急成長を続けて、10兆円企業に向けて突っ走るユニクロ。なぜ業績が伸び続けるのか?その背景に、どんな経営戦略、組織戦略、育成戦略があるのか?同社の元執行役員で『ユニクロの戦略』著者の宇佐美潤祐氏に聞いた。 宇佐美潤祐 | 『ユニクロの戦略』著者 戦略コンサルティング業界を経てファーストリテイリングの...
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組織が持続的な成長を続ける上で不可欠なのが、次世代リーダーの育成である。しかし、特に創業者などカリスマ的な経営者が率いる企業においては、「トップの器を超える人材が育たない」という課題を抱えがちだ。グローバル展開を加速させ、今や世界的な存在となったユニクロもその一つ。カリスマ経営者として知られる柳井正氏の元で、どのように次なる「未来の幹部」を育成しているのだろうか。その人材育成哲学と、それを支える具体的な仕組みに迫る。
ユニクロの幹部育成の主眼は、ひたすら「試練(タフアサインメント)」を通じて成長を促す点にある。座学ではなく、実践を通して経営者を育成するという強い意思の表れと言えるだろう。また、柳井氏の後継は特定の個人ではなく「チーム経営」を想定しており、GE流の「9セルマトリックス(バリューとパフォーマンス)」を用いたサクセッションプランニングを導入し、13名の後継者候補を選抜した。
ミシガン大学のノエル・ティシー教授の知見を取り入れ、体系的な育成プログラムを構築。このプロセスで、個々の候補者の強みと成長課題を明確にし、それぞれに最適な育成計画を設定している。柳井氏が単独で後継者を指名するのではなく、客観的なデータと戦略的なプログラムに基づいて未来の経営陣を育てているのが特徴である。
柳井氏の「人間25歳ピーク説」とは、25歳になれば経営を担えるほどの能力を身につけられるという考えである。これは25歳で能力が頭打ちになるという意味ではなく、若いうちから経験を積ませれば経営者としてのポテンシャルが備わるという信念を意味する。この考え方に基づき、ユニクロでは若手を積極的に抜擢し、実力以上の大きな仕事、いわゆる「大きい服」を着せることをカルチャーの柱としている。
これにより、与えられた「大きい服」に体が合うように、本人が必死に努力し急成長する環境が意図的に作られる。例えば、現ユニクロCEOの塚越氏は、長年赤字を垂れ流していた米国事業の立て直しという、非常に困難なタフアサインメントを任され、見事にV字回復を達成。この大きな試練を乗り越えた実績が評価され、CEOに抜擢された事例は、この育成哲学を象徴している。
ユニクロの役員評価において、最も特徴的な改革の一つが「利益責任50%、育成責任50%」という制度の導入である。これは短期的な業績達成と同等に、次世代の人材育成が重要であるという強力なメッセージを発し、役員の行動変容を促すことを目的としている。
具体的な育成の仕組みとして、「未来プロジェクト」と「フューチャーグローバルリーダーイニシアティブ」がある。未来プロジェクトは、20代後半から30代の若手社員が自ら手を挙げて経営課題解決を提言する選抜プログラムだ。ここで見出された「金の卵」たちが、3年間で役員レベルへと即成栽培されるフューチャーグローバルリーダーイニシアティブへと進み、加速的に経営幹部へと育っていく。
育成責任の評価は、役員が指名する約3名の後継者候補(サクセサー)が、実際にどれだけ成長・昇格したかで測られる。この仕組みでは、柳井氏自身も後継者候補のパフォーマンスを把握しているため、役員による甘い自己評価は通用しない。部下を育成できない上司は評価されないため、役員たちは本気で次世代リーダーの育成に取り組まざるを得ないのである。
ユニクロでは一度の失敗でキャリアが終わることはない。日本の一般的な大企業における「人事の下方硬直性」とは異なり、降格も当たり前に行われる。しかし、それは決して人材を見限る行為ではなく、むしろ失敗から学び、再挑戦を促す文化が根付いている。降格しても、そこで腐らず次のチャンスで成果を出せば、再び大抜擢される「敗者復活」が日常茶飯事となっている。
例えば、現GU社長の柚木氏は、過去に野菜事業で約30億円の赤字を出したが、柳井氏から「その30億円を倍にして返すまで辞めさせない」と叱咤され、再挑戦の機会を与えられた。その後、GUの立て直しを任され、年間数百億円の利益を生む事業へと成長させたのである。
また、グレーターチャイナ事業を率いるパン氏も、当初は中国市場で失敗を経験したが、その教訓を活かして香港でのリベンジを果たし、中国事業を巨大な柱へと育て上げた。これらの事例は、失敗を学習機会と捉え、再挑戦させることで、結果的に大きな成功を収めるユニクロのユニークな組織文化を明確に示している。会社のビジョンやパーパスに共感し、ワクワクしながら困難に挑戦できる人にとって、ユニクロの働き方は単なる消耗ではなく、大きなやりがいへと繋がる。
多くの日本企業が策定するパーパス(存在意義)は、往々にして「神棚に飾られた」理念となり、実際の戦略や実践に繋がっていない。ユニクロから学ぶべきは、このパーパスを単なる標語で終わらせず、具体的な戦略や行動の基盤とし、全社員が「自分ごと化」して血肉化させるプロセスである。
そのためには、会社のパーパスと個人のパーパス(志)を重ね合わせるワークショップなどを通じて、理解を深め実践へと連鎖させることが有効である。この取り組みにより、ある大手電機メーカーでは、社員のパーパス実践率が85%に達するという驚くべき成果を出した事例もある。
もう一つの学びは、部門最適に陥る「タコツボ化」の排除だ。多くの企業で各部門が自己最適化された戦略を立て、全社的な連携や相乗効果が失われている。ユニクロでは、経営チームが部門の利益代表ではなく、「全社の経営者」として議論し、事業間の横串を強く意識することで、自己強化のループを生み出している。これを実践できるかどうかで、組織の活力は大きく変わるだろう。
柳井氏というカリスマ的存在が今後も成長を牽引することは確実であるが、永遠に柳井氏が指揮を執るわけではない。ポスト柳井時代のユニクロの持続的成長の鍵は、特定の誰かに頼るのではなく、経営チーム内で多様な才能が「化学反応」を起こし、継続的にイノベーションを生み出せるかどうかにある。
柳井氏のような圧倒的な個人に代わって変革のドライバーとなるため、いかに多様な異才を外部からも取り込み、経営チームとして横串を通した連携で新たなひらめきや事業を創造できるかが最大のチャレンジとなる。柳井氏が築き上げた人材育成と「仕組み化」が、どれだけ化学反応を加速させられるかが、今後の成長を左右するだろう。
ユニクロの強みは、柳井氏個人の力だけではなく、その思想を全社的にスケールさせる「仕組み化」にある。これは単なる効率化にとどまらず、イノベーションをドライブする仕掛けが組み込まれている点だ。この「仕組み」を継承し、次なる進化を遂げられるか。世界が注目するポイントである。
急成長を続けて、10兆円企業に向けて突っ走るユニクロ。なぜ業績が伸び続けるのか?その背景に、どんな経営戦略、組織戦略、育成戦略があるのか?同社の元執行役員で『ユニクロの戦略』著者の宇佐美潤祐氏に聞いた。 宇佐美潤祐 | 『ユニクロの戦略』著者 戦略コンサルティング業界を経てファーストリテイリングの経営者育成機関FRMIC担当役員に。 その後アクセンチュアの責任者を経て現職。 ▼参考書籍 『ユニクロの戦略』 https://amzn.to/4h3zFx9 ※このリンクはAmazonアソシエイトリンクを使用しています サムネイル 写真:iStock
急成長を続けて、10兆円企業に向けて突っ走るユニクロ。なぜ業績が伸び続けるのか?その背景に、どんな経営戦略、組織戦略、育成戦略があるのか?同社の元執行役員で『ユニクロの戦略』著者の宇佐美潤祐氏に聞いた。 宇佐美潤祐 | 『ユニクロの戦略』著者 戦略コンサルティング業界を経てファーストリテイリングの経営者育成機関FRMIC担当役員に。 その後アクセンチュアの責任者を経て現職。 ▼参考書籍 『ユニクロの戦略』 https://amzn.to/4h3zFx9 ※このリンクはAmazonアソシエイトリンクを使用しています サムネイル 写真:iStock