BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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いよいよ、自称怪談家のクソガキ、シュロとご対面でございます。
今のレイヴンはレスバも強いので、シュロが少しでも勝てたらいいですね。
まあ、無理でしょうけど。

Steamのオータムセール、11/28からだそうですよ。
皆、クレカの準備は良いか!?


44.燃ゆる都

 燃え上がる町の中で、あちこちから響き渡る悲鳴。レンゲと共にわらわらと現れる化け物共を撃ち抜いていく。

 逃げ惑う民間人を避けながら、独りでに動く傘や提灯を5.56mm弾とバックショットで引き裂く。

 しかし、撃てども撃てども数が減らない。レーダーを見れば、倒した分だけ新しい敵が湧いてきている。

 個の性能は低く、統率も無いとはいえ、純粋に数で襲い掛かられれば、陥落は時間の問題だ。

 

 「たっ、頼む!!助けてくれぇ!!」

 

 「邪魔だ!!伏せろ!!」

 

 駆け寄って来てた民間人を伏せさせて、その後ろにいた、口を開けた提灯の目玉を狙い撃ち。

 塵となり消えていくそれを見た民間人は、さらにこちらに駆け寄ろうとする。

 

 「あぁあ、助かった!アンタは命の――」

 

 「いいから行け!!立ち止まるな!!」

 

 前はもちろん、右と左も敵まみれ。このまま立ち止まっていてはいずれやられる。

 背中をレンゲに任せてはいるが、彼女にだって限界がある。

 百鬼夜行全域がこの状況であれば、先生も戦火の中央にいるだろう。

 花鳥風月部め、この状況を作る事が狙いだったか。

 

 「どうするんだ!?キリがないぞ!?」

 

 「シャーレ、こちらレイヴン!応答しろ!」

 

 『”レイヴン、大丈夫!?こっちは、怪物がわらわら来てて……!”』

 『”今はナグサとキキョウがさばいてるけど、いくら倒してもキリが無い!”』

 

 無線越しからも聞こえてくる、沢山の銃声と悲鳴。

 俺達が居る場所より聞こえてくる悲鳴が多いという事は、祭りの人込みの中に飛び込んだのだろう。

 ここ以上の乱戦になっているはず。先生の背中から致命的な一撃を与える事は、そう難しくないはずだ。

 目についた化け物に照準を合わせて、引き金を引き続ける。

 

 「こっちも同じ状況だ!これからレンゲをそっちに送る!陰陽部に対応を急がせろ!!」

 

 『”エア!安全な場所、どこかに無い!?”』

 

 『ダメです……!百鬼夜行全域が戦場になっています!民間人は陰陽部に避難させてください!』

 

 『”陰陽部だね、分かった!ニヤに伝えるよ!”』

 

 陰陽部の建物は頑丈な作りになっている。籠城戦も想定されているはずだ。

 民間人の避難を先生と陰陽部に任せ、当の民間人も、陰陽部までは自力で避難させるしかない。

 だが、レンゲはその判断を気に入らなかったようだ。

 民間人に近づこうとしている化け物を撃ち抜きながら、怒りの籠った声で俺に問いかける。

 

 「アタシが行くって……!?逃げ遅れた奴らはどうするんだよ!?」

 

 「自主避難させるしかない!自分の面倒ぐらい見れるはずだ!」

 

 「お前はどうするんだ!?このまま戦う気か!?」

 

 「……俺は仕事道具を取ってくる。いいから行け!シャーレと合流しろ!」

 

 「どこだよ!?」

 

 「調停室から離れてないはずだ!早く行け!!」

 

 「……分かった。無理すんなよ!!」

 

 レンゲは俺から離れ、道を塞ぐ化け物を蹴り飛ばしながら、百花繚乱の調停室の方へ駆け出した。

 一帯にはまだ民間人が残っているが、奴らを助ける余裕はない。

 

 「……エア、ナイトフォールを持ってこい。休暇は終わりだ。」

 

 『……ストーカー、離陸開始。そちらに向かいます。』

 

 ここからは、ナイトフォールが到着するまでの持久戦。

 傘を開き、先端をこちらに向けていた奴を撃ち抜いた瞬間、前方に急加速。

 口を開けた提灯が噛みつこうとするが、直前で大きく飛び上がって回避。身をひるがえしながら真下に向けて撃ち下ろす。

 着地先にいたダルマを踏みつけ、再度跳躍。包囲網から逃れるように、弾幕を張りながら飛び回る。

 スキャンで敵影を捉え、左手でスモークグレネードを集団に投げつけ、着地と同時に煙幕を展開。

 煙の裏から攻撃しようとするが、頭に正確に銃弾が飛んできたことで中断。牽制しながら煙の中へ飛び込み、機動戦に切り替える。

 

 『ナイトフォール、オートパイロット起動。ナイトフォールを投下次第、上昇して離脱します。』

 

 手始めに手近なダルマを蹴り飛ばし、勢いを利用してスライディング。目に移った化け物全てに向けて銃弾を叩きつける。

 相手の下をすり抜けながら集団の中央へ飛び込み、片腕だけで体を跳ね上げドロップキック。

 反動を利用して宙返りし、後ろにいた化け物を足場にしてさらに飛ぶ。

 弾幕を張りながら着地し、アサルトアーマーを最大出力で起爆。

 周辺の化け物はあっけなく消し飛んだが、減った数を補うように、さらに敵が現れる。

 

 『投下まで5秒、3、2、1。投下!』

 

 エアのカウントダウンと同時に、空から降り注いだ無数の銃弾が、化け物の群れを薙ぎ払う。

 ストーカーに搭載された、自衛用のタレットの弾幕だ。

 大量のフレアとチャフと共に投下される、赤いブースト炎。

 なおもこちらに近づこうとする化け物を片っ端から撃ち抜きながら、ずっと愛用している仕事道具の着地を待つ。

 激しい熱風と轟音がすぐ後ろから吹き付けられ、数百キロの鉄塊が地面を揺らす。

 即座にパルスアーマーを展開しながら銃を捨て、開かれたナイトフォールに飛び乗る。

 銃弾がパルスアーマーを叩く中、急いで全身を鎧に収め、チェックを全て飛ばしてメインシステムを起動する。

 ナイトフォールが戦闘モードで起動した瞬間、もう一度アサルトアーマーを起爆。

 生身のそれよりもさらに強力なパルス爆発が、パルスアーマーに触れる直前まで近づいていた化け物共を全て焼き払う。

 

 「シャーレ、こちらレイヴン。ナイトフォールを回収した。今からそちらに向かう。」

 「久しぶりの本業だ。行くぞ、エア!」

 

 『了解、サポートします!』

 

 1か月ぶりにヘルメットのバイザーを下ろし、屈みながら背中のヒートシンクを展開する。

 キヒュルルという独特の吸気音の後、街の炎によって焼けていく夜空に飛び上がる。

 無制限の兵力、取れていない統率、倒すことで塵となる。やはり、エデン条約の時と同じか。

 あの化け物は、ミメシスだ。

 エアに詳細な解析を頼みながら、先生の元へ急行する。焼け落ちていく街を、見下ろしながら。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 『”こっちです!陰陽部の方に逃げてください!”』

 

 『こいつら、一体どこから……!』

 

 『……とにかく、この一帯だけでも、安全を確保しないと。』

 

 『――ッ!?オイ、あそこ!何か飛んでるぞ!!』

 

 先生達の上空近くまで接近。レーダーで状況を確認すると、敵勢力によりほぼ包囲されている。

 この状況で避難誘導を行うのは、無謀と叱るべきか、良い度胸だと褒めるべきか。

 敵が密集している地点をロックオン。ミサイルを発射して爆撃。16発のミサイルが着弾した後、空いたスペースに向けて急降下する。

 衝突ギリギリで逆噴射し、地面をガリガリと削りながら着地。ブースターから熱を捨てながら、姿勢を立て直す。

 

 「待たせたな。」

 

 ”レイヴン!それに乗って大丈夫なの!?”

 

 「問題ない。前より調子がいい位だ……!」

 

 ”……分かった。絶対に無理はしないで。”

 

 「お前が言えたことか?」

 

 再び現れた化け物をガトリングで引き裂き、放たれた銃弾はパルスシールドで弾く。

 突然現れた俺を見て、あっけに取られていた百花繚乱の3人だったが、俺が戦い始めた事で調子を取り戻した。

 先生を取り囲むように陣取り、何処からともなく出現する化け物を撃ち抜いていく。

 

 ”まずは一帯の安全を確保しよう!逃げ遅れた人が沢山いる!”

 

 『……いえ、それは悪手です。』

 『敵勢力は、多少の差異はありますが、本質的にはミメシスと同じです。あれらは末端に過ぎません。戦っても、こちらが消耗するだけです。』

 

 「つまり、こいつらを操ってる司令官がいる。手早く司令官を潰せれば、民間人の安全も確保できる。」

 「民間人は自主避難させろ。司令官を探して、この襲撃を終わらせるぞ。」

 

 「それは確かなの?本当に民間人を放っておいて良いの?」

 

 ”私達は一度、ミメシスと戦った事がある。その時も、司令官を倒したら全員消えた。間違いないよ!”

 

 「キキョウ、今はシャーレの先生を信じよう。」

 

 「……分かった。」

 

 俺達の判断に異を唱えるキキョウだが、先生の証言とナグサの説得で、渋々ながら頷いた。

 レンゲも眉根をしかめていたが、先生とナグサを信じる事にしたようだ。

 

 ”前進しながら脅威を排除!民間人を誘導しつつ、相手の司令官を探す!皆、手伝って!”

 

 「任せて。」

 

 「もちろんだ!このまま指を咥えて見てられるか!!!」

 

 「分かった、あんたに任せる。」

 

 「先導して道を開く。付いてこい!」

 

 一先ず、先生の指示に従い、ブーストで前進。民間人の誘導を、先生と百花繚乱に任せる。

 まず、正面にいる化け物共に7.62mm弾を浴びせていく。民間人も残っているため、誤射に注意する。

 こちらを見つけた民間人が何人か駆け寄ってくるが、邪魔になるので上昇。

 上空からミサイルとガトリングガンで化け物の数を減らす。

 ミサイルは離れた場所にいる奴らに1発ずつ。爆風に民間人を巻き込まない様に、目標設定は慎重に。

 民間人や先生達との距離が近い奴は、ガトリングガンで排除。民間人の傍をかすめるような射撃が要求されるのもあって、かなりやりづらい。

 だが、ナグサ達からの援護もあってか、先生の周辺では確実に敵と民間人の数が減っている。

 地に足を付けない様に立ち回り、上空から火力を浴びせて道を切り開く。

 

 「あの傭兵、なんて実力だよ……!」

 

 「確かに、アーマーの性能だけじゃ、ああは動けない。あの報告、本当だったの……?」

 

 化け物の排除と民間人の誘導を続けながら前進。しばらく進めば、通りから広間に出た。

 建物の壁沿いには、屋台や出店の残骸が転がっており、そのほぼ全てが焼けている。

 だが、ここ周辺には敵や民間人は居ない。1度体勢を整えるために、全員が立ち止まった。

 

 ”エア、周りはどう?誰かいる?”

 

 『……民間人の反応なし。この一帯は避難出来たようです。』

 

 「ここからが本番だ!とっとと頭を探して叩き――」

 

 「おやおや、役者がそろい踏みですねぇ。」

 

 唐突に響く子供の声。シールドを展開しながら声の方向へ振り返れば、そこに居たのは、やはり子供。

 やけに小さな体躯にぼさぼさの髪、また体の横が大きく開いた服を着た、血色の悪い子供だ。

 先生達の壁となる様に、盾を構えながら子供の前に出る。

 

 ”……君は?”

 

 「――ッ!」

 

 「民間人、陰陽部まで退避しろ。射線の邪魔だ。」

 

 「あらあら、つれませんねぇ。折角の顔合わせだというのに。」

 

 「いいから退避しろ。さもなくばお前ごと撃つぞ。」

 

 「アッハハ!聞きしに勝る闘争心だこと!感心感心!」

 「さてさて、まずは自己紹介から、ですよね。」

 「手前、花鳥風月部の怪談家、箭吹シュロと申――」

 

 「……なるほどな、お前が頭か。」

 

 花鳥風月部の名前を聞いた瞬間、ガトリングの銃口を向けて引き金を引いた。

 だが、シュロと名乗った子供はそれを気にすることなく話を続ける。

 シュロの後ろをよく見れば、先程放ったガトリングの銃弾の跡が残っていた。

 

 「……人の話を邪魔するなんて、礼儀のなってない人ですねぇ。母様(かかさま)から教わらなかったんですかぁ?」

 「まあ、手前さん方が何をしたところで、手前の怪談の前には無力――」

 

 盾を構えながら、今度はMORLEYの榴弾をシュロの足元に叩き込む。

 着弾と同時に、爆炎と轟音がシュロを包むが、着弾から数秒ほどでまた声が響き始めた。

 シュロの話は無視して、屋台に残っていたガスボンベを掴む。

 

 「……そんなに人とのおしゃべりが嫌いなんですかぁ?これまた、聞きしに勝る狭量な――」

 

 ガスボンベをシュロに放り投げて、ガトリングで貫き着火。

 直接当てるように放り投げ、なおかつほぼゼロ距離で起爆したにも関わらず、煙の中から三度声が響く。

 どうやら、何らかの手段で攻撃を無効化しているようだ。俺達の前に堂々と出てきたのも頷ける。

 攻撃を中断して、再び先生達の壁となる様に、シュロの前に立ちふさがる。

 

 「……どうやら、言葉も分からない(けだもの)だったようで、お話ししたところで何の意味もないみたいですねぇ。」

 「語り部の邪魔をしちゃいけないなんて、百鬼夜行はおろか、このキヴォトスでも常識でしょうに。」

 

 「ほう、今百鬼夜行を焼き落とそうとしているお前に、常識を問われるとは。俺も落ちたものだな。」

 「それとも、お前の常識が間違っているだけか?」

 

 「ほうほう、手前の常識が間違っていると?それなら、ここに居るナグサちゃんに聞いてみましょうか。どっちが正しいのってね。」

 「尤も、親友を置いて逃げ出したナグサちゃんに問える常識なんてないでしょうがね!アッハハハ!」

 

 「……私は――」

 

 「なるほどな。アヤメの失踪もお前の仕業か。」

 

 何か言いたげなナグサを遮り、シュロの発言から導き出した推測をぶつける。

 飄々とした笑顔を崩さないシュロだが、ここで認めれば余罪が増えるという事を理解していないようだ。

 

 「おやぁ?獣にしてはお利口さんなんですねぇ。そうですよぉ。アヤメを黄昏に飲み込んだのは、この手前です。」

 「それで?それを知ってどうするんです?陰陽部にでも突き出しますかぁ?手前を倒せもしないのに?」

 

 「違う、突き出しはしない。」

 「この場で殺す。」

 

 シュロに向かって急加速、コーラルの刃を左上に振り上げる。

 何の抵抗も無く切り裂かれたシュロだったが、倒れる前に体が霧散し始めた。

 大方、遠隔操作用のミメシスだったのだろう。後ろで俺の行動を見ていた4人は、随分とほっとしている様子だ。

 だが、切り捨てたはずのシュロの声が、何処からともなく響き始める。

 

 「はあぁ~、風情が分からない人がいると大変ですねぇ。まあ、いいでしょう。」

 「どうせ、この手前には勝てないんですからね。」

 

 「それはどうかな。」

 

 そう突き返した瞬間、今度は上空を飛んでいた飛行船から声が響く。

 ホログラムで投影された映像には、シュロの姿がハッキリ移っていた。

 

 『アハハッ!お祭り、楽しんでますかぁ?楽しんでくださってますよねぇ?』

 『なんせ、手前どもが全力を尽くして、手前さん方を楽しませるために用意したのですからぁ。』

 

 「あれは、放送用の飛行船……!」

 

 「アイツ、どうやってあんなことを!?」

 

 「素人が。自分から居場所を教えるとは。エア、特定しろ。」

 

 『……完了。巫女の舞のステージ、その放送機器を乗っ取っているようです。恐らく、本体もそこに。』

 

 「聞いていたな!巫女の舞のステージまで押し進む!シュロを捕えて、化け物共を片づけるぞ!」

 

 言い終わると同時にMORLEYに焼夷弾を装填し、飛行船に向けて発射する。

 飛行船の風船の部分に突き刺さった砲弾は、袋の中に焼夷剤をまき散らし、充填されていたガスに火を付ける。

 急激に膨張したガスによって飛行船は破裂。燃え盛りながら地面へと墜落していった。

 

 「……飛行船を落とす必要はあったのか……?」

 

 「あの耳障りな声を聞かずに済む。」

 

 「主殿~!!」

 

 「レンゲちゃん!先生!」

 

 俺達の後ろから近付いてきた修行部の3人と、屋根を伝って飛んできた3人組。

 どちらも先生の知り合いのようだが、念のため先生との間を塞ぐように立つ。

 

 「修行部と、もう片方は?」

 

 「我々は、忍術研究部!この百鬼夜行の特殊――」

 

 「忍術研究部だな。修行部、忍研。お前達は民間人の捜索と避難誘導を頼む。俺達は本丸を落とす。」

 

 「うぇえ!?せめて名乗らせてよぉ!」

 

 ショットガンにさらにショットガンを取り付けた生徒がそう叫ぶが、気にしている暇はない。

 修行部の3人が俺達を不安そうに見つめ、同時にミモリが先生に近づいた。

 

 「先生、その人数では危険です!せめて私達が――!」

 

 ”大丈夫。百花繚乱も、レイヴンも、皆強いから。でも、戦いながら逃げ遅れた人を探すことは出来ない。”

 ”皆、手を貸して欲しい。私達がシュロと戦ってる間、逃げ遅れた人を探して欲しい。”

 

 「……分かった。任せて、先生。」

 

 「先生殿からの頼みだもんね。任せて!」

 

 先生からの頼みが故か、全員僅かに逡巡したのみで、修行部と忍研はそれぞれの方向に散っていった。

 それを見送った先生が、ナイトフォールの背中を強く叩き、移動するぞと伝えてくる。

 

 「本丸まで押し進む!付いてこい!」

 

 「………………。」

 

 ”ナグサ、どうしたの?大丈夫?”

 

 「……平気。先に進もう。」

 

 この広場から巫女のステージまではそう遠くなく、道中の民間人の避難もほぼ完了している。

 ようやく、誤射を気にすることなく戦えるという事だ。

 はぐれる事を防止するため、先頭の俺はブーストを使わず走って移動する。

 移動直前にナグサから向けられた、妙に恨めしそうな、あるいは怯えているかのような瞳が、嫌に目に付いた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ステージへの移動を始めて数分。無数の敵勢力に阻まれてはいたが、確実に近づきつつある。

 証拠に、ステージに1歩進むたび、相手の戦力密度が上がっているのだ。

 つまり、シュロにとってはこの先に近づかれたくないという事。

 先生もそれを分かっているのか、歩みを止めようとはしない。

 

 ”皆、その調子!このまま進もう!”

 

 「クッソォ!!ホンットにキリが無いな!!」

 

 「無限の軍勢なんでしょ?なら最低限倒して前に進む。レンゲ、無駄撃ちしない。」

 

 「放っておいたらすぐに囲まれるぞ!相手は無限なんだぞ!?」

 

 ああだこうだと言いながら、その銃は確実に化け物を貫いているレンゲ。

 相手に統率が無いとはいえ、側面への警戒を怠らないキキョウ。

 ナグサだけ少し様子がおかしいが、今気にする事でもないし、その余裕もない。

 

 『――ッ!正面、敵性反応!大型です!』

 

 「止まれ!何か来る!」

 

 ステージに通じる大通りへ飛び出し、僅か数秒。

 エアに従い全員が立ち止まると、数メートル先の地面に黒い靄がたちこめる。

 靄の中から4本の燈籠がせり上がり、その間から、何かが地面に這い出ようとしていた。

 

 「……あれは、まさか……。」

 「――皆、逃げるよ。」

 

 「へ!?ナグサ先輩、逃げるって――」

 

 「どこに逃げる。安全な場所など無いぞ。生き延びたければ戦え!」

 

 「違う!あれは倒せない!百蓮じゃなきゃ、アヤメじゃなきゃ……!」

 

 行方不明の部長の名を呼ぶナグサだが、この場にいない人間に頼ってもしょうがない。

 殴ってでも正気に戻そうかと考えた時、それは既に地面から顔を出していた。

 黒い体毛に覆われた、4つ目の猫。しかも、規格外のサイズだ。

 

 ”あれは、猫!?”

 

 「何なの、アレは……!」

 

 「あんなデカイ猫がいてたまるかよ!?」

 

 「よく見ろ。奴は鎖に繋がれてる。デカいだけの的だ。」

 「俺が前に出る、援護しろ!」

 

 黒猫が口を大きく開き、天に向かって吠える。

 4つに分かれた下あごとその鳴き声は、アレがこの世のものではないと直感させるが、俺には関係ない。

 あの世から来たのなら、送り返すだけだ。

 

 吠え終わった瞬間に、ガトリングガンで牽制しながら急加速。黒猫の懐へ一気に飛び込む。

 俺を叩き潰さんと高く上げられた前足を左にかわし、ミサイルを発射。しかし、ミサイルは黒猫をすり抜けて、奥の建物へと着弾する。

 黒猫を軸に時計回りに旋回しながら、ガトリングガンを叩き込むが、ミサイルと同じように手ごたえがない。

 恐らくは、さっきのシュロと同じ状態か。

 こちらに飛んでくる火の玉を急制動で回避し、横っ腹に向けて突撃。両足で思い切り蹴り飛ばす。

 燈籠と足の付け根を繋ぐ鎖によって、衝撃を逃がす事すら敵わず、黒猫は地面へ倒れこむ。

 

 「銃は効かないが、格闘戦は有効か。ならやりようはある……!」

 

 集まってきた化け物の露払いを百花繚乱に任せ、さらに攻撃を続ける。

 すぐに立ち上がった黒猫の左後ろ足まで回り込み、ブレードで切り付ける。

 痛みに呻いた黒猫の反撃の後ろ蹴りを、クイックブーストで後退して回避し、アサルトブーストで腹下へ潜り込む。

 延伸したブレードを腹に突き立て、屈みながら頭へ前進。黒猫の腹を、コーラルの刃で切り開く。

 天に向かって吠えた後、地面へと倒れこんだ黒猫だが、まだ死んではいない。

 飛び上がりながらブレードの出力を上げ、急降下して刃を黒猫の首へと突き立てる。

 うめき声をあげる黒猫の頭を掴み、発振器を首深くまでさらにねじ込み、首全体を切り落とせるように刃を動かす。

 発振器を引き抜くと同時に、1回転しながら大きく後退。皮一枚を残して黒猫の首を切り落とす。

 首を搔っ切られたはずの黒猫だが、最後に小さく鳴き声をあげて、力なく横たわり、燈籠と共に塵へと変わり始めた。

 展開していた発振器を元に戻し、ブースターの熱を捨てる。

 

 『目標、反応消失。撃破を確認。』

 

 「マジかよ……。アイツ、仕留めやがった……!」

 

 「“黒い凶鳥”、伊達じゃないって事か……。」

 

 黒猫を倒したことで、他の化け物の出現も大人しくなったのか、周辺には俺たち以外の反応は無い。

 レンゲとキキョウは、俺を感嘆と畏怖が混じった目線で見つめるが、やはりナグサの様子がおかしい。

 ナグサだけが、俺を人ではない何かとしてみている気がする。

 その様子を見ていた先生が、ナグサのケアをしようとするが、効果はいま一つか。

 

 「……どうして……。どうして、倒せるの……。」

 

 ”ナグサ、大丈夫?顔が真っ青だけど……。”

 

 「――ッ!大丈夫……。ちょっと、めまいがしただけ、だから……。」

 

 「怖いか?なら逃げろ。お前がどうなるか、レンゲとキキョウがどうなるかは保証しないが。」

 

 「…………いや、戦う。付いていく。だから大丈夫。」

 

 ”……分かった。絶対に無理はしないでね。”

 

 巫女の舞のステージを目指し、俺を先頭に、黒猫を倒した通りを走り抜ける。

 俺から出来るだけ距離を取ろうとしているナグサの様子が、やけに気にかかった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 化け物共を薙ぎ払いながら、ようやくたどり着いた、巫女の舞のステージ。

 ステージの上に居たのは、今回の首謀者であろうシュロと、目を閉じたまま巫女服で舞い続けるユカリ。

 その舞は本人の意志ではなく、何かから糸を引かれているかのような動きだった。

 

 「シュゥロォーー!!!」

 

 「――ッ!ユカリッ!」

 

 ”ここまでだよ、シュロ!”

 

 「……はぁ~あぁ~……。せっかく沢山仕込みをしたのに、誰かさんのせいで、筋書きが滅茶苦茶になったじゃないですかぁ!!!」

 「なぁ~んで手前(てめぇ)がクロカゲを倒しちゃうんですかねぇ!!!獣さぁ~ん!?!?」

 

 最初に出会った時の飄々とした笑顔は鳴りを潜め、攻撃性を剥き出しにした怒り顔で振り向いたシュロ。

 だが、発言の内容は、自分の想定通りに行かなかった子供の癇癪だ。

 聞く耳を持つ必要すらない。

 

 「俺を殺したいなら、戦艦でも引っ張ってくる事だ。」

 「まあ、戦艦だろうと落とせる自信はあるがな。」

 

 「……イヒッ。イヒヒッ。」

 「アッハハハハハ!!!」

 「いいですよォ!!よぉ~く分かりました!!!まずは、手前(てめぇ)から消してあげますよォ!!!」

 「手前の百物語(かいだん)に、風情が分からない獣なんか、要らないんですよオォォォ~~~!!!」

 

 シュロの拍手とユカリが持っている鈴の音が重なり、再び目の前の地面に靄が広がる。

 さっきの黒猫でも呼び出そうとしているのかと思えば、4本の燈籠と共に現れたのは、木製の顔の無い人形。

 ナグサの反応を見るに、これはただの人形ではなさそうだが、これまた鎖で燈籠に繋がれている。

 

 「これは、形代……!?」

 

 「アハハッ!!ナグサちゃんは知ってますよねぇ!!これが、何を元に生まれるのか!」

 「ええ、ええ!!手前さん方が可愛がっていた後輩の、何もかも壊れてしまえばいいという、醜い感情です!!」

 「どうですかぁ!?この子だって本当は、こんなものを生み出してしまうくらい、全てを憎んでいたんですよォ!!!」

 「だから、この形代は、その願いのままに全てを壊す……!百鬼夜行も、百花繚乱も、勘解由小路家も、全てねぇ!!!」

 「ほらほら、分かるでしょぉ!この形代から伝わってくる、荒々しく燃え盛る願望がぁ!!!」

 

 「この野郎!!どこまでアタシらをコケにすれば気が済むんだッ!!!」

 

 「イヒヒッ!聞いてなかったんですかぁ!?全部ですよォ!」

 

 言われてみれば、確かに感じる。時にACのコックピット越しに感じていた、明確な敵意を。

 だが、弱すぎる。俺が知る敵意とは、まるで違う。

 キヴォトス育ちのマグノリアの敵意にすら、遠く及ばない。

 

 「……この程度か。」

 

 「…………は?」

 

 「全て壊れてしまえばいい、という感情にしては、いささか温いな。」

 「本物はな、鉄の棺桶からでも、例え死んだとしても、匂い立つんだよ。」

 「本当に全てを焼き尽くすとはどういう事か、教えてやる。」

 

 ”――ッ!!皆、レイヴンから離れて!!!”

 

 先生が百花繚乱を全力で下がらせると同時に、シールドの発振器を全て展開。

 リミッターを解除して、コーラルを限界以上に圧縮し、光の杭として解き放つ。

 解放と同時に怒声を上げたコーラルは、顔の無い形代の頭を、その奥にあるステージの屋根をえぐり取りながら、消し飛ばした。

 強烈な反動で押し返される体を、全身のアクチュエーターとブースターで受け止める。

 頭を無くした形代は、クロカゲと同じように塵となって消えた。同時に、ユカリは糸が切れたかのように、地面へと倒れ伏す。

 

 「………………はぁ???」

 「……なんでっ……!」

 「何で、なぁんで手前(てめぇ)が形代をッ!!なぁんで邪魔ばっかりするするんですかぁ!?!?そんなに手前の百物語(かいだん)がつまらないとぉ!?!?」

 

 「ああ、つまらん。お前の人形遊びに付き合う気も、初めから無いんでな。」

 

 「人形遊び……!人形遊びですかぁ……!言い得て妙ですねぇ……!」

 「今そんな話をしてるんじゃないんですよォ!!!手前(てめぇ)のせいでッ!!!手前どもの百物語(かいだん)がァ!!!メッチャクチャになったじゃないですかァ!!!!」

 

 「それは何よりだ。そしてこれからお前も死ぬ。」

 

 「何を言って――」

 

 シュロがわめきだす前に急接近して、シュロの頭を左手で鷲掴みにし、潰れないギリギリの力で頭を握りしめる。

 痛みで声を上げる事すら出来なくなったシュロを持ち上げ、抵抗を完全に封じる。

 指を掴み、拘束から逃れようと暴れるシュロだが、機械の力の前に、人間の筋力は無意味だ。

 

 「やはりな。全てがすり抜けるのではなく、攻撃だけを無効化していたか。故に、ただ触れるだけなら、こうして掴むだけなら問題ない。」

 「分かるかシュロ。お前の命は、文字通り俺の手の中にある。俺がもう少し力を籠めれば、お前の頭はスイカのように潰れる。」

 「物語の書き手を気取っていたようだが、こうして人形に反撃されていては、世話が無いな。」

 

 あっけに取られていた先生達に、ユカリを助けろと合図を送ると、キキョウとレンゲが動き出した。

 2人はステージに上がり、ユカリの容態を確かめる。

 何故かナグサが動こうとせず、真っ青な顔で俺を見つめているのだが、今は些細な事だ。

 

 「いい機会だ。俺がお前をどう見ているか教えてやる。」

 「初めて銃を握ってはしゃいでいるガキだ。」

 「人を殺す力を手にし、無敵になったと思い込む。自分の隣のものが銃弾に貫かれてもなお、その全能感は消えない。」

 「そして、自分の腹を銃弾が貫き、死ぬ寸前にようやく悟る。己が無敵になったわけでは無かった、とな。」

 「なあ、どんな気分だ、シュロ?獣がお前の首に喰らい付き、今まさに、死が目の前にある気分は。」

 

 右手でシュロの体を探り、背中にあった本を取って投げ捨てる。

 シュロを先生達の近くに放り投げ、また口を開く前にガトリングの弾幕を頭に浴びせる。

 今度は弾がすり抜けることは無く、ほぼ全弾がシュロに命中。ヘイローと共に、確実に意識を刈り取った。

 

 「答えは、檻の中でゆっくり聞かせてもらうぞ、シュロ。」

 

 『百鬼夜行全域、敵性反応が消失を始めました。じきに状況も落ち着くでしょう。』

 

 俺達の予測が当たったようで、レーダーからこちらに近づいていた敵性反応が消えていく。

 ここからは、消火班と救護班、さらに言えば陰陽部の仕事だ。

 ヘルメットのバイザーを引き上げて、先生達に歩み寄る。

 

 「シャーレ、陰陽部に連絡しろ。ネズミを1匹連れて行く、とな。」

 

 ”……分かった。今連絡する。それと――”

 

 「来ないでッ!!」

 

 真っ青な顔で、俺の顔面に銃を向けるナグサ。

 歯はガチガチと震え、眉間を狙っているであろう銃口も定まっていない。姿勢に至っては、完全に腰が引けている始末。

 バイザーを下ろすことなく、ゆっくりとナグサに近づく。

 俺が1歩近づけば、ナグサも1歩下がっていく。

 

 「……何のつもりだ、ナグサ。」

 

 「修羅……!あなたは修羅よ!!!何人殺してきたの!!!」

 

 ”ナグサ、落ち着いて!レイヴンは修羅なんかじゃない!”

 

 「……俺に銃を向ける意味が分かっているのか。」

 

 右手で銃身を掴み、そのまま握り潰して投げ捨てる。

 これでナグサの腰は完全に抜けたようで、真っ青な顔のまま、地面にへたり込んでしまった。

 それほど怯えていながら気絶しなかった事を褒めるべきだろうか。

 

 「ユカリ!目が覚めたか!」

 

 「大丈夫?ケガはない?」

 

 「……ッ!」

 「……しゅ……ら……!」

 

 「ユカリ!?ユカリ!!」

 

 振り返れば、レンゲ達に抱きかかえられながらこちらに手を伸ばした直後、再び気絶したユカリ。

 ナグサもユカリも、俺を修羅と呼ぶ。その言葉がどういう意味を持つのか、落ち着いたらニヤにでも聞いてみよう。

 一先ず、倒れこんだナグサを先生に任せ、俺はシュロを、レンゲがユカリを抱えてその場を離れる。

 街を焼き尽くさんと燃え盛っていた炎は、既に必要な薪を失い、静かに収まり始めていた。

 既に炎が静まった場所には、ただ、灰だけが残っていた。




(最後にレイヴンがへし折ったナグサの銃は百蓮じゃ)ないです。
ご安心ください。本編と同じくキキョウが持ってます。
さしものレイヴンも、伝家の宝刀をへし折るような真似はしません。多分。

次回
鉄の鬼
昔話をしてあげる。百鬼夜行が戦乱の時代だった頃の話よ。

次回も気長にお待ちくださいませ……。
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