サムライ8の化身が鬼殺隊で無双していースか?   作:ルシエド

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コソ コソ 投稿


"藤岡弘、の『、』"を失ったな……

 鬼殺隊のトップ、お館様こと産屋敷耀哉は、鬼という災厄に立ち向かう思考は、大きく分けて二種類あると考えていた。

 

 一つは、「全て救われてくれ」と思う心。

 全てを守ろうとする青臭い信念。少年の隊士などに多く見られる。

 鬼舞辻無惨を倒し皆を救い守る、鬼に殺されていい人間などいない、犠牲にしていい命はない、皆鬼舞辻の被害者でしかない……といった考えなどがここに入る。

 

 その考えは時に非現実的すぎて、失敗してしまうこともある。

 皆に救われてほしいという、ごく当たり前に人が持つ心。

 

 もう一つは、「一つでも多く救われてくれ」と思う心。

 全てが救われることを諦めている信念。成人の隊士などに多く見られる。

 死者を一人でも減らす、全員救えなくても救える人を一人でも増やす、無意味に思えても一人一人救っていく、かわいそうでも鬼は救えないから殺す……といった考えなどがここに入る。

 

 その考えは時に現実的すぎて、全て救えたはずなのにいくつか取り零してしまうこともある。

 救えない人は絶対的に存在するという、ごく当たり前の世界の条理を知る心。

 

 八八達が解決した案件は、もう前者の考えが適用できるようなことではなくなっていた。

 

 地下人間牧場から救い出された人間の内、何人かは鬼殺隊に感謝の言葉を残し、救われたことが嬉しかったことを遺書にしたため、自殺した。

 家畜扱いされ、"そういうこと"を繰り返させられたことは、女性に生きていたくない気持ちを、男性に死を選ぶ罪悪感を与えていた。

 そして、死んだ人間よりも多くの鬼殺隊入隊志望者が現れた。

 

 目の前で大切な人の尊厳を踏み躙られた者。

 自分が加害者となってしまったと思い込み、罪滅ぼしに鬼との戦いに臨む者。

 ただ純粋に鬼を憎む者。

 自分と同じような人間を生み出したくないと決意した者。

 兄が鬼殺隊に入ろうとし、放っておけなくてついてきた者。

 家族をさらわれ、家族が痛めつけられ、挙句に自殺したことを知った親族も来た。

 誰も彼もが、鬼を殺す強い意志をもって、鬼殺隊に入らんとしていた。

 

 産屋敷は、彼らの入隊希望の意志を直に聞いた。

 それを聞きつけた八八がやって来て、産屋敷に跪き、深々と頭を下げる。

 八八は彼らの入隊の意志を否定しなかった。

 その意志にある正当性を認めていた。

 その上で八八は、彼ら全員に"思い直すきっかけ"を手渡したかった。

 

「鬼殺隊に入るかどうかについて、彼ら全員と一度話したい……そういうことだね」

 

「左様」

 

「鬼殺隊に入るのを思い留まるよう、一度は説得しておきたいということかな」

 

「お前もいずれ分かる時が来よう」

 

「肯定と受け取るけど……さて」

 

 鬼殺隊に入り、鬼と前線で戦おうとするならば、その多くは死ぬ。

 才能があっても死ぬ。

 死ななくても身体欠損や心的外傷が死ぬまで残ることもある。

 きっと、幸福になることは望めない。

 彼らに入隊を思い留まるよう言える人間が居るとすれば、それはあの地下の世界から、鬼に玩具にされていた人間を救った者以外には居ないだろう。

 

 これは自分が果たすべき責任の一つであると、八八は考えていた。

 

 八八は思う。

 どっかで所帯でも持てばいいと。

 家族増やして爺になるまで生きてれば良いと。

 幸せになれなかった人の分まで幸せになれば良いと。

 そこに鬼なんて来させないのが、鬼殺隊に入り、戦う力を磨き、鬼と戦うことを選んだ人間の果たすべき責任であると、八八は思っている。

 『尊敬できる仲間』が、かつてそう言っていたから、八八も"それが望ましい"と言う。

 八八の中には、周囲の仲間が残した影響が、目に見えない形でいくつも残っていた。

 

 そう思うが、そうできなくて、戦いを選ぶ人間が居ることも知っている。

 説得は駄目で元々、と考えていた。

 

「忘れられない恨みを抱えて、普通の生き方を選ぶのは、幸福なのかな?」

 

「そうとも言えるし、そうでもないとも言える」

 

「……だろうね。分かった、私から連絡を回しておくよ」

 

「かたじけない」

 

「ただその時は、誰か話の上手い子を連れて行きなさい。

 八八はこう……ごく自然に相手を煽る時があるからね」

 

「そうとも言えるし、そうでもないとも言える」

 

「そういうところだよ」

 

 産屋敷は苦笑する。

 

 八八は頭を上げ、立ち上がり、部屋を出る時にもう一度産屋敷に頭を下げて行った。

 

「む」

 

 そして部屋を出て少し歩いたところで、一人の男と出会った。

 男は大きかった。

 身長178cmはある八八だが、その男はゆうに2mを超えており、その顔を見るには見上げなければならないほどに大きかった。

 身長220cmに到達するその巨体は、平成と比べると平均身長が10cm以上低いこの大正の時代において、『今生きている日本人の中で最大の体格』と言っても何ら過言ではない。

 

 その男と目が合い、八八は一も二もなく駆け寄った。

 

「し……師匠!」

 

「私は君の師匠ではないが……」

 

「その筋骨隆々とした巨体……間違いない……

 鬼殺隊最強にして拙者に鬼殺隊での振る舞いを教えた師……

 鬼殺隊を支える柱、『岩柱』と呼び称される戦士、悲鳴嶼(ひめしま)行冥(ぎょうめい)……」

 

「ううむ」

 

 男の名は『悲鳴嶼行冥』。

 僧のような装い、巌のような体躯、光を失った瞳が印象に残る男。

 鬼殺隊の戦力の頂点である柱の中でも、間違いなく最強である男。

 かつてちょっと善意から八八になんでもないことを教え、以後八八から師匠扱いされるというとてもかわいそうな男であった。

 

 「え、あの人八八さんの師匠なんだ……うわぁ」と言われても全く気にしていないことが、この男の寛容さ・優しさ・心の強さの証明である。

 「師匠呼びはやめろ」と言っていない時点で、素晴らしき人格者であることが確定していた。

 ゆえにか、八八も敬意を向けていた。

 

「もうとっくに"オレの師匠"ってキャラ付けは追加されてんだろ!? 悲鳴八師匠!」

 

「いつも思うが私のどこが気に入ったのだ?」

 

「目が見えない強者なところ!」

 

「……本当に変わった子だ」

 

 目の見えない師匠。八八はそこに"勇"を見た。

 

「頼み事があるのだが、話だけでも聞いてもらえるだろうか」

 

「ウワサ通りいい頼み方だ! ついていこう!」

 

「……頼み事の内容を聞く前に了承するのはやめなさい。痛い目を見やすくなってしまう」

 

「ウワサ通りいい気遣いだ! ついていこう! 拙者お前の中に"優"を見た」

 

「むぅ」

 

 悲鳴嶼は言葉に困った。

 彼は口が上手いわけではない。

 語録への対応力が高いわけでもない。

 サム8言語が何を言おうとしているかは分かるが、何を言っているかは分からない。

 

 分からなかったので、とりあえず八八の頭をわしわしと撫でた。

 

 

 

 

 

 八八は悲鳴嶼が頼み事を言う前に連れて来た少年に、見覚えがあった。

 

「その顔つき……間違いない……

 岩柱悲鳴嶼様の一番弟子にして風柱不死川実弥の弟……

 『兄みたいにスケベな着こなししないんだね』と呼び称される剣士……不死川(しなずがわ)玄弥(げんや)

 

「あ、俺のこと知ってたんですね。

 八八八八さん……って呼んでもいい感じですか。

 ……というかちょっと待ってください、え? 呼び称されてるんですか?」

 

「八八がいいです(スッ…」

 

「ええとじゃあ、八八さんで。というかあの、呼び称されてるんですか俺?」

 

 彼を――不死川玄弥を――八八は何度か見た覚えがあった。

 任務から帰る玄弥を、師の悲鳴嶼に連れられる玄弥を、何度か目にしていたのである。

 八八の記憶では、彼は直近の最終選別……すなわち鬼殺隊の入隊試験で入って来た、新人六人の内の一人であった。

 

 新人の内五人は有能らしく、八八も時々その噂を聞いている。

 ただ、玄弥の話はあまり聞いていなかった。

 それは単純に、八八はまだ知る由もないが……不死川玄弥が、風柱にまでなった兄と違い、欲しかった才に恵まれなかったことに原因があった。

 

「玄弥は継子ではないが、私の弟子だ。そして鉄砲を使っている」

 

「拙者、なんとなく話が見えてきましたよ」

 

「柱に迫る実力者で銃を扱っているのは君だけだ。

 どうかこの少年に、君の持つ銃の技を教えてほしい」

 

「お願いします!」

 

 玄弥が八八に頭を下げ、八八はうむと頷く。

 

「今日より其方は拙者の弟子、金剛夜叉流の使い手だ」

 

「! ありがとうございます!」

 

「あのアタって奴……

 元は師匠の弟子だって言ったよね。

 教えてもらえますか? 君ができること……全部」

 

「……???

 あ、ああ。

 教える前に俺ができることを知りたいってことですね。

 呼吸は使えません。刀と銃がある程度使えます。

 あとはその……あんまり大きな声じゃ言えませんが、鬼を食うと一時的に強くなれます」

 

「鬼の肉を……? もう……散体しろ!」

 

「蝶屋敷で診てもらったんですけど、特殊体質らしいです」

 

 玄弥は鬼殺の剣士の中で最も才に恵まなかった、鬼殺隊唯一の才を持つ逸材である。

 鬼殺隊の基本は"呼吸"。

 呼吸によって鬼に迫る身体能力を得ることで、彼らは呼吸の剣士として戦える。

 だがその才能が、玄弥には一切無かった。

 

 代わりに備わっていたのは、鬼を食う力。

 鬼の肉を噛みちぎり、鬼の肉を消化し、鬼が強ければ強いほどその力を取り込める力。

 『体質のみで鬼殺隊唯一の特異性を持つ』という意味では、八八の同類であった。

 鬼の肉を食うと、玄弥は鬼殺隊第二位の不死身性を獲得できる。

 

 八八の脳内にほわほわと、鬼の肉をカツ丼にして嬉しそうに食う玄弥の姿が想像された。

 

「実はこっそり鬼の血と肉を食べちゃいました! ―――貴様、カツ八か」

 

「カツ八?」

 

「拙者の修行は優しくはないぞカツ八」

 

「え、あ、はい。よろしくお願いします」

 

 話がついたのを確認し、悲鳴嶼は玄弥に一言かけ、去っていく。

 

「精進するように」

 

「はい!」

 

 "紹介してくれた悲鳴嶼さんの期待に応えよう"と言わんばかりに力強く返答する玄弥に、八八は好感を持った。

 

 八八と玄弥は移動し、鬼殺隊が所有する山間の建物と訓練施設を借りた。

 ここは鬼殺隊の訓練に使われる、産屋敷が保有する土地の一角。

 その気になれば、鬼殺隊の多くを一気に稽古することすらできる場所である。

 

「金剛夜叉流の『装』は『装銃技』。

 その昔、極めた者は二丁拳銃で近距離戦、狙撃銃で遠距離戦を行ったという」

 

「へぇ……八八さんの前にも金剛夜叉流の使い手がいたんですね」

 

「? 金剛夜叉流はなんか物心ついた時には使えていた拙者の技だが」

 

「ええ……?」

 

「あとは他の呼吸の剣士の技を習い、対鬼用に少し形を変えて鍛錬したくらいだ」

 

 八八は少し離れた場所に的を置き、両腕を構えた。

 

 その手の中で、握られた刀にバチッ、と光が走る。

 物質の素粒子に対し『接続』と『分離』で干渉するのが侍の力である。

 刀は侍の力で変形し、二丁拳銃と成り、その銃口が光を放った。

 

――金剛夜叉流 拾壱ノ型 二丁拳銃――

 

 訓練目的で調整された弾丸は破壊力を持たず、的の真ん中に命中する。

 

「おお……!」

 

「まずは自分と敵が動いている時の弾の当て方から練習してもらっていースか?」

 

「やってみます!」

 

 八八は普通に自分の持つ技能を玄弥に伝えていったが、その脳裏に「サムライ8……サムライ8よ……修行回は少年誌だと鬼門です……序盤に持ってくると致命傷になりやすいです……一巻で修行回やると博打になります……」という声が響き、八八はそれを無視した。

 『少年が大好きな刀を出して一巻で修行すれば大勝利だ』という揺るぎない確信が、八八の中にはあった。

 八八の銃技を吸収しつつ、玄弥は疑問を口にする。

 

「なんで八八さんあんまり銃使わないんですか?

 噂の"鬼殺隊の侍"が銃使いだなんて話聞いたこともなかったんですが」

 

「拙者は不死身だから不死身の体で接近して切る方が強いのだ」

 

「ああ、なるほど……」

 

「鬼は蜂の巣にしても死なぬが、首を切り落せば死ぬ。そんな厄介な生き物ゆえに」

 

 金剛夜叉流は刀と銃の併用によって戦う流派だが、刀使いの方が強い傾向がある。

 例えるならば、『そうとも言えるしそうでもないとも言える』が刀で、『お前は結論を急ぎすぎる』が銃だ。

 どちらも強いが、できれば強い方を使った方がよい。

 それが、戦いの摂理というものである。

 

「強くなれ玄弥」

 

「そりゃ、強くなりたいですけど」

 

「お前の死を望んでいない家族が居る」

 

「……!」

 

「悲しいことに、兄と弟であるのに、まともに言葉も言えぬのだ」

 

「えっ……八八さんがそれを言うんですか? 鬼殺隊で一番言語おかしいのに?」

 

「悲しいことに、兄と弟であるのに、まともに言葉も言えぬのだ」

 

「あっはい」

 

「大切なことは目に見えぬ。心眼を鍛えよ」

 

 不死川兄弟の関係は複雑である。

 八八はそれを察してはいるが、今のところ何もできない。

 八八は不死八をガチギレさせることしかできないからだ。

 ガチギレ不死八の荒っぽい顔を思い出し、八八は連鎖的に一つ、思い出す。

 

 八八が前に見た時、不死川玄弥は、かなり荒っぽく見えた。

 追い詰められていたと言うべきか。

 余裕がなさそうだったと言うべきか。

 何にせよ、ここまで落ち着いてはいなかったし、年上に敬語を使う印象もなかった。

 何かあったのだろうかと、問いかける。

 

「"威圧感"を失ったな……前に見た時はもっとギラギラしていたと思ったが」

 

「あー……すみません、あの頃は俺もちょっと……」

 

「責めてはいない。お前は結論を急ぎすぎる」

 

「胡蝶姉妹のお二人居るじゃないですか。

 悲鳴嶼さんが昔鬼から助けて、それで鬼殺隊に入ったらしいんですよね。

 なんか時々仲良さげに話してます。

 で、俺も鬼喰いしてたから、姉妹に体診てもらえって紹介されて……

 それで姉妹のほわほわしてる姉の方と話してたんですけど、なんか毒気抜かれてて……」

 

「流石はカナエ姫。拙者感服致した」

 

「本当に気付いたら毒気抜かれてたんですよ。

 焦りとか、余裕の無さとか、そういうのがいつの間にか消えてたっていうか……

 話してるだけで落ち着いてたっていうか……あの人が優しいからかなって思います」

 

「うむ」

 

「年上にも敬語使わなくちゃなーって思って。

 多分、気付いたらカナエさんのこと尊敬してて、敬語使ってたんです」

 

 しの八の姉、胡蝶カナエ。鬼殺隊の戦力頂点、柱の一人。

 その穏やかな微笑み、優しい語り口、柔軟な姿勢は誰からも好かれ、性格に問題のある柱などの仲裁を行うことも多い人格者。

 そして、鬼殺隊一の美人との呼び声も高いえげつない美女でもある。

 

「カナエ姫は顔が良いからな。恋とまでは行かずとも、男の多くが好感を抱くは当然」

 

「……………………………いや、別に」

 

「照れる必要もない。

 拙者もそういう時期が……無かったが。

 大体の人間にはそういう時期がある。

 お前の兄の不死八も……仲良く無いので知らないが多分あっただろう。

 思春期というやつだ。恋を理解するには銀河の状況を理解する必要がある。少し長くなるぞ」

 

「…………………………………………………………いや、別に」

 

「美人の上の口にも下の口にも口付けしたそうな姿、オレにとっては一番侍らしく見えるよ」

 

「悲鳴嶼さんが言ってた男だけの会話ではふざけるってこれか!

 八八さんの言動って本当に読めねぇなぁ! 勘弁してください!」

 

 童貞を絵に書いたような、漢不死川玄弥。

 この話題を継続するのは危険と判断し、話題を強引に切り替えにかかった。

 

「そういえば八八さんって呼び方結構違いありますよね。

 名前で呼んだり、何何八だったり、何何姫だったり。

 大まかにどういう仕分けしてるかは分かるんですが、なんで悲鳴嶼さんは姫八なんですか?」

 

「……いや悲鳴(ひめ)八師匠は別に姫ではないのだが」

 

「……あ、ああ、そういう? すみません、なんか今凄い勘違いしちゃったみたいで」

 

「悲鳴八師匠の顔は姫の対極だろと言っていースか?」

 

「んんんフッ」

 

 修行は続く。

 八八が自分の銃を渡し、弾数無限の銃を三時間休憩無しで撃ち続けさせ、『ヘトヘトになっても的に当てられる技能』を仕込んでくるものだから、玄弥もまるで手が抜けない。

 だが、全力でやっている分、身に付いている感覚もあった。

 

「もう昼か……休憩だ。食事にしよう。鬼の肉のカツ丼でいいな? 作ってこよう」

 

「カツ丼にする意味は?」

 

「最終選別会場の藤襲山に行けば鬼の肉も穫って来れる。

 カツ八はどのくらい食う人間だ? 拙者は肉だけなら200gほど、後は米というのが好ましい」

 

「ステーキの食える量を聞くみたいに聞かないでください」

 

 動く。

 休む。

 食う。

 八八の修行は基本的にこれの繰り返しだった。

 動きは最適であればあるほど良い、休みはしっかり休めるのが良い、飯は美味い方が良い……そんな理屈で構築される、サム8メソッドトレーニング。

 鬼の肉のカツ丼が美味いことに果てしなく複雑な感情を抱きながら、玄弥は鬼の肉を食ったことで能力をブーストし、鬼食いの力も込みでの戦術を教えられていく。

 それは、"不死性"を使いこなす戦術だった。

 

「カツ八! 上半身と下半身がバッサリ切り離されたらまずはこの動きだ! よく覚えろ!」

 

「お、おおう、わ、わかりました」

 

「たとえ上半身だけになっても、逆立ちで走ればまだ戦える、それが鬼殺隊―――!」

 

「……あの、これ、俺と八八さんは使えても他の鬼殺隊士は別に使えないんじゃ……」

 

「それが鬼殺隊―――!」

 

「うっ……そ、そうですね、そのくらいの覚悟で……!」

 

「やっと()()()なってきたな」

 

 八八は自分で自分の胴を切り、下半身を切り落とし、上半身だけで逆立ちで動き回り、その状態から刀や銃を振るって見せる。

 鬼殺隊で彼以外誰も持っていない技術と言えるだろう。当たり前だが。

 八八のこの技を、玄弥だけが継承できる。

 強い鬼の肉を食えば、上半身と下半身が切り離されても、押し付ければくっつくからだ。

 

 胴を切断した時の一瞬、痛みに耐える表情をした八八を玄弥は見逃さなかった。

 八八はかっこつけて笑み、余裕の表情で体の各部を切り離されてからの移動・防御・攻撃の基本技術を玄弥に教えていく。

 八八は自分の痛みを語らなかった。

 玄弥はその痛みを指摘しなかった。

 二人は共に、不器用だった。

 

「強くなれますかね、俺」

 

「いや……修行はものすごく時間がかかるのだ」

 

「……ですね」

 

「だが拙者は心眼で見た。

 この眼は時として全てが見える時がある。阿吽がな。

 お前が拙者に頭を下げた時、拙者は見たのだ。

 銃を持ち、兄と共に力強く立っている立派なお前の姿を……」

 

「! 俺は……兄貴に認めてもらえる……?」

 

「そうとも言えるし、そうでもないとも言える」

 

「なんでそこで曖昧にはぐらかすんです?」

 

「この世界に絶対はない」

 

「……この脱力感と徒労感……これが噂の……」

 

「まだまだ心眼が足らぬ。

 古き『武家書法度』にもある『サム8取らず』だ。焦るな、一つずつでよい」

 

「そうですね、虻蜂取らず……あれ待って今虻蜂取らずって言いました?」

 

「うむ」

 

「あれ……? 聞き間違いか……」

 

 聞き間違いだったみたいですね。

 

 

 

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