BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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どうやら世間ではブルアカふぇすなる催し物が開かれているみたいですね。
仕事がある私には関係の無い事ですが。(血涙)
やはり労働は悪い文明……!

そういえばツイッター君に流れて着たんですけど、もしかして、アケミ君身長180cm超えてる……?
ニヤニヤ教授との身長差ヤバない……?


47.Opening

 予定より少し早いとの事だったが、6人の客人を対策委員会の部室に招き入れた。

 今、先生を含めたアビドスの6人と、ネフティスの使いの6人が、机を挟んで睨み合っている。

 友好的な話し合いは期待できない雰囲気だ。

 俺はいつ荒事になっても良いように、ドアの近くに立つことにした。

 この場で最初に口を開いたのは、この砂漠で藍色のコートを羽織った生徒だった。

 

 「改めて、私はハイランダー鉄道学園監理室所属、朝霧スオウ。」

 「この双子が、中央管制センター(CCC)の、橘ヒカリとノゾミだ。」

 「アビドス生徒会に対し、通達も無く開発工事を行った事を、正式に謝罪しよう。」

 

 座ったままではあったが、帽子を取って素直に頭を下げてきた。一先ず、敵対の意志はないと見ていいだろう。

 問題は、さっき紹介された双子の方だ。

 

 「ね~え~。お客さんにお茶も出さないの?」

 

 「お茶菓子もしょもーするー。」

 

 「頭を下げろ……!」

 

 スオウは双子の後頭部を掴み、無理矢理下げさせる。その間も2人は足をばたつかせながらブーブーと文句を言う始末。

 この双子の小さな体躯に加え、直近のインターホン連打といい、この言動といい、クソガキと呼んで差し支えないこの態度。

 本当にハイランダーの鉄道運営管轄組織であるCCCの一員なのか疑いたくなる。

 当然と言うべきか、アビドスは全員苦笑いを浮かべている。

 

 「すまない。この双子は、見ての通りでな。我々も苦労している。」

 

 「そ、そうなんですね。今、お茶を――。」

 

 「いや、結構だ。話自体はすぐに済む。」

 

 「……横にいる人たちは、そう思って無さそうだけど?本当に要らない?」

 

 「いえいえ、お構いなく。監督官の言う通り、お時間は取りませんので。」

 

 頬杖を突きながらも、僅かに敵意のにじむ目線を残りの3人に向けるホシノ。

 それに飄々と対応するのは、3人の代表と思われる小太りの男。

 男と言っても、頭が葉巻型の機械となっているキヴォトス人だが。

 残りの2人も、それぞれ犬と猫型のキヴォトス人だ。

 

 ”それで、昨日砂漠横断鉄道について話があるって言ってたけれど……。”

 

 「ああ。今日アビドスに来たのは、その話をしたかったからでもある。」

 「まずこの方々は、ネフティス社に買い付け資金を提供してくれたパトロンだ。今回の話に参加する権利がある。」

 

 「その通り。我々は、いわゆる私募ファンドです。我々以外にも、出資者は居ますよ。それだけ、今回の件に期待しているのです。私を含めてね。」

 

 ブラフだ。まともな投資家なら、この不毛の大地の鉄道に利益など見出さない。

 その“他の出資者”とやらも、まともじゃないと考えていい。

 

 ”失礼ながら、どのような事業を?”

 

 「こちらが、私債労働組合長。他の金融機関から断られた方にも、良心的な利率で融資を行っております。」

 「こちらは、質屋連合長。取り扱う商品の幅広さは、キヴォトス随一といっても過言ではないでしょう。」

 「それから私は、押収品のオークションを運営しております。予め言っておくと、品も手法も合法ですよ?」

 

 「要は詐欺師の集まりじゃないの……。」

 

 「詐欺師など、人聞きの悪い!普通の商売と、少しだけ手法が異なるだけですよ!ハッハッハッ!」

 

 セリカがファンドの3人を詐欺師と呼んだのは、間違いじゃない。

 ヴァルキューレのデータベースを照会したところ、3人全員が詐欺や不正取引の容疑での逮捕歴がある。

 ネフティスが雇い入れる人間の身元調査を怠るとは思えない。恐らく、分かっていて雇ったのだろう。

 最悪、彼らが勝手にやった事として、切り捨てるために。

 

 ”……それでは、本題に入る前に、あなた方がネフティスの出資者であることを確認させてください。”

 

 「……私達を疑っているのか?」

 

 ”いえ、そんなことは。ただ、公正な取引のために、念のため確認させてください。”

 

 「それを疑っているというんだ!全く、不愉快極まりない!」

 

 先生が確認を取ろうとした瞬間に、犬型の方がごね始めた。瞬間、部屋の空気が一気にピリつき始める。

 身元が分かるものを見せたがらないという事は、身元が割れると都合が悪いと判断せざるを得ない。

 腰にさしたリボルバーに手をかけて、威圧感を隠すことなく一歩前に出る。

 

 「証明できないなら帰ってもらうぞ。」

 

 「……ずっと聞きたかったのだが、そもそも君は誰だ?君こそ部外者じゃないのか!?」

 

 「連邦捜査部直属傭兵、レイヴンだ。これ以上ごねるようなら、力ずくで帰らせるぞ。」

 

 「……先生、でよろしいですか?申し訳ないのですが、こちらの傭兵を下がらせて貰っても……。」

 

 ”ご心配には及びません。彼女は高度な訓練を受けた、極めて経験豊富な兵士です。必要な時以外、その力を振るう事はありませんよ。”

 

 「それで、証明できるもの、ちゃんと持ってきてる?もしかして、忘れちゃった?」

 

 “早く身分証を見せろ、さもなくば去れ。”

 先生とホシノは、ファンドの3人に対し言外にそう伝える。俺に至っては直接言った。

 アビドスの4人も、それを咎める事はしない。

 場所が路地裏であり、相手が不良生徒なら、既に銃撃戦が始まっている雰囲気だ。

 が、スオウがおもむろにポケットから何かを取り出し、その電源を入れた。

 それは、小型のホログラム通信装置。それから青色のレーザーが照射されると、空中にもう1人、細身のキヴォトス人が浮かび上がった。

 

 『申し訳ございません。私共の手違いで、証明書を渡せていなかったのです。』

 『データではありますが、こちらが、証明書の写しでございます。ご確認ください。』

 

 「……っ!」

 

 『……お久しぶりです、お嬢様。実に2年ぶりでしょうか。このような形でご挨拶することになってしまい、申し訳ございません。』

 『申し遅れました。私、セイント・ネフティスグループ、鉄道事業担当の者です。以後、お見知りおきを。』

 

 ネフティスの人間と名乗ったその男は、右腕を腹の前で曲げて礼をする。

 その男がいる事にノノミは驚き、その男がノノミをお嬢様と呼んだことにアビドスと先生が驚いている。

 ハイランダーの3人は特に気にせず、ファンドの3人は驚いていないどころか、むしろ助け舟を得られた事でほっとしたようだ。

 アヤネは受け取ったデータを先生と一緒に確認する。

 

 「お久しぶりですね、執事さん。私も、出来ればここで会いたくは無かったですね……。」

 

 『お元気そうで何よりです、お嬢様。ですが、奥様や旦那様が心配しておいでです。一度、お顔を見せに、戻ってこられては?』

 

 「そうしたいところですけど、色々と立て込んでいて……。後で、私から連絡しますね。」

 

 『何よりでございます。お嬢様のお声だけを聴くだけでも、お二人は安心できることでしょう。』

 

 「……はい。確認できました。出資者の方々で、間違いありません。」

 

 先生も俺に目線を向けて軽く頷いた。

 リボルバーから手を離すが、警戒は決して解かない。

 それに気を大きくしたか、猫型の方が椅子にふんぞり返った。スオウやネフティスもそれを咎めない。

 

 「気は済んだか?」

 

 ”失礼いたしました。ここ最近、アビドスで色々な事が起こってまして。”

 

 「まあまあ!用心するに越したことはありませんから!」

 「我々も、カイザーがアビドスに何をしたのか、耳に挟んでおりますので。最近はカイザーも妙な動きを見せていますしね。」

 

 ”ご理解いただけたようで何よりです。”

 

 この時のアビドスの心境を言語化するならば、“何を白々しい。”だろう。

 事実、アビドスの全員が、特にセリカとシロコが露骨に渋い顔をしている。

 相手は猫型の方が顔をしかめた程度で、大きな反応は無かった。

 

 「それでは、本題に入る前に、責任者の方以外は退室をお願いします。少々センシティブな話ですので。」

 

 「聞いたな、外に出ろ。」

 

 「えー!?お茶は!?お菓子は!?」

 

 「帰りたくなーい。」

 

 「わがまま言わず外に――。」

 

 嫌がる双子の背中を押して無理矢理退室させようとするスオウを、ドアを背に立つことで止める。

 双子は何やら期待するような目線を向けているが、お前達を引き留める事が目的ではない。

 

 「……どいてくれ。退室する。」

 

 「全員聞いていたほうがいいんじゃないのか?」

 

 実際の工事を担当するCCCの双子、それを監理監督するスオウ。

 それに金を出したネフティスと私募ファンドに、施設周辺の自治を行っていたアビドス高校。

 この場にいる全員が話を聞いていても何ら不思議ではない。

 何より、誰にも渡さないという選択肢を含めて、情報を渡す相手を絞る事は、情報統制の基本だ。

 

 「商談の原則を知らないのか?先生とやら。おたくは自分の部下にどんな教育をしているんだ?」

 

 ”……レイヴン、通してあげて。”

 

 僅かに悩んだ先生だが、ハンドサインと一緒にそう指示してくる。

 ここで逆らう理由も無いので、大人しくドアを開けて、スオウに双子をつまみ出させる。

 同時にスオウも出ていこうとしたが、ネフティスの執事に引き留められた。

 

 『私共ネフティスは、ハイランダー管理室、朝霧スオウを代理とします。』

 

 「……聞いていないぞ。」

 

 『大変申し訳ございません。直接参加すべきだとは理解しているのですが、既に別の予定が入っておりまして。』

 『少なくとも、彼女がネフティスに臨時雇用されている事は確かです。この商談に参加する権利は十分にあるかと。』

 

 「……良いだろう。」

 

 『ご迷惑をおかけします。よろしくお願いいたしますね、スオウさん。それでは、失礼いたします。』

 

 「それではレイヴンさんと、小鳥遊ホシノさん以外の4人も、退室をお願いします。」

 

 ネフティスの執事は消え、スオウは元の席に座り直した。

 同時にファンドの代表が、ホシノ以外、すなわちアビドス生徒会以外は出ていけと言い出した。

 誰が最初に口を開いてもおかしくないほど、アビドスの苛立ちが伝わってくるが、火蓋を切ったのは意外にも冷静なホシノだった。

 

 「……この4人は居ても問題ないよ。廃校対策委員会は、アビドス生徒会の一部だからね。ここに居る4人も、アビドス生徒会のメンバーだよ。だよね、先生?」

 

 ”その通りです。アビドス高校の顧問として、彼女たちがアビドス生徒会のメンバーである事を確認しています。”

 

 「フム……。我々は小鳥遊ホシノさんが生徒会の唯一のメンバーだと把握していたのですが、あの先生がこう言っているのです。無用な探り合いはやめておきましょうか。」

 

 ”それとレイヴンですが、彼女は私の護衛も業務の1つです。彼女がこの商談の内容を口外することはありませんので、ご安心ください。”

 

 「何を言っている!?横暴も大概に――!」

 

 「まあまあ、落ち着きましょう。先生はキヴォトスの“外”から来ています。特殊な体質なのですから、護衛が付くのはごく当然の話でしょう。」

 

 屁理屈極まりない説明ではあったが、それ以上聞いてこようとはしない。

 俺と先生の事は警戒しているようだが、要求を押し通す策を用意しているのか、追及する理由が無いのだろう。

 

 「……フン。」

 

 「態度悪っ……。」

 

 油断しているのか、それとも演技か、犬型の方が腕を組んで背中を背もたれに預けた。

 それだけ自分たちが優位な立ち位置にあると考えているのかもしれない。

 特に理由はないが、奴の顔を覚えておこう。特に理由は無いが。

 

 「それでは、早速本題に入りましょう。」

 「端的に言いますと、我々は砂漠横断鉄道に関する、全ての権利を買い取りたいのです。しかし……。」

 「ハイランダーの古い倉庫から、この契約書が出てきましてね?アビドスの前生徒会長が、鉄道の使用権を買い取ろうとしていたようなのですよ。」

 

 「ね、ねぇ先生。ちょっと見ていい?」

 

 ファンドの代表から契約書が差し出された瞬間、それを奪い取る様に手を伸ばしたホシノ。

 焦燥に満ちた表情で契約書を、特に名前の所を確認している。

 アヤネとシロコがホシノの隣で契約書を覗き、先生を中心に残ったメンバーがファンドと向かい合う。

 

 「実はこの契約、まだ生きておりまして。期限は、2日後。もしそれまでに代金の振り込みが無い場合は、契約は自動的に破棄されてしまいます。」

 「そんなわけですので、アビドス生徒会の判断を頂けないかと、伺った次第です。」

 

 ”判断とは?”

 

 「契約の続行か、破棄か。我々としては、破棄をお勧めしたい所です。あなた方の厳しい事情は、理解しているつもりですので。」

 「破棄した場合、鉄道の使用権はネフティスへと渡ります。多少の違約金もかかるでしょうが、負債を抱え続けるよりはいいのでは?」

 

 「先輩……。どうしてこんな、契約……。」

 

 「ホシノ先輩、どうしましょう……。」

 

 奴らの狙いがようやく読めた。あくまでも正当かつ合法的に、契約を破棄させるつもりだ。

 期限ギリギリでアビドスを訪問し、判断を仰ぐことで、第三者からの警告を回避しつつ、自分たちが鉄道を手に入れるという算段だろう。

 例えアビドスが契約を履行しようとしても、嫌がらせでもなんでもして、破棄の言質を引き出せればいい。

 

 「もちろん、今決めていただこうなんて、それこそ今すぐ100万払えと言うつもりはありませんとも!」

 「明日の正午、アビドス中央駅旧庁舎にて、総会が開かれます。総会の会場で、アビドス生徒会の判断をお聞かせください。」

 

 流石にアビドスは全員迷っている。先生の一存で決めていい話でもない。

 だが、このまま奴らの思い通りになるのも癪だ。

 ここは、一芝居打つとしよう。

 

 「何も質問が無いのであれば、我々はこれで――。」

 

 「契約で思い出した。ホシノ、借りていた金を返すぞ。利子を付けて、キッチリ100万だ。」

 

 「えっ?お金なんて貸――。」

 

 わざとらしく声を上げながら、懐から札束を1つ取り出し、ホシノの方を軽く叩きながら押し付ける。

 札束に手を添えながら、少しの間とぼけていたホシノだったが、すぐに俺の意図を理解したのか、札束を笑顔で受け取った。

 

 「あ~~!!そうだったそうだった!ちょっとだけど貸してたね!も~、利子なんて付けなくてもいいのに~!」

 

 「返すのが随分と遅くなったからな。出世払いという奴だ。」

 

 「いや~、レイヴンちゃんは偉いねぇ。口約束の借金をちゃ~んと返してくれるなんてさ~。」

 「ひーふーみーよー……。うん、ちゃんと100万あるね。ありがとね、レイヴンちゃん。」

 「それじゃあ、この100万はこのまま、ネフティスに。」

 

 俺とホシノの芝居の意味を理解したアビドスと先生は、自分の席へと戻り姿勢を正した。戦闘態勢に入ったのだ。

 俺もドアの近くに戻り、全員の様子を注意深く観察する。

 流石にこの場で代金を支払ってくるのは想定外だったか、ファンドの3人の表情に焦りが浮かぶ。

 ネフティスの代理であるスオウの表情が変わらないのが気がかりだが、今気にする事ではない。

 

 「……つ、つまり、契約については――。」

 

 「ちゃんと履行するよ。例え、前生徒会長が勝手に結んだ契約だとしてもね。」

 「それとも、私達が砂漠横断鉄道の使用権を持ってちゃ、マズいのかな?」

 

 「……い、いえ!そのような事はありませんとも!え~、にーしーろーやー……!」

 

 「待て!その札束、偽札じゃないだろうな!?傭兵が懐から取り出した金だぞ!?」

 

 「……裏社会で偽札を使った奴がどうなるか、知ってるか?」

 

 「な、何だ?どうなると言うんだ!?」

 

 「まともな紙幣のどれかに、そいつの血が染み込んでいるかもな。」

 

 「ヒィ!?」

 

 「冗談だ、半分はな。だが、偽札を使った奴は無事でいられないのは確かだ。それに今の俺は、偽札に頼るほど金に困っていない。」

 

 当然の疑いを黙らせるための方便ではあるが、半分は事実だ。

 自身が偽造した紙幣を使い、表裏を問わず遊び歩いた奴がいたが、あるギャングに捕まって以来、消息不明。

 当然ヴァルキューレも探していたが、他の事件に追われ1か月程で捜索を中断している。

 噂だと、そいつはサンドバッグになった後、ギャングのアジトの掃除係として、生涯雇用される事となったらしい。

 

 「羨ましいなぁ~。おじさんもドーンと稼いでみたいよ~。」

 

 「命を賭ければすぐに稼げるぞ。もちろん負ければ死ぬがな。」

 

 「うへっ、やっぱ遠慮しとこ……。」

 

 「はい!確かに100万、受け取りました!で、では、小鳥遊ホシノさん。契約書にサインを。」

 

 金を数え終わったファンドの代表が、ホシノに対しそう促す。

 契約書を注意深く確認しながら、日付と自身の名前を丁寧に書き、代表へと差し戻した。

 代表を除く2人が酷く汗をかき、代表自身も体温が上がっているのは、きっと気のせいではない。

 

 「……はい。これでいい?」

 

 「ええ、問題ありません。いや~!いい取引が出来て何よりです!ハハ、ハッ……!」

 

 ”念のため、契約書を確認させてください。”

 ”……問題ありませんね。アヤネ、契約書のコピーを取って。”

 

 「はい!ついでにデジタル化もしちゃいます!」

 

 契約書を部屋にあったコピー機にかけ、コピーを2枚印刷。

 1枚はファンド、もう1枚はアビドス、契約書の原本はネフティス代理であるスオウの元へ。

 全員が内容をさっと確認した後、それぞれケースやカバンの中へとしまった。

 

 ”では、連邦捜査部特別顧問として、セイント・ネフティスとアビドス高校、両者の取引が健全かつ公正であったことを保証します。”

 ”何か質問はございますか?”

 

 「い、いえ!おかげさまでございませんとも!いやぁ、強かな子達だ!これならアビドスは安泰ですなぁ!」

 「監督官、案内を!これ以上お邪魔してはいけませんから!では、失礼しました!」

 

 そう言うと、ファンドの3人はそそくさと立ち上がり、扉の方まで歩いてきた。

 大人しく扉を開けると、先頭にいたスオウが横切る瞬間、“余計な事を”と言わんばかりの目を向けられたが、気づいていないふりをした。

 全員出ていった後に扉を閉め、声と足音が遠ざかっていったことを確認してから、セリカが両腕をクロスさせてから大きく横に振った。

 

 「……セーーーフ!!!」

 

 「ホシノ先輩、クロハちゃん!ファインプレーです!」

 

 「ホシノ、よく気づいてくれた。よくやったな。」

 

 「いやいや~、それほどでも~。」

 

 「これで、砂漠横断鉄道は……!」

 

 「正式に、アビドスのものになりました!ちゃんと契約書を交わしているので、言い逃れも出来ません!」

 

 ”ちょっとヒヤヒヤしたけど、何とかなったね!皆、お疲れ様!”

 

 全員が思い思いのやり方で喜びを表現する。

 具体的には、ノノミは俺に抱き着き、ホシノは先生と硬い握手を交わし、アヤネとセリカとシロコは固まってガッツポーズ。

 だが、何かに気づいたホシノが、申し訳なさそうな表情で口を開く。

 

 「あっ。そういえば、クロハちゃんのお金、ちゃんと返さなきゃね。」

 

 「100万か?ならいい。連邦生徒会に経費でツケておく。」

 

 ”えっ!?もしかして私が誤魔化さなきゃいけないやつ!?”

 

 「冗談だ、半分はな。今の俺にとって、100万ははした金だ。何も気にしなくていい。」

 

 「はした金ぇ!?おっ、お金のスケールが違うっ……!」

 

 「いやいやいや!!100万は大金だからね!?私達毎月何百万とかき集めてたけど、すっごい大変だったよ!?」

 

 傭兵になりたての事は、俺だってそう思っていた。

 だが、この世界の1万円がおおよそ1COAMと分かった時、むしろはした金で雇われていると感じたものだ。

 俺は仕事の度に命を賭けている。依頼主には、それ相応の対価を払ってもらわなければ。

 そんなことを考えていると、ノノミが俺の目を不安げな顔でのぞき込む。

 

 「あ、あの……。どうしてクロハちゃんは手を貸してくれるんですか?」

 

 「1つは、お前達が俺の友人だからだ。失いたくはない。」

 

 「クロハ……。」

 

 「もう1つは、この問題を放っておくと、俺のビジネスに悪影響が出そうでな。組織の形を問わず、1か所が力を付け過ぎると、ロクな事が起きない。」

 「アビドスの危機を防げば、キヴォトス全体の危機を防ぐ事に、ひいては俺のビジネスを守る事に繋がる。」

 

 「結局打算!?アンタ、たまにすごく怖いわよ!?」

 

 「本当にたまにか?」

 

 ”本当に強かだね、クロハ……。”

 

 胸を打たれたと思ったら、次の瞬間には全員苦笑い。

 どちらも俺の本心であるという事を理解しているからこその、この表情だろう。俺もこの光景に慣れてきた。

 そうして微妙に温くなった空気を、アヤネがピシリと引き締める。

 

 「と、とにかく!状況を整理すると……。」

 「砂漠横断鉄道の使用権は、アビドス高校のものとなりました。ただ、あくまでも使用権です。鉄道を運用して、利益を得る権利を買っただけで、列車や線路そのものが手に入ったわけじゃありません。」

 「近いうちにハイランダーやネフティスから、鉄道の運用を任せて欲しいという連絡が入ると思います。」

 

 「それって、もしかして……!何もしなくても、アビドスにお金が入ってくるって事!?」

 

 「セリカ、アビドスに電車を使う人がいないよ……。」

 

 「あぁ!そうだったぁ……!」

 

 「で、でも、使用権はそういうものだよ。解釈は合ってるから、大丈夫!」

 

 そう、今回買い取ったのは砂漠横断鉄道の使用権。土地と施設の所有権は今もネフティスが握っている。

 今アビドスに所有権を買い取る理由がない以上、奴らに商談を吹っ掛ける必要も無いだろう。

 少なくとも、ネフティスやカイザーが動くまでの時間稼ぎにはなるはずだ。

 今できる事としては、最大の戦果だ。

 

 「……やっぱり、分からないです。どうして今更、砂漠横断鉄道を……。」

 

 「ノノミの言う通り、ネフティスが砂漠横断鉄道を選んだ理由が不明のままだ。奴らはこの鉄道に、何らかの利益を見出しているはずだ。」

 「エア、調査結果はどうだ?」

 

 『……ハズレですね。あの私募ファンドも、役者兼駒として雇われているだけでしょう。双子も含めてあらゆる履歴を探りましたが、目ぼしいものは何もありませんでした。』

 『ただ、朝霧スオウの方は、少し妙なものが。』

 

 「なんだ?」

 

 『正体不明の人物とやり取りをしていたようですが、そのアドレスが、カイザーが裏でよく使っているものでした。』

 『ネフティスとハイランダーの動向を、その人物に対して逐一報告しています。その目的は不明です。』

 

 内容を見てみれば、ネフティスがハイランダーに対していくらで依頼したのか、鉄道の開発計画や使用機材一覧まで丸々送っている。

 ネフティスに雇われながら、カイザーにも情報を流す。

 言うなれば、2つの依頼を同時に請け負っている状態だ。いくら俺でも経験がない。

 端的に考えるなら情報料による臨時収入。

 戦略的意味があるとするならば、開発作業の難化、それに伴う時間稼ぎを望んでいるとも取れる。

 

 「んん……?スオウはハイランダーだけど、ネフティスに雇われてて……?でも、カイザーとも繋がってて……?」

 

 「何だか、余計に分からなくなってきちゃいました……。」

 

 「スオウめ、戦争屋にでもなるつもりか……?」

 

 ”こういう時は、必要なピースが欠けてる。だよね、クロハ?”

 

 「そうだな。情報を収集する必要がある。俺は伝手を当たってみる。シャーレ、お前も頼む。」

 

 ”分かった、任せて。でも、その前に……。”

 

 「……皆で柴関に行こうよ。大将が会いたがってたよ?」

 

 「……そうだな。腹が減っては、だ。」

 

 警戒態勢に入っていて気づけなかったが、商談が終わって丁度お昼時。

 普段だったら、腹の虫がひっきりなしに鳴いていた所だ。

 結局、キヴォトス事変以降も大将のラーメンを食べられてはいなかったから、丁度いい機会だ。

 

 「ふふっ。私もお腹ペコペコです~。」

 

 「ちょっと待って!大将に電話するから!」

 

 「クロハと柴関ラーメン、本当に久しぶり。」

 

 「クロハさん、ちゃんとバランスよく食べてますか?って、これからラーメンを食べに行くのに、気にする事じゃないですね。」

 

 「いっそ、クロハちゃんのヘリで、ばーっと行っちゃう~?」

 

 「タクシー業はやってないぞ。」

 

 「も~、冗談だって――。」

 

 部室が穏やかな空気に包まれた瞬間、身を覆う轟音と衝撃波。

 外に面したガラスにヒビが入り、その奥には黒い煙と火の粉が立ち上っていた。

 その方向は、エアがストーカーを停めていた場所だ。

 

 ”うわっ!爆発!?”

 

 「今の、かなり近いよ!!」

 

 『レイヴン!ストーカーが!!』

 

 「……なんだと!?」

 

 ヒビの入った窓を開け、3階から校舎を覆う壁を越え、直接砂地に飛び降りる。

 飛び降りる前に見えていたが、信じたくは無かった。

 だが、目の前に広がる炎が、そこから伝わる酷い熱と炎の臭いが、僅かな希望を完全に焼き殺す。

 確かに、ストーカーが、俺の移動拠点が燃えている。その中にいた、ナイトフォールと共に。

 

 「……どうなってる。何が起きた……!?エア、ナイトフォールは!?」

 

 『……駄目です。先の爆発で、完全に破壊されました。爆発した原因も不明です。』

 

 「クソッ!!」

 

 「クロハ、あれって……。」

 

 階段を駆け下りて、アビドスと先生も駆けつけてきたが、全員目の前の光景に絶句している。

 砂漠でヘリが自然発火する事など、ありえない。

 弾薬の暴発による偶然、仕掛けられた罠による必然、整備不良によるヒューマンエラー。

 全員の頭の中に、何より俺の頭の中に、いくつもの可能性が頭を過る。

 

 「……俺のヘリだ。ナイトフォールごとイカれた。」

 

 ”家が吹っ飛んじゃったの!?”

 

 「……クロハ。これもしかして、スオウのせいじゃ……。」

 

 「……誰が敵なのか、分からなくなってきたな。」

 

 もし人為的に罠を仕掛け、遠隔により作動させる仕様であれば、十中八九エアが気づいている。

 気づけないとすれば、タイマー等によるスタンドアロン仕様の罠。

 しかし、寝ている間にストーカーに接近すれば俺が気づける。起爆タイミングが今なのも気がかりだ。

 百鬼夜行の事件で感じた異様な違和感が、再び身を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「ヒヒッ……!何が黒い鳥だ……!」

 「所詮はNPCの1人。攻略法が必ず存在する。これは、その一手目に過ぎない……!」

 「小生のキャンペーンの邪魔をするなよ、低能が……!」




一件アビドス側が優勢に見えますが、あの老人、何しでかすか分かったもんじゃないんですよね。
直接対峙する機会はまだまだ先になりそうです……。

次回
ペイン・トレイン
最悪が止まらねぇ

次回も気長にお待ちくださいませ……。
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