元の世界に無かった武器、兵器に戸惑いつつも元帝国軍人たる彼は刀を抜いて前線に立つ。
「ギュメイ先生、聞いていますか?」
「むっ…ん?誰だ?」
うつらうつらと船を漕いでいたところ誰かに揺り起こされた
「誰って…疲れているのは分かりますが寝ぼけないでください」
「…いや、すまない。状況がよく理解できないのだが」
確か女神の果実を探すためにキヴォトスに行くと列車の中で話を──っ?誰と話したんだったか…
「…分かりました、改めて状況説明を」
青い光輪を浮かべた謎の女性はため息混じりに説明を始めた
まず今いる場所はすでにキヴォトスであること、なぜ我がここにいるのかは彼女もよく分かっていないこと、そして大至急この学園都市のためにやって欲しいことがあるということを彼女、七神リンから聞くことができた
「こちらです」
リンが手招きする
…目的はあくまで女神の果実の捜索であり他事にかまけている場合では無いのだが…ここに来たばかりで右も左も分からない以上はとりあえず着いていくしか無いだろう
昇降機のような機械に乗って下へと降りていく
ガラス張りで外の景色が見えるが…一目で分かる。なるほど別世界だ
「キヴォトスへようこそ、先生
元いた場所とは勝手が違い、慣れるには時間を要するでしょうが…
あの連邦生徒会長が選んだ方なら心配ないでしょう」
初対面なのにかなり信頼されているようだ、どうやら連邦生徒会長というのは相当信の厚い人物らしいが少なくとも我に会った記憶はない
というかそもそもとして
「リン行政官、お前は我が怖くは無いのか?」
今の我は300年前とは違う、エルギオスの力によって蘇った魔獣体だ。
おまけに帯刀もしているから普通は恐れるものだが
「? どこがですか?」
「え?」
「ああ、外見のことを言っているのなら気にしないでください
先生の世界でどうなのかは知りませんがキヴォトスでは珍しくないので」
「そうなのか?」
「はい。…着きますよ」
昇降機が止まり扉が開く
そこには──
「あっ代行!待ってたわよ!連邦生徒会長を…うわっ!誰ですか!?」
子供の人だかりができていた、髪の色や服装もバラバラで共通しているのは全員余裕が無さそうに見えることと──
…あれはなんだ?杖や剣では無さそうだが
奇妙な形をした黒い筒を持っていることくらいだ。持ち手にボウガンのような引き金が付いているが肝心の矢が見えない
切羽詰まった時に玩具を持ち出す奴はいないだろう。…とすると我の知らない武器か、気になるな
「先生、彼女達は敵ではありません
…ので殺気を抑えていただけるとありがたいのですが」
「む、すまない」
いかん、子供相手に何をしているんだ我は
未知の兵器を前にして無意識にも刀へ手をかけてしまっていた、反省せねば
「あ、いえ別に──そ、そんなことより首席行政官!」
「分かっています、今学園都市に起きている混乱についてですね」
「分かってるならなんとかしなさいよ!連邦生徒会でしょ!
あちこちの学園自治区が混乱に陥ってるのよ!ウチなんか風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
青髪の少女が捲し立てるのを皮切りに次から次へ『今どんな問題が起きているのか』をリンに訴える子供たち
…自分では解決できない問題に直面して焦るのも分かるがこれだけ一度に訴えたところでどうにもならないと思うが
が、我はここに来て30分も経っていない。もしかしたらその訴えが真っ当な手段なのかもしれない…そう結論づけて口を挟むのをやめておく
「この状況で連邦生徒会長は何をしてるの!?すぐに会わせて!」
「連邦生徒会長は…今席におりません。正確に言えば行方不明です」
「「「!?」」」
行方不明、だと?
「『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です」
次々出てくる知らない単語を可能な限り脳裏に収めつつ成り行きを見守る
「認証を迂回する方法を模索していましたがそのような方法は先ほどまで見つかっていませんでした」
「では今は方法があるということですか?」
「はい、この先生こそがフィクサーになってくれるはずです」
と、それまで蚊帳の外だと思っていた先生…ギュメイに生徒たちの視線が集まる
「待て、我がか?」
「そ、そういえばこの先生はどちらさま?
ここで何をしてるの?」
「こちらのギュメイ先生は連邦生徒会長が特別に指名したキヴォトスの先生として働く方です」
「行方不明になった連邦生徒会長がどうして指名できるのよ…?ますますこんがらがってきたじゃない!」
なぜかなし崩し的に自分が先生として働くことが決まっていっているが…女神の果実を見つけるまで金や宿が無いのは困る、やむを得ないがここは彼女達の言う《先生》として動くべきだろう
「これからシャーレで教師として働くギュメイだ、よろしく頼む」
「こ、こんにちは先生、私はミレニアムサイエンススクールの早瀬ユウカです」というかその刀本物ですか…?
「話を戻します、先生は元々連邦生徒会長が立ち上げたある部活の担当顧問としてこちらに来ることになっていました
名は『連邦捜査部シャーレ』…
単なる部活ではなく超法規的機関で連邦組織のため全学園の生徒たちを制限なく加入させることができる他、各学園の自治区で制約無しの戦闘活動を行うことも可能です」
っ?!今とんでもない話が聞こえたぞ…!?
学園都市というからエルシオン学園のようなものが集まった街かと思っていたがとんでもない
戦闘行為云々などと言うからには喧嘩では済まない度合いのものがあると考えていいだろう
しかもシャーレには制限無しの戦闘活動許可…つまりいつどこで誰に攻撃を仕掛けようと合法ということになる
街中でメラゾーマを撃とうが鉄球を振り回そうが咎められることは無いというわけだ
…それによって発生した損害についてどう対処するのかはまだ分からないが
「シャーレの部室は約30km離れた外郭地区にあります、連邦生徒会長の命令でその地下に運び込まれた『とある物』…その場所まで先生を連れて行かなければなりません」
明らかにいち組織に持たせていい権限では無い、もしゲルニックがここにいれば目の色を変えて大喜びで引き受けるだろう
しかし考えようによっては利点も大きい、女神の果実によって暴走した事例は(ゲルニックが)世界各地に送り込んだ諜報員によっていくつか判明しており、止めるためには間違いなく刀を抜かなくてはならない
その度に咎められてはたまったものではないがシャーレの権限があればその心配は無い
「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なのだけど」
『シャーレの?あそこ今大騒ぎになってるけど?矯正局を脱獄した生徒が騒ぎを起こして戦場になってるよ』
「うん?」
『地域の不良達を扇動して、巡航戦車まで持ち出してさー…あ!お昼ご飯のデリバリー来たからまたあとで連絡するねー』
あとの問題は情報の集め方か、流石に我1人で右も左も分からない土地を探すのは無茶だが何かいい方法は無いか…
「………」プルプル
「! り、リン行政官?」
しまった、全く話を聞いていなかった…明らかに怒っている
「──いえ、大したことではありません
ちょうどここに各学園を代表する立派で暇そうな方々がいるので心強いです」
「え?なんで私たちを見て「キヴォトス正常化のため、暇を持て余した皆さんの力が必要です
行きましょう」
明らかに不機嫌なリン行政官に連れられ、ギュメイと何人かの生徒はその場を後に。
そして辿り着いた先は
「なにこれ!なんで私たちが不良と戦わないと行けないの!?」
文字通りの『戦場』であった
「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためにシャーレの部室の奪還が必要ですから…」
「それは聞いたけど…いたっ!痛たっ!あいつら違法JHP弾使ってるじゃない!?」
「………なるほど」
『先生は危険だから』という理由で一歩手前の安全化されたエリアで様子を見ていたが少しずつ分かってきた
まず彼女達が使う武器は『銃』といい、我の世界でいう剣や弓と同じくらい普及している武器らしい
引き金を引くと矢の代わりに小さな鉄の塊が発射され、それを当てて相手を殺傷するというもの
もっとも今のユウカのように当たっても致命傷になることはあまり無いらしいがキヴォトスの人間が頑丈なだけで外から来た我には脅威になり得るそうだ
…ただあの程度の弾丸なら斬るのは容易いだろう。視覚外、意識外からの弾丸にさえ注意すれば我に当たることはない
先ほど少し出てきてすぐに退いた戦車という車も問題は無い。むしろ弾も本体も大きい分斬り易そうだ
リン行政官から貰った地図で現在地と目的地を再度確認。
………この軍勢を突破すればすぐだな
「羽川ハスミ…だったか?」
「? はい、私ですが」
「お前達のおかげで少しだけこの世界に慣れた、あとは我が斬り進むから下がっていろ」
「え?あの…先生!?危険ですから下がってください!」
「構うな、我の方が強い
…ところでこの敵対している者達は全て斬り捨てていいのか?」
「斬り捨てっ…?いやダメです!いくら不良とはいえ殺すのはダメです!」
「相分かった、武器だけ斬り捨てる」
何考えてるんですか!?と狼狽える彼女を宥めつつ前に立つユウカ達の元へ
「っ??先生!?何してるんですか危ないですよ!」
「大丈夫だ、それよりも伏兵がいないか確認だけ頼みたい」
「ちょっ、せんせ…」
「…あ?誰だお前」
「生徒じゃないみたいだが…」
「………参る」
陛下から賜った刀を抜き、敵対者達と相対する
何か揉めていたようだが一足早く持ち直した1人が銃を連射してきた
撃たれた20数発の弾丸を残らず叩き落とし急接近、驚く間も与えず銃だけを斬り捨て峰打ちで眠らせる
別に気絶させられるなら銃を斬る必要は無いが…復活されて背後から撃たれても困る
まだこの世界の人間について大いに計りかねているところが多い、安全策で行くべきだ
残る不良達は何が起こったのか理解できないといった様子で立ち尽くしていたがそれを黙って見ているほどギュメイはお人好しでない
銃を斬り、峰打ちで眠らせ、時には軽い打撃などもおり混ぜ次々と不良の死体──ではなく無力化した生徒を作っていく
「何をしたんだ?アイツはなんだ!?」
「戦車を出せ!この猫野郎を吹き飛ばせ!」
怒号に引かれるように奥から戦車が出てきた
あれはさっき見た…流石にあれだけ分厚い鉄は本気でやらねば斬れんな
「撃て!」
誰のものか分からない号令で砲弾が撃ち出されるもギュメイにとってはただちょっと大きな的が飛んできたにすぎなかった
「『マヒャド斬り』」
冷気を帯びた一太刀が火薬の詰まった榴弾を両断。氷漬けとなって機能停止したそれらが荒れた道路に転がる
「そんなバカな!?」
2発目、3発目と撃ち出されるそれらを同じように斬っていく。そして4発目が撃たれようかとした時
戦車は、剣士の射程距離に入ってしまった
「行くぞ」
それまで左手でしか振らなかった刀に右手を添え、内部に人の気配が無い位置へ狙いを定める
本来大振りで狙って当てられる剣技ではないが戦車のように鈍重な相手なら別だ
「うわっ!うわわっ!?」
戦車という鉄の塊が間にあるにもかかわらず搭乗していた生徒はギュメイの気迫に押され、あっさりと逃走
だがすぐにこの行動が正しかったと敵味方全てが認識することとなる
「………」
斬るべき場所、通すべき太刀筋、振り下ろした後の光景を予知のようにしっかりと視て──
『魔神斬り』
戦車を両断した
ギュメイ将軍に頭を撫でて欲しい作者のルルザムートです、ハイ。
というわけでギュメイ将軍、早くもキヴォトスに適応し始めました
とはいっても本編先生のような指揮はできません
三将軍最強の彼ではありますが個人的考察として彼は兵を率いて戦ったり、指揮を取ったりするのは不得手だったと思ってます
三将軍はあくまで『将軍』であり、ガナン軍内において特出した強さの他に軍を率いる力も必要かと思われますが牢獄を取り仕切っていたゴレオンや、世界を飛び回って暗躍したりてっこうまじんを従えて戦うゲルニックと比較して彼には彼の横に立つ仲間がいません
つまり将軍としての対軍知識や戦術に疎く、その点では将軍任命の望みは薄かったが、それを補って余りある剣技で強さだけで三将軍の一席を取ったと考えたらロマンを感じないだろうか?
また本編のガナン帝国城前でのゲルニック戦でも『忌々しいがギュメイ将軍がいれば城の守りは万全』だと言っていたがこの《忌々しい》はゲルニックがあの手この手で掴み取った三将軍の一席を刀一本で手に入れ、あまつさえ自分より上に立たれたことによる嫌悪感では無いかという妄想です