BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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お久しブリブリブリタニア!!!(続きました。)
デカグラ完結がいつまでたっても来なそうなので、我慢できなかった結果の百花繚乱2章です。
早くクロハを雪原で暴れさせてェですよ……。

!!喫煙シーンが存在します!!
!!タバコは20歳になってから!!


百花繚乱2章
53.雪国へ


 細い棒を箱から取り出して、唇で軽く咥える。

 その先端を、連中の長からくすねたジッポーで炙り、軽く吸って火を付ける。

 趣味の悪い派手な刻印が掘られた箱を閉じ、棒から出てくる煙を肺まで送り込む。

 タバコ特有の苦みが口に広がり、喉と灰がチリチリと刺されている。

 本来であれば、決して気分が良くなったりはしない。

 苦く、不味い。健康にも良い物ではない。

 だが何故か、妙に性に合う。

 タバコを指で挟んで口から外し、星空に向けて白煙を吐き出した。

 煙は星明りを覆い隠し、しかしそよ風に攫われ消えていく。

 ノスタルジアと名が付きそうな些細な感情を、1本のタバコが膨れさせる。

 どういう訳か、甘さとも呼べるこの感覚が、嫌いでは無い自分がいる。

 2口目をすすろうと手を持ち上げた時、エアの声が頭の中で響いた。

 

 『レイヴン。セーフハウスから増援が派遣されました。到着まで20分。』

 『セントリーガンのオーバーライドは完了しています。誘い込んで一掃しましょう。』

 

 「了解。そうしよう。」

 

 そう言い切ってから、再びタバコに口を付け、大きく吸い込む。

 目の前の火がチリチリと音を立て、口と肺を苦味と甘さで満たしていく。

 強く吐き出せば、煙のカーテンが視界一杯に広がる。

 風がカーテンを開けると、眼下に広がるのはキヴォトスの夜景。

 疎らに灯る電球の光が、所々ゴミが落ちている夜道を照らす。

 増援の連中は今頃、俺を仕留めようと目を血走らせて、この街を疾走しているのだろう。

 哀れな事だ。容赦はしないが。

 タバコの灰を親指で落とし、3口目を吸って、吐き出す。

 口の中がタバコ一色に染まってきた。

 

 『ところでレイヴン。先生から、シャーレとして依頼が届いています。』

 『内容は、百鬼夜行北部に存在する独立自治区、“エビス分校”の調査。』

 『同校は、“怪異”と呼ばれる存在の出現に悩まされているそうです。その原因の特定及び排除が、今回の依頼内容です。』

 

 今座っているビルに使えるものがどれだけ残っていたか考えていると、視界にブリーフィングが映し出される。

 タバコを咥えたまま、またか、というセリフを、煙として吐き出した。

 先生が絡んだ事件はロクなモノがない。

 それに、奴が俺を雇ったという事は、何かが起こると踏んでいるという証明でもある。

 今回も、きっとそうだろう。

 

 「怪異、か……。前に百鬼夜行で出てきた奴らじゃ無いだろうな。」

 

 『残念ながら、先生と、今回同行する百花繚乱も、そう見ているようです。私も、あの時と同じ、ミメシスが現れたのだと考えています。』

 『ですので、やる事は今までと変わりません。怪書を操る者を見つけ出し、排除する。』

 

 「そうなりそうだ。エビス分校の特徴は?」

 

 『中央氷原程ではありませんが、豪雪で知られる寒冷地です。コートやカイロなどの、防寒装備を整えた方が良いでしょう。』

 

 文章を読み込んでいると、目に留まったのは『天地ニヤ』の文字。

 つまりこれは、陰陽部からの依頼でもあるという事。

 奴の食えない様子から考えて、問題の解消以外に企みがありそうだが、今考えても仕方のない事か。

 遠くからこちらに近づいてくる光を見つめ、ビルの縁から立ち上がる。

 

 「よし。これが終わったら買い足しだ。エア、依頼を受けると伝えろ。」

 

 頭の中で少なくなっていた物資をリストアップして、タバコを口に運ぶ。

 強く吸って、吐く。白く染まった視界の奥に、短くなったタバコを投げ捨てる。

 そして、背中のハーネスから2丁の銃を取りだし、グリップを強く握る。

 右手にLMG。左手にショットガン。バックアップにリボルバー。

 ひゅうと強く吹いた風が、煙のカーテンを吹き飛ばし、吐き出す息を白く染める。

 こちらに向かう連なる光がまだ遠くにある事を確認してから、暗闇に向かって1歩踏み出した。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「“国境の長いトンネルを抜けると、そこは――”」

 

 「雪国ですわーー!」

 

 調査隊のメンバーである先生と百花繚乱、計5名と合流し、北へと向かう列車に揺られる事1時間。

 トンネルを抜けた窓の外には、一面の銀世界が広がっていた。

 ナグサの呟きを引き継ぐかのように、ユカリがキラキラした表情でそう叫んだ。

 

 「なんだそれは……。」

 

 「有名な小説の一節だよ。あんた、芸術には詳しくないんだね。」

 

 長椅子の反対側に座るキキョウが、体を倒して目線を合わせてきた。

 若干得意げな表情なのが癪に障る。

 百花繚乱が紺色のコートを羽織っている中、1人だけウインドブレーカーを着ているレンゲが、キキョウをそっと窘める。

 

 「まあまあ。全員知ってるってもんでもないだろ。アタシも高校上がるまで知らなかったし……。」

 

 「それじゃあ、芸術に詳しくないどうしで、余った時間で勉強会でもしてみたら?」

 

 「それ面白そうだな。レイヴン、一緒にやるか?」

 

 「断る。お前だけで勝手にやれ……。」

 

 満面の笑みで提案してくるレンゲと、俺達をニコニコと見守っているつもりの先生から目線を逸らし、ただ窓の外を見る。

 事前の情報通り、山岳に囲まれた寒冷地帯。

 それを証明するように、本来時季外れの雪がどこを見ても積もっている。

 吹雪にECMフォグと同じ効果がなければ良いが。

 そんな心配をしていると、右手を高く上げたユカリの声が耳に届く。

 

 「はいはい!身共も参加したいですわ!ご一緒してもよろしいですか?」

 

 「おっ、良いぞ!じゃあ、師匠も一緒にやろうよ!なっ!」

 

 ”もちろん。近くに美術館とか、体験教室が無いか、調べてみるよ。”

 ”ほら、レイヴンも意地張ってないで、やってみようよ。食わず嫌いは損するよ?”

 

 いつの間にか、レンゲから師匠と呼ばれている先生が、満面の笑みでこちらを見つめてくる。

 こいつがこの顔をしている時は、別の意味で面倒な事になりがちだ。

 

 「断ると言っただろう!そもそもこれは仕事だろうが。しかも、他校からの救援要請。そんなことに使う時間はない。」

 

 ”強情だなぁ……。”

 

 「それなら、仕事が終わってからやろう。私もエビス分校の芸術に、興味があるんだ。」

 

 反対側のキキョウは軽く頷いていたが、長椅子のほぼ真ん中に座るナグサが、俺と先生、そしてユカリたちを交互に見ながらそう言った。

 外聞を気にせず、大きくため息をつく。

 常にエアと繋がっている交信から、味方はいないと分かっているから。

 

 「反対派は俺だけか……。そうだろエア。」

 

 『バレましたか。仕事が終わったら、勉強会に連れて行ってください。私のワガママ、聞いてくれませんか?』

 

 「分かった、良いだろう!仕事が終わったらな……。」

 

 『ありがとうございます、レイヴン。』

 

 エアがこうしてワガママを言う事は、そう多くはない。

 ずっと自分の隣でサポートしてくれている相方なのだ。

 労いたいと考えるのは、当然の事だろう。

 出来れば、内容は変えて欲しかったが。

 先生と百花繚乱の生暖かい視線が、俺に突き刺さっている。

 

 「相方のお願いは聞くんだ。意外だね。」

 

 「れいぶんさんとえあさんはまさしく、比翼連理なのですね!」

 

 「ナグサ!エビス分校について、知ってることはあるか?」

 

 「露骨に話逸らしたな……。」

 

 生暖かい視線を殴り飛ばしたい衝動を抑えつつ、ナグサからエビス分校の特徴を聞き出した。

 農業と漁業が盛んであり、百鬼夜行はエビスから食材を仕入れる事が多い事。

 独自の文化が息づいており、特に地名に先住民の言葉が残っているという事。

 冬が特に過酷な土地であり、遭難を始め、雪の重量で家が潰れる等、環境が最大の敵である事。

 中央氷原より過酷ではない事に安堵しつつ、不意に頭を撫でようとした先生の手首を捻り上げた。

 

 そうして他愛のない話をしていると、目的の駅に到着する事を告げるアナウンス。

 6人一斉に立ち上がり、頭上のかごに乗せていた荷物を手に取って、開いたドアからコンクリートの地面に降りる。

 頬を刺すような確かな冷気の中で、列車を上空から追尾していたエアに、ストーカーの着陸を指示。

 防弾防刃のロングコートの上から、腰に下げた銃3丁が確かにある事を確認して、先生と一緒に百花繚乱の後ろを歩く。

 

 「うわっ、寒っ!大して離れてないのに、こんなに冷えるのか!」

 

 「だから着込めって言ったでしょ。」

 

 ”時間通りに来たから、エビス分校の案内役が……。”

 

 他より薄手のレンゲが寒さに自分を抱きかかえ、雪景色にはしゃぐユカリから垂れる鼻水を、キキョウがハンカチでそっと拭う。

 その1歩後ろでナグサと先生が、駅にいるはずの誰かをキョロキョロと探している。

 更に1歩後ろに立つ俺は、広域スキャンを実行して周辺を確認。

 荷物を背負い列車に乗り込む者。逆に駅から出ようとする者。

 そして、誰かを探しているのか、列車から降りた者達をキョロキョロと見つめる者が1人。

 草を編んだ傘を被り、やや明るい灰色の和服を着こんだその生徒は、俺達を見つけると、迷いなくこちらに近づいてきた。

 

 「百花繚乱紛争調停委員会の皆さん、ですか?」

 

 「そう。あなたが、エビス分校の……。」

 

 「はい。エビス分校の自治委員会会長、土生アザミと申します。お待ちしておりました。」

 「失礼ながら、そちらのお方は……?」

 

 ナグサの前でにこやかに腰を折った後、俺を手の平で指すアザミと名乗った生徒。

 話を通していないのかと、ニヤと先生に呆れつつ、ごく普通に身分を明かす。

 

 「レイヴン、シャーレの先生の護衛だ。よろしく頼む。」

 

 「そうでしたか。よろしくお願いいたします。」

 「改めて、エビス分校にようこそ。」

 

 再び腰を折ったアザミは、怪異の出現場所を当たると同時にエビス分校を案内すると言い、俺達を先導した。

 道中アザミが語ったのは、既に自治委員会は自分だけという事。

 感嘆するユカリにお礼を言うと、話題が先生の功績へと移る。

 『ゲロを吐きながらも世界のために戦った英雄。』

 否定する事が出来ず苦虫を嚙み潰した表情をする先生の横で、俺はアイビスから降りた直後、胃の中身を草原にぶちまけた先生の姿を思い出していた。

 

 駅を出て脇に雪が残る道を10分ほど歩き、向かった先は商店街。

 アクリル製の屋根の下には、まだ朝と呼べる時間帯だというのに、買い物に来たであろう人達がそれなりにいる。

 アザミは広い道路を挟む建物のうち、屋根から煙突が伸びている、少し大きい店の前で止まった。

 ドアの上に架けられた看板には読みづらい字で、「硝子工房恵比寿」と書かれている。

 

 「怪異を最初に目撃したのが、ここの職人さんなのです。丁度いらっしゃるようですし、お話を伺いましょう。」

 

 アザミを先頭にわざわざ2枚設けられたドアを潜ると、古びた匂いのする部屋の中には、沢山のガラス細工が所狭しと並べられていた。

 キキョウとナグサは周りに注意を配っているものの、先生を含めた残りの3人は完全にガラス細工に食いついている。

 ユカリが食いついているガラスのバラ、その下に目を向けると、2桁万円の値札が置かれてた。

 鑑賞以外に使い道がなく、その上壊れやすいものにそれだけの金を使うなど、俺には全く理解できない。

 キキョウはレンゲとユカリに声を掛け、俺は先生の背を軽く叩き、アザミとナグサが待っている店の奥へ向かわせる。

 ドアを1枚隔てた先では、床材がフローリングからコンクリートへと変わり、部屋の中央にある炉がごうごうと音を立てていた。

 アザミはその横で作業していた老齢の猫型のキヴォトス人に近づき声を掛ける。

 

 「おはようございます。少々お時間よろしいでしょうか。」

 

 「……んん?えっと、どちらさんで……。」

 

 「もう、お忘れですか?エビス分校自治委員会会長の、土生アザミです。昨日もお会いしましたのに。」

 

 「そうだったかな?最近物忘れが酷くってねぇ……。」

 

 笑いかけるアザミの前で、困り顔で頭を掻く老齢の職人。

 何もなければ、日常の一幕として見過ごしていただろうが、今回は微かな、だが確かに違和感を感じた。

 あの職人、昨日アザミと会っていることを忘れているまでは良い。

 だが、普段から合っているであろう自治会長に、まるで初対面のように対応したのだ。

 

 (エア、今の見たか?)

 

 (戸籍データを調べます。少し時間をください。)

 

 可能性は2つ。

 職人が完全にボケているか、そもそもアザミがエビス分校の人間ではないか。

 前者であれば、そもそもガラス細工を作ること自体が難しくなるが、少なくともアザミが声を掛けるまでの職人の動作に、迷いは無かった。

 アザミを黒と睨む俺達の視線に気づいていない奴は、職人との会話を続けていた。

 

 「2週間ほど前、ここで目撃したという怪異について、お聞きしたいのですが。」

 

 あれは凶暴なやつだった。

 そんな切り出しから始まった供述は、実に情けないもの。

 曰く、現れた怪異とは、白いイタチだという。

 子供の頃の経験から、イタチが怖くて仕方がない。

 砕けたガラスの上を平然と歩いていたから、普通のイタチではないと気づけたとか。

 イタチとして現れた怪異と、それに怯えていた職人両方に呆れつつも、ニヤからの情報と特徴を照会する。

 怪異は誰もが恐れる姿ではなく、それを見た者が恐れる姿になる。

 少なくとも、これは合致していそうだ。

 供述を終えた後、ユカリ主導で始まった作品の鑑賞会をそこそこに切り上げ、次の場所へと向かった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 商店街を離れ、緑と白が広がる平野にたどり着く。

 右側には、天に向かって大きく伸びているトウモロコシが、左側には、地を這うように葉を広げるジャガイモが植えられている。

 雑草取りでもしているのか、所々で腰を屈めて作業をしている者が見える。

 

 「ここが、エビス学園の農地です。」

 

 ”凄く広いね。”

 

 「そのせいで管理するのが大変なんだとか。腰を叩きながらぼやいている農家さんを、よくお見掛けします。」

 「しかし、その農家さんたちのおかげで、百鬼夜行に美味しい野菜を沢山お届け出来ています。」

 

 アザミは作業している農家の1人に近づき、俺達はぞろぞろと付いていく。

 俺達に気づいた農家にアザミが一声かけると、農家は怪異について話し始めた。

 曰く、それは大型のクマであり、スラグ弾を頭に撃ち込んでもビクともしなかったとか。

 これもニヤから伝えられた、普通の銃が効かないという特徴に合致する。

 考え込んでいると、俺の隣に立ったキキョウが手の甲を軽く叩いてきた。

 視線をアザミと農家に向けながら、俺だけが聞こえる声量で問うてくる。

 

 「ねぇ。あの土生アザミ、本当にエビス分校の生徒なの?」

 

 「今エアが洗っている。もう少し待て。」

 

 怪しんでいるのは、俺だけでは無かったようだ。

 キキョウはいつの間にか農作物品評会へと変わっていた聞き込みを、早々に切り上げさせる。

 農家にお礼を告げた後、先生から渡される蒸かしたジャガイモを断りながら、また別の場所へと歩みを進めた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 潮風が鼻をくすぐりだすと、すぐに船着き場にたどり着いた。

 近くにあるトタン屋根の建物からは、生臭いにおいが漂っている。

 誰かいてもいいはずなのだが、見渡す限り俺達しかいないようだ。

 

 「タカアシガニ?漁師がカニを怖がるの?」

 

 「私もそう思ったのですが、クモに似ている、との事で……。」

 

 アザミ曰く、ここで働いている漁師が、タカアシガニの怪異を見たそうだ。

 名前だけではピンと来なかったので、ネットに接続し検索開始。

 出てきた画像に映るのは、赤と白の体に、やたらと長い8本の足。

 暗闇の中で正面から見れば、辛うじてクモの化け物に見えなくもない。

 脅威とすら呼べない怪異は、これで2つ目。

 小さくため息をつくと同時に、視界の端に映る『NO MATCH(一致無し)』の通知。

 

 (レイヴン。あのアザミですが、エビス分校及び百鬼夜行の所属ではありません。)

 

 (やはりな。という事は、あいつ自身が“怪異”か、もしくは怪書の持ち主か。)

 

 (アザミの生体反応は正常です。恐らく後者でしょう。)

 

 考えられるのは、他所の学園から流れてきたか、戸籍を抹消されたか、そもそも戸籍が無かったか。

 1つ目が最も考えられる可能性。

 2つ目はアザミがこの場にいる時点でまずあり得ず、3つ目は更に可能性が低いが、筋は通っている。

 だが奴が何者であれ、限りなく敵に近い事は確か。

 この事実を、どうやってアザミに勘付かれず伝えられるか考えだすと同時に、当の本人からの提案。

 

 「もうすぐお昼時ですし、この辺りでお食事でもいかがでしょう。」

 「ここの近くに、凄く美味しい焼き魚を出すお店があるんです。」

 

 「そうだね。この辺で1回休憩しよう。」

 

 キキョウはそう言う直前に、ちらりと俺の方を見た。

 話を合わせろ、という事だろう。

 訝しむレンゲを余所に、少し本音を混ぜた演技を始める。

 

 「えっ?まだそんな――」

 

 「賛成だ。体力は残しておくべきだろう。それに、腹も減った。」

 

 「身共も賛成ですわ!」

 

 ”私も!焼き魚食べたい!”

 

 「じゃあ、賛成多数で休憩、決まり。良いよね?」

 

 ユカリと先生が手を高く上げ提案を支持。

 レンゲは首を傾げ、ナグサも少し眼を開いてキキョウを見つめていたが、2人からの質問は来なかった。

 当のアザミも俺達を疑っている様子はなく、静かに笑って俺達を先導した。

 

 「なーんか釈然としないけど、まいっか!」

 

 「フフッ。ではご案内します。」

 

 移動する直前に、ナグサが『焼き鳥はあるかな』と呟いていたのは、聞こえなかった事にした。

 海岸を歩くアザミに無邪気についていくユカリと、その両隣で談笑するレンゲとナグサ。

 それを見守っている先生の後ろで、俺とキキョウは2人並んで、ナグサ達に笑いかけるアザミを見ていた。

 斜め上に向けた目線だけで『どうだった』と聞いてくるキキョウに、首を小さく横に振る。

 

 「それで、どうする?」

 

 「泳がせる。あいつの目的が分からない。今は、あいつから離れない方が良いと思う。」

 

 「同感だ。」

 

 レンゲから怪しまれた事で、キキョウも集団に合流。

 俺と仲良くなったかとレンゲがからかうと、キキョウはそれを否定しつつ、レンゲの頭を軽く引っぱたく。

 ユカリと先生、そしてナグサが喧嘩はダメだと諭したことで、キキョウの二又の尻尾は膨らみ不機嫌を隠せなくなっていく。

 それを見て『仲が良い』と笑っているアザミ。

 俺はアザミの一挙手一投足を、スキャンを等間隔で実行しつつ、1番後ろでじっと観察していた。

 

 3人前の定食を平らげたことに驚かれた事をスルーして、調査を続行。

 エビスの方々を歩き回るも、決定的な証言や証拠が出てくることは無く、俺達は日が暮れ始めた頃に、アザミの案内で自治委員会の寮に向かった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 勝手に寂れた場所だと考えていた寮は、アザミの手によって随分綺麗に整えられていた。

 1人で片づけたにしては、随分と手が行き届いてはいたが、個人の技量の範疇だったので頭に入れておく程度に。

 かつて会員が使っていたという2部屋を、百花繚乱4人と先生と俺の2人で分ける。

 それぞれ荷物を置いた後、部屋の中央のくぼみに炭がくべられている場所を6人で囲む。

 囲炉裏と呼ばれるその場所で百蓮を抱えるナグサが、アザミに顔を向ける。

 

 「百物語は、日が暮れてから出るって言ってたよね。本格的な調査はこれから――」

 

 「いえいえ。折角遠路はるばるいらっしゃったお客様に、そんなご無理はさせられませんよ。」

 「この寮には、温泉がございます。これからの調査のため、今日は体を温めて、英気を養われては?」

 

 「委員会のみんなで温泉!青春の1ページじゃん!」

 

 レンゲの賛同にユカリが声高らかに同調。

 調べものがしたいと渋るキキョウの前で、ユカリはぴょんぴょんと跳ねながら口説き落とす。

 1度は断るキキョウだったが、一緒に入りたいと懇願するユカリについに折れて1時間だけと言い、3人は浴場に向かっていく。

 何故か難しい顔をしていたナグサだが、アザミに着替えを用意すると言われた事で、遅れて3人に付いていった。

 

 「お2人もいかがですか?これからお食事をご用意するので、それまでの間、よろしければ。」

 

 ”私は大丈夫。あとで入らせてもらうね。”

 

 「俺もいい。飯の準備を頼む。」

 

 「承知しました。では、ごゆっくり。」

 

 一礼した後アザミが離れ、壁の向こう側から水が流れる音が聞こえてくる。

 先生はそれを見計らったか、俺のことをクロハと呼ぼうとする。

 寸での所で膝を小突いて止めさせると、顔の前に手を上げて謝り、改めて話始めた。

 

 ”……レイヴン。ここに来るまでの間、キキョウとよく話してたね。何かあったの?”

 

 「何でそう言う所ばかり目ざといんだお前は……。」

 「大したことじゃない。怪異が思っていたものとは違っただけだ。イタチだのクマだの、恐ろしいものはもっと別にあるだろう。」

 

 ”恐怖ってそう簡単じゃないからね。1度トラウマになっちゃうと、簡単に振り切れるものじゃないんだよ。”

 

 普通に話しながら、エアに先生のスマホをクラックさせて、短く何度も振動させる。

 訝しむ先生に目線で取れと指示を出すと、ポケットから取り出したスマホを眺める。

 『アザミはほぼ黒だ。エビス分校にも、百鬼夜行にも存在しない。』

 表示されたメッセージに目を僅かに絞る先生は、即座に会話を繋げながら片手で画面のキーボードを叩く。

 

 ”実際、私もクモが怖いんだ。港のタカアシガニの話、覚えてる?暗闇でタカアシガニを見かけたら、絶対大きなクモと勘違いするだろうなぁ……!”

 

 「クモとカニじゃ、随分形が違うだろう。暗闇で見えづらいと言っても、無理があるぞ。」

 

 『それは本当?』

 『エアが調べた。間違いない。』

 普通の話を装いつつ、本題をメッセージでやり取りする。

 この囲炉裏から調理場までは、音を遮蔽できるドアや壁がない。

 下手に話せばアザミに筒抜けだ。

 

 ”いーや、私は絶対ダメだね!絶対クモと勘違いする!これは断言できるよ!”

 

 「何を誇らしげに言っている……。」

 

 『誰に伝えた?』

 『キキョウだけだ。レンゲとユカリには伝えるな。不意に漏らされたら困る。』

 トントンと木を叩く音が、今話している俺達の方まで響いている。

 スキャンで様子を伺うと、アザミは調理に集中しているのか、こちらに目線を向けようともしない。

 メッセージを読み終えた先生は、スマホから顔を上げ、俺に向かって頷いた。

 

 「まあいい。直接確かめればいいだけの話だ。」

 

 ”どこに行くの?”

 

 「目撃場所だ。運が良ければ、怪異と直接会えるかもしれん。」

 

 ”分かった。夜ご飯までには戻ってきてね。”

 

 先生の呼びかけを背に、重いコートを羽織り直して寮のドアを開ける。

 夜の冷たい空気が肌を刺し、地面に積もる雪が月明りで光っている。

 怪異の目撃場所を遡るように辿るべきか。

 ギュッと雪を踏みしめると、口から大きく吐いた息が、夜の風に白く染まった。




クロハとエアがもうアザミの正体に気づきかけていますが、これが2人のデフォです。
こんなのをまともに相手したら勝てる訳ァないね。(白目)
オラトリオを始めとするこれからのシナリオ、この強さが足を引っ張りそうなのですよ……。

次回
影送り
怪異とて、傷が付くなら、殺せるはずだ……。

次回も気長にお待ちくださいませ……。
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