BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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30MM、メランダーとミルクトゥースが出るってマジ???
立体物はスペースの関係で買えないので、私の分まで楽しんでください(血涙)

コレ、どっかからHCの立体物が出たら、弊レイヴンのナイトフォール再現できそうだな……。


42.防人と送り犬の調べもの

 百花繚乱と出会い、先生から説教を受けた翌日。

 先生から大体の事情の説明を受け、先生を呼び出した陰陽部のニヤに情報共有を願う事にした。

 ユカリとの約束までまだ時間がある。話を聞いても十分間に合うはず。

 

 ”賑やかだねぇ。もう人がこんなに。”

 

 「そうだな。身を隠すならうってつけの状況でもある。」

 

 しかし、今日は百鬼夜行燈籠祭が開かれる日。百鬼夜行内外から沢山の客が来ており、屋台や出店の客引きの声が響いている。

 通りにごった返している人の大半が和装を着ているため、服装やアクセサリーからの身元の特定も難しい。

 エデン条約調印式以来のお祭り騒ぎ。人込みをすり抜けて歩くだけでも一苦労だ。

 

 『反応が多すぎて情報が追いきれません。この状態で個人を特定するには、時間が必要です。』

 

 ”出来ないとは言わないんだ。頼もしいね。”

 

 『もちろんです。プロですから。』

 

 どこかの映画で聞いたようなセリフを呟くエア。

 俺が寝ている間に、情報収集と称して映画を見ている事があるようで、それに影響されたのだろう。

 証拠に、エアとの交信から僅かに誇らしげな感情が伝わってくる。

 

 「花鳥風月部が動いているとすれば、既に仕込みを始めているはずだ。しかし、何処に居るんだろうな。手を付けられる場所が多すぎる。」

 

 ”それも含めて、ニヤに聞いてみよう。手がかりがあれば、相手の手札も読みやすくなるはず。”

 

 俺からはぐれない様に歩を進めていく先生。先生を最低限気にしながら、俺はずかずかと人込みをかき分けて進む。

 歩きながら辺りを見回すが、やはり怪しいものなど見当たらない。すぐに人込みに遮られてしまう。

 レーダーやIFFも役に立っていない。大量の民間人が不明反応としてレーダーを埋め尽くしている。

 随時エアによって絞り込みが行われているが、処理が追い付いていないのが現実だ。

 

 『……レイヴン、先生。あの占い屋に入ってみませんか?』

 

 エアがマーカーを指した先にあったのは、占と書かれた木製の札。

 かなり古く見える家屋、その玄関口で占いをしているようだ。中では誰かが、机を1枚挟んで座っている。

 

 ”占いに興味があるの?”

 

 「エア、そんなものにかまけてる時間は無いだろう……。」

 

 『いえ、あの占い屋、歴史が長いそうで、大婆様と呼ばれる人物が占っているそうです。』

 『人が集まる場所に長く生き、人の悩みなどを聞いていれば、それだけ情報が集まっているはず。大婆様に、話を聞いてみましょう。』

 

 ”確かに、名案だね!早速行ってみよう。”

 

 「ボケていなければ良いがな……。」

 

 理屈は分かったが、やはり不安だ。壺でも押し付けられたら、1発叩き込んで帰るとしよう。

 人の流れを横にかき分け、古びた家屋へと向かう。先生は何度か人にぶつかって頭を下げ、俺は相手の動きを予測して隙間をすり抜ける。

 紫色の暖簾までたどり着き、先生が少し呼吸を整えた後、暖簾をくぐって中へ入る。

 中にいたのは、長い白髪をそのまま下ろした老婆。やせ細った手や顔は、確かに、大婆様と呼んで差し支えない風体だった。

 

 「……おお、お前さんたちか。待っとったよ。」

 

 ”私達を知っているんですか?”

 

 「ああ。お前さんたちが、今日ここに来ることを聞いとったからね。」

 

 老婆の発言に、反射的にリボルバーに手をかける。

 先生が手で軽く制してくるが、後ろに回した右手を離すことなく口を開く。

 

 「……誰からだ。」

 

 「お天道様、あんた達のご先祖様さ。あんた達が聞きたい事も分かっておる。花鳥風月部と、その怪談の事だろう?」

 「さあ、そこにお座り。何が起きるのか、聞いてやろうじゃないか。」

 

 「花鳥風月部がどんな連中なのか、何を使ってくるのか、それだけ分かればいい。何を知っている。」

 

 「焦るんじゃないよ。儂も奴らの事は分からん。だが、お天道様なら知っておる。話が聞きたきゃ、そこへお座り。」

 

 ”レイヴン、信じてみよう。座って。”

 

 俺を軽く手で促し、一足先に2つ用意された椅子の片方へ座る先生。

 少し逡巡するが、ここで立ち止まっていては話が進まない。

 リボルバーから手を離し、椅子を引いて老婆の前に座る。

 

 「それでいい。さて、ちょいと香を焚かせてもらうよ。」

 

 意地の悪い笑顔を見せた老婆から、言いようのない不快感を覚える。

 すぐ後ろでは、沢山の人が祭りを楽しんでいるはずなのに、ここにその声は届かない。いやな静けさが、この部屋を満たしている。

 自身の前に置かれた箱を開いた老婆は、中から細い棒を何本か取り出すと、それの先端に火を付けた。

 手で炎を払い、煙を放つそれを、灰が敷き詰められた深皿へと突き立てる。

 手首に巻いていた木製の数珠を、両掌でこすり始める。途端に、老婆は何やらもごもごと呟き始めた。

 老婆の行動の意味が完全に分からなくなったので、隣の先生を肘で小突くが、先生は自身の唇に人差し指を立て、それ以上の反論を許さなかった。

 特有の臭いと共に、煙が部屋の中に立ち込める。ふと、老婆の呟きが止まった。

 それを見た先生は、何故か背筋を伸ばしていた。

 

 「燈籠が暗夜を満たす時、魑魅魍魎が跋扈する。」

 「都はごうごうと燃え上がり、怪猫が民草の心を喰らう。」

 「貴き子よ、礎の神子よ。絢と舞い、絢と舞い、全てを祓い給え。」

 「凶運を、凶賊を、都に仇為す全ての影を。」

 

 「……意味は何だ。それじゃ情報にならない。」

 

 「それはあんた達が知らなくちゃね。この婆は、お天道様のお告げを伝えただけさ。」

 

 「……話にならない。」

 

 老婆は数珠をまとめ、手首へと戻す。

 苛立ちを隠せない俺に反して、先生は真剣な表情でお告げを聞いていた。

 そんな対照的な態度の俺達を指差しながら、老婆はこう告げる。

 

 「なぁに、あんた達がここに居れば、最悪の事にはならんだろうさ。」

 「なあ、防人に、猟犬?」

 「さあ、お行き。あんた達には、為すべきことがあるんだろう?」

 

 ”ありがとうございました、大婆様。”

 

 「……世話になったな。」

 

 一先ず、仕事は仕事という事で代金を出そうと、俺と先生はジャケットのポケットに手を突っ込む。

 しかし、老婆はそれを手で静かに制す。

 報酬を受け取ろうとしない態度に、一層眉間のしわが深くなるが、老婆は気にも留めていない様子。

 

 「取っておきな。これから、あんた達に必要になるだろうからねぇ。」

 

 その言葉を受けて、先生は立ち上がって深々と礼をする。

 言いようのない気味の悪さを覚えながら、先生に続いて暖簾をくぐる。

 占い屋から離れるまで、背中に妙な視線を感じていたが、無視することにした。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 予定通り、陰陽部の部室にたどり着いた。

 本来であれば、陰陽部幹部の3人が応対する予定だったようだが、2人は急用で出ていったとの事。

 そのため今話が出来るのは、陰陽部の部長、天地ニヤだけである。

 2人が出て言った理由が、1人が稽古をするため、もう1人がそれを見に行くためと聞こえたのは、きっと気のせいではない。

 その稽古を見に行きたいと唱える者が何人もいたからだ。どうなっているんだこの部活は。

 ブーツを脱いで、畳と呼ばれる草で編まれた床材の上を歩く。

 

 ”こんにちは、ニヤ。”

 

 「おや、先生じゃありませんか。お客さんまで連れて、何か御用です?」

 

 「護衛の傭兵だ。情報を共有してほしい。」

 

 自身の身分を適度に明かしつつ、机を挟んで目の前にいる、陰陽部の部長の容姿を確認する。

 胡散臭い笑顔に、裏の読めない話声。怪しくはあるが、気になったことが1つ。

 こいつの服、胸の横が切り開かれ、肌があらわになっている。

 これに似たような服をゲヘナの行政官が着ていた気がするのだが、気のせいだろうか。

 当の本人と先生は慣れているのか、特に気にすることなく話を続ける。

 

 「あらあら。護衛が居たのなら、最初に連れてきてくれれば良かったのに。」

 

 ”百鬼夜行でたまたま会ったんだよ。休暇中だったけど、私を手伝って貰ってるんだ。”

 

 「にゃはは~。休暇を切り上げてまで仕事とは、勤勉だねぇ。」

 

 「こいつが絡んだ話はロクな事にならないからな。それで本題だが、花鳥風月部から脅迫文が届いたと聞いている。どんな内容だった?」

 

 「その話?脅迫文なら、陳腐って言っていいくらいありふれたやつよ?」

 

 「それでもいい。現物を見せてくれ。」

 

 「はいはい、ちょっと待っててね。確かこの辺りに……。あぁ、あった。」

 「これが、花鳥風月部から陰陽部宛てに届いた手紙。」

 

 ニヤが屈み、机に引き出しを漁り始める。上から順にゴソゴソと探し、上から4つ目の引き出しから、木の箱を取り出した。

 表面には堂々と、“花鳥風月部”と書かれている。

 箱を縛っているリボンをほどき、箱を開けて蛇腹折りになった紙を取り出す。

 広げて内容を読もうとするが、書かれていた字は、少なくとも俺が知るものではない。

 横からのぞき込んでいた先生に寄せてみるも、先生も目を細め、渋い顔をしている。

 

 ”……達筆だなぁ……。”

 

 「……駄目だ、読めない。エア、翻訳頼む。」

 

 『すみません、レイヴン。これは私でも読めません……。崩し字の一種のようですが、この書き方はアーカイブ化された辞書が無くて……。』

 

 「まぁ、こればかりは仕方ないですよ。百鬼夜行でも古~い書き方ですからねぇ。」

 「それじゃあ、先生達のために、この私が音読いたしましょう。」

 

 ”うん、お願い。”

 

 ニヤが差し出してきた手の上に、折りたたんだ手紙を乗せる。

 ニヤはもう一度それを開き、開いているか分からない目で文字を追い始めた。

 そして、呼んだ文字を声へと変える。

 

 「“そなたらに告げる。我々の風流は終わってなどいない。風情は大勢で味わうべきもの。”」

 「“お楽しみが始まり、空に咲いた花を見上げた時に、もう一度、そなたらの元を訪ねよう。”」

 「“そして心待ちにするがいい。我々がそなたらの前に姿を現す時――”」

 「“百鬼夜行を、燃やし尽くしてやろう。”」

 

 ”――ッ!?ニヤ、私後半の方は聞かされて無かったんだけど……。”

 

 「ん~。余計な心配をしてほしくなかった、というのが本音です。前にも言いましたが、この手の手紙は大きい催しの時にはよくある事です。」

 「何より、花鳥風月部には実態がない、怪談じみた存在ですからね。大方、名前を借りた愉快犯が送り付けたんでしょう。」

 

 初めて全文を伝えられたことで驚いている先生を尻目に、手紙を畳み、箱へとしまいながらそう答えるニヤ。

 ニヤの予測は間違ってはいないのだろう。これ以外にも大量の手紙が送り付けられていれば、そう考えるのは自然だ。

 

 「しかし、妙じゃないか?ここの治安組織である百花繚乱が解散した今、花鳥風月部はこの手紙を送りつけてる。」

 「まるで、狙いすましたかの様なタイミングだ。」

 

 「確かに、言われてみれば気になるねぇ。ただの偶然って事もあり得るだろうけど。」

 

 治安組織の退場を待ってから襲撃を仕掛ける。学校を攻め落とすならそれが最も確実。

 通常、治安組織が解散される事などあり得ない、という点を除けば、完璧な計画だ。

 今この百鬼夜行は、無防備な状態で大量の客人を招こうとしている。

 隠れて何かを仕掛けるなら、うってつけの状況なのだ。

 

 ”……ねえニヤ、花鳥風月部って、いつごろから存在が囁かれてるの?”

 

 「それはもう、怪談になってしまう程の昔からです。私が生まれた頃には、花鳥風月部は噂話になってたと思いますよ?」

 

 「しかし、それだけの間存在がささやかれ続けるという事は、何らかの形で動いている可能性がある。」

 

 「おやおや、その根拠は何処から?」

 

 「経験からだ。1度ある伝説の名前を借りていた奴がいたが、伝説より厄介だったぞ。」

 

 ここで言う伝説とは、“先代”がやった事であり、名を借りていたのは俺の方だ。

 “レイヴン”の名前が伝説となる程度には、“先代”はルビコンの各地で暴れまわっていた。

 俺はそれ以上の事をしでかしたのだが。

 立場こそ逆だが、往々にしてどの時代にも名前を借りる奴は居る。

 今気になっているのは、わざわざ実態のない花鳥風月部の名前を借りているところである。

 

 「ははぁ、似たような事があったんだねぇ。もしかして、今回も同じような事になるって思ってる?」

 

 「ああそうだ。この類の手合いは厄介だ。」

 

 『私も同感です。恐らく、“慈愛の怪盗”清澄アキラと同じ、劇場型の犯行です。この手段を使ってくる犯人は、周到な準備をしている事が特徴です。』

 『報道機関などを利用して、犯人が意図した情報を拡散し、多数の視線を引き付けた状態で犯行を行うのが、典型的な犯行手順ですね。』

 『花鳥風月部について情報があれば、手段や目的が予測しやすくなるのですが、今回は期待できなさそうですね。』

 

 「おぉ~、流石は“黒い凶鳥”のオペレーター。見事な推理だねぇ。」

 

 唐突に自身の二つ名を呼ばれ、ニヤの顔を正面から見つめるが、初対面の時と同じ胡散臭い笑顔のまま。

 今は手を下げているが、いつでも手を後ろに回せるように備える。

 

 「……俺を知っていたんだな。」

 

 「そりゃそうよ。ここの高級旅館に予約も取らず飛び入りで泊まる生徒なんて、そうそういないからねぇ。」

 「百花繚乱が解散しているとはいえ、陰陽部の諜報力を侮っちゃ駄目だよ?」

 

 表情を変えず、汗1つ垂らす事なくそう答えるニヤ。いくら休暇中とはいえ、今回は俺の失態か。

 一先ず警戒を解き、本題に話を戻すことにした。

 

 「それなら、陰陽部は花鳥風月部の事を、どこまで把握してる?記録は残ってるのか?」

 

 「残っていれば良かったんだけどねぇ。むか~し昔にその存在が書き記されてた程度で、今はとっくに解散してるはずなのよ。」

 「でもそうねぇ、確かな事は1つあるよ。」

 

 ”それは、一体……。”

 

 僅かだが、ニヤが纏っていた雰囲気が変わった。ピリッと空気が張り詰める音がする。

 閉じた扇子で口元を隠しながら、ニヤは記憶の中の情報を引っ張り出した。

 

 「無いんですよ、禁書が1冊。」

 「“稲生物怪録(いのうもののけろく)”。元々花鳥風月部が管理してた怪談録で、その本を中心におかしなことがいくつも起きるから、花鳥風月部の解散と一緒に陰陽部が接収するはずだったんですけど……。」

 

 ”音沙汰なし、って事?”

 

 「そういう事です。だから多分、今も花鳥風月部が持ってるんでしょうねぇ。まっ、メンバーが残っていれば、ですが。」

 

 ニヤの話を信じるなら、恐らく解散命令と共に、禁書を接収するという警告を出していたはず。

 しかし、花鳥風月部はそれを無視、禁書を抱えて逃亡。そうして逃げ延びた者が、禁書を脈々と伝えていき、今百鬼夜行に帰ろうとしている。

 これが、今考えられる筋書きだ。

 この筋書きが正しいかどうかを知るためには、ニヤの後ろにある大量の書類とにらめっこする事になるだろうが、あいにくその時間は無い。

 

 「過去の亡霊が、実体を持って襲ってくる……。エデン条約を思い出さないか、シャーレ?」

 

 ”確かに、状況が似てるかも……。”

 

 「エデン条約って、もしかして、調印式会場が襲撃を受けた、あの……?」

 

 ”そう、そのエデン条約。会場を襲撃したアリウスも、トリニティにとって怪談の様な扱いだったから。”

 

 「その時は相手の手の内を分析し、徹底して準備をしていたから対処出来ただけだ。」

 「治安組織が解散している今、大規模な襲撃を仕掛けられたら、どれほどの被害が出るんだろうな。」

 

 ここに居るのは、トリニティの怪談を撃退した当事者2名。

 1人は死にたがりの指揮官、もう1人は危険因子の独立傭兵。

 それをニヤも分かっていたのか、余裕のあった口元が、じわじわと歪んでいく。

 

 「……もしかして私、判断間違えちゃいました……!?」

 

 ”あれだけイタズラ手紙が届いてる状態だったら、間違えてもしょうがないよ。それに、花鳥風月部が来るって事は、まだ確定したわけじゃないしね。”

 

 「だが、襲撃されれば大問題になる事は確かだ。百花繚乱の解散令を受理するのは、祭りの後にすれば良かったな。」

 

 「あっちゃ~……!取り越し苦労なら良いんですけどねぇ……。」

 

 目元を覆い、大きく天を仰いだニヤ。

 取り越し苦労で済めばいいが、そうはならなかった事例を経験している者が、ニヤの目の前に2人も、厳密には3人居る。

 そして、俺の経験上、この手の話がただのイタズラで終わる事は決してない。

 

 「とりあえず、陰陽部が花鳥風月部について知っている事は、花鳥風月部は既に解散していて、禁書が1冊無いという事だけだな。」

 

 「まあそうね。公式記録に残ってて、きちんと答えられるのはそれだけ。あとは噂話の範疇を出ないかな。」

 

 ”話は変わるけど、ニヤ。勘解由小路家の使用人から聞いたんだけど、ユカリの務めについて何か知ってる?百花繚乱の解散を防ぐカギになるかもしれないんだ。”

 

 「あぁ~、ユカリさんの。それ、今回のお祭りに関係している事でして。」

 

 「祭りに?どういう事だ?」

 

 「実は、百鬼夜行燈籠祭には、伝統のフィナーレがあるんです。それが、巫女の舞。」

 「20年前のお祭りでも、勘解由小路家の巫女が舞う予定だったんですが、色々あってうやむやになったみたいで。」

 「何だかそれ以来、勘解由小路家はその失態を雪ぐことに固執してるみたいです。」

 

 話題が変わったことで、少し調子を取り戻したのか、また胡散臭い笑顔に戻りつつあるニヤ。

 ただ今度は、ニヤの答えを聞いた先生が、口元を抑えて苦い顔をしている。

 

 ”それは、ちょっと大変かもね……。ユカリ1人で何とか出来る問題じゃない……。”

 

 「うやむやになったことの何が問題だ。その時失敗しただけだろう。」

 

 「まあまあ、家には面子ってものがあるのよ。巫女の舞が取りやめになった事に、20年間燈籠祭が開かれなかった事が重なって、今ユカリさんに降りかかってるって訳。」

 「ちょっと可哀そうだけど、陰陽部が干渉することでもないからね。」

 

 そう答えているニヤの顔も、僅かだが眉尻が下がっている。

 少なくとも、これに関しては先生に任せた方が良さそうだ。

 

 ”難しいなぁ……。ユカリ本人がどう思ってるか分からないから……。”

 

 「その辺りは本人から聞けばいい。それとニヤ、最後にもう1つ。」

 「ある占い師からお告げを受けたが、俺達には意味が分からなかった。翻訳を頼みたい。」

 

 そう伝えた瞬間、今まで以上に口の端を吊り上げるニヤ。

 何だか嫌な予感がするが、話をしなければ進まない。

 お告げを文章化したデータを、視界の端に置いておく。

 

 「……へぇ~?レイヴンさん、占いをする人なんだねぇ。」

 

 「花鳥風月部について聞こうと思ったら、帰ってきたのがこれだ。占いを信じてる訳じゃ無い。」

 

 「にゃはは~!それは失礼!して、そのお告げって?」

 

 『燈籠が暗夜を満たす時、魑魅魍魎が跋扈する。都はごうごうと燃え上がり、怪猫が民草の心を喰らう。』

 『貴き子よ、礎の神子よ。絢と舞い、絢と舞い、全てを祓い給え。凶運を、凶賊を、都に仇為す全ての影を。』

 『これが、お告げの全文です。』

 

 何度か頷きながら、エアによるお告げの朗読を聞いていたニヤ。

 その途中から、ニヤの表情は少々意味深なそれへと変わっていった。

 

 「……ははぁん?この感じ、大婆様でしょ。」

 

 ”凄い!よく分かったね!”

 

 「有名ですもの、大婆様の占いはよく当たるって。気に入った人にするお告げは、特にね。」

 「さて、このお告げの意味ですけど……。」

 

 「燈籠が暗夜を満たす時、これは燈籠祭の事でしょう。つまり今日です。でっ、魑魅魍魎が跋扈するって言うのは、そのまんまです。化け物がわらわら出てくるって事ですね。」

 「そして、その化け物が百鬼夜行を燃やし尽くす。怪猫の所はよく分かりませんけど、多分ヤバめの化け物でしょうね。」

 「それで、礎の神子が、ユカリさんの事でしょうね。今回の事は、ユカリさんが全てのカギになっている、と。」

 「とまあ、こんな所ですかね。参考になればいいんですが。」

 

 整理すると、今日この日、百鬼夜行に怪猫を含む化け物が現れ、百鬼夜行を焼き尽くす。

 事態を鎮めるカギはユカリだ、どうにかしろ。との事だ。

 あのペテン師が、適当な事を言いよって。

 

 「予想通り、当てにならなかったな。」

 

 「それはどうかな?まっ、占いなんて都合よく使うくらいで丁度いいんよ。」

 

 大きくため息をついた俺を、また何とも言えない胡散臭い表情で慰めてくるニヤ。

 先生の方は行動方針が固まったようで、俺達2人を見据えながら口を開く。

 

 ”一先ず、花鳥風月部を警戒しておいた方がいいね。動くとすれば、お祭りが佳境に入る頃。”

 

 「日が暮れてから、巫女が舞うまで、ですね。こういう時に、百花繚乱がいてくれると、とっても助かるんですけどねぇ……。」

 

 「いない奴らに頼っても仕方ない。俺達で対処するぞ。」

 

 「いない相手に備える事も出来ないので、陰陽部としては手は貸せませんけど……。逆に言えば、花鳥風月部のしっぽさえ捕まえてくれれば、後は陰陽部で何とかしますよ。」

 

 今回の話し合いで、僅かだが情報を手に入れ、条件付きで陰陽部の協力を取り付けることが出来た。

 急ごしらえの対応としては、十分な方だろう。

 手に入れた情報をメモリーに保存し、エアにユカリの位置を特定させる。

 

 ”ありがとう、ニヤ。やってみるよ。”

 

 「何か分かったら報告してくれ。今は少しでも情報が欲しい。」

 

 「はいはい、確かに引き受けたよ。それじゃ、お祭りを楽しんで。」

 

 部室を出て靴を履きなおし、怪談を降りて外に出ていく。

 事前の約束通り、ユカリと共にキキョウと話をするために。

 建物から外に出る直前、明らかに強い視線を感じ振り返るも、そこには誰も居ない。

 今日の朝からどんどん大きくなる、異様な胸騒ぎを抑え込みながら、先生の呼び声についていった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 陰陽部を離れてから1時間ほど。

 予定通りユカリと合流した俺達は、百花繚乱の本部、調停室へと向かう事になった。

 ユカリ曰く、キキョウ先輩は必ずそこに居る、との事。

 道中、先生からキキョウの人となりを聞かれたユカリは、理性的で合理的と答えた。

 その例として、何故かキキョウがユカリの歯磨きをチェックする話が出てきた。

 色々と言いたい事はあるが、体力を温存するため、そしてこれ以上変な話に付き合いたくないため、他所の事には突っ込まない事にした。

 

 五分ほど歩けば、百鬼夜行の伝統的な作りの家屋が見えた。そこが調停室らしい。

 表札が掛けられていたであろう、壁の一部の色が少し変わった門をくぐり、入口へと向かう。

 扉の手前まで近づくと、中から聞こえてくるのは、2人分の話声。

 どうやらユカリは、そのどちらかがキキョウであると確信したのか、扉を3度叩き、返事を待たず建物に入った。

 

 「キキョウ先輩!身共、参りましたわ!お邪魔いたします!」

 

 ブーツを脱いで部屋に上がれば、中にいたのは桃色の制服を着た生徒と、2つの尻尾を持つ黒猫の様な生徒。

 どちらも突然の訪問者に驚いているのか、俺達3人を見回している。

 ユカリの話を聞く限り、黒猫の方がキキョウのはずだ。

 

 ”シズコ?どうしてここに?”

 

 「……ユカリ?」

 

 「キキョウ先輩、ご無沙汰しておりますの!」

 「キキョウ先輩、こちらシャーレの先生です!その隣は、護衛のれいぶんさんです!お二方は、身共に付き合っていただいておりますの!」

 

 ”よろしくね、キキョウ。”

 

 キキョウに対して紹介された先生は、朗らかな笑みをキキョウに向ける。対して俺は軽く会釈をする程度。

 キキョウから警戒されているのが丸わかりだからだ。

 いきなりやってきた初対面の人間に対する態度としては、キキョウのそれは正しいものだとは思うが。

 それともう片方の生徒は、突然の事に頭が追い付いていないらしく、座布団に座ったまま俺達を見回している。

 

 「……ああ、そういう事。」

 

 ”シズコ、今は燈籠祭の準備で忙しいんじゃないの?”

 

 「あっ、はい!実は、その燈籠祭のクライマックスについて、勘解由小路家のお力を借りたいと思っていまして。」

 

 「……あっ。」

 

 シズコと呼ばれた生徒の言葉に、ユカリは確かに反応した。

 勘解由小路家の務めとは、燈籠祭で舞を踊る事。ニヤからの情報は正しかったようだ。

 

 「……だってさ、勘解由小路ユカリさん。お祭り運営委員会の委員長から、あんたに話しがあるんだって。」

 

 「この方が!丁度良かった!勘解由小路さん!突然ですけど、私達お祭り運営と一緒に、この燈籠祭を盛り上げてもらえませんか!」

 

 「……申し訳ありません、お祭り運営委員会の委員長殿。身共はお力添えできませぬ。」

 「身共は、百花繚乱でありたいのです。」

 

 「……ええっ!?」

 

 「やっぱり……。」

 

 満面の笑みでユカリに詰め寄るシズコだが、その願いはあっけなく突き放された。

 悲しげな表情を浮かべるシズコに対し、キキョウは分かり切っていたようにため息をつく。

 

 「委員長殿、キキョウ先輩とお話しさせていただいても?」

 

 「はっ、はい。大丈夫、ですけど……。」

 

 シズコがそう答えると、先程まで彼女が座っていた座布団に、膝を折りたたみ脛を下にして座る。

 ユカリとキキョウが机越しに向かい合う。

 それを見ていた先生も、2人から少し離れた場所で同じように座り、シズコは先生の隣でまた同じように座る。

 俺は剥き出しの柱に寄りかかり、すぐに動けるように立っていた。

 

 「キキョウ先輩。身共は、百花繚乱の勘解由小路ユカリでありたいと願っております。」

 「そのために、キキョウ先輩にお力添えいただきたいのです。」

 「身共は、ナグサ先輩に継承戦を申し込むつもりです。どうか、継承戦の証人になっていただけませんか。」

 

 「……あんたらしいね。ナグサ先輩に勝てる見込みだってない癖に。」

 「あの人は強いよ。私よりも、あんたよりも、ずっと。」

 

 「……ありますとも!身共は、百花繚乱の、えりーとですので!」

 「必ずナグサ先輩に勝利し、委員長となった身共が、この百花繚乱を、百鬼夜行を元通りにしてみせますの!」

 

 「……あんた、自惚れ過ぎでしょ。計画性がまるでない事に気づいてる?」

 「確かに、その志は立派だと思うよ。でも、力も無しに何が出来るの?」

 

 「やってみなければ、分かりませんわ……!身共が必ず――」

 

 「断る。あんたが何を言ったって変わらないよ。」

 「百花繚乱はもう解散した。あんただって、いつかこうなるって分かってたでしょ。」

 「事実を受け入れて、ユカリ。」

 

 ユカリがぶつける熱量を、キキョウは涼しい顔でかわし続ける。

 普段から似たような力関係だったのだろう。ユカリの言葉は、キキョウに届いていない。

 しかし、ユカリにはまだ策があるようだ。

 

 「……でしたら!」

 「キキョウ先輩!この身共、あなたに模擬戦を――」

 

 「よせユカリ。お前がキキョウに勝てるとは思えん。」

 

 「そんな事は……!そんな、事は……!」

 

 俺からも否定されたのが効いたのだろう。ユカリの目元にジワリと涙がたまり始めた。

 俺の前にいた先生とシズコも驚いていたが、考えなしに話しを止めたわけでは無い。

 

 「……護衛の方が話が分かるみたいだね。ユカリを連れて――」

 

 「ユカリの話は済んだ。ここからは、俺達の話だ。」

 

 「……まずユカリを連れて行って欲しいんだけど。」

 

 「そうも行かん。この場にいる全員に関係がある話でな。」

 

 「えっと、私も関係あるんですか……?」

 

 他の3人と一緒に、俺に目線を向けていた先生に対し、軽く頷いて話を促す。

 若干の不安はあるが、意図は通じているはずだ。そこまで阿呆じゃないだろう。

 

 ”実は、陰陽部宛てに、花鳥風月部から脅迫文が届いたんだ。燈籠祭りの日に、百鬼夜行を燃やし尽くしてやるって。”

 ”陰陽部も最初は、百花繚乱に祭りの警備をお願いする予定だったんだけど、もう解散してるから、私に話が流れてきたんだ。”

 

 「脅迫文!?で、でも、花鳥風月部って、あの花鳥風月部ですか?」

 

 「それであんた達が百鬼夜行にいるって事か……。」

 

 「キキョウ先輩!お聞きになったでしょう!百花繚乱が、私達が必要とされているのです!」

 

 どうやら、ユカリも俺達の話を利用できると気づいたようだ。

 すぐに気持ちを切り替え、今度はユカリのわがままではなく、組織として必要とされていると訴える。

 だが、キキョウの表情が変わることは無く、静かに言葉をつづる。

 

 「その手の手紙は、祭りの時にはよくある話。わざわざ私達が動くまでも無い。」

 「解散を取り消す理由にもならないよ。」

 

 「……お前、作戦参謀を名乗る割には、全体が見えていないらしいな。」

 

 「……何が言いたいの?」

 

 食いついた。安い挑発だったが、簡単にかかってくれたものだ。

 若干眉根をひそめ、こちらを睨むキキョウに、俺も態度を変えることなく対応する。

 

 「エデン条約の調印式、そこで何が起きたか知ってるか?」

 

 「えでん条約……。確か、会場が襲撃を受けたと……。」

 

 「そうだ。俺達はその現場にいた。そこで相手にしたのは、何だと思う?」

 「トリニティの、過去の亡霊だ。密かに動き、兵力を集め、トリニティとゲヘナを潰す機会を虎視眈々と狙っていたんだ。」

 「あの時は、事前に十分な時間があり、やり過ぎな程に準備を整えたからこそ、ほぼ損害なく迎撃することが出来た。さて、今回はどうだろうな。」

 

 「来ると確定してる訳じゃ無い相手に、もっと言えば、本当に存在するかも分からない相手に、どう備えるって言うの?」

 「あんたこそ、全体像が見えてないんじゃない?」

 

 ”確かにそうだね。でも、エデン条約の時と今回の状況が、結構似てるんだ。備えておく理由は十分あると思うよ。”

 

 俺達の話を一蹴したキキョウだが、シズコとユカリは不安そうな表情を浮かべている。

 既に、場の雰囲気は俺達に傾き始めている。それを知ってか知らずか、キキョウはなお協力する姿勢を示さない。

 

 「まあ、今回は既に時間がない。出来るとしても、兵力を整えて柔軟に動くぐらいが精々だろう。」

 「だが、情報があれば話は変わってくる。情報の有用性を、お前はよく分かっているはずだ、桐生キキョウ。」

 

 「だから、よそ者のあんた達に知恵を貸せって?」

 

 「そうだ。花鳥風月部について、知っている事を教えてくれ。謝礼は出す。」

 

 ”キキョウ。私達は、何を相手にしてるかも分かってないんだ。どうか、手を貸して欲しい。この通り。”

 

 姿勢を整え、座ったままキキョウに頭を下げる先生。土下座と呼ばれる、謝罪や懇願の姿勢だ。

 ユカリとシズコは、先生がいきなり土下座した事に驚き、頭を上げさせようとしている。

 何度か排除対象に土下座されたことがあるが、全員頭を撃ち抜くか踏みつけてやった。受け入れる意味が無い。

 そして恐らく、それはキキョウにとっても同じこと。

 

 「……断る。」

 

 「――ッ!?何故ですか、キキョウ先輩!」

 

 「あんた達、花鳥風月部が何なのか分かってないみたいだからね。それを1から教えるなんて、ごめんだよ。」

 

 「キキョウ先輩……。どうしてそこまで頑ななのですか……。」

 

 先生渾身の土下座が断られた事で、万策尽きたかという雰囲気が漂い始める。

 だが、確実に情報を引き出す手段は、まだ残っている。

 柱から背中を離し、キキョウに向けてゆっくりと歩く。

 それに反応したキキョウは立ち上がり、俺に敵意を向けてくる。

 

 「……なら、力で引き出せばいいか?」

 

 「……やる気?」

 

 「ああ、1戦やろう。お前が勝ったら、俺達は帰る。俺が勝ったら、質問に答えてもらう。謝礼は結果を問わず払おう。」

 「まあ、頭が居なくなっただけで、解散を決意するお前が、俺に勝てるとは思えんがな。」

 

 「……上等。」

 

 玄関に早歩きで向かうキキョウ。自分の靴を取りに行くのだろう。

 俺もキキョウに続き、愛用のコンバットブーツを取りに玄関まで戻る。

 

 ”れ、レイヴン!ストップストップ!”

 

 「悪いが、もう相手の方が乗り気だ。安心しろ、手加減はする。」

 

 「手加減?あんたはされる方でしょ。」

 

 「何だか、大変な事になっちゃいましたね……!」

 

 演習場に続く縁側で靴を履き、キキョウに続いて演習場の中央まで歩く。

 お互いに5m程離れ、正面から向かい合う。その横で、先生達が縁側に座って、俺達を心配そうに見つめている。

 キキョウの服はセーラー服に法被、靴はサンダルの様な構造、銃はボルトアクション。

 この装備の時点で戦いを舐めてるとしか言いようがないが、決して油断はしない。

 

 「百花繚乱の模擬戦、そのルールは単純。相手が降参するか、拘束等で戦闘不能にすれば勝利。」

 「戦闘には実弾を使う。だから、当たると痛いよ。いいよね?」

 

 「構わん。それで、禁じ手はあるのか?」

 

 「今回は無し。相手を殺さないなら、なんでも使っていい。」

 

 「良いな。やりやすくて助かる。」

 

 「ユカリに、シズコ委員長、それにシャーレの先生も見てる。イカサマは通じないよ。」

 

 「ああ、分かってるとも。それでルールが全部なら、さっさと始めよう。」

 

 「シズコ委員長、模擬戦開始の合図をお願い。」

 

 「はっ、ハイ!」

 

 3人の中でも、特に心配そうに俺を見つめる先生。心配の内容は分かってる。

 俺の体が治りきっているのかという事と、キキョウを痛めつけ過ぎないかの2つ。

 ふと、ユカリと初めて出会った時の事を思い出し、ある言葉を贈る事にした。

 

 「ユカリ。お前を弟子に取る事は出来ないが、戦いを見せてやることは出来る。」

 「傭兵流、見て学ぶといい。」

 

 背中からLMGとショットガンを取り出し、軽く持ち上げて構える。

 何かを察したキキョウは、片手で持っていた銃を持ち直し、ストックを二の腕に置き両の手で構えた。

 その時に、僅かだが後ずさりした事を見逃してはいない。

 

 「――ッ!何て、覇気なのでしょう……!」

 

 ”レイヴン!本当に手加減を忘れないでね!”

 

 「……用意!」

 「……始――」

 

 キキョウが動き出す前に急接近し、無防備な顔面にショットガンの銃口を突き付ける。

 引き金を引く直前にキキョウは左に回避。放たれたバックショットはキキョウの頬をかすめる。

 キキョウと一定の距離を保つように走りつつ、足元に向けて5.56mm弾を乱射。

 バックステップで距離を取り、片手だけで狙いを付けようとするキキョウ。

 放たれた銃弾を屈んでかわし、そのままキキョウに向けて加速する。単純なスピードなら、俺の方が速い。

 なお後ろに下がろうとするキキョウだったが、踵が小石に引っ掛かりバランスを崩した。

 隙を逃さず飛び上がり、キキョウの両肩に両足を乗せて、勢いのまま地面に押し付ける。

 倒れこんだキキョウの顔面にしゃがみ込み、両手の銃口を額に押し付けて動きを封じる。

 ここまで、大体8秒足らず。

 

 「チェックメイト。」

 

 銃で頭を軽く小突いて、キキョウの上から離れる。

 武器を背中にしまい、息の荒いキキョウに向けて手を伸ばすが、断られた。

 一度キキョウから離れ、安堵の表情を隠さない先生に向けて、軽く頷く。

 

 「……凄い。10秒も、経ってないですよね……?」

 

 「キキョウ先輩が、ああも簡単に……!なんて、見事な戦い……!」

 

 「復帰前のウォームアップには悪くない。それで、約束は覚えているな、キキョウ。」

 

 法被を握り、背中に付いた砂を払い落しているキキョウに対し、軽く詰め寄る。

 青い法被を羽織り直し、大きなため息を1つついてから、キキョウは俺に顔を向ける。

 

 「…………何が聞きたいの?」

 

 百花繚乱の正義、それは力の優劣で決まる。

 俺は今、キキョウに対し自分の力を示した。

 故に、キキョウは従わねばならない。

 彼女もまた、百花繚乱なのだから。




ニヤに京都弁を喋らせたい気持ちをぐっとこらえて書きました。
あの食えない感じが京都弁によく合うのよ……。

レイヴンとキキョウ、経験値が違いすぎるからね、しょうがないね。
真正面からいっせーので戦い出したらこうなるよ。
次回辺りから怪談らしくなってくると思いますので、ご期待ください。

次回
狂いだす絡繰り
なぁんか本編でも情報少なくない?おかしくない?

次回も気長にお待ちくださいませ……。
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