BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL- 作:Soburero
ただしお残しは許しまへん!
取った分だけ食いなはれ!
ドレスサオリ、凄い似合ってるんだが……。
着てるドレスから奴の顔が……。
穏やかな光が差す、シャーレ執務室。
先生は今、シッテムの箱を片手に、ホログラム通信が入るのを待っていた。
箱に映っているのは、カンナから与えられた3組織の情報。
ラス・アルマス、脅迫や身代金目的の誘拐など、傭兵すら引き受けないような汚れ仕事担当の組織。
アイアンフォージ、違法な武器の製造や改造が生業。出どころ不明の兵器は大体ここが作っているとか。
バッドランズ・レイダース、禁制品の密輸が主な収入源。もちろん人も荷物の内。
以前からカンナ達は、この3組織の距離が近い事を警戒していた。
故に、手を組んでカルテルを作っていてもおかしくないとも。
手に入れた情報を再確認しながら待っていると、通信機から青いレーザーが放たれる。
空間に投影されたのは、つい先日先生に調査依頼を出した本人、レイヴンだった。
彼女が口を開く前から雑音が入っているのは、彼女がヘリの中に居るからだろう。
”こんにちは、レイヴン。調子はどうかな?”
『悪くはない。しかし、予想外だ。存外、動きが良いんだな。』
『だが、たった1日動いただけで、ブラックマーケットの噂の的になるとは。お前は目立ちすぎると忠告したはずだが。』
”ゴメン……。行く先々で、トラブルに巻き込まれちゃって……。”
『……そういう事にしておくぞ。』
眉根をひそめるレイヴンに対し、苦笑いを浮かべることしか出来ない先生。
その反応にため息をつくレイヴンだったが、すぐに調子と話を戻す。
『とにかく、情報は受け取った。依頼は完了だ。今、報酬を送金する。』
”待って。まだその3組織がカルテルだって証拠がない。実際に賭けを仕切ってるかどうかだって、確かじゃないよ。”
『それは問題ない。事前にこちらで調査済みだ。既に、カルテルがその3組織で構成されている事は分かっている。』
『傭兵にとって、正確な情報は命綱に等しい。この手の調査を、ぽっと出の素人に任せると思っていたのか?』
”……まさか、何もかも分かってたのに、私に調査させたの?”
『ご名答。頭は回るようだな。』
先生は顔を少ししかめると同時に、仮説が頭の中で組み上がる。
あの依頼自体が、自身を測るための試験でしかなく、調べた情報にほぼ価値はない。
依頼が完了したという事は、少なくとも試験はクリアした、という事ではあるのだが。
善意から差し伸べた手を撥ねつけられたり、嫌悪感を向けられる事には慣れている先生だったが、こうして測られた経験はほぼない。
何でもない様に語るレイヴンを前に、狡猾な大人を相手取っている感覚を抱えた先生は、つい目頭を揉んでしまう。
”……まあ、裏社会で生きるなら、誰かを簡単に信用しない方が良いのか。”
『そういう事だ。一々説明する必要が無いのは助かるぞ。』
『……送金が完了した。よくやってくれた、シャーレ。もし敵として出会った時は――』
”待って!2つだけ、聞いても良いかな?”
『……手短にな。』
通信機の電源を切ろうと手を伸ばしたレイヴンを、先生は慌てて引き留める。
依頼をこなせば自身の事を教える。先生はその約束を、もちろんレイヴンも忘れていなかった。
先生は知る権利を、彼女の身の上ではなく、別の目的で使う事にした。
”その、カルテルの制圧、私に手伝わせてくれないかな?”
『理由は?』
”今回の件、傭兵たちが巻き込まれてる訳でしょ。それがもしブラックマーケットの外に出たら、もっと多くの子供達が巻き込まれる。そうなる前に、賭けを止めさせたいんだ。”
規模こそ大きくないが、力を付けると何をしでかすのか分からない連中。それが公安局の、カルテルの評価だった。
故に、カンナ達は連中がブラックマーケットの外に出た瞬間、叩き潰すつもりでもいた。
先生も同意見であり、出来るならブラックマーケット内で潰しておきたい、そう考えていた。
僅かに目を伏せ、それから静かに頷いたレイヴン。
彼女はこの時点で、先生と公安局の思惑を察していた。
『……まあ、良いだろう。襲撃するときは伝える。だが、どう協力するつもりだ?』
”今回の事に巻き込まれちゃった知り合いが、何人かいるんだ。その子達に声を掛けてみるよ。”
『了解した。メンバーは事前に知らせろ。下調べはしておきたい。』
”分かった。でも、あんまり調べすぎないであげてね。”
『保証はしない。2つ目は?』
最後の言葉につい口元が歪んでしまうが、すぐに表情を戻し、今先生が1番聞きたい事を聞くことにした。
先生の雰囲気が変わった事を受けたレイヴンも、僅かだが眉間にしわを寄せる。
”……私が君と出会った次の日、君は便利屋68の3人と戦ったの、覚えてる?”
『ああ、覚えてる。それがどうした。』
”あの3人、便利屋の事務所に戻ってきた時、ボロボロだったんだよ。骨が折れてたり、血まみれになってたり……。”
”あれだけの暴力を振るうなんて、理由がないと難しいと思うんだ。理由を、教えてくれないかな。”
『そういう事か……。お前は甘すぎるな。』
『戦場に慈悲があると本気で思ってるのか?今目の前にいる敵が、自分を五体満足で返してくれると思うのか?』
”……レイヴン、ここは戦場じゃない。キヴォトス、平和な場所だよ。血まみれになるまで戦う必要なんかない。”
”もっと……。手加減をしてもいいと思うんだ。多少のケガで留める事は、難しいかな。”
『ハァ……。お前、何も分かっていないんだな。傭兵に無事に帰れる保証などある訳が無いだろう。』
『傭兵はそのリスクを織り込んだ上で仕事をするものだ。それが嫌だというのなら、傭兵など辞めろ。』
”そういう事じゃない……!君だって、怪我をするのは――”
『いい加減にしろ。これ以上お前の説教を受けるつもりは無い。』
頭の犬の耳を思い切り後ろに倒し、文字通り先生に牙をむいたレイヴン。
余りの覇気に一歩下がってしまった先生だが、すぐに足を戻し、レイヴンに正面から向き合う。
”……とにかく、手加減を忘れないであげて。君と戦う相手だけじゃなく、君の為にも。”
『……傭兵にとって、名声とは畏怖だ。お前こそ、その原則を覚えておくんだな。』
先生が二の矢を継ぐ前に、レイヴンは通信を切断。ホログラムも霧散した。
思っていた以上に、頑固で複雑な子かもしれない。
ため息をつきながら椅子に座った先生は、シッテムの箱をホルダーに立てかけ、連絡用のスマホを取りだした。
そして、あらかじめ作っておいた4人のグループトークに、メッセージを送った。
その日の夜、レイヴンから先生にメッセージが送られてきた。
用件は2つ。次の対戦カードが決まった事と、次の日の夜に襲撃を仕掛ける事。
カードの内容は、レイヴン1人対プロの傭兵の大部隊。
ただレイヴン曰く、この傭兵部隊とは依頼をすっぽかすよう話を付けているとの事。
先生は4人にレイヴンからのメッセージを転送し、明日の夜に空きがあるか聞いてみると、全員OKサイン。
同時にカンナ達にも連絡。マーケット外に逃げ出した奴らの後始末は任せろとの返信。
レイヴンに参加メンバーを伝えたあとは、襲撃の時まで待つのみとなった。
――――――――――――――――――――――――――――
空き缶やごみ袋が転がる真夜中の路地裏を、慎重に進む5人組。
街灯が照らす大通りを前に、先生は後ろに手をかざして止まるよう指示。
先生達の目線の先にあるのは、以前サオリとラブが警備していたファイトクラブだ。
あのクラブが、今回の襲撃目標。あそこの地下で、傭兵たちの戦いを賭けにしている。
”止まって。ここで待とう。”
「まさか、あのクラブでうちらを見世物にしてたなんてね……!ただじゃおかないんだから!」
「しかし、情報源があの“黒い凶鳥”なのでしょう?先生を疑うわけではないのですが、信憑性にいささか不安が……。」
”大丈夫。約束を破るような子じゃない。直接話したから分かるよ。”
「多分、大丈夫よ。レイヴンが誰かを騙したって噂は1つも聞かないもの。」
「アケミ、先生の人を見る目は確かだ。信用していい。」
先生の傍に居たのは、ラブ、アケミ、アル、サオリの4人。
各々不安はありつつも、先生からの呼びかけと、レイヴンから提示された報酬に答え、ここに居る。
アルとサオリが先生に全幅の信頼を置く様子を見て、アケミは柔らかな微笑みを先生に向ける。
その傍らで、ラブは頬に汗をたらし、クラブのネオンをじっと見つめている。
「まあ。信頼されているのですね、先生。」
「マジで騙されてないと良いけど……。」
『こちらエア。先生、聞こえますか?』
”OK。聞こえてるよ。”
エアの声が発せられたスマホを取り出し、シッテムの箱を確認しながらエアと話す先生。
アロナとプラナがクラブの設計図を入手し、監視カメラをクラックした事で、内部の様子が正確に把握することが出来た。
地上1階、地下1階の2階建てで、地上は普通のクラブ、地下が闘技場となっている。
今日は閉店している事になっているが、地下には沢山の人が集まっている。
当然、賭けの主催者も地下に居るのだろう。
『まもなく作戦を開始します。まず、レイヴンがクラブに直接降下します。その後現れる、増援部隊と交戦してください。』
”待って、クラブに直接降下?どういう事なの?”
『すぐに分かります。ただ、激しい衝撃が伴いますので、その場で動かず、伏せていたほうがいいですよ。』
事前の作戦では、まずレイヴンが突入し、先生達が賭けの胴元を確保して離脱する手筈だった。
当然先生も手伝うつもりだったのだが、直接降下するというのは、全員にとって寝耳に水。
5人が顔を見合わせながら、エアの言葉の意図を探ろうとする。
「どういう事だ……。爆弾でも落とす気か?」
「でもそれじゃ、レイヴンが降下するって話に合わないわよね……。何をする気なの……?」
4人一斉に先生へ困惑の表情を向けるが、当の先生も苦笑いを返すことしか出来ない。
その時、空の遠くから聞こえるバラバラという重低音。
先生が良く聞く、クロノス報道部が使うヘリよりも、大きく重い音が響く。
「……あら?ヘリコプターでしょうか?」
「そういえば、レイヴンはヘリを持っていると聞いているが……。」
「……ねえまさか、ヘリから直接飛び降りるってんじゃないでしょうね!?」
ラブの言葉を聞いた瞬間、先生の脳内に仮説が走る。
ノアに連絡を取った時送られてきた、レイヴン専用のパワードアーマー、ナイトフォール。
それは、単独で飛行することを前提としている設計だった。
丁度、ヘリから投下しても問題なく行動できるような設計になっている。
”えっと、レイヴン?何をするのか教えて――”
『降下まで5秒。3、2、1。』
”エア!?なんのカウントダウン!?ちょっと!?”
『ナイトフォール投下。機体反転しつつ上昇。作戦エリアから離脱します。』
慌てて連絡を取ろうとするも、時すでに遅し。
音が最も近づいたと思ったら、すぐに元来た方向へと引き返していった。
そして、僅かな星が光る夜空に、赤い箒が描かれる。
その箒は、真っ直ぐクラブへ向かおうとしていた。
「ねえ、あそこ!」
「赤い、流れ星……?」
「嫌な予感がするのは、私だけでしょうか……!?」
”私もしてる……!皆伏せて!”
先生は近くにいたラブとサオリの腕を掴んで引き寄せ、アルは自ら先生に近づき、生徒達を抱えた先生の上にさらにアケミが覆いかぶさる。
直後、風切り音と共に、大地が大きく揺れる。
赤い箒星はクラブの屋上へ正確に突っ込み、瓦礫と粉塵を巻き上げる。
互いにしがみついて身を守る先生達に襲い掛かる、2度目の衝撃。
赤いドームがクラブを丸々覆い、吹き飛ばし、焼き尽くす。
小さなクラブの残骸が先生達の背中を叩き、粉塵が視界を覆い尽くす。
衝撃が収まった瞬間、クレーターから飛び出した箒星。
それは先生達の待つ大通りへ着地し、熱を蒸気として捨てた後、頭のバイザーを引き上げた。
土気色の鎧を纏う黒い凶鳥は、その深紅の瞳を先生達に向ける。
「直接会うのは2度目だな、シャーレ。」
”レイヴン、今のは一体何!?あんな爆発、見た事が無いよ!”
「当たり前だろう。“外”の技術だからな。」
ただ立っているだけで覇気をまき散らすレイヴンに、最初に近づいたのはアケミだった。
筋肉を大きく隆起させながら、レイヴンに会釈をする。
「……あなたが、“黒い凶鳥”レイヴン。お会いできて光栄ですわ。」
「ただ同時に、舎弟達を必要以上に痛めつけた事について、拳で語り合いたい気分でもありますが。」
「後にしろ。事が済んだらいくらでも相手になってやる。」
レイヴンのそっけない対応に、ため息を隠せないアケミ。
彼女の後ろを通り過ぎ、レイヴンを指差しながら詰め寄るアル。
「それが終わったら、私の苦情を聞いてもらうわ!うちの社員達がどんな目にあったのか、忘れたとは言わせないわよ!」
「それを織り込み済みで仕事をしているんじゃないのか?」
正論をぶつけられ、それでも収まらない怒りを目線で示そうとするアル。
2人が話している間にレイヴンの正面に来ていたサオリが、レイヴンの瞳をまじまじと見つめる。
「お前が、レイヴン……。お前のその眼、兵士のそれだ……。」
「珍しいか、アリウス?お前だってそうだろう。」
昔を思い出したことで、そっと目を逸らしたサオリ。
ふとレイヴンがラブに目線を向けると、ラブはびくりと跳ねて1歩後ずさり。
「……どうしたラブ。膝が笑ってるぞ。」
「な、何よ!びっ、ビビッてないんか無いし!あんたなんか、怖くないし!」
「……そういう事にしておこう。」
膝を押さえて誤魔化そうとするも、震えは余計にひどくなるばかり。
先生がラブに目線を合わせ、彼女の恐怖をなだめていると、通りの先に目線を向けるレイヴン。
彼女が向いている方向から、沢山の車両のエンジン音が、うっすらと聞こえてくる。
レイヴンは音の方向に数歩踏み出してから、先生達に振り返った。
『救護班を要請しました。到着まで15分です。』
「なら10分で片を付ければ間に合うな。」
「良く聞け。これからカルテルの増援が来る。お前達には、そいつらを一掃するのを手伝ってもらうぞ。」
「戦闘時間は10分だ。救護班が到着するまでに、奴らを徹底的に叩く。」
”クラブの中に居た人たちは?あのままじゃ生き埋めだよ!”
「そのための救護班だ。連中の救助は奴らに任せる。あの場に完全に無関係な者はいないしな。」
「ちょっとちょっとちょっと!?!?何か凄い数がこっちに来てるわよ!?」
アルが音にスコープを向けると、レンズに映ったのは多数の戦車や装甲車、戦闘ヘリにゴリアテのおまけ付き。
先生が箱で調べてみれば、一緒に走っている装甲車には、銃火器を備えた歩兵がたっぷり乗っている。
大幅に数で劣る事を把握しているはずのレイヴンだが、一切怯むことなく、むしろさらに前に出た。
地面を揺らすほどの行軍が、うっすらと目視できる距離まで近づいていた。
「見えたな。あれがカルテルだ。あれを潰す。」
「どうやってもあの数は無理だ!逃げるぞ!」
「逃げるならお前だけで逃げる事だ、サオリ。他はどうする?今ならまだ間に合うぞ。」
「あんたマジ!?目ぇ見えてないの!?あの数とどう戦うってのさ!!」
「レイヴンさん、流石に相手が多すぎます!無茶です!」
当然、ここから逃げ出すべきと唱える4人。
実際、アケミと先生以外の3人は先生を連れて駆け出そうとしており、アケミはレイヴンを引きずる事も視野に、彼女を説得しようとしていた。
だが、ナイトフォールの背中の大砲がぐるりと回り、2つ連なった箱が肩の上までせり上がる。
それは、レイヴンが彼らと戦う気である事を意味していた。
「……傭兵に異名が付く時、それには理由と意味が込められている。」
「“黒い凶鳥”の戦い、見せてやろう。」
「エア、準備は良いな?」
『もちろんです。行きましょう、レイヴン。』
『「メインシステム、戦闘モード起動。」』
そう呟きながら、頭のバイザーを下ろしたレイヴン。
直後、大きく屈みながら背中のカバーを広げ、キヒュルルという独特な音と共に、星空へと飛び上がった。
4人の引き留めも虚しく、彼女はそのまま、カルテルの増援に向かって真っすぐ飛んでいく。
「どうするの!?彼女行っちゃったわよ!?」
「……置いていくしか――」
”みんなはここから逃げて。私はレイヴンのために残る。”
『言い忘れていたが、俺にお前の指揮は不要だ、シャーレ。誰も残らないのなら、お前も行け。』
”悪いけど、私は行かないよ。君がやり過ぎない様に、見張ってなきゃね。”
『……好きにしろ。』
レイヴンからの最終警告を、自らの矜持で一蹴した先生。
先生にとって、彼女は既に自身の生徒であった。それも、適切な導きを必要とする問題児だ。
実態はどうあれ、先生は彼女の事をそう認識しており、生徒を見捨てる選択肢など、先生は持ち合わせていない。
まず先生の元に戻ったのは、先生の思考の癖を直に味わっている2人だった。
「私は残る。指揮には護衛が必要だろう?」
「私もよ!アウトローにビビってる暇はないの!」
「あぁ~もう!!アタシもやる!!やってやるわよ!!」
「私の力もお貸ししましょう。お役立てください、先生。」
ラブとアケミも、自らの矜持によってこの場に残った。
仲間は決して見捨てない。それが恩のある相手であれば猶更。
先生が誰かを見捨てない限り、2人も先生を見捨てようとはしない。
”みんな、ありがとう。”
”戦闘準備!アケミは正面、ラブはその横の遮蔽に!アルとサオリは後ろから援護!”
先生は箱の指揮モードを起動して、全員に指示を飛ばし、4人はそれに応える。
アルが鋼鉄製のごみ箱をアケミたちへ押し転がし、アケミがそれをひっくり返して、ラブのための遮蔽にする。
その間、サオリが持ち込んだ地雷を正面に仕掛け、先生は建物の影に隠れ状況を確認する。
レイヴンの現在位置は、カルテル部隊の丁度上空。部隊が先生達の射程に入るまであと少し。
全員が愛用の銃を構え、カルテルを待ち構えていた時、部隊の上を飛んでいた攻撃ヘリに箒星が体当たり。
胴体と尾部を切断された攻撃ヘリは制御を失い、部隊の真上に墜落した。
レイヴンは大きく弧を描き、先頭を走っていた戦車の正面に着地。
放たれた砲弾を、彼女は左腕の赤く透き通る盾で受け止め、直後加速し戦車と衝突。
盾を車体の下に差し込み、腕を振り上げて戦車を跳ね上げる。
完全に浮き上がった車体を、飛び上がる勢いを利用してさらに蹴り上げ、完全にひっくり返す。
斜め後ろに下がったと思えば、肩の箱から放たれた小型ミサイルによる絨毯爆撃。
燃料漏れによる炎や、ミサイルの爆風により、通りは真昼の如く照られる。
レイヴンが介入した途端、カルテルは前進するどころではなくなってしまった。
「ヘリが真っ二つになって、戦車がひっくり返った……!夢でも見てるの、アタシ……!?」
「いや、現実だ……。信じがたいがな……。」
「相手がほとんどこちらに来ない……。完全にレイヴンさんに気を取られていますね。」
「これ、本当に私達が必要だったの……?」
”……これが、レイヴンの、戦い……。”
”……全員、前進!今のうちに距離を詰めて、レイヴンを援護しよう!”
ラブとアケミが前に進み、サオリが地雷を解除している間、通りの奥でひと際大きな爆発音。
レイヴンが後ろに控えていた装甲車を、背中の大砲で爆破したのだ。
この攻撃で退路すら塞がれたカルテルは、今も迫っているラブとアケミを無視して、レイヴンを攻撃する。
ゴリアテが空を飛んでいるレイヴンに向け、両腕のガトリング砲をばら撒くも、その大半は当たらず、当たっても赤い盾に防がれる。
レイヴンはお返しとばかりに、右腕のガトリングガンでゴリアテの周りにいた歩兵たちをハチの巣へと変えていく。
対空射撃を続けていたゴリアテが、銃身のオーバーヒートで射撃を止めた。
アルに狙撃を指示しようとした先生だが、左腕の盾を刃に変えたレイヴンがゴリアテに急降下。
刃はゴリアテの胴体に深く突き刺さり、CPUを破壊。
直後レイヴンを中心に、クラブを破壊したのと同じ、赤いドーム状の爆発。
ゴリアテの周囲に居たはずの敵が、この爆発で全員やられてしまった。
ドームが完全に消える前に再び飛び上がり、1台挟んで前に居た戦車に向けて、空から大砲を撃ち込んで破壊。
レイヴンが跳ね上げたジープを、歩兵たちに向けて蹴り飛ばしたことをきっかけに、カルテルは完全に戦意喪失。
多くが銃を捨てて、この場から逃げ出していく。
カルテルはレイヴンから離れようと、炎を越えて逃げ出そうとするが、飛び出した先は先生達の射程内。
すかさずアケミが弾幕を張り、ラブとアルが足を止めた奴から撃ち抜いていく。
地雷の片付けを終えたサオリも、後ろからカルテルの恐怖をあおる様に援護射撃。
先生達とは反対方向へ逃げる者は、レイヴンが決して逃がさない。
空中から放った大砲が最後の1人を倒すと、レイヴンは先生達の前に着地。
ごうごうと燃える炎の前で、いくつもの小さな赤い目が、先生達をじっと見つめる。
『敵部隊の殲滅を確認。増援もありません。』
「少なくとも、今はな。新手が来る前に撤収するぞ。」
レイヴンがそう言うと、先生達の後ろに着地した、レイヴン所有の大型ヘリ。
先生達の間を堂々と通りながらヘリに乗り込み、バイザーを引き上げて5人をヘリへと招いた。
「乗れ。シャーレビルまで送ってやる。」
戦闘完了まで、僅か5分。敵の総数、おおよそ50人。
戦車2台、攻撃ヘリ1機、装甲車1台、ジープ3台、ゴリアテ1機。
これらの戦績の8割を、目の前にいるたった1人が為した事実に、先生達はめまいを起こしていた。
一足先に普段の調子に戻る事が出来た先生がヘリに乗り込むと、残りの4人もおずおずと先生に続いた。
全員がヘリに乗り込むと、機体はハッチを閉じながらゆっくりと浮き上がり、ブラックマーケットから離れていった。
十分に浮き上がった所で、レイヴンはナイトフォールの背中を開き、鎧から体を引き抜く。
少し居心地が悪そうに立っている5人の前に、レイヴンはコックピット近くに置いてあったスーツケースを取り出した。
「全員よくやった。本来口座に送金するところだが、お前達の大半は口座がまともに機能していないからな。現金で支払おう。」
「現金?でも、私達は――」
「経緯はどうあれ、お前達は戦場に残り、俺と共に戦った。それ相応の報酬は支払う。」
「受け取れ。1人1千万だ。」
スーツケースを開いてみれば、中には帯で留められた札束がギッシリ。
何と、これを1人10個づつ渡すという太っ腹。
先生を含めた全員が初めて見る光景に目を丸くする。
ラブに至っては驚きを口に出してしまう始末。
「いっせんまん!?!?あれだけで!?!?」
「ッ――!叫ぶな!声が響く。」
「あっ、ゴメン!でっ、でも1人1千万って……!アンタどんだけ金持ってんのよ!?」
「命を賭けるなら受け取って然るべき額だぞ。覚えておけ。」
先生が大金に目を回していると、スマホにエアからのメッセージ。
《先生には口座に振り込んでおきます。追跡の心配はありません。》
余りにも自身の常識と違いすぎる体験に、もう苦笑いを浮かべる事しか出来ない先生。
裸の札束を持って歩けばトラブルになるというアルからの指摘で、先生は意識をもう一度現実に引き戻す。
報酬はシャーレに戻ってから山分けしようと全員に提案し、レイヴンを含めた全員が了承した。
レイヴンが適当に座るよう促し、全員思い思いの場所に座る。
大して動いたわけでもないのに、どっと疲れた。
先生達が同じ感想を抱え座り込んでいると、レイヴンがナイトフォールに寄りかかりながら、各々に声を掛けていく。
「それで、アケミ。拳で語り合うという話とやら、いつやる?」
「いっ、いえ。それについては、また今度。」
「今の私では、あなたに勝てるビジョンが、全く見えなくて……。」
「そうか。覚悟が決まったら呼べ。相手をしてやる。」
「アル、お前も苦情とやらはどうした?」
「それは、その……!いつか!いつか仕事で出くわした時に言ってやるわよ!覚えてなさい!」
「ああ、覚えておこうか。」
「ラブ、震えは収まったか?」
「何か……。何かもう、今日の事がヤバすぎて、考えらんない……。てか、震えてないし……。」
「だと良いがな。」
「……何か言いたげだな、サオリ。」
「……レイヴン。お前からは、血の臭いがする。染みついて落ちない、歴戦の証の臭いだ。」
「だが、これほど濃い臭いは、今まで嗅いだことがない……。どれだけ戦えば、これだけ染みつく?」
「さあな?存外、お前の予想通りかもしれんぞ。」
生ぬるく、それでいて冷たいような空気がヘリの中に漂い、4人はそれ以上話そうとしなかった。
レイヴンは、キヴォトスの外から来たのかもしれない。
先生はレイヴンの言動やその戦いから、それをほぼ確信していた。
だから先生はレイヴンの正面に立ち、赤い目をまっすぐ見つめて、直接聞くことにした。
”レイヴン、君は、何者なの……?”
「……ただの、傭兵だ。」
彼女はそれ以上答えようとはせず、先生もそれ以上聞こうとはしなかった。
そんな先生達を見て、4人は怪訝な表情で互いの顔を見合わせる。
微妙な空気感が変わることは無く、ヘリはキヴォトスの空を飛んでいく。
そうして飛ぶこと数時間、空が白んできたころシャーレビルに到着。
寝ぼけ眼をこすりながらヘリから下りた4人を、先生は休憩室まで案内する。
レイヴンも降りるように促したのだが、カルテル狩りの仕事が残っていると申し出を撥ねつける。
飛び立つ前に、エアにも挨拶しておこうとコックピットに向かったが、左右どちらの操縦席も無人だった。
それに驚いた直後、私はそこには居ませんよ、とエアから伝えられた。
肝を冷やした先生だったが、彼女が優れたハッカーである事を思い出し、それ以上考えない事にした。
そして、現金が詰まったスーツケースを先生が受け取った後、レイヴンはキヴォトスの空へと再び戻っていった。
ヘリが見えなくなるまで見送った後、先生のスマホに1通のメッセージが届く。
《俺達の連絡先として残しておく。上手く使えよ、シャーレ。》
それは、彼女と初めて会った時、連絡用にと渡されたメッセージアプリだった。
彼女の信用を勝ち取れた事に少し安堵した先生は、朝日を背中に浴びながら、執務室へと戻っていった。
その後、レイヴンはカルテルの掃討を続け、単独かつ僅か1週間で組織の大部分を解体。
幹部や首領は顔面が変形するまで痛めつけたうえで、トラックの荷台に満載し、公安局の前に配達されていたという。
その首領たちの処理や報奨金の支払いに、先生とカンナ達が頭を抱える事になるのは、また別のお話。
これにてオリイベ『HIGH ROLLER LOUNGE』完結です。
気が向いたらエピローグを書いたり、また掲示板を書いたりするかもしれませんので、気長にお付き合いくださいませ……。
あんまギャンブル感ねぇなっていうのは禁句だぞ!!!
ところで、デカグラ編の更新、まだっスかね……。
この調子だとまたオリスト書いちゃいますぞ……。