BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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最終章の後、クロハの事を追いかけていた子がいたようです。
読まなくとも本編には一切影響が無いので、ご安心ください。


オマケ.クロノス生のインタビュー記録

 最強の個人とは誰なのだろうか。

 キヴォトスに生きる者ならば、誰もが1度は頭に浮かべた疑問だろう。

 候補は沢山いる。

 元SRTを始めとする特殊部隊員。

 ゲヘナ学園風紀委員会の空﨑ヒナ。

 トリニティ総合学園の正義実現委員会、剣先ツルギ。

 ミレニアムサイエンススクール秘密部隊、C&Cの美甘ネル。

 かつて栄えていたアビドス高校にも、1人凄まじい実力を備えた者が居たのだとか。

 だが、誰か1人を推薦するのなら、私は独立傭兵レイヴンを選ぶ。

 黒い凶鳥と称されるほどの、圧倒的な実力と徹底した容赦の無さ。

 ヴァルキューレの事件アーカイブにある情報だけでも、その実力を推し量るには十分すぎるほどだろう。

 私は彼女を調べていくうちに、ある事が気になった。

 彼女の功罪は広く知れ渡っているが、彼女本人の事が語られる事はほぼ無い。

 彼女も同じ人間なら、趣味の1つでもあるのではないか。

 1度何かが気になってしまうと、それだけで頭がいっぱいになり、夜も眠れなくなる。私の悪い癖だ。

 気になるなら、調べればいい。

 1度本人に取材依頼を出してみたが、オペレーターのエアを名乗る人物に門前払いされてしまった。

 そこで私はレイヴンの足跡をたどり、彼女と関わってきた人々から、彼女の事を聞き出すことにした。

 これは、そのインタビュー記録である。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ゲヘナ学園風紀委員会、その委員長たる空﨑ヒナ。

 ゲヘナの治安はこのキヴォトスでも有名。そんな学園の風紀委員会となれば、その心労は察するに余りある。

 事実、私とのインタビューの日、空﨑氏の目元にはクマが刻まれており、インタビューを中止しようかと提案したほどだ。

 だが、彼女の厚意に与り、予定通りインタビューを行う事になった。

 

 ――取材依頼を受けてくださり、ありがとうございます。しかし、本当にお休みになられなくてよろしいのですか?

 

 空﨑「大丈夫。心遣いに感謝するわ。生憎、慣れているから。」

 

 ――本当に、いつもお疲れ様です。では、早速本題に入らせていただきますね。

 

 空﨑「確か、レイヴンについて聞きたい、と把握しているけど。」

 

 ――おっしゃる通りです。ただ、今回は彼女の人となりについて聞いてみたいと考えておりまして。

 

 空﨑「人となり?そうね……。風紀委員長として答えるなら、レイヴン程危険な個人はいない。ハッキリそう言える。」

 

 ――危険ですか。確かに、彼女の戦績は目を見張るものがありますが。

 

 空﨑「確かにそう。けど、本当の問題はそこじゃない。彼女には、特定のクライアントがいない。依頼主を決して特定せず、十分な報酬があれば、どんな危険な依頼も引き受ける。だから、次の動きが全く予想できない。それもあって、対応が後手に回ってしまうのが現実。」

 

 ――フリーランスが取引先を持たない事が、出来るんですね。

 

 空﨑「そう。普通だったら難しい。でも彼女は難なくやってのけてる。それが当然だと言わんばかりにね。だから、厄介。」

 

 ――彼女の驚異的な実力と、それに対する自信があるからこそですかね。

 

 空﨑「私もそう思う。1度彼女と殴り合いになりかけた事があったのだけれど、その時に感じた覇気、いえ、殺気は、今まで感じたことが無いくらい強いものだった。正直、今でも勝てるかどうか分からない。今もなお、彼女は実力を伸ばしているから。」

 

 ――なるほど。飽くなき向上心も持ち合わせていると。確かに、治安部隊としては厄介ですね。

 

 空﨑「ここからは、私個人として答えるけど、そうね……。レイヴンは、頓着が無い人、かしら。」

 

 ――頓着が無い、ですか。

 

 空﨑「ええ。私が今まで関わってきた傭兵は、名誉欲や財欲が強い事が多かった。けれど、彼女からはそれを感じない。名誉が欲しいなら、裏社会で暴れれば良いし、報酬が欲しければ、大企業だけから依頼を受けていればいい。けれど、彼女はそうしない。時に損得を無視して動くことすらある。直近だと、エデン条約の時がそうかしら。」

 

 ――レイヴンに依頼するには、相当高額な報酬が必要だったはずですが、それは彼女の財欲からではないと。

 

 空﨑「多分だけど、彼女には、仕事には十分な対価を払うという美学がある。だから、報酬の支払いを渋られれば依頼主に報復するし、レイヴンが依頼を出す時は、彼女から相場の3倍の報酬が支払われる事も珍しくない。」

 

 ――危険にはそれ相応の対価を、という事ですか。それより、レイヴンが誰かに依頼を出すこともあるんですね。

 

 空﨑「そうよ。うちで把握しているのは、便利屋68ね。時折レイヴンから依頼を受けてる。話をしてみる?」

 

 ――では、後で便利屋68の連絡先を頂きますね。

 

 空﨑「もう時間ね。悪いけど、インタビューはここまで。連絡先はアコに聞いて。」

 

 ――はい。本日はありがとうございました。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 便利屋68は、ゲヘナ生の陸八魔アルを社長とする傭兵企業。

 社員はわずか4名。全員ゲヘナ生で、業績はあまり芳しくないようだ。

 それでもオフィスはしっかりした部屋であり、お茶も出してくれた。

 インタビューの日は偶然依頼が入っていなかったようで、社員の3人が陸八魔社長とのインタビューを聞いていた。

 

 ――本日はお時間を取っていただき、ありがとうございます。

 

 陸八魔「ええ、よろしく。確か、レイヴンについて調べているのよね?」

 

 ――はい。今回は、彼女の人となりに迫れればと思っていまして。

 

 陸八魔「それなら、私からの答えは1つ。レイヴンは同業者であり、良きライバルよ!」

 

 ――ライバルですか。しかし、彼女はキヴォトストップクラスの傭兵ですが。

 

 陸八魔「志の問題よ!私達はね、レイヴンが傭兵として花開く前から彼女を知っていたの。その時から片鱗は見えていたけれどね。初対面は確か、仕事でぶつかったのかしら。」

 

 浅黄「めっちゃ強くて勝てなかったんだよね。その上縛り上げられちゃったんだ。だよね、アルちゃん?」

 

 陸八魔「社長と呼びなさい!」

 

 ――レイヴンが傭兵として名を揚げる前から、彼女は実力者だったと。

 

 陸八魔「(咳払い)その通りよ。入念な準備で徹底的に叩くというスタイルも、あの時から変わっていないわ。使える手は、全て打つ。それが彼女の強さね。」

 

 ――身をもって味わっているからこそ、彼女の強さが分かる、という事ですか。

 

 陸八魔「そうね。彼女は本当に強いわ。こちらから仕掛けるにも、半端な不意打ちは通用しない。数で襲おうにも、その機動力で包囲できない。質で攻めようとしても、彼女の方が質が高い。相手にすると、これほど厄介な個人は居ないわね。」

 

 ――そういえば、時折レイヴンから依頼を受けているとお聞きしました。どの様な依頼でしたか。

 

 陸八魔「聞いて驚きなさい。レイヴンの地下施設の調査に同行したのよ!彼女からは危険と聞いていたけれど、それに臆する私たちではないの!そこは何処の組織のものか分からない、未知の施設。大量のロボットやオーパーツが詰まった場所だったわ!」

 

 ――他の傭兵ではなく、あなた達に依頼したんですね。

 

 陸八魔「その通りよ!私達の実力も、彼女に伝わっていたのよ。でなければ、レイヴンが私達に依頼をすることは無いでしょう?」

 

 ――確かにそうですね。では、レイヴンとプライベートで関わる事はありましたか?

 

 陸八魔「そうね、仕事で関わる事はあっても、プライベートは無いわね。あの子、友達いるのかしら。」

 

 ――他の社員さんはいかがですか?

 

 陸八魔「そういえば、あの子が他の人と積極的に関わっているところは見た事が無いわね。もしかして、仕事以外での関わり方が分からないのかしら。」

 

 ――レイヴンがどこの出身だとか、そう言った話は?

 

 陸八魔「聞いたことが無いわね。噂だと、キヴォトスの外から来たって言われてるけど。ごめんなさい、あまり役に立てないみたい。」

 

 ――いえいえ、こうしてお話ししていただけるだけで十分です。しかし、外から来たとは。本当なら、あのシャーレの先生と一緒ですね。

 

 鬼方「あながち、間違いでもないかもよ、外から来たって話。」

 

 ――そう思われる事があったんですか?

 

 鬼方「戦い方もそうだけど、戦いの価値観がキヴォトス人らしくなくてさ。相手を徹底的に叩くのは、その価値観に繋がってると思う。」

 

 ――確かにそうですね。私もレイヴンの事件レポートは読んでます。実に容赦の無い戦い方をしますよね。

 

 鬼方「そう、アイツは相手がたった1人生き残る事すら許さない。でも、キヴォトスでそこまでする理由なんて早々ない。多分、外で痛い目を見てきてるんじゃないかな。」

 

 ――まるでトラウマになっているかのようだと。

 

 陸八魔「そう?彼女が何かに怯える事なんてあったかしら?」

 

 ――レイヴン、やはり謎の多い人物ですね。

 

 陸八魔「確かにそうね。私達ですら知らない事ばかり。」

 

 鬼方「次はミレニアムに行ってみたら。アイツが使ってるパワードアーマー、ミレニアム製だからね。」

 

 ――そうさせてもらいます。今日はありがとうございました。

 

 陸八魔「あの、もし雑誌に乗せる時は、便利屋68を宣伝してくれないかしら?最近依頼が来なくて。」

 

 ――出版する時に、上と掛け合ってみます。本当にありがとうございました。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 今度はミレニアムサイエンススクール。

 エンジニア部に聞き込みをしたところ、医療研究開発会の緑谷ミサトが詳しいとの事だったので、彼女に話を聞いてみる事にした。

 アポを取っていない訪問だというのに、彼女は快く歓迎してくれた。

 彼女の担当であるクローニング部門の研究室で、お話を伺った。

 

 ――お忙しい中突然お邪魔してしまって、すみません。

 

 緑谷「別に良いわよ。ここの所研究漬けで、気分転換したかったから。それで、聞きたい話って何かな?」

 

 ――はい。独立傭兵レイヴンの人となりについて調べていまして。関係が深いと言われるあなたから、お話をお聞きしたいなと。

 

 緑谷「また珍しい取材してるわね、アイツの人となりに迫るって。」

 

 ――私の個人的興味もありまして。

 

 緑谷「まあ、アイツには謎が多いからね。私も知らない事の方が多いかな。」

 

 ――彼女と親しいあなたでも、知らないことがあると。

 

 緑谷「そもそも私、アイツの本名知らないしね。多分誰にも話してないんじゃない?」

 

 ――本名すら隠していると。徹底して情報を隠しているのでしょうか。

 

 緑谷「かもね。傭兵稼業なんて、危険が付き物でしょ?だから自分の情報を出来るだけ伏せて、安全を確保しようとしてるんじゃない?」

 

 ――傭兵としてのサバイバル術、という事ですか。

 

 緑谷「あるいは、全部捨てたのかも。自分の過去を、名前とか思い出とか、自分の事を知ってる人とか、全部さ。」

 

 ――そう思われる何かがあったんですか?

 

 緑谷「目がね、重たい病気を抱えた人とかと同じなのよ。何もかも諦めて、もういいやって投げ出して、後は死を待つだけっていう人たちと一緒。まっ、アイツにそんな雰囲気全然ないんだけどね。」

 

 ――全てを諦めた目、ですか。そうなるには、理由がありそうですけど。

 

 緑谷「でしょうね、私もそう思う。でもアイツ、自分から身の上話をするタイプじゃないからさ。聞くのは何か気が引けるし、多分聞いても話してくれないんじゃないかな。」

 

 ――辛いことがあったら、誰かに話したいと考えたりすると思うんですが、他に話す友人が居るのでしょうかね。

 

 緑谷「いるわよ、どんなに辛いことがあっても話そうとしない人。アイツがそのタイプかは分からないけど。それに、全部知ってる友人が、アイツのすぐそばに居るのよ。」

 

 ――それは、どなたですか。個人情報は伏せますので、教えていただけませんか。

 

 緑谷「AIよ。レイヴンのオペレーターを名乗ってる、エアって子。詳しくは聞いてないけど、相当関係が深いみたいね。多分、レイヴンがキヴォトスに来る前から、アイツの傍にいる子。」

 

 ――エアさんがそうなんですか。しかし、緑谷さんも、レイヴンが外から来たと考えているんですね。

 

 緑谷「私だって噂は聞いてるもの。個人情報だから詳しく言えないけど、1度酷い怪我をして、外で手術したって本人から聞いてるし。」

 

 ――怪我で手術を。彼女がそれだけ大きい怪我を負うなんて、イメージが湧きませんね。

 

 緑谷「確かに。でも、私達だってキヴォトスの外がどうなってるかなんて、分かんないじゃん。ここよりずっと酷い世界を、あの空が赤くなった日みたいな戦場を、生き抜いてきたのかもね。あるいは、どっかでヘマして転んだとか。(笑う)」

 

 ――(笑う)しかし、本当に謎が多いですね。調べるほど謎が増える、不思議な人です。

 

 緑谷「そうね、本当によく分かんない奴。ずっと仏頂面だし。(笑う)」

 

 ――不愛想なのも、彼女の特徴なのでしょうね。それじゃ、今日はこれで。

 

 緑谷「はいどうも。私達医者の世話にならないようにね。」

 

 ――気を付けます。本日はありがとうございました。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 場所は変わって、トリニティ総合学園。

 手がかりが無くなってしまったので、正義実現委員会から話を伺う事にした。

 治安部隊の待機所のイメージからかけ離れた小綺麗な部屋に通され、ソファに座っていると、剣先ツルギ委員長が対面に座ってきた。

 本当は羽川ハスミ副委員長が応対する予定だったそうだが、急遽仕事が入ったとのことだった。

 

 ――本日は取材に応じていただき、ありがとうございます。

 

 剣先「よ、よろしくお願いします。」

 

 ――そんなに緊張されなくとも、大丈夫ですよ。そうお時間は頂きませんので。

 

 剣先「キヒッ!?あっ、ありがとう。それで、聞きたい話って……。」

 

 ――はい。今、レイヴンの人となりについて迫りたいと思っていまして。

 

 剣先「アイツに、ついてか。直接取材したのか?」

 

 ――いえ、彼女のオペレーターに断られてしまいまして。それで、彼女と関わりのある方々から、お話を伺いたいなと。

 

 剣先「良かった……。アイツに近づく時は、気を付けろ。不用意に近づくと、勘付かれて反撃される。」

 

 ――もしかして、この取材をしてるのも、結構マズいですかね?

 

 剣先「(頷く)うちの調査員が、2人やられてる。それも、調査初期の段階で。出来るなら、レイヴンの事を調べるのは、止めた方がいい。」

 

 ――それでも、お話を聞きたく思います。危険が迫っても、好奇心が勝ってしまうのが、記者の悪い所ですね。

 

 剣先「分かった。危ないと思ったら、私達やヴァルキューレに言うんだぞ。」

 

 ――忠告、感謝します。それで、レイヴン個人について、何か知りませんか。

 

 剣先「申し訳ないけど、レイヴンについては私達も知らない事が多い。あまり、助けになれないかも。」

 

 ――噂程度でも構いません。何か手掛かりになるような話が頂ければ。

 

 剣先「レイヴンには、行きつけの店がある。ブラックマーケットにある、Tim's Dinerという店だ。いつも、凄い量の食事を頼むらしい。」

 

 ――彼女は大食漢だと聞いていましたが、噂通りなんですね。

 

 剣先「ずっと体を動かしているから、食べなければ持たないんだろう。」

 

 ――確かに、彼女はずっと仕事を続けているようですからね。最近は、活動していないようですが。

 

 剣先「多分、あの戦いで傷ついてる。今は、それを治すために、じっとしているんじゃないか。」

 

 ――あの戦い。空が赤く染まった日、ですか。

 

 剣先「(頷く)あの日、レイヴンはブラックマーケットで戦ったと聞いてる。異常な大軍が襲い掛かってきたそうだ。それをさばき切るのは、簡単じゃなかったはず。」

 

 ――そんな大軍に襲われてもなお、彼女は生きている。幸運の女神が、彼女に微笑んでいるのでしょうか。

 

 剣先「そうかも、しれない。あるいは、死神に愛されてるか。」

 

 ――どうかされましたか。震えているようですが。

 

 剣先「弱音を吐いていいか?」

 

 ――もちろん。オフレコにします。

 

 剣先「私は、レイヴンが恐ろしい。」

 

 ――恐ろしい、とは?

 

 剣先「正直に言うなら、私は、戦いを楽しんでいる。戦っていると、こう、何かが満たされるような感覚がするんだ。ただ、これを表に出すべきじゃないって事も、分かってる。でも、レイヴンは違う。私以上に、恐ろしい何かが、アイツの中にいる。」

 

 ――恐ろしい何か。闘争を楽しむ心、ですか。

 

 剣先「(頷く)レイヴンと会うまで、それは私が一番強いと思ってた。でも、初めてアイツの目を見た時、飲み込まれそうになった。アイツの、闘争心に。私が抱えていたものより、何倍も強い、闘争心だった。私の中には、戦いを楽しむ怪物がいる。けれど、アイツの中には、もっと大きく強い怪物が居るんだ。だから、私はレイヴンが、恐ろしい。」

 

 ――お話ししてくれて、ありがとうございます。だから最初に、あれだけ警告してくださったんですね。

 

 剣先「本当に、気を付けろ。レイヴンは非戦闘員だろうと、容赦はしないぞ。」

 

 ――肝に銘じておきます。協力してくださり、本当にありがとうございます。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ブラックマーケットの一角、剣先委員長の話にあったTim's Dinerに向かった。

 店内は少々ガラの悪い人が多かったが、決して暴れるような事はしない。

 レイヴンが良くここに来るというのは、この店では有名なのだろう。

 私はこのダイナーの店主、ファットマン氏と、常連のマグノリア氏に話しを伺う事にした。

 

 ――お時間いただいてすみません、店長。

 

 ファットマン「ファットマンでいい。敬称で呼ばれるとむず痒いんだ。」

 

 ――では、そうさせていただきます、ファットマンさん。

 

 ファットマン「それで、何が聞きたい?レイヴンの事を嗅ぎまわってるそうじゃないか。」

 

 ――ご存じなんですか?

 

 ファットマン「もちろん。飲食店は噂が集まりやすいんだ。気を付けろよ?」

 

 ――以後、気を付けます。それでは早速本題に。あなた方から見て、レイヴンとはどんな人物ですか?

 

 ファットマン「そりゃお得意様だ。アイツがいつも頼むメニュー、知ってるか?特大のバーガー3つに山盛りのポテト、それにシェイクが2つとコーヒーを1杯だ。良く食うだろ。」

 

 マグノリア「聞いてるだけで胃もたれしてくる。よくそんなに食べられるわよね。」

 

 ――マグノリアさん、あなたから見て、レイヴンとは?

 

 マグノリア「ライバルよ。私は半ば引退してた身だけど、レイヴンが切っ掛けで復帰したのよ。」

 

 ――彼女が切っ掛けですか。

 

 マグノリア「そうよ。私は、レイヴンが妬ましかった。ただ強くあろうと、私が目指した場所を、レイヴンは数ヶ月で超えていった。傭兵として何年も戦い続けてきたのに、彼女に軽々と飛び越されたのが、悔しかったのよ。」

 

 ファットマン「それでレイヴンに喧嘩を吹っ掛けて、あえなく返り討ちにあったんだよな、マギー。」

 

 マグノリア「ファットマン、余計な事言わないで!」

 

 ――完成された傭兵と、黒い凶鳥の立ち合いですが。この目で見て見たかったですね。

 

 ファットマン「凄かったぞ!お互いビュンビュン飛び回ってな!確かにマギーも強いが、アイツはそれ以上だ!(笑う)」

 

 マグノリア「でも、再戦できるならしたい所よ。結局、マーケットガードのせいで、決着は付けられなかったから。」

 

 ――レイヴンの方が実力が上という所は、否定しないんですね、マグノリアさん。

 

 マグノリア「悔しいけど、事実だもの。正直、全盛期の私でも勝てるかどうか分からない。でも、その方がいい。結末が分かってる勝負程、つまらないものは無いから。」

 

 ――まさに、超えるべき壁、という事ですか。

 

 マグノリア「ええ。いつか必ず超えてみせる。」

 

 ファットマン「アイツのおかげで、俺は店が潤うし、マギーも生き生きしてる。これからも良くしてやらないとな。」

 

 ――お2人は、彼女の数少ない友人なのですね。

 

 マグノリア「そうね、友人よ。」

 

 ファットマン「そういえば、俺達はアイツの本名を知らないな。無理に知る事でもないだろうがな。」

 

 ――お2人も、レイヴンの本名はご存じないと。

 

 マグノリア「私みたいに、傭兵が一部でも本名を使ってるのは、駆け出しか命知らず位よ。ある程度慣れてくれば、偽名を使った方がいいって嫌でも知る事になるから。」

 

 ファットマン「だから俺達は、アイツの名前を聞こうとも思わない。その方が、お互いに幸せだろうからな。」

 

 ――傭兵、というより、裏社会特有のルールなんですね。

 

 ファットマン「ああそうだ。お前も気を付けろよ。簡単に名刺を出すと、名前とかを体よく使われちまうからな?」

 

 ――やはり恐ろしい場所ですね、ブラックマーケット。

 

 ファットマン「さて、話はここまでにして、何か食っていけ。腹が減っただろ?」

 

 マグノリア「コーヒーとパンケーキにしておきなさい。他の料理は、脂っこい上に量も多いから。」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 調べるほど謎が増える人物、レイヴン。どれほど調べても、彼女の戦績に埋もれて人となりの情報は出てこない。

 しかし、私はここである事を思い出した。

 シャーレの先生であれば、レイヴンと関わりがあるのではないか、と。

 ダメもとでシャーレの当番に応募してみたところ、何と当選。

 あのシャーレの先生との、2人きりでのインタビューが実現できた。

 

 ――今回のインタビュー、お付き合いいただきありがとうございます。

 

 先生「ううん、仕事熱心なのは良い事だよ。君が手伝ってくれたおかげで、書類も早く片付いたしね。」

 

 ――お役に立てたなら何よりです。それでお聞きしたいのが、レイヴンについてでして。

 

 先生「あの子の事?個人情報とかは話せないよ。」

 

 ――いえ、今回は彼女の人となりに迫りたくて。例えば、彼女の趣味とかに。

 

 先生「そういう事か。でも、私じゃ余り役に立てないかな。私もあの子の事をよく知ってる訳じゃ無いから。」

 

 ――先生もですか?あれだけの戦績なら、連邦生徒会で話題になってもおかしくないと思うのですが。

 

 先生「そうだね、実際1回話題になったかな。でも、すぐ収まったよ。ただ暴れるだけの、乱暴者じゃないって分かったからね。」

 

 ――乱暴者じゃない、ですか。

 

 先生「そうだよ。あの子は、みんなが思ってるより、ずっと優しい子だよ。」

 

 ――例えば、どんなエピソードがありましたか?

 

 先生「そうだね……。あの子は1度、アビドス高校の生徒に助けられたことがあるんだ。ただ、その学校は借金を抱えてた。それを知ったあの子は、助けられた恩を返すため、ブラックマーケットで仕事を始めたんだ。それがあの子が傭兵になった切っ掛けかな。」

 

 ――それが彼女の傭兵としてのルーツなんですね。恩を返すためだったとは。

 

 先生「うん。それからあの子は目いっぱい働いて、借金がある企業からの不当なものだと分かったら、その企業とも戦った。それで、最終的には10億の借金をチャラにしたってわけ。」

 

 ――なんだか、少し前に世間を騒がせた企業が関わってそうな話ですね。

 

 先生「(笑う)そうかもね。ただ大事なのは、あの子は一宿一飯の恩を返そうと、自分が持てる全てを使ったんだ。それだけでも、ただ強いだけじゃないって分かるでしょ。」

 

 ――確かにそうですね。恩を忘れてしまう事だって出来たでしょうに。

 

 先生「でも、あの子はそうはしなかった。自分の意志で、恩を返すことを選んだ。あの子は、本当に強くて、優しい子だよ。」

 

 ――しかし、ますます分からなくなりますね。そんな優しい人なら、あそこまで徹底的な戦いはしないんじゃないでしょうか。

 

 先生「実は、私も気になってる所なんだ、そこ。その優しさを、レイヴンと戦う子に向けてくれれば、もっと良いんだけど。」

 

 ――ヴァルキューレのアーカイブを読んでるだけでも、レイヴンの相手になった人が不憫に思えるくらいですからね。

 

 先生「やっぱりそう?もう少し落ち着いてくれれば、私もヒヤヒヤしなくていいのにな。」

 

 ――そこは先生も手を焼いているんですね。

 

 先生「実はそうなんだ。でも、あの子の話を聞いてると、そうなるのも仕方ないのかなって。」

 

 ――もしかして、彼女の過去をご存じなのですか。

 

 先生「少しだけ、私から聞いちゃったんだ。本当は良くないんだけどね。」

 

 ――問題ない範囲で、お話しいただいてもいいですか。

 

 先生「それは駄目。あの子の過去は、あの子の物だから。土足で入るようなことしちゃ駄目だよ。」

 

 ――そうですよね、失礼しました。

 

 先生「でも、あの子の過去に私が思ったことを話すなら、あの子は、本当に強い子だよ。沢山酷い目にあって、沢山のものを失って、それでも誰のせいにもせず、前を向いて生きる事を諦めなかった。本当に、強くて、優しい子だよ。」

 

 ――決して折れない心こそ、彼女の本当の強さなのでしょうか。

 

 先生「きっとそうだよ。大人だって簡単には持てない強さを、あの子は持ってるんだ。」

 

 ――よく人を褒めるんですね、先生。

 

 先生「(笑う)バレた?つい褒めたくなっちゃうんだよね。それじゃ、このコーヒーを飲み終わったら、仕事に戻ろうか。」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 結論から書くのであれば、レイヴンについては分からずじまいだ。

 調べれば調べるほど謎が増えていき、彼女の人となりはぼやけていく。

 しかし、これは確かなのではないかと、私は思う。

 レイヴンは、決して強いだけの個人ではない。気高い心を持ち合わせた、人間なのだと。

 本人への取材が出来ない限り、このインタビューが記事になる事は無いだろう。

 恐らく、一生表には出ないのではないか。

 しかし、それでも私はこの記録を残しておく。

 もし私以外の誰かが、レイヴンという個人を追いたくなったら、この記録を役立てて欲しい。

 

 ps.絶対部数取れると思うのに。編集長のバカヤロー。




予定をちょっと変更して、百鬼夜行編から順当に書いていきます。
レイヴンの復活の良いフックに出来そうだったのでね。
気長にお待ちくださいませ……。
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