621は果たして、変化したキヴォトス人の肉体で戦うことはできるのか!?
ヘルメット団のメンバーにネームドキャラを出そうか迷いましたが、とりあえず出さない方針で進めていきます
武器を選び、次に案内されたのは、アジトとして使ってる廃墟の裏手にある広場。
元は住宅街の十字路だったのだろうが、今では崩落し、砂に埋もれてしまっている。
それなりに動き回れるだけの広さはあり、何をするのかと待っていると──。
「良し、じゃあレイヴン!試しに戦ってみるか!!」
戦う?
戦うとはつまり…どういうことだろうか?
何か運動でもするのだろうか?
「戦うって…戦うってこと?」
まさか銃撃戦でもする訳でも無いだろうし。
或いは的当てとか。
「あー…そっか、レイちゃんは外の記憶があるからまだ分からないんだ」
「レイヴン、キヴォトス人は頑丈でな。銃撃程度なら死にはしないんだよ。だから気軽に銃撃戦闘訓練が出来る」
そう言えば昨日のヘイローの説明の中にそんなものがあったような気もする。
「まあ、ノーダメージとはいかないし、当たると普通に痛いけどねー」
なるほど、と私は納得した。
それならば、武器の慣らし撃ちや試し撃ちも気軽に人間で出来るという訳だ。
「知っての通り、キヴォトスは結構治安が悪いからな。護身のための戦闘訓練はしておいて損はないってことだ!」
幾ら頑丈なキヴォトス人とは言え、遠距離から銃撃に晒されれば、厳しいものがある。
それに、治安が悪いということは、それに比例してトラブルも多いはずだ。
何らかのトラブルに巻き込まれた場合に、身を護る術は、幾らあっても良い。
過酷な世界の片鱗を感じ取った。
「分かった。そう言うことなら、早速始めよう」
私は武器庫で選んだ相棒の二丁の銃器を構える。
右手にアサルトライフル、左手にショットガン。
最終的にこの組み合わせを選んだ。
キヴォトス人は筋力に於いても外の人間に比べて非常に高く、片手でも持つ事が出来る。
後は反動が片手で耐え切れるかどうかだが、それはこの訓練で確かめれば良い。
一人は見守り、一人が相手になる。
相手の武器はサブマシンガンだ。
「よし、それじゃあ、互いに二百メートル程度の距離を開けて位置について、そこからよーいドンで戦闘開始だ。OK?」
なるほど、この辺はルビコンでの《オールマインド》の戦闘技能検証プログラムのような感覚に近い。
「それじゃあ、合図はあたしが出すねー。さてさて、レイちゃんの戦闘能力はどんなもんかなぁ?」
移動しながら私はそれぞれの銃の状態を確認する。
どちらも弾丸は既に装填済み。
というか、手入れがしっかり行き届いており、心配いらない。
問題があるとすれば、私自身だろう。
このキヴォトスに流れ着いてから、まともに身体を動かす事はこれが初めてなのだ。
ましてや、肉体構造が丸々変わっている。
耳まで生えている始末だ。
キヴォトス人の体は、外の世界の人間よりも高い身体能力を持つと言うが、私は未だに自身の体の能力を把握し切れていない。
ジャージの両腕を捲りながら、定位置に付き、合図を待つ。
空には燦々と太陽が輝き、地面を砂塵を孕んだ風が舞う。
キヴォトス人の肉体故か、照り付ける太陽の温度はさして気にならない。
砂漠地帯の太陽など、外の人間からしてみれば、一歩間違えば命に関わる危険なものだ。
だが、今は何とも無い。
体は温められているが、汗をかく程でもない。
目を閉じ、耳を澄ます。
バァン、と銃声が響き渡る。
それを合図に、私は目を開き、地面を蹴った。
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そろそろレイヴンも定位置に着いた頃だろうか。
武器の最終確認をしながら、武器庫でのレイヴンを思い出す。
武器庫でのレイヴンは、慣れた手捌きで武器の吟味を行っていた。
銃の扱いにかなり慣れている様子だった。
どんな場所からこのキヴォトスに訪れたのかは不明だが、銃の扱いに小慣れているいるあたり、少なくとも、それなりにキヴォトスに近い治安の場所かもしれない。
そんな場所から訪れた外の人間は彼女が初めてだ。
戦闘狂ではないが、彼女がどんな戦い方をするのか、興味が溢れる。
そろそろ合図の頃合いか、と思考を切り替える。
その直後、合図の銃声が鳴り響く。
愛用のサブマシンガンを手に地面を蹴り、駆け出す。
「さて、見せてもらおうか。外の戦い方を!!」
砂に埋もれた住宅街の道を駆け抜ける。
素早く周囲に目を配れば、遮蔽になりそうな建物の残骸が点在している。
正面に視線を向ければ、真っ直ぐ突っ込んでくるレイヴンの姿があった。
向こう側にも幾つか遮蔽があるが、それを一切、気にも留めず、全速力の突進だ。
猪突猛進の脳筋か?
試しに、様子見でレイヴン──から少し狙いを外してサブマシンガンを撃つ。
大抵の人間は、自分に向かって銃を撃たれていると思ったら、回避行動を選択するハズだ。
銃が当たるリスクを少しでも減らす為に、取り敢えずは突進を止めるはずだ。
だが──。
「うえぇっ!?」
レイヴンは止まらない。
まるで銃弾の軌道を把握しているかのように、当たらないと理解しているかのように真っ直ぐ突っ込んで来る。
レイヴンと目が合う。
普段は気怠げに半分程度しか開いていなかった双眸が、今は全開に見開かれている。
その眼はまるで、獲物を狙う捕食者のように思えた。
そして、こちらが動揺した隙を突くように、疾走の速度を下げずに、右手のアサルトライフルを突き出し、乱射する。
「おわわわわっ!?」
咄嗟に斜め後ろの遮蔽に飛び込む。
どうにか無傷でやり過ごし、その隙にリロードする。
レイヴンはあのままこちらに真っ直ぐ突っ込んで来ているはずだ。
このまま詰め寄られればこちらが不利だ。
自分の戦闘ポジショニングは中距離。
ミドルレンジだ。
前衛、或いは遮蔽を利用し、敵から離れたところから巧撃するという戦闘スタイル。
遮蔽に身を隠しつつ、半身だけ銃と共に覗かせ、狙いを定める。
だが、その狙いを定めるべき相手──レイヴンの姿は消えていた。
「!?」
一体どこに!?
その刹那、影が差す。
気が遠くなるような引き伸ばされた時間の中、視線を上に向ける。
その先には、空中を舞うレイヴンの姿があった。
上半身を下、下半身を上に向けたような体勢で左手のショットガンの銃口をこちらに向けていて──。
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黒鉄の円筒が眩く火を噴いた。
「あだぁー!?」
斉射された散弾が相手の全身を打ち、その衝撃で背中から地面に叩き付けられる。
私が着地すると、相手の団員は倒れたまま動かない。
まさか…と一瞬、危惧したが、気の抜けたようなうわ言が耳に届き、一先ず安堵する。
と、そこへ、決着を聞き付けた合図要員の団員が現れ、倒れた団員は介抱されるのだった。
「いやぁ〜お見事!清々しいくらいの完敗だ!!」
気が付いた団員は、手当てを受けながら快活に笑う。
「まさか真上からの攻撃とは…」
地面にあぐらで座り込んだまま、腕を組んで唸る。
ここまで褒められると気恥ずかしい。
傭兵として仕事を受け、それをこなすのは当たり前だった。
褒められるようなことは珍しい。
それこそ、そんな事をしてくれるのはウォルターとエアとラスティとカーラとミシガンと…結構いた…。
「大抵の銃撃戦は正面での撃ち合いになる。頭上は死角になりやすい。それに、慣れた兵士でも即座に真上に銃撃するのは難しい」
相手の団員が遮蔽に隠れた後、私は遮蔽を足場に跳躍し、頭上を取った。
ACでの戦闘でも、頭上を取ればかなり優位に立ち回れていたし、逆に真上を取られると、厳しい戦いを強いられた。
前者は《ジャガーノート》、後者は《シースパイダー》や《アイビス》など。
「いやぁ…お見それいたしました」
あぐらをかいたまま、拳を作った両手を地面に突き、頭を下げる団員。
「あはは…これだけ強いと、頼りたくなっちゃうねー」
「…例の仕事?」
朝食の前に、リーダーに教えて貰った情報だ。
多くの武器類を搬出していたあたり、かなり厄介な仕事ということだろうか。
「あー…まあ、そうだな…でも、それはリーダー次第だからなぁ…」
「リーダーね、仕事には絶対にレイちゃんを巻き込みたくないって言ってたんだー」
今朝、起き抜けに話し掛けた団員が、質問をはぐらかした理由が分かった。
その後のリーダーの素っ気無い答えも、私を巻き込まないように気を遣ってくれたということか。
「…その仕事って、そんなに厳しいの?」
私の質問に、二人は微妙な表情をする。
「いやまあそうだな…結構、相手も逼迫しているというか、逼迫してる今が叩き時って感じで…雇い主も結構な大物でな。失敗は許されないんだよ」
ここまで言っても、具体的な名前を言わないあたり、それが逆にヘルメット団の必死さが垣間見えた。
だが、これ以上、彼らに詰め寄る訳にはいかない。
「そう…教えてくれてありがとう」
これ以上、首を突っ込むとしたら、私自身がリーダーと話をつけなければ。
そして、その話を聞いた上で、選択すれば良い。
その後、一時解散となり、私は汗や汚れをシャワーで落とした後、すっかり慣れ親しんだ天幕へと戻った。
天幕を支える支柱に背を預け、思考を巡らせる。
今回の戦闘で分かった事がある。
分かったことと言うか、感じたこと、と言うべきか。
このキヴォトスでの体での戦闘は、とても慣れ親しんだ、感覚的に馴染みあるものだった。
そう、それはまるで、ACに乗って、戦闘をしているかのような、そんな感覚だった。
この肉体そのものが、ACになったかのような、心地良さ、全能感と言うべきか。
銃の反動も、片手で扱えない程ではなかった。
このまま、ARとSGの二丁持ちで問題ないだろう。
残る当面の問題は──。
「服と靴、か…」
という訳で、キヴォトス最初の戦闘訓練でした。
レイヴンはまだまだ、本人の自覚していない力を秘めています。
力の解放をお待ちください。
ジンオウガにはなりません(多分)