第2回「友梨はよ帰ってこい」自分だけ進む時間、最後に手を振った幼なじみ
2003年5月20日、大阪府熊取町に住む当時9歳だった吉川友梨さんが、遠足からの下校途中に行方不明になった。事件から20年が経つのを前に、1人で歩いていた友梨さんと最後にすれ違った同級生に話を聞き、当時の状況や友梨さんへの思いを語ってもらった。
◇
自転車で緩い坂道を下りると、幼なじみの姿が見えた。男性は友人の家に遊びに行く途中だった。
「遅いなー。バイバイ」
すれ違いざまに、声をかけた。
「バイバイ」
小さく手を振って、そう返してくれた。
いつもと変わらない、日常の風景。ただ、一生忘れられない記憶になった。
2003年5月20日午後2時59分ごろのこと。これを最後に、幼なじみの吉川友梨さんの目撃情報は途絶えた。
【地図で当時の状況解説】忽然 吉川友梨さんを捜しています
吉川友梨さんが行方不明になった現場周辺地図や目撃証言などから、当時の状況や犯人につながる情報を振り返ります。
何度も夢に出た最後の「バイバイ」
友梨さんとは同じ保育園、同じ小学校で、家族のような存在だった。
公園で遊んだ日のことをよく覚えている。靴を遠くに飛ばす遊びで、友梨さんは誰よりも遠くに飛ばそうと体をいっぱいに動かした。手の届かない背の高い遊具にも、何とかぶら下がろうとした。
学校ではおとなしかったが、男性には負けん気の強い一面を見せていた。
友梨さんが帰宅していないことを知ったのは、あの日の夜だ。電話を終えた家族から聞かれた。
「今日、友梨ちゃんと遊んでへん? 家に帰ってきてへんのやって」
消防団員の父が、探しに出かけたことまでは覚えている。だが、そこからの記憶はあいまいだ。
大人たちが慌ただしく動き回っていた。警察からは「ユウカイ」だの、「ジケン」だの、聞き慣れない言葉で何度も話を聞かれた。
友梨さんがいなくなった。しばらく、その実感がわかなかった。
数日後だったか、数カ月後だったか。「あ、ほんまにおれへんのや」と気がついた。その日を境に「頭の中の大事なものが崩れた感覚」になった。
毎晩、父親に抱きつき、疲れ果てて眠りに落ちるまで、泣き明かした。
何度も夢に出た。あの「バイバイ」の場面だ。
友梨さんが手を振る。いつもそこで目が覚めた。
夢で会えるのはうれしい。だけど、目覚めは最悪だった。
【地図で当時の状況解説】忽然 吉川友梨さんを捜しています
吉川友梨さんが行方不明になった現場周辺地図や目撃証言などから、当時の状況や犯人につながる情報を振り返ります。
少しずつ薄れる記憶
なんで一緒に帰らなかったんやろう。
家まで送ったろうか、ってなんで声をかけなかったんやろう。
後悔が次々に襲った。
18歳で父を亡くし、地元を出た。大工の仕事に就き、2年前に1歳下の女性と結婚した。
今年、30歳になる。自分だけ、時が進んでいる。そう思うと、やるせない思いが募ってくる。
友梨さんは小学生のあどけない姿のままで、止まっている。忘れたくない。その気持ちは誰よりも強いのに、少しずつ記憶は薄れる。声を思い出したくても、なぜか、思い出せない。
友梨さんに妻を紹介し、3人でたくさん遊びに出かけたい。
はよ帰ってこい。
◇
大阪府警は友梨さんが何者かに連れ去られたとみて、泉佐野署に捜査本部を設置。延べ10万人以上の捜査員を投入し、現場付近で目撃された白のトヨタクラウンとみられる不審な車の行方などを捜査してきたが、有力な手がかりはつかめていない。
警察庁は有力な情報提供者に上限300万円を支払う「捜査特別報奨金」の対象に指定。府警捜査本部(072・464・1234)は情報提供を求めている。
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