大阪府は10月10日、不動産投資ファンド「みんなで大家さん」の運営元に対し、同社が提示した新たな取引スキームについて説明が不十分だと指摘し、行政指導を行った。10月14日に発表した。
「今般、都市綜研インベストファンド株式会社が販売する不動産特定共同事業商品において、事業者から事業参加者(編注:投資家)に対して、解約に関する新たな提案がなされました。具体的かつ分かりやすく説明するよう、改めて指導を行いました」――。
行政指導の詳細は明かされていないが、日経不動産マーケット情報は独自に内容を把握。「大家さん」運営側が既存の投資家に示した新たな取引スキームについて、大阪府は強い疑念を表明するとともに、8項目にわたる具体的な質問を投げかけていることが判明した。同14日夕刻には、グループ会社の「みんなで大家さん販売」を監督する東京都も、同社への行政指導実施を発表している。
謎多き解約提案、「出資持ち分を債券と交換」の実効性
みんなで大家さんは、共生バンク(東京・千代田)のグループ会社、都市綜研インベストファンド(大阪市)が運営する個人向けの投資商品だ。「第二の年金」といった宣伝文句で、退職者を中心とする約4万人の投資家から2000億円規模の出資を募ってきた。
7月30日、成田空港周辺の土地開発に投資する主力商品「シリーズ成田」で分配金の停止が発生。9月30日には国産バナナ栽培施設やテーマパークを投資対象とする商品でも分配金が止まり、投資家の間に動揺が広がっていた。運営元の資金難から、出資金の解約・返金業務も事実上停止している。
グループ代表の栁瀨健一氏は同日、投資家に向けて配信したメールの中で、予定していた分配が実施されないことを謝罪する一方、「第三者譲渡契約」という新たなスキームを提案。10月15日から受け付けを開始するとした。
このスキームは、投資家がそれぞれの出資持ち分(1口あたり100万円)を、不動産の開発や賃貸を担う都市綜研インベストバンク(東京・千代田)が設立する子会社に譲渡。元利金の全額を保証する「保険付き債券」を担保として交付するというものだ。(つまり、「第三者譲渡」といっても、その先は共生バンクのグループ会社である)。譲渡代金は即時に支払わず、半年以内を目標とする債券の上場で得た利益をもって支払うという。さらに、年7%相当の利息を提供する、としている。
保険会社の名称も明かさず、「申し込みすれば、契約前に詳細を説明する」とした取引提案。これに対して、大阪府は10月10日の行政指導で詳細な質問を投げかけている。浮き彫りになったのは、事業者側の透明性の欠如だ。
(2)なぜ譲渡後も「年率7%の利息」を受け取れるのか
(3)「保険付債券」の保険会社名、保険内容、債券発行体名、発行条件は何か
(4)「担保」の具体的内容と条件は何か
(5)実際に金銭を得られる時期はいつか、誰から振り込まれるのか
(6)「債券の上場後、換金をもって支払い」とは具体的に何か
(7)第三者譲渡を行うことで、投資家は何を失うのか
(8)契約に応じた場合に投資家が負う可能性のある不利益は何か
(※日経不動産マーケット情報の取材に基づき要旨をまとめた)
「相手にすべきものですらない」と弁護士
資金繰りが逼迫する中で示された「保険付き債券」スキームが、果たして投資家保護という本来の目的を果たせるのか。9月に発足した「みんなで大家さん被害対策弁護団」で事務局長を務め、投資家による集団訴訟の準備を進める小幡歩弁護士(リンク総合法律事務所)は、「実現可能性が乏しい点が最大の問題」と語る。
具体的には、保険会社の詳細が示されておらず、出資金と分配金を全額保証するという保険付与の実現性に強い疑義があると指摘。さらに、「グループ代表が資金難を認める中で、その一員である都市綜研インベストバンクが単独で資金を供給できるとは考えにくく、まともな保険会社が保険を付けるとは思えない」と述べる。
過去の消費者被害事例でも、償還できなくなった投資商品を、有利な条件で引き取るかのような取引を持ちかける事業者が後を絶たないという。「投資家を長く待たせるだけで実効性がない。相手にすべきものですらない」と断じている。















