ブルーアーカイブ/灰の翼   作:空素(鴉ノ刃)

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あらすじ

レイヴン、便利屋68事務所にカチコミ(訪問)


今回も前回に続いて準備、という訳ではありませんが、依頼の前段階パートです


EP-30 それぞれの苦悩

ゲヘナ学園 風紀委員会 行政官 天雨アコは、デスクに向かい、大量の書類を前に頭を抱えていた。

 

ゲヘナ学園はキヴォトス有数、最大と言っても良い規模の学校であり、それ故に抱える生徒も多いのだが、その生徒があまりにも無法者ばかりだった。

不良モドキや不良などはまだ良い方で、中には犯罪者やテロリスト紛いの者までいる始末。

その中でも、《美食研究会》、《温泉開発部》は最早、事件・暴動の常連と言っていい。

事件・暴動はあくまでも目的を達成する為の副産物であり、それ故に幾ら鎮圧・捕縛しても一切、反省せず、行動が改まらないのが一層、タチが悪い。

 

それ故に、生徒が起こす暴動や事件の鎮圧・捕縛の為に、風紀委員たちは日夜、奔走している。

問題児連中とは別に、実質的に、ゲヘナのトップ組織と言える《万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)》のリーダーは何かと風紀委員を目の敵にして、嫌がらせと言えるような無理難題を吹っ掛けて来るのも悩みの種ではあるが、それはさておき。

 

風紀委員長であり、天雨アコが敬愛する《空崎ヒナ》は、暴徒どもの鎮圧に毎日のように駆り出され、それが毎日深夜まで続くのも珍しくない。

それに加えて、委員長という立場柄、書類整理の業務まであると言うのだからヒナ委員長にのし掛かる重責は、アコが察するに余りある。

 

少しでもヒナの重荷を軽くしてあげたいが、ヒナが駆り出される暴徒鎮圧は、ヒナの他とは一線を画す、秀でた実力があってのものだ。

 

アコ自身は後方支援担当であり、前線に立って戦うようなことは出来ない。

 

風紀委員のメンバーである《銀鏡イオリ》などもそれなりに腕が立つ実力者ではあるが、残念ながらヒナに並び立つ程の実力は有していない。

 

もう一人の風紀委員メンバー、《火宮チナツ》も私同様、後方支援担当であり、そもそも、彼女は《救急医学部》から人手不足ゆえに引き抜いた人材で、戦闘は期待出来ない。

 

と、このようにゲヘナ風紀委員会は、人材不足に悩まされながら、毎日、寝る暇も無く、自治区中を走り回っている。

 

そんな折、ゲヘナ《情報部》から気になる情報が飛び込んで来た。

 

カイザーPMC理事の生徒誘拐疑惑から端を発する指名手配。

 

それそのものはアコの注意を引くものではなかった。

 

問題は、その事実を連邦生徒会に報告したのが、シャーレという今まで存在しなかった組織だったからだ。

 

今は、ゲヘナにとって重要な時期であり、特にアコのような行政を担当する者たちは常に気を張っている。

 

シャーレ──あらゆる規約や法律による規制や罰則を免れる権限を持つ超法規的機関。

 

そして、その権限を行使出来得る存在。

外の世界から来た大人──先生。

 

それだけではない。

 

シャーレには更に、下位組織、直属特務戦闘員なる生徒を抱えているらしく、その実態はシャーレ専属の傭兵。

 

今のところ、こちらに対して害を齎すような事件は起こしていない。

 

だが、明らかに厄介ごとの匂いを感じる。

目に見える地雷にしか思えない。

 

何をしでかすか分からない不確定要素。

これ以上、風紀委員会の悩みの種、委員長の重責になるようなものを見逃すことは出来ない。

これを放置しておけば、大事な時に限って、要らぬ事件を齎す危険性がある。

 

《トリニティ》の《ティーパーティー》は、先生とその傭兵を果たしてどう見ているのか?

こちらと同じように、情報くらいは掴んでいる事だろう。

 

このまま静観を決め込むのか、何かしらのアクションを起こすのか。

だが、それらを待ち、それらに期待することは出来ない。

 

こちらから先手を打たねばならない。

何かが起こってからでは遅い。

これまでの全てが水の泡になる。

 

先生にしろ、その傭兵にしろ、身柄を拘束し、こちらの管理下に置かねばならない。

別に害を与える訳ではない。

ただ、ほんの少しの間、全てが終わるまで大人しくしていて貰う。

その為に、無力化・捕縛の必要がある。

 

その為には、タイミングが重要だ。

この事は、ヒナには伝えられない。

ヒナの協力は得られない。

アコが成し遂げなくてはならない仕事だ。

 

先生及び傭兵の居場所を掴み、適切なタイミングで部隊を投入、鎮圧・無力化して捕縛、即座に部隊を撤退させ、帰って来たヒナに結果だけを報告、褒めてもらう。

我ながら完璧な作戦だと誇らしくなる。

 

だが、二人が位置する場所次第では、他の学校の自治区に部隊を投入することになる。

それは外交問題、果ては学校間の戦争の火種になりかねない。

ましてや、二人が拠点としているシャーレオフィスのあるD.U.区内になど投入してしまえば、連邦生徒会とヴァルキューレが黙っていない。

そこは避けるとして、別の場所にしても注意が必要だ。

何かしらの建前が必要になるだろう。

考えておかねばならない。

 

そう言えば、最近の先生と傭兵は、アビドスに足繁く通っているようだ。

そして、それに加えて、ゲヘナの問題集団として指名手配されている便利屋68もアビドス方面で活動しているとの情報があった。

 

もしかすると、上手く建前として使えるかもしれない。

 

だんだんと形が出来上がって来た作戦を思い浮かべながら、アコは口元に笑みを浮かべるのだった。

 

と、そこへ定例のゲヘナ情報部からのキヴォトス内の最新情報が届く。

ゲヘナ情報部は、キヴォトス各地に目を光らせている。

特に、緊迫状態の今は、尚の事だ。

 

アコは口元の笑みを引っ込ませ、情報が綴られた書類を受け取り、即座に目を通す。

もしかすると、この中に作戦に有用な情報が含まれているかもしれない。

 

ふと、とある情報がアコの目に止まる。

 

それを見てアコは、正に望んでいた有用な情報であると歓喜する。

これにより、更に自身の作戦はより盤石になったと確信する。

 

その情報とは──便利屋68とシャーレ傭兵の戦闘記録だった。

 

****************************

 

ホシノは、明日のブラックマーケット闇銀行襲撃の準備をすると言う口実を使って、アビドス地区内のとある建物に訪れていた。

 

そこは、寂れたビルの廃墟。

 

もはや人気は無く、誰も近寄ろうともしない老朽化した建物へとホシノは足を踏み入れる。

階段を登り、とある一室の前まで進むと、遠慮無く扉を開く。

 

部屋の中は、やはり外観と同じように荒れ果て、窓を完全に覆っているブラインドもところどころが壊れ、外からの光が差し込んでいる。

 

全体的に薄暗い廃墟の一室、その中に、より一層、暗く、深い、“黒”があった。

 

黒い人影──スーツを身に纏ったその人影は、ホシノの入室に気付き、振り返った。

 

「これはこれは、暁のホル──…いえ、ホシノさん。わざわざ、こんな辺鄙な場所にご足労いただき、ありがとうございます」

 

そこに居たのは、顔の無い黒の人影。

無貌の黒い男。

そう形容する他ない、人のような人ならざるもの。

辛うじて、青または紫の光を放つ亀裂が、目や口らしきものを形作っているが、それも不完全だ。

 

「御託はいい。用件は何?黒服の人」

 

挨拶も、前置きも必要無い。

本筋だけを話せ、と促すようにホシノは黒服の男を睨み付ける。

ホシノは、この男との何らかの連絡手段を持っており、彼に呼び出され、この場所に訪れたのだ。

 

「クックック…連れませんねぇ。私と貴女。長い付き合いではありませんか。──まあ、良いでしょう。では、お望み通り、単刀直入に申し上げます」

 

この大人は、得体が知れず、信用できない。

出来得る限り、関わり合いになりたくないのがホシノの本音だが、簡単に言えば、ホシノはこの大人に弱みを握られている。

従わざるを得ないのだった。

 

「ホシノさん、アビドス対策委員会を抜け、私たちと共に来て頂きたい」

 

黒服の男が、ゆっくりと手を伸ばす。

 

「ッ!なんでそんなこと…!」

 

ホシノの表情が歪む。

敵意剥き出しだった顔が、焦りと困惑に染まる。

 

「状況が変わりまして。貴女の“キヴォトス最高の神秘”の力が必要なのです」

「それから──もし、私に協力して頂けるのであれば、アビドス高校の多額の借金を免除して差し上げることも可能です」

 

黒服の発言に、ホシノは目を見開く。

なぜ黒服がカイザーローンがアビドスに課している借金に干渉できるのか。

気にはなるが、きっと黒服は煙に巻いてはぐらかす。

恐らく、何かしらのパイプがあるのだろう。

 

黒服の借金免除の話はホシノにとって、天から降りる救いの糸のように思えてならなかった。

だが、冷静に我に返り、カイザーローンの現状を思い出す。

 

「…いや、でも、カイザーローンは…」

 

イヴの依頼の話が嘘でないのなら、カイザーローンはカイザー本社に制裁を受けるはずだ。

本社も含めてほぼ真っ黒なカイザーが、身内への制裁をどれほどのものにするのかは分からないが。

少なくとも、社会の注目を集めている今は、手緩い罰にはしない筈だ。

 

「クックック…えぇ、貴女のお察しの通り、かの企業は悪事が露呈し、制裁を受けるでしょう。ですが、それで取り潰しになり、貴女達の借金が帳消しになる事は無いでしょう。何せ、カイザーローンはキヴォトスに於ける大手金融機関。無くなれば、キヴォトス中の多くの人々が困ってしまいますからねぇ。精々、責任者等の社員の解雇処分程度で、会社そのものは存続するでしょう」

 

黒服の言葉を受け、ホシノは黙り込み、俯く。

 

「…少しだけ、時間が欲しい」

 

「クックック…ええ、構いませんよ。私たちは、いつでも貴女を歓迎しますよ。小鳥遊ホシノさん」

 

それを聞き届け、ホシノは部屋を後にし、その廃墟から立ち去った。




これにて、依頼の前段階は終了

次回からはいよいよ、ブラックマーケット編に突入します

例によって色んなフラグが混線してますね

どうなる事やら…(作者のフラグ管理的な意味で)
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