BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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EDF6にハマってしまいました。
理不尽な数の暴力を、Inf武器の理不尽な火力でぶっ飛ばすのタノチイ。

本編だとまともな話し合いにすらならなかった緊急対策委員会です。
大体カイザーとマコトが悪い気がしました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

「(前略)――人々よ、我々は戦うべきだ。
 立ちはだかる全ての敵となる、たとえそれが何者であろうと 我々自身の力によって排除すべきだ。
 それが我々の愚かしさの証だとしても 。
 それこそが我々自身が生きている意志。
 我々が生きるための、最後の縁なのだから。」
           [代表]_ACV_FromSoftwera



37.悪夢の前兆

 レイヴンと先生の話し合いから数日後、連邦生徒会はキヴォトス各地に6つのエネルギーを観測。

 余りにも膨大なエネルギーが何の実体を持たず現れたことを危険視した先生が、リン行政官に掛け合い緊急対策委員会を設立。

 各校の生徒会が招集され、今まさに会議が始まろうとしているところなのだが、当の先生は未だ会場に現れていない。

 既に予定から5分遅れており、苛立ちをにじませるリンは、交通室のモモカに通信で確認を取る。

 

 「……モモカ、先生はまだなのですか?既に時間が……。」

 

 『ちゃんと車で近づいてるよー。渋滞にはまっちゃってるみたいだけど。』

 

 「……まあ、きちんと来てくれるなら、良しとしましょう。」

 

 ため息を付きながら姿勢を正し、ピンマイクの電源を入れて会場を見渡すリン。

 行政官らしいキッチリとした態度で、会議の音頭を取る。

 

 「お集りの皆様、時間となりましたので、会議を始めようと思います。ですが、その前に1つ確認を。」

 「……何故あなたがここに居るのですか、独立傭兵レイヴン?あなたを招集した覚えはありませんが。」

 

 リンを始めとする、何人かの目線がこちらに向いた。本来いるはずの無い人間がこの場にいるのだから、確認するのは当然だろう。

 ただ、俺にもここに居る理由がある。アビドス高校と書かれた席札、その後ろに置かれたパイプ椅子の背もたれに寄りかかり、リンの問いに答えを返す。

 

 「アビドス生徒会の代理として雇われた。急用が出来たそうでな。」

 「受付に伝えたはずだったんだがな……。」

 

 「あなたが、代理人ですか。その手の依頼を受けないと把握していたのですが。」

 

 「アビドスには借りがある。それを返そうとしているだけだ。」

 

 「……アビドスの生徒ではないあなたが、代理人として出席することは認められません。速やかな退席をお願いします。」

 

 毅然とした態度を崩さないリン。だが俺も席を立つことはせず、ポケットから平べったい通信装置を取り出して、机の上に置いて起動。

 既にアビドスと繋がっている通信で、ホシノに声を掛けた。

 

 「……とのことだ。諦めて出てこい、ホシノ。」

 

 『ダメもとでレイヴンちゃんに頼んでみたんだけどねぇ。やっぱりダメかぁ……。』

 

 青いレーザーがレンズから放たれると、俺の右隣にホシノが映し出された。

 何もない場所に手を伸ばしてパイプ椅子を引き寄せ、俺の隣に座る。

 

 「……ホシノ副会長。通信に出られるのであれば、直接来て頂きたかったのですが。」

 

 『いや~、急用があるって言うのは本当なんだよ?私達5人しかいないから、色々大変でさ~。それに……。』

 『……連邦生徒会がアビドスを助けようとしてくれたこと、今まであったっけ?』

 『レイヴンちゃんは、一宿一飯の小さな恩を、10億の借金の返済で返してくれたんだよ。ちゃんと自分の体を張ってね。』

 

 「……それは今お話しするべき事ではないと思いますが。」

 

 『それから約束したんだよね、傭兵に飽きたらアビドスに来るって。』

 『未来のアビドス生って事で、レイヴンちゃんも同席させてもらえないかな?』

 

 「……そういう事だ、俺も会議に参加する。」

 

 これがとんでもない屁理屈である事は、ホシノも俺も理解しているが、これ以外に言う事が無い。

 しばらく頭を抱えて逡巡していたリンだったが、ため息を付きながら頷いた。

 

 「……分かりました。くれぐれも他言無用でお願いします。」

 「それでは会議を――」

 

 「その前に、シスターフッドからよろしいでしょうか。」

 「シャーレの先生がまだいらしていないようなのですが。本件以上に、急を要する案件がありまして。」

 

 本題に入ろうとした矢先に、シスターフッドのサクラコの手が挙がった。

 少し離れた場所からでも、リンの眉間のしわが深くなったのがはっきりと見えた。

 ホシノが流し目を俺に向け、俺は肩を軽く竦める。

 

 「先生は只今、こちらに向かっております。本件以外のお話は、会議の後でお願いします。」

 

 「向かっている?違うな。お前達連邦生徒会が止めているんだろう?」

 「シャーレの先生がここに居れば、会議の主導権を握られかねない。だから、お前達がわざと止めているんだろう!」

 

 「そのような事実はありません。デマを吹聴しないでください、マコト議長。」

 

 「おお、怖い怖い!どうやら図星を付いてしまったようだなぁ!」

 

 「止めてくださいよ、マコト先輩。こんなことしてたら、権威が落ちるのは万魔殿の方ですって……。」

 

 マコトが妙な事を言い出し、イロハがそれを止める。ヒナから聞いていたが、万魔殿ではこれがいつもの光景なのだとか。

 ちなみに、万魔殿はもう2人出席しているのだが、1人は子供、もう1人は完全に寝ている。もう1人書記がいるそうだが、別件があり来られなかったらしい。

 

 「ほら、ゲヘナはすぐそうやって仲間割れする。やっぱりエデン条約なんて無理だったんじゃない、ナギちゃん?」

 

 「ミカさん、それも今話すことじゃありませんよ……!」

 

 「しかし、先生が居なければ話が進まないな。早く来てもらいたいのだが。」

 

 万魔殿の向かいに座っているのは、ティーパーティーの3人とシスターフッド、そして救護騎士団の長。

 こちらも相変わらず、と言った様子。エデン条約の一件から、少しは態度が軟化するかと思ったが、そう上手くは行かないようだ。

 

 「ねぇ~まだ~?イブキ、お腹すいた~……。」

 

 「イブキもこう言っている事だ。我々は帰らせてもらおうか。」

 

 「待ってちょうだい。セミナー会長として、そして私個人としても、本件以上に急を要する案件は無いと考えているわ。」

 

 立ち上がったマコトを、リオが引き留める。その顔は、エリドゥで初めて顔を合わせた時と同じくらいの真剣さだった。

 

 「ほう?ミレニアムの頭でっかちが、それほどハッキリ言うとはな。」

 「だが、イブキの空腹に勝る理由でもないだろう。万魔殿、引きあげるぞ!」

 

 「これを放っておけばキヴォトスが滅ぶわ。」

 

 リオの発言を受けて、会場全体がざわつき始めた。ミレニアムのトップがこんな場で冗談を言うような人ではないと、全員がある程度把握しているのだろう。

 そして、そんな人物が世界が滅ぶなどと、簡単に言うわけが無いとも。

 

 『……どういう事?滅ぶって?』

 

 「……リオ会長、説明を願います。キヴォトスが滅ぶとは、どういう事ですか?」

 

 「……本当は先生にも説明をしたかったのだけれど、仕方ないわね。」

 「まず、このエネルギーは――」

 

 その瞬間、乱暴に開け放たれるドア。息を乱した先生が、膝に手を付いて呼吸を整え、全員に向けて軽く手を挙げる。

 全員の目線が先生に向けられる。その中でも、リンの眼鏡越しの眼光は特に強烈だった。

 

 ”ごめん皆、遅れちゃった!渋滞にはまっちゃって……!”

 

 「……先生、5分の遅刻です。あなたが遅れたせいで、マコト議長は勝手に帰ろうとしていましたよ。」

 

 ”ご、ごめん、リンちゃん。”

 

 「リンちゃんと呼ばないでください。」

 

 ”とっ、とにかく!万魔殿の皆は座って、これから話をするから。”

 

 「フン、まあいい。聞くだけ聞いてやろう。」

 

 そう言うと、先生と同時に椅子に座るマコト。他の連中は先生に色々と言いたげだが、先のリオの話が気になっているのか、声を掛ける者はいなかった。

 呼吸を整え終わった先生は、資料をパラパラと確認しながら、リオに声を掛けた。

 

 ”えっと、リオ。どこまで話をしてたの?”

 

 「……ちょうど話し始めたところよ。話を戻すけれど――」

 「この6つのエネルギーが出現したという事は、無名の司祭と呼ばれる存在がキヴォトスへ来ようとしている、という事。」

 「司祭たちの目的は、キヴォトスを滅ぼすことよ。」

 

 「キキキッ!何を言い出すかと思えば、おとぎ話か?」

 

 「そうであればよかったわ……。」

 「彼らは既に、このキヴォトスに兵器を用意していた。それが、本校の生徒の1人、天童アリスよ。」

 「コードネーム、AL-1S。アトラ・ハシースの箱舟の顕現を目的として造られた、破壊兵器。彼女は司祭たちの手によって造られた、戦闘用ガイノイドよ。」

 「現在のアリスは無力化されているわ。司祭たちの手足となる事は無いでしょう。」

 

 更にざわつきだす会場。ガイノイドを生徒として招き入れた事は、キヴォトスの歴史を見ても前代未聞だ。

 しかもそれが、これから攻め入ってくるであろう者たちが作った兵器だというのだから、このざわつきも当然だろう。

 俺は詳細な事情を知っているのだが、リオの話を邪魔しないために黙っておく。

 

 「待ってください、リオ会長。その、アリスという生徒が、無名の司祭の兵器であったという証拠は、何処にあるのですか?彼女が安全だとする保障は?」

 

 「……これを見せれば伝わるかしら。」

 

 リオが手元のタブレットを操作すると、コの字型に置かれたテーブルの中央にホログラムが映し出される。

 その内容は、俺も以前見た事のある、アリスの解析データ。全身の内部構造や有機組織などが詳しく映し出されている。

 

 「アリスが発見された場所はミレニアムの封鎖区域内、そこの司祭たちの施設から回収されたのよ。いわば遺物ね。」

 「これは、アリスの全身のスキャンデータ。全身の構造は人間に寄せられているけれど、細部は全く異なるわ。」

 「彼女の全身が、今のキヴォトスの技術レベルでは再現できないモノで造られているの。今も解析とリバースエンジニアリングが進んでいるけれど、進捗は芳しくないわ。」

 「それと、彼女が安全であるとする理由だけれど、内部プログラムの解析によって判明しているわ。」

 「Keyという戦闘用のサブプログラムが仕込まれていたけれど、優先順位が大きく下がったことで無力化されているわ。」

 

 「……色々と疑問が増えていますが、一先ずアリスが安全であることは理解しました。」

 「それでは、なぜ司祭たちがキヴォトスを滅ぼすと分かるのですか?」

 

 ついに目頭をもみ始めたリン。その心労は察するに余りあるが、今は理解してもらうほかない。

 リンの疑問に対しては、先生が手を挙げた。今度は机の前にスクリーンの画像が変わる。

 恐らく、“黒服”という人物から渡されたデータだろう。

 

 ”それは私から。”

 ”信頼できる情報筋から話を聞いたんだ。その人曰く、無名の司祭は元々、このキヴォトスの住人だった。”

 ”ただ、何かをきっかけにキヴォトスから追い出されて、それから今のキヴォトスの住人を恨んでる。”

 ”いわば、キヴォトスの古代人。アリスも彼らに造られたのは間違いない。”

 ”そして、彼らの目的が、キヴォトスを滅ぼすことである事も、間違いないよ。”

 

 「……先生、その話を信じたいのは山々なのですが、少々証拠に乏しく……。」

 

 ナギサが眉根を下げながらそう答える。他の奴らも似た反応だ。

 当然の反応だが、どうにか信じてもらう必要がある。

 リオから受け取っていたデータを、中央のホログラムに表示させる。

 

 「なら俺達からも補足しておこう。エア、頼むぞ。」

 

 『先行測定のデータを解析しました。このエネルギーですが、極めて不安定です。本来、すぐに霧散してしまい、そこに存在できるはずが無いほどに。』

 『しかし、このエネルギーは常に1点に集中されています。この現象が、自然に起こる事はあり得ません。』

 『何者かが、この不安定なエネルギーを制御し、何かをしようとしている。この何者かが、無名の司祭と見て良いでしょう。』

 

 「そのエネルギーの内の1つが、エリドゥの近くにある。簡易的だけれど、既に調査を行っているわ。」

 「周辺を調べているけれど、このエネルギー以外に観測できるものは無い。エリドゥの施設が利用されている痕跡も無いわ。」

 「つまり、エネルギー源の周辺に、これほど不安定なエネルギーを制御できるものが存在しないの。このエネルギーを発生させる手段もね。」

 「何より、このエネルギーの特有の不安定さは、以前司祭が残した施設を調査した時に観測されたエネルギーと、同じパターンを示している。」

 「この事象は、キヴォトスにいる者によって引き起こされたものでは無いわ。」

 

 「少なくとも自然発生したものではない、という事ですか……。」

 

 リンの回答を受け、リオは姿勢を正し、何か言いたげなユウカとノアを置き去りに、生徒会長として宣言した。

 

 「ミレニアムサイエンススクールは、この事象、および無名の司祭を、キヴォトスに対する深刻な脅威と認定するわ。」

 

 「ちょ、ちょっとリオ会長……!判断が早いですって……!」

 

 「深刻な脅威……。では、具体的に何が起こるというのですか?」

 

 「……残念ながら、不明よ。けれど備えることは出来る。」

 「元々要塞都市エリドゥは、アリスを始めとする、無名の司祭達の勢力に対抗するために建造したの。そして、備えはそれだけじゃない。」

 「ある人物から、匿名の技術提供を受けたわ。これを見てちょうだい。」

 

 リオがそう言うと、中央のホログラムに表示されたのは、俺が良く知る兵器。

 ルビコンで何十機と壊してきた兵器の、設計図面。

 会場のほぼ全員が、設計図に釘付けになっている。

 

 ”――ッ!”

 

 「……これは、ロボットですか?しかし、何故これが備えだと?」

 

 「BAWS製マッスルトレーサー。生産性と拡張性に優れる、人型戦闘重機よ。」

 「高さは約10m。本体重量は約50トン。まさに歩く鉄塊よ。操作系はパワーローダーに合わせているから、それに乗れる者なら、すぐに使いこなせるはず。」

 「同じくBAWS製。先ほどのは二脚型、こちらは四脚型の多脚戦車よ。」

 「二脚型よりもさらに大きく、重く、堅牢に造られているわ。機動力やペイロードも、二脚型とは比較にならない。」

 「そして、超大型重装攻撃ヘリ。これはサブジェクトガード製。大きいだけで操作は他のヘリと変わらないわ。」

 

 大量の兵器の設計図面は、リオ達にある機体を造らせる見返りとして提供した。

 他にも封鎖機構のLCやHCの設計図も渡しているが、再現が難しかったようだ。

 あるいは、リオ自身の判断で生産しなかったか。それは本人だけが知るだろう。

 

 「私の判断で、これらの兵器をエリドゥで量産させているわ。事が始まる前に、各学園に貸与する予定よ。」

 「ただし、数が用意できなかったわ。四脚型を1機と、二脚型を4から5機のセットで送る事になるわね。」

 「ヘリは連邦生徒会に貸与するわ。重要拠点の防衛に使ってちょうだい。」

 

 「い、いつの間に!?何でこういう事を相談しないんですかリオ会長!」

 

 「あの一件から、やっと相談してくれるようになったと思ったんですが……。」

 

 「どうやら、セミナーでも把握できていなかったようですが。どうして備えている事を報告しなかったのですか、リオ会長?」

 

 「キヴォトスのパワーバランスを崩しかねない技術だからよ。この兵器は量産性に優れるだけでなく、従来のパワーローダーに様々な要素で勝っている。」

 「本来であれば技術の発展という事で、喜ばしい事なのだけれど。これが兵器、という事は、PMCなどが運用することも考えられる。」

 「もしカイザーがこのMTを利用してクーデターを起こしていたら、連邦生徒会に有効な反撃手段は無かったでしょう。」

 「この技術がキヴォトスに広まれば、キヴォトスの戦場の形が大きく変わるはずよ。リターンに対してリスクが大きすぎるわ。」

 「事実、技術供与の条件として、これらの兵器を販路に乗せることが禁じられていたわ。提供者も、この技術の危険性を理解していたのでしょうね。」

 「以上が、私がこの兵器の存在をギリギリまで伏せていた理由よ。」

 

 ミレニアムの会長が、秘密裏に武力を蓄えていた。この事実だけでも連邦生徒会にとっては特大の頭痛の種。

 MTの話を始めてから終始険しい顔をしていたリンだったが、リオの説明で溜飲が下がったらしい。リオに向けて軽く礼をする。

 

 「……致し方なかったことなのですね。失礼しました。」

 「しかし、あなたの備えはまるで、司祭の直接侵攻を想定しているようですね。何故そう思われるのですか?」

 

 ”……それしか方法が無いんだと思う。情報によると、このエネルギーである施設を呼び出そうとしているみたいなんだ”

 ”施設が呼び出された後も、それが作動するまで守らなくちゃいけない。当然、私達はそれを壊そうとするから、守るために兵力が必要なんだ。”

 ”施設を守るついでに、襲い掛かってくる人たちの数を減らせれば御の字って考えだと思う。”

 

 「そうだろうね。全てを反転させるには時間とエネルギーが必要だ。事が済むまで守る必要があるだろう。」

 

 「セイア様、どうされたのですか?」

 

 今まで口を閉ざしていたセイアが、唐突にそう呟く。トリニティもそうだが、先生も予想していなかった方向から援護されたことに驚いていた。

 目を閉じて記憶をたどるセイアの事を、止める者はいなかった。

 

 「私は1度見たんだ。キヴォトスの全てが反転し、このキヴォトスという場所、そのものが絶滅する未来を。」

 「だが、先生やレイヴンが証明してみせた。未来は好きに変えられる、と。」

 「そうだね、ある生徒の言葉を借りるならば……。」

 「たとえどんな未来が待っていようと、それは今全力を尽くさない理由にはならない、かな。」

 

 「待ってください、セイアさん。反転とはどういう事ですか?」

 

 「ふむ、説明が難しいが……。ミレニアムの方が詳しいだろう。」

 

 「そうね……。概念という1枚のコインをひっくり返すこと。それが反転よ。」

 「例えば、日の光ね。それは熱を与え、植物を育てる。ただ、それが反転すれば、全てを乾かし、干ばつを引き起こす。」

 「その概念が持つ負の側面を、強く引き出すこと。それが、反転という現象よ。」

 「これは正確な説明ではないのだけれど、詳しく説明している暇が無いわ。そういうものだと思ってちょうだい。」

 「もし、このキヴォトスという概念そのものが反転した場合、何が起きるのか想像もつかないわ。そうなる前に決着をつけるべきよ。」

 

 リオの説明に対して、セイアは静かにうなずいた。ただ、セミナーやティーパーティーを含めて、ほぼ全員がぽかんとした顔を浮かべている。

 一足先に要点を掴んだリンが、先生とリオに質問を飛ばした。

 

 「では、その司祭たちを早期に排除することが、最も理想的な解決策、という事ですね。」

 「尤も、彼らがここに来るならの話ですが。本拠地は何処になるのか、予測できますか?」

 

 ”それは、アトラ・ハシースの箱舟。宇宙船の類らしいんだ。彼らは、これに乗って、このキヴォトスにやってくる。”

 

 「私もその可能性は想定していた。だから、エリドゥに長距離ミサイルを用意しているわ。ただ、それがどれほど有効かは分からない。」

 「私達が知る技術以上のものを使ってくる可能性が極めて高い。箱舟には、通常兵器が通用しない可能性が高いわ。」

 

 ”だから、直接乗り込んで制御を奪う。”

 

 スクリーンに表示される、赤い丸が書かれたアビドスの地図と、何らかの巨大施設の概要図。

 黒服も、それが何なのかは正確に把握していなかったようだ。

 会場は、未だクエスチョンマークが頭の上に浮かんでいる者が多数派だが、先生は構わず話を続ける。

 

 ”アビドスの砂漠の中に、ウトナピシュティムの本船と呼ばれるものが埋まっているんだ。カイザーがアビドスの土地を欲しがっていたのは、これを探すため。”

 

 『そういう事だったんだね、カイザーがアビドスであれこれ手を回してたのは……。』

 

 「クーデター計画には、サンクトゥムタワーの奪取が目的に含まれていた。本船を起動させたかったようだな。」

 

 アビドスの地図を見て正気に戻ったのか、ホシノが小さく呟いた。

 どうもカイザーは本船を兵器と認識していたようだが、スクリーンを見たところ武装は一切積まれていない。

 

 ”話では、それは古代技術の宇宙戦艦。これなら、アトラ・ハシースに対抗できる。”

 ”ウトナピシュティムを使って、アトラ・ハシースまで接近、直接乗り込んでアトラ・ハシースの制御を奪い、安全に着陸させる。”

 ”今はこれぐらいしか計画が無いけれど、賭けてみる価値はあると思うよ。”

 

 「なるほどな、悪くない計画だ。その司祭とやらが本当に来るかも分からない、この1点を除いてな。」

 「わざわざ私達を呼び出して、することがオカルト話とは。連邦生徒会も地に落ちたようだなぁ!」

 

 足を組んでふんぞり返ったマコトと、それを見てため息を付くイロハ。

 しかし、万魔殿のジャケットを羽織った子供、丹花イブキが声を上げたことで、流れが一変した。

 

 「でもマコト先輩、さっきの話、本当じゃないかな。そのエネルギーも確かにおかしいし、ミレニアムの会長さんだっておかしいって言ってるよ。」

 「イブキ、準備しておくのは良いことだと思うの!」

 

 「むっ!?そ、そうか。しかしだな……。」

 

 「今回は信じましょう、マコト先輩。備蓄を補充して、兵力を整えて、戦いに備える。それだけです。来ないならそれでいいじゃないですか。」

 「……それに、本当にキヴォトスが反転したら、イブキに美味しいプリンをあげられなくなりますよ。」

 

 「んぐっ!それは、本当にそうなれば、万魔殿の一大事だ……!」

 「良いだろう!ゲヘナ学園は司祭たちの到来に備える!私の寛大さに感謝するがいい!」

 

 万魔殿の決断は、まさかのイブキのプリンが決め手となった。余りにも緩い決め手に呆れてしまうが、ヒナ曰く、イブキの機嫌が万魔殿の機嫌らしい。

 対面のトリニティも呆れていたが、ゲヘナの決定を否定しようとする者はいなかった。

 

 「ナギちゃん、トリニティはどうする?さっきのゲヘナの子が言った通り、備えるだけならいいんじゃない?」

 

 「ナギサ、私達も備えるべきだ。見えたのは司祭たちだけではなかった。全員が協力すれば、生き残れる確率は上がるだろう。」

 

 「……トリニティ総合学園は、無名の司祭を脅威と認識し、連邦生徒会に協力します。私達の力、お役立てください。」

 

 僅かに逡巡した後、リンに向けてそう宣言したナギサ。

 協力する姿勢を見せたトリニティとゲヘナに対して、リンは礼を返した。

 

 「マコト議長、ナギサさん、感謝します。あとは、アビドスとレッドウィンターの判断を伺いたいのですが。」

 

 「……ホシノ、備えておけ。何が来ても良いように。」

 

 『何だか思ったより大事だねぇ。分かったよ。アビドスも連邦生徒会に協力する。』

 『ただ、司祭だっけ?本当に来たときは、連邦生徒会から人を送ってよね。私達5人しかいないからさ。』

 

 「分かりました、約束しましょう。感謝します、ホシノ副会長。」

 

 「イマイチ話は分からなかったが、要はキヴォトスに敵が来るかもしれないんだろう?」

 「おいら達も協力するぞ!レッドウィンターの力を見せてやろう!」

 

 「ありがとうございます、チェリノ書記長。」

 「それでは、本当に司祭たちが来訪した場合、連邦生徒会の指揮の元、危機に対応します。」

 「各学園は、避難所と兵力の準備をお願いします。敵の兵力が予測できません。あらゆる脅威に備えてください。」

 「レイヴン、あなたはアビドスと協働してください。これは連邦生徒会としての依頼です。」

 

 「いや、俺はブラックマーケットを担当する。あそこは連邦生徒会やシャーレが呼びかけるより、“黒い凶鳥”の名前を使う方が効くはずだ。」

 

 この会議で今まで名前すら出なかった領域、ブラックマーケット。実はエネルギー源の1つ、廃遊園地からほど近い場所がブラックマーケットにある。

 だが、そこを守るという事は、反社会的勢力を守ると宣言しているようなものだ。

 当然、体制側であるリン行政官は良い顔をしない。

 

 「……あんな無法地帯、放棄してもいいのでは?事前に避難誘導を行えば十分でしょう。」

 

 「リン行政官、今の発言はどういう事ですか!?ブラックマーケットと言えど、そこに生きる者達が必ずいます!それを無視するというのですか!?」

 

 ”ミネ、落ち着いて……!”

 

 「ブラックマーケットはな、やり過ぎて連邦生徒会に潰されないよう、マーケットガードを始めとする治安部隊が、危険な奴らを潰してるんだ。」

 「守っておいた方がいい。あそこが無くなると、より無軌道な連中が各所で暴れ出すぞ。」

 

 事実、連邦生徒会の目に付いていない連中が、ブラックマーケットには相当数いる。

 裏社会なりに人道支援をしている者や、リリアナの様なブラックマーケットすら追われた者だっている。

 連邦生徒会による統治に賛同していないだけで、あそこも社会の1つである事に違いは無い。

 リンは顔を伏せ、ため息を1つ付いてから、俺に顔を向けた。

 

 「……承知しました。では、あなたにお任せします。」

 

 「確かに引き受けた。」

 

 「それと、解散する前に、確認したい事が1つ。」

 「リオ会長、エリドゥでは先ほど話したマッスルトレーサー以外に、ある兵器が開発されているという噂を耳にしました。」

 「これは、ただの噂でしょうか。」

 

 「それは……。」

 

 あの機体の存在が、何処からか漏れていたようだ。リオが一瞬こちらに目線を向け、それにつられてリンも俺を見つめる。

 だが、状況が状況故に、話してしまっても問題ないだろう。データを用意しながら、エアに指示を飛ばす。

 

 「……エア、ブラインドを下ろせ。」

 

 ”――ッ!?エア、何してるの!?”

 

 「レイヴン、どういうつもり――!」

 

 部屋が暗くなり、外からの視線が遮断されたことを確認してから、ホログラムにデータを送り、設計図面を表示させる。

 それは、コーラルリリースの時、イグアスとオールマインドが操っていた機体、その原型。

 コーラルの力を最大限に利用した、可変型実験兵器。

 

 「アイビスシリーズ、IB-07:SOL644。俺が居た“外”に存在した、防衛兵器群。その1機を、俺からの依頼でリオ達に造らせた。」

 「マッスルトレーサーの技術供与も、これの製造の見返りだ。」

 

 「……その目的は?」

 

 「司祭たちを含めた、あらゆる脅威に備えるためだ。アリスの一件がきっかけでな。」

 

 エアが説明を引き継ぐと同時に、胸部に増設されたコックピット部分が拡大される。

 ナイトフォールでの搭乗を前提とし、最低限の生命維持装置以外、脱出装置や衝撃緩和機構が一切存在しない、居住性や安全性が無視された設計。

 一度リオ達から脱出装置だけでもと勧められたが、機体性能の低下を嫌って取り付けさせなかった。

 

 『この機体は、元は無人機でした。極めて高い機動性と致死的な制御負荷に、どれほど頑健なパイロットを乗せたところで、耐えられないからです。』

 『しかしこの機体は、外敵による遠隔操作を防ぐため、完全な有人制御へと置き換えています。』

 『……パイロットは、レイヴンです。』

 

 「何故それほどの性能が必要なのですか?性能を落として誰でも乗れるように――」

 

 「それじゃ駄目だ。こいつはキヴォトスの最後の安全装置として造らせた。あらゆる兵器を凌駕する性能でなければ意味が無い。」

 「こいつを動かす時点で、俺達が全滅するかの瀬戸際だ。何より――」

 「何の準備も無くアイビスに乗った奴は、例外なく5分以内に死ぬぞ。」

 

 一気にざわつきだす会場。乗れば死ぬ兵器を造らせた、なんて言われれば、誰だってそうなるだろう。

 この機体は、パイロットと機体をコーラルで直結させる。それ故に、ACを遥かに上回る制御負荷がパイロットを襲う事になる。

 常人が乗れば、制御負荷とコーラル汚染によって、1分動かすだけで後遺症が残る可能性がある。

 例え強化人間でも、どれだけ耐えられるかは分からない。

 

 「……リオ会長、どうしてこれを造る事を、引き受けたのですか。」

 

 「……必要だからよ。現に今、必要になろうとしている。」

 「使う時が来なければいいと願っていたけれど……。」

 

 リンの問いかけに、渋い顔を隠さなかったリオ。ユウカやノアも、リオを不安げな顔で見つめていた。

 エアが話し始めると同時に、ホログラムのアイビスが飛行形態へと変形した。

 

 『……アトラ・ハシースの撃墜に付いてですが、もう1つプランがあります。このアイビスを利用して、直接撃墜する、というものです。』

 『この機体は、大気圏外、すなわち宇宙空間での戦闘活動が想定されていました。さらにこの機体であれば、単独での大気圏離脱と再突入が可能です。』

 『もしウトナピシュティムの本船が使えない場合、私達が、アトラ・ハシースを落とします。』

 

 「活動できるのは5分だけでは?それだけの短時間で宇宙船を落とすというのですか?」

 

 「……俺は、生まれが少し特殊でな。既にこいつに乗る準備が出来てる。少なくとも1時間は戦えるだろう。今アイビスを問題なく扱えるのは、俺だけだ。」

 

 「他のパイロット候補は?このアイビスに乗る前に、あなたが死んだらどうするのですか?」

 

 『その時は私が操縦します。心配は無用です。』

 

 「……もし、単独でアトラ・ハシースを撃墜することになった時、あなたが生きて帰る保証はありますか。」

 

 「無い。」

 

 俺の端的な答えで、眉間のしわの深さが今日一番深くなったリン。

 軽く周りを見ても、良い顔をしている者は誰も居ない。先生も何か言いたげだが、何とか飲み込んでいるようだ。

 

 「……1つ言っておこう。もし本当に司祭がこのキヴォトスに来た時、その戦いは絶滅戦争の様相を呈するだろう。」

 「大量の血が流れるはずだ。だがそれにすくむな。足を止めた時が俺達の最期だ。」

 「多数の犠牲を覚悟しておけ。司祭共に殺される前に、奴らを仕留めるぞ。」

 

 そう声を上げるも、答える者は誰も居ない。恐らくは、この場にいる誰もが、司祭たちが来ない事を願っている。俺だって、願っている。

 だが、本当に司祭がキヴォトスを滅ぼすつもりなら、この言葉は正しいはずだ。

 例え死ぬとしても、俺はタダで死ぬつもりはない。このキヴォトスに手を出したことを、後悔させてやる。

 

 その後、連邦生徒会から全学園に緊急事態への準備を進めるよう通達が行われた。

 これに対し、大多数の学園が応答。戦争への備えが、迅速に進められた。

 ブラックマーケットに対しては、レイヴンが連邦生徒会の通達を転送すると同時に、ごく短い声明を発表。

 『平和を望むなら、戦に備えよ。』

 それは、キヴォトスの侵略者に向けた、明確な宣戦布告であった。




本会議、リオと先生が大活躍です。この手の話で居ると強いんですよねこの2人。
一部は相変わらずですが、一先ずリンちゃんの不信任は回避できました。
さて、次回からは司祭とのガチ戦争となります。
どうにか書き切って見せますよォ!!!

次回
過去からの侵略者
駄目じゃないか……。亡霊は亡霊らしく、死んでなきゃさぁ!

次回も気長にお待ちくださいませ……。
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