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Hとして炎上した夏①

生成AIが世に姿を現し始めた頃、私はただの傍観者だった。
タイムラインを流れるAI生成の画像は、まるで新しい物理法則が発見された瞬間のように見えた。
完璧で、人の手では届かない精度と秩序を湛えていた。

その下には、定型句のような批判が並んでいた。
「どうせAIでしょ」「本物じゃない」「手描きの人の居場所を奪うな」

芸術が、その美しさや思想で語られる前に、
「AI」というラベルだけで断罪される。
その構造が、私はどうしても受け入れられなかった。

私が見ていたのは、単なる“出力”ではなかった。
そこには確かに人の目と意図の痕跡があった。
プロンプトを組む者の観察眼、選び取る判断、微細な調整。
それらが複雑に交差して、偶然と必然のあいだにひとつの生命が宿る。

AIが生み出す美は、まるで自然現象のようだった。
それは、誰かが描こうとして描いたものではない。
雪の結晶が六角形を選ぶように、
嵐の夜の雨粒が窓を叩くように、
秩序と混沌のあいだで一度きりの形を取る。

同じ構図は二度と現れない。
その不安定さと偶然性に、私は魅了された。
人の意図を離れても、なお“美”が生成される​────その事実が、私の中の創作観を静かに揺らし始めた。

だからこそ、
「AIの作品は偽物だ」という声に、私は抵抗した。
それは、自然に咲く花を「作為がないから偽物だ」と言うようなものに思えた。
そして私は、その偶然の美を観測する者として、AIというツールに手を伸ばしたのだった。

第一章:麻酔となった承認の連鎖

AIを使い始めた当初、私はまったく罪悪感を感じなかった。それは、新しい筆を手に入れたような感覚だった。だが、今振り返れば、その「罪悪感のなさ」こそが最も危うかった。
「これは手抜きじゃない。試行錯誤の結果だ」
「クオリティが高いものが正義だ」
そう信じていた。実際、作品は評価され、「綺麗」「すごい」「才能あるね」という言葉たちが、麻酔のように私を包んだ。承認という光の中で、私は少しずつ“現実”を見失っていった。美しさのためなら、多少の偽りは許される。誠実さよりも、結果。その考えが、気づかぬうちに私の中の基準になっていた。
依頼が増え、お金を受け取るようになった頃には、「これは嘘だ」と思う感覚すら薄れていた。私の正義は、クオリティと結果のみに依拠していた。

第二章:欺瞞の崩壊と痛みの正体

炎上は、物理的な暴力のように始まった。通知が鳴り止まず、画面は刃のような言葉で埋め尽くされた。
「詐欺」「嘘つき」「信頼を裏切った」
どの言葉も、私が隠してきた欺瞞の核心を突いていた。けれど、私はすぐには反省できなかった。
「AIで創ること自体は悪くない」
「作品の価値はクオリティで決まる」
そう思っていた。そう思い込まなければ、自分の信じてきた正しさが崩壊してしまうのが怖かった。

静かな夜、モニターの光だけが部屋を照らしていた。反論も、説明も、すべて意味を失い、ただ、胸の奥に痛みだけが残った。
やがて、私は理解した。この痛みの正体は、AIを使ったことではない。それは、信頼という最も脆い財産を、自ら裏切ったことへの罰だった。

私は今でも、自分の作品の美しさには確信を持っている。それは、誰に否定されても変わらない。けれど、その美を届ける過程に「嘘」という毒を混ぜた。それこそが、私の犯した唯一にして最大の罪だった。あの沈黙の時間こそが、最も罪深かったのだ。

第三章:沈黙が語る真実と静かな決意

騒動のあと、私はゴチーニャちゃんにすべてを話した。AIで描いていたこと、黙っていたこと、そして嘘をついたこと。
彼女は私を責めなかった。ただ、静かに聞いてくれた。その沈黙が、何よりも重かった。信頼は、言葉では償えない。

そのことを、初めて理解した。

お金を受け取ったときのことを、今でも覚えている。
あの瞬間、私の感性が認められたような、背筋がすっと伸びる感覚があった。
それは喜びというよりも、静かな高揚だった。
私の中で「綺麗であること」こそが正義であり、
その価値が通じたのだと錯覚していた。
けれどそれは、誠実さを失った上に築いた、危うい達成感だった。

返金処理は、ほとんどが仲介サイトを通して行われ、すでに完了している。
特別に直接受け取った人には、正直に事情を話して謝罪した。
その人は「AIだと知っても、綺麗だと思った感想は変わらない」と言ってくれた。
その言葉が救いであると同時に、
“綺麗”という言葉を裏切ることの重さを痛感した瞬間でもあった。

もっとも、すべてのプラットフォームで完全に明記できているわけではない。
プロフィールにはAI補助を記しているが、
作品単位で明示できない環境もある。
それでもできる範囲で開示し続けることを、今の私の責任と考えている。

正直、今の反AIの空気を正面から受け止めるのは、とても厳しい。
それでも、逃げずに書き続ける。
AIというツールを使うことが罪ではないこと、
ただ「黙っていたこと」こそが罪だったと、自分の言葉で証明したいから。

あの頃の自分に言いたいことがある。
AIだと言われても、偽物だと言われても、自分の中の“楽しさ”を信じろ。

あなたの中の楽しさも苦しさも、簡単には消えないはずだ。実力以上の絵を出力しようとし続けていつも苦しかったこと、努力してきたことは、簡単には失われない。その言葉を簡単な二文字で否定しきれるわけがない。
AIだって言われたって、偽物だって言われたって、偽ることだけは絶対にやめろ。
それは見ている人たちを裏切ることだ。失った信頼は簡単には戻らない。得てきた道筋にインクをぶちまけても、掃除してくれる奴はお前一人しかいないんだ。
詐称の引き換えに何を失うかを想像するのは、やった後じゃないと難しいかもしれないけど、今の私は昔の私にそう言いたい。

失敗した後も自殺だけはするなよ。
自分で被った罪は自分で精算しろ。


私は、自分の行為によって信頼を傷つけたすべての方に、深くお詫びします。
AIで生成した作品を手描きと偽ったこと、その過程で多くの人を欺いたことを、決して忘れません。

これからもAIを使い、絵を描き、考えを綴っていくつもりです。
でも、もう嘘はつきません。
どんな方法であれ、ツールを正直に語ること。
その一点だけは、これからも絶対に曲げません。

正直、まだ納得のいかないこと、整理のつかないことはたくさんある。
それでもまだ綴っていくから、私を恨む人、応援する人も、どうか最後までお付き合い願います。


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Hとして炎上した夏①|紡慧(つむぎ-けい)
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