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『キン肉マン』『彼岸島』も!? 小中高生のマンガ貸出ランキングの意外すぎる結果

飯田一史ライター、出版ジャーナリスト
白河市立図書館内のコミック棚。写真提供:白河市立図書館〜りぶらん〜

市立図書館としては異例の3万冊を超えるコミックを所蔵する福島県白河市立図書館「りぶらん」が、7歳~18歳の利用者のコミック貸出冊数が多いタイトルを集計した。

白河市立図書館全4館において2024年4月1日から2025年3月31日までの貸出利用者数142,663人、コミック資料の貸出点数172,413点のなかから、7歳から3歳区切りで設定した年齢別の利用を示したものだ。

小中高生が実際読んでいる「書籍」については全国学校図書館協議会「学校読書調査」やトーハンのサイト上の「朝の読書で読まれた本」で確認できるが、実は「マンガ」に関してはどんなタイトルを読んでいるのかに関する調査がない。

買って読むマンガとはまた傾向が違う可能性はあるものの、「図書館で借りたマンガ」に関する貴重な資料から見える小中高生のマンガ読書の傾向について、同館でコミックなどを担当する司書の鹿内祐樹氏に訊いた。

(本稿では日本のマンガだけを指す場合は「マンガ」、外国のコミックも含む場合は「コミック」と表記する)

■学習マンガは除外して集計している

――先にいくつか確認したいのですが、ここにはいわゆる学習マンガは入っていない?

鹿内 『日本の歴史』などの学習マンガは「マンガの棚」には置いていないため、この統計には入っていません。

――ということは、学習マンガ以外にもマンガ棚にないマンガもある?

鹿内 はい。たとえば最近、「グラフィック・メディスン」という言葉がありますが、個人の経験を描いた医療系のコミックエッセイですとか、特定のテーマに特化したコミックは各分野の一般書の書架に並べるような運用をしています。

――なるほど。たとえば不登校や発達障害をテーマにしたコミックエッセイなどは、マンガ棚で探す人よりも、テーマや分類で探す人のほうが多いでしょうしね。

鹿内 はい、なるべく利用者の目線に立って配架できればと考えています。一般書と同じ棚、分類に置くほうが利用者にとっても便利なようです。特定の病気の闘病記、公的扶助に関する解説や体験談、科学や数学から将棋、パチンコまで、「テーマ」で組み合わせて文字の本とマンガをいっしょに借りて行かれる方は多いです。そのテーマの導入的な内容や全体像をつかむために非常にすぐれたマンガは少なくありませんから。図書館での企画展示でも、一般書とコミックを絡めることで視覚的にも興味をもっていただきやすくなるという実感もあります。

一般書が並ぶ棚にそのテーマのコミックエッセイなども並んでいる。写真提供:白河市立図書館〜りぶらん〜
一般書が並ぶ棚にそのテーマのコミックエッセイなども並んでいる。写真提供:白河市立図書館〜りぶらん〜

――このリストにマンガ雑誌は入っていませんが、雑誌も蔵書しているのでしょうか。

鹿内 今は「コロコロコミック」「週刊少年ジャンプ」「ちゃお」「別冊マーガレット」「ビッグコミック」「コロコロイチバン!」「りぼん」くらいですが、あります。一時期もう少し増やしてみたのですが、動きがそれほどでもなかったんですね。ただ雑誌の場合は館外貸出よりも最新号を館内で利用される方が多いため、貸出冊数で判断していいものか、わからない部分もあります。

以前、図書館をテーマにした講談社のマンガ『税金で買った本』の担当編集者さんとお話した際に「図書館でマンガ雑誌を扱うことについてどう思われますか」とお尋ねしたら「雑誌は掲載しているマンガを宣伝する宣伝のための媒体だと思っているので、どんどん入れてください」とおっしゃっていましたから、もう少し検討してもいいのかなとも思っています。

■7~9歳 「図書館で初めてマンガを読んだ」と言う子もいる

――リストを7~9歳から順に見ていきたいのですが、男子はほぼギャグマンガ、コロコロコミック作品ですね。『土竜の唄』は……内容的に考えると保護者のお父さんが自分用に借りているのでは?

鹿内 そうかもなと思いつつ、判断がつかないところもあり、一応入れさせていただきました。

――小学生がエッチなマンガに触れないようにするといったマンガを貸し出す際のレイティングなどは設定されているのでしょうか。

鹿内 もちろん、配慮が必要だという認識はあります。選書段階で成人向けは弾き、書庫を活用して内容によっては閉架では子どもの目に入らないようにする、といった工夫はしています。ただ、きちんとした基準の策定は今後の課題です。

――女子のほうが小1~小3(7~9歳)時点で人気タイトルだけ見てもミステリー(『名探偵コナン』)、ホラー(『絶叫学級転生』)、ギャグ(『スーパーマリオくん』)など、ジャンルがばらけていますね。ストーリー性が高い『ONE PIECE』のようなマンガも入っています。

鹿内 総貸出回数も女子の方が多いですし、タイトルを見ても文字が多めの作品も読んでいる傾向があります。

 小学生は男女問わず「コロコロ」、小学館のマンガがすごく人気ですね。『デュエル・マスターズ』(いわゆる「無印デュエマ」)が男女問わず人気で、かなり来ています。『ポケットモンスターSPECIAL』もそうですね。

――先ほど学習マンガは入れていないとのことでしたが、『サバイバル』シリーズと「コロコロ」の作品だとどちらが人気なのでしょうか。

鹿内 『サバイバル』に関しては集計していないので正確なところは言えませんが、つねにかなりのタイトルが貸し出し中のイメージがあります。「コロコロ」連載マンガのコミックスのほうが白河市立図書館の資料点数的には倍以上ありますから、一冊あたりの回転数で見ると『サバイバル』のほうが借りられているかもしれません。どちらも人気ですけれども。

――昔は子どもが自分のおこづかいでマンガ雑誌を買うのが当たり前でしたが、今は書店も減り、その常識も消えつつあります。図書館で初めてマンガに出会う子もいる印象ですか?

鹿内 それはありますね。私も小さいころは地元書店でマンガ雑誌を立ち読みして、そこからいろいろな作品と出会っていましたが、「ネットに移行する」といっても小さい子はなかなか自分からはアクセスできませんよね。

マンガの棚ではなく児童コーナーにお願いして「マンガも読書」というミニ展示をしてもらったら「初めてマンガを読んだ!」という子もいましたし、「図書館でしかマンガを読んだことがない」と話す子もたまにいます。

■10~12歳 完結済みの過去作品も、映像化の後押しなしでも読まれる

――続いて10~12歳(小4~小6)ですが、男女いずれも『コナン』がトップですね。女子では2024年に放送されたTVアニメの影響からか『らんま1/2』が入り、『かぐや様は告らせたい』もあり、必ずしも恋愛メインの作品ではないですが思春期入り口の心理を掘り下げた『12歳。』も入るなど、女子のほうが先に恋愛にも関心が芽生えているのかなという印象があります。

少し気になるのは、全年齢を通じて、完結してしばらく経つ作品もかなり入っていますよね?

鹿内 そうですね。連載が終わったマンガも根強い人気があります。『トリコ』(7-9男)、『NARUTO』(10-12男、13-15男)、『ウソツキ!ゴクオーくん』(7-9男、10-12男)などがそうです。完結したと言っても、内容は古くなっていないのかもしれません。

それと実は、利用者のコミック貸出ではもっとも多いボリュームゾーンが30~40代でして、現在連載中の人気作品は大人に先に借りられてしまっているから子どもたちに借りられていない、目に付いていない可能性もあります。『らんま』のようにアニメ化した作品は貸出が増えますが、映像化の影響は大人にも及ぶこともあり、子どもの貸出とバッティングして利用者の年齢が分散します。

その分、過去のおもしろかった作品の貸出のほうが、むしろ年齢別で傾向がくっきりと出て、上位に目立つのかもしれません。

――なるほど。仮に50巻ある人気シリーズが10代~50代の各年代に10巻ずつ各1回借りられたらトータルの貸出冊数は50冊、そのうち10代の貸出冊数は10冊になるけれども、旧作で10代にだけ人気の作品があって30冊借りられたら、そちらのほうがこのランキングでは上位に来るわけですもんね。

鹿内 そうなんです。それと私たちの取り組みとして、市の健康増進課と連携し、同課が実施する「わたしの推し本コンテスト」の集計結果に基づく展示やポップを出しています。また、館内の展示で「おしくじ」というおみくじ形式で、誰かの推し本にランダムで出会える取組みを実施しています。こうした取り組みを通じて、旧作も含め「こういう作品があるよ」と掲示をして物理的に目に入るようにしています。

旧作でも人気のあった作品は巻数も多く、図書館の棚のなかでも幅を取っていて目立ちますから、そこから気になって表紙を見てパラパラとめくって「借りよう」という流れも多いと思います。

■13-15歳 マンガから一般書に読書を広げる子も

――13-15歳になると『MAJOR』や『ダイヤのA』『ハイキュー!!』といったスポーツマンガが顔を出します。

少し意外でもあり、今はそうなのかなとも思ったのが「恋愛をメインにした少女マンガ」が『黒崎くんの言いなりになんてならない』『薫る花は凜と咲く』しかないんですよね。「少年誌」や「青年誌」掲載の「ラブコメ」まで含めればもう少しありますが。16-18歳女子でも「恋愛をメインにした少女マンガ」は『初めて恋をした日に読む話』しかありません。

鹿内 そうですね。実は女子では10位より下ではホラーがすごく入っていて、むしろそちらのほうが「流行っているんだな」という感覚があります。

――中学生以上になると異世界ファンタジーも出てきます。男子だと『七つの大罪』、女子だと『終わりのセラフ』。児童書、児童文庫でも今の小学生には異世界ファンタジーはそれほどウケず、現実との接点がなんらかのかたちがあるファンタジーでないとなかなか人気が出づらい傾向があります。鹿内さんのほうでマンガの貸出傾向を見て児童書・YAの貸出傾向との関係について感じるところはありますか。

鹿内 どうでしょう、難しいですね。これも定量的な統計に基づくものではなく窓口で見ていての印象ですが、マンガをたくさん読んでいる子は読書の方向性が拡散、発展、多様化するのが早いのかな、と。私どもの図書館でも十代向けの書籍のコーナーを用意しているのですが、そこをスキップして一般書に行ってしまう印象があります。児童書、YA、一般書という順番を踏んで変化していく感じではない気がします。

■16-18歳 図書館向けのマンガの電子書籍パッケージの充実を!

――16-18歳になると女子は『桃源暗鬼』『ハイキュー!!』『WIND BREAKER』と、いわゆる腐女子人気も高い、かっこいい男性キャラクターが多数登場するタイトルも目立ちます。『桃源暗鬼』はTikTok売れしたことでも知られていますし、『ハイキュー!!』はアニメ映画公開、『WIND BREAKER』はアニメ放映・配信がありましたので、そればかりではないでしょうけれども。

鹿内 BLをリクエストする中高生もいますから、一定数そういう需要もあるのかなと思っています。でも、割合的にはわからないですね。

――男子では青年誌(「ヤングジャンプ」「ヤングマガジン」「スピリッツ」「モーニング」など)のタイトルが出てきます。『嘘喰い』『ウロボロス』『聖☆おにいさん』。女子では『彼岸島48日後…』。『彼岸島』の女子人気は若干ふしぎですが。

鹿内 白河市の女子高生には丸太ネタが通じるんでしょうか(笑)。理由はわからないけれどもなぜか今このタイミングでよく借りられている作品ってあるんですよね。いま19-22歳の集計もしているのですが、女性では『クッキングパパ』がダントツでトップなんです。

――おもしろいですね。

鹿内 背景がわかる方がいらしたら、ぜひ教えていただきたいです。それと、『彼岸島』と関係あるかはわかりませんが、高校生くらいになるとインターネットミームやパロディにされている「元ネタ」を探して追いかけることができるようになる印象があります。「有名な金田のバイクシーンの絵が載っているページが見たい」と言って『AKIRA』を読みたがる子が来たりしますから。

 それから、意外と中高生にもある種の社会派マンガが借りられています。『嘘喰い』のようなギャンブルマンガ、『ウロボロス』のようなダーティな警察もの、ランク外でしたが『闇金ウシジマくん』のように社会の暗部や生々しいお金を描いた作品などにも興味があるのかな、と。

――なんとなくのイメージですが、そういうタイプの青年マンガが好きな子とヒップホップを聴いている子は重なっているのかなという気もします。

鹿内 ヒップホップが好きな子も含めて、図書館にはいろいろな人に来てほしいと思っています。ただ、うちの図書館は立地の関係もあって未成年、とくに中学生までは保護者にクルマで連れて来てもらうことが多いので、それが借りていくタイトルにも影響している可能性もあります。読んでみたいマンガがあっても「親から何か言われるかな」と思って少し遠慮している子もいるのかな、と。

――日本のマンガだけでなく、海外のグラフィックノベルも積極的に所蔵されているそうですね。

鹿内 メビウスなどの作品は定期的に借りられています。海外の著名なコミックの賞、たとえばアイズナー賞受賞作などは作品の中身はすごくいいのですが、そこまでは動かないです。特集展示をしたりすると、大人のほうが興味を持って借りていきますね。子どもたちにとっては日本のマンガと読み方も絵柄も違うこともあり、ガイドしてあげる機会を作らないと、なかなか手に取られないのかなという印象があります。

――マンガ出版社に何か望むことはありますか。

鹿内 電子図書館向けのマンガに積極的になっていただけるとありがたいです。現状ではラインナップ自体を用意していない出版社も少なくありません。「マンガを置くには物理的なハードルがある」と言っている図書館の話も聞きますが、図書館向けのマンガの電子書籍があれば、図書館や利用者が感じている物理的な制限がかなりクリアできますので。

■白河から「図書館でマンガを読んでマンガ家になった」人を生み出したい

――最後に、利用者や図書館業界、出版業界へのメッセージと、今後取り組んでいきたいことがあれば教えてください。

鹿内 福島県は全国的に見ると図書館利用が少ない県に入ります。当館は比較的豊富と言われるコミックを持っている図書館ですので、白河市民の方はもちろん、市民でなくても利用登録は可能ですし、県内外の図書館とも相互貸借(図書館同士での資料の貸し借り)を行っておりますので、ぜひご利用いただければと思っています。

図書館業界に対しては、ほかの図書館に参考にしていただけるよう、活発な利用につながる取り組みを行い、知見を共有していきたいと考えています。

マンガ業界、ひいては出版全体に対しても貢献したいなと思っています。小説家の方で「図書館でたくさん本を読んで作家になった」とおっしゃる方がいるように、白河発で「図書館でマンガや本を読んでマンガ家になった」と言ってくださるような作り手が出てきてくれたら担当としては嬉しいですから、その育成に何かしらつながることもしていきたいですね。

写真提供:白河市立図書館〜りぶらん〜
写真提供:白河市立図書館〜りぶらん〜

記事の前編→「全蔵書の1割で貸出の3割!マンガ3万冊蔵書した図書館が語る「おどろき」の利用実態」

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ありがとうございます。
ライター、出版ジャーナリスト

出版社にてカルチャー誌や小説の編集者を経験した後、独立。単著に『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか 知られざる戦後書店抗争史』『「若者の読書離れ」というウソ』(以上、平凡社新書)、『いま、子どもの本が売れる理由』(筑摩選書)、『ウェブ小説30年史』『マンガ雑誌は死んだ。で、どうするの?』(以上、星海社新書)など。インプレス総合研究所『電子書籍ビジネス調査報告書』共著者。JPIC読書アドバイザー養成講座講師、電子出版制作・流通協議会「電流協アワード」選考委員。青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒、グロービス経営大学院経営学修士(MBA)。ichiiida@gmail.com

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