「あらためて、セイアさんがご無事で何よりです。貴女のヘイローが壊されたと聞いた時には本当にどうしようかと……」
「心配をかけたね、ナギサ」
「いえ、こうしてまたお会いする事が出来ただけで本当に嬉しいです。少々お元気になられすぎてる様な気もしますが……」
ハナコにも言われていたが、セイアは誰かに会うたびに雰囲気が変わっている事を指摘されてるな。私は前のセイアを知らないから、ここまで言われてると前のセイアがどんな感じだったのか気になってくるな。
「積もる話もあるだろうししばらく二人で話していてくれ。私は先生達にナギサが目を覚ました事を伝えに行く。ナギサ、これからヒフミ達と会う事になるが心の準備は大丈夫か?」
「は、はい。――その、ヒフミさん達とお話しする時は側に居てくださると嬉しいのですが……よろしいでしょうか?」
「あぁ、どうせ私も話には同席するからな。構わないよ」
ナギサもこれからヒフミと直接話すのは何かと不安が多いのだろう。私が側に居る事で少しでも落ち着けるなら全く構わない。――しかし泣かせた私に側に居て欲しいと願うとは、セイアの言う通りちょろいという部分は否定できないかもしれんな……。しかし本来のナギサは優秀だ。エデン条約を取り付けたところからもそれは分かる事だ。そんな子が将来私のペットになってくれたら正直嬉しい。ちょろい分にはこちらに特に不利益も無いのでこのまま仲良くしていきたいところだ。将来は拠点の運営などに携わってもらえたら心強いだろう。
「これからの話し合いでしれっと彼を隣におこうとするとは……卑しくなったね、ナギサ」
「……良い機会です。セイアさんがこの方とどんな出会いがあったのか全て聞かせて頂きますからね」
――大丈夫だろうか。私の思惑をよそにセイアが調教の事を話したら引かれそうな気もするが。いや、どうせ遅かれ早かれバレるか。ならばあまり気にしてもしょうがないな。そんな事を考えながら私は先生の所へ向かう事にした。
**********
「先生、ナギサが目を覚ましたぞ」
「あ、本当?――話は聞いたけど、君やりすぎだよ?」
それについては申し訳ない。既に謝罪とケアは済ませ、ある程度平静を取り戻している事を伝える。
「うぅ……どんな顔をしてナギサ様に会いに行けばいいんでしょうか……」
私があの一言を言わせてしまったせいでヒフミが余計な罪悪感を感じてしまっている。かわいそうに。
「大丈夫ですよヒフミちゃん。ナギサさんも気まずさを感じているでしょうから、お互い様って事で♡」
そうだな。彼女もヒフミに対して罪悪感を感じている。それにヒフミの事も大切だと言っていた。これは私からヒフミに伝えるべき事ではないのでここでは言わないが、二人ならば問題なく仲直り出来るだろう。
「えぇ、これほど強度の高い救護を行える者がゲヘナにもいらっしゃるなんて思いもしませんでした。私達だけではこれほどスムーズにナギサ様の救護は成しえなかったでしょう」
強度の高い救護ってなんだ?エンチャントか何かか?だがミネの言いたい事は分かる。もしミネ達だけであれば、派閥の関係性が邪魔をしてこれほどまでに派手に動く事は出来なかったかもしれない。そういう意味ではシャーレや私が居たのは僥倖と言える。
「外部の手助けが有効なのは分かりましたが、一方的に手助けされては救護騎士団の名折れです。ミカ様の救護は私達にも協力させて頂きたく思います」
「構わない。セイアがやる気に満ちているし、私はその補助に動くつもりだ」
「うふふ♡もう既にティーパーティーの二人を貴方が躾けてしまってますし、いっそミカさんも躾けてしまえばトリニティのトップをコンプリート出来ますよ?」
コンプと言われるとちょっとやりたくなってきてしまうな……。しかしナギサは躾けた訳では無い。人聞きの悪い事を言うのはやめてもらおうか。
「躾け……!?またえっちな事する気なの!?もうあんなえっちなのは禁止!」
ほらむっつりちゃんが反応しちゃったじゃないか。――仕方がない、秘蔵の品を賄賂として贈るか。
「落ち着けコハル。ほら、これをやるから大人しくしておけ」
そういって私はカバンから秘蔵の品を取り出しコハルに差し出す。
「な、なによこの本……」
そう言いながらコハルは本を受け取り読み始める。
私が渡したのはフィアマのあぶない本だ。所謂エロ本である。ちなみにフィアマというのは私の命の恩人の片割れの女性だ。
「――――ふぇえええ!?!??!?こ、こんな……こんなものが存在していいの……!?ぜ、ぜったいだめ、禁止なんだから……こんなの没収よ没収……!――ぴえっ、こ、こんな大胆な事まで……!」
コハルは一頻り読み漁った後「こ、こんなのだめ、死刑よ……私がちゃんと管理しなきゃ」などと言いながらいそいそと自分の鞄の中へそれを仕舞い込んだ。よし、問題は無さそうだな。
「――さて、そろそろナギサの元へ行こうか」
「何渡してるの君!?いやほんとなにしてるの!?」
「いや、何でもないさ。――なぁコハル?」
「そ、そうね!何でもないわ先生!」
むっつりちゃんへの賄賂の効果はしっかりとあったらしい。なんて良い子なんだ。
「――すごい。あの状態のコハルを大人しくさせた。ナギサへの手際といい、あの人からは学ぶ事が多い」
「アズサちゃんが変な事学び始めちゃってます……!」
「あらあら♡」
そうだアズサ。こうやってこれから色んな事を学んでいけ。今の君にはそれが許されているのだから。
「良い事言った風だけど生徒に悪影響与えるのやめてもらえるかな!?」
**********
ちょっとした一悶着はあったが先生達を連れてナギサの元へと戻る事になった。ナギサの居る部屋に入り二人の様子を見るとどうやら仲睦まじく雑談を交わしているようだ。
「ただいま戻った。先生達を連れてきたぞ」
「お帰り。こちらはナギサに色々と教えていたところだよ」
「お、おかえり、なさい!」
セイアは私を迎えてくれたのだが、ナギサの方はこちらに気付くと顔を真っ赤にして顔を逸らし始めた。その様子を不思議に思った私は元凶であろうセイアを見やると、何故かどや顔でこちらに親指を立てている。――いや服の袖口で手が隠れてしまっているので見えないのだが、そうしているであろう事が顔から見てとれる。
何を話したかは大体想像がつく。大方セイアが調教された話を聞かされたのだろう。だからナギサの反応は分かる。いきなりそんな話を聞かされたらこうもなるだろう。しかし解せないのはセイアだ。何故調教した話をしてこんなどや顔を披露出来るんだ?
――そこまで考えて不意にアリスとケイがミドリを自分と同じ所へ引きずり込もうとしていた場面を思い出した。まさかとは思うが、ナギサを引きずり込んだのか?ナギサの様子をもう一度見てみるが、変わらず顔を赤くしながらこちらをチラチラと見てくるだけだ。少なくとも悪感情は抱いていない。なるほどな……。
「……君はナギサに何をしたの?」
「いや、何もしていない……」
先生に問い質すような口調で聞かれるが、今回ばかりは本当に何もしていない。私のペットが勝手にやった事だ。だがある意味では良かったかもしれない。ちょうどナギサはペットにしたいと思っていたし、ナギサをこちらに引き込めたのならセイアがアシストしてくれた形になる。後でセイアは褒めてやらねばなるまい。
「ナギサの事なら心配せずとも問題ないよ先生。ちょっと腹を割って話し合っていただけさ」
「そ、そうです!お気になさらないでください!」
「う、うん……いや納得していいのかなこれ……」
生徒に気にしないでと言われると先生としては下がるしかないらしい。先生も大変だな。私としてもこの話題が深堀りされては困ってしまうのでこの辺で切り上げて本題に入るとしよう。
「テーブルとイスはこちらでご用意しました。皆さんお座りください」
ナギサが他の部屋から持ってきてくれたであろう椅子に各々が着く。私は促されるままナギサの隣に座るが、その様子を見たアズサとハナコがやはり反応を示す。
「お二人はもう仲良くなられたんですね?一体どんな手管を使えばあの状況からここまで変える事が出来るんでしょうか。私気になります♡」
「本当にすごいな……。師匠、どうやってナギサを懐柔したんだ?」
いつの間にかアズサに師匠扱いされてしまっている。他の者達も泣かされた事は聞いていたのにナギサが私に割と懐いているところを見て気になっているようだが、当のナギサが恥ずかしそうにしているのであまり明言はしないでおこう。
「ただ話をして説得しただけだ。最初に心を折ったからこそすんなり話を聞いてもらえたのだろう」
「はぐらかされちゃいましたか……。ま、この辺はナギサさんから後でお話しを聞かせてもらいましょうか♡」
そこに関しては私にどうする事も出来ないのでナギサに是非とも頑張ってもらいたい。
「――こほん、本題に入りますね。――補習授業部の皆さん。この度はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「ナ、ナギサ様!頭を上げてください!」
「ヒフミさん、本当にごめんなさい。大切な友人である貴女を退学に追い込もうとした事、許される事では無いと分かっていますが、謝らせてください」
「わ、私こそ、心にも無い事を言ってしまいました……!本当にごめんなさい!」
お友達ごっこ発言に関しては、最初はハナコ自身がその言葉を告げる予定だったのだが、私が待ったをかけてヒフミに直接言わせた経緯がある。しかし結果論ではあるが、お互いに謝罪する理由がある事で仲直りしやすい状況になったと言えるのではないだろうか。我ながらファインプレーだな。素晴らしい。
「僭越ながら私もナギサ様の事は大切な友達だと思っています!なので、ナギサ様の事を赦します!」
「ありがとうございます、ヒフミさん。重ねて言います。私も貴方の事を大切な友人だと思っています。――これからも友人でいてくださいますか?」
「もちろんです!」
「私もナギサさんにちょっとした仕返しも出来ましたし、赦します。まぁちょっとやりすぎてしまいましたから、そこは私からも謝ります。ごめんなさい」
「え、えっと……わ、私も大丈夫、です……」
「ナギサが私に謝る必要は無い。寧ろ正当なものだ」
ヒフミ以外も各々の気持ちを表しながら赦しを与えている。コハルに関しては何やら人見知りを発動させていそうだが、現状ここにはティーパーティーのトップの二人が居る。コハルの緊張した態度が本来はトリニティの生徒として普通の反応かもしれない。
「ですがナギサさん。謝罪は受け取りましたが、退学の件はどうなるのでしょう?」
「それはもちろん撤回させて頂きます」
「――あれっ?じゃあもう勉強しなくていいの……?やったっ!これで正実に戻れる!」
コハルが何やら早とちりしていそうだが、そうはいかないだろう。
「喜ぶには早いと思うぞコハル。あくまで赤点を取ったら退学という部分を撤回するだけであって、補習自体無くすとは言っていない」
「――えっ?」
「はい。補習自体は引き続き受けて頂きます。――その、ここに集まった方々の成績に問題があるというのは事実なので……」
ナギサが申し訳なさそうな顔をしながら残酷な事実を伝える。ヒフミとコハルは気まずそうに顔を逸らしている。ハナコは楽しそうにその様子を見ており、アズサはこの後話す本題に緊張しているのだろう。体が若干強張ってしまっている。
「コハルちゃん♡これからもがんばりましょうね♡」
「うぅ……!絶対受かって正実に戻るんだから!」
どうやら補習授業部自体は残す方針の様で、これからも補習を受けるべき生徒はこの部活に定期的に入る事になるかもしれないとのこと。これでコハルは今回だけでなく今後も勉強を続けないと補習授業部に入り続けてしまうかもしれないな。がんばれ。
「ミネ団長。貴女もセイアさんの看病をしてくださっていたとお聞きしました。本当にありがとうございます」
「礼には及びませんナギサ様。救護騎士団として為すべき救護を果たしたまでです」
「私からもお礼を述べるべきだね。ありがとう、君には助けられたよ」
これで禊は一通り済ませたか。後はナギサに今回のアリウスの件を話す事だが、ここが一番ナギサにとっての鬼門になるだろうな。疑心暗鬼に陥ってなお守ろうとしていた友人が実は黒幕だったという事を伝えねばならない。
「さて、本来であればこれにて一件落着、というのが物語としてはキリの良いところだろうが、私達にはまだやるべき事が残っている。今はまだその過程に過ぎない」
「そういえば……良い情報としてセイアさんの生存を教えて頂きましたね。という事は」
「そうだ。これから悪い情報を話す。そしてナギサ、今から話す事はおおよそ真実と言っていい。それは私と、アズサと、そしてセイアの予知夢がそれを保証する」
「アズサ……さん?」
自分の名前が出てきた事でアズサは覚悟を決めた表情をする。あまり悪い事にはならないだろうと私は思っているが、当事者であるアズサからすればそこまで気楽にはなれないか。
「ナギサは結局アズサがどこから転校してきたか、知らないだろう?」
「は、はい……もしや貴方はご存じなのですか?」
「知っている。アズサの出身は――アリウスだ」
そこからナギサにも先ほど私達で共有した情報を話す。特に調印式の日に襲撃が来る事を話した時は立ち眩みを抑えるかのように手で顔を覆いショックを受けていた。しかしそれを阻止する為に私と先生が居る事を思い出したのか、何とか持ち直す事が出来た。
「……アズサさんが裏切り者、だったんですね」
「――そうだ。だからナギサは私に謝る必要は無かった。セイアを襲撃したのも、私だ」
「……」
「謝って許されるような事では無い事は分かっている。ごめん、ナギサ」
既にアズサがセイアの襲撃は未遂である事も、今ここにいる本当の目的も話している。それでもナギサにとってはこの話を受け止めるには時間が掛かるようだ。そこにある感情は読み取れないが、少なくとも明るい顔はしていない。今まで疑ってばかりだったのだから、飲み込むのには時間が掛かるだろう。最悪の場合今日はここまでにしてこれ以上の情報は後日に与える事も視野に入れる必要があるな。
「ナギサ様……」
「――!」
ヒフミがナギサを心配するように名前を呼ぶと、それに気付いたナギサがそこでようやく反応を示した。それでも言葉を返す事は無かったが、何か気付きを得たのか表情は先ほどよりはマシになっている。
「――申し訳ございません。少々飲み込むのに時間が掛かってしまいました。……アズサさん」
「……なんだ?」
「セイアさんを助けてくださってありがとうございます」
ナギサが一番最初にかけた言葉がアズサに対するお礼だった。どうやらナギサの中でなにか結論が出たようだ。
「え?」
「先生が仰っていたそうですね。今回の件はお互いを信じていればこんな事にはならなかったと」
「――彼から聞いたのかい?」
「はい。そして私は――まだアズサさんを信用しきる事は出来ません」
「……当然の事だ」
「ですが――」
自分の友人であるヒフミはアズサの事を信用しており、今もこうして一緒に居る。それは、ナギサが今アズサを信用するのに十分な材料なのではないか、そう納得したそうだ。ヒフミが信じているのなら、その判断を信じるという事なのだろう。
「信じるという行為は信頼関係があって初めて生まれる事だとも教えて頂きました。ですので、アズサさん。これからは貴女の事を教えていただけませんか?」
そうしてこれから貴女の事を信じていきたい。そうアズサに告げた。
――十分だろう。ヒフミを信じる事が出来て、アズサに対しても一歩踏み出せたのは間違いなく成長した証だ。何故だか自分の事のように嬉しくなる。ペットを強化してすくつで成果を発揮した時のような嬉しさだ。やはりペット育成は最高でおじゃるな。
先生もこうやって生徒の成長を実感すると嬉しく感じるのだろうか。――もしそうだとすれば、私は教師に向いているのではないだろうか?冒険者を辞めるつもりは毛頭ないが、副業程度にならやってもいいかもしれないな。思いがけない才能を見つけてしまったかもしれない。
そんな事を考えている間にナギサはアズサとだけでなく、ハナコ達とも談笑をしていた。話の流れを聞いていなかったので分からないが、アズサだけでなくハナコ達の事も知ろうとしているのかもしれない。
「それでナギサさん。あの人から何を言われてそこまで変わったんですか?」
「そ、それは――」
「信頼関係を作るためには秘密も共有しませんと♡ね?」
ハナコが何やらナギサから話を聞き出そうとしている。しかも断りにくい理論武装をしている辺り小賢しいなとも思うが、一旦小休止も兼ねて好きに雑談させておこう。まだ最後に大きな爆弾もある事だしな。
「驚いたよ。まさかあのナギサがあそこまで踏み出せるとはね。やはり、君に会えたのは幸運だ。あの日君に声を掛けた私の判断は間違っていなかった」
「ノースティリスには幸運の女神が実在する。私の信奉する女神でもあるから、感謝するなら是非ともエヘカトル様へ捧げてくれ」
「へぇ?ノースティリスには神が実在するのかい?そういう事なら彼女へ祈りを捧げようじゃないか」
ナギサ達が談笑している間にセイアがこちらへ声を掛けてきた。彼女がエヘカトル様へ祈りを捧げるように両手を合わせて目を瞑ったので、私も今日の分の祈りはまだだった事を思い出し、同じく祈りを捧げる。
――ばか!浮気者!
なぜ突然の浮気者呼ばわり?しかも御声を賜ったが、いつもより聞こえにくくかなり微弱だ。キヴォトスという違う世界だからだろうか。如何なイルヴァの神々であっても異世界には大きな影響を与える事は出来ないという事だろうか。今キヴォトスとノースティリスの繋がりはテレポーターのみだ。そこから御声を届けてくださったのかもしれないな。キヴォトスの拠点内であればもう少し鮮明に聞こえるかもしれない。
「うん?幻聴――だろうか」
「何か聞こえたのか?」
「あぁ、なにやら、浮気者だとか、気を付けてだとか聞こえたような気がしたのだが……」
……エヘカトル様で間違いないだろうな。まさかセイアにも御声を授けたというのか?
「それは幻聴ではなくエヘカトル様ご本人に相違ない。私も浮気者となじられてしまったからな」
「君の気の多さは神ですら認知しているのかい?」
なんなら信仰する神すらもコロコロと変えていた時期もある。一番最初にエヘカトル様を信仰し、色々な所の神々の元へ信仰を鞍替えし、またエヘカトル様の元へ帰ってきたのだ。主に褒美目当てでの鞍替えだったが、魔法使いとして生きている都合上マナの回復手段としてイツパロトル様も中々捨てがたいのだ。今はマナも潤沢にあり、魔法の消費マナを軽減する装備もあるのでマナ切れを起こす事は少ないが、昔はイツパロトル様に頼っていた時期がある。
「むしろエヘカトル様が浮気されている側とはね……。なんというかシンパシーを感じるよ。私も入信しようか本気で考える程にね」
むしろ御声を賜ったのなら既に信者として受け入れられている可能性すらある。キヴォトスでは初の信者を獲得だな。いずれキヴォトスのペットにも誰かを信仰させるつもりでいたが、まさかこんなタイミングでとは思いもよらなかった。
「さて、そろそろナギサにも真実を教えなければいけないね」
「――あぁ。ナギサ、そろそろ良いか?まだ話の続きがあるのでね」
「あ、はい。では皆さん、またお話しいたしましょう」
「はい♡それにしても、まさかナギサさんを口説き落とすとは思いもしませんでした」
結局ナギサは話したのか。それを知った先生はとてつもなく微妙な顔をしている。
「生徒を導いてくれた手前何かを言うのも間違ってるような気もするんだけど……色んな子に似たような事してるよね君?ヒナとかリオとか他にも色々。――責任はちゃんと取らないとだめだよ?」
そんな事を言われてしまうが、先生も似たようなものだと思う。イオリやチナツは恐らく先生に気があるぞ。シャーレ当番の日はテンションがいつもより高いからなあの子達は。私としても初手脚舐めした生徒をどうやって堕としたのか気になるくらいだ。
「ナギサさんの場合最初のあれがあったせいで、DV彼氏に離れられない彼女みたいな感じですよね」
「――ぶふっ!」
ハナコの突然の暴言にセイアが吹き出す。誰がDV彼氏だ。いや、確かに似たようなものかもしれないが、ナギサの成長を感じ取れた後にそう言われては何だか微妙な気分になってしまう。
「ふ、ふふっ……確かにナギサはダメな男に引っかかりそうだ」
「セイアさんだって同じ穴の貉じゃないですか……」
「否定はしないよ。引っかけられた者同士仲良くしようじゃないか」
頼むから私をダメな男判定のまま話を進めないでもらえないだろうか。
「さて、本題に戻ろう。黒幕はアリウスであり、更に背後からアリウスの生徒を利用している大人、ベアトリーチェの始末が私の最終目的だ。しかしトリニティの話はまだ終わりではない」
アリウス、ひいてはアズサをトリニティに手引きした存在が居る。そうナギサに告げると、表情を暗くさせつつ口を開いた。
「――ミカさん、ですね」
『――!?』
気付いていたのか。思わず私含め周囲の者達全員が驚きを示す。――いや、本来の思考能力を取り戻した彼女ならば確かに当ててもおかしくはないのかもしれない。
「ミカさんのゲヘナ嫌いはトリニティでは周知の事実です。ですので彼女がエデン条約に反対なのは納得です。ですが、ミカさんにとってエデン条約の破棄はセイアさんや私を排除してまで行いたい事なのでしょうか」
「アズサさんの所属先は長らく不明でした。私でも掴む事が出来なかった程に。そんな情報操作が出来る者は限られます。一番有力なのはシスターフッドでしょうか。あそこの前身の組織であるユスティナ聖徒会はアリウスと浅からぬ因縁があります」
「他派閥のトップも出来なくはないでしょう。それこそここにいるヨハネ分派の首長であるミネさんにも可能だと思います。ですが、ミカさんは過去に私とセイアさんにアリウスと和解したいと申し出ていました。またミカさんの思い付きだろうと考え、メリットも無いのでその時には断りましたが……」
「――と、他にも様々な考えが浮かびましたが……一番の大きな決め手は貴方です」
私?何か知らない内に仕出かしただろうか。直近の記憶を思い浮かべるが、セイアとエヘカトル様についての話をしていた事しか思い出せない。
「自惚れでなければ、貴方は私に対して気を遣ってくださっています。ヒフミさんとの事も貴方はフォローしてくださいました。そんな私にここまで気を遣って順序立てて丁寧に説明しなければならない程の人物が裏切り者であるならば、私の中では一人しか候補が出てきませんでした」
「そういう訳で、ミカさんが本当の裏切り者だと判断しました。――いかがでしょうか?」
「お見事。現実が君にとってここまで残酷な事でなければ手放しに褒めていたところだ」
私の気遣いが仇となってナギサに気付かせてしまったか。これは私の落ち度だ。反省すべき点だ。
「お気になさらないでください。本当に貴方が私を気遣ってくださっている事が分かって私は嬉しく思っておりますから」
「しかしな……」
「確かに、今でも頭の中でなぜ、どうしてと頭の中でぐるぐるしています。ですが――貴方を信じると決めたのも私です。そして――ミカさんの今回の行動にも何か理由があったのだと、信じます」
そうか……本来のナギサはここまで優秀だったのか。予想外だったな。強い子だ。
「いいえ、貴方のおかげです。貴方が居なければ私は未だに現実を見る事が出来なかったでしょうから」
「そうだね。私も君が居なければ未だ覚めぬ夢を見続けていただろう。そんな私達を助けてくれたのだから、もっと胸を張ってもらわねば」
ナギサとセイアが素直に感謝を伝えてくる。二人からのお礼ならば受け取らねばならない。
「全員情報を共有出来た事だしこれからミカへの対処を考える時間――と言いたいのだが」
今日は夜も遅い。アズサと私はそろそろアリウスとの定期連絡の時間だ。こちらの進捗次第では更に情報が増えるだろう。
「そういうわけで今日は一旦解散としよう。明日になればお客さんがもう一人増えているはずだから、また明日ここへ集合という事で」
セイアとミネは今日はここで寝泊りするようだ。確かにそれなら他の人に目撃される心配も無いし一番安全だ。ナギサは戻った方が良いと判断し家まで私が送り届け、アズサと共に定期連絡の場所へ向かう事となった。錠前サオリがカタコンベとやらの道順をさっさと教えてくれると助かるな。更地にするにしても手間がかかるのでその面倒を減らしてくれると助かるが、どうなるかな。
「くっ……これは一体なんだ……!?う、動けない――!」
「やられたね。――ここで終わるならそれはそれで良いけど」
「うわぁぁぁぁあああん!もうおしまいです……こんな事になるなら最後に美味しいものをたらふく食べたりしてみたかったです……」
三人か、壮観だな。絞首台を多めに補充しておいて正解だった。どれから始めようかなぁ。