「参院選前に官邸から指令が」 証券口座乗っ取りの補償問題で「金融庁」が業界に対して強気になる裏事情【霞が関インサイド】
今年相次いで発覚し、その被害額は5000億円以上にも膨らんでいる証券口座の乗っ取り事件。被害者への対応をめぐって、全面的な補償を求める金融庁と、限定的な補償にとどめたい証券業界で、激しい攻防が続いている。7月25日にはネット証券大手3社が「半額補償」の方針を発表したが、これで最終決着となるのか――。そこには参院選を踏まえた首相官邸の意向なども入り混じり……。同庁と業界との間で今、起こっていることとは。(桜井燈/ジャーナリスト) ***
証券口座が不正アクセスで乗っ取られ、保有株式が勝手に売買されている問題で、金融庁と証券業界が暗闘を繰り広げている。乗っ取り被害に対する顧客への補償を巡り、金融庁が証券業界に全額補償を求めているのに対し、業界側は限定的な補償にとどめたい意向だからだ。 顧客保護の姿勢が希薄な証券業界の対応に激怒した金融庁は、証券各社の安全対策に関する監督指針を改定し、違反した場合には業務改善命令を含めた厳しい罰則を課す方針を打ち出した。 金融庁の厳しい姿勢を受け、野村証券や大和証券など対面取引を中心とする証券大手は、顧客が不正アクセスで勝手に売られた株式を証券会社の負担で買い戻す「原状回復」を図り、実質的に全額補償する方針に転換した。 しかし、楽天証券やSBI証券などのインターネット証券各社は全額補償には応じず、最大でも半額補償で済ませる考えだ。7月25日にSBI証券と楽天証券、松井証券の大手3社は被害額を半額補償する方針を発表したが、金融庁はなお全額補償を求める構えであり、両者は現在も水面下で活発な駆け引きを続けている。
被害額は5000億円以上
「30年以上かけて積み上げてきた資産が一気に消失し、老後も含めた生活基盤を奪われた。証券会社には被害を回復してもらいたい」――。 7月4日、横浜市在住の大学講師がSBI証券を相手取り、有価証券の返還を求める訴訟を東京地裁に起こした。この男性講師は今年4月、SBI証券の口座で保有していた数千万円相当の不動産投資信託(REIT)がすべて売却され、その売却資金を使って知らない株式を大量に購入されていた。男性講師は同時に「被害者の会」を結成し、他の証券会社を含めて乗っ取り被害の全額補償を求め、集団訴訟も検討するという。 乗っ取り被害の概要はこうだ。顧客がフィッシングサイトなどを通じて証券口座のIDとパスワードを盗まれ、知らぬ間にログインされて保有していた株式を売られたり、口座に残った投資資金を使われたりして値動きが激しい中国株や東証上場の小型株を勝手に大量購入されていた。 業界関係者は「犯人グループは事前に特定銘柄を購入しておき、他人の口座を使ってその銘柄を大量購入して株価をつり上げ、株価が急騰した局面で自分たちの保有株を売り抜け、利益を荒稼ぎしているようだ」と語る。