BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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本編を見返しながら書いてますが、やっぱり異様に情報が少ないですね。
なので色々と捏造しました。
これで公式から詳細な解が示されたら、私は爆散して死にます。


43.狂いだす絡繰り

 「私が知っている事は、大体あんた達と一緒。花鳥風月部は怪談の様な存在で、そこから本当に脅迫文が送られてくるなんて、まずあり得ない。」

 「けど、あんた達はそいつらがいるって思ってるんだよね?」

 

 湯呑を取り、緑茶を1口すすってから、そう答えるキキョウ。

 調停室の机を5人で囲み、キキョウに質問を投げてみたものの、結果はこの通り。

 本当に花鳥風月部が存在しているのか、俺の中でも怪しくなってきたが、その疑問を押さえつけて話を続ける。

 

 「その確証を得たい。居るのなら対処できるし、居なければイタズラで片が付く。」

 

 ”う~ん、悪魔の証明みたいになってきたなぁ……。”

 

 「あくまの、証明?」

 

 ”本当に居ないものは、居るとも居ないとも証明できないっていう、理論上の矛盾。いわゆる、パラドックスだね。”

 

 先生から新たな知識を得たことで、またうっとおしい位に眩しい笑顔を見せるユカリ。

 それに対して、燈籠祭の運営を取りまとめているシズコの顔色は優れない。

 

 「でも、もし本当に花鳥風月部がお祭りを襲撃したら、とても大きな被害になると思います。百鬼夜行の外からも、沢山のお客さんが来るはずなので。」

 

 「そうだろうね。私が祭りを襲撃するなら、事前に仕込みをしておく。バレないように、こっそりとね。」

 

 「内通者の手を借りながら、な。」

 

 ”調べる時間が無いのが悔やまれるね……。”

 

 ここまで調べているが、やけに花鳥風月部の情報が少なく、次の手をどう打つべきか分からない。対症療法的な対応が精々か。

 手で体を軽く持ち上げて座り直し、キキョウに別の質問をする。

 他の4人が正座で座っている中、足を組んで座っているのは俺だけだ。

 あの座り方は、足への血流が止まってしまう。動くべき時に動けないのは致命傷だ。

 

 「それなら、禁書についてはどうだ?名前は、稲生物怪録。」

 

 「……私も知らない。ナグサ先輩なら、何か知ってるかもしれないけど、あの人はもう百花繚乱には帰ってこないよ。」

 

 「それなら、個人的に話を聞きに行こう。」

 

 「探すつもり?随分仕事熱心なんだね……。」

 

 ”今は、猫の手でも借りたいからね。”

 

 昨日の一件で、ナグサの家がある地域は分かってる。エアにナグサのスマホを追跡させれば、すぐに見つかるはずだ。

 極端に情報が少ない事に胸騒ぎがするが、キキョウを信じるなら、ナグサが持つ情報で解消されるはず。

 先生にナグサの追跡を依頼しようと考えた時、先にユカリが先生に顔を向けた。

 その表情は、何故か自信に満ちている。

 

 「それでは早速、ナグサ先輩を探しましょう!」

 

 ”ユカリ、手伝ってくれるの?”

 

 「もちろんですとも!先生方は、身共のわがままに付き合っていただきました。今度は、身共が先生を助ける番でございます!」

 

 ”ありがとう。頼もしいよ。”

 

 互いに笑い合う2人を余所に、神妙な表情のキキョウは小さくため息をつき、置いてけぼりとなったシズコは少し居心地が悪そうに見える。

 一先ず、自身がやるべき事と、キキョウとシズコに頼みたい事は決まった。

 

 「俺はレンゲを当たってみよう。お前達2人より、俺の方が話せるかもしれん。」

 

 「はい!お願いいたします!」

 

 「キキョウ、シズコ。念のため、お前達も警戒を頼む。何が起きてもおかしくない。取り越し苦労なら、それが最良だ。」

 

 「……そうだね、分かった。何か見つけたら伝える。それでいい?」

 

 「私は、怪しい物が無いか調べてみます!お祭りで使うものは、リストを作ってますから、すぐに分かるはずです!」

 

 「十分だ。感謝する。」

 

 キキョウは俺からの依頼にため息をつきながら頷き、シズコはやる気に満ちた笑顔を見せる。

 それを見ていた先生は、2人に向かって軽く頭を下げ、ユカリは天に拳を突き上げた。

 

 「それでは!百鬼夜行燈籠祭防衛作戦、すた~とですの~!」

 

 演習場にざあっと風が吹き、傾き始めた太陽が、桜や梅の花びらを照らす。

 この百鬼夜行に潜む、影と亡霊。一切姿形が見えない相手に、俺達は立ち向かおうとしている。

 背中に感じる、誰のものでもない視線と共に、異様な胸騒ぎは強くなっていく。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 調停室から離れて1時間ほど。

 祭り直前で身動きすら制限されるような人込みの中から、特定の個人を探し出すことは容易ではなく、先生の足には疲労が溜まり続けていた。

 先生は半ば途方に暮れていたが、ユカリの表情は、疲れを微塵も感じさせない。

 先生はこの差に、自身と生徒達の体力の違いを痛感していた。

 

 「ナグサ先輩、どちらにいらっしゃるのでしょう?」

 

 ”この人込みだと、探すのも一苦労だね……。”

 

 「ですが、必ずいらっしゃるはずです。あの人もまた、百花繚乱ですから。」

 「たとえ百花繚乱から離れたとて、その心根が失われる事はありませぬ。」

 

 ”そうだね。でも、このまま当てもなく探すのは、無理があるよね……。”

 

 流石に聞き込みを始めた方が良いか、先生がそう考えだした時、視界に一瞬移る、長い白髪に雪の結晶の様なヘイロー。

 ユカリも同じ方向を見ていたのか、そこに居るのが誰か気づいたようだ。

 

 「……ん?先生、あの長い白髪……!」

 

 ”百花繚乱の法被も着てる。間違いないね。”

 

 先へと進むユカリとはぐれない様に、人込みをかき分けて、ナグサの元へ向かう。

 何処か寂しげな背中にユカリが声を掛けると、予想だにしていなかった来客に、ナグサは目を見開いていた。

 

 「ナグサ先輩!ご無沙汰しております!」

 

 「――ッ!?ユカリ、それに、先生も……!?」

 

 ”突然ごめんね。少しだけ、話したい事があって。”

 

 「はい!ナグサ先輩、百花繚乱の力が必要となりました!花鳥風月部が、陰陽部に脅迫――」

 

 「しぃーッ!ユカリ、大声で話すことじゃない……。」

 

 「はっ!そうでしたわ……!失念しておりました……!」

 

 ユカリの言葉に視線が集まりかけた所を、ナグサが寸でで阻止する。口元を覆いながら、ばつが悪そうに縮こまるユカリ。

 一先ず、通りで立ち止まっては邪魔になると、3人並んで歩きながら話すことにした。

 

 「……でも、それは本当なの?」

 

 「間違いありません。今日この日に、百鬼夜行を燃やし尽くしてやる、と。」

 

 「……そっか。確かに、百花繚乱が動くべき事態だね。でも、私達はもう解散してる。それは分かってるよね。」

 

 「もちろんです。それを承知の上で申しておりますの。」

 「ナグサ先輩、どうか力をお貸しください。身共が為すべきことを、為したいのです。」

 

 複雑な表情でうつむき、逡巡していたナグサだったが、顔を上げた彼女の目には、僅かだが決意が見えた。

 決して大きくないはずの声が、祭りの喧騒にかき消される事なく、先生とユカリの耳に届く。

 

 「……聞きたい事って、どんな事?」

 

 ”禁書の、稲生物怪録について。花鳥風月部が持ってるかもしれないって聞いてる。その本の周りで、変な事が起きたとも。”

 

 「……それは、怪書。物怪や妖を呼ぶことが出来る、呪具の1つ。その気になれば、現実を怪談に書き換えてしまう事だって出来る。」

 「かつて、花鳥風月部はその呪具を用いて、百鬼夜行を彼らが呼ぶ“風流”へと変えようとした。けれど、それは百花繚乱によって鎮められた。」

 「百花繚乱に伝わる委員長の証、“百蓮”もそうした呪具の1つ。妖使いに抗うための、悪霊を封じる銃。」

 「故に、百蓮を握るものは、強くあらねばならない。百花繚乱に継承戦という制度があるのは、そのため。」

 

 「そのような逸話があったのですね!そのための継承戦だったとは……!」

 

 「ユカリには、全部話してはいなかったからね。」

 

 キラキラと目を輝かせるユカリに、優しい微笑みを向けるナグサ。

 百花繚乱が解散する前は、こんな光景が日常だったのだろうが、今は失われている。

 それを取り戻す決意をさらに強めた先生は、更なる情報を引き出そうとする。

 

 ”その時は、何が起きたの?”

 

 「私にも、詳しくは分からない。ただ、都がごうごうと燃え上がったとは残ってた。」

 「もし本当に花鳥風月部が来るのなら、その再現をしようとしているのかもしれない。」

 「ただ、ユカリの言う通り、この話は“逸話”。ずっと昔の話。あまり信憑性は無いと思う。」

 

 「いえ!良き手掛かりです!先生、今度はその逸話を調べてみましょう!」

 

 ”ナグサ、その話が書かれた本が置いてある場所、どこか分かる?”

 

 迷いなくそう答える2人に、立ち止まって目をぱちくりさせるナグサ。

 ユカリは手掛かりとなるか怪しい話を、嬉々として調べようとし、先生は躊躇することなくそれを手伝うと言ったのだから、無理もない。

 

 「……本当に、調べるつもり?」

 

 「もちろんですの!“戦に勝ちたくば、まず敵を知れ”、ですわ!」

 

 ナグサは目をつむり、小さく深呼吸をしてから、自身の記憶を2人へと伝える。

 彼女たちに何も起きない事を、そして、彼女たちの推論が外れている事を願いながら。

 

 「……百花繚乱の調停室、その奥にある書物庫。その中に、本が置いてあったはず。」

 「表紙に“禁”と大きく書かれた本は、禁書だから、開いたり読んだりしないで。それだけ気を付けて。」

 

 「承知しましたわ!では先生、早速――」

 

 「お嬢様、お迎えに上がりました。」

 

 調停室に戻ろうとした途端、3人の目の前に現れた、勘解由小路家の使用人。

 このタイミングで現れたという事は、燈籠祭のフィナーレである、巫女の舞にユカリを連れ戻すため。

 ユカリもそれを分かっていたからこそ、簡単に受け入れる事は出来なかった。

 

 「……ッ!身共には為すべきことがございます!今少し、時間を頂きたく!」

 

 「なりません、お嬢様。その為すべきことのために、お迎えに上がったのですから。」

 

 「それはっ……!それは、勘解由小路家の務めです!決して身共の務めでは――」

 

 ”使用人さん、もう少し待っていただけませんか。巫女の舞まで、まだ時間はあるはずです。”

 

 「……以前、遅くならないようにと、お伝えしたはずですが。」

 

 ”……失礼しました。”

 

 使用人からの指摘に対し、先生は頭を下げる事しか出来ない。

 確証すらない事情のために、生徒を連れまわしているという事実は、覆らないから。

 花のような笑顔は消え、口を堅く結ぶユカリ。

 何か手はないかと頭を回す先生だったが、ナグサが先手を打った事で阻まれる。

 

 「ユカリ、行って。」

 

 「――ッ!?ナグサ、先輩……!?」

 

 「大丈夫、後は私が先生を手伝うから。だから、ユカリは行って。」

 

 「……承知、しました。」

 

 今にも泣きだしそうな表情でうつむくユカリに、ナグサはそっと屈みこむ。

 優しく微笑みながら、まるで子供でも諭すかのように、ユカリに優しく言葉を贈る。

 

 「……ユカリ。」

 「ユカリはきっと、良い委員長になれたと思うよ。だから、これから何が待っていても、ユカリは大丈夫。」

 「これからも、ユカリが為したいことを、為して。」

 

 「……ありがたきお言葉、確と、受け取りました。勘解由小路ユカリ、これにて失礼いたします。」

 

 ナグサからの言葉を受け、深々と礼をし、使用人と共に去っていくユカリ。

 その表情に喜びが含まれているとは言い難く、かく言うナグサも、ユカリが人込みに消えた後、同じ表情を浮かべていた。

 

 ”……あれで、良かったのかな。”

 

 「そうだよ。これでいい。きっと……。」

 

 ナグサも、先生も、そしてユカリも、あの言葉が惜別のそれであると分かっていた。

 そして、ユカリの手が百花繚乱の皆と繋がれることは二度とないと、分かっていたのだ。

 それでも、ナグサは送った。勘解由小路家がユカリのあるべき場所だと、信じていたから。

 

 ”……私は、書物庫を調べてくるね。他に気を付けるべき事はある?”

 

 「……私も手伝うよ。乗り掛かった舟だからね。」

 

 ”良いの?ユカリを送り出すために言ったと思ってたんだけど……。”

 

 「その通り。でも、気が変わったの。」

 「それに、あそこにある本は、大抵がとても古い物。古い字が読めるなら、私も任せるけど。」

 

 ”……翻訳、お願いします。”

 

 「ふふっ、任せて。」

 「……キキョウがいなければ良いけど……。」

 

 ナグサと先生の2人は、調停室に向けて引き返す。

 先生は、ナグサの小さな呟きを聞きとっていたが、気づいていないふりをした。

 いつも通り、生徒達の手助けをする事だけを考えればいい。もしいたら、2人が喧嘩をしない様にするだけでいい。

 そう考えていたから。

 

 うそつき。

 小さな子供が、先生とナグサにささやいた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 祭りが始まるまで、あと30分。

 空には月が輝き、屋台や出店の提灯が通りを、そこを行く人々を照らす。

 その端で、赤髪の生徒がスマホを耳に当て、彼女の3人の友人がそれを心配そうに見つめていた。

 

 「あいつ……。あれだけ言ったのに、まだ諦めて無かったのかよ……。」

 

 『そう。それで今は、シャーレの先生と一緒にナグサ先輩を探してる。まあ、見つからないと思うけど。』

 

 不和レンゲが、電話の先にいる幼馴染のキキョウから伝えられたことに、大きくため息をつく。

 ユカリは、百花繚乱を束ねる事を諦めていない。それどころか、怪談が襲ってくると嘯く大人に着いて行ってしまっている。

 普段だったら、その大人はもちろん、ユカリ本人を怒鳴りつけてでも止めていた事態だが、既に自分にはその資格が無い。

 

 「この人込みの中をか?まあ、確かに無理だな。っていうか、一々連絡してこなくていいって。」

 

 『何を?』

 

 「百花繚乱の事だよ。もう全部終わった事なのに……。」

 

 レンゲは自分の不甲斐なさと未練がましさに、再びため息をつく。

 ユカリは自分の思うままに、百花繚乱を取り戻そうとしているのに、自分はどうだ。

 青春だなんだと言いながら、結局何も掴めないまま。自分から百花繚乱を捨てたのに、結果はこの通り。

 そんな考えが頭を巡るレンゲだが、知った事かと言わんばかりに、キキョウは告げる。

 

 『……そうだね。百花繚乱は終わった。でも、相手がそう思ってくれるとは限らない。』

 

 「ん?どういう事だよ?」

 

 『シャーレの先生の護衛が、レンゲの所に向かってる。そろそろ着くと思うよ。』

 

 「ハァ!?護衛!?何でそいつがアタシの所に!?」

 

 『聞きたい事があるんだってさ。花鳥風月部について嗅ぎまわってる。祭りを襲撃するかもしれないってね。』

 

 「お前ッ……!そういう事は先に言えよォ!?」

 

 『あんたが先にユカリの話をするからでしょ。私はそれに付き合っただけ。』

 

 「だからってお前なぁ!?」

 

 「修行部、シャーレの護衛の傭兵だ。不破レンゲを借りたい。良いか?」

 

 噂をすれば何とやら。声が聞こえた方に振り向けば、レンゲの目に移ったのは、ユカリを諭した時に現れた、レイヴンと呼ばれた生徒。

 高い身長に、引き絞られた赤く深い瞳、そして距離があっても伝わってくる、異様な威圧感。

 当然、キキョウとレンゲの会話を聞けていない修行部の3人は、突然の話に混乱していた。

 

 「おっ、お前!あの時の!?」

 

 『残念、見つかったみたいだね。ご愁傷様。それじゃ。』

 

 「あっオイ!!キキョウ!?」

 

 ちっとも残念そうではない声色で電話を切るキキョウ。

 持ち前の洞察力でレンゲとレイヴンの様子を察した修行部の1人、水羽ミモリがレイヴンの前に立つ。

 

 「あの、お話なら私達がお答えすることも出来ますが……。」

 

 「いや、元百花繚乱であるレンゲから聞きたい。花鳥風月部について情報があるなら、話は別だが。」

 

 「はふぅ……。確かに、レンゲじゃないと難しいかもね。」

 

 「い、いやぁ!アタシだって花鳥風月部に詳しいわけじゃないし!それに――」

 

 軽くあくびをしながら、事実を認めた修行部の部長、春日ツバキ。

 どうにかしてレイヴンとの話し合いをかわしたいレンゲだったが、その理由を見透かしたミモリが、レンゲに正面から向かい合う。

 

 「レンゲちゃん、ずっと百花繚乱の事を、皆の事を気にかけていたでしょう。この際、この方と一緒に、百花繚乱の皆さんと話してきたらどうですか?」

 「お互いに意固地になって、物別れになるよりも、素直に話し合った方が、きっと良いと思うんです。」

 「本当は誰も傷つけたくなかったって、伝えてみてください。」

 

 「そうそう!レンゲ先輩、こっちに来てから、ずーっと百花繚乱の話ばっかりしてるじゃん!バレバレだよ!」

 

 洞察力に優れるミモリはおろか、まだ1年生の勇美カエデにすら見透かされていた事実に、レンゲの顔は真っ赤に染まる。

 レンゲは、百花繚乱での日々を疎んでいたわけでは無い。少しだけ、不安だったのだ。

 今しかない青春の時を、治安維持に駆けずり回って消費していいのか、と。

 自身の心を見透かされた気恥ずかしさに加え、百花繚乱への後ろめたさにより、レンゲは中々首を縦に振れずにいた。

 

 「うぇえ!?マジかぁ……!いっ、いや、ツバキ部長!アタシは――」

 

 「これは、部長命令。この人を手伝ってあげて。」

 

 「えぇっ!?ツバキ部長!?」

 

 「……部長命令には逆らえんな。話の内容次第だが、そう時間は取らせん。良いか?」

 

 「うぅ……!分かったよ……!」

 

 最後の頼みの綱であったツバキにすら突っぱねられ、いよいよレイヴンに付いていくしかなくなったレンゲ。

 渋々といった様子だが、壁に立てかけていた銃を背負い、レイヴンの隣に近づいた。

 

 「傭兵さん。レンゲちゃんを、よろしくお願いしますね。」

 

 「ああ、任せろ。」

 

 そうしてレイヴンと共に離れていくレンゲを、修行部の3人は笑顔で見送る。

 レンゲ達の背中が見えなくなるまで見送った後、3人は祭りの始まりを告げる花火を見ようと歩き始めた。

 

 うそつき。

 また誰かが、レンゲとレイヴンにささやいた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「最初に言ったけど、アタシが花鳥風月部について知ってることなんてない。怪談みたいな存在って事しか分からない。」

 

 祭りの喧騒から少し外れた、薄暗い道。

 ほとんどの住人が祭りを楽しんでいるのか、家々に明かりがぽつぽつと点いている程度。

 先生からの連絡で、ナグサから情報を引き出すことが出来たのは把握している。

 同時に、ナグサとキキョウと共に百花繚乱の書物庫を漁っているが、結果は芳しくないとも。

 ダメで元々ではあったのだが、レンゲから聞き出そうとした結果は、この通り。

 

 「なら、稲生物怪録はどうだ。禁書の1冊で、花鳥風月部が持っているそうだが。」

 

 「それも知らない。ナグサ先輩なら知ってるかもしれないけど、何でアタシに聞くんだよ。」

 

 「少しでも情報が欲しいからだ。亡霊を相手取っているような気分でな。」

 

 「ただのイタズラだからじゃないか。お前達がやってること、シャドーボクシングと一緒だぞ。幻覚を相手に戦ってる。」

 

 軽くファイティングポーズを取りながら、俺に対しそう言い放つレンゲ。

 シャドーボクシング。言い得て妙な例えに感心してしまうが、俺は相手が幻覚ではないと確信していた。

 花鳥風月部の周りだけ、異常な事が多すぎるのだ。

 

 「俺はそうは思わん。この気味の悪さは、ただのイタズラでは感じない。」

 

 「気味が悪い?どういう事だよ?」

 

 「必要なピースばかりが欠けている。百花繚乱の解散も、委員長の失踪も、花鳥風月部やその怪書も。あるべき情報が無いんだ。」

 「まるで、結果だけを引っ張っているかのようにな。」

 

 「わ、悪い。言ってる意味が分からない。えっと、情報が隠されてるって事でいいのか?」

 

 「概ねその通りだ。もっと言えば、既に出ている情報が繋がらない。情報という点はあるが、それを過程という線で結ぶことが難しい。」

 「何故部員が離れていったのか。何故ナグサが、委員長の証を、陰陽部ではなくキキョウに返したのか。何故花鳥風月部が、今になってわざわざ予告してから動き出したのか。」

 「普通だったら、僅かな情報があれば、ある程度予測が利くものだ。だが今回の件は、それが全くない。」

 

 今の俺達は人員が少ない。対応が後手に回るのは、ある程度仕方のない事だろう。

 しかし、どう考えても今回の事例は不自然だ。

 百花繚乱と花鳥風月部に関する事だけ、ただ答えだけが用意されていて、細かい情報が一切出てこない。

 何より、その状況を誰も疑っていない。当事者である百花繚乱はもちろん、俺の身分を面会前に突き止めていた、ニヤですら。

 経験のない異常事態に眉根をしかめるが、レンゲは気にしていないかのように会話を続ける。

 

 「そんなの、情報が足りないだけじゃないか?そもそも、花鳥風月部の手紙がイタズラじゃないって、なんで分かるんだよ。」

 

 「陰陽部のニヤ曰く、その手紙は百鬼夜行でも古い字体で書かれていた。魑魅一座がそんな面倒な事をするか?」

 

 「うっ……。それは、確かに……。」

 

 「それに、部長が失踪してからナグサが委員長の椅子に座る事は無かったようだが、継承戦は無かったのか?」

 「治安組織なら、血の気が多い奴や、上昇志向を持った奴がいたはず。誰一人としてナグサに挑まなかったのか?」

 

 まず、百花繚乱はここが異常だ。

 普通であれば、自分が委員長になりたいと考える者は、少なからずいるはず。

 そういった者は、委員長が消えた今こそ好機だと考え、ナグサに挑んでもおかしくない。

 

 「それは、ナグサ先輩が凄い人だからだよ。アヤメ委員長も強かったけど、ナグサ先輩だって強い。」

 「少し時間をおいて、色々と整理が付けば、自ずと委員長の椅子に座ってくれると思ったんだろ。」

 

 「だが、そうはならなかった。部員は離れていき、ナグサも去った。誰一人、委員長の椅子に座ろうとしないまま。妙だとは思わないか?」

 

 「いやいや!確かに血の気の多い奴は居たけど、ナグサ先輩に挑むほど無謀じゃないぞ!」

 

 「そうか?ユカリのように、勝てる見込みがなくとも、ナグサに発破を掛けるために挑んだ奴は居なかったのか?」

 

 「……アタシが知る限り、ない。アタシも、キキョウも、ナグサ先輩に挑んだことは無い。」

 

 この通り、副委員長の不甲斐なさに腹を立てる者は、1人も居なかったそうだ。

 まるでアーキバス流の再教育でもされたかのように、誰も逆らおうとはしなかった。

 やはり、異常だ。

 

 「それなら、アヤメが失踪した後の、ナグサの様子はどうだった?お前はそれを見て、何を思った?」

 

 「そりゃ、見るからに落ち込んでたよ。アヤメ委員長は、ナグサ先輩の親友だったからな。」

 「親友がいきなり消えたら、誰だってそうなるだろ。それを突っつくほど野暮じゃない。」

 

 「それがどれだけ続いた?まさか、今日まで続いてるとは言わないよな。」

 

 「お前なぁ、人が1人消えてるんだぞ?それも、自分の親友が、自分の目の前で!整理が付くわけないだろ……。」

 

 踏み込み過ぎたか、レンゲは怒り顔でそう咎めてくる。

 この指摘が尤もであると同時に、レンゲはアヤメの失踪の経緯を知っていると確信した。

 俺はただ、“アヤメが失踪した”としか言っておらず、“ナグサの目の前で消えた”とは言っていない。

 情報を引き出すために、会話を続けることにした。

 

 「……それもそうだな。どうもその感覚をよく忘れる。」

 

 「はっ?どういう事だよ……。」

 

 「そう難しい話じゃない。人死にに慣れ過ぎて、流す涙も枯れたというだけだ。」

 

 「……何か、悪いな。突っ込み過ぎた。」

 

 「構わない。もう過ぎた事だ。」

 「しかし、やはり妙だ。百花繚乱が解散するように誘導されているかの様な、嫌なチグハグさがある。」

 

 「確かに、お前の言う通り、委員長になりたいって奴が1人くらいいても、おかしくないんだけどな……。」

 「そもそも、何で皆離れてったんだ……?なぁんか理由を言ってた気がするんだけどなぁ……!」

 

 頭を押さえて唸りだすレンゲ。

 本来であれば、部員全員が何も言わず離れていくことなどあり得ない。

 レンゲとの会話で、百花繚乱の終わりを悟り、部員たちも離れていったというのなら理解できる。

 しかし、それすらレンゲは覚えていない。恐らく全てのきっかけである、アヤメの失踪の経緯を、覚えているにも関わらず。

 

 「……妙だな。こういう時は、誰かの手が入っていると考えて間違いない。そして、手を入れれば確実に証拠が残る。」

 

 「でも、その証拠が見つかってないから、アタシに話を聞きに来たんだろ?確かに変だけどさ、わざわざ探すほどでもないんじゃないか?」

 

 「……俺達が真相に近づくための情報が、それに連なる証拠だけが分からない。徹底されている。故に異常だ。」

 「こういう時は、大抵ロクでもない奴らが、ロクでもない事をしようとしてる。」

 

 アヤメの失踪の原因、不明。百花繚乱の部員が全員離れた理由、不明。花鳥風月部の所在と目的、不明。

 こうあるべきという結果だけが残り、過程や足跡が吹き飛ばされているかのような、不自然な情報群。

 その結果全てが、花鳥風月部にとって有利なもの。

 誰も奴らを調べようとせず、調べたとしてもたどり着けない。

 余りにも、異常だ。

 

 「……何か、思ってたより、色々考えてるんだな、お前。」

 

 「何だ?暴れるだけの乱暴者だと思ったか?」

 

 「……ごめん。ちょっと、思ってた。」

 

 「……独立傭兵は、全てを自分1人でこなす必要がある。情報整理は必須技能だぞ。」

 

 ばつの悪そうな表情で謝るレンゲに、ため息をつきながらそう答える。

 この発言で怒るほど狭量ではない自覚はあるのだが、レンゲは面白い位に慌て始めた。

 

 「ごめんごめん!悪かったって!」

 「……確かに、変なんだよな。覚えてるはずの事を、覚えてなくてさ。思い出そうにも、思い出せないんだよ。」

 「なんか、アヤメ委員長が失踪してからの記憶に、靄がかかってるみたいでさ。何かあったはずなのに、覚えてないんだよ。」

 

 「……どういう事だ。」

 

 「そんなのアタシが知りたいよ!だから今困ってるんだろ……!」

 「なんか、なんか……!考えるほど気味が悪い!一体どうなってんだよ!クソッ!!」

 

 記憶の靄。俺も覚えがある。

 “キヴォトス事変”の前、俺は1度色彩と接触している。その時の俺は、ただ何かを見た、としか記憶していない。

 マグカップを手放し床にフィーカをぶちまけた事も、妙な言葉を呟いていた事も、エアによってシャットダウンされた事も、覚えてはいない。

 ただ、何かあったと覚えているだけだ。

 嫌な予測が、一瞬で頭を駆け巡る。

 

 「……ここで何が起きてる……。」

 

 「ううぅ……!頭が痛い……!」

 

 「おい。しっかりしろ。どうした。」

 

 「いや、大丈夫。急に頭が、痛くなっただけで……。こんな事、初めてだぞ……。」

 

 頭を抱えて呻き始めたレンゲに駆け寄り、頬を掴んで目線を合わせて肩を叩く。

 幸い駆け寄ってからすぐに収まったようだが、口を開く前のほんの一瞬だけ、レンゲの目は虚ろだった。

 やはり色彩か、だが何故今ここに。そう考えた瞬間、大きな音と共に、空に光の花が開く。

 3つ、4つと増えていき、少し離れた通りから、人々の歓声が上がる。

 

 「……ああ。祭りの花火だ。始まったんだな。」

 

 「……気味が悪い。」

 

 「そうだけど、分かんない事をいつまでも気にしてたってしょうがないだろ。ほら、お前もお祭りを楽しんで来いよ。」

 「百花繚乱の皆とは、ちゃんと話をするからさ。」

 

 花火の光に照らされる通り。

 その一帯を見回している俺の肩を、普段と同じ表情で叩いてくるレンゲ。

 だが、そんな事で俺の警戒が切れる訳が無い。周囲一帯から感じる無数の視線が、警戒を解くことを許さない。

 銃を抜け。今すぐ構えろ。引き金に指を掛けろ。動くものを見たら殺せ。

 俺の中の闘争心が、ありとあらゆる警告を発していた。

 

 「……何だ……。何が起きるというんだ……。」

 

 「なぁ、一体何が引っ掛かって――」

 

 レンゲが俺に近づこうとした瞬間、ほど近い場所から爆発音。

 それは1つではなく、3つ、4つと増えていく。

 町から火の手が上がり、人々の歓声が悲鳴へと変わる。

 

 『レイヴン、周辺に敵性反応多数!』

 

 「どこから来た!?」

 

 『この周辺、いえ……!百鬼夜行全域です!!』

 

 「……本当に来たのか?」

 

 再び爆発音。俺達のすぐ目の前の小屋が吹き飛び、中から住人が逃げ出した。

 崩れた小屋と炎の中から出てきたのは、宙に浮かぶ提灯や、持ち手がショットガンのグリップに変わった傘。

 それが1つではなく、群れを成してわらわらと現れる。正面、後方、何処からも。

 次第にレーダーが住民の不明反応ではなく、明確な敵性反応で埋め尽くされていく。

 

 「――ッ!?おい、何だよアレ!?」

 

 「……敵である事は間違いない。来るぞ、構えろ!!」

 

 混乱する頭を押さえつけ、LMGとショットガンを抜き、レンゲと背中合わせになるように構える。

 燈籠が暗夜を満たす時、魑魅魍魎が跋扈する。

 こういう事か、大婆様。どうやら、ペテン師では無かったようだ。

 こちらにゆっくりと近づいてくる魑魅魍魎に狙いを定め、引き金を引いた。




レンゲの様子が少しおかしくなりましたが、プロットの都合上おかしくさせられるのがレンゲしかしませんでした。
弊キヴォトスの百花繚乱、深く突っ込むと皆こんな感じにおかしくなります。
だからレンゲ好きの先生はユルシテ……!

次回
燃ゆる都
遂にクソガキとご対面

次回も気長にお待ちくださいませ……。
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