「NHK ONE」騒動で露見した《公共放送》が抱える矛盾、NHKに再び質問を送ってみたら回答書が"ツッコミどころ満載"だった

2025/10/15 12:35
NHK ONE おわび
スタート当日、NHKが公表した「NHK ONE アカウント」の一部不具合に関するおわび。SNS上では困惑する声が多く聞かれたが、11月中旬以降に再び同様の事態が起こりかねない(写真:編集部撮影)
目次

10月1日に鳴り物入りでスタートしたNHKの新たなネットサービス「NHK ONE」。開始直後にGmailなど一部のメールアドレスでアカウントが登録できずに困っていたら、登録しなくても利用できたことは10月3日の配信記事(SNSでは「どんだけポンコツなん?」と怒り心頭、新サービス《NHK ONE》がスタート当日に生み出した阿鼻叫喚の"意外すぎる顛末")で紹介した。

その後、さすがに「登録できない」との声は聞こえなくなったが、いろいろと別の疑問が新たに湧いてきた。今回はこれらについて論じてみたい。

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前回と微妙に異なる「登録のお願い」

その後も私はアカウント登録せずに「NHK ONE」を利用しているが、テレビで「NHKプラス」のアプリを開くと、次のような表示が画面の右半分に出てきた。

登録のお願い
筆者のテレビ画面に再び表示された「登録のお願い」(写真:筆者撮影)

前にも出てきた「登録のお願い」だが、よく見ると少し違う。前回の記事でも画像をお見せしたが、以前は「次へ」「ログイン」と並んでいたボタンが、今回は「登録に進む」「ログイン」に変わっていた。

前回は「次へ」を押すとそのまま利用できたのだが、いよいよ登録しないと利用できなくなったかと思った。ところがよくよく見ると、下のほうに「あとで登録する」と、ボタンの枠もなしに小さく表示されている。これを押すと、結局は登録せずに利用できた。

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【なぜ「不可解な変更」を施したのか】

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不可解な変更に当惑した。登録しないとダメならダメでいい。受信料を払ってないと利用できないはずだから、登録せずに使えたことがおかしかったのだ。

だが、「あとで登録する」の選択肢を残している。しかも、「どうか気づきませんように」と祈るかのように、よく見ないと気づかない位置と大きさにしてある。なぜだろうか。この疑問は、これから説明する「2回目の回答書」を読むと、「こういうことかな」と思い至る。

前回の記事で、NHKの広報局にメールで質問したら回答書を返してくれたことを書いた。それを読むと新たな疑問が出てきたので、再度質問をしたところ、10月9日に新たな回答書が届いた。

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回答書でも拭い切れない「あやふやさ」

質問は3つあったのだが、先に質問2「登録しなくても利用できるなら、フリーライドをどう抑止するのか」への回答から見ていこう。

NHKからの回答書②
フリーライドに関する質問と、それに対するNHKの回答(画像:筆者提供)

回答書には「受信契約の登録・連携を行っていないお客様に対しては、NHK ONE のウエブサイトや各アプリをご利用の際に、『NHK ONE アカウント』の作成や受信契約情報の登録・連携を勧奨するメッセージを、画面の上にかぶせる形で表示します」とある。

この「勧奨するメッセージ」が、前述した私のテレビに出てきた表示を指しているかはわからない。だが、確かに「画面の上にかぶせる形」だった。とはいえ、前述のとおり、「あとで登録」が小さいけれど表示されるのだから、フリーライド(タダ乗り)抑止にならないのではないか。

フリーライダーは「なんとか契約せずに見たい」と考えるだろうから、「あとで登録」が示される限り「抑止」はできないと思う。

このあやふやさは、この回答の前半に表れている。最初に「NHK ONE は、どなたでもご利用できるサービスです」と書かれている。それに続いて、「受信契約を締結されていない方が利用された場合は、ご契約の手続きが必要になります。サブスクとは異なり、契約をした方だけが利用できるサービスではありません」とある。

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【まるで“禅問答”…】

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まるで禅問答ではないか。「誰でも」と言いつつ「契約が必要」とも言い、「契約者だけが利用できるものではない」と言うのは、立て続けに矛盾している。

これは実は、これまでNHKが説明してきた「公共放送」のあり方にも存在していた矛盾である。

テレビを買えば、誰でも利用できる――。それが公共的役割を担う放送局のあり方だ。だが、受像機を購入した人はNHKとの受信料契約が必要になる。公共放送は受信料で成り立っているからだ。

だったら「誰でも利用できるとか言うな」と言いたくなるが、受信料契約がないと見られないと言ってしまうと「有料放送」になってしまう。WOWOWなどと同じポジションになってしまい、公共放送ではなくなる。論理の袋小路に入り込んでしまうこの矛盾を、もともとNHKは抱えていた。

だが、インターネット登場以前のテレビは99%近くの世帯普及率を誇り、チャンネル数は多くても6つや7つ。NHKを見ないとは言えない状況下でなんとかこらえきれていた矛盾でしかなく、ネットが普及した2000年代に“ほころび”が生じていた。それがネット配信も放送と同じ「必須業務」になったことで、矛盾がはっきりと露呈してしまっているのだ。

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見直されるべきだった「公共放送」の定義

これまでの「NHKプラス」は、受信料契約者だけが利用できた。そのため、ネットサービスなのにわざわざハガキを出すという奇妙な手続きが必要だった。

だが、晴れて必須業務化された今、放送と同じように「誰でも利用できる」状況を作らねばならない、ということだろう。だから、小さいけれど「あとで登録」の選択肢を消せない。回答の最初に「どなたでも利用できる」とわざわざ書いて、矛盾した説明をせざるをえない。矛盾しているので、どう説明しても破綻してしまうのだ。

NHKはネット配信を必須業務化する前に、これまで矛盾をごまかしていた「公共放送」の定義を見直すべきだった。だが、それを後回しにした結果、謎の論理でサービスを整え、フリーライドの余地を消したいのに残さないわけにはいかなくなっている。

回答書のほかの質問の回答も紹介しておこう。

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【1番目の質問は?】

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1つ目の質問は「登録するとどんなメリットがあるか」というものだ。これに対するNHK側の回答は「家族それぞれのプロファイルを作成でき、それぞれの好みの番組を『マイリスト』に登録でき、デバイス連携もできる」という内容だった。

回答書①
登録に関する質問と、それに対するNHKの回答(画像:筆者提供)

うちの子どもたちはNHKはおろかテレビ放送を見ないし、私と妻は見るべき番組を録画しているので、リストは不要だ。「NHKプラス」はもっぱらテレビ受像機で使うので、デバイス連携もいらない。登録するメリットは私には不要なものばかりだった。

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11月中旬以降に受信契約情報の登録が必要に

回答にはそれに続いて、また謎の記述があった。

「受信契約をオンライン上で確認させていただくためのシステムを11月中旬以降に導入する予定です。その際、現在お願いしている『NHK ONE アカウント』の登録に加えて、『受信契約情報の登録』をお願いしていきます。『NHK ONE アカウント』と受信契約情報を連携する(紐づけていただく)ことで、受信契約の確認を行います」

アカウント登録で終わりではなく、「受信契約情報」も登録せよと書いてある。何回登録させるのか。しかも、アカウントと契約情報を紐づけるのは利用者側の作業らしい。いい加減にしろと言いたい。

私はアカウント登録を先延ばしにしてはいるが、受信料契約の確認は旧アプリを使う際にハガキで済んでいたはずだ。アカウントを登録すれば受信料契約も確認されるのが、あるべき姿ではないのか。

何のためにスタート前から「登録、登録」と急かしていたのか。11月中旬以降に受信料契約を確認するというなら、それと併せてアカウント登録する流れでよかったのではないか。

前回の記事でも書いたが、NHKはつくづく「簡単なことを難しく考える」組織だ。11月中旬以降の受信契約登録でも、トラブルが起きてSNSが阿鼻叫喚で覆われるに違いない。私は、そのときになってアカウント登録と一緒に済ませようと思う。

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【そして最後の質問は…】

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3つ目の質問は「契約しなくても『NHK ONE』が使えると、業界団体が怒らないか」というものだ。

NHKのネット必須業務化を議論する総務省の有識者会議では、NHKのテキストニュースが無料で読めることに日本新聞協会や日本民間放送連盟が執拗に異議を唱え、契約者以外にはアリも漏らさぬようにせよと猛烈に意見していた。今の状態ではまた怒られるのではないか。

回答書③
民業圧迫の懸念に関する質問と、それに対するNHKの回答(画像:筆者提供)

これに対しては「NHKでは、NHKのインターネットのサービスが他の事業者のサービスの公正な競争の確保に支障がないか、調査を行っています。調査結果は有識者や日本新聞協会メディア開発委員会、日本民間放送連盟にもお示しし、総務省における関係者の会議でもご意見をいただいているところです」とのことだ。

「問題ありませんでした」ということではなく、「ご意見をいただいているところ」だという。どうなることやら……。私の目から見ると、フリーライダーなら読み放題・見放題なので、異論反論が洪水のように押し寄せそうだ。

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キーパーソンの退局で「NHK ONE」はどうなる?

ここでちょっと気になるのは、必須業務化にあたり放送法の解釈などの理論をリードし、一方で業界団体との折衝でも表に立っていたと言われる人物が、昨年12月に奇妙な咎(とが)を受けて失脚し、年が明けてからNHKを退局していることだ。

こんな事件が起きるのもNHKが「伏魔殿」と言われるゆえんだが、NHKは今後も、各業界団体とネットサービスが適正かどうかを折衝していく必要がある。大丈夫なのだろうか。

いずれにせよ、「公共放送」の矛盾をはらんだまま「NHK ONE」は船出した。この矛盾が解消するかどうか、引き続きウォッチしていきたい。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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