しかし残ったもう1万冊は、古本屋に持って行っても買い手がつかないどころか、引き取りすら拒否される始末。最後は処分業者に頼んで、「産業廃棄物」として持って行ってもらうしかないんです。だいたい2万冊くらいを手放して、あとは紀田先生に倣い、マンションの書斎に500冊だけ置いています。
あくまでも個人的な趣味とはいえ、中には日本に1冊しかないかもしれない貴重な本もありました。ところが公共の図書館でも引き受けてもらえない。大して意味のないハコモノを建てるくらいなら、文化を遺すことに予算をつけてほしいですね。
思えば戦前の人のほうが、文化を大切にする気概はあったのかもしれません。戦時中に日比谷図書館の館長を務めた中田邦造は1944年、空襲から貴重な本を守るために、都内のコレクターから蔵書を買い上げて、約40万冊を荷車で埼玉などの農家に「疎開」させたそうです。そんなバイタリティ、いまや誰も持ち合わせていないでしょう。