あなたは正しく言える?英文中のandとorの否定|数学的論理和・積の否定(ド・モルガンの法則)【部分否定と完全否定】
さて、「He is kind and polite. 」という文章があります。この文章、あなたは正しく完全否定できますか?
YouTubeでも同時投稿しています。よければご覧ください。
「He is kind and polite. 」を否定してみる
まず、この文章を日本語にするとどうなるか考えてみましょうか。簡易な語彙しか用いていませんので、翻訳できないことはないと思いますが、意味としては「彼は優しくて礼儀正しい」となります。きっと彼はいい人なんでしょう。
単純に否定していいのか?
ということで、「He is kind and polite. 」を否定してみましょう。と行きたいところですが、いったん、英語の基礎を思い出してみましょう。次の文章があるとします。
「He is fine. 」
この文章、否定するなら、be動詞の後ろに「not」を付けますね。ということで、be動詞が用いられている文章で、その事象を否定するなら、notを付ければよいといったところでしょうか。
では、基礎を振り返ったところで、本題に戻りましょう。この「He is kind and polite. 」、notを付けるだけでいいでしょうか?一度この文章の日本語訳に対して否定するということをしてみましょう。この文章の日本語訳は、「彼は優しくて礼儀正しい」でした。では、この文章を否定しましょう。「彼は優しくもなければ礼儀正しくもない」となります。
さて、「He is kind and polite. 」を単純にnotを付けて否定してみます。単純に否定すると「He is not kind and polite. 」となりました。一見、間違っていないように見えます。翻訳してみましょう。「彼は優しくて礼儀正しいというわけではない」となります。なんだか、日本語の解釈に苦しむかもしれませんが、「優しい」でない、かつ「礼儀正しい」でないということです。
逆に言えば、「優しい」かつ「礼儀正しくない」や、「優しくない」かつ「礼儀正しい」、「優しくない」かつ「礼儀正しくない」がこの中に許容されています。これでは、つい先ほど日本語訳から考えて訳した、「彼は優しくもなければ礼儀正しくもない」とは意味が違ってしまいました。何が起きているか、分かりましたか?
単純に否定してはいけない
ということで、ただ単にnotを付けて否定するだけでは、日本語で想定された通りの意味にはならないのです。これが、「完全否定」と「部分否定」の差です。「and」や「or」が用いられた文章を否定するときに、よく起こりがちな現象です。
ベン図を用いて状態を分析してみる
では、どんな状態や意味が包含されているのか、視覚化するためにベン図を用意して分析してみましょう。
単にnotを付けただけの時
「He is kind and polite. 」が指し示す部分を考えてから、それを否定してみましょう。つまり、最初に考えた「He is not kind and polite. 」のことです。
ベン図を用意しました。「Kind」という集合と、「Polite」という集合があります。「Kind」かつ「Polite」の部分を塗ってみましょう。
これが、「Kind」かつ「Polite」です。では、これを否定しましょう。否定するというのは、今塗られた部分以外が塗られて、今塗られている部分は塗られないということです。つまり、状態を入れ替えるのです。
これが言いたかったことでしょうか。違います。「He is not kind and polite. 」で表現されている属性が、このベン図で表現されています。なので、「Kind」かつ「Not Polite」や、「Not Kind」かつ「Polite」、「Not Kind」かつ「Not Polite」がこの文章で許容されています。先ほど指摘した、単純にnotを付けるだけでは完全否定になっていない、というのが視覚化されました。
もちろん、優しくて礼儀正しくない、または、優しくなくて礼儀正しいということを表現したいのであれば、これで問題ありません。例えば、「彼は17歳か18歳ではない」とか。例文があまり適切ではないかもしれません。他の表現をしたいときにも使いますが、今回の主題ではないので特に言及しません。
どちらでもないと否定したい時
では、日本語訳から考えた、「彼は優しくもなければ礼儀正しくもない」を英語で実現するにはどうすればよいでしょうか。先ほどまで行った手順を逆にしてみましょう。「優しい」も「礼儀正しい」も含まれないベン図を考えてみましょう。
これが言いたかったことです。「Kind」でも「Polite」でもないということを表現したかったわけです。さて、これをさらに否定することで、どう英文で表現すればよかったのか、考えてみましょう。
その前に、二回否定して元に戻るのか、日本語でいったん考えてみましょう。試しに、「これはペンです」を二回否定してみましょう。そうすると、「これはペンではないわけではない」となりました。回りくどいですが、結局、「これ」は「ペン」でした。他の部分をいじっていませんので、二重否定しても同じ意味であることが分かります。これを英語でも適用してみます。
では、先ほどのベン図を否定してみましょう。
こうなりました。さて、これは「and」ではありません。「and」だったら、「Kind」かつ「Polite」の部分だけでしたが、これはそうではありません。ということは、これはいったいなんでしょうか。
これは「or」です。「Kind」または「Polite」の部分が塗られています。
ちなみに、「or」には「and」で塗った部分も含まれています。「Kind」または「Polite」のどちらかに最低限属していればいいので、「Kind」かつ「Polite」もその条件を満たします。どちらかに最低限属していますから。
ということで、「優しくもなくて礼儀正しくもない」ということを表現するには、どうすればよいのでしょう。ここまで読んだなら、何が言いたいか見えてくるでしょう。
そうです。「He is not kind or polite. 」です。こうすると、最初に求めていた「彼は優しくもなければ礼儀正しくもない」が得られるわけです。
これで、複数の事象を英語を使って否定することができました。
「完全否定」と「部分否定」とは
さて、途中で登場した「完全否定」と「部分否定」ですが、それぞれどちらに対応しているでしょうか。登場した二つの英文を思い出してみましょう。
「He is not kind and polite. 」
「He is not kind or polite. 」
「He is not kind and polite. 」
上の「He is not kind and polite. 」から考えましょう。日本語で考えます。「優しい」でない、かつ「礼儀正しい」でなければいいわけです。つまり、「優しい」かつ「礼儀正しくない」や、「優しくない」かつ「礼儀正しい」、「優しくない」かつ「礼儀正しくない」が許容されるのでした。ベン図を思い出せば分かりますね。ということで、これは「優しい」と「礼儀正しい」のどちらかが最低限否定されていればいいわけです。ですから、これは「部分否定」です。
「He is not kind or polite. 」
次に、「He is not kind or polite. 」を考えましょう。こちらも日本語で考えます。こちらは、「彼は優しくもなければ礼儀正しくもない」でした。「優しい」というわけでもありませんし、「礼儀正しい」というわけでもありません。つまり、許容されるのは「優しくない」かつ「礼儀正しくない」だけです。ベン図を思い出せば分かります。ですから、これは「完全否定」です。
このようにベン図に描き起こすことで、関係性が視覚化されて分かりやすくなりました。実際に明確にすることは、問題を明確化するのに非常に便利な手法です。
否定を数学とプログラミングでも扱う
このような否定は、数学でもプログラミングでも扱います。英語だけに限らない訳です。(世の中の大部分が英語をベースに構築されているのもありますが)
そんなに難しい話もしませんので、続きも気楽に読んでください。
Aの否定とBの否定
英文を否定するという、高度なタスクを先にやってしまいましたが、基礎に立ち返って「Aでない」と「Bでない」の関係を調べてみましょう。先ほどのKindとPoliteのベン図をそれぞれAとBに書き換えたベン図を用意しました。
まず、「Aである」を見てみましょう。
次に、これを否定すれば「Aでない」が得られます。否定してみましょう。
これが「Aでない」ということです。
では、「Bである」を見てみましょう。
「Aでない」と「Bでない」の「and」と「or」
次に、これを否定すれば「Bでない」が得られます。否定してみましょう。
これが「Bでない」ということです。
では、この「Aでない」と「Bでない」の「and」と「or」を考えてみましょう。
「and」から考えてみましょう。「Aでない」と「Bでない」で、共に塗られている部分が「and」になります。ということで、この条件を満たす部分を塗ってみましょう。
これが、「and」です。
次に、「or」を考えてみましょう。「Aでない」と「Bでない」で、どちらかで一度は塗られている部分が「or」になります。ということで、この条件を満たす部分を塗ってみましょう。
これが、「or」です。
「and」と「or」の関係を見る
ということで、いろいろと話が散らかってしまいましたので、整理しましょう。
まず、「「AかつB」ではない」というのがありました。「He is not kind and polite. 」で登場した状態です。
次に、「「AまたはB」ではない」というのがありました。「He is not kind or polite. 」で登場した状態です。
さらに、「「Aでない」かつ「Bでない」」というのがありました。直前の「Aでない」と「Bでない」から「and」を考えたときに登場した状態です。
最後に、「「Aでない」または「Bでない」」というのがありました。直前の「Aでない」と「Bでない」から「or」を考えたときに登場した状態です。
これらをより数学に近づけて表現してみましょう。
…表現したいのですが、今まで扱ったnotをこの文字上で表現する方法がありません。ですので、andとorは次に紹介する記号でよいのですが、notは別の記号である「¬」を使うことにします。ということで、
notは「¬」
andは「∩」
orは「∪」
として表記します。
前述した1から4に対応させた表記を記すことにします。
¬(A∩B)
¬(A∪B)
¬A∩¬B
¬A∪¬B
この四つ、実は同じベン図になっているモノがあります。振り返って見てみてください。それぞれに対応したベン図を今ここさらに二度目として4枚も貼ってしまうと、ページがあまりにも長くなってしまいます。ですから、分からなかったらページを振り返るか、このまま読み進めて説明を見てください。もちろん、自分で考えて結論を出したかったりだとか、知識から導いても問題ありません。読む速度は、あなた次第です。
さて、では何が同じものか見ていきましょう。
二つのベン図を改めて貼ります。
実は同じものを指している
実は、1から4はこの二つのどちらかを表しています。
¬(A∩B) = 4. ¬A∪¬B
¬(A∪B) = 3. ¬A∩¬B
です。確かめたければ、確かめてみてください。
この1から4がこの二つで、1と4が同じ、2と3が同じです。同じであるということは、入れ替えて表記しても変わらないので、入れ替えることができます。そして、この
¬(A∩B) = ¬A∪¬B
¬(A∪B) = ¬A∩¬B
は、「ド・モルガンの法則」です。
ド・モルガンの法則とはなんだったのか。それが分かることができれば幸いです。意味も分からず覚えていたとしても、これで理解ができたことでしょう。YouTubeに上げている動画も同時にご視聴いただけると、よりベン図が分かりやすく見えると思います。よろしければご視聴ください。
おまけ:プログラミングでは?
ここからは分からなくても結構です。軽く読んで分からなければ、「おわりに」まですっ飛ばしてください。
私はよくプログラミングをしていますが、プログラミングでは条件を設定して分岐することがあります。そして、その条件は往々にして複数であることが大半です。
もちろん、できるだけ単純化して一つの条件に対して一回の分岐を割り当てようとすることもありますが、そうはならないことがあります。例えば「xがm以上n以下であるとき」です。プログラミングでこれを表現するには、変数xに判定したい数値を代入し、「m <= x && x <= n」とします。ここで、「m<= x <= n」と書きたくなるかもしれませんが、これは条件として正しく設定できていません。したがって、「m <= x && x <= n」のようにわけて記述しないといけません。
ちなみに、「m <= x && x <= n」は、「「xはm以上」かつ「xはn以下」」ということです。もし、これを否定したければ、いくつか否定する方法があります。
!(m <= x && x <= n) :「「m <= x && x <= n」でない」
!(m <= x) || !(x <= n) : 「「「m <= x」でない」または「「x <= n」でない」」
(m > x) || (x > n) : 「「m > x」または「x > n」」
だとか、ちょっと考えるだけでこのぐらいは思いつきます。特に、1と2は同じことを指し示していますが、こう言い換えるにはド・モルガンの法則を適用しています(もちろん、そもそも「m <= x && x <= n」を否定するために、この記事の最初に用いた英文の否定の考え方も用いています)。
というように、数学やプログラミングでは、このような否定は頻繁に登場します。それこそ、英語が公用語の国で暮らしている人々が、この記事の最初に登場したような否定文を考えるのと同じくらいか、それ以上に、数学やプログラミングでは否定を記述しています。
これ以上踏み入った話は別の回ですることにしますが、とにかく、様々な面で我々の生活と数学やプログラミングは密接にかかわっています。
おわりに
長々と書いてしまいましたが、英文中のandやorが登場する否定文も然り、数学やプログラミングにおける否定も然り、このような複数の事象と関係のある物事を否定するときには同じように考えることができます。逆に言えば、いずれかが分かればそれ以外のことも理解できます。
世の中の物事は密接にかかわっています。英文中のandやorが登場する否定文にアレルギーを感じることもなく、ド・モルガンの法則にアレルギーを感じることもなくなっていただければうれしいです。
動画もあげていますから、音声で気軽にご視聴いただけます。今回の内容については、ベン図について動画で見たほうが理解しやすいと思いますので、よければご覧ください。
もしも気に入っていただけましたら、YouTubeのチャンネル登録や高評価、コメント等、また、Noteのほうでもスキなどなどとしていただければうれしいです。
YouTubeの動画では、より簡潔に分かるように作成しています。
Noteでは、より丁寧に、細かな説明を用意して作成しています。


コメント