BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL- 作:Soburero
ブラックマーケットで起こる銃撃戦。普段であれば気にする必要すらない。
しかし、それが誰かの“仕込み”で、それを楽しく眺めている奴がいるとしたら?
今回はそんな渦巻く欲望の中の、はぐれ者たちの物語です。
――――――――――――――――――――――――――――
レイヴン
キヴォトスの外からやってきた、流浪の傭兵。
どこの組織にも肩入れしない、独立傭兵というスタンスを掲げる少女。
極めて高い技量と徹底的な殲滅から、“黒い凶鳥”の二つ名で恐れられている。
彼女の経歴には謎が多く、キヴォトスらしからぬ独特の価値観が目立つ。
「独立傭兵レイヴン、合流する。報酬はキッチリ払えよ、シャーレ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
固有武器:ナイトフォール
レイヴンが駆る、専用のパワードアーマー。
高い機動性と強力な武器を併せ持つ、レイヴンの『仕事道具』。
性能が高い分反動も強く、制御も非常に複雑なため、彼女以外は扱えない専用装備。
「お前がナイトフォールのパーツをどこから仕入れたのか、知りたいところだが……。
まあいい、気持ちは受け取っておこう。これからも贔屓にしてくれ」
疎らに浮かぶ雲の上から、太陽が暖かな光を降らせる。
子供たちは芝生の上を転がるボールを追いかけ、大人たちはそれを優しく見守る。
そよ風が枝葉を優しく揺らし、羽を休めていた小鳥がさえずり、遠くから散発的に銃声が響く。
本日のキヴォトスは、実に平和であった。
平和な日。それはこの大人にとって、書類を片づけなければならない日。
過去の自分が片づけていると見越していた書類の山を前に、先生は大きなため息をつく。
頭の中で自分を叱りつけながら、適当な山の頂点から1枚抜き取り、内容に目を通す。
パソコンの記録と書類を何度も見比べ、間違いが無い事を確認し、ハンコを押して別の山へ。
既に何時間と続けている作業。コーヒーは冷めてしまい、腰も痛くなってきた。
本日2度目のストレッチをしようとアームレストに手をかけた時、少女の呼び声に引き留められた。
シッテムの箱の中にいる水色のセーラー服を着た少女が、ヘイローを波立たせながら、両腕をブンブンと振っている。
少女の話を聞くために、先生は箱を手に取った。
「先生!先生!ちょっと伝えたい事が!」
”何かな、アロナ?”
「最近、“レイヴン”と“エア”っていう、2人組の傭兵がキヴォトス各地で暴れてるみたいです!」
「これが映像です!実際にレイヴンと戦ったオートマタが記録してたものです!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
バババババッ!
ダダダダダッ!
「くっ、来るな……!来るなァ!!」ダダダダダッ!
ズドンッズドンッ!
ガシャーン!
ドゴォォン!
ババババガキン!
「弾切れッ……!?このッ――」
ドンッ
ガァン!
ズドンッ!
ババババッ!
コツコツコツ
ジャキッ
「……化け――」
――System Error――
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
箱に表示された映像の光景は、虐殺と呼ぶべき程の、極めて一方的なものだった。
映っていた生徒の服装からして、不良生徒のグループだったのだろう。しかし、たった1人の生徒が襲撃した事で壊滅した。
姿を捉えられないほどの高速で動きながら、両手に握った銃を使いこなし、相手に的確に当てていく。
それだけでも凄い事だが、その生徒に掴まれた生徒が、片手で投げ飛ばされていたシーンもある。
そして、映像を記録していたオートマタが弾切れを起こした瞬間、即座に距離を詰めて蹴り飛ばす判断の速さ。
倒れた相手にも決して油断せず、的確にトドメを刺す冷酷さ。
先生が今まで関わってきた、最強と名高い生徒達。
彼女達とは全く異なる強さを、先生は目の当たりにしたのだ。
”……これは、凄いね。ただ者じゃないよ、この子。”
”どこの学校出身なんだろう?”
高い身長に、筋肉質な体つき。それをジャケットとハーネスで覆い、腰を締めるベルトにはグレネードが釣り下がっている。
少し荒れている燃え殻のような灰色の短い髪に、頭頂部にあったジャーマンシェパードを彷彿させる犬の耳。
戦闘中にも存在感を発揮した、2つの光輪が連なったブラックホールのような見た目の赤黒いヘイロー。
そして、鋭い目つきの奥で光っていた、ヘイローと同じ色の、深く昏い瞳。
画面越しだろうと死の気配を放つ、異様な生徒。それが、レイヴン。
これだけ特徴的なら、必ずどこかで話題になる。
先生はそう考えていたが、その期待は裏切られる事になる。
「実は、ここからが問題で……。その……。」
「……分からないんです。どれほど探しても、レイヴンとエアの身元に繋がる情報は、確認できませんでした。」
アロナの隣にいた、黒のセーラー服を纏う少女、プラナが、ガサガサとフォルダを振るうも、出てくるのは埃ばかり。
この2人、アロナとプラナはやろうと思えば、ミレニアムのサーバーから機密情報を全部引っこ抜く位の事が出来る。
それに、先生が持つ権限は、各学園が持つ戸籍データを覗くだけなら何の条件も必要ない。
本来、手掛かり程度の情報でも見つかって然るべきなのだが、それが一切ない。
明確な異常事態である。
”確認できない?情報が削除されてるって事?”
「それすらも分からないんです!本当に、キレイサッパリ!なんっにも!分からないんです!」
「私と先輩は、これを異常事態と認識しています。解決するには、先生が調査する以外にないでしょう。」
”確かにおかしい……。一体どうして……。”
”……まずは、みんなに聞いてみよう。レイヴンがあちこちで暴れてるなら、学園側にも情報があるはず。”
先生は固定電話の受話器を持ち上げ、短縮ダイヤルのボタンを押し込む。
ボタンの上に書かれているのは、「ゲヘナ風紀」の文字。
受話器からプルルと響く呼び出し音。それが2つ続いて、ハキハキとした定型文が響いてきた。
『はい。こちら風紀委員会です。どの様なご用件でしょうか。』
”こんにちは、シャーレの先生だよ。傭兵のレイヴンとエアって子達の事を聞きたいんだけど、今良いかな?”
『情報参照ですね。少々お待ちください。』
今度は受話器から、ゲヘナの校歌が流れ始める。
手持無沙汰になった先生は、パソコンでレイヴンとエアを検索、ヒットした記事を開く。
【第6工廠陥落!?黒い凶鳥か】
ゲヘナにあるカイザーのオートマタ工場が襲撃された、という事件。
曰く、襲撃したのはたった1人。重厚なパワードアーマーを纏い、赤いヘイローを携えた者だったという。
この襲撃で壊滅的な被害を受けた第6工廠は放棄され、近く解体する予定とのこと。
風紀委員会は襲撃者は不明だと答えているが、この記事の記者はレイヴンがやったと見ているようだ。
『先生、お待たせしました。“独立傭兵レイヴン”及び“オペレーター、エア”2名の情報をお送りします。今、メールで送信しました。ご確認を。』
”うん、ちゃんと届いたよ。ありがとう。”
『……これは個人的な質問なのですが、何故この2人の情報を?』
”それが、今2人の事を調べてるんだけど、全然情報が出てこなくて。風紀委員会なら何か知ってるかなと思って聞いてみたんだ。”
『そうですか……。もし2人を調べるのなら、1つ忠告させてください。』
『この2人に安易に近づくと、火傷どころでは済みません。くれぐれも、慎重に。』
『それでは、失礼します。お気をつけて。』
”う、うん。ありがとね。”
受話器を置く直前に放たれた言葉の物々しさに一抹の不安を感じつつ、先程受信したファイルを開く。
中身は、レイヴンとエアの、要注意人物調査報告書。
レイヴン。通称“黒い凶鳥”。
本名は不明。独立傭兵を自称し、キヴォトス各地で依頼を遂行。
極めて危険な任務を好んで受諾し、そして平然と達成する危険人物。
エア。
本名は不明。レイヴンのオペレーターを自称する、極めて優れたハッカー。
その姿を見た者はおらず、痕跡の追跡も困難。
そして2人に共通するのが、極めて鋭い嗅覚の持ち主である事。
あらゆる形の調査に対して早期に反応し、警告もしくは排除している。
報告書には、彼女たちの能力を証明するエピソードがいくつも書かれているが、肝心の身元を確認できる情報は無い。
”……直近の活動は残ってるけど、出身とかは全然書いてない……。風紀委員会でも分かってないのかな?”
”正義実現委員会ならどうかな……。”
先生は再び受話器を持ち上げ、「トリニティ正実」のボタンを押し込む。
今度は1コールで相手の受話器が持ち上げられ、少したどたどしい定型文が耳に届く。
受話器を肩で挟み、通話と並行してパソコンでの調査も欠かさない。
『はい。正義実現委員会です。』
”こんにちは、先生だよ。レイヴンとエアっていう傭兵達を調べてるんだけど、情報はあるかな?”
『レイヴンさんと、エアさんですね。少々お待ちください!』
受話器からトリニティの校歌が流れ始め、先生は「黒い凶鳥」の検索結果を流し読み。
結果、レイヴンの仕事の結果であろう事件が、目に次々と飛び込んできた。
【密輸組織が壊滅、抗争か粛清か】【不良グループ衝突、両成敗に】【倉庫爆発、違法武器大量保管か】
どの記事も、“黒い凶鳥”がやったと見ており、写真にはレイヴンと思わしきシルエットが小さく映っている。
もしこれらをどこかからの依頼とするなら、どれもこれも、普通の傭兵バイトであれば達成できない、そもそも引き受けない仕事ばかり。
これらを真実と受け取っていいものか悩んでいると、先程の子のものではない凛々しい声が、先生の鼓膜を撫で、意識を現実に引き戻す。
『先生、正義実現委員会副委員長のハスミです。急に変わってしまってすみません。』
”ハスミ?どうかしたの?”
『先生が、レイヴンとエアを調査しているとお聞きしまして。率直に言いますと、この2人の調査は止めた方がよいでしょう。』
”それは、どうして?何かあったの?”
『……過去に、レイヴンとエアに対し、調査員を2名派遣しましたが、2人とも顔面が変形した状態で帰ってきました。』
『先生、あなたが動けば、否が応でも目立ちます。確実に狙われるでしょう。』
『どうか、考え直してください。あの2人を追いかけて良い事などありません。』
”それは分からないよ。もしかしたら、助けを必要としてるかも。例えば、誰かに無理矢理傭兵をさせられてるとか。”
”もしそうだったら、私は放っておけない。直接話を聞いて、確かめたいんだ。”
レイヴンの異常な行動に対し、先生は仮説を立てていた。
まず、レイヴンは強制的に傭兵をやらされており、エアというハッカーが彼女の手綱を握っている。
レイヴンの身元情報を削除し、調査を徹底的に妨害しているのは、その事実を周囲に悟らせないためであると。
レイヴンが助けを求める事が出来ないのなら、こちらから手を伸ばせばいい。先生はそう考えていた。
そしてハスミも、先生の思考の癖を理解していたが故に、それ以上止める事はしなかった。
『あなたはそう言うと思っていましたが……。分かりました。今情報を送ります。』
『ただ、彼女たちに直接近づく時は、必ず護衛を付けてください。それこそ、私やツルギのように、腕の立つ者を。』
”分かったよ。十分気を付けるから。ありがとね、ハスミ。さっきの電話の子にも、ありがとうって伝えて。”
『確かに、承りました。どうか、気を付けて。』
”ハスミからもああ言われるなんて、一体何者……?”
受話器を置いて、ため息をつき、送られてきたファイルを開きながら、そう独り言つ先生。
内容を確認すると、大方風紀委員会の報告書と同じ。活動場所が、トリニティ内に変わった程度。
身元の情報は無く、ただただ、レイヴンの苛烈さが強調されるばかりである。
余りにも徹底した情報統制に、先生を追い立てる不安は大きくなっていった。
”ミレニアムは、C&C……。いや、ノアに聞いた方が良さそうだね。”
今度は固定電話を使わず、生徒達と連絡を取るためのスマホを取り出し、ノアの電話番号を呼び出した。
今の時間なら、ユウカやコユキと一緒に、セミナーの仕事に勤しんでいるはず。
ノアはキヴォトス随一の記憶力の持ち主だ。もしレイヴンの名前を目にしていれば、彼女に繋がる情報を引き出せるだろう。
呼び出し音が6回鳴った時、流石に忙しいかと電話を切ろうとした時、ノアのたおやかな声が、スピーカーを震わせた。
『こんにちは、先生。どうされましたか?』
”ノア、突然ごめんね。実は今、レイヴンとエアっていう、2人組の傭兵の事を調べてるんだ。何か知ってたら、教えてくれない?”
『フム、レイヴンとエア……。確か、エンジニア部にパワードアーマーの開発を依頼していました。』
『設計者はエアさんです。とても特殊な設計になっていて、オーパーツ由来の技術を沢山詰め込んでいます。』
”オーパーツ?名もなき司祭たちのそれとか?”
『それが、名もなき司祭とも、廃墟から回収されるようなものとも異なるようで、レイヴンさんは“星外技術”と呼んでいました。』
”星外技術……?まさか、UFOを回収してきたとか!?”
『残念ながら、UFOではありませんでした。一言で言うなら、“星外技術”は今から5世紀先の技術ですから。』
”そっかぁ……。残念……。”
”でも、500年先の技術ってだけでも普通じゃない。一体どうやって知ったんだろう?それとも、レイヴン達が作ったのかな?”
『本人たちの話ですけど、アビドスの廃墟からデータを回収してきたそうですよ。今、オーパーツ研究会がその廃墟を調べてます。』
『契約書や設計図は見せられませんが、設計要件なら送れますよ。お送りしましょうか?』
”うん、お願い。”
『分かりました。すぐにメールで送りますね。他に聞きたい事はありますか?』
パワードアーマー、“ナイトフォール”。
先生はそこにある内容をほとんど理解できなかったが、ノアの言う通り、極めて特殊なパワードアーマーである事は何とか理解した。
特に機動力と火力に優れた機体で、防御力も必要十分。
武装はガトリングガン、ミサイルポッド、榴弾砲、そして大型複合シールドユニット。
AIなどのアシストに一切頼らない設定になっていて、動かすだけでもかなり難しい機体だ。
メールで送られてきた設計要件を読み込みながら、先生はノアとの会話を続ける。
本当に聞きたいのはここからなのだから。
”レイヴンとエアの素性って、セミナーはどれだけ把握してる?問題ない範囲で教えてくれないかな?”
『それが、素性のほとんどが分からない状態なんです。とても警戒心の強い方々のようで。』
『2人の事を調べようとしたヒマリ部長が、ハッキングを仕掛けた途端、カウンターハックで車いすが暴走した事もありました。』
”ヒマリが、カウンターハックを喰らったの!?”
『はい。それもトラップに引っ掛けたのではなく、直接探知して攻撃し返したんです。その上で、メッセージまで残されていました。』
『“これ以上レイヴンを追跡すれば、如何なる安全も保障しない。エア。”』
”エアは凄い実力の持ち主みたいだね。”
『チヒロ副部長曰く、「魔術師のような腕前」との事で、人間離れしたスピードでハックされたようです。』
『先生。もし彼女たちを追いかけるなら、十分気を付けてくださいね。』
”ありがとう、気を付けるよ。それじゃ。”
”……これは、思っていたより大変かもね。”
先生はスマホをポケットに戻し、顔を覆いながら天を仰ぐ。
ヒマリはミレニアムトップクラスのハッカー。彼女の攻撃を探知するだけでも一苦労のはず。
しかし、エアは攻撃を難なく探知して、ヒマリが対処できないほどのスピードでカウンターを打った。
エアもまた、異常な実力の持ち主。だからこそ、レイヴンの手綱を握る事が出来ている。
先生の仮説は、方々からの証言により、強固に固められようとしていた。
「最近活動を開始した、正体不明の、とびぬけた実力の傭兵。極めて優れたハッキング技能を持つ、そのパートナー。」
「こんな生徒達が存在するなんて、正直、信じがたいです。」
「しかも、2人の事を調べようとした全員が、漏れなく反撃を喰らってます……!やっぱり何かおかしいです!」
「先生!公安局に行ってみましょう!きっと何か知ってるはずです!」
”そうだね。カンナ達なら何か知ってるかも。早速行ってみよう。”
山積みの書類を明日の自分に任せ、シッテムの箱を握って席を立つ。
目的地は、ヴァルキューレ公安局。
レイヴンはD.U.でも仕事をしているはず。それならば、カンナ達が情報を抑えてくれているに違いない。
先生はそう信じながらエレベーターに乗り、カンナにモモトークを飛ばした。
――――――――――――――――――――――――――――
「もう一度言います。その2人を追いかけるべきではありません。せめて我々にお任せください。」
”そう言われても、やっぱり気になるんだよ。キヴォトス中で暴れまわるなんて、普通じゃないから。”
本日何度目かの、追跡中止勧告。
レイヴンとエアの情報が詰まったファイルを握りながら、呆れ顔で先生を止めようとするカンナ。
だが、例え誰が何度止めたとしても、生徒の危機とあれば火の中だろうと飛び込んでいく。
この先生というのは、そういう生き物なのだ。カンナもそれを分かっている。
故に、カンナは公安局長として、自身の仮説を送る事にした。
「……恐らくですが、あなたが考えているような事態は起きていないと思います。」
”私が考えてる事態?”
「大方のっぴきならない理由で、例えば脅されていたり、多額の借金を抱えていたりしていて、仕方なく仕事をしている。そう考えているのでしょう?」
「奴の行動履歴から、その線は薄いと考えています。もし仕方なく仕事をしているだけなら、自身に依頼してきた組織を叩き潰したりなどしないでしょう。」
”えっ、どういう事!?”
「どうやら、依頼した組織が報酬の支払いを渋ったようで、レイヴンとトラブルになったようです。当然、話し合いで解決できるわけも無く、銃撃戦に発展し、組織の方が壊滅しました。」
「金が必要なだけなら、報酬を請求して立ち去ればいいものを、わざわざ叩き潰したのですから、ただやりたいようにやっているだけなのでしょう。」
「ああ、それと。その組織のボスですが、レイヴンの書置きと共に、わざわざ公安局の前に捨て置かれていました。懸賞金が欲しかったのでしょうね。」
”掘れば掘るほど、凄い話がどんどん出て来るなぁ……。”
「それだけ優れた傭兵であり、同時に危険だという事です。」
カンナから手渡されたファイルの中身を覗くも、おおよそ各校の治安組織が出してくれた報告書と同様。
大型ヘリを運用しているという、新しい情報もあったが、素性は結局分からずじまい。故に、ヴァルキューレも苦労している。
これ以上書類で彼女たちを追いかけたところで、新たな情報が掴めるとは思えない。
リスクを承知で、飛び込むしかないのだろう。
先生はファイルに書いてあった連絡先を指で叩き、カンナの助言を求める事にした。
”……ねえカンナ。どうすればレイヴンと直接会えるかな?”
「そう言うとは思っていましたが……。」
「連絡先は把握しています。ただ、会いたいと言った所で、素直に来てくれる人物でもありません。」
「会いたいのであれば、仕事を依頼して、信用を勝ち取る他ないでしょう。それこそ、命を賭けるような大きな仕事を。」
”そんな事依頼出来ないし、どうしよう……。”
「……副局長、居るか!?」
「はいは~い!何ですか、姉御~?」
カンナが呼びつけたのは、先程まで2人の話を陰でコッソリ聞いていた、公安局副局長、コノカ。
飄々とした態度と、警察らしくないアロハシャツがトレードマーク。
事実、先生が依頼しようとした内容では、レイヴンは決して食いつかない。
先生自身を餌におびき寄せるのが、現状最も彼女たちに近づける方法だ。
「コノカ、これからブラックマーケットの情報屋に連絡を取る。先生と一緒に、ブラックマーケットに潜入してこい。」
「マジっすか!?あの2人を追いかけさせるつもりですか姉御!?」
「そうだ。奴らに近づく確実な方法が、これくらいしかない。」
「……追いかけているとわざとアピールして、それを餌におびき寄せる。」
「あたしが行くのは別に良いんですけど、先生連れてくのは危ないっすよ~!」
”コノカ、私なら大丈夫。直接会えれば、話は出来るはず。平穏に終わる様に、私が説得するから。”
先生のそんなセリフを聞きながら、苦虫を嚙み潰したような顔で、カンナと顔を見合わせるコノカ。
助けを求める者が居るのなら、自分は必ず手を伸ばす。たとえそれが、自分をおびき寄せるための、疑似餌だったとしても。
先生はきっとそう考えている。2人もまた、それに気づいていた。
「……レイヴンと1度敵対すれば、どちらかが倒れるまで話し合いが通じません。あなたも例外では無いでしょう。」
「くれぐれも、言葉は慎重に選んでください。」
”分かった。ありがとう、カンナ、コノカ。”
カンナが情報屋に連絡を取ると、何と当日中に対応できるとの返答。
早速先生とコノカは、ブラックマーケットに溶け込めるよう服装を変え、覆面パトカーに乗り込んだ。
この時の先生は、実に楽観的であった。厳密には、見積もりが甘すぎた。
これまでレイヴンと敵対し、意識を保ったまま逃げ延びた者は、ほぼいない。逃げ隠れるという行為そのものが通用しない。
レイヴンの敵対者が迎える結末は、仲間の残骸に囲まれながら目が覚めるか、ベッドの上で目覚めるかの、どちらかだ。
この時の先生は、気づいていなかった。
自身が既にテーブルに付き、大金をベットしている事を。
――――――――――――――――――――――――――――
『レイヴン、伝えておきたい事が。』
「どうした?」
『連邦捜査部の特別顧問が、私達の調査を開始しました。』
『私達がそれだけ有名になったと考えるべきでしょうね。』
「いよいよ真打登場、か。英雄とも言われている奴だが……。」
「一体どんな奴か、見極めるとしよう。」
先生が素っ頓狂な仮説を元にレイヴン達を追いかけ始めました。(白目)
でも、弊キヴォトスの先生、レイヴン達に対してはこう言う所あるから……。
殴られなければ良いね先生。レイヴンの拳は、痛いじゃ済まないぞォ。
次回
烏流の歓迎
ああいう勇気は、匹夫の勇
次回も気長にお待ちくださいませ……。
――――――――――――――――――――――――――――
エア
流浪の傭兵、レイヴンのオペレーター。
レイヴンの情報支援を担当する、レイヴン唯一のパートナー。
ハッキングを得意とし、その技量はミレニアム生すらしのぐほど。
本来体を持たない存在の彼女だが、今は義体を操り、ふわふわと浮かんでいる。
「独立傭兵レイヴン、オペレーター、エア、合流します。レイヴン共々、よろしくお願いしますね、先生。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
固有武器:試作リアクティブシールド
エアが使う、攻撃を防ぐシールド発生装置。
ある物質の指向性を再現し、エネルギーシールドへと利用したもの。
あらゆる攻撃を弾く強力なシールドで、戦車砲を撃ち込んでもビクともしない。
銃を持つことを提案された事もあるが、自身とレイヴンを守れればそれでいいのだとか。
「やはり、あなたは優しいですね、先生。その優しさを、他の人にも分けてあげてください。
きっと、それに救われる者は、沢山いるはずですから。」