ブルーアーカイブ/灰の翼   作:空素(鴉ノ刃)

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あらすじ

爆発心中
引き分け

今回でカタカタヘルメット団編は終了となります


EP-12 名と祈りと誓いと

砂狼の爆発心中を食らった私は、地面に大の字で転がっていた。

 

視線の先には、透き通るような青空が広がっていた。

 

「あの…」

 

その視界に影が差し込む。

 

上から控えめに覗き込んで来たのは、赤縁メガネの少女、奥空アヤネだった。

 

「良かったら、これ、どうぞ…」

 

未だ警戒心が感じられるぎこちない様子で、奥空はゼリー飲料を手渡して来た。

 

「…良いの?私は、あなたの仲間を傷付け、大切な居場所を奪おうとした相手なのに」

 

素直に受け取りつつも、抱いた疑問をぶつける。

 

「で、でも、もう、そんなことをするつもりは無いんですよね?」

 

「それは…そうだけど…」

 

「だったら、私もあなたを必要以上に警戒しません!それに、先生が認めた生徒さんですから!」

 

そう言って奥空はペコリと礼をして立ち去る。

 

私は右手で顔を覆う。

 

彼女も、砂狼と同じような心の強さを持っている。

仲間の為に戦い、敵対した者でも理解し、認めようとする、そんな透き通った精神を感じる。

 

ゼリー飲料を飲み、多少回復した私は、体を起こす。

 

私と共に爆発心中した砂狼は、見た目こそボロボロだが既に復活し、奥空と共に先生の元に集まっていた。

その近くにはいつの間にか、他の三人が手当てされた状態で仲睦まじく寄り添って壁に背を預けていた。

 

校舎を見上げる。

 

これまでの激戦によって、見るも無残に破壊されている。

それでも、この場所は、ここに在り続ける限り、彼女たちの居場所なのだ。

 

砂狼が言った“居場所”。

それは、居住地のようなものではない。

 

きっと、心に安寧を齎すような、安らぎの場所。

 

かつての私にとっての、ウォルターが近くに居てくれるような、そんな安心できる場所。

 

この場所を彼女たちから奪っても、きっと生きて行く事だけなら出来るだろう。

 

けれど、それは心に大きく深い穴を空け、かつて私が苛まれ、今尚続いている苦しみや悲しみ、決して埋まることの無い喪失感と同じようなものを彼女たちに齎すことになる。

 

私と同じような思いは、彼女たちにはして欲しくない。

 

彼女たちから大切なものを奪うような真似は、今の私には出来ない。

 

ふと、視線を落とすと、背後から近付く気配を感じる。

振り返れば、それはリーダーだった。

 

「…ごめんなさい。折角、切り札にしてくれたのに…失敗した」

 

私は俯くように視線を逸らす。

そんな私にリーダーはわざとらしい大きな溜め息を吐いた。

 

「別にそんなの良いっつの。ハナから期待して無かったし。それに──」

「お前さんにこれ以上、誰かの大切なものを奪わせずに済んだんだ。あたしの目論見通りだ」

 

その声色はとても優しく穏やかであり、より一層、私の胸を締め付ける。

 

「…リーダー…」

 

リーダーの役に立ちたかったという独り善がりな思いを抱く反面、リーダーの私を大切にしてくれる想いを裏切らずに済んだという安堵に板挟みになる。

 

「それよりレイヴン、ちょっと着いてこい」

 

リーダーに促され、その後を追う。

リーダーが向かったのは、先生の元だ。

 

「…悪いが話は聞かせて貰った。あんた、連邦生徒会の人間なんだってな」

 

[“う、うん…そうだけど…”]

 

私も含め、リーダーは何をするのかと周囲が困惑する中、突然、リーダーは先生に向かって頭を下げた。

 

「頼む!どうかこいつを雇ってくれないか!!」

 

「り、リーダー?何を言って…」

 

私が口を挟む間も無く、リーダーは更に畳み掛ける。

 

「こいつは、ただ砂漠で行き倒れてたところを介抱したあたしらに恩返しをしてくれようとしただけなんだ!コイツは何も悪くないんだ!だからッ!!」

 

『それは違う』と言いたかった。

私は私で考えた上で決断し、選択し、答えを出した。

私はリーダー達が何をしようとしているのか、何を為そうとしているのかを理解していた。

身を引くタイミングは幾らでもあった。

身を引くと告げれば、きっとリーダーも認めてくれただろう。

だが、私は理解した上でリーダー達の仕事に参加した。

私だけが『悪くない』なんて事はあり得ない。

 

[“良いよ”]

 

だが、私が反論するより早く、先生は速攻で決断を出した。

半ば私も先生ならそう言うだろうとは思っていたが、あまりに早い決断だった。

寧ろ、決断と言う割には軽過ぎる。

 

「!!本当か!?」

 

腰を折ったまま、リーダーは顔を上げる。

 

[“私は良いけど、後は君たち二人の問題。レイヴンの気持ち次第だよ”]

 

先生の言葉を受け、リーダーが私に向き直る。

 

「…そういう訳だ。お前さんは、あたしらのところにいるべきじゃない。だから、ここでお別れだ」

 

「…そうだね。元より、三日間だけのつもりだったしね」

 

「…」

 

「…」

 

「…まあ、お前が寂しいなら、いつでも顔出して良いんだぜ?」

 

「…ふふっ、気が向いたらそうする。色々とありがとうね、リーダー。他のみんなにも伝えて欲しい」

 

「そんなの、お前がこれほど暴れてくれたのに比べたら大したことないっつの…達者でな」

 

「うん、リーダーも…」

 

リーダーは背を向けて立ち去る。

それを見届けて、私は先生へと向き直った。

 

[“話は決まったかな?それじゃあ改めて──”]

 

「あぁーっと!!そうだった一つ忘れてたわ!!」

 

立ち去ったハズのリーダーが前のめり加減に割り込んで来た。

 

「リーダー?良い感じだったのに今度はどうしたの?」

 

「お前さん、《レイヴン》って名乗ったが、それ、本名じゃないだろ?」

 

本名ではないが、これ以外に相応しい呼び名は思い当たらない。

G(ガンズ)13(サーティーン)はコールサインだし。

他には、ビジター、戦友、猟犬、駄犬、野良犬…ご、ご友人…うっ…頭が…。

 

実の本名など、とうの昔に忘れてしまっているし、C4-621は、彼らに告げるには、あまりに場違い過ぎる。

それに、これはウォルターとの絆であり、大切な思い出だ。

きっと、もう二度と呼ばれることはない。

だから、これは私の胸に、そっと仕舞っておく。

 

「あー…うん、まあ、その通りだけど…」

 

とは言え、呼び名問題が解決した訳ではない。

私としては、レイヴンで一向に構わないのだが、確かに、この先、キヴォトスで生きていく上で、日常における名前がレイヴンというのはあまりに大仰だ。

ルビコンではずっと働き詰めで、平穏な日常など無いに等しかったから大して気にならなかった。

 

「もしかしたら他に呼び名があるのかもだが、きっと使えないんだろう?だから、あたしはずっとお前さんに相応しい名前を考えてたんだが、最後に、それを贈呈しようと思う!」

 

これは予想外だった。

まさか私の名前を考えてくれていたなんて。

柄にも無く、胸が高鳴る。

 

「お前さんの名は──《渡鳥(わたりどり)イヴ》だ!!」

 

渡鳥イヴ。

それが、私の新しい名前。

このキヴォトスで生きていく上での、私の名前。

リーダーがくれた、私だけの、世界に一つだけの名前。

 

「“イヴ”、お前は、きっとこのキヴォトスで、自由に何処までも飛んで行ける“渡り鳥”だ。でも、疲れたらいつでも帰って来い。私らの(アジト)は、お前の家でもあるんだ」

 

私は自分の名前を噛み締め、リーダーの顔を見詰める。

 

「ありがとう、リーダー。私は、渡鳥イヴ。この名前、大切にするね。それと、また、帰って来るね」

 

「おう!帰って来る時は、お土産忘れんなよ!!」

 

そう言うと、リーダーは今度こそ帰って行く。

 

「おらァ!!お前ら!撤収だ、撤収!!」

 

地面に伸びている団員を叩き起こし、リーダーはアビドスの面々がいる方へと大きく手を振る。

 

「それではアビドスの諸君!今後ともカタカタヘルメット団をよろしくゥ!!」

 

「ん、次来た時はボッコボコのギッタギタにする」

 

砂狼が威圧感たっぷりに脅すが、リーダーは機嫌が良さそうに、どこ吹く風と言う様子で流し、立ち去っていった。

 

それを見送り、私は改めて、アビドスの面々、先生と向き合う。

 

[“改めてよろしくね、イヴ”]

 

私は頷き、先生が差し出して来た手を握る。

 

それを終え、私はアビドス代表と言った立ち位置の砂狼と向かい合う。

その背後では、奥空と、目を覚ました黒見、十六夜、小鳥遊が複雑そうな見守っている。

 

そして、私はリーダーがそうしたように頭を下げた。

 

「この度は、甚大な迷惑をかけてしまい、本当に申し訳なく思う。心から謝罪する。謝って許されるとは思ってないし、償えるとも思わない。今後、私はこのキヴォトスで、傭兵として活動していくつもりだ」

 

私が謝罪すると、アビドスの面々は面食らったように目を見開く。

 

「迷惑をかけた謝礼に、アビドスには特別待遇で仕事を受けようと思う。何かあれば、私が力を貸そう。今回の復興の支援も当然する。それが、私なりのケジメだ。もちろん、他にも何かあれば、私が出来得る限りのことをしよう」

 

「…そう。分かった。それじゃあ、何かあったら連絡するね、イヴ。取り敢えず、これからよろしく」

 

そう言って砂狼は、私に握手を求める。

 

「ああ、こちらこそ、よろしく頼む、砂狼」

 

予想通りというか、拍子抜けというか、相変わらずのあっさりとした砂狼の言動に、私は肩透かしを食らいながらも握手を返す。

 

「あと、私のことはシロコで良い」

 

「ん?ああ、わかった」

 

「…」

 

「…?」

 

何故か砂狼、改めシロコは、無言で私を見詰めて来る。

その表情は何処か期待を孕んでいた。

 

「名前、呼んでくれないの?」

 

何かと思えば。

 

「え?あ、ああ、悪かった。改めてよろしく、シロコ」

 

私が名前を呼ぶと、シロコは満足そうに頷いた。

 

「ん、よろしく、イヴ」

 

「えっと、みんなも、これからよろしく頼む」

 

私はシロコの後ろの四人に会釈する。

 

「はい!よろしくお願いします!私の事もアヤネで良いですよ!イヴさん!」

 

「わぁ〜☆敵が仲間になる展開ってなんだか胸熱ですね〜!イヴちゃん、よろしくお願いしますね☆わたしの事も、ノノミって呼んでくださいねっ♡」

 

「にゃあにゃあ、わたしのこともホシノで良いよ〜。いやぁ、あれだけ強いイヴちゃんが仲間になってくれるなんて、頼もしいね〜。おじさん嬉しいよ〜」

 

「…」

 

「…えっと…よろしく、アヤネ、ノノミ、ホシノ…それと…黒見、さん…?」

 

黒見は敵意マシマシの形相でこちらを睨み付けて来ていた。

 

「…ッ!セリカで良いわよッ!!」

 

そう言って黒見、もといセリカは腕を組んでそっぽを向いてしまった。

 

[“イヴ、ちょっと良いかな”]

 

会話がひと段落ついたタイミングで、先生が声を掛けて来た。

 

[“さっきの傭兵になる、って話なんだけど──”]




レイヴン改め、キヴォトスの生徒【渡鳥イヴ】を今後ともよろしくお願いします

アビドス生徒たちとの和解は済みましたが、セリカちゃんは相変わらずツンツンで完全にフシャってますね

今後、彼女がイヴに心を開く日が訪れるのか…
因みに、例の救出イベントを達成していないので、先生への好感度も低い状態のセリカちゃんなのでした

ですが、カタカタヘルメット団は全滅しているので…?
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