BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL- 作:Soburero
アビドス~ゲヘナ路線編
※なお穏やかな旅は出来ないものとする
Lies of P楽しい。(小並感)
ソウルライクとしてはだいぶ親切で遊びやすくて良い。
時間は少し流れて昼下がり。
弾薬が発火する危険性があったので、ストーカーの火が自然と収まるまで待ってから、柴関の屋台でラーメンにありついた。
大将に自分を取り巻く状況の変化と、自分にとってはいつもの食事量に驚かれながら、平穏な時間を過ごすことが出来た。
そして校舎に戻ってすぐ、ミレニアムにストーカーとナイトフォールの回収を、エンジニア部にナイトフォールの新造を依頼。
今は全員で机を囲み、状況を整理しようとしている。
「う~ん。ハイランダーがユメ先輩の契約書を偶然見つけて、ネフティスが砂漠横断鉄道に目を付けて、私達が使用権を買い取ったら、クロハちゃんのヘリが壊された……。」
梔子ユメ。アビドス生徒会前生徒会長。ホシノにとっては唯一の先輩だったが、既に死んでいる。
問題は、その契約書が交わされた日が、ユメが失踪した日と同じという点。
ユメがその日に失踪した事と、その2年後にハイランダーがこの契約書を見つけた事は、恐らく偶然ではない。
「そうまでして鉄道が欲しいのかな?」
「ん~、列車が欲しいわけじゃ無いだろうし……。」
既にハイランダーは多数の列車と路線を抱えている。キヴォトスの鉄道はハイランダーが独占していると言って良い。
アビドスに路線を引き直したり、砂漠横断鉄道から列車を回収しようとしたところで、利益など望めないだろう。
「カイザーみたいに、砂漠に埋まっている物が欲しいんでしょうか?でもそれなら、わざわざ鉄道を運用する必要は……。」
必然的に、ネフティスは鉄道以外の何かを求めているという仮説にたどり着く。
だが、その仮説が正しいのか、もし正しいとして何を求めているのか、それはネフティス以外に知る由もない。
「それに、スオウって奴もカイザーと繋がってるかもしれないんでしょ?何でそんなことを?」
そして、カイザーもネフティスの動きを知りたがっている。そのためにスオウを利用している。
だがカイザーが何を知ろうとしているのか、それでスオウが何を得ているのかも不明。
結局、この場にいる全員が、情報不足という結論にたどり着く。
「状況が複雑で、誰が何を目的としているのか、全然ハッキリしませんね……。」
”情報が欲しいけど、誰に頼ればいいんだろう?企業の動きに詳しそうな人は……。”
「……俺に当てがないわけじゃないが、時間が必要だ。」
”もしかして、情報屋?”
「ああ。企業回りの“ゴシップ”を好む奴でな。情報の質は確かだが、とにかく臆病で慎重だ。」
情報屋、“ノックス”。当人は一切素性を明かそうとしないため、ノックスという名前も通称。
少しでもヤバそうな依頼は絶対に引き受けないし、受けたとしても、情報の受け渡しはデッドドロップ方式。
依頼を送って即お断りの返事が来なければ依頼受諾、デッドドロップの住所が帰ってきたら調査完了という徹底ぶりだ。
俺の答えを受けて少し考え込んでいた先生も、聞きこむべき相手が思いついたようだ。
”……それなら、私はヴァルキューレと防衛室を当たってみる。何か記録が残っているかも。”
「分かった、やってくれ。残りは目立たない様に待機しろ。今1人でも欠ければ、奴らの思うつぼだ。」
「普段通り過ごすしかない、かぁ……。」
ため息をつきながら机の上に伸びるホシノ。
アビドスの全員がもどかしそうな苦い顔をしていたが、沈黙を破ったのはセリカだった。
「……それなら私は、バイトしながら色々聞いてみる!こんな時にじっとしてらんないから!」
「サイクリングしてる時に、何か見えるかも。写真とか動画とか、撮ってみる。」
「……ネフティスの動きを怪しがっている人が、他にもいるはずです。私も、ネットで情報を探してみます。」
”みんなの気持ちは嬉しいけど……。クロハ、どう思う?”
セリカに続き、シロコとアヤネも声を上げる。
ホシノとノノミが3人を止めようとしたところで、先生が言外に3人をいさめた。
状況を考えるなら、企業はアビドスの動きを警戒しているはずだが、同時に大した事は出来ないとも捉えているだろう。
普段通りに過ごしているフリをすれば、多少は警戒が緩むかもしれない。
「……直接的な聞き込みはするな。噂話程度でも、手掛かりにはなる。深追いしない事だけ徹底しろ。」
「だが、ホシノとノノミ、お前達は確実にマークされている。情報が得られるまで動くなよ。もし動くなら、単独行動はするな。必ず、2人以上で動け。良いな?」
「ノノミちゃん、もしかしたら、ネフティスから1人で来いなんて言われるかも。その時は、私と一緒に行こう。」
「はい。もどかしいですけど、そうするしかないですもんね。」
”それじゃあ、対策委員会の皆は、情報が集まるまで普段通りに過ごす事。何か起きたら、私かクロハに言う事。それで行こう。”
先生の音頭に、アビドス生徒会の全員が頷く。
これで行動の指針は決まったが、デジタル方面にもう1押し欲しい所。
カイザーの時と同じように、アロナに依頼しようかと考えた時、エアから1つ提案が持ち上がった。
『……レイヴン、もう1つ情報の当てがあります。』
「どこだ?」
『ミレニアムサイエンススクール、ヴェリタスです。彼女たちの技術なら、企業の情報を盗み出すことは可能なはずです。』
「奴らは確か、ホワイトハッカーを標榜していなかったか?この手の仕事に応じてくれるとは思えんが……。」
そう、アリス関連の事件の際、ミレニアムの廃墟から回収したアリスの学籍を偽造した連中が、ヴェリタスだ。
ハッカーとしての技量は確かで、仕事の評判は良いが、問題はハッカーらしい仕事を引き受けようとはしない事。
部員たちがイタズラとして仕掛ける事はあるようだが、その度に副部長のお叱りを受けている。
ちなみに、部長はあの明星ヒマリ。ウィーヴィルにアクセスしようとして起動させた女だ。
”う~ん、意外と、大丈夫かもね。副部長のチヒロがそうは言ってるけど、他の部員は結構、イタズラ好きだし……。”
”きちんと状況を話せば、協力してくれるかも。”
「ホワイトハッカー?なにそれ?」
『デジタルセキュリティの専門家です。攻撃する側の手段を熟知しているのが、ただの専門家との違いですね。』
「一か八かだ。話だけでもしてみよう。」
公表されているヴェリタスの仕事用の電話に接続する。
先生がアビドスに向かって人差し指を唇に当て、俺は首元のデバイスから音声が出るように設定する。
プルルル、とコールが2回鳴り、3回目が鳴り始めたところでコールが止まった。
通信特有のノイズが乗った声の主は、副部長の各務チヒロだった。
『はい、ミレニアムサイエンススクール、ヴェリタスです。』
「ヴェリタス、独立傭兵レイヴンだ。お前達に依頼をしたい。」
『レイヴン?何で私達に?エアはハッキング得意なんじゃ無かったっけ?』
「確かに得意ではあるが、今回の仕事は規模が違う。エアには俺のサポートに集中してもらいたいんでな。」
『なるほど……?もう嫌な予感がするけど、話は聞くよ。仕事の内容は?』
通信越しにギシリと椅子が軋み、軽いため息が耳をつく。
既に希望は薄いようだが、一先ず話を続ける。
「ネフティスがアビドスにある、砂漠横断鉄道を回収しようとしている。その目的を洗ってほしい。」
『……それ、ネフティスのサーバーとかに潜り込めって話?ならお断りだよ。』
「お前達の信条は知っている。だが今回は、それを曲げてもらいたい。」
『悪いけど、いくらお金を積まれたって引き受けないよ。こっちにも信用ってものがあるの。傭兵なら分かるでしょ?』
チヒロのその言葉で、再び苦い顔をする先生とアビドス。
話の正当性はチヒロにあるため、この反応が返ってくるのは当然だ。
状況を話して、それでも反応が芳しくなければ、潔く諦める他無いだろう。
「ほう?気にならないのか?かつて栄華を誇ったネフティスが、何故今になって自ら捨てたものを拾い直そうとしているのか。」
「もし奴らの目的が、砂漠に埋まっている物。例えば、ウトナピシュティムのような物であれば、何故わざわざ鉄道を動かそうとしているのか、気にならないか?」
『……確かに、それが本当ならきな臭い話だけど、この依頼だってそうだよ。気づいてる?』
「百も承知だ。だからこそ、お前達の実力を見込んで話をしている。」
「報酬は500万、内200万は前金として支払おう。それと、この件にはカイザーも関わっている。奴らの情報も集めてくれれば、ボーナスを出そう。」
『だから!お金の話じゃ無いんだってば!』
『……でも、カイザーが絡んでるって、どうして分かるの?話だけは聞くけど。』
「元々、砂漠横断鉄道の土地と施設は、カイザーが保有していたが、それを債権として売り払った途端、全てネフティスが買い占めている。談合があったんだろう。」
「直後に、ネフティスはハイランダーのスポンサーとなり、ハイランダーの連中をアビドスに送り込んでいる。アビドス高校への通達もなくな。」
「もう1つ、ハイランダーの監理室所属、朝霧スオウという女が、ネフティスとカイザー両社と繋がっている。ネフティスとハイランダーの動きを、カイザーに報告しているようだ。」
「ここまで聞いて、お前ならどう思う、チヒロ。」
『……確かに、カイザーとネフティスは繋がってると見て間違いないね。そのスオウって人の目的は、イマイチ分からないけど。』
『それと、私からも1つ聞いていい?もしかして、先生も関わってる?』
話の内容から何かを察したか、先生が絡んでいる事に気づいたようだ。
先生に目を向けてみれば、チヒロの洞察力に驚き、目を見開いている。
どうも先生は、自分がトラブルの中心によくいる事を忘れているらしい。
「ああ。丁度今隣にいる。伝言を伝えようか?」
『いいよ、後で直接言いに行くから……。』
『……今回は特別、引き受けるよ。でも、条件がある。』
「何だ?」
『報酬をもう100万上乗せして。その代わり、カイザーとネフティス、両方洗っておくから。』
『それ以外にも、砂漠横断鉄道に関心を示してる人も探してみる。もし見つけたら、ボーナスは最低でも50万は乗せてよね。』
「良いだろう。前金にもう100万乗せておく。他に条件は?」
『あんたからの仕事は、これっきり。それでいい?』
「ああ、俺もそう願っている。だが、俺からも条件があるぞ。」
『何?』
「痕跡は絶対に残すな。お前達の安全を最優先に行動しろ。」
『それはね、ハッカーにとって基本中の基本だよ。あんたに言われなくたって分かってる。』
「それなら良いがな。では、取引成立だな。」
『うん、取引成立。前金が振り込まれたら、仕事を始めるから。多分、早ければ3日くらいで報告できるはず。』
「了解だ。頼んだぞ、ヴェリタス。」
通信を切ると同時に、ヴェリタスの口座に300万をレイヴン名義で送金する。これで、今日中に取り掛かってくれるだろう。
各所との協力を取り付けたことで、今日中に出来る事は全て終わった。
先生は情報を収集するためにシャーレに帰投。アビドスは奇襲を避けるため、全員で一斉に下校することになった。
俺は1人アビドス校舎、以前使っていた一室で夜を明かす。
硬いマットレスと砂ぼこりの臭いに、若干の懐かしさを覚えながら、静かに眠りについた。
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いつも通り日が昇る直前に目を覚ます。ヘリが積み荷と一緒に爆散したので朝食は無し。
装備を背負いジャケットを羽織って、若干肌寒い夜明けの砂漠を歩く。行先は、ブラックマーケット。
当然ながら、ノックスもブラックマーケットの住人だ。故にデッドドロップも、ブラックマーケットのどこかに置かれる。
企業の目が逸れる事を期待しつつ、仕事をこなしながら情報を得るつもりだ。
しばらく歩いてたどり着いたのは、アビドス校舎の最寄り駅。
かつては人がいたのだろうが、今はドローンやオートマタすら居ない無人駅となっている。
券売機の操作に若干苦労しつつ切符を購入。ホームに来た列車に乗り込む。
この駅が終点かつ、1路線しかない。行先を間違えようがない。
「切符~。切符をはいけ~ん。」
「ここに。」
「どうも~。」
右手に握った鋏のような何かをカチカチと鳴らすハイランダーの生徒に、駅で買ったブラックマーケット最寄り駅の切符を渡す。
小さな穴が1つ開けられた切符を受け取り、通路を少し進んで通路側の座席に座る。乗客の数は少なく、快適な長旅が出来そうだ。
(妙な所でローテクだな。)
(ここがキヴォトスだからでしょうね。調べてみましたが、この路線の列車の破損率、相当高いです。)
(ハッ。すぐ壊れる物に金は使えんか。)
それもそのはず、この列車はゲヘナに向かう列車でもある。
そしてゲヘナの生徒は、キヴォトスの住人の中でも特に引き金が軽い。あのヒナでさえ、引き金の軽さは例外じゃない。
ハイテク機材を使うより、人間を使った方が安いと考えられているであろう事は、ハイランダーが少々気の毒ではある。
(それで、進捗は?)
(メッセージは受け取っているようですが、反応がありません。即座に断ってはいないので、期待できるでしょう。)
(相変わらずのようだな。情報屋は神経質であるべきだろうが、奴は少し過剰だな。)
これまでに出会ってきた情報屋は、大なり小なり皆神経質だ。
そうでない者は、大抵は俺が情報を買った後、1度忽然と消える。
そしてしばらくすれば、体に包帯を巻き、腕にギプスをはめて戻ってくる。
恐らくノックスも、1度調子に乗って痛い目を見たのだろう。
「車内販売で~す。いかかですか~。」
「コーヒーをくれ。」
「1つ200円です。」
「これで。」
「はいどうぞ~。」
商品がたっぷり詰まったかごを押して、俺の隣まで来た1人の生徒。
そいつにポケットから硬貨を2枚渡し、代わりに蓋が付いている缶コーヒーを受け取る。キヴォトスで広く見かける物としては、比較的上等な品だ。
だが缶表面のラベルを見てみれば、微糖の2文字。つまりミルクは入っていない。
ロクに確認せず買ってしまったのは自分なので、味には期待せず蓋を開ける。
慣れ親しんだフィーカの香りが鼻をくすぐるが、一口呷ると僅かな甘みの後に、強い苦味と酸味が口いっぱいに広がった。
(……降りてから買うべきだった。)
(まだ苦味には慣れませんか?)
(慣れないし、慣れたいとも思わない。フィーカは甘い方が良い。)
(苦味や辛さが苦手な人の事を、子供舌なんて言うそうですよ。良い機会ですし、大人の階段を上ってみては?)
(その先にあるのは、成長ではなく老いだろう……。)
ため息をついて窓の外を眺めると、車内にコツコツと足音が響く。それも、1つではない。
通路に目を向ければ、3人の乗客が進路側の車両に向かっている。今も座っている者はわずかだ。
なんてことはない光景だろうが、直感が偶然ではないと警告を発している。
(……エア、乗客がはけている。何が起きてる?)
(今調べます。少し時間を――。)
(……レイヴン、車両のドアがロックされました。)
エアの報告が意味するのは、ハイランダーが俺を意図的に閉じ込めたという事。
気づけばハイランダーの連中も居ない。乗客が3人ばかり残っているだけだ。
俺が椅子から立ち上がると、残りの3人も俺を挟むように立ち上がる。2人が進路側に、1人が後ろ側に立ちふさがった。
3人の手にはハンドガン。フルオート射撃に切り替えられる特殊仕様。まとう雰囲気からして、俺と同じ裏の人間だ。
「……レイヴンだな?」
頭に銃口を正確に向けながら、こちらにゆっくり迫ってくる3人。腰のリボルバーにゆっくりと手をかける。
奴ら銃を片手で持ってはいるが、3人全員の射線が通るように歩いており、個々の隙も少ない。下手に動けば反撃を喰らう。
「クライアントからの伝言だ。『そろそろ退場してもらうぞ、害鳥。』」
右側にいる1人が俺の頭に銃口を突きつけようとした瞬間に、右手をリボルバーから離し、相手の手首を掴んで一気に引き寄せる。
そのまま左手で頭を掴み思いっきり力をかけながら、2人組に対して盾にする。
2人から放たれる拳銃弾の弾幕を盾で受け止めながら、リボルバーでまず胴体を撃ち抜いて怯ませ、頭にそれぞれ1発ずつ。
掴まれた時から抵抗を続けていた盾が銃口を頭に向けてきたので、引き金が引かれる前に、座席の角に頭を2回叩きつけて気絶させる。
「エア、ドアのロックを――」
リボルバーの空薬莢を最後の1発ごと捨て、弾を込め直していた時、車内が大きく揺れる。
甲高いブレーキ音と共に、俺が今いる車両と進行方向側の車両との距離が大きく広がっていく。
『レイヴン!列車が切り離されました!』
「奴ら正気か!?」
『敵性反応多数!傭兵部隊、来ます!』
反対側、まだ車両が繋がっている方へ振り返れば、ガラスの奥に重装備で身を固めた傭兵部隊。
盾を壁にして陣形を組んで待ち構えており、容易には突破できそうにない。
車内の空間は狭く、機動力を生かすのは難しい。スモークとフラッシュバンで隙を作る他無いだろう。
腹をくくって1枚目のドアのロックを叩き壊し、出来た隙間に手を突っ込んで強引にこじ開ける。
「エア、民間人は!?」
『最後尾から退避しています!誤射の心配は無用です!』
背中からLMGとショットガンを取り出し、セーフティを解除しつつスキャンを実行。
最後尾まで車両は4つ、1車両に大体4人ずつ。さっきの連中が先方なら、残りの連中の技量も安くないはず。
エアに合図を送り、ドアを解放させた瞬間、大きく身を屈めて真っ直ぐ突進する。
即座に弾幕が張られ、銃弾が頬やジャケットをかすめていくが、それに臆した瞬間、俺は負ける。
盾持ちと衝突する直前でさらに強く踏み込み、全体重を乗せて肩からぶつかる。
その衝撃で盾の後ろにいた1人ごと跳ね飛ばされるが、両サイドの座席に隠れていた2人が即座に反撃してきた。
飛び退きながら5.56mm弾とバックショットで座席ごと撃ち抜き、ハンドガンで反撃しようとしている奥の1人の頭を散弾で弾き飛ばす。
最後の1人が盾を捨て、立ち上がりながらサブマシンガンを持ち上げるが、上がり切る前に左手で銃を抑え込む。
そのまま首を掴み上げて全力の頭突き。ポリマー製のヘルメットごと、頭で頭を叩き割る。
気絶した傭兵を捨て、そいつが捨てた長方形の防弾盾を左手で拾い、次の車両に向かう。
「情報通りだ!手ごわいぞ!」
「散らばるな!固まって戦え!」
ドアを開けた瞬間に叩き込まれる歓迎の弾幕を、拾った盾で受け止める。
この車両はさっきまでと趣が異なり、固定座席は無く、左奥にバーカウンターがあり、故に空間が広い。
それに目を付けた後部車両の連中も集まっているのか、敵の数も多い。
盾はもちろん、この車両にあったであろう机を遮蔽に利用している。
このまま待っていてもジリ貧だ。前に進むしかない。
スキャンでマーキングしつつスモークを放り投げ、相手の視界を塞ぐ。
それでも弾幕が止むことは無く、ドアの周辺を銃弾が叩き続ける。だが、密度はいくらかマシだ。
左にゆっくり移動して弾幕から逃れ、正面に来た2人組に突進。2人とも奥の壁まで弾き飛ばす。
中央後ろに控えていた1人をLMGで仕留め、右に軽く跳躍。バーカウンターに潜んでいた1人は、頭を出した瞬間にハチの巣にする。
そこで回り込まれた事に気づいたか、煙の中にいた連中が出てきた。キッチリ盾を壁にしている。
「チッ!こいつら腕が立つな!」
盾持ちに対してLMGで牽制しつつ、後ろに下がろうとしている1人を突進して弾き飛ばす。
飛ばされた奴は、その後ろの2人組で固まっていた奴らに衝突。
2人の盾持ちから放たれる援護射撃を受け止めながら加速し、1人に向かって全力のドロップキック。盾をへし折りながら大きく吹き飛ばす。
着地した瞬間にもう1人が盾を振りかざし、殴りつけようとして来るが、これを盾で弾く。
姿勢が崩れた事を見逃さず、膝を蹴り折り下がった頭に盾の角を叩きつける。
60㎏の質量弾と衝突したにもかかわらず、気絶を逃れ立ち上がろうとしていた最後の1人をLMGで撃ち抜く。
これでこの車両は確保したが、厄介な奴が1人、奥の車両に残っている。
重装甲のミニガン持ち。閉所で最も出会いたくない装備を使っている。
左腕の盾はそろそろ限界。連中の仲間を盾に使おうが、それで撃つのを止めるような軟弱者でもないはずだ。
一気に勝負を終わらせるしかない。
軽く助走を付けられるように、ドアから離れた位置でエアに合図を送る。
2枚のドアが開いた瞬間に走り出し、同時に盾に叩き込まれる激しいプレッシャー。
衝撃と火花が飛び散り、盾の覗き窓は割れ、銃弾が頭をかすめ始めるが、なお加速。
あと1メートルという所で、相手が射撃を止め、ミニガンを大きく振り上げた。
その瞬間に身をよじり、盾を置き去りにするように腕を引き抜く。
相手が空中に浮いた盾を殴りつけると同時に、相手と座席の僅かな隙間に飛び込む。
受け身を取って姿勢を取り戻し、相手が振り向き切る前に、口を塞ぐように手を添えて引き寄せる。
そして、無防備な背中に向けて渾身の膝蹴りを2発。相手はそれに応えるようにうめき声を2回上げ、力を失い地面へ倒れた。
『敵性反応なし。安全は確保できたようです。』
「エア、列車を動かすにはどうすればいい?」
『車両制御システムに侵入。あと30秒で終わらせます。』
これで、列車内の傭兵部隊は掃討。増援なども無さそうだ。
気になるのは連中の雇い主だが、今聞くべき事でもないだろう。
念のため誰も残っていないか確かめながら最後尾の車両に向かうと、操縦室に人影が見えた。
リボルバーを引き抜いて、警戒しながら接近する。
「も、もう大丈夫、かな……?」
「おい、お前。」
「ヒィ!!お願いやめて撃たないでぇ!!」
ドアをそっと開けて出てきたのは、ハイランダーの生徒1人。恐らく操縦手。
俺の姿を見た瞬間に、また操縦室の中へ逃げ込んだ。中を覗けば、部屋の隅で頭を抱えて縮こまっている。
一先ず銃を下ろし、そいつの前にしゃがみ込む。
「撃たれたくないなら話を聞け。」
「ハ、ハイ!何でしょう!?」
「この事態、お前達や傭兵の独断じゃないだろう。誰の指示だ?」
「えっ!?え~っとぉ、そのぉ~……!」
「あと5秒やる。5――」
「監督官!!スオウ監督官です!!!」
「今朝メッセージが届きまして!もしレイヴンが乗ったら、その車両から切り離して、後は傭兵に任せろって!」
「いやぁ~!変だなとは思ってたんですよォ!まるで、あなたが乗る事が分かってたみたいじゃないですかぁ!変ですよねぇ!だから見逃してくださいぃぃ……!」
軽く銃を向けて数字を数えると、少し面白いほど簡単に話してくれた。
ただ、これ以上彼女を脅す理由も、その必要もない。
立ち上がり部屋から出て、顎で列車から出ろと指示する。
「良いだろう、見逃してやる。その代わり、スオウに伝えろ。次は殺す、とな。」
「ハイ!確かに承りましたぁ!またのご利用お待ちしておりますぅぅぅ!!!」
操縦室から勢いよく飛び出した彼女は、そう叫びながら列車から降りていった。
あの惨劇を見てそのセリフが言えるのは、ある意味大物だろう。
非常用の出入り口に掛けられた梯子を蹴り外し、ドアを力ずくで無理矢理閉める。
列車が走り出したのは、その2秒後だった。
『列車全体の制御を掌握。元の目的地に向かいます。』
「よくやった。全く、手間をかけさせてくれる……。」
『朝霧スオウ、ここまで手段を選ばないなんて……。妨害が目的だとしても、明らかにやり過ぎです。』
「奴ら、アビドスをどうするつもりだ……?」
バーカウンターがあった車両まで戻り、カウンターの下にある冷蔵庫から、オレンジジュースの瓶を1本取り出し、手で栓を開ける。
カウンターに寄りかかりながら、ジュースを呷って水分補給。
眼前に広がるは死屍累々の地獄絵図。もちろん作ったのは俺だ。
奴らが左肩に付けていたエンブレムから、ヴァルキューレのデータベースを検索して所属を特定しようとするが、エアからの報告で阻まれる。
『……レイヴン、ハイランダーが停車駅を封鎖しました。重装備の治安部隊が向かっています。』
「どうやら本気で俺を消したいらしいな。手前で下ろせ。」
十中八九、これもスオウの指示だろう。それだけ、アビドスへの協力を阻止したいらしい。
調べたい事は増えたが、まず新しいジャケットを買おう。銃撃戦でボロボロだ。
それから電車で揺られる事数時間。当初の停車駅から2㎞程離れた場所で停車させて離脱。ブラックマーケットに直行した。
衣服店で新しいジャケットを買い、道中で突っかかってきた不良を拳で叩き伏せ、ガレージショップでPMC払い下げのオフロードバイクを購入。
ガソリンスタンドでバイクに燃料を入れていた時に、ノックスから座標が届いた。
指定座標までバイクを走らせ、路地裏にある大型のゴミ箱の傍を探すと、妙に安っぽい質感の石があった。
石に偽装されたケースを開けると、USBメモリが1つ。
コーラルを利用して読み取ってみれば、想定通りの情報と興味深い情報が半々といった所。
精査は後で行う事にして、今日の寝床を探して、再びバイクを走らせる。
たどり着いたのは、余り評判のよくない安宿。一先ず、宿屋に求める最低限の目的は果たせるので、文句は無い。
早いうちにストーカーを取り戻さないと。
そんなことを考えながら、中のスプリングがへたっているマットレスに寝ころんだ。
そして、日付が変わろうとする直前、連邦捜査部の部室が消し飛んだ。
レイヴンの苦手な閉所戦闘で圧殺 → 実力で乗り切られて失敗
多重爆発で先生を肉体的に抹殺 → プラナに防がれて失敗
一先ず危機は乗り切ったけど、事態を知ったらじっとしていられないであろう人がアビドスに1人……。
次回
不協和音
ヒビの入った心は……。
次回も気長にお待ちくださいませ……。