って保温性を高める。

 場合によってはカイロも利用。その際は、体の中心に熱を行き渡らせ、手足まで熱を届けるため、肩甲骨上部やみぞおち付近といった体幹部や脇の下にカイロを当てる。また、低体温症の予防には、食品でカロリーを摂取することも重要だ。チョコレートやナッツなど、手軽に食べられる高カロリーの食品を携帯し、適宜、食べて体温低下を防いでいる。

山岳レンジャーは、外傷を負ったら即席湯たんぽで体温低下を防ぐ

山専用ボトル(右)は、高い保温力で長時間、熱湯が冷めにくいのが利点。その熱湯を、コンパクトに携帯できる水のうに移し入れ、即席の湯たんぽを作る。直に肌には当てず、衣服の上から当てる

 松本駐屯地(長野県)には、県内にある山々の特性を生かした山岳技術に特化した山岳レンジャー小隊がある。山岳レンジャー隊員が作戦行動中に外傷を負い、出血などで体温が下がったときなどには、市販品の山専用ボトルに携行していた熱湯を、予備の水のうに移し入れ、即席湯たんぽを作り、体温低下を防ぐ。

加温キットの袋の中には、簡易シュラフのような外装シェルターと、開封すると発熱するシェルライナーが入っている

 このとき、湯たんぽがぬるくなると意味がないので、こまめに作り替えることが大事だ。また、山岳レンジャー小隊では、断熱性の高い外装シェルターと自動的に発熱するシェルライナーが入った「加温キット」も携行しているので、それらも活用して加温する。

(MAMOR2025年4月号)

<文/臼井総理 写真提供/防衛省 イラスト/内山弘隆>

レンジャー隊員の究極サバイバル術

※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

 海に囲まれた日本になくてはならない装備、「たたかう船=艦艇」。現代の艦艇とその兵装を知るための解説する。

 補給艦と輸送艦はどう違うのか? イージス艦の実力は? じつは「海上自衛隊が使用する船舶の名称には命名ルールがある」などの豆知識もあわせて紹介。

用途で異なる艦艇の名称

画像: 用途で異なる艦艇の名称

 艦艇とひとくちに言っても、さまざまな種類がある。主に戦闘や哨戒、護衛などを行う巡洋艦、駆逐艦、潜水艦をはじめ、艦艇への補給を行う補給艦、部隊の敵前上陸を行う揚陸艦など、それぞれに役割があり、用途によって使い分けられている。

 比較的大きい艦艇を「艦」、小さい艦艇を「艇」と呼ぶが、世界共通の明確な基準はなく、国や組織によって分け方はバラバラだ。上の表は世界の主な海軍が用いる艦艇の種類をまとめたもの。

敵を欺く構造のステルス艦

画像: 海上自衛隊の『もがみ』。従来の護衛艦よりもステルス性を向上させた船体構造になっている写真提供/防衛省

海上自衛隊の『もがみ』。従来の護衛艦よりもステルス性を向上させた船体構造になっている写真提供/防衛省

 ステルス艦とは、「ステルス性能」を持った艦艇を指す。ステルス性能とは、船体形状や素材の工夫によって、敵のレーダーなどのセンサーに探知されにくい能力のこと。

 一例を挙げるとレーダーは、レーダー波を発射し、反射したレーダー波(反射波)を解析することによって対象物の位置や速度などを探知する。

 ステルス艦は、船体をできる限り凹凸を減らした構造にして反射波を減らしたり、反射波を海や空に逸らしてレーダーに探知されにくくするための独特な「ステルス形状」をしている。

複雑な幾何学模様で塗装された「ダズル迷彩」を施されたイギリス空母『アーガス』。肉眼で見たときに、針路や速度がわかりにくくなる効果を狙い施されている 出典/U.S. Navy

 ほかにも、魚雷発射管やミサイルなど、電波を受けやすい機器を艦内に格納するなど、反射波の方向を変えたり減らしたりする技術がふんだんに投入されている。アメリカの『インディペンデンス』や、海自の『もがみ』がステルス艦の代表例だ。

役割に応じた艦内区画がある

海自艦艇の戦闘指揮所。レーダーやソナーなどの各種センサー類、そのほか艦についての情報が集約される部屋であり、戦闘時の指揮・発令もここから行われる 写真提供/防衛省

 艦艇内部は、いくつかの区画に分類されている。海自の艦艇を例に説明しよう。

「居住・休養区画」は、乗組員の居室、食堂、病室などがあてはまる。「事務区画」は役職に応じた事務室、「衛生区画」には医務室のほか浴室や洗面所、トイレなど。「作業区画」は、機械室やボイラー室、発電機室などの機関に関わる部屋や、操だを行う艦橋、操縦室、通信室などがある。

 艦の中枢、戦闘指揮所(CIC:Combat Information Center)では、レーダーやソナー、通信内容などがコンソール上に表示され、艦艇の任務に必要なあらゆる情報が集約されている。戦闘や操艦に関係しないところでは、調理室などは作業区画に分類され、倉庫や弾薬庫、ヘリコプターの格納庫、砲塔、通路などはまとめて「そのほかの区画」に分類されている。

艦艇の命名は国ごとに違う

 艦艇の命名方法は、各国ごとに異なる。海自の場合は艦種によって旧国名や地方の名(いずも、かが)、山や河川の名前(きりしま、もがみ)、海象(うずしお)などから命名される。これは、1960年の「海自の使用する船舶の区分等及び名称等を付与する標準を定める訓令」によって定められている。

 一方、海外では艦艇の命名ルールを明文化している国は少ない。都市名や山・川など自然地形の名前のほか、国王や大統領の名前、名誉ある軍人の名前など個人名が付けられることも多い。そのほか、駆逐艦や潜水艦などは単に記号+数字で呼称している国もある。表では、各国の命名パターンや具体例を示しておく。

艦艇は同じ設計で複数建造が基本

中国人民解放軍海軍のフリゲート『ジャンウェイ(江衛)II』級。同型艦が8隻配備されていることがわかっている 写真提供/防衛省

 艦艇は、同じ設計のもと複数隻が建造されることが多い。これは、主に製造効率や費用効率を上げるのが理由。同じ設計で最初に作られた艦を「ネームシップ」、もしくは「1番艦」と呼び、その艦名が「型式名」となる。

 それ以降に建造された艦艇を2番艦、3番艦……と呼ぶのである。例えば『こんごう』型の場合、1番艦が『こんごう』、『こんごう』型2番艦『きりしま』、『こんごう』型3番艦『みょうこう』と続く。外国軍の艦艇の「~級」と海自の「~型」は同じ意味で用いられる。

独特な船体は荒波でも安定させるため

アメリカ海軍の高速輸送船『スウィフト』。2003年に建造し、最大速力は45ノット以上といわれ、スマトラ島沖地震の救援にも携わった 出典/U.S. Navy

 艦艇の中には、2隻の船を甲板でつなげたような形状の「双胴船」方式を採用するものがある。一般的な船体形状よりも安定性が高く、船の大きさに比べて水面下の船体を細長くできることから高速が得やすいことに加え、広い甲板を作れるのもメリット。

海自の音響測定艦『ひびき』。1991年に就役し、呉基地(広島県)を母港とする。仮想敵国が使う潜水艦の音響情報を収集する艦。その運用については極秘とされている 写真提供/防衛省

 アメリカ海軍の高速輸送船『スウィフト』や、海自の音響測定艦『ひびき』、民間船舶では、かつて海洋研究開発機構(注4)が運用していた海洋調査船『かいよう』などが双胴船だ。『ひびき』や『かいよう』といった調査を主目的とした艦船の場合、調査機器の使用にあたって、波浪に強く安定性が高いことが求められたため、双胴船構造が採用されたとされている。

(注4)調査船を用いて海洋などを観測・研究する組織。2004年に設立され、15年に「国立研究開発法人海洋研究開発機構」に名称が変更された

高性能な迎撃システムを搭載したイージス艦

ミサイルを発射する海上自衛隊のイージス艦。マストの下に六角形の高性能レーダー(破線部)が設置されている 写真提供/防衛省

「イージス」とは、ギリシャ神話の神ゼウスが娘であるアテナイに与えた悪を払いのけるといわれる「盾」のこと。

 その名を冠したイージス艦には、アメリカ海軍が開発した艦艇搭載の防空システムが搭載されている。高性能レーダー、コンピューター、対空ミサイルによって構成され、多数の標的を捜索、探知、追跡し、目標の分析や攻撃まで一連の動作を自動的に行うことができる。システムを搭載した艦艇から数百キロ離れていても、100以上もの目標を同時に追跡でき、同時に多数の目標を攻撃できる「鉄壁の防空システム」である。

 アメリカ海軍の艦艇のほか、護衛艦『こんごう』以降、日本の護衛艦の一部にも搭載され、弾道ミサイルの監視・迎撃にも用いられる。2024年現在、海自は8隻のイージス艦を保有し、加えて弾道ミサイル防衛を目的とした2隻の「イージス・システム搭載艦」を建造する計画である。

船舶用語の基礎知識

 艦艇を知るうえで押さえておきたいのが民間船舶にも共通する用語だ。基本的な用語をいくつか解説しよう。

【深さ】

船の大きさを表す数値で、船体の一番下から上甲板までの垂直距離を表す。

【喫水】

 船が浮いている状態で、船体の水面が来る位置を喫水線と呼び、船底から喫水線までの距離を喫水という。

【トン数】

 船の大きさを示す指標「トン」。艦艇に使われるのは、船を浮かべた際、押しのけた水の重さをいう「排水トン数」。また、主に客船や漁船に用いられる「総トン数」は船の上部構造物から船体まで全ての容積を表し、トンといっても重量を表す単位ではない。

【ノット】

 船舶や航空機の速度を表す単位。指標となる島や大陸がない広い海の上では、緯度と経度を用いて現在地を把握する。そのため速度を表す単位も、緯度と経度に由来。地球上の緯度1分にあたる長さ(1海里)を1時間で航行する速度が1ノットだ。

【国際信号旗】

 18世紀ごろにイギリスで考案され、1857年に世界共通の「国際信号書」としてルールが整備された、海上において船同士が交信するのにマストに掲げる旗。

 文字や数字を表す旗、代表旗、回答旗の種類がある。文字旗はアルファベットを表現する以外に、1枚だけでも特定の意味を表す(例:O「人が海に落ちた」、V「私は援助が欲しい」)。また、2枚、3枚使って特定の意味を表すこともできる。

(MAMOR2025年3月号)

知っておきたい国守る船の基礎知識

※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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