BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL- 作:Soburero
SEKIRO的フレーバーを盛り込んだ結果、だいぶ血生臭くなりました。
まあ、フロム主人公なんて血の匂いが染みついてて当たり前みたいなところあるしノーカンノーカン。(暴論)
花鳥風月部による燈籠祭の襲撃から、大体1か月。
話とお詫びがしたいとニヤから伝えられた先生は、陰陽部の部室に来ていた。
カホとチセは他の仕事で忙しくしているとの事で、部室は先生とニヤの2人きりだった。
「いやはや、花鳥風月部の件、先生達が迅速に対応してくれたおかげで、損害も負傷者も少なく済みましたよ。本当に助かりました。」
”上手く行ったみたいで何よりだよ。本当は、事件が起きること自体を防ぎたかったんだけど……。”
「まあまあ、そう落ち込まないでください。今回は、手紙を真剣に対応しなかった、私にも非がありますから。」
「もっと早く先生達に伝えていれば、結果は変わったんですかねぇ……。」
いつものようなしたり顔ではなく、眉尻を下げながらそう呟くニヤ。
それを見た先生は、むしろ優しい笑顔を浮かべていた。
”そうかもしれない。でも、ニヤも陰陽部も、頑張って手を尽くしてくれたでしょ。それで充分。”
”こうして素早い復興が進んでいるのも、お祭りが再開できそうなのも、ニヤ達が今も頑張ってくれてるからでしょ。”
「……噂以上の、お優しい方ですねぇ。あんまりそういう事ばっかり言ってると、甘えちゃいますよ?」
「にゃはは~!なーんて、冗談――」
”よし、ニヤを撫でる。”
「へっ!?なっ、何をおっしゃるんです!?」
”まだニヤから報酬を貰ってなかったなって。だから、私はニヤを褒めるために撫でる!さあ、こっちに来なさい!”
「いや、いやいやいや!撫でるならもっと、チセちゃんとかの適任が……!」
「ちょっ、顔が怖――」
両腕を広げながらにじり寄る先生に対し、逃げの姿勢に入ったニヤだったが、抵抗空しく抱きしめられ、頭をワシワシと撫で繰りまわされた。
その後、髪は女の命なのだから乱暴に扱うなと説教を受けた先生だったが、その時の先生の表情は、何故か満足げだった。
そして、本題のニヤからの状況報告をまとめると、概ね好調との事。
まず、花鳥風月部による襲撃の被害は、負傷者は大勢いたものの、死者や行方不明者は居なかった。
百鬼夜行全域が戦場となったため、物的損害も多かったが、インフラの破壊は少なく、復旧は時間の問題だとニヤは語る。
百花繚乱の解散は陰陽部の権限で保留。ナグサ達も満場一致でこれに同意し、今は陰陽部主導で勧誘活動を行っている。
そして、キヴォトス事変以前から依頼していたクズノハの捜索だが、こちらは芳しくないとの事。
これに関して、先生は焦らなくていいと伝え、ニヤからの良い報告を待つことにした。
傷ついてなお活気づく、百鬼夜行の街並み。
自らの力で立ち上がらんとする逞しい姿に、先生は言いようのない希望を見出していた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
ニヤとの話し合いの後、百花繚乱の調停室に来ていた先生。
祭りの警備に行く前に、ナグサから話したい事があると伝えられていたのだ。
調停室の縁側で、桜の花びらを見つめていたナグサの隣に、先生はそっと座る。
「来てくれたんだ。」
”ナグサから話したい事がある、なんて言われたらね。頼ってくれて嬉しいよ。”
「……そう、だね。頼ると言えば、そうかも。」
「先生、修羅って、聞いたことがある?」
”確か、神様の1人だよね。でも、君の言う修羅とは、意味が違いそうだね。”
本来修羅とは、仏教の戦神、阿修羅の略称。*1
故に、ナグサがレイヴンを修羅と呼び、恐れた事は、先生の中で結びついていなかった。
「……神様なんてものじゃない。あれは……。」
「もっと、おぞましいもの。」
”百鬼夜行の修羅って、一体……。”
ナグサはため息を1つ付き、ゆっくりと話し始める。
それは、百鬼夜行の血塗られた歴史。多くの者にとって、既に歴史の中の話。
「……百鬼夜行は、かつてこの地は、戦乱の地だった。沢山の学園が、血で血を洗う戦いを繰り広げていたの。」
「あの大きな桜の下。そこにも、沢山の血がしみ込んでる。恨みや呪い、憎しみ。沢山の怨嗟と共に。」
ナグサが指を指したのは、街の空を覆う程の、巨大な桜の木。
曰く、あれは神木であり、枯れる事が無いのだとか。
”そういえば、ここは連合学園だったね。連合になる前に、そんな事があったなんて……。”
「今じゃ、考えられないでしょ。こんなのどかな学園が、血生臭い場所だったなんて。私だって、そうだった。」
「……あの話を聞くまでは。」
”あの話……?”
「……戦が長引けば、それだけ沢山の人が傷つき、血を流し、死んでいく。そうして、その場所に、そこに居た者には、怨嗟が降り積もるの。」
「そして、降り積もった怨嗟は、人を鬼へと変えてしまう。」
「人が鬼へと変わる時、その場には必ず慟哭が響く。それが、鬼の鳴き声に例えられた。」
「鬼になってしまった者は、もう人ではないの。」
”人で、なくなる……。”
「長く続いた戦の中で、鬼が何匹も生まれ、そして狩られていった。もはや心すら無くした者、せめて最後の慈悲を、と……。」
「けれど、ある存在が生まれた事で、戦が終わったの。学園や老若男女を問わず、何人もの民草の犠牲を出したことで、ようやく。」
”まさか、それが……。”
「修羅。人でありながら、鬼へと落ちた者。人や妖の血肉を喰らい、全てを殺し尽くす者。」
「それは、敵味方の区別すら付けず、大勢を殺していった。人も、鬼も、妖や妖使いすらも、その場にいる者は、全て……。」
「その修羅は、落ちる前から強かった。けれど、戦の中で多くを殺し、奪った事で、さらに力を付けた。修羅となった時には既に、誰も手が付けられなかった。」
「学園の枠を超えて共闘し、それでも多くの犠牲を払い、その修羅はようやく死んだ。その時に、人々は悟ったの。」
「戦は、人の有り様すら歪める、と。」
「修羅が生まれた事が、学園同士の戦を治め、百鬼夜行へと変わるきっかけとなった。」
「預言者のクズノハがまとめ上げた事も大きいけれど、戦が終わったのは、戦で人が死に過ぎたから。」
この時の先生は、トリニティの事を思い出していた。
トリニティもまた、今の体制となる前に、小競り合いが繰り返されてきた学園。
アリウスという大きな火種が消えた今もなお、火種はトリニティの中で燻っている。
”何だか、皮肉な話だよね……。修羅っていう共通の脅威が、ここをまとめ上げたなんて……。”
”でも、レイヴンを修羅と呼んだのはどうして?私には、あの子が修羅だとは思えないよ。”
「……百花繚乱には、ある言い伝えがあるの。」
「“赤目と見つめ合うべからず。それは死の眼差しなり。”」
「鬼や修羅は、その目の奥に、赤い炎を宿す。それが、怨嗟の炎。」
「……レイヴンと初めて会った時、私は確かに、炎を見たの。赤黒い瞳の奥に、ごうごうと燃える、怨嗟の炎を。」
「何人殺せば、それだけの炎が宿るのかなんて、知りたくもない……。」
”……確かに、レイヴンはこれまで、いろんな人を傷つけてきた。けれど、私利私欲のために、相手を引きずり下ろすような事は、絶対にしない子だよ。”
”花鳥風月部の事だってそう。あの子は、自分の休暇を切り上げてまで、ユカリを手伝いたいという私のわがままに付き合ってくれたんだ。”
”あの子は、修羅なんかじゃない。あの子はずっと、人間だよ。”
先生のその言葉を聞いてなお、ナグサは苦々しい表情を崩さない。
かつて、百花繚乱は鬼を狩っていた。狩られた鬼のほとんどが、心優しき者だったと記録されている。
優しさが故に、狂う事も出来ず、身の内に炎を押し留め、そして焼かれて鬼となる。
ナグサはそれを知っているからこそ、レイヴンを恐れている。
「……レイヴンが仕留めた、あの大きな黒猫。あれは、受肉した怪談。本来あれを仕留められるのは、百蓮を握るものだけ。」
「レイヴンは、さも当然かのように、クロカゲを、怪談を殺した。私は彼女を、修羅以外に何と呼べばいいの……?」
先生が反論するべきか、ナグサを落ち着かせるべきか悩んだ瞬間、コンコンとノックが3つ。
軽やかな足音が先生とナグサに近づいてくる。
2人がそれにつられて振り返れば、満面の笑みを浮かべたユカリがそこに居た。
「先生!ナグサ先輩!失礼しますわ!っと、失礼しました。お話し中でしたか?」
「……ううん。丁度終わった所。時間には早かったと思うけど。」
「先輩方をお待たせするわけにはいきませんもの。時間前行動は、れでぃのたしなみですわ!」
”さすがだね、ユカリ。そういえば、あの後、調子はどう?”
事件の後、すぐに病院に運び込まれたユカリだが、シュロに操られて以降の記憶が無いのだという。
シュロを捕らえた時に、レイヴンを修羅と呼んだ事も、覚えていないそうだ。
それが幸か不幸かは分からないが、少なくとも、退院してすぐにナグサに継承戦を挑み、瞬殺されるくらいには元気があった。
「はい!おかげさまで、絶好調ですの!こうして、先輩方と百花繚乱として、再出発することが出来たのですから!」
「それに!勘解由小路家の務めはこれっきりとも伝えましたからね!ようやく、勘解由小路ユカリ個人として、歩むことが出来るのですから!」
「勘解由小路ユカリ伝説は、ここから始まるんですの!」
「元気いっぱいで何より。さあ、準備をしよう。」
ナグサと先生は、何事も無かったかのように、祭りの警備の準備を始めた。
次にキキョウ、最後にレンゲが調停室へと集まり、巡回ルートを確認次第、全員集まって街中を歩く。
お客さんで賑わう街の見回りをしながら、屋台で買い食いをしたり、羽目を外している人を咎めたり。
祭りの本来あるべき姿が、先生の目の前にあった。
願わくば、シュロも改心してほしい。
そんな先生のささやかな願いは、当の本人に届くことは無い。
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「ニヤ様、よろしいのでしょうか。あの人に、シュロの尋問を任せるなんて……。」
「百花繚乱の委員長の失踪に、燈籠祭の襲撃。何より、あの反省の無い態度。ああいう手合いには、ちょっとお灸を据えないとね。」
「ただまあ、私たち以上に、あの人がお冠ってのもあるけどねぇ。」
「……監視官が、何人も不調を訴えています。これ以上子供の泣き声を聞きたくない、と。」
「本当に、あの方に任せ続けても良いのでしょうか……。」
「……分かるでしょ、カホ。修羅の機嫌を損ねちゃいけないのよ。」
「いやはや、烏天狗の類かと思えば、まさか修羅だったとは。あの子も災難だね。襲った先に修羅がいたなんて。」
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「……お願いします……。ゆ、許してください……。」
「許す?まだ勘違いしているようだな。この場でお前が出来るのは2つだけ。」
「真実を話す事か、泣きわめくことだけだ。さっさと知っている事を全て話せ。」
「だ、だから……!もう全部話しました!だからもう許してください!」
「……それなら、コクリコの居場所は?」
「………………。」
「……そうか。」
「……待って……!待って待って待ってぇ!!お願いします!!許してください!!許してぇ!!!」
「ゆっくり苦しめ。」
これで百花繚乱編、完結でございます。
シュロの末路は、うん……。見なかった事にしましょう。
次は多分アビドス3章を書くと思いますが、もしデカグラマトン編から書き始めたら、ナニカサレタと思ってください。
一先ずタイムラインに沿って書いていこうと考えてるので、気長にお待ちくださいませ……。