手術の必要がないと知っていながら7年にわたり子宮と卵巣を摘出し続けて莫大な利益をあげていた…富士見産婦人科事件の闇
行政は何の調査もしなかった
被害者同盟代表の小西熱子によれば、事件発覚前、保健所や市役所には富士見産婦人科病院に関するさまざまな苦情が寄せられていたが、行政は何の調査もせず長年にわたり放置した。それにより被害が拡大したことに対しても、行政は何の責任も果たしていない(富士見産婦人科病院被害者同盟/同原告団編著『富士見産婦人科病院事件』、一葉社、2010年)。 富士見産婦人科事件は誰にでもわかりやすい「産科暴力」である。しかし、産婦人科医として事件に憤り、訴訟を支援した佐々木靜子は、産婦人科医療全般について、以下のように述べている。 子どもの安全のみを重視した管理分娩や会陰切開。妊娠までに燃え尽きてしまうような不妊治療。治療と呼んでよいか考えてしまうような子宮筋腫温存療法。薬漬けでなければ老後の健康が保障できないと思わせるような更年期治療などなど……。当事者である女性に「暴力的な」産婦人科医療が存在してきました。わたしは、まず産婦人科医療を女性にやさしいものに変えていくことが大事だと感じています。 (『佐々木靜子からあなたへ』教育史料出版会、2015年) 佐々木の指摘は、極端な事件だけでなく、日常的な産婦人科医療の中にも構造的な暴力が埋め込まれていることを示唆している。女性の身体と自己決定権を尊重する医療への転換は、リプロの権利を実質的に保障するために不可欠である。 写真・イラストはすべてイメージです 写真/Shutterstock
---------- 塚原久美(つかはら くみ) 1961年生まれ。国際基督教大学卒業。翻訳者・ライターを経て、自身の妊娠・出産を機に中絶問題研究を始める。2009年、金沢大学大学院社会環境科学研究科で博士号(学術)取得。公認心理師資格を得て、中絶ケアカウンセラーも務める。著書に『中絶技術とリプロダクティヴ・ライツ』(勁草書房)、『日本の中絶』(ちくま新書)、共訳書に『新版 中絶と避妊の政治学』(岩波書店)など。 ----------
塚原久美
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