BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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戦闘シーン無い癖にどうしてこんなに長くなってしまうん???
今回2万字ほどあるので、暇な時にどうぞ。

!正義実現委員会に1名、ネームドが増えます!

バレンタイン?知らない子ですね……。


50.Counter Gambit

 ホシノの暴走を止め、教室で夜を明かした次の日。

 全員身支度を整え、朝食をとり、全員部室に集まっていた。

 昨日の夜、先生からのメッセージがあったのだ。今日の朝、アビドスに戻ってくると。

 暗殺されかけたというのに、いつも通りの調子のよさを見せる先生に全員呆れながら、全員で待つことにしたのだ。

 そして、ドローンで周囲を監視しながら時間を潰す事30分。誰かが昇降口のドアを開け、階段を上ってくる。

 足音の主が誰なのか、部室にいる全員が気づいたようだ。

 誰かが部屋の向こうからドアを開けた瞬間、俺以外の5人が先生に向けて駆け寄った。

 

 ”みんな、おはよう!心配させてごめんね!”

 

 「先生!大丈夫!?どこも痛くないよね!?」

 

 ”大丈夫。見ての通り、元気いっぱいだよ!”

 

 「良かった……。本当に良かった……!」

 

 「本当に、無事で何よりです……!」

 

 「先生!皆ホントに、ホントにホントに!心配したんだからね!!」

 

 「先生、どこか痛くなったり、辛くなったりしたら、すぐに言ってくださいね。」

 

 ”大丈夫だって。医者からも健康体のお墨付きを貰ってるから。”

 

 各々が先生に縋りついたり、抱き着いたりしながら無事を喜び、先生はそれを1人1人受け止めていく。

 その途中で、先生が俺をちらりと見ていたが、目線を逸らして無視した。

 それで先生が少しシュンとしたのを見て、ノノミがこちらに手招きしてくるが、小首を振って断る。

 先生がアビドスをなだめ、アビドスも全員落ち着いて先生から離れた後、ホシノを見て先生が口を開く。

 

 ”ところで、何かあったの?ホシノが、ちょっと変だけど……。”

 

 「うへっ!?い、いやぁ~。何にも無かったよ?」

 

 ホシノの異変に気付いたらしい。当の本人も誤魔化そうとしているが、明らかに様子がおかしいので、むしろ何かあったと伝えてしまっている。

 どうしてこの聡さを普段から生かせないのかと、眉間にしわを寄せ、昨日の出来事を少し捻じ曲げて伝える事にする。

 

 「……昨日ホシノが独断専行しようとしていたから、俺が殴って止めた。それだけだ。」

 

 「何で言っちゃうのぉ!?」

 

 ”えぇ!?殴ったの!?それはダメだって!”

 

 「元はと言えば、お前が護衛も付けずに油断していたのが悪い。」

 

 ”クロハぁ~!それとこれとは話が別だよ~!”

 

 先生が俺に説教をしようと歩み寄ると同時に、ホシノがわざとらしく頭を押さえた。

 シロコとノノミがホシノの頭をなでさする事で、まるでたんこぶが出来ているかのように振舞っている。

 顔を寄せてきた先生に目線を戻せば、説教をしようとする表情ではない。

 むしろ、何かを心配している。

 

 ”……それで、本当は何があったの?”

 

 「ノノミの執事から、ノノミ1人で来いと連絡があってな。それで奴が専行しようとしていたのは確かだが、殴ってはいない。俺の過去はぶつけたがな。」

 

 ”それでか……。だから雰囲気がちょっと変だったんだね。”

 

 「よく気づくものだな。感心するよ。」

 

 ”私の特技の1つだからね。”

 

 友達を殴っちゃダメ。わざとらしくそう言いながら俺から離れ、ホシノの頭を優しくなでる先生。

 少しふやけた顔をするホシノを見たからなのか、シロコとノノミも先生に頭を差し出した。

 アヤネとセリカは恥ずかしいのか、直接ねだる事はしなかったが、少し羨ましそうな目をしていた。

 ちなみに、俺は頭を触られる事など御免だ。もし触ろうとしてきたら、そいつの髪を掴んで振り回してやる。

 

 ”それじゃあ、全員揃ってる事だし、状況を整理しようか。まず、私から。”

 

 セリカとアヤネを含めたアビドス全員の頭を撫で終えた先生は、地図が広げられた机の前に立ち、“シッテムの箱”を置いて起動させるような手ぶりをする。

 俺達には真っ暗な画面しか見えていないが、噂だと、“シャーレの先生”だけがこれを正常に使えるらしい。

 先生の手ぶりからして、その噂は本当だったようだ。

 先生の号令に従い、全員で机を囲むように立つ。

 

 ”ヴァルキューレと防衛室に聞いてみたけど、やっぱりネフティスの動きはおかしいみたい。沢山の傭兵を雇って、中央駅旧庁舎に集めてる。”

 ”今、防衛室がネフティスの狙いを探ってる。ヴァルキューレは、あの爆破事件の捜査で追われてるからね。”

 

 「私もバイト中に聞いたんだけど、最近になって、アビドスの住人以外の人を見かける事が増えたって。もしかして、そいつらが傭兵じゃない?」

 

 「そうかもしれない。というか、それ以外考えられないよね。」

 

 ここで、ノックスから得られた情報と、カンナからの話を思い出す。

 得られたのは、傭兵部隊《クリムゾン・ランス》と《ヘルホース》の契約書。

 歩兵と機甲部隊の動員を要請する契約書には、セイント・ネフティスの名前が堂々と書かれている。

 レイヴンの排除とハッキリ書かれた契約書もあるため、ハイランダーの列車で襲ってきた連中も、クリムゾン・ランスだったようだ。

 

 「情報屋から提供されたデータも、それを裏付けている。歩兵だけでなく、機甲部隊まで雇いこんでいるようだ。」

 「それと、カイザーも妙な動きを見せている。旧庁舎から近い放棄された基地に、人員と装備を集めている。」

 

 「やっぱり?サイクリング中に、カイザーのトラックが何台も砂漠を走ってたから、変だとは思ってたけど。」

 

 「それが、補給班のトラックで間違いないだろう。」

 

 ノックスは、カイザーの部隊間の通信記録も回収している。

 その記録では、まず戦車や装甲車などの機甲兵力の動員が目立つ。だが、重要なのは消耗品の補給要請だ。

 基地の見張りに渡すには過剰なほどの、食料と水、弾薬を要請している。

 つまり、長居する気か、戦闘を行う予定があるという事だ。

 

 「ネットも調べてみましたが、あんまり成果は出ませんでした……。ただ、アビドスの事を話してる掲示板に、繰り返し出てきた単語がありました。」

 「“シェマタ”というものですが、調べても何も分からなくて……。」

 

 「シェマタ……。ネフティスは、それを探しているのでしょうか……?」

 

 「ヴェリタスに調べさせてもいいかもしれんな。」

 

 『レイヴン、そのヴェリタスからの通信です。』

 

 「噂をすれば、か。繋げ。」

 

 丁度いいタイミングでの通信。恐らく、調査の経過報告か、問題が発生したのかのどちらかだろう。

 先生が人差し指を唇に当てると同時に、チヒロとの通信をスピーカーで繋ぐ。

 もし経過報告であれば、シェマタの調査も追加で依頼しよう。

 だが、聞こえてきたチヒロの不安げな声色によって、淡い期待を捨てざるを得なくなった。

 

 『レイヴン、ヴェリタスのチヒロだよ。聞こえる?』

 

 「ああ、聞こえている。どうした。」

 

 『調査が終わったよ。今、データを暗号化した上で送るから。エアなら復号できるはず。』

 『ただ、調べを進めてたら、妙な奴も見つかった。魔法みたいな手を使ってる奴がね。』

 『……レイヴン、今回の件、かなりヤバそうだよ。本当に首を突っ込む気?』

 

 「そういう事を解決するために、シャーレがある。そっちも追跡されていないだろうな。」

 

 『大丈夫。痕跡なんか1つも残してない。転送が終わったら、こっちのローカルデータも全部消すから。』

 

 「良くやってくれた。データを確認次第、報酬を送金する。」

 

 『分かった、気を付けて。先生にもよろしく伝えておいて。』

 

 調査の依頼から3日も経っていないはずだが、本当に終わらせてしまうとは。

 ホワイトハッカーの実力、伊達では無かったようだ。

 予告通り、すぐに暗号化されたデータが送られてきた。

 暗号化強度こそ高いが、キヴォトスで一般的に用いられるパターンである。

 確かに、エアならすぐに復号できる。

 

 『……データの受け取り完了。復号して、共有します。』

 

 「……ほう。どうやらカイザーは、ネフティスの援軍として展開しているわけではなさそうだな。」

 

 アヤネが持っていたノートパソコンにデータが共有されたので、俺以外の全員がアヤネの傍に集まった。

 データの内容は、予想通りといった物。カイザーとネフティス、それぞれの重役のメール履歴に、各所への送金記録等々。

 特に興味深いのは、メール履歴。各所への指示に利用していたメールのアドレスは、普段から利用している物ではない。

 その内容は、ネフティスはアビドスが使用権を買い取った事に焦り、シェマタというモノの居場所の特定を急がせている。

 カイザーの方は、ネフティスの焦りにも気づいているようだ。ネフティスがシェマタを見つけたら、直ちに確保しろとの指示が出ている。

 両者が共通して把握しているのは、先生がアビドスについている事。

 そして、件の暗殺未遂以来、各学園が警戒を強めている事だ。

 

 ”……どっちも、シェマタを探してる。カイザーはネフティスにシェマタを探させて、それを横取りするつもりだね。”

 

 「それじゃあ、もしシェマタが見つかったら、カイザーとネフティスが、正面衝突する……。だから、カードを……。」

 

 ”ノノミ?カードがどうしたの?”

 

 そう呟きながらノノミが取り出したのは、金色のクレジットカード。

 ネフティスが運営している銀行の、ほぼ限度額の無いカードだったはず。

 何故それを取り出したのか疑問だったが、言外の疑問に当人が不安げにこたえた。

 

 「このクレジットカード、ネフティスが持っている施設の、マスターキーとしても使えるんです。」

 「昨日執事さんから連絡が来たのは、このカードを奪うためだと思います……。」

 

 「だから1人で来い、か……。意地が悪いね。」

 

 「……ねえ、アヤネ。この、NULLって何?どういう意味なの?」

 

 怒りをにじませるホシノを余所に、セリカがパソコンの画面を指差した。

 今画面に映し出されているのは、メールサーバーのアクセス履歴。その一部を抜粋したもの。

 アクセスした時間とユーザーネーム、そしてIPアドレスが記録されている。

 しかし、そのIPアドレスの欄に、NULLの文字列が何度か現れている。

 それも、カイザーとネフティスが使っているサーバー、両方に。

 

 「これは……。ええっと、どう説明すればいいんだろう……。」

 

 『それは、IPアドレス。インターネット上で利用される、端末の住所のようなものです。本来12桁までの数列によって管理されます。』

 『しかし、それがNULLとなっているという事は、何もない場所からアクセスしている、という事です。通常であればあり得ません。』

 『アクセス履歴を消去したり、プロキシサーバーを経由することは、追跡遅延の常套手段です。ですが、こうして何も無い場所からアクセスされては、追跡のしようがありません。』

 

 「何だか、魔法みたいじゃないですか……?」

 

 『ええ。まさしく、魔法の存在を信じたくなるほどの現象です。』

 

 ”ヴェリタスの皆や、リオやヒマリですら、こんな事は出来ないはず……。妙だね……。”

 

 エアや先生の言う通り、通常であればあり得ない現象。

 キヴォトスの技術レベルでは、さらに言えば、ルビコンの技術ですら不可能なのだ。

 エアがハッキングする際も、ACの機能や脳深部コーラル管理デバイスを通じて機器に接続していた。

 故に、どんな細工をしたところで、必ずIPアドレスが残る。

 アクセス履歴を消去しなかったのは、そもそも追跡不可能だという、驕りからだろう。

 

 「ねえ、シェマタの所。アビドスとゲヘナの共同開発って書いてない?」

 

 「……こんなものを、アビドスは作ってたの?」

 

 今度はシロコが、画面を指差す。今映っているのは、ヴェリタスが独自調査したであろう、シェマタの概要。

 どうやら、シェマタとはアビドスとゲヘナが共同開発した列車砲。曰く、馬鹿げた威力と射程を誇る怪物、だそうだ。

 しかし、詳細なスペックや、それがどこに有るかなどの情報は無い。

 ヴェリタスですら調べられなかったという事は、カイザーやネフティス、“無”からアクセスしていた存在も、シェマタの詳細を把握出来ていないのだろう。

 希望的観測だが、可能性は高い。

 

 ”……ヒナやマコトなら、何か知ってるかも。ちょっと聞いてみるね。”

 

 先生がそう言うと、“箱”とは別のスマホを取り出し、アビドスから少し離れて画面を叩く。

 先生が通話を繋ぐ前に、ヴェリタスに対して報酬を送る。

 元々払う予定だった300万に加え、これだけの情報を短期間で調査してくれたことを考え、さらに300万を乗せて送金した。

 送金が終わると同時に、先生も電話がつながったようだ。

 スマホのスピーカーから、風紀委員会の行政官である、アコの声が響く。

 

 『はい。こちらゲヘナ学園、風紀委員会です。どの様なご用件でしょうか。』

 

 ”アコ、シャーレの先生だよ。ちょっと聞きたい事があって。ヒナに繋いでくれる?”

 

 『……先生、本当にご無事だったんですね。委員長を初めに、委員たちがどれだけ心配したかご存じですか?』

 『委員長の髪から艶は失われ、イオリはあからさまに元気をなくし、チナツは怪我人に余計に包帯を巻き、私も心配の余りコーヒーをこぼして書類を一山ダメにしました!』

 

 ”ほ、本当にゴメン。近いうちに埋め合わせはするから。”

 

 『本当に私達の事を思うのであれば、まずご自身の健康を大切にしてください!!埋め合わせは、あなたが全快してから必ずしてもらいます!!』

 

 ”うん、分かったよ。約束する。”

 

 『全くもう!本当に調子のいい人ですね!!』

 

 笑顔の先生とは対照的に、苛立ちを隠そうともしないアコ。そして、それを近くで聞いていたアビドスは全員苦笑い。

 シロコが『いつもああなの?』と、先生を指差しながら唇の動きだけで聞いてくると、俺は静かに頷くしかない。

 俺が見た事のあるアコの姿は、まともに書類仕事をしているか、俺とエアに噛みついてヒナに叱られているか。

 そして、既にヒナに叱られた後で、書類の山に押しつぶされているかの3択だ。

 幸いなことに、まともに仕事をしている姿を見かける事が多い。少なくとも、今は。

 

 『……それで、聞きたい事とは、どのような事でしょうか。今ヒナ委員長は、ひっじょ~~に忙しいので、私が代わりに応答します。』

 

 ”ええっと、アビドスとゲヘナが共同開発してた、列車砲シェマタっていうものを調べてるんだ。何か知らないかな。”

 

 『……すみません、もう一度お願いします。聞き間違いかもしれませんので。今、シェマタと仰いました?』

 

 ”う、うん。シェマタで間違いないよ。何か知ってるの?”

 

 『……すぐヒナ委員長に繋ぎます。』

 

 次の瞬間には先生のスマホから、メロディが電子音となったゲヘナの校歌が流れて来る。

 流石に想定外の反応だったのか、先生はあっけに取られてしまっている。

 俺を含めたアビドスも、同様の反応だ。

 これは、“何か知っている”どころの話では無いだろう。

 

 「何か、焦ってなかった?」

 

 ”うん。普通じゃなかったね。”

 

 「……シェマタって、そんなにヤバい物なの?」

 

 『アコがあそこまで焦っているという事は、その認識で間違いないです。シェマタとは、一体……。』

 

 そうして話していると、電子音の旋律が止まったので、再び全員口を閉じる。

 先生が応答しようとした瞬間、俺のヒナのイメージに無い大声でまくし立ててきた。

 それほどシェマタは、ゲヘナにとってマズい物らしい。

 

 ”もしもし、ヒナ?”

 

 『先生、無事なの!?シェマタが見つかったって本当!?』

 

 ”う、うん。私は大丈夫。ちゃんと健康体って診断も貰ってるから。”

 ”それと、シェマタは見つかった訳じゃ無くて、それが何なのか聞きたくて電話したんだ。何か知ってる?”

 

 『そう、そうよね……。とにかく、先生が無事なら、何より。』

 『……まず、シェマタだけど、それはかつての万魔殿議長が造らせた、超大型の列車砲。射程も威力も馬鹿げた代物。』

 『電話じゃ詳しく話せない。詳細はアコに送らせる。先生、そこには誰がいるの?』

 

 ”えっと……。対策委員会の5人と、レイヴンが居るよ。”

 

 『分かった。対策委員会とレイヴンにも、情報を送っておく。それと、小鳥遊ホシノに代わってくれる?』

 

 ”うん。今代わるね。”

 

 先生がそう言うと、ホシノは先生に近づき、スマホを受け取る。

 スマホの後端を口に近づけ、昼行燈なホシノに真剣な感情が混じり合った表情で話し始める。

 

 「はいはい。何か用かな、風紀委員長ちゃん。」

 

 『小鳥遊ホシノ、アビドス生徒会であるあなたに、頼みたいことがある。列車砲の確保に、協力してほしいの。』

 『あれは未完成ではあるけれど、ひとたび動き出せば、どれだけの被害が出るのか想像もつかない。こんなものは、誰の手にもあるべきモノではないの。』

 『お願い、小鳥遊ホシノ。風紀委員長として、アビドス生徒会に、協力させて。』

 

 「……分かったよ。一緒に、ネフティスとカイザーを止めよう。」

 

 『……ありがとう。感謝するわ。』

 

 「場所が必要なら、うちの校舎を使っていいよ。ちょっと砂っぽいけど、空き部屋なら沢山あるからさ。」

 

 『分かった。部隊をアビドスの校舎に向かわせる。日が暮れるまでには到着する。』

 

 「それと、私の事はホシノでいいよ、風紀委員長ちゃん。毎回フルネームで呼ぶのは大変でしょ?」

 

 『……それなら、私の事も、ヒナでいい、ホシノ。』

 

 「分かった。よろしくね、ヒナちゃん。」

 

 ホシノはスマホの画面を1つ叩くと、それを先生に返した。

 最初の想定よりも大事になって来たが、戦力が増える事自体はこの状況なら喜ばしい事だ。

 ホシノの話を聞いていたからか、ノノミがロッカーから箒を取り出し、シロコもそれに続いてロッカーに向かう。

 セリカにアヤネ、先生もロッカーに向かおうとした時、パソコンから通知音が1つ鳴り、俺の視界にメッセージが表示される。

 

 『……データが来ました。シェマタの詳細な設計図です。』

 

 「……ほう。なかなか面白い設計だ。」

 

 清掃用具を置き、再びパソコンの前に集まる先生とアビドス。

 そこに表示されていたのは、キヴォトス基準ではかなりの大型兵器。

 もはや、線路を走る陸上戦艦と呼んでいい代物だ。

 だがルビコン基準で考えてしまうと、解放戦線ですら運用していたありふれたサイズだ。

 ストライダーやアイスワームを見た後だと、どんな大型兵器ですら小さく見える。

 

 「……何か、大きくない!?」

 

 「こんなものが、今まで誰にも見つからなかったんですか!?」

 

 ”確かに、これが動けば、キヴォトス全域が危ない。レイヴン、シェマタをどう思う?”

 

 「まず言える事は、これをまともに動かせる組織は、ほぼ存在しない。逆に言えば、これを動かせるというだけで、自分たちの力を誇示することが出来る。」

 「カイザーとネフティスがシェマタを求めているのは、それが理由だろう。」

 

 ”戦略兵器ってこと?”

 

 「そうだ。こういう巨大兵器を動かすためには、大量の人員と堅牢な補給ライン、そして長大な防衛線を構築できる兵力が必要になる。」

 「設計を見る限り、本体を運用するだけでも百人単位の人員が必要になる。実際はもっと必要だろう。このサイズの兵器なら、破格の少なさだがな。」

 

 このシェマタ最大の目玉は、その主砲。口径は脅威の800mm。

 当然だが、口径がこれだけ大きければ、砲弾もそれだけ重くなる。砲弾が重くなれば、装填にも時間が掛かる。

 1度に輸送できる弾の数も限られてくるし、弾を本体に積み込むだけで一苦労だ。

 更に、設計のまま作られているなら、シェマタは主砲を横に向ける事が出来ない。

 もし横を向きたければ、本体ごと旋回させるしかないのだ。

 それだけでなく、複数の副砲も備えており、かなり狭いが居住区やキッチンまで備え付けてある。

 陸上戦艦として運用したかったのだろうが、かなり無理のある設計だ。

 結論を言うと、シェマタは大艦巨砲主義に脳を焼かれた馬鹿が造った兵器だ。

 威力と射程は確かに脅威だが、まともに運用など出来はしない。

 正直、その雷帝という奴がアビドスとではなく、メリニットと手を組んでいたと言われた方が信じられる。

 

 「なるほど……。ところで、シェマタの設計図にある、プラズマ発生器って何?中心にあるから、大事なものなんでしょうけど。」

 

 『シェマタの主砲は砲弾を飛ばすための炸薬を、高圧プラズマで代用しています。いわゆる、サーマルガンの一種です。』

 『ただし、プラズマを発生させるには、膨大な動力を必要とします。シェマタの動力源を始動させるためにも、莫大な動力が必要となるはず。』

 『恐らく、搭載された動力源を起動させる手段が無かったのでしょう。』

 

 ちなみに、シェマタ内部の居住区を圧迫している原因は、超大型の動力源が鎮座しているせいだ。

 射程を確保するために火薬ではなくプラズマを使おうとしたのだろうが、どう起動させるかを失念していたらしい。

 ヒナが恐れているのは、高圧プラズマを発生させられるだけの動力源をどう作ったのか、あるいはどこから仕入れたのか、という所だろう。

 やはり馬鹿の設計だ。雷帝はゲヘナではなく、ミレニアムにいた方が歓迎されただろう。

 

 「……ネフティスは、強いアビドスを取り戻そうとしている。カイザーは、シェマタを利用した返り咲き……。」

 

 「その通りだ、ノノミ。だからネフティスは、アビドスに契約を破棄させたかったんだろう。」

 

 「シェマタが見つかった時点で、使用権を持った私達に、話をしなければならないから。そうなれば、シェマタの確保は一気に難しくなります。」

 

 「でもこうして、カイザーとネフティスの目的も、狙っている物が何なのかも分かった。心強い味方だっている。」

 「企業がシェマタを確保する前に、私達で横取りすればいいってことだよね。」

 

 ホシノの言葉に対して、全員が決意の満ちた表情で頷く。

 最初こそ百鬼夜行で感じていたものと同じ、奇妙な感覚に晒されていたが、今は違う。

 ここに来て、俺達の方に追い風が吹き始めた。あとは、タイミングさえ間違えなければいい。

 

 ”今の流れは、私達にある。みんなで一緒に、カイザーとネフティスを止めよう!”

 

 「「「「「オォ―!!」」」」」

 

 その後、風紀委員会が到着するまで、シロコとノノミは各教室の掃除を、アヤネとセリカはアビドスが持っているヘリ、雨雲号の整備をすることになった。

 ホシノと先生は弾薬や食料などの買い出しへ。そして俺は企業陣営を監視しつつ待機。何か動きがあれば、前倒しで行動を起こす。

 屋上に上がり、スナイパーライフルから外したスコープで、砂漠の先にある中央駅を見つめる。

 時折蜃気楼に悩まされつつも、何も起きないまま時間が過ぎていった。

 

 ちなみに、雨雲号が3機もある事を知ったのは、この日が初めてだ。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 穏やかな風が吹く昼下がり。雲1つ無い空に浮かぶ太陽が、俺の頭と猟犬の耳を照りつける。

 右手にスコープ、左手に暖かいフィーカが入った紙コップを持ち、手すりに寄りかかって砂漠を見つめていると、後ろからカツカツと近づいてくる足音。

 足音の主が誰なのかは分かっているので、体を動かさずにいると、先生は俺の左隣の手すりに寄りかかってきた。

 

 ”どう?何か見える?”

 

 「今の所動きは無い。通信も静かだ。」

 

 ”なら時間はあるね。やりようはある。”

 

 線路の先にある中央駅の旧庁舎。そこに兵力やヘリを含めた機甲部隊が集まっている。

 現状、少数の見回りが出歩いている程度で、今すぐに動こうという気配はない。

 右側からひゅうと風が吹いたとき、エアから報告が入った。

 

 『……レイヴン、先生。ゲヘナの装甲車と戦車が複数、アビドス自治区に入りました。』

 

 ”えっ、戦車?万魔殿も動いてるの?”

 

 「……あのマコトが動かすわけが無い。エア、戦車隊に通信を繋げ。」

 

 長距離レーダーには、風紀委員会の装甲車が5台と、万魔殿の戦車が3台。一塊になって移動している。

 普段のマコトの様子から考えて、ヒナの援軍として戦車隊を送る訳が無い。むしろ、何らかの妨害をしている方が自然だ。

 反対側の手すりに手を置き、スコープを覗いて車列を目視する。

 

 「こちら、独立傭兵レイヴン。アビドス校舎に接近中のゲヘナ戦車隊に告ぐ。そちらの所属と目的を明かせ。来ると把握しているのは、風紀委員会だけだ。」

 

 『こちら、万魔殿戦車隊、棗イロハ。マコト先輩から、アビドス生徒会と風紀委員会のシェマタ確保を支援せよとの命令を受けています。』

 『風紀委員長も、この指示を把握しています。理由は知らないですけど、マコト先輩が随分やる気みたいですからね。』

 

 「……こちらレイヴン、了解した。足元には注意しろ。ここの砂は足を取られやすい。」

 

 マコトがヒナを支援するようにと戦車隊を送った。

 俺の頭の中のマコトは、確実にそんなことはしないが、イロハがこう言っている以上、信じるほかない。

 さらに言うなら、マコトが自身の信念を捻じ曲げるほどの事態になっている、という事でもある。

 

 ”……そんなにマズい物なのかな、シェマタって。”

 

 「あのマコトが、何の迷いもなく戦車隊を動かすほど、という事か?」

 

 ”……とりあえず、みんなに味方の戦車が来たって伝えようか。”

 

 微妙な表情をしていた先生を連れて屋上を降り、シロコとノノミを手伝っていたホシノを呼んで、階段を降りて外に出る。

 グラウンドで雨雲号の整備をしていたセリカとアヤネにも、味方の戦車隊が来ると伝え、昇降口の近くで待つことにした。

 少しすると、重車両特有の轟音を響かせながら、ゲヘナの校章が描かれた車列が、グラウンドの中に入ってくる。

 先頭にいた装甲車の助手席から、身丈に合わない銃を抱えた、風紀委員長が降りてきた。

 

 「先生、ホシノ、レイヴンも。」

 

 ”ヒナ、来てくれてありがとう。万魔殿まで来てくれるなんて、心強いよ。”

 

 「うへぇ……。戦車をこんなにたくさん連れてきちゃったの?」

 

 ホシノの目線の先には、万魔殿が運用している3台の戦車。

 そのうちの1台の砲塔から、赤く重い髪を抱えた少女がこちらを見ている。奴が、棗イロハか。

 挨拶の1つでもしておくべきだろうが、それは後でも出来る。

 

 「雷帝の遺産を確保すると言ったら、マコトが押し付けてきたの。お目付け役じゃなくて、純粋に火力の補強としてでしょうけど。」

 

 ”シェマタって、マコトが真面目になるくらいの代物なんだね……。”

 

 「ええ、残念ながら。そんなものが無くても、真面目になって欲しいと、常々思っているのだけれど……。」

 

 「ヒナちゃんと、万魔殿の議長の仲が悪いって噂、本当だったんだね……。」

 

 「アビドスで噂になるくらい広まっているの?どうして、こういう噂ばかり……。」

 

 そう呟きながら目頭を押さえるヒナを見て、先生とホシノは苦笑い。

 俺はその仲の悪さを間近に見ているせいか、驚きもしない。マコトとの初対面の日は、今も覚えている。

 ヒナはため息をついてから目線を上げて、真剣な表情で向き合ってきた。

 

 「話を戻すけど、シェマタは万魔殿の元議長、通称“雷帝”が造らせた遺産の1つ。設計図はもう見た?」

 

 「ああ、確認済みだ。あれなら、動く前に懐に飛び込むことが出来れば、確保は容易だろう。」

 

 「そして、現状シェマタを起動させることは不可能よ。そもそも、未完成のまま放置されているみたいだから。」

 

 「もしかして、議長さんもヒナちゃんと同じ考えなの?」

 

 「ええ、そうよ。私達は、雷帝がゲヘナを統治していた時代を知っているから。あれは、酷かった……。」

 「同じことが起きて欲しくないのよ。」

 

 眉間にしわを寄せるヒナを見て何かを思ったのか、静かに顔を伏せたホシノ。

 ホシノが何を思ったのか、なんとなく分かってはいたが、あえて黙っておいた。

 

 「そっか、ヒナちゃんも……。私だけじゃない……。」

 

 「ホシノ……?」

 

 「ううん、独り言。手を貸してくれて、ありがとね。」

 

 「……良いのよ。先生の事もあって、じっとしていられなかったから。」

 「それじゃあ、状況を教えて。」

 

 先生とホシノが手招きし、4人で対策委員会の部室へと上がっていく。

 部室に入り、朝と同じように地図が広げられた机を囲む。

 先生はシッテムの箱を立ち上げ、俺達全員の目を見まわしながら話し始めた。

 

 ”じゃあ、状況を説明するね。”

 ”列車砲シェマタを狙っているのは、ネフティスとカイザー。ネフティスが砂漠横断鉄道を欲しがっていたのは、シェマタを自分たちのものにする為だろうね。”

 ”今ネフティスは、アビドス中央駅の旧庁舎を拠点に、ハイランダーと雇った傭兵を集めてる。ヘリや装甲車もいるみたい。”

 ”カイザーは、庁舎から近い基地を復旧させてる。ただ、ネフティスの味方をする気は無いみたい。シェマタの横取りが目的だね。”

 

 「……そうね。カイザーがこの位置に居るのは、ネフティスを見張るため。庁舎までの障害も無く、部隊を迅速に展開できる。私がカイザーなら、同じ場所に陣取る。」

 

 「シェマタはどこにあると思う?あの図体を隠しておくなら、相応のスペースが必要になるはずだが。」

 

 「その上で、線路にも通じてる必要がある。あれを分解してまた組み立てるには、絶対に1週間以上は必要よ。この状況で、そんな悠長なことをしている暇はない。」

 

 「う~ん……。ネフティスが砂漠横断鉄道を取ろうとしてたから、シェマタもその近くにあるはずだよね。それなら、この線路を辿った先にある――」

 「……ここ。“生徒会の谷”。元々、博物館になる場所だったけど、他の場所と同じように、ここも放置されてる。」

 

 ホシノが指さしたのは、荒野の谷となっている場所。複数の線路が走っており、車両基地としても運用できそうな十分な空間がある。

 確かにここなら、シェマタを放置していても、簡単には見つからない。

 砂漠の先に荒野があるという事自体、少しおかしい気はしたのだが、今の議題に集中することで振り払った。

 ホシノが指を指した場所に、ショットシェルを置いて目印にする。

 

 ”確かに、ここなら線路も近いし、十分なスペースもある。シェマタがあるとしたら、ここだね。”

 

 「……でもこんな場所、予めシェマタの存在を知っていない限り、探そうとも思わない。どこから情報が漏れたの……?」

 

 「それはネフティスの連中を捕らえて、好きに聞き出せばいい。まずは、シェマタの確保に集中するぞ。」

 

 「……ええ、そうね。」

 

 ”それで、もしネフティスがシェマタを見つけたら、カイザーはネフティスを妨害しに来るはず。それでネフティスが足止めされている間に、私達がシェマタを抑える。”

 

 先生がそう言うと、ホシノは俺の真似をしたのか、地図上のカイザーの拠点にペンや消しゴムを置いた。

 ホシノがそれらを旧庁舎の方向へ進めると、今度はヒナがいくつかの銃弾を旧庁舎の上に置き、旧庁舎をカイザーと挟み込むように小さく畳んだ腕章を置く。

 銃弾がネフティスとハイランダー、腕章が風紀委員会だろう。

 

 「それが、今一番確実な作戦かな。でも、もし生徒会の谷にシェマタが無かったら?」

 

 「もしそうなったら、出たとこ勝負よ。というより、そうするしかない。」

 

 「……カイザーもネフティスも、シェマタを確保するために人員を送るはずだ。その行先を監視すれば、少なくとも方向は絞り込める。」

 

 「部隊の行先が、生徒会の谷であれば当たり。違うなら、その部隊を追いかければいい、という事ね。」

 

 今度はホワイトボードから余った磁石を取り、地図の上に置くホシノ。この磁石は、雨雲号だろう。

 雨雲号に乗った何人かで追跡して、シェマタを確保するつもりか。

 欲を言えば、地上からの支援も欲しい所だが、俺達がシェマタに近づけば、企業は確実に妨害してくるだろう。

 それは風紀委員会で押し留めてもらうほかない。

 

 「そういえば、ハイランダーはどうするの?スオウはともかく、大半は工事で来てるだけでしょ?」

 

 ”それは……。通信で警告するしかないかな。ネフティスの傭兵にも、逃げるように伝えれば、帰ってくれるかも。”

 

 「ハイランダーはともかく、傭兵共は期待できんな。金を受け取っている以上、仕事をこなそうとするはずだ。」

 

 「それならもう、撃ってきた相手に撃ち返すしかないわね。警告しても撃ってくるなら、相手が誰であろうと正当防衛よ。」

 

 「うへぇ、難しそうだなぁ……。私咄嗟に撃っちゃいそうだよ。」

 

 「それなら、前衛は私達に任せて。私達は、そういう状況で戦う訓練を受けてるから。」

 

 「よし、前衛は風紀委員会に任せるぞ。俺達はシャーレと一緒に、ヘリを使って上空で待機。戦闘になった場合、シェマタの確保は俺達でやる。」

 

 「それが確実ね。足止めは任せて。警告も先生達からお願い。」

 

 ”分かった。任せて。”

 

 「それなら、雨雲号は1台で十分かな。他の2台は、アヤネちゃんに任せる訳にもいかないしなぁ。」

 

 ホシノはそう呟きながら、さらに色の違う磁石を2つ、地図の上に置いた。

 少し悩んだヒナは、2つの磁石を掴み、腕章の近くへ置き直す。

 風紀委員会の航空支援として運用したいのだろう。

 

 「……ホシノ。その2機は、私達に預けてくれないかしら。うちのパイロットに任せたいの。」

 

 「うん、いいよ。ただ、大事に乗ってあげてね。アヤネちゃん、怒ると怖いんだ。」

 

 「もちろん。絶対に壊さない様にって、伝えておく。」

 

 「火力は十分、情報も出そろい、風向きも良好。あとは、タイミングだな。」

 

 ”それは、カイザーと同じタイミングで動くのが良さそうだね。カイザーがネフティスを監視してるなら、シェマタが見つかった段階で、必ず動くはず。”

 

 「エア、聞いていたな。旧庁舎一帯の通信トラフィックを監視しろ。内容を傍受する必要は無い。」

 

 『お任せください。くしゃみ1つ見逃しません。』

 

 ”OK。作戦をまとめるよ。”

 ”まず、エアがカイザーとネフティスの通信を監視。カイザーが動き出したら、私達も行動開始。”

 ”旧庁舎に集まってるはずの全員に警告して、出来るなら全員帰ってもらう。それがダメだったら、風紀委員会が足止めして、私達でシェマタを確保する。”

 ”シェマタを確保した後は、カイザーとネフティスがこっちになだれ込んでくるはず。風紀委員会の皆には、出来るだけ戦力を削いでほしい。”

 ”カイザーとネフティスがシェマタから離れたら、作戦成功。その後は、万魔殿と風紀委員会に任せる。で、よかったよね。”

 

 「ええ。自治区境界のあたりで、万魔殿の解体班が待機してる。事が終わったら、シェマタは塵も残さず粉々にする。」

 

 ヒナが地図の端を指差したので、リボルバーの弾を1発置いて目印にする。

 シェマタを確保する前に解体班を手配する辺り、マコトも相当本気になっているようだ。

 ヒナと先生にとっても想定外の情報だったのか、先生は口を開けているし、ホシノは苦笑いを浮かべている。

 

 「ええぇ……?粉々は、流石にやり過ぎじゃないかなぁ?」

 

 「そうでもしないと、安全が保障できない。何より、私が拒んだ所で、マコトが勝手に粉々にするから。止めても無駄よ。」

 

 「まあ、現物のまま放置するよりはマシだな。」

 

 『……レイヴン。装甲車が3台、こちらに接近しています。識別はトリニティ、正義実現委員会です。』

 

 「万魔殿の次は正実か……。」

 

 俺が突然の来客にウンザリし始めている事に気づいたエアは、俺の代わりに正実との通信を繋いだ。

 3人にも聞こえるよう、念のためスピーカーになっている事を確認する。

 単なる予感ではあるが、これで最後ではないはず。他の自治区もアビドスに集まろうとしているだろう。

 通信特有のノイズが鳴った後、エアが警告用の定型文を読み上げる。

 

 『こちら、独立傭兵レイヴン、オペレーターです。アビドス校舎に接近中の正義実現委員会に警告します。』

 『アビドス生徒会、および連邦捜査部は、あなた達に支援を要請してはいません。直ちに目的を明かしてください。』

 

 『あー!あー!こちら、正義実現委員会重装歩兵隊、チャリオット!ティーパーティーからの指示を受けてはせ参じました!』

 『アビドスと風紀委員会の味方として来てるんで、通してくださーい!!!』

 

 『……先生、ホシノ、どうしますか?手は多い方が良いとは思いますが。』

 

 頭を上げて3人の顔を見れば、通信から伝わる気迫に完全に呆れていた。

 3人とも苦笑いをしながら互いの顔を見合わせ、深呼吸をしたホシノが、俺に向かって軽く頷く。

 

 「……一応、話は聞こっか。」

 

 『……了解しました、チャリオット。校舎までの接近を許可します。』

 

 今度は4人で階段を降り、昇降口の前でチャリオットの到着を待つ。レーダーを見ると、近づいてくるのは3台。

 少し待てば、ゲヘナのそれとは異なる轟音が校舎に近づいて、校門の手前で止まった。

 先生が校門に向けて歩き出したので、3人とも先生の背中についていく。

 校門から入ってきたのは、黒の髪を後ろにまとめ、正実の制服の上にトリニティの校章が描かれたケブラーアーマーを纏った生徒。

 得意げな笑みと金色の瞳、そして背中にLMGを携えた生徒が、俺達に向けて決して正しいとは言えない敬礼をする。

 

 「どーもどーも!チャリオット隊長、神谷(しんたに)ルカです!よろしくぅ!」

 

 ”元気そうで何よりだよ、ルカ。正実の皆の様子はどう?”

 

 「いや~、あなたが吹っ飛ばされかけたせいで、皆参っちゃってますよぉ。なので!これが終わったら、トリニティに顔を出してくださいね!」

 

 ”勿論だよ、約束する。”

 

 コロコロと表情を変える彼女に、俺は正直ついていけそうにない。

 悪人ではないのだろうが、この手の奴はとにかく余計な話が多い。

 僅かな時間の邂逅で、彼女からチャティの何倍もおしゃべりが好きそうな雰囲気を感じている。

 ホシノとヒナも呆れてはいたが、スイッチを切り替えて必要な話をすることにしたようだ。

 

 「……それで、重装部隊の隊長ちゃんが、どうしてきてくれたのかな。ティーパーティーは何て言ってるの?」

 

 「大丈夫!ナギサ様から手紙を貰ってるから、今読み上げるね!」

 

 ルカが懐から取り出したのは、蝋によって封がされた封筒。

 トリニティの校章が刻まれている蝋を、ルカはナイフで慎重に切り、中から手紙を取り出した。

 ナイフを仕舞い手紙を広げて、軽く咳ばらいをしてから、内容を読み上げ始めた。

 

 「“親愛なる先生。そして、アビドス生徒会副会長、小鳥遊ホシノさん。まずは、アビドス生徒会に通達無く派兵したことを、謝罪させてください。”」

 「“しかし、先生に直接危害が加えられたことは、トリニティを震撼させるには十分すぎる衝撃が伴っていたことを、ご理解いただけると幸いです。”」

 「あとは、めんどくさい文章が延々続くから省いちゃうね。」

 

 「それは省いていいものじゃないでしょう……。」

 

 「いーのいーの!どうせこれ先生に渡すんだから!それに、こういう事で時間食ってる場合じゃないんでしょ?」

 「結論を言っちゃうと、“これは連邦捜査部を支援するための派兵だから、アビドス生徒会は何も気にしなくていいよ。”ってことです!」

 

 「うわぁ、すっごい屁理屈……。」

 

 「ナッハハハ!!トリニティ程屁理屈で回ってるとこ無いって!!」

 

 ホシノの呆れ顔をぶつけられたルカは、腹を抱えて大笑い。

 先生は苦笑いし、ヒナは目頭をもみ、俺は頭痛に頭を押さえる。交信からエアの呆れの感情さえ伝わってくる始末。

 俺は後何度、先生達の同じ表情を見ればいいのだろうか。

 それを心配していると、ひとしきり笑い終えたルカの表情が、笑顔ではあるが真面目なそれへと切り替わった。

 

 「ハァ~。まあ、ホシノさんに帰れって言われたら、私達は帰るしかないんだけどね。無断派兵なのは間違いないし。」

 

 ”そういえば、ツルギとかハスミじゃなくて、ルカが来たんだね。どうして、ルカが選ばれたの?”

 

 「それはですねぇ、今あの2人が抜けちゃうと、正実ガタガタになっちゃうんですよ。行きたがってはいたんですけどね。」

 「かと言ってイッちゃん(イチカ)に任せるにはちょっと荷が重いし、マシロんを行かせる訳にも行かないし。」

 「何より、装甲車3台分が事後承諾で処理できるギリギリのラインなんですよ。で!私達に白羽の矢が立ったってわけです!」

 「あっ!戦闘力ならご心配なく!隊長がこんなんでも、チャリオットは正実の虎の子なんで!」

 

 どうやら、自分が隊長として相応しくない振る舞いをしている自覚はあったようだ。

 だが、チャリオットはエデン条約の調印式、古聖堂襲撃事件の際に動員され、確かな働きを見せている。

 もし彼女たちが、その時と同じ練度で今ここに居るのなら、有効活用しない手は無い。

 同時に、一介の傭兵たる俺が決定権を持っているわけではないので、アビドス生徒会の副会長と連邦捜査部の特別顧問に判断を仰ぐ。

 

 「……ホシノ、シャーレ、お前達に任せる。俺は引き込んだ方が良いとは思うがな。」

 

 「……もしティーパーティーが何か言ってきても、私達は何もお返しできないよ。それでもいいなら、手を貸してくれると嬉しいな。」

 

 「もちろん!!いやぁ~助かったぁ!ここまで来て帰れなんて言われたらどうしようかと……!」

 

 「……それじゃあ、私から状況を説明する。チャリオットは全員こっちに。」

 

 ヒナからそう言われたルカは、校門の外にいる部隊に口笛を吹いて集合を指示。

 それに合わせて、黒く塗装された装甲車がグラウンドの中に入ってくる。

 視線を感じて振り返ってみれば、アヤネとセリカがこちらに何事かという目線を向けている。

 理解が追い付かないのも無理はない。正直俺も追い付いていない。

 だが、理由は思惑はどうあれ、チャリオット、ひいてはトリニティも味方に付いたことは確かだ。

 

 ”……なんだか、にぎやかになって来たね。”

 

 「そうだな。元はと言えば、お前のせいだがな、シャーレ。」

 

 ”えぇ~?私のせいなの?”

 

 「……昔のアビドスは、こんな景色が見られたんだね。」

 

 俺と先生のやり取りを聞いていたホシノが、グラウンドに集まった生徒達を見ながら、静かに呟く。

 かつてアビドスは、キヴォトスでも有数の規模を誇った、強大な学園であった。

 だが、急激に強まる砂嵐に見舞われ、数々の対策も虚しく、僅かな年月でこの通り。

 ホシノですら、アビドスが繁栄していた時期を、覚えているわけではないのだろう。

 だが、僅かな可能性を信じ続け、この枯れた大地にしがみついた。

 先代の生徒会長であった、梔子ユメと共に。

 先生は、ホシノの背中を軽く叩きながら、ホシノと同じ方向を見つめて、静かに語る。

 

 ”……そうかもね。でも、もう2度と見られないって訳じゃ無い。これからきっと、アビドスには人が戻ってくる。”

 ”遠くないうちに、こんな賑やかな景色が、日常になる。私は、そう信じるよ。”

 

 「……うん。そうだね。まずは、私達が、それを信じなきゃ。」

 

 『レイヴン。再び接近する反応があります。今度はミレニアムです。』

 

 先生とホシノの話によって、穏やかな雰囲気になったと思ったら、エアからの報告によってその雰囲気は消し飛んだ。

 驚きの感情を隠さない2人を尻目にレーダーを確認。今度は上空からドローンの編隊が接近している。

 通じるかどうかすら怪しいが、念のためオープン回線を使って警告を行う。

 

 「ハァ~……。こちらレイヴン。アビドスに接近している――」

 

 『レイヴン、聞こえるかい?間に合ったみたいで何よりだ!』

 

 「……ウタハか!?ここで何をしている!?」

 

 『フフフッ……!エンジニア部からの、サプライズプレゼントさ!』

 

 「……アレ、パワーローダー!?」

 

 沈みかけの太陽に照らされていたのは、4機の大型ドローンに吊り下げられたパワーローダー。

 白色に塗装されたその機体は、シルエットから見ても、明らかに純正ではない。

 ドローンは俺達の上空まで近づくと、整備中の雨雲号の隣に、ある程度距離をとってパワーローダーを接地させる。

 そして、機体を牽引していたワイヤーを切り離し、ドローンは元来た方向へ切り返した。

 

 『チヒロから事情を聞いていたんだ。君と先生が、また大変な事に巻き込まれてるってね。チヒロの勘は、正しかったみたいだね。』

 『それで、ナイトフォールの新造は間に合いそうにないが、こっちなら間に合うと踏んだのさ!ちょっと突貫になったけどね!』

 

 『重改造された、カスタムパワーローダーです。ブースターと装甲を増設し、火砲とアクチュエーターも強化されています。』

 

 ウタハから送られた機体は、『小型化された首無し天槍シリーズ』といった印象。

 胴体、肩部、大腿部分が追加装甲と増設ブースターによって膨れている。

 機動性をある程度確保するためか、末端部分の見た目は純正のままだ。が、間違いなくアクチュエーターは大きく強化されているだろう。

 武装も、右手のガトリング砲には追加の弾倉が、左腕には戦車砲を改修したであろう大砲が取り付けられている。

 その上で、背中から張り出した大型ブースターユニットの両側には、10連装のミサイルポッドが2基。

 小型化されたACを手配したと言われれば信じてしまう程に、その機体はACに酷似している。

 エンジニア部め、やってくれたな。

 

 『フフッ!素晴らしいだろう、エア!君の設計にも負けていないと思うんだがね?』

 

 『……次は、CPUの衝撃対策に気を付けてください。レイヴンの技量には、普通の補強では不十分です。』

 

 『手厳しいな。だが、参考にさせてもらうよ。』

 『ああ、そうだ。電撃グレネードに、銃火器と弾薬もたっぷり持ってきた。有効活用してくれ。』

 

 ウタハがそう話すと同時に、4機のドローンがグラウンドの開けた場所に、コンテナを4つ投下する。

 コンテナのカバーが自動で外れると、ミレニアム製であろう銃火器と弾薬が現れた。

 今グラウンドに集まっている連中全員に渡しても、なお余るほどの量だ。

 どうやらミレニアムの連中も、あの事件で相当頭に血が上っているようだな。

 

 「よくやってくれた、ウタハ。次の整備代に上乗せしておこう。」

 

 『お代は結構だよ。予算はセミナーから貰ってるからね。』

 『ただ、これに乗るのには条件がある……。』

 

 「何だ?」

 

 『……私達の分まで、奴らに喰らわせてやってくれ、レイヴン!!』

 

 「……お安い御用だ。」

 

 通信を切ってコンテナの方へ視線を向けると、ルカがコンテナの中にあった銃を手に取って、こちらを見つめていた。

 ルカから銃を取り上げようとするチャリオットの隊員と、また眉間にしわを寄せているヒナを含めた全員に向けて、軽く頷く。

 するとおずおずとではあるが、風紀委員会とチャリオットが物資に手を伸ばし始めた。

 あとは、ヒナとルカに任せればいいだろう。

 視線を先生達の方に戻すと、さっきまで俺が見ていた景色を温かい目で見守る先生と、目と口を大きく開き、驚きの感情を隠せずにいるホシノが居た。

 

 「……クロハ、パワーローダーに乗れたの!?」

 

 「ああ。元々俺はパイロットだ。お前をカイザーから奪還した時も、1機奪って乗り回してる。」

 

 「あっ。あぁ~、そうだったね……。なんだかんだ、アイビスにも乗ってるもんね……。」

 

 「そうだな。ナイトフォールやアイビスに比べれば、パワーローダーの操縦なんて訳はない。」

 

 もう1度機体に目を向けて、機体の状態を確認する。

 ハードウェアの性能は保障されているが、問題はソフトウェアだ。

 俺が乗るための最適化はされていないはず。これは、出撃するまでにエアと調整するしかないだろう。

 そう考えていると、先生が俺の肩を得意げな顔で叩いてきた。

 

 ”ねえ、レイヴン。これも私のせい?”

 

 「そうだな。元をたどれば、人を信じすぎるお前のせいだ。」

 

 ”でも、人を信じる事は悪い事じゃ無いでしょ。クロハこそ、もう少し誰かを頼った方が良いと思うけどね。”

 

 「あっ、先生それやめて。私にも刺さっちゃう……!」

 

 アイタタ、と心臓を抑えてわざとらしい演技をするホシノに、よしよしと言葉をかけながら背中をさする先生。

 何の脈絡もなく2人のクサい芝居を見せつけられたことで、実は上がっていたテンションが急激に冷えていく。

 俺もわざと大きくため息をついて芝居を止めさせ、レーダーを見てもう誰も来ない事を確認しながら口を開く。

 

 「……とにかく、戦力は十二分に揃ったな。あとは、連中の動きを待つだけだ。」

 

 「おぉ~おぉ~。セリカちゃんに呼ばれてきてみたら、こりゃ大所帯だな。腕が鳴るよ。」

 

 声につられて校門に視線を向ければ、白い小さなピックアップトラックに乗った柴大将の姿。

 荷台には、大量の調理器具や、食材が入っていると思われる段ボールがいくつも積まれている。屋台もしっかり牽引してきたらしい。

 どうやら、風紀委員会が来ると聞いたセリカが、サプライズで呼んでいたようだ。

 ホシノが満面の笑みを浮かべて大将に駆け寄り、俺達は静かに歩いて近づく。

 

 「大将~!来てくれたの!」

 

 「おう。腹が減っては何とやら、だろ?先生、レイヴンも、遠慮なく食べていきな。材料はたっぷり用意したからさ。」

 

 ”……時間もいいし、大将の準備が出来たら、みんなでご飯にしようか。”

 

 気が付けば、既に太陽は地平線に飲み込まれようとしていた。

 昼は普段の量を食べられなかったことを思い出した瞬間、騒ぎ出す腹の虫。

 それと同時に、俺の周りにいた3人から生暖かい目を向けられたので、パワーローダーのコックピットへ逃げるように乗り込んだ。

 

 それから大将のラーメンを大人数で味わった後、各々の持ち場に戻っていった。

 風紀委員会とチャリオットは周辺の警戒。アビドスと先生は作戦に穴が無いかの再確認。

 そして俺は、パワーローダーのコックピットで、調整と試運転を行っていた。

 風紀委員会とチャリオットの何人かが夜通しの見張りを行い、残りはテントやアビドスの教室で夜を明かした。

 俺は久しぶりに、コックピットの中で眠りにつく。

 

 お前が相手になった事を、後悔させてやれ。

 おぼろげな夢の中で、誰かが俺の背中を押した気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 『クソがッ!!こっちが不利になるような動きばかりしやがって!!!』

 『先生にィ、黒い鳥ィ……!』

 『NPCごときがッ!!小生のキャンペーンをォ!!邪魔するなァ!!!』

 『ハァ、ハァ……!し、しかし、コデックスに反していない事は事実……!』

 『……もういい。コデックスなど知った事か……!』

 『どんな形であれ、小生が答えを得る事が出来れば、それが小生の勝利ィ……!』

 『やりようなど、いくらでもあるはずです……!』




学園混成部隊が思ってたより大規模になりました。
これなら楽しい遠足になるのではないでしょうか。ですよね総長?

次回
トリプルチェック
“終盤は機械のように指せ”

次回も気長にお待ちくださいませ……。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

神谷ルカ

正義実現委員会に所属する3年生。

正実の重装部隊、『チャリオット』の隊長。
性格はお調子者で、言動を窘められることもしばしばあるが、
咄嗟の判断力や部隊指揮能力は、ツルギやハスミも高く評価している。
委員長の座に推薦された事もあるが、
「正実の長は、強く恐ろしい方が良い。」と、ツルギへ譲っている。
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