約2万冊の大半が「ゴミ」に…知の怪人・荒俣宏が蔵書を処分して感じたこと

精神的な「死」を迎えて

作家で妖怪学者の荒俣宏さん(78歳)は、日本有数の奇書の蒐集家としても知られる。『帝都物語』などのヒット作を世に出しながら、世界中の幻想文学の翻訳を手がけ、『トリビアの泉』『出没!アド街ック天国』などのテレビ番組では、博識な解説役として活躍してきた。

今年3月には『すぐ役に立つものは すぐ役に立たなくなる』を上梓した「知の怪人」がいま、肉体的、そして精神的な「死」を見つめているという。

撮影:岡田康且
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2万冊の蔵書を整理する決意

今年の7月、30年住んだ戸建てを手放して、妻と2人でマンションの一室に引っ越したんです。不動産の売買自体はうまくいったのですが、何より大変だったのは、2万冊の蔵書を処分しなければならないことでした。

手元に残したのは、本棚3つに収まる500冊だけ。僕が70年以上かけて蒐集した貴重な稀覯本ですら、「ゴミ」になってしまいました。トラックで運ばれていくのを見送りながら、心が引き裂かれるような思いでしたね。

昨年の12月、生死の境を彷徨ったんです。江戸川放水路にハゼ釣りに行ったとき、ボートから落ちてできた傷口に雑菌が入ったようで、蜂窩織炎を患ってしまった。3週間ほど入院したのですが、体は痛いし思うように動かないし、「もう駄目だ」と最期を覚悟したくらいです。

幸い回復できたものの、いつまた突然の事故が起きるかわからない。「これは真剣に身辺整理しておかなければならない」と思いました。2万冊の蔵書をそのままにして逝ったら、遺された側は途方に暮れてしまう。妻に苦労をかける前に腹を括ったんです。

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