ブルーアーカイブ/灰の翼   作:空素(鴉ノ刃)

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あらすじ

カイザー本社直々の依頼がシャーレに届く
怪しい様子で何かを企む対策委員会(半数)

今回は準備回!
準備は大事と存じます


EP-29 前触れなき訪問

対策委員会と話を付けた私は、更なる会議の末、ブラックマーケットへの襲撃の決行を明日に取り決め、ひとまずその場は解散となった。

 

各々、明日に向けて色々と準備をするはずだ。

 

そして私も、企業の言う事に従うのは癪だが、依頼遂行の為、念には念を入れることにした。

依頼内容に添付された資料には、ブラックマーケットはかなりの規模であるらしく、それがマーケットガードの抵抗がどれほどの規模か不明瞭というところに繋がっている。

本来、こういった任務において、人数は少ない方が良いのだが、折角の“縁”を結んだのだし、利用しない手は無い。

 

と言う訳で、私は今、とある雑居ビルの前にいた。

服装は、仕事の一環のため、黒のロングコートからなる制服だ。

 

私はビル内部に足を踏み入れ、階段を登った先に、とある一室の前で立ち止まる。

取り敢えず、扉をノックし、住人が出てくるのを待つ。

暫くして、扉の奥から、コツコツとヒールが床を叩く音が聞こえる。

 

「はい、どちら様でしょうか──」

 

そう言いながら、扉の奥から姿を現したのは、便利屋68の陸八魔アルだった。

 

****************************

 

便利屋68、陸八魔アルは、かつてない危機に陥っていた。

 

先日、自信たっぷりに受けた依頼を散々な状態で失敗し、ただでさえ便利屋の経営状況は火の車の状態だと言うのに、それに追い討ちをかけるように只働きとなった。

 

加えて、雇った傭兵にも、働いた分の給料はアルの矜持の為に受け取らせ、ただでさえ少ない資産がいよいよ底を突きかけている。

 

「あぁ〜、一体どうしたら…このままじゃ便利屋68は破産よ…」

 

デスクに向かい、頭を抱える。

 

「あっはは〜、アルちゃん、こんなオフィス借りてるからじゃーん♪」

 

一応、自分のことでもあると言うのに、ムツキは他人事のように笑っている。

 

「うっ、ううう…うるさいわねっ!立派なオフィスはハードボイルドな何でも屋には必要なのよっ!」

 

ムツキの言ってる事はごもっともで、資産の殆んどはこの賃貸であるオフィスの家賃に消えている。

それでも、アルには高い家賃を払ってでも優先すべき憧れがあったのだ。

 

「でも、だからってこれからどうするの?このままじゃまた公園キャンプ生活に逆戻りだよ?」

 

その憧れを突き崩すように、カヨコの的を射た正論がアルに現実を叩き付ける。

 

「──こ、こうなったら…融資を受けるわ…!」

 

金が無い。

ならば、借りれば良い。

 

「借金ってこと?アルちゃん、今よりも〜っと、落ちぶれちゃうの〜?」

 

ムツキの言葉がアルに刺さる。

確かに借金など、軽はずみに受けるべきではないのだろう。

それでも、アルは前に進む為に決断せざるを得なかった。

 

そんな時に──。

 

コンコンコンコン、と事務所の扉を叩く音が。

 

「あら?誰かしら?」

 

「家賃の請求とか?」

 

「アルちゃ〜ん、家賃滞納〜?」

 

「ちゃんと払ってるわよっ!!」

 

「わ、私が出ましょうか?」

 

ハルカが率先して扉を開けようとするが、アルが立ち上がる。

 

「いえ、大丈夫よハルカ。私が出るわ。もしかしたら、私たちへの直接の依頼かもしれないし!!」

 

そんな期待に胸を膨らませ、アルはにこやかな笑顔で扉を開く。

 

──直前で、顔を引き締め、いつもの余裕のある女社長的な微笑みを浮かべて、扉を開ける。

 

そこに立っていたのは、何処か見覚えのある姿だった。

 

漆黒のロングコートを元にした制服、そして印象深い白髪ポニーテール。

 

そこに立っていたのは紛れもなく、前回の依頼を失敗する要因となった本人、自らをレイヴンと名乗った少女が立っていた。

 

アルはそれを理解すると同時に、無意識の内に扉を閉めていた。

 

****************************

 

挨拶すら出来ずに、いきなり扉を閉められた私は、さてどうしようか、と途方に暮れる。

 

言葉すら交わさず門前払いとは。

どうやら先日のことをかなり引きずっているらしい。

彼女たち便利屋68のことは、それなりに評価していたのだが、買い被り過ぎていたか。

 

因みに、この場所は先生に協力して貰い、調べてもらった。

 

などと考えたところで、扉の向こうから声が聞こえた。

 

「アルちゃーん?どうしたの?お客さん、誰だったの?」

 

この声は浅黄か。

確かに、側から見れば陸八魔の行動は怪しく見えたかもしれない。

そして、陸八魔は返事を返さず、無言を貫いている。

 

「社長?どうしたのそんな必死に首を振ったりして」

 

なるほど、陸八魔は今、必死に首を振っているのか。

鬼方の声で私は状況を把握する。

 

だが、こうしている時間も勿体無い。

私もここで何の成果も無しに帰ることは出来ない。

 

私はもう一度、扉を叩く。

 

コンコンコン。

 

「ヒィッ!?」

 

陸八魔らしき…悲鳴が聞こえる。

そんな怖がらせるようなことを私がしただろうか…?

 

「アルちゃん?本当にどうしたの?白目超えて涙目じゃん」

 

泣くほどなのか。

 

「社長、何も言ってくれないと分からないよ。何があったのか教えてくれない?」

 

鬼方の呆れたような溜め息が、扉越しの私にまで聞こえてくるようだ。

 

「あ、アル様、も、もしかして敵ですか!?敵なんですか!?それなら私が──」

 

この声は伊草か。

彼女は、敵対した時も何か…他とは違う、危うさのようなものを感じた。

端的に言えば、ヤバそう、というやつだ。

 

「だっ、ダメぇっ!!ホントに、ダメだから!それだけは!下手に刺激しないで!お願いっ!!」

 

陸八魔が口を開いたかと思えば、必死の懇願だった。

私は危険生物か何かに見えたのだろうか?

 

一瞬、本当に他を当たろうか?

 

そう思ったところで、思い掛けず、扉が開く。

 

「あぁっ!?ちょっと!?」

 

陸八魔の戸惑う声が聞こえる。

だが良かった。

これで何かしら進展が見込める。

 

そうして扉から顔を出したのは、鬼方だった。

 

「あれ、あんたは──」

 

ようやく普通の対応を貰える。

 

そう思った直後、私は顔にハンドガンの銃口を突き付けられた。

 

「レイヴン、だったよね。便利屋に何の用?」

 

その表情は険しく、瞳には警戒心が宿っていた。

 

なるほど。

私は理解した。

私は両手を上げて、敵意がないことを示す。

 

「今回、私はあなた達に話があって来た。仕事の依頼」

 

私の目的を話すと、鬼方は一先ず、納得した様子で銃を仕舞った。

 

「社長、取り敢えず、私たちの始末とか、報復に来た感じじゃなさそうだよ」

 

それで陸八魔はあれだけ怯え、鬼方は警戒心を剥き出しにしていたのか。

合点が行った。

 

「えっ!?あっ…そうなの…?」

 

ひとまず、私は事務所の中に通された。

 

「ありゃ、レイヴンちゃんじゃーん。こないだ振りだね。黒猫ちゃん、ちゃんと助けられた?」

 

陸八魔とは違い、浅黄は随分と親しげに話しかけて来た。

私は答えながら、鬼方に促されたソファーに座る。

 

「うん、お陰様で」

 

因みに、私の後ろには伊草が陣取り、背後で呪詛を呟き続けている。

この間のことから続く敵対心か、それとも、陸八魔を怯えさせたことから来る歪んだ忠誠心からか。

 

「ハルカ、お止しなさい。彼女は私たちのお客様よ?」

 

すっかり先程の取り乱し様から立ち直った陸八魔が、私の正面に座り、やんわりと諌める。

 

「はっ!?す、すいません!すいません!アル様のお顔に泥を塗ってすいません!付きましては、自害しましょうか!?死にましょうか!?」

 

・・・以前も感じたが、やはり彼女…伊草は言動の一つ一つが極端で危うい。

だが、それをどうにか上手くコントロールしているのが陸八魔なのだろう。

 

「そんな気にしなくて大丈夫よ。ハルカは私の大切なファミリーなのだから。このくらいどうって事ないわ」

 

悠然たる態度で穏やかな表情を浮かべ、伊草を落ち着かせた陸八魔は改めて私に向き直る。

 

「さて…色々とお見苦しいところを見せてしまったわね」

 

「問題ない。事前の連絡も無しに顔を出した私にも非はある」

 

もし、彼女たちに事前に連絡していれば、これほどの混乱は巻き起こらなかっただろう。

だが、それとは別に、良いものを見られたとも思う。

一人一人の、仲間を想う気持ち、便利屋の絆とでも言うべきものだろうか。

 

「そう。ふふ…寛大な心、感謝するわ」

 

「そういえばレイヴンちゃん、良くここが分かったね?」

 

浅黄が不思議そうに私の顔を覗き込む。

 

「私には私の情報網がある。勝手に調べたのは申し訳ない」

 

実際は、反則にも近しい、先生のタブレット端末によるハッキングなのだが。

 

「…それだけのことをしなければいけないような仕事なの?」

 

陸八魔の見透かすような言葉に、私は素直に頷く。

 

「改めて、私は渡鳥イヴ。今はシャーレ直属特務戦闘員…なんて肩書きで、シャーレ専属傭兵をやってる。仕事の上ではこれまで通り、レイヴンで構わない。便利屋68には今回、私の仕事の協働を依頼しに伺った」

 

「シャーレ…そう、あなたがね…協働、って事は、あなたの仕事のお手伝いってことよね?そんなに厳しい相手なの?」

 

「そうだね、私だけでは手が回らないかもしれない。他にも協働仲間がいるけど、人手が必要な依頼と見て、便利屋68にも声を掛けさせて貰った」

 

「そう。因みに、断ったら?」

 

テーブルを挟んだ向かい側で、上目遣いに陸八魔の剣呑な視線が私に注がれる。

 

「…その時はその時。今回は縁が無かったと言う事で潔く諦める。これが、詳しい依頼内容。目を通して、どうするか明日の朝までに連絡して欲しい」

 

私は今回の依頼と添付資料をコピーした書類が封入された封筒を陸八魔に渡した。

 

「一応、念押ししておく。どうするかは自由。断られたからと言って私は報復なんて恥知らずな真似はしない。好きなように選択して欲しい」

 

私が渡した封筒を見詰め、他の便利屋メンバーがその様子を覗き込む。

 

「それと、これが私の連絡先。何かあれば、ここに連絡して欲しい」

 

私の携帯端末の連絡先を記入したメモを渡し、立ち上がる。

 

「あれ〜?もう行っちゃうの?」

 

浅黄が名残惜しそうに訊ねる。

 

「私が居たら、陸八魔も落ち着いて考えられないと思う。何か分からないことや聞きたいことがあれば、さっきの連絡先に」

 

「そう、分かったわ。それなら一晩、じっくりと考えさせて貰おうかしら?」

 

それを聞き届け、私は便利屋の事務所を後にした。




協働依頼って良いですよね…

アルちゃんはギャグとシリアスの二つの側面があるので、書いてて面白いです
大きなリアクションもさせられますし

果たして、便利屋はレイヴンの協働を受けてくれるのか…

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