ヒフミ、銀行襲撃に加わる
いよいよ闇銀行襲撃作戦ですが…
何やら様子がおかしい模様…
『ヒフミさんへの説明も兼ねて、改めて作戦の概要を説明します。今回の作戦のオペレーターを務めます、奥空アヤネです。よろしくお願いします。まず、今回の依頼の標的はブラックマーケット闇銀行。目標は襲撃及び制圧となっています。制圧の具体的な内容は、銀行の最上階、及び地下2階の金庫の解放です。また、これには銀行内のマーケットガードの鎮圧も含まれます。ただし、この銀行はブラックマーケットの要所でもある為、襲撃すればブラックマーケット中から他のマーケットガードが集結することが予想されます。こちらも迎撃し、銀行内部の制圧までに耐え切らなくてはいけません。つまり、銀行の中と外、それぞれに人員を割り振る必要があります。その後、制圧が完了次第、前線メンバーは速やかに帰投してください』
『次に、人員の配置についてですが、銀行内制圧班は、対策委員会及び先生とヒフミさんが担当します。先生が一般人を装って入店し、定位置に着いたタイミングで制圧部隊突入、その際の混乱に乗じ、先生は物陰に隠れ、指示を出して下さい。念の為、万が一に備え、先生の身辺警護を兼ねて、周辺にはヒフミさんとノノミさんが待機してください。金庫の解放には、ホシノさん、シロコさん、セリカさんが向かってください。銀行の外で、マーケットガード迎撃に当たるのは、イヴさんとイヴさんが雇ったお手伝いさんということですが──』
「大丈夫。彼女たちの実力は私が担保する。しっかり仕事をこなしてくれる」
因みに、便利屋には、事前に銀行周辺に潜伏して貰い、事が始まってから出て来るように頼んである。
後は簡単だ。
私と共に、マーケットガードを迎撃、撃退するだけ。
『それなら、イヴさんが信じるその方々を信じましょう!それでは、これより作戦開始に移りますが、私たち対策委員会とヒフミさんは、顔がバレると厄介なことになります。と言う訳で──!!』
今、私の目の前には、覆面を被った、それだけで変装した気になっているアビドス対策委員会プラスたい焼きが包まれていた紙袋に覗き穴を開けて数字を書いただけの即席覆面を被ったヒフミの姿があった。
「ん、完璧」
何を見て、何処が完璧なんだろうか…。
「番号も振っておきました!ヒフミちゃんは5番です☆」
穴が空いた紙袋を被ったヒフミは、呆然と立ち尽くしている。
ふと、私に何かを訴えかける様に視線を向けて来た。
そんな目で見ても私は何もできないんだ。
無力で済まない。
私はヒフミの視線から逃れるように目を逸らし、コートの襟を正した。
「見た目はラスボス級じゃない?悪の根源だねー、親分だねー」
ホシノのトドメとなる言葉が突き刺さり、ヒフミはガックリと項垂れる。
「確かに、協力するとは言いましたけど…こんな格好…私、《ティーパーティー》の皆さんに顔向け出来ません…」
《ティーパーティー》──トリニティ学園のトップを務める組織だったか。
これまでのヒフミの言動を踏まえると、もしや、そのメンバーとヒフミは面識があるのか…?
いや、考え過ぎか?
学園のトップと関わりのある生徒をこんな場所に出入りできるような杜撰な管理をするだろうか?
学園のトップと面識がある生徒など、その手の輩からすれば喉から手が出る程に欲する極上の取引材料になり得る。
やはり、あり得ないだろう。
単なる偶然の積み重ねだ。
「問題ないよ!私らは悪くないし、悪いのはあっち!だから襲うの!」
見兼ねたセリカがヒフミを慰め、勇気付ける。
「それじゃあ先生、先に銀行に入って」
シロコが促し、先生は力強く頷く。
[“分かった。それじゃあみんな、また後で。心配はいらないと思うけど、気を付けて”]
そう言い残し、先生は銀行へと向かって歩き出した。
『ふぅ…それでは、行きましょうか』
インカムの向こうで、何やらガサゴソと音が聞こえる。
この様子だと、アヤネも覆面を被ったのだろうか…。
[“こっちはいつでも良いよ”]
タイミングよく、先生からの合図が届く。
『──覆面水着団!出撃です!!』
アヤネの号令と共に、水着の欠片も無い名前詐欺集団は、銀行へと突撃するのだった。
それを確認し、私は携帯端末で便利屋に電話を掛け、呼び出し三回で切る。
3コールが、作戦開始の合図だ。
その後、向こうから着信が届き、2コールで切れる。
了承、またはいつでも行ける、という合図だ。
「アヤ──いや、イエロー、私たちはいつでも問題ない」
『レイヴン、了解しました。“襲撃チャート”に従い、敵影が確認でき次第、連絡します。それまでは待機を!』
今回の襲撃依頼に際し、予定通りに物事を進める為に、事前にチャートを組んでいた。
それはアヤネの手元にあり、それを確認し、状況を踏まえながら全体の指揮を取ると言った形式を取っている。
一応、敵の襲来などは私の“耳”でも感知出来るが、アヤネのドローンによる映像を踏まえた情報の方が、より分かりやすく具体的だ。
あくまでも“耳”は、戦闘や緊急時に役立つものだ。
『レイヴン!早速、銀行方面へ向かうマーケットガードを確認しました!十時の方向から、マーケットガード部隊が向かって来ています!内容は、通常の銃器持ちのオートマタに加え、ロケットランチャー、大盾持ちも確認出来ます!』
「了解、直ぐに迎撃に向かう」
私はアヤネが言っていた方向、猟犬の耳でも気配が感じ取れる方角に向かう事にした。
迎撃とは言っても、わざわざ向こうがこっちに来るまで待っている必要はない。
場所が分かっているなら、こちらから襲撃しても良い。
その事は便利屋にも織り込み済みだ。
敵を確認出来た場合は、真っ先に襲撃する。
それを知らせる適当なスタンプをモモトークで送る。
さぁ、私も私の、為すべき事を為そうか。
──仕事の時間だ。
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アルを筆頭とする便利屋68は、闇銀行の様子が確認できる闇銀行の裏手の建物の路地裏から、様子を窺っていた。
「社長、レイヴンからスタンプが届いた。先に襲撃を掛けるみたい。銀行正面から見て十時の方角に行ったみたい」
武器が拳銃であり、片手が空き、常に身軽なカヨコが、レイヴンからの連絡を受け取る係だ。
先程の作戦開始の合図も、カヨコの携帯端末に届いていた。
「了解よ、カヨコ課長。それじゃあ、私たちも作戦に従って動くとしましょうか」
レイヴンが先んじて襲撃した際の便利屋の対応は、レイヴンが向かった側とは反対側からの敵の襲撃への警戒、及び万が一、レイヴンが取り逃した敵の撃破だ。
「くふふ♪やっと私たちの出番だね。で、どうする?戦力を二つに分ける?」
あのレイヴンが敵を逃すとは思えないが、万が一という事もある。
念には念を、万全を期す、それが仕事の遂行の為の鉄則だ。
アルは昨日、レイヴン──イヴから協働の依頼を相談され、受領するかどうかは考えると言いつつ、既に内心では即決、受領するつもり満々だった。
それでも、その場ですぐに答えを出さなかったのは、アルの矜持。
依頼を相談しに来た本人を目の前に、その場で即決なんて、ハードボイルドじゃないからね。
などと言う、そんな超個人的な理由だった。
尚、電話での依頼は割と即決で引き受けるが、電話と直接の会合では別というアルなりの考えがあった。
だが、その辺は割とアルの気分次第で変わることもあったりなかったり。
だが、それがアルのモチベーションにも繋がるのだから、ただの我が儘という訳でもなかった。
そして、依頼を引き受けるという決意は、イヴから手渡された依頼の内容を見て、確固たるものとなった。
カイザーコーポレーション本社からの直々の依頼。
もし、これを成功させ、自分たち便利屋が活躍し、功績を残せば、レイヴンが何かしらの口添えをしてくれて、次は自分たちに依頼が回ってくるかもしれない。
あと単純に、手を抜いたらレイヴンに殺されかねないと言う恐怖。
だからこそアルは、いつも以上に気合を入れて、この依頼に臨んでいた。
他にもレイヴンには協働する協力者が居るらしいが、関係ない。
その者たち以上の功績を上げれば良いだけだ。
「そうね…ハルカ、向こう側の主要な道路ーー路地も含めて、爆弾を仕掛けて来てくれる?」
アルが指示したのは、レイヴンが向かったのとは逆の方向だ。
「よ、よろしいのですか!?あ、いえ、口答えするという訳ではなく…」
「えぇ。出来れば、派手に音が出るようなモノをお願い」
「わっ、分かりました!わ、私、アル様の為に頑張って爆弾を仕掛けて来ます!」
満面の、だがどこか危うさを感じられる笑顔で、ハルカは嬉々として爆弾を仕掛けに向かう。
「アルちゃーん、向こう側に爆弾なんか仕掛けてどうするの?」
「爆弾のダメージ自体には期待はしていないわ。爆弾はあくまでもトラップ──居場所を知らせる為のね」
「なるほど。鳴子トラップって訳ね」
「くふふ♪アルちゃん、いつも以上に気合い入ってるね〜」
「当然よ。何せ、今回のクライアントはあのレイヴン!更にその上にはカイザー本社!気合いも入ろうと言うものだわ!さぁ、行くわよ!カヨコ課長!ムツキ室長!便利屋68の力、思う存分、知らしめてやるわよ!!」
ついに覆面水着団(水着は着ていない)が始動!
闇銀行襲撃作戦が始まりました!
お手伝いの便利屋もやる気十分!