BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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愉快な遠足の始まりだ!!!
という事でシェマタ確保作戦でございます。
今回もちょいと長いです。

個人的に、雷帝がどんな人物だったのかを考えると、「感性がゲヘナらしくなくて、やることなす事全部裏目だった」って言うのが一番あり得そうだなって。
シェマタとかの超兵器類は完全に趣味で作ってそう。
下手すると本当にミレニアムに入るべき性格してそうなんですよねぇ。
卒業した後は、流れの修理屋やっててほしい。


51.Queen's Phalanx

 いつも通り夜明け前に目が覚め、風紀委員会から貰ったレーションのサンドイッチを頬張る。

 レーションを受け取る時、見張りをしていた委員にやけに驚かれた。

 その委員から、今の所何の動きが無い事を聞き出し、サンドイッチを胃袋に押し込んだ後は、ウタハから渡された機体「Loader1」の微調整。

 こいつは通常の動力源に加えて、ご丁寧にヘイローアンプまで搭載されている。

 手っ取り早く出力を確保するためだろうが、アンプを機体に押し込むだけでも大変だったはず。

 全く、エンジニア部の連中には頭が上がらない。

 これで妙な“ロマン”さえ追求しなければ、本当にいい技術屋なのだが。

 

 調整が終わったタイミングで、風紀委員会とチャリオットが起き始めた。

 少し遅れて、アビドスの5人と先生も起床。

 それぞれ身支度を済ませた後は、見張りと情報を共有しつつ作戦の再確認。

 大まかな流れは変わらないが、パワーローダーが機甲部隊としてカウントされるため、俺は旧庁舎制圧の支援をすることになった。

 チャリオットも風紀委員会の旧庁舎制圧に参加。ミレニアムから提供された電撃グレネードや火器類も、この部隊に支給される。

 作戦の再確認が済めば、後は相手の動きを待つのみ。

 ステンレスのマグカップに熱いフィーカを入れて、機体に寄りかかってゆっくりと啜る。

 他の連中も、自分の銃を磨き、車両に弾薬を積み込み、誰かにお祈りをしながら時間を潰す。

 そうして太陽が地面から60度の角度に傾いた時、エアからの報告と見張りの大声が同時に響く。

 

 『カイザー及びネフティス、双方の通信トラフィック、急速に増大!戦闘が始まります!』

 

 「庁舎でネフティスが騒ぎ始めた!!始まるぞォ!!」

 

 ”よし!シェマタ確保作戦、開始!”

 

 「聞いたわね!ゲヘナ学園、出動!」

 

 「行くよ、チャリオット!!Victory or Death(勝利か死か)!!」

 

 フィーカを一気に呷ってカップを投げ捨て、左腕の大砲を足掛かりに駆け上がり、機体のてっぺんにあるハッチへ体を滑りこませる。

 ジェネレーターを起動させて起動シーケンスを開始。同時に脳深部コーラル管理デバイスとの接続も行う。

 機体の感覚が共有され、一気に全ての知覚が増幅される。

 視界に映らない部分さえ感じ、目に見える物以上のものが見えている。

 この感覚、本来パワーローダーとACでは全く違うのだが、この機体、思っていた以上にACに近い。

 懐かしいとすら思う感覚と共に、数十トンの鋼鉄の体を持ち上げる。

 

 「万魔殿戦車隊、前進。」

 

 「Loader1、正常に起動。隊列に参加する。」

 

 『対策委員会、全員乗りました!雨雲号、離陸します!』

 

 『雨雲2、離陸する。』

 

 『雨雲3、離陸。』

 

 一直線の隊列を組んで校門から出ていく車両隊。その後ろをブースターを吹かしてついていく。

 校門を出てある程度直進すると、砂の積もった交差点で右折。アビドス中央駅に面した砂漠へと向かう。

 左右にあった建物が全て砂に埋まり、地面が全て砂に変わった所で、車列隊が陣形を変更。

 万魔殿の戦車3台を先頭に、風紀委員会とチャリオットの装甲車8台が左右に広く展開。

 俺は矢じりのような形の陣形の後ろに入り、ヘリ部隊はその上空で部隊に追従する。

 イロハが空砲で合図を出すと、車列が一斉にスピードを上げる。

 ここまで来てしまえば、中央駅までの障害物は無い。

 接近には気づかれるだろうが、その時には相手の懐に飛び込んでいるはずだ。

 

 『”エア、企業の反応はどう?こっちに気づいてるかな?”』

 

 『現状は問題ないでしょう。彼らがいきなり攻撃してくることも無いはずです。』

 

 『”分かった!それじゃあ作戦のおさらい!”』

 『”まず私から、ネフティスとハイランダー、そしてカイザーに帰ってもらえないか警告する!”』

 『”それがダメだったら、戦闘開始!皆が抑え込んでる間に、私達でシェマタを確保する!ただし、撃ってきた相手だけに撃ち返す事!”』

 

 『聞いていたわね!交戦規定は、“撃ってくるまで撃ち返すな”!狙いは慎重に定めて!』

 

 『施設の被害は!?人が居なかったらぶっ壊しちゃっていい感じ!?』

 

 『”好きにやっちゃって!ただ、巻き添えが出ない様にだけ気を付けて!”』

 

 『フッフゥ!!そう来なくっちゃ!!』

 

 『気にしなきゃいけない事が減るのは、助かりますね。』

 

 俺にとって1番の問題は、さっきヒナと先生が話していた交戦規定。

 相手が銃を撃っていると見ると、引き金を引きたくて仕方が無くなる悪癖があるのだ。

 ただ、庁舎にいる時点で無関係ではないので、最悪手当たり次第に撃ってしまっても問題はない。

 先生が後から処理しなければならない書類と、各所への言い訳が増えるだけだ。

 

 庁舎まであと30㎞。そろそろネフティスも俺達の接近に気づくだろう。

 レーダーを確認して、カイザーの部隊が庁舎に接近するまでの猶予を概算する。

 今のペースで突っ走れば、カイザーより5分は早く接近できる。

 その5分で武装を解除出来なければ、全員撃つしか無くなるという訳だ。

 

 『雨雲1!アビドスには良い整備士が居たようだな!元がジャンク機だとは思えないくらい素直だ!』

 

 『仕事に困ってたら、うちに来なよ!メカニックはいつでも歓迎するからさ!』

 

 『ちょっと!うちのアヤネちゃんをナンパしないでくれるかな!』

 

 『雨雲隊、私語は慎む!もうすぐ相手の射程に入る!』

 

 『雨雲2、了解!作戦に集中します!』

 

 『作戦エリアに到達。フェーズ2に移行します。』

 

 フェーズ2。つまり、ネフティスの射程に入ったという事だ。

 ここからいきなり攻撃してきたら、戦車隊が砲撃しつつ部隊を展開。迅速に旧庁舎を制圧し、先生とアビドスでシェマタを確保する。

 警告から入ったなら、先生にとっては朗報だ。まだ説得の余地があるという事だから。

 今回は相手も大人だったようで、オープン回線を利用した警告が入った。

 声の主は、契約騒ぎの時にホログラムで参加していた、ノノミの執事だった。

 

 『こちら、ハイランダー鉄道学園代理、ネフティス鉄道事業担当です。あー……。アビドス中央駅旧庁舎に接近中の部隊。そちらは、当社が保有する施設に接近しています。』

 『所属と目的を明かしてください。正当な理由がない場合、敵性と見なします。』

 

 『”えー、こちらは、連邦捜査部主導、学園混成部隊です。貴社が保有する砂漠横断鉄道に、列車砲シェマタという危険な兵器が存在するとの情報を掴みました。”』

 『”情報の真偽を確かめるため、鉄道の調査を行います。武装を一時解除し、捜査にご協力願います。”』

 

 『それは……。私共としても、初耳の情報です。連邦捜査部のお手を煩わせるわけにはいきません。私共が調査を行いますので、部隊を引き返させてください。』

 

 『”お気持ちはありがたいのですが、シャーレオフィス爆破事件の事もあり、既に各学園から不安の声が上がっておりまして。どうか、調査に協力してください。”』

 

 『……承知、しました。ネフティス、及びハイランダーは、一時武装を解除し、連邦捜査部の調査に協力いたします。』

 

 ネフティスにとって、連邦捜査部がこれだけの大部隊を連れて襲撃してくるのは想定外だったのだろう。

 気丈に振舞ってはいたが、声の震えが隠せていない。

 機体のカメラをズームさせて庁舎を確認すれば、ハイランダーや傭兵部隊も警戒してはいるが、次々と銃を下ろしている。

 ヘリや機甲部隊が動く様子もない。

 

 『幸先いいじゃん!これならすんなり終わるんじゃない!?』

 

 「それは無いだろう。必ず誰かが強硬手段に出るはずだ。」

 

 『根拠は!やっぱ経験!?』

 

 「そうだ。この手の話で、すんなり終わった試しがない。戦闘に備えろ。」

 

 部隊と共に機体をブースターで滑らせる事30km。

 庁舎まで到着すると、車列は横1列に展開。中に乗っていた風紀委員会とチャリオットがぞろぞろと降りてくる。

 装甲車と戦車の間や後ろに陣取り、銃口こそ下ろしているが、警戒感は一切隠していない。

 ヘリ3機は上空で、俺は陣形の後ろ側で待機。説得の効果を注意深く観察する。

 

 「”こちらは、連邦捜査部です!列車砲シェマタの調査に来ました!武装を一時解除してください!”」

 

 メガホンから流れる先生の声への反応はまちまち。

 ハイランダーの大半は大人しく銃を置いているが、傭兵部隊の方は銃を握ったままだ。

 恐らくだが、この事態がすんなり終わると思っていないのだろう。

 

 『……こちら監理室。ハイランダー総員は、連邦捜査部、そしてネフティスを攻撃し、生徒会の谷に向かえ。これは監理室の総意だ。』

 

 『ム~リ~。この数相手はム~リ~。』

 

 『どう考えても手ぇ出したらいけないやつじゃん!!ちゃんと目ついてんの!?』

 

 『チッ……!肝心な時に役に立たん……!』

 

 『聞こえてるんですけど!?!?』

 

 『聞き捨てならな~い!』

 

 『落ち着いてください!連邦捜査部に手を出してはいけません!それに監督官!我々を攻撃とは、どういう事ですか!』

 

 『……ボス、どうします?カイザーだけならともかく、シャーレまでいるんじゃ、割に合いませんよ。』

 

 『……これは、ダメそうな奴かな?』

 

 『そのようね。総員、撃ち方用意。ただし、銃口は下ろしておくこと。』

 

 ノノミの執事もそうだが、スオウにCCCの双子もこの庁舎に居る。

 だが、統率が執れている様子はない。むしろ、スオウが場をかき乱そうとしている。

 ヒナの指示に従い、機体のマスターアームスイッチを上げる。

 念のため、ハイランダーと傭兵部隊のIFFはUnknownに登録してあるが、いつでもEnemyに切り替えられるようにしておく。

 当然、カイザーは初めからEnemyで登録済みだ。奴らが穏便に事を運ぶとは思えない。

 

 (レイヴン、カイザーと接敵するまで、あと2分しかありません。傭兵たちだけでも下がらせなければ。)

 

 (……俺の名前を使ってみよう。傭兵部隊だけに通信を繋げ。)

 

 「こちらは、独立傭兵レイヴン。クリムゾン・ランスとヘルホースに告ぐ。」

 「現在こちらは、連邦捜査部と行動を共にしている。このまま戦闘となった場合、お前達を脅威として排除する。」

 「無用な戦闘を望まないなら、依頼を放棄し、アビドス自治区より退去せよ。これが最初で最後の警告だ。」

 

 警告を言い終わった直後から、傭兵たちの動きが忙しなくなってきた。

 自分たちのリーダーに話を通し、判断を仰いでいるのだろう。

 風紀委員会とチャリオットも空気の変化を感じ取ったのか、全員の目つきがさらに鋭くなっている。

 

 『いいから生徒会の谷に向かえ!これは監理室からの命令だ!』

 

 『どうか落ち着いてください!先生からも、説得を――』

 

 『こちら、傭兵部隊クリムゾン・ランスのリーダー、パーシヴァルだ。我々は、ネフティスからの依頼を放棄し、アビドス自治区より撤収する。』

 『予測される脅威は、少数の不良生徒や傭兵部隊だったはずだ。現状と違いすぎる。』

 

 『我々は、機甲傭兵部隊、ヘルホース!現時刻をもって、セイント・ネフティスの依頼を放棄する!』

 『相手は連邦捜査部に、学園混成部隊。その上で、あの“黒い凶鳥”が付いている。分が悪すぎる相手だ。』

 

 『総員、撤収せよ!』

 『ヘルホース、撤収!』

 

 お互いのリーダーたちの合図に従って、傭兵部隊がぞろぞろと撤退し始めた。

 骸骨の跳ね馬が描かれたヘリや装甲車も、続々と庁舎から離れていく。

 戦闘力のかなりの部分を傭兵に頼っていたのか、庁舎に残る人数は半分ほどになった。

 

 『なっ……!?い、一体どこへ!?戻ってきなさい!!』

 

 『お前の上長に伝えろ。連邦捜査部と黒い凶鳥と戦いたいなら、10倍額を用意しろとな。』

 

 『そもそもが安い仕事だ。アビドスに送り込んだのは、ほぼ全員新兵だ。彼らをここで失うわけにはいかん!』

 

 『そっ、そんな……!』

 

 『”傭兵部隊が撤退する!そのまま行かせてあげて!”』

 

 哀れな事だ。この執事も、上層部から言われた事をしているだけだろうに。

 だがこれで、戦力はザックリ半減。戦場の流れはこちらにある。

 ハイランダーの何人かが傭兵を呼び戻そうと手を振っていた時、俺達の反対側からカイザーの部隊が接近してきた。

 複数台の装甲車を中心に横に広く展開。ネフティスを囲い込むつもりだったのだろう。

 予測した時間通りのご到着。こいつらも律儀な事だ。

 

 『……カイザーPMC、作戦エリアに侵入。接敵します。』

 

 『カイザーコーポレーション、プレジデントだ。諸君らは、我々が保有する施設を、不法占拠している。直ちに退去したまえ!』

 

 『保有……!?土地と施設の所有権は、ネフティスが保有しています!これは権利に基づいた正当な利用です!カイザー社は直ちに撤退してください!』

 

 『フン。我々が、土地と施設を売っただと?そんなことはしていない!ここは未だ、カイザーの所有物だ!』

 

 『一体何を……!?ここに売買契約書があります!それにプレジデント!あなたにどれだけの保釈金を――』

 『……ス、スペルが!名前のスペルが、1文字違う!?』

 

 『分かったか?それはネフティスが我々に強引に結ばせた、不当な契約書だ!諸君らも大人ならば、分かるだろう?』

 

 『こッす!!カイザーの長のやる事がそれぇ!?こッッッす!!』

 

 オープン回線から聞こえてくる、プレジデントの威張り散らした声。

 分かっていたことだが、カイザーはネフティスへの恩を仇で返すつもりのようだ。

 ただ、プレジデントはここまで小癪な手を使ってくるような奴では無かったと記憶している。

 追い詰められた事で心境が変化したのかもしれん。

 もちろん、悪い方向に。

 一先ず、ハイランダーを挟んで奥にいる部隊の動きを注視しておく。

 

 「”カイザーコーポレーション!経緯はどうあれ、私達は鉄道の調査をしなければなりません!撤退するか、武装を解除してください!”」

 

 『黙れ!!もとよりシャーレを、貴様を放置しておくのが間違いだったのだ……!』

 『我々の理想のために、ネフティス諸共消えてもらう!!!全軍、攻撃せよ!!!』

 

 その指示を聞いた瞬間、地上部隊の全員がカイザーに銃を向けた。

 俺も部隊の連中を薙ぎ払えるように、ミサイルをロックオン。

 ついでに左腕の榴弾砲も構えていたのだが、5秒ほど待っても銃弾が飛んでこない。

 それどころか、カイザーの大半が銃を上げてすらいない。

 

 『……どうした!?何故撃たない!?』

 

 『プレジデント。この場で攻撃するのは得策ではありません。撤退を進言します。』

 

 『何をッ……!駒の分際で、私に逆らうなッ!!攻撃しろ!!!さもなくばクビだ!!!』

 

 『…………辞表は後程提出します。お世話になりました。』

 

 部隊の先頭にいた指揮官と思しき奴が、銃とカイザーのワッペンを砂漠に捨てた。

 そのまま両手を上げて、部隊の後方まで下がっていく。

 それを皮切りに、カイザーの連中が続々と銃を捨てて装甲車の近くに帰っていく。

 装甲車に乗せられた機関銃の弾倉を外す者もいる。

 どうも、今のプレジデントは求心力を失っている。

 兵士たちを堂々と駒だと言い放てば、そうもなろうが。

 

 『カイザー部隊、大多数が武装を解除しています。』

 

 『”意外と、何とかなりそうだね……。アヤネ、雨雲号を――”』

 

 『――ッ!アヤネ、ミサイルです!!回避を!!』

 

 エアの警告の直後、フレアを蒔きながら後退する雨雲号に向けて、列車の影からミサイルが放たれた。

 先生とアビドスが乗っている雨雲号に向けて、的確に。

 尾を引きながら飛翔するミサイルは、雨雲号の鼻先とブレードをかすめ、空中で自爆。

 落ち着きかけていた地上部隊も、一気にピリつき始めた。

 

 『誰!?どこから撃ってきたの!?』

 

 『雨雲3!ミサイルの射手を捜索します!』

 

 『う~わ、すんなり行かないってこういう事……?』

 

 『面倒くさい事に……。戦車隊、主砲発射用意。』

 

 スキャンを実行して庁舎付近にいる全員を捉える。

 列車の影に居たのは、朝霧スオウ。彼女の足元には、対空ミサイルの撃ちガラが転がっていた。

 彼女はすかさずハイランダーとカイザー両方に銃を向け、迷いなく引き金を引いた。

 右手のガトリング砲の威力なら、列車ごとスオウを撃ち抜けるが、ここから撃つとハイランダーが巻き添えになる。

 むやみに引き金は引けない。だから混戦は嫌いなのだ。

 

 『銃声!?戦闘反応です!』

 

 「”攻撃を中止してください!!攻撃中止!!”」

 

 『誰!?誰が撃ってきたの!?』

 

 『撃たれた!1人やられたぞ!』

 

 『もしかしてカイザー!?騙し討ちってこと!?』

 

 『身を守れ!交戦しつつ撤退するぞ!!』

 

 否応なしに、ハイランダーとカイザーの戦闘が始まった。

 スオウはそれでも満足いかないのか、風紀委員会とチャリオットにも撃ってくる始末。

 幸いスオウが使っているのはショットガンであり、その上距離が離れているので、狙われた奴はかすった程度で済んだ。

 

 『委員長!こっちも撃たれてます!』

 

 『”ヒナ!もう少し待って!”』

 

 『もう無理よ!撃ち方初め!!』

 

 『雨雲2、攻撃!』

 

 『雨雲3、掃射開始。』

 

 当然、撃たれた以上撃ち返すほかない。

 地上部隊はもちろん、風紀委員会が操る2機の雨雲号も庁舎にいる連中に対して掃射を開始。

 俺もガトリング砲を使い、カイザー部隊の手前に落とすように弾幕を張る。

 少なくとも、現場の連中は帰る意志を見せているし、下手に長引けば増援も来るだろう。

 カイザーはここで帰らせるのが正解のはずだ。

 

 「こちらレイヴン!カイザーを優先して攻撃しろ!奴らから下がらせるんだ!」

 

 『了解。目標、カイザー機甲部隊。至近弾で撃て!』

 

 イロハの合図と共に、3発の戦車砲が放たれる。

 1発はカイザーの陣形の手前に着弾。もう2発は部隊の頭上を掠めるように飛翔。

 すかさず2機の雨雲号が、陣形を分断するように機銃を掃射。

 2台の装甲車がカイザーの兵士を乗せて、拠点の方向へ引き返した。

 庁舎にいるハイランダーは、身を守るために物陰に隠れるか、伏せているのがほとんど。

 ただ、2人だけ列車の先頭の方向へ走っている。

 

 『ハイランダーの皆、聞こえる!?聞いてたら、私達の方向まで逃げて!それが無理なら、物陰に隠れて!』

 

 『ねぇねぇ!手伝うな、なんて言って無いってことはさ!私達がカイザーを追っ払っちゃってもいいよね!!』

 

 『せーとーぼーえー。だからこれを使~う。』

 

 『先生!列車の砲座が、動いてます!まさか……!』

 

 列車の先頭に取り付けられていたのは、青い大型の複合砲台。

 4基の50口径重機関銃と、9連装ミサイルポッドが取り付けられている。

 あの双子が砲台に飛び乗ると、カイザーの部隊に向けて旋回。

 山なりに放たれた9発のミサイルは、部隊を巻き込むように着弾。

 カイザーの装甲車を全て破壊してしまった。

 

 『パヒャヒャ!良い景色じゃーん!』

 

 『うむ、見事~。』

 

 『ああもう……。総員!ハイランダーは味方よ!射線に注意して!』

 

 『ちょっとォ!?こっちまで逃げてくれた方が楽なんだけどなァ!?』

 

 最悪だ。これでカイザーは俺達を敵と認識して、本気でかかってくるだろう。

 味方を救出するために、増援を送り込んでくるはずだ。

 それを避けるために、至近弾で脅かすにとどめて、撤退させようとしていたというのに。

 いっそこの場でミサイルの雨を降らせて、ハイランダーを全員気絶させた方が良かったかもしれん。

 大半のハイランダーが逃げ隠れする中、双子に触発されたか、ごく一部がカイザーと交戦。

 取り合えず至近弾での援護射撃を続けていると、列車に隠れている1機のヘリのローターが回り始めた。

 パイロットは、朝霧スオウ。奴め、荒らすだけ荒らして逃げるつもりか。

 

 『こちら雨雲2!ヘリが1機、庁舎から離陸しようとしています!』

 

 『小鳥遊ホシノ、聞こえるか。アビドスを守りたければ、生徒会の谷に来い。1人でな。でなければ、シェマタを動かし、アビドスを消し去る。』

 

 「ブラフだホシノ!乗るな!」

 

 『分かってる!アヤネちゃん!スオウを追いかけて!』

 

 『分かりました!皆さん!庁舎はお願いします!』

 

 離陸して庁舎から離れようとするスオウを、先生達が乗った雨雲号が追いかける。

 俺や他のヘリが撃墜しようとしなかったのは、地上の巻き添えを避けるためだ。

 あの場で下手に攻撃すれば、ハイランダーに余計な被害が出る。

 左腕の榴弾砲を使い、カイザーへの圧力を強めていくと、プレジデントの通信を傍受する。

 

 『このッ、役立たず共が……!私が直接出る!!!機体を寄越せ!!!』

 

 『レイヴン!遠方に機体反応!パワーローダーが接近しています!』

 

 「こちらレイヴン。パワーローダーは俺が対処する。庁舎は任せるぞ。」

 

 『了解!こっちは任せて!』

 

 機体を後退させて部隊から離れ、陣形と庁舎の左側を通ってカイザーの基地へ加速する。

 庁舎にいるカイザー部隊はほぼ壊滅状態。追ってくるような事も無いだろう。

 カイザープレジデント本人が、直接出てきてくれるとは。

 当人にとっては知らないが、俺にとってはむしろ好都合だ。

 戦場で、直接敵として出てきてくれるなら、遠慮なく殺せる。

 プレジデントの様子が多少おかしいのは確かだが、知った事か。

 戦場(ルビコン)帰りのパイロットの実力、嫌という程教えてやろう。

 

 3分ほど直進すると、遠くに映るヘリに吊り下げられたパワーローダー。

 カラーリングこそカイザーPMCのものだが、舐められた事に、その機体は純正。

 恐らく、アクチュエーターやCPUの強化すらされていない個体だろう。

 プレジデントの実力は未知数だが、それで俺に勝てると思われている事が気に入らない。

 適当な場所で止まれば、ヘリは俺の手前で機体を投下する。

 砂を巻き上げながら着地したパワーローダーが、俺の正面でゆっくりと立ち上がった。

 輸送してきたヘリは特に支援などはせず、すぐ基地に向かって引き返した。

 

 『来たか、レイヴン……。』

 

 「プレジデント。お前がパワーローダーに乗れるとは、意外だった。」

 

 『……貴様らが現れてからだ。先生に、レイヴン。貴様らが現れてから、我々の計画が狂い始めたのだ……!』

 『貴様らさえいなければ、我々カイザーこそが、キヴォトスの支配者となっていたのだ!』

 

 「それは残念だったな。これから先の計画とやらが、ここで完全に死ぬことも含めてな。」

 

 『やはり……!やはり、貴様らこそが元凶だ!!貴様さえ、現れなければッ……!』

 『貴様も!シャーレの先生も!肝心な時に使えない役立たず共も!私の邪魔をする者は、皆死ねばいい!!!』

 

 そう叫びながら、いきなりミサイルを全弾発射したプレジデント。

 機体を後退させながら、ガトリングをばら撒き迎撃。

 3発ほど迎撃して、機体を右へ急加速。

 誘導が追い付かないミサイルは砂へ吸い込まれ、そのまま渦をすぼめるようにプレジデントに向けて突撃する。

 

 『貴様さえいなければ!!子供などという、不安定で自己中心的な存在が支配する世界から、変わっていたのだ!!』

 『理性ある大人が!!キヴォトスを支配し!!適切に再分配し!!よりよい世界となったはずなのだ!!』

 

 当然、プレジデントもガトリング砲で応戦してくるが、狙いが適当過ぎて当たるものじゃない。

 軽く飛び上がり、獣の足に勢いを乗せて全力で蹴り飛ばす。

 中央の装甲がへこみ大きく後退しながらも、何とか転倒だけは避けたプレジデント。

 着地直後に10連装のミサイルを放って追撃。

 脚部に内蔵されたローラーを使って後退させようとするプレジデントだが、それではいい的だ。

 榴弾砲を足を狙って打ち込み、直撃。左足を弾き飛ばすことで、機動力を大きくそぎ落とす。

 

 『貴様が居なければ!!このキヴォトスの支配者は我々だったのだ!!!』

 『キヴォトスの玉座には、私が座っていたのだ!!!』

 

 回避しきれなかったミサイルが多数直撃。既に息も絶え絶えの状況だろうが、攻撃の手は緩めない。

 左に加速してガトリング砲を乱射。プレジデントも反撃するが、FCSがまともに機能していないのだろう。

 その狙いは俺の機動性についていけていない。

 右腕の肘を狙って集中砲火。20mm弾でフレームごと引き裂かれ、ガトリング砲はケーブルで辛うじてつられている状態だ。

 そのまま時計回りに旋回し、榴弾砲を準備しながら、プレジデントの正面へと回る。

 

 『貴様さえいなければ!!私こそが、キヴォトスの王となったのだ!!それをッ!!貴様がッ!!』

 『貴様さえ……!!いなければアアァァァァァッ!!!!!』

 

 正面に立った瞬間、プレジデントに向けて急加速。

 プレジデントは残った左腕を振り上げて抵抗しようとするが、無駄な事だ。

 全速力で加速し、榴弾砲の砲口をプレジデントの機体の正面から突き立てる。

 蹴りと爆風で歪み脆くなっていた装甲が、砲身を止める事は敵わず、砲口はコックピットへ、その中にいるプレジデントに突き付けられた。

 砲身を機体ごと持ち上げて、榴弾を直射。榴弾はプレジデントに衝突、炸裂し、機体を内側からズタズタに破壊する。

 爆風によって機体上部のハッチは吹き飛び、機体は砂漠に背を付けて倒れこむ。

 機体はごうごうと燃え、世迷い言もようやく止んだ。

 

 「お別れだ、プレジデント。」

 「もう会う事もないだろう。」

 

 ブースターで機体を180度旋回させ、生徒会の谷に向けて真っ直ぐ進む。

 カイザーの増援部隊が庁舎に迫っているが、混成部隊とハイランダーに任せても問題ない規模だ。

 何より、部隊の目的は敵の排除ではなく、負傷した味方部隊の回収だろう。

 運が良ければ、戦闘をせずに済むはずだ。

 

 「こちらレイヴン。パワーローダーの対処が完了した。これより生徒会の谷に向かう。」

 

 『レイヴン!そっちに乗せて!私も谷に行く!』

 

 「了解。合流地点は陣形の端だ。すぐに行く。」

 

 行先を変更し、ブースターを全開で吹かして庁舎の混成部隊の元まで戻ってきた。

 既にカイザーの増援部隊が混成部隊と戦闘しているが、やはり本気で殴り合う気が無いのだろう。

 カイザーの弾幕はまばらで、負傷した味方を装甲車まで引きずっている。

 しかし、ハイランダーがそれを分かっていないのか、部隊に直接攻撃を加えようとしている。

 それを風紀委員会やチャリオットが、何とか止めさせようともしている。

 面倒な状況ではあるが、負ける状況ではないだろう。部隊の支援はせず、真っ直ぐ陣形の端に向かう。

 

 陣形の後ろから、ヒナが銃を背負って陣形の端に全力疾走。

 端にたどり着いたら、急ブレーキと同時に急旋回。左腕を地面に下ろして膝を突き、ハッチを解放。

 ヒナは榴弾砲を足掛かりにハッチまで飛び上がり、コックピットに飛び乗ってきた。

 俺がモニターを見られるよう体を横向きにして、俺の膝の上に座る。

 

 「思っていたより、狭いわね……!」

 

 「元々1人乗りだ。我慢しろ。」

 

 ハッチを閉じて機体を立ち上がらせると、ヒナはシートベルトを掴んで体を支えた。

 同乗者の事を考え、いつもよりゆっくりと旋回させてから、生徒会の谷に向けて加速する。

 ただ、直線加速負荷ですらヒナには堪えるのか、少し渋い表情をしている。

 いくらゲヘナ最強と言えど、G耐性にまで優れているわけでは無いらしい。

 

 「アビドス、こちらレイヴン。そちらの状況はどうだ?」

 

 『こっちは順調!後5分くらいで谷に着くよ!』

 

 「了解。俺達は谷に着くには10分かかる。それまでスオウを抑えろ。」

 

 レーダーで確認すると、スオウもあと5分ほどで谷に到着する。

 ただ、撃墜を避けるためか、距離と高度を大きくとっている。これではアビドスや俺も手が出せない。

 直接対峙するのは、シェマタの隣になりそうだ。

 そう考えながら砂漠を滑っていると、先生からとんでもない提案が飛んでくる。

 

 『”……ねえみんな!いっそ、スオウの話に乗るのはどうかな!”』

 

 「お前ふざけてるのか!?お前1人で行って来たらどうだ!」

 

 『”違う違う!ホシノ1人で来たように見せかけて、油断させるんだ!そうすれば、シェマタを押さえやすくなるかも!”』

 

 「……良い考えね。いくら監理室の1人と言えど、シェマタを起動させる手段なんて、持っていないはず。」

 「それにホシノ1人でも、朝霧スオウに負けることはまず無い。」

 

 ヒナの言う通り、スオウは兵士ではない。立ち姿や歩き方からして、ほぼ確実にデスクワーカーだ。

 戦闘経験豊富なホシノと対決すれば、確実にホシノが勝つだろう。

 問題は、生徒会の谷に罠が仕掛けられていた場合だ。

 だが、俺達やアビドスがカバーすることで、少なくともシェマタの起動は阻止できる。

 切り込み役であるホシノの精神状態も不安である。が、ここは本人の判断に委ねるとしよう。

 

 「……ホシノ。お前はどう思う。」

 

 『……やるよ!皆を信じる!アヤネちゃん、その先の駅で下ろして!そこから走って行くから!』

 

 「了解した……。アヤネ。ホシノを下ろしたら、大回りで谷に向かうぞ。ある程度接近したら、上空で待機。俺達が突入して制圧する。」

 

 まずホシノを切り込ませ、スオウを油断させる。そしてその頭上から俺とヒナが奇襲し、スオウを取り押さえる。

 何かトラブルが起きた時は、上空に待機しているアビドスが援護。これなら、何が起きても対処できるはずだ。

 

 『分かりました!先輩、準備は良いですか!』

 

 『もちろん!任せてよ!』

 

 「ホシノ、あなたなら……。いえ、私達ならやれる。スオウを止めるわよ。」

 

 『ヒナちゃんにそう言われたら、本気でやらなきゃね!おじさん、頑張っちゃうよ!』

 

 「おじさん……?」

 

 「そう自称するジョークだ、気にするな。」

 

 「せめておばさんじゃないかしら……。」

 

 ヒナの困り顔に対し、首を軽く傾げて「分からない。」という答えを返す。

 先生達が乗った雨雲号は進路を変え、廃駅へと向かっていく。

 俺はさらに大きく進路を変え、スオウをホシノと挟み込めるように谷を大回りで回る。

 そして、先生が作戦を提案してきた段階で話すべきことを、今更ヒナに伝える。

 

 「ところでヒナ。お前、飛べるか?」

 

 「えっ?短時間なら、滑空できるけど……。」

 

 「それならいい。突入するとき、機体から飛び降りろ。その方が早い。」

 

 「冗談でしょう!?どう考えても自殺行為よ!?」

 

 「高さはざっと20mだ。お前なら飛べると思って話しているが、無理か?」

 

 「ああもう……。今日は厄日ね……。」

 「……分かった。飛び降りる時は教えて!」

 

 断られる事を前提で話していたが、乗ってくるとは思わなかった。

 当人の性格から忘れそうになるが、やはりこいつもゲヘナ生だ。

 あるいは、俺の行動に引っ張られておかしくなっているのかもしれん。

 上手く行けば格好の良い登場となるが、失敗した時はお察しだ。

 もし失敗したら、治療費を慰謝料含めて払っておこう。

 

 誰にも追跡される事無く、雨雲号とLoader1、そしてスオウを乗せたヘリは生徒会の谷へ向かっていく。

 雨雲号が着陸し、ホシノを下ろして離陸した後、ホシノはかなりのスピードで線路を駆けだした。

 生身の人間が出していいスピードでは無いはずだが、俺やヒナも似たような事が出来る事を思い出し、それ以上考えない事にした。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 太陽がてっぺんまで登った時、生徒会の谷で、朝霧スオウは待っていた。

 シェマタの隣で、自身が呼び出した人物を。

 当然、彼女はホシノが1人で来るなど考えてはいない。

 だが同時に、自分であれば対処できると高を括っていた。

 それが、彼女本来の思考であるかどうかは、誰も知る由はない。

 

 スオウが右手にショットガンを握った時、庁舎に続く線路からホシノが走ってくる。

 髪を後ろにまとめ、防弾チョッキを纏い、後輩たちとその居場所を守るという決意で、胸を満たして。

 スオウから少し離れて立ち止まった彼女は、荒い息をすぐに整え、スオウを正面から睨みつける。

 

 「……本当に、1人で来るとはな。小鳥遊ホシノ。」

 

 「まあね。後輩たちに危ない事、やらせたくなくってさ。」

 「それで?どうしてここに呼び出したのかな、眼帯ちゃん?」

 

 「単純な事だ。お前を、潰すためだ。」

 

 「君が?私を?どうして?」

 

 ホシノが問いただした瞬間、スオウはコートを脱ぎ、後ろへ放り投げた。

 動きやすいノースリーブとなった彼女は、自信と憎悪に満ちた瞳で、ホシノの瞳を睨み返す。

 まるでホシノを威嚇するかのように、ショットガンに弾を送り込む。

 

 「……アビドスの、狂気と恐怖。お前はその象徴だ。私がそれを否定する。お前を倒すことでな。」

 

 「私が、ね……。まあ、自分がおかしいって自覚はあるよ。こんな砂だらけの場所に、いつまでもしがみついてるなんてさ。」

 「でもね、今の私には、後輩たちがいる。友達がいる。頼れる人がいる。仲間が居る。その人たちの居場所として、アビドスがある。」

 「だから私は、アビドスを守る。ユメ先輩が残そうとしたからじゃない。今の、私自身の意志で。」

 

 「違うな。お前は今も、梔子ユメにしがみついている。認めた方が楽になるぞ。」

 

 「何でそう思うのかな?なんだか、私以上に私を知ってるみたいな口ぶりだけど。」

 

 「知っているさ。例えば、生徒会長の、手帳のありかをな。」

 

 スオウがそう言い放った瞬間、ホシノの目がさらに鋭く引き絞られる。

 小さな体躯の彼女から放たれる闘気に、微塵も臆する様子を見せないスオウ。

 あるいは、気づいていないのだろうか。それとも、自分が優位だと勘違いしているのか。

 笑みこそ浮かべていないが、完全に油断した状態で話を続けるスオウ。

 

 「……フーン。よく調べてるんだね。予習してくるタイプだったんだ。」

 

 「そんな口をきいていいのか?手帳がどこに有るのか、うっかり忘れてしまうかもしれないぞ。」

 

 「別に?もういいよ。もう2年も経ってるから、砂嵐でどこかに行っちゃったと思うし。」

 「君が今手帳を持っているとかであれば、話は別だけど。」

 

 「どうだろうな?私を倒して探してみたらどうだ?」

 

 「……それじゃあ、そうさせてもらうよ。」

 

 ホシノは愛用の銃を肩にしっかり引き付けて構え、スオウは半身となり、腰だめに構えた。

 どちらかが引き金を引けば、その瞬間に勝負が始まる。

 砂漠特有の乾いた風が、2人の頬を撫で、髪を静かに揺らす。

 だが、その風に紛れて、ヘイローアンプを使用した機体特有のブースト音が、2人に向けて近づいてきた。

 

 「あっ、言い忘れてた。実はさ、今私、1人じゃないんだよね。」

 

 ホシノが微笑みながらそう言うと、谷の上から白いパワーローダーと、風紀委員長の空﨑ヒナが飛び降りてくる。

 ヒナは翼を何度もはためかせながら、レイヴンはノズルから赤い炎をまき散らしながら着地。

 お互いを射線に入れない様に、三角形の陣形でスオウを囲う。

 

 「朝霧スオウ!武器を捨てて、投降しなさい!」

 

 「なっ!?1人で来いと言ったはずだ!」

 

 「えぇ~?ちゃんと1人で来たじゃ~ん。その後に誰も連れて来るな、なんて言われてないしね。」

 「それで?この3人を相手に、本当にやる気、眼帯ちゃん?」

 

 「大人しく投降しろ、スオウ。俺ならそうする。」

 

 ホシノ、ヒナ、そしてレイヴンを順繰りに見やるスオウ。

 ホシノはようやく盾を展開し、本来の構え方でスオウに狙いを定める。

 当然、ヒナもレイヴンも、しっかりとスオウに照準を合わせている。

 どう考えても絶体絶命の状況だが、スオウが銃を捨てようとする気配は無い。

 

 「こんな卑怯な手を使ってくるとは……!梔子ユメが逃げ出したのも納得だな!」

 

 「君にユメ先輩の何が分かるのさ。先輩は、簡単に逃げ出したりしない。ちょっとおバカだけど、凄く強い人だった。」

 「今こうして悪あがきしてる君の、何倍も強かったよ。」

 

 騙したな、とでも言いたげな表所でホシノを睨むスオウだが、ホシノは一切動じない。

 この段階になって、スオウはようやく理解した。

 王手。それも、飛び切りの駒3人に、完全に囲まれ、逃げ道も無い。

 詰みである、と。

 スオウに残された選択肢は、投了するか、無意味にあがくかの2つだけ。

 

 「……あと10秒数える。それまでに銃を捨てなさい。」

 

 「さあ、どうするの、スオウ。」

 

 彼女が選択したのは、飛び切りの悪手だった。

 ホシノを撃とうと銃口を上げた瞬間、3方向からの同時射撃。

 一方からはバックショット。もう一方からは30口径弾の嵐。最後の一方は20mm弾のシャワー。

 当然、過剰が過ぎる火力に、アーマーも来ていないスオウが耐えられるわけも無く、戦闘時間はたったの3秒。

 荒れた大地の上で、力なく寝ころぶスオウに、ホシノはゆっくりと歩み寄り、頭に銃口を突き付ける。

 

 「……わ、私は、最強、に……。」

 

 「最強?君じゃ無理だよ。」

 

 憐れむような目線を向けながら、ホシノはショットガンの引き金を引いた。

 それが、スオウの意識に対するトドメであった。

 それを見ていたヒナは、スオウをうつ伏せに転がし、懐から手錠を取り出して、後ろ手に拘束する。

 同時にレイヴンが、広域スキャンを実行し、スオウ以外の脅威が無い事を確認していた。

 

 「……レイヴン。周辺に誰かいる?」

 

 「いない。完全にクリアだ。」

 「アビドス、事が終わったぞ。降りてこい。」

 

 『分かりました!今行きます!』

 

 「風紀委員会、重要参考人1名を確保した。こっちに装甲車を1台回して。」

 

 『もう向かっています。それと、庁舎の制圧が完了したこともお伝えしておきます。』

 

 「よくやったわね、流石よ。」

 

 もとより戦闘の意志など無いに等しいカイザーだったが、プレジデントが倒れた事で、指揮系統が崩壊。

 庁舎にいた仲間とプレジデントを回収すると、それ以上増援を送らず、臨時の指揮官が連邦捜査部とはこれ以上戦わない事を宣言した。

 同時に、ハイランダーとネフティスも参考人となり、一時的にアビドスで勾留することになった。

 特に、勝手にカイザーに対して攻撃を加えたCCCのヒカリとノゾミは、これから酷い説教を受ける事になる。

 一先ず確かなのは、シェマタを巡る戦いが、連邦捜査部の勝利で幕を閉じたという事である。

 

 「……それじゃあ、終わったんだね。本当に……。」

 

 「ああ。終わったぞ、ホシノ。」

 

 「ええ、終わったの。全部終わったのよ、ホシノ。」

 「それと、随分遅くなったけれど……。梔子ユメの事は、残念だった……。」

 

 「うん……。気遣ってくれて、ありがとね。」

 

 盾と銃を仕舞い、安堵と虚しさが半々に混じり合った表情でため息をつくホシノ。

 レイヴンはパワーローダーを降りて、ホシノの肩を優しく叩き、ヒナもホシノの痛みの内容を理解して、慰めの言葉をかけた。

 戦争の終わりとは、実に静かなものである。

 装甲車のエンジン音が近づいてくると、ヒナはスオウを担ぎ上げた。

 

 「……スオウの事は、私達に任せて。取り調べをしてから、ハイランダーに戻す。」

 「ただ、そう長く拘禁することは出来ないから、話がしたければ、早めに聞いて。」

 

 「分かった。近いうちに顔を出すね。それじゃ、元気でね。」

 

 「ええ。私はもう少しアビドスに居る事になると思うけど……。」

 「そうね。それじゃあ、ホシノも元気で。」

 

 ヒナは到着した風紀委員会の装甲車に、スオウを放り込み、自身も後ろから乗り込む。

 そして装甲車はUターンし、線路に沿ってアビドス校舎へと帰っていった。

 レイヴンとホシノがそれを見送ると、ホシノが地面にへたり込んでしまう。

 それを心配したレイヴンが、ホシノの目線に合わせてしゃがみ込む。

 

 「どうした?」

 

 「あ~、その……。終わったんだって思ったら、気が抜けちゃって……。」

 

 「……無理もないな。今日はもう休め、ホシノ。」

 

 「うん、そうするね……。」

 

 レイヴンもまた、荒れた地面の上に、ホシノの隣に座った。

 2人っきりで、仲間たちの到着を待っていた。

 照り付ける太陽に温められた事で、地面は決して快適とは言えない熱さになっているはずなのだが、レイヴンもホシノも、それを気にすることは無い。

 両膝を抱え、組んだ腕に口元を埋めるホシノ。

 その姿勢のまま、視線をそっとレイヴンへと向けた。

 

 「……ねえ、クロハ。昔話をしていいかな?」

 

 「……話してみろ。」

 

 「……私はずっと、ユメ先輩が居なくなったのは、自分のせいだって思ってた。でも本当は、最初から分かってた。」

 「先輩は、自分から消えたんじゃない。誰かのせいで、消えるしかなかったんだって。」

 

 「根拠はあるのか?」

 

 「……机の上に置かれた、お別れの手紙。あとから届いた、手帳を探してっていうメッセージ。それに、あの契約書。」

 「何もかも、先輩らしくない。多分、誰かにそうさせられたんだと思う。」

 「だって、契約書が交わされた日は、先輩が失踪した日なんだもん。」

 

 「……確かに匂う。確実に誰かの手が入っているな。」

 

 「でしょ?けどその時は、先輩が居なくなったことで頭がいっぱいで、それ以外考えられなかった。」

 「それに、本当に先輩の遺体が見つかったわけじゃない。砂漠で見つけたのは、携帯と学生証。」

 「それと、この盾だけだった……。」

 

 「その盾、ユメの形見だったとはな……。」

 

 「実はそうなんだ。何度も傷ついて、何度も直して、ずっと持ってきた。先輩の事を、忘れたくなくてさ……。」

 「……怖かったんだ。先輩の事を、どんどん思い出さなくなっていくのが、怖かった。」

 「私が忘れたら、先輩が本当に消えちゃうんじゃないかって、すごく怖かった……。」

 「だから、しがみついたの。ユメ先輩の言葉と、先輩が守りたかった、アビドスに。」

 「私が自分を恨んだのは、自分が潰れない様にするためだった。これは自分のせいだから、アビドスを守る事が罪滅ぼしなんだって。」

 「でも今は、その必要もない。だって、みんなが居るんだもん。後輩たちも、先生も、君も。」

 「止めなきゃいけないって、分かってるのに……。」

 

 ホシノはただ、恐れていた。自身にとって唯一の先輩を、忘れてしまう事を。

 故に、かき集めた。ユメの記憶を繋ぎとめられるもの、その欠片を。

 手帳は、その最たる物。ホシノはそこに、梔子ユメを構築する最も大きなピースが残っていると、信じていた。

 だがレイヴンを見て、その過去を知って、彼女はその考えを捨てた。

 レイヴンにとって、死は当たり前の現象であった。故に、死者との関わり方も心得ていた。

 死者が生者の願いに応える事は、決して出来ない。残された者は、自身の人生を歩まねばならない。

 ホシノはクロハの生き様に、そんな哲学を見出していた。

 

 「……ねえ、クロハ。」

 「誰の事も恨まないって、こんなに難しいの?」

 

 「……ああ、難しい。誰かを憎むのは、人間のごく自然な感情だ。それを自分の意志だけで捨てるんだ。難しいのは、当然だろう。」

 

 「……そっか。そう、だよね……。」

 「……ねえ、クロハ。」

 

 「何だ?」

 

 「ウォルターさんの事、忘れられると思う?」

 

 「……無理だな。お前にとって、ユメがそうなんだろう?そういう記憶は、決して消えない。ただ、思い出す日が、減っていくだけだ。」

 

 「……そっか。やっぱり、そうだよね……!バカだなぁ、私……!」

 

 クロハは、かつての飼い主を自ら裏切り、そしてその選択を後悔した。

 しかし、自身の選択やウォルターの言葉を言い訳にせず、この箱舟で新たな人生を歩んだ。

 ホシノは、自らにも同じ変化が必要だと理解していた。

 自分の人生を生きる事が、他のどんな人生を歩むより困難であると、理解していた。

 その道を歩むには、多大な痛みが伴う事を、クロハも理解していた。

 

 「……お前が守ってきたことで、今のアビドスがある。それ自体は、ユメにとっても、誇らしい事のはずだ。」

 「よくやった、ホシノ。だからこそ、お前には休息が必要だ。ゆっくり、休め。」

 

 「うん……。うん……!」

 

 両膝を抱えてすすり泣くホシノの隣に、クロハはただ座っていた。

 ただ、どこにも行かないと伝えるように、ホシノの隣に座っていた。

 いつの間にか雨雲号が生徒会の谷に到着し、アビドスの4人と先生が、ホシノとクロハに駆け寄っていく。

 ホシノの目の前にしゃがみ込んだノノミに、ホシノは何も言わず縋りついた。

 そんなホシノを、ノノミは何も言わず抱きしめた。シロコも何も言わず、ホシノをノノミごと抱きしめた。

 アヤネとセリカも、アビドスの仲間が1つになって、抱きしめ合った、

 ただ、ここに居ると、伝えるように。

 

 ”何とかなって良かったよ。ホシノも、いい方向に変われそうだしね。”

 

 「ああ、それ自体は良い事だ。だが……。」

 

 アビドスを見守っていた先生に、クロハは立ち上がって肩を掴み、顔を寄せる。

 そして、クロハの頭にあった、ある仮説を耳打ちした。

 

 「……お前も気づいているだろう。誰かがカイザーとネフティスに、シェマタの事を入れ知恵している。」

 

 ”……うん、間違いなく、ね。なんとなく、予測は付いてる。”

 

 「ゲマトリアだろう?でなければ、今まで起きた数々の現象に、説明が付かない。」

 

 ”さすが。私も同じことを思ってたんだ。実は、黒服の拠点の住所を知ってるんだ。明日、一緒に行こう。”

 

 「……どうやって知った?」

 

 ”カイザーからホシノを助ける時に、本人から教わったよ。ご丁寧に、年賀状まで届くしね……。”

 

 「マメな奴だな……。」

 

 ”同感……。取り合えず、今日はもう休もう。本当にお疲れ様、クロハ。”

 

 「お前もな、シャーレ。よくやった。」

 

 互いの仕事を静かに称え合い、クロハは先生の肩を軽く叩いて離れていく。

 先生は、アビドスに囲まれているホシノに、みんなで帰ろうと優しく声を掛けた。

 クロハは、生徒会の谷に合流してきた2機の雨雲号を誘導し、シェマタの確保を手伝った。

 

 戦いは終わった。砂漠もそれを祝福するかのように、今日は砂嵐が吹かない、穏やかな天気であった。




取り合えず、戦いは終わった。(プロフェット並感)
ただ当然ながら、もうひと悶着ございます。
あっ、プレジデントは生きてますよ。手足は吹っ飛んでるかもしれませんが。

あと、ユメパイが完全に死んだと明言しなかったのは、これから何かの間違いで本編にユメパイが再登場しても良いようにです。
臆病な私を、許してくれ……。

次回
アフター・ゲーム
本来は互いの健闘を称え合って握手をすべきである

次回も気長にお待ちくださいませ……。
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