ブルーアーカイブ/灰の翼   作:空素(鴉ノ刃)

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あらすじ

レイヴンによる風紀委員会蹂躙
アコちゃん涙目
ヒナちゃん登場

お陰様で50話を突破しました

今後も細やかな皆さんの楽しみを提供できればと思います


EP-49 悪魔との契約

私の眼前に降り立った豊かな白髪の少女は、ただならぬ気配を纏い、私の行手を遮る。

 

頭部からは無数の黒いねじれた角が伸び、ヘイローもまた、黒と紫に彩られて刺々しく何処か禍々しい。

 

私は、彼女が何者であるか、すぐに理解した。

 

彼女は間違いなく──。

 

「い、委員長…」

 

背後の天雨アコが、彼女の役職名を呼ぶ。

 

ゲヘナ学園、風紀委員長、《空崎ヒナ》。

 

私自身、その名前は目にしたことがあった。

 

キヴォトスの主要組織と学園を調べた時に、ゲヘナ学園の学区内に於ける治安維持組織である風紀委員会、その長であり、代名詞とも言える人物。

 

私が事前に調べた情報では、

 

曰く、キヴォトス最強の存在。

 

曰く、ゲヘナ風紀委員会の八割の戦力を一人で担う者。

 

曰く、実質的ゲヘナを統べる魔王。

 

などなど、何処までが事実で、何処からが尾ヒレなのか定かではないが、確実に言えることは彼女がキヴォトスに於いて、類稀なる強者の一角であると言うこと。

 

それは面と向かい、視線を交わす今も、ひしひしと感じている。

 

「アコ、あなたの言い分は後で聞く。今は部屋で謹慎していなさい」

 

私から視線を外さないまま、空崎ヒナは天雨アコに指示──命令を下す。

 

「…ですが、ヒナ委員長…!」

 

尚も食い下がる天雨アコに、空崎ヒナはジロリと視線を向ける。

 

「アコ、二度は言わない」

 

「…っ!分かり、ました…」

 

背後から天雨アコの気配が消える。

 

改めて、空崎ヒナは溜め息を吐き、私に顔を向ける。

 

「見苦しいところを見せたわね、レイヴン。いえ、ここはお互い公平に、渡鳥イヴ、と呼ぶべきかしら?」

 

どうやら、向こうも私の情報はそれなりに掴んでいるらしい。

 

「好きなように呼んでくれて構わない。それで、要件は?」

 

彼女が姿を現したのは、天雨アコを撤退させる為だけではないだろう。

 

「…今回、私の部下が随分と迷惑をかけたようね。事態は凡そ、把握している。ウチの行政官が部隊を引き連れて、あなた達を強襲、あなた達はそれに応戦する形で大規模戦闘になった。そんなところか。幾ら学区内からは外れたブラックマーケット市街地内とは言え、許されることではないのは分かっている」

「先に手を出したのはこちら──だけど、そこにどんな思惑があったにせよ、あなた達が風紀委員会の公務を妨害したのは客観的事実。その上、そちらなりに事情はあるのでしょうけど、過剰防衛に等しい逸脱した戦闘行為。そちらにも非はあるんじゃない?」

 

なるほど。

そう来たか。

これは痛いところを突かれた。

 

私は、天雨アコに、部下の暴走による報復の危険性を提示したが、所詮、そんなものは私個人の主観的な意見に他ならない。

 

「あなたのお蔭で、こちらは明日からの業務も儘ならないレベルの損害を負った。それについても、あなたには、それを賠償する責任があると思うのだけれど?」

 

どうやら、ルビコンに於ける傭兵活動の徹底振りが裏目に出てしまったようだ。

 

今後はある程度、自重する必要があるだろう。

 

「……それで、何が望み?」

 

彼女が何を言いたいのか、何を求めているのか、何となく理解した。

自身の側の非を認め、その上で、こちらの非を突き付け、対等な立場にする。

彼女は恐らく、私との会話──対談を望んでいる。

 

「話が早くて助かる。さすが、シャーレ専属傭兵と自称するだけはある」

 

無表情だった彼女の顔に、僅かな笑みが浮かび上がる。

 

「私は、あなたと取引がしたい。出来れば、シャーレの先生…それと、今回巻き込んだアビドスの生徒と、まあついでに、便利屋の連中も含めて、ね」

 

今回の出来事の収拾は、さすがに私一人では決めかねる、か。

せめて、それぞれの立場から一人ずつは会談の席に着かせるべきだろう。

 

「……分かった。それなら、案内しよう」

 

私は“真紅の火”を解き、空崎ヒナに背を向けて着いて来るように促す。

 

「お願いするわ」

 

私達は今立っている建物から移動し、先程、セリカ達がいた場所に向かった。

 

そこには、私の今回の協力者達が勢揃いしていた。

 

「レイヴン!やったのね!?」

 

真っ先に駆け寄って来たのはセリカだった。

 

「さすがですね!レイヴンちゃん!」

 

その後に、ノノミとヒフミ、ホシノと先生が続く。

 

「あうぅ…ほ、本当にやっちゃったんですね…」

 

「いやぁ、さすがだね〜レイヴンちゃんは」

 

シロコは先生の腕の中で眠っていた。

 

どうやら私、彼女にかなり厳しい戦いを強いてしまったようだ。

 

[“お疲れ様、レイヴン。それで、そっちの子は…?”]

 

先生は私の後に付いて来た空崎ヒナに視線を向ける。

 

「あぁ、彼女は──」

 

「ちょっ!?ちょっとレイヴン!なんで此処にヒナがいるの!?と言うか、何で連れて来てるのよ!?」

 

ヒナを見るなり、早々に喚き立てたのは陸八魔だった。

他の便利屋の面々も、穏やかそうな顔はしていない。

鬼方などは、睨み付けるような鋭い視線を向け、パーカーのポケットの銃を握ってる始末だ。

 

「安心しなさい。陸八魔アル、と他の便利屋の者たちも。今の私は、あなた達を捕らえに来た訳じゃない」

 

そこで助け舟、と言うか、戦意がない事を自ら告げたのは空崎本人。

 

それに対し、陸八魔含めた便利屋連中の視線が私に集中する。

 

私はそれを肯定するように首を縦に振る。

 

「えーと、みんなに聞いて欲しいんだけど、今回の事で、私は空崎委員長と取引をする事になった」

 

そこから、私は大まかな経緯をこの場の全員に説明する。

 

「──という訳で、今回は向こうだけじゃなく、こちらにも非があるという事で、私は空崎委員長の取引を受けたいと思った。私がやり過ぎたせいで、みんなを巻き込んでしまって、本当に申し訳なく思う。どうか、理解して協力してはくれないだろうか」

 

私はこの場の全員に頭を下げる。

 

私がやり過ぎなければ、ゲヘナ風紀委員会側の過失だけで、こちら側には非は無かった。

 

「「──何言ってんのよアンタ(あなた)はッ!!!!」」

 

そんな私に怒声を浴びせて来たのは、セリカと陸八魔だった。

 

私はなぜ、自分が怒られているのか分からず、詰め寄って来た二人を呆然と見上げる。

 

「アンタが戦ってくれなきゃ、それこそみんな全滅でどうなってたか分からなかったでしょ!?それに、先生だって奪われてたかもしれないのよ!?」

 

「そもそもあなた自身もターゲットだったって自覚してる!?あなたはもっと周りだけじゃなく、同じくらい自分も大切にしなきゃダメでしょ!?」

 

「う…ぁ…ぇ…っと…」

 

私は二人の迫力に気圧され、言葉を失う。

 

「はいはーい、二人とも落ち着いてねー。イヴちゃん、困ってるからね〜」

 

そんな興奮する二人を私から引き離したのはホシノだった。

 

「アルちゃんドウドウ〜」

 

息を荒げる陸八魔を茶化しながらも諌める浅黄。

 

『せ、セリカちゃんもどうか落ち着いて、ね?』

 

インカムからセリカをアヤネが宥める。

 

[“えーと、それで、私たちと取引したいって話だったけど…”]

 

「…より具体的には、私と渡鳥イヴの取引に際して、立ち会って欲しい、ってところね。あなた達それぞれの言い分もあると思うから」

 

空崎ヒナが先生のセリフに補足する。

 

「なるほど。それなら、それぞれから代表者を選ぶ形になりますかね?」

 

ノノミが分かりやすく纏めてくれる。

 

「それなら、アビドスからは私が出ようか」

 

アビドス対策委員会から立候補したのはホシノだった。

 

「…小鳥遊ホシノ…」

 

空崎ヒナが小さく呟く。

 

「ん?私のこと、知ってるの?」

 

それを耳聡くホシノが反応する。

 

「…少しだけね」

 

空崎ヒナは目を逸らし、端的に返す。

 

「うへぇ〜ひょっとして私って有名人〜?」

 

大袈裟にわざとらしくホシノは照れる仕草をする。

 

「便利屋からは私が出るよ。社長が落ち着きそうにないからね」

 

便利屋68から立候補したのは鬼方。

 

その後ろでは、陸八魔が浅黄と伊草に宥められていた。

 

[“これで、会談の席は揃ったかな”]

 

先生の言う通り、私と空崎ヒナに加え、シャーレの先生、アビドス代表のホシノ、便利屋代表の鬼方が取引の場に揃った。

 

因みに、先生が抱えていたシロコは、ノノミに預けた。

 

その後、それぞれの要求を出し、無難な落とし所を探る。

 

それぞれ、無理難題を要求するようなことはなく、取引はスムーズに進行し、内容が決定した。

 

その内容は、先生がタブレット端末に記録して行く。

 

[“──それじゃあ、内容を纏めると、まず、風紀委員側の要求は、ゲヘナ自治区の治安維持の為にシャーレ及びレイヴンに暴徒鎮圧の依頼を発注し、それを受諾して欲しい、というもの。相応の報酬は出すと言うことで、レイヴンからは異論は無いということで良かったね?”]

 

私は無言で頷く。

空崎の要求は、今回、私の手で壊滅した風紀委員会の代わりに、ゲヘナ学区内の荒くれ者の鎮圧を定期的に依頼させて欲しいというものだった。

向こうは業務が楽になり、また実力も風紀委員会を壊滅させたことで皮肉にも折り紙付き、こちらは、仕事が増えて報酬が貰えると言うことで互いに利益が出る。

また、空崎はこれにより、私が風紀委員会の仕事をこなし、協力し続ければ、私に対しての風紀委員の不満も少しずつ解消されるだろうという見解だ。

それだけ、風紀委員会は普段から治安維持に苦労しているという事だろう。

これで私の要求である、暴動と報復の対策も含まれている。

 

[“それに付随する形で、対策委員会と便利屋68には、レイヴンが依頼を受ける際に、協働相手として事前に申請すればゲヘナ学区内の戦闘行為を許可し、また、その分の報酬も十分なものを約束する。ただし、小鳥遊ホシノに限り、レイヴンとの協働は認めることが出来ない…という事だけど…”]

 

「私は問題ないよ〜。おじさんは年だからね〜若い子に譲るよ〜」

 

ホシノはいつもの調子で、要求を飲む。

ホシノのみ、私との協働を認めない、というのは、ホシノの実力を鑑みての事だった。

私だけでもゲヘナの主要戦力である風紀委員会を壊滅させることができるのに、そこにホシノまで加わってしまえば、ゲヘナそのものが危ういということで、その可能性は万に一つもないことは理解しているが、どうか受け入れて欲しいというのが空崎の要求だった。

ホシノも固執せず、本人が良いなら私も言うことはないということで、空崎の要求は認可された。

 

「私たちもまぁ、レイヴンからの協働依頼であれば問題ないよ」

 

鬼方も異論は無いようだ。

 

[“それじゃあ次は、風紀委員会の賠償について、だけど、まず、レイヴンの要求は、今回の戦闘に関して風紀委員会側からの報復行為の阻止対策の徹底、ということだったけど、これについては先程の業務の協力に加え、より具体的対策として、治療という名目での謹慎、休暇を与え、様子見という措置を取る、という事だったけど、問題ないね”]

 

私も空崎も納得し、頷く。

私が欲したのは、便宜上の建前と責任に対する義務だ。

報復行為の危険性に対して、具体的な対策が無い場合、私自身がその対策を取らざるを得ない。

それが先程の支援部隊の襲撃だ。

だが、向こうで責任を負い、具体的方法を挙げた上で、対策をしてくれるのであれば義務を遂行したということで問題ない。

その後、もし仮に危惧した報復が起こってしまった場合は、その時は報復した本人の自己責任という事になり、その者に罰が課せられる。

言わば、報復の可能性に対して、保険をかけておきたかった。

 

それに、私個人としては報復、復讐も仕方ないという考えだ。

 

殺しているのだから、殺されもするだろう。

 

キヴォトスに於いては、殺しの部分に攻撃が当てはまるが。

 

私個人への報復なら何も問題はない。

力で叩き潰すだけだ。

だが、他の連中が巻き込まれる可能性に対して、念の為の保険を用意しておきたかった。

 

[“それから、風紀委員会への便利屋68の要求は、今後はよっぽどの事がない限り、見かけても見逃して欲しい、ということで、これにも風紀委員会からは、レイヴンへの依頼に定期的に協働するのであれば特に異論はないと言うことで良いね?”]

 

空崎と鬼方が首肯する。

 

これに関しては、私から言えることは少なくが、便利屋はゲヘナで指名手配されているらしく、一応、風紀委員会の捕縛対象ではあるということだが、それを放置して欲しいということだ。

思いの外、あっさりとした要求だとは思うが、それが逆に便利屋68らしい。

 

[“えーと、それで最後、アビドス対策委員会の要求だけど、ホシノ、本当に良いの?()()()()って事だけど…”]

 

そう、ホシノは何も要求しなかった。

 

「うん、良いよ良いよ〜。別にこっちは戦いにはなったけど、そんな損害は…あー、まあシロコちゃんが気絶するくらいボロボロにされちゃったけど良いの!レイヴンちゃんのお仕事を手伝えばお金も貰えるんでしょ?それで十分だって〜まぁ、おじさんは手伝えないけど〜」

 

「…そちらが良いなら、こちらから言うことは何もない。ただ、一応、何か困った事があれば、一回は相談に乗ろう。協力も出来る範囲ですると言うことで」

 

「うんうん、それで全然良いよ〜」

 

以上が、ゲヘナ風紀委員会代表の空崎ヒナとの取引の内容である。

 

以上の纏められた内容は、各々の端末に送られ、後で見返すことが出来る。

 

後は解散、という流れなのだが、その直前。

 

「先生、レイヴン、ちょっと良い?」

 

ホシノと鬼方が離れたタイミングで、空崎が私と先生を引き止める。

 

足を止めた私たちに近付いたヒナは、小声で()()()()を齎す。

 

それだけを言うと、ヒナは風紀委員たちを率いてその場から立ち去った。

 

[“……レイヴン、さっきのヒナのセリフ…”]

 

・・・どうやら、私たちは“連中”に一杯食わされたらしい。

 

最初から、信用など微塵もしていなかったが。

 

やはり企業というものは、何処に行っても同じらしい。

 

「二人とも、どうしたの?」

 

そこに声を掛けて来たのはシロコだった。

 

どうやら、取引の最中に目覚めたらしい。

 

良かった。

 

──そう安堵した私の頬を液体が伝う。

 

「…イヴ?どうしたの…?」

 

そんな私を見たシロコが困惑する。

 

私は頬を拭う。

 

今度は血ではない、正真正銘の透明な涙。

 

「……ううん、何でもない」

 

私は軽く涙を拭ってシロコに微笑み掛ける。

 

──やっぱり、黒い私の言ったことは本当だったらしい。

 

私の新しい“手段”、“真紅の火”。

 

その代償。

 

それは──。

 

『これは、“歯車”とは異なる力だ。お前にこれ以上、“歯車”は回させない。だがこれは、また別の危険──代償を含んでいる。それは──』

 

『──かつての、この地に訪れる以前の記憶を少しずつ失って行く』

 

その言葉を思い出した瞬間、私は平衡感覚を失い、視界が暗転した。

 

意識が消える直前、みんなが私を呼ぶ声が遠く聞こえた。




これにて、ブラックマーケット編、完ッ!!

因みに今回のタイトルは、悪魔との契約、と書いて、ヒナちゃんとのやくそく、と読みます

尚、対策委員会編はまだまだ続く模様…

という訳で次回!
『タイトル未定(タイトル未定という意味)』
でお会いしましょう!!
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