受けるんじゃなかった、こんな依頼!
雇われ傭兵ちゃんズ、リタイア!!
彼女たちはきっと、レイヴンによって消えない傷を負ったことでしょう…
可哀想に…
一方、車に乗り、砂漠を進むアビドス対策委員会と先生御一行。
運転はアヤネが受け持ち、先生は状況を説明している。
[“セリカの居場所は、アビドス砂漠、カイザーPMCの前哨基地内だ”]
先生はタブレット端末で一帯のマップを表示し、その中の複雑な構造物が描かれた場所に、赤く明滅する光がある。
「カイザーPMC、ですか…?でもどうして…?」
ノノミが困惑して首を傾げる。
ホシノは暗い顔で俯いている。
それはどこか事情を知ってるような表情にも見えるが、この場の誰もその事には気付かない。
「この前のイヴたちの襲撃も、今回の便利屋の襲撃も、もしかするとカイザーからの依頼だったのかも」
シロコが考え込んだ末に、一つの予測を導き出す。
[“可能性はあるね。というか、私が聞き出しておくべきだったんだろうけど…”]
この二日間、イヴはシャーレに居たが、纏まった時間が取れず、中々、話し合うことが出来なかった。
「いやぁ〜、多分イヴちゃんは話さないんじゃないかなぁ〜」
そこに助け船を出したのはホシノ。
「ん、ホシノ先輩と同意見。イヴは雇い主の情報は明かさないと思う。それが例え、悪徳企業だったとしても」
シロコの意見に、実際に目の当たりにした皆は納得する。
「その当のイヴさんは一人で残って大丈夫でしょうか…?」
話を聞きながらも、目的地へ向かって運転していたアヤネが不安を溢す。
「イヴちゃんが強いことは分かってますけど、便利屋の皆さんも強かったですからね…」
皆が押し黙り、車内に沈黙が流れる。
「大丈夫。イヴなら、きっと勝つはず。だってイヴは、私の戦友だから」
そう言ってシロコは、まるで自分の事のように自信あり気に窓の外へと顔を向ける。
「戦友かぁ〜、青春だねぇ〜。おじさんにはちょっと眩し過ぎるかな〜」
「戦友は青春に含まれるんですかね…?」
[“あはは…あんまりそう言うイメージは無かったね…”]
「わぁ〜☆なんだかマンガやアニメみたいで素敵ですね〜♡」
「イヴは大丈夫。私たちはセリカの元に急ごう」
****************************
戦意を喪失した傭兵が居なくなり、私の前には便利屋だけが残された。
さて、連中はここからどう動く?
ここで逃げるなら良し。
私の目標は便利屋の足止めだ。
全滅させても良いが、諦めて逃げ帰ってくれるならそれはそれで手間が省ける。
と、そこで、周囲を舞う大ガラスが耳元で囁く。
戦え、潰せ、徹底的に蹂躙せよ、と。
そして、それとは別に、すぐ横に寄り添うのは機械仕掛けの犬。
コイツはカラスと違って好戦的ではなく、あくまでも目標の遂行を優先する。
その上で、邪魔立てする者には容赦はするな、と。
似ているようで、相反する二匹の言葉に、私は板挟みになる。
「まだよ…」
陸八魔がゆっくりと立ち上がる。
「ふふ…傭兵なんて所詮は駒よ…ええ…!あいつらなんか居なくたって、私たちで依頼を遂行すれば良いだけよ!私たちなら出来る!そうでしょ!?」
震えながら、今にも泣きそうな表情で、陸八魔は僅かに残る戦意の灯火を燃え上がらせる。
「私たちは便利屋68!金さえ貰えれば何でもするアウトロー!この程度の苦境で折れて溜まるもんですか!!」
正直、半ば心が折れかけている相手を叩き潰すのは忍びないが、既にカラスも猟犬も、臨戦体勢に移行している。
向かって来るならば、叩きのめすだけだ。
私たちには時間がない。
セリカの行方不明、そして、便利屋の襲撃は繋がっているはずだ。
裏で糸を引いているのは、カイザーPMCだろう。
恐らく、ヘルメット団への依頼が失敗した事で、便利屋にお鉢が回ったのだろう。
セリカの誘拐は、より成功率を上げる為の強硬策といったところか。
そして、カイザーPMCが相手とならば、今セリカ救出へと向かっているシロコ達も危ない。
早々に決着を付け、合流する必要がある。
その為には、速攻でコイツらを叩き潰す。
歯車を回すようなイメージで、指先から爪先、頭の上の耳の先端に至るまで、意識を高めていく。
「あー…社長、それは違うよ」
だが、奮起した陸八魔と違い、鬼方と浅黄は戦闘の意思が無さそうだった。
後ろの伊草だけは、ずっと後ろから呪詛を吐き続けており、陸八魔の指示でいつでも攻撃して来そうだが。
「ちょっとカヨコ課長!?ムツキ室長もなんでそんなやる気が無いの!?違うってどう言う事!?」
「アルちゃんは傭兵の子達のこと駒って言ってたけど、正しくは肉盾なんだよ?」
「へぇっ!?肉盾!?」
「わっ、私は皆さんの為なら幾らでも肉盾になってみせます!!」
私の後ろから伊草が前に飛び出し、主張する。
「ハルカ、そう言う事じゃないから。だからね、社長。今までは肉盾があったお陰で私たちは無事だったけど、今度は私たちが攻撃に晒されることになる」
「そっ、そんなの回避すれば──」
「社長、回避する自信、ホントにある?あんな人間離れした速度で飛んで来る攻撃、無傷で凌げる?」
「……」
陸八魔は鬼方からそっと視線を外した。
「だから、もう戦う前から私たちの負け、依頼失敗、テント生活に逆戻りって訳♪」
浅黄の決定的な発言を受け、陸八魔はまるで銃弾でも受けたかのように仰け反る。
「…なっ、なななーー」
「なんですってぇぇぇぇぇええええええええええええ!!?」
もう終わっただろうか。
便利屋の寸劇の間に、私の殺意はすっかり収まり、猟犬は再び眠りにつき、カラスは何処かへ行ってしまった。
「…もう邪魔しないなら行くけど、まだやる?」
白目を剥いて口半開きで地面に膝を突く陸八魔とそばのメンバーに近付く。
反応し、応対してくれたのは鬼方だった。
「ああ、もう良いよ。下らない茶番見せて悪かったね」
気を失っている陸八魔の頬を突っつく浅黄と涙目で名を叫ぶ伊草。
「ねぇ、最後に一つ良い?」
その光景を横目に、立ち去ろうとした私の背中に鬼方が訊ねる。
「セリカちゃん…とか言ったっけ。あの黒猫の女の子」
名前を知っている、と言うことは、何処かで面識があったのだろうか。
「…私たちが言えた義理じゃ無いんだろうけど、助けてあげてね」
面識があったのにも関わらず、それよりも依頼を優先した。
「…言われなくても。私からも一つ良いかな」
それは、人としては褒められたものではないだろう。
「何?」
しかし、例えどんな浅ましい理由であれーー。
「あなた達は、立派な
それだけを言い残し、私はその場を後にした。
遠くから『黒猫ちゃんをよろしくねぇ〜』という浅黄の声が届き、軽く手を振って返し、私は対策委員会に合流すべく、駆け出すのだった。
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セリカは、暗闇の中で目を覚ました。
違和感を感じ、その正体を探れば、それは口元を覆うテープ、後ろ手に拘束された両手、両足もまた、拘束されていた。
周囲に視線を向ければ、そこは暗く冷たく鉄と石の牢獄だった。
何故、自分はこのような場所に閉じ込められているのか。
記憶を探ると、それは柴関ラーメンのアルバイト終了後に遡る。
仕事を終え、帰路に着いたセリカは、ふと付き纏う気配を感じた。
振り払おうと入り組んだ道を進むが、その気配は徐々に多くなって行き、やがてそれはセリカの前に姿を現し、包囲する。
何者か訊ねるより先に襲撃され、抵抗虚しくセリカは銃撃と爆撃に晒され、気が付けばこの状況だった。
セリカはどうにかして拘束が外れないか、試してみるが、手足の拘束はビクともしない。
やがて、セリカはある結論に辿り着く。
即ち、自身の死。
この地の底の冷たい牢獄で、誰にも気付かれる事なく、知られる事なく、ひっそりと朽ち果てるのだと。
自身の運命に絶望する。
自然と涙が溢れる。
こんなことになるなら、もっとみんなと色んなことをすれば良かったと。
色んな場所へ行き、色んなものを食べ、色んな話をすれば良かったと。
先生とイヴ。
先生は親身に関わってくれて、偶にストーカーされたり、変なことを言う人だけど、もっと素直になれば良かった。
イヴは、学校を襲撃したヘルメット団の関係者ではあった。
けれど、最終的に謝ってくれたし、悪い人には思えなかった。
受け入れてあげれば良かった。
でも、どれももう、手遅れ。
全て、決して叶わない。
セリカは虚ろな表情で涙を流しながら、ただじっと冷たい床を見詰め続ける。
自身に終わりが訪れる、その時まで。
セリカちゃん大ピンチ!!
果たして彼女に救いは訪れるんでしょうか?
対策委員会と先生プラスレイヴンは彼女の救いとなるか!?