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 当番制の部活送迎「事故の責任は保険の範囲に限る」誓約書に保護者が困惑 法的効力は?
画像はイメージです(Fast&Slow / PIXTA)

当番制の部活送迎「事故の責任は保険の範囲に限る」誓約書に保護者が困惑 法的効力は?

「部活動で生徒を送迎中に事故が発生した場合、責任は保険の範囲内に限定する」。そんな趣旨の誓約書はおかしいのでないかという相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

相談者の子どもが通う中学では、他校での練習試合の際などに、保護者が当番制で自家用車で送迎していました。入学して初めての保護者会で、「配車当番中に部員を乗せて事故が起きた場合、各自の加入している保険の範囲内で補償し、それ以外の責任は負わない」という誓約書に押印を求められたそうです。

相談者は、納得できない思いをかかえつつ、仕方なく押印したそうですが、この誓約書に法的な効力は認められるのでしょうか、そして実際に事故が起きた場合の責任の範囲はどのようになるのでしょうか。

●事故の責任を「保険の範囲外は負わない」という誓約は法的に通用するか?

まず、誓約書に記された「各自の加入している保険の範囲内で補償し、それ以外の責任は負わない」という条項(免責特約=責任を免除する約束)の法的効力について検討します。

結論からいえば、このような免責特約は無効である可能性が高いと考えられます。その最大の理由は、被害者である子どもたちの権利を不当に奪うことになるからです。

本来であれば、ケガをした子どもたちは、受けた損害の全額についての責任を問うことができるはずです。この誓約書があることで、運転者が加入している保険の範囲に責任が限定されてしまうことになってしまいます。

そもそも、損害賠償請求権は、事故で怪我をした子ども本人に帰属する固有の権利です。 事前に、十分な代償もなく、将来発生し得る重大な人身事故の賠償請求権という子どもの重要な権利を、運転者(加害者)の免責のために放棄させる行為は、子どもの利益を不当に害するものであり、そのような誓約書の内容は無効と判断される可能性が高いと考えられます。

●公序良俗(こうじょりょうぞく)にも反すると考えられる

また、重大な後遺障害や死亡事故が発生した場合、保険だけでは不十分なケースも多く、そうした場合にも一切の追加責任を負わないという約束は、被害者の救済を著しく困難にします。

したがって、この誓約書に押印したとしても、「保険の範囲を超えた責任を負わない」という部分は、その内容自体が公序良俗(民法90条)に反しており、無効と判断される可能性が高いと考えられます。

●免責条項が無効であることの「両面的な意味」

この免責条項が無効であるとすると、以下のような結論になるでしょう。

1. 被害者側(送迎してもらう側)の場合:責任追及は可能

相談者の子どもが怪我をした場合に、この誓約書があるとしても、その免責条項は無効であるため、運転者である他の保護者に対して、子どもの権利として民法第709条の不法行為責任に基づき、損害賠償を請求することが可能です。

2. 加害者側(運転者として送迎する側)の場合:免責はされない

相談者が運転して他の子どもを負傷させた場合に、相談者がこの誓約書を提出していても、その免責条項は無効であるため、被害を受けた子どもやその保護者から損害賠償を請求されることになります。請求は保険の範囲を超えて及ぶ可能性があるため、運転者として対人賠償無制限の自動車保険に加入するなど、十分な備えが必要となります。

●保護者としてとるべき対応

このような送迎システムに直面した場合、以下の対応を検討してください。

1. 送迎システムへの参加は任意であることの確認

部活動の送迎当番への参加が事実上強制になっていないか、学校や顧問に確認しましょう。参加しないことで子どもが不利益を受けることがあってはなりません。

2. 保険加入状況の確認と見直し

運転する可能性がある保護者は、自動車保険の対人賠償が無制限になっているか確認してください。また、他人を同乗させた場合も補償されるか、保険会社に確認することをお勧めします。

3. 学校や部活動顧問への問題提起

保護者による送迎は、法的なリスクを各家庭に負わせる仕組みです。学校に対して、以下の代替案を提案することも検討してください。

  • 公共交通機関の利用
  • 学校や部活動での公式な送迎体制の構築
  • 他校との試合日程の調整
      4. 誓約書への対応

すでに押印してしまった場合でも、前述のとおり免責条項は無効となる可能性が高いと考えられます。ただし、今後は安易に押印せず、内容をよく確認し、疑問がある場合は学校側に説明を求めることが大切です。

また、誓約書について改めて問題提起したうえで、これまでの誓約書の効力を破棄し、今後このような誓約書を取り交わすことをやめるための話し合いをした方が良いと思われます。

子どもの安全を守るためには、このような法的リスクを保護者個人に負わせる仕組み自体を見直していくことが、本来は最も望ましい解決策といえるでしょう。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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