皆さんが親の顔より見たであろう導入
やはり安定と言うか、キヴォトスならやっぱり街中より荒野的な場所に出した方が扱い易い…
…621、仕事は終わったようだな。
お前は自ら選び、俺たちの背負った遺産を清算した。
すまない、そして感謝しよう
621。
お前を縛るものは、もう何もない。
これからのお前の選択が…
お前自身の可能性を広げることを祈る。
「ウォ…ル…ター…」
意識がある。
コーラルの流れに呑まれたはずなのに、私は、個としての意識を取り戻した。
だが、それと同時に、頭の内側に爪を立てられているかのような激しい頭痛、耳鳴り、全身の激痛が襲い掛かる。
「──ガッ…!?あ゙ぁッ…!はあ゙っ…!?」
おかしいおかしいおかしい。
私は強化人間。
痛覚などとっくの昔に失ったハズ。
視界に映る夜空が涙でぼやける。
…視界?涙?
私は今、生身で、肉眼で世界を見ていた。
そして、今、私は地面に仰向けでのたうち回っている。
地面の感触を認識できる。
のたうち回る際に擦れる音、砂利の音が聴こえる。
五感を取り戻している。
身体の、手脚の感覚がある。
なぜ?どうして?
そんな疑問が浮かび上がり、それが解消する暇もなく、次の問題が発生する。
激しい、唸るような音が聞こえる。
激痛に苛まれ、混乱する脳であっても、それが何らかのエンジン音であると判断する。
同時に、地面を擦るような音と重いものが揺れる音から、それが車両であることを理解する。
その音は暫く真っ直ぐ進んでいたが、突然、こちらへと向かって来た。
恐らく、私の存在に気付いたのだろう。
敵か。
少なくとも、味方であるはずがない。
得体の知れない相手を前にこのままではマズい。
何処かへと逃げなくては。
ガンガンと脳を直接殴り付けるような頭痛と、筋肉痛を何倍にもしたような全身の激痛を歯を食いしばって堪え、どうにか起き上がる。
全身から汗が滴り、砂の地面に落ち、染みを作る。
視界に入る両手はくまなく包帯が巻かれていた。
この分だと、全身を包帯が包んでいることだろう。
だが、今はそんなことはどうでも良い。
正体不明の存在は徐々に近付いて来ている。
逃げるか、隠れるかしなければ、今の私では何もできない。
周辺には、私が乗っていたはずの機体も何も無い。
私の身一つだ。
音が向かって来る方とは逆の方へ、ぼやける視界の中、遠くの岩山を目指して体を引き摺って這う。
起き上がることは出来ても、立ち上がることは出来ない。
激しい頭痛と共に襲い来る眩暈、全身の激痛があっては、体勢を崩して転倒するのがオチだ。
今はとにかく、少しでも遠くへ。
逃げて、生き延びて──。
“──生き延びて…どうする?
お前にはもう何も無い。
お前のそばには誰もいない。
のうのうと生き延びて何になる?”
黒い影が私を見下ろす。
それは、私だけが見る幻。
幻影。
ほんの一瞬、進みが止まる。
だが、すぐに無視して進み始める。
“無駄に生き恥を晒すくらいなら戦いの中で死ね。
多くの生命を奪い、殺して来たお前に、安寧は訪れない。
最期まで、死ぬ瞬間まで、お前は戦い、奪い、殺す、そういう人間だ。
いや、人間ですらない、獣だ。”
その黒い影は、赤く眼を光らせる巨大なカラスの姿をとって、私を啄む。
それを振り払うように、一歩にも満たない歩みを進める。
“戦え、そして、殺せ。
それが、お前が生きている『意味』だ。”
違う。
“いいや、何も違わない。”
私は、そんなんじゃない。
ウォルターが私に与えてくれた“意味”は、もっと違うものだ。
別のものだ。
問答を繰り返している内に、車両の音はすぐそばまで近付いて来ていた。
“さぁ、殺せ。
かつて、あの燃えた星でそうしたように。
腕が千切れようが、脚がもげようが、死ぬまで戦え。
抗い、牙を剥き、死の瀬戸際まで、その喉元に喰らい付け。
逃げることは許さん。”
車両が少し離れたところで止まり、扉の開閉音と共に、幾つかの足音が届く。
その足音は私に向かって近付いて来る。
頭の中で声が響く。
私にしか聞こえない幻聴。
それが、戦いを殺しを囁く。
頭痛と合わさり、意識が朦朧としている。
夢と現の判別も付かず、曖昧となった認識の海の中で揺蕩う。
全ては夢なのかもしてない。
「おい!あんた!大丈夫か!?」
今のこの状況も、星を灼いたことも、みんなを殺した事も。
全部全部、長い永い夜の夢だったのだ。
きっと、そうに違いない。
「しっかりしろ!?くっそ、ひでぇ熱だ!おい!車に乗っけるぞ!!」
きっと、目が覚めたら、全部元通りなんだ。
みんな、みんな、きっと、生きていて、いつも通り──。
621を助けたこの集団は一体…!?
乞うご期待!!
カラスくんはあれです。
殺意と闘争心の権化的な奴です(曖昧)