BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

35 / 65
エデン条約編、大詰めでございます。
筆が乗ってるうちに書き進めます。
多分次から最終章に入ります。
さて、プロットを整えねば……。


35.アリウス分校制圧

 『マダム……。何故ここに呼ばれたのか、お分かりですか?』

 

 『大方、“アレ”の対処についてでしょう?』

 

 『ベアトリーチェよ、黒服から警告は受けていただろう。何故無視した?』

 『事実ミメシスは、奴によって焼き払われた。それでも、奴の制御を試みると?』

 

 『……何の役にも立たない木偶が。あなたがもっと使える作品を寄越せば済んだ話でしょう?』

 

 『……本当に、力押しが効くとでも?“アレ”のテクストは、闘争の権化と呼んで差し支えないそれですよ。』

 『追い詰められるほど、その戦いは切れ味を増す。それに対応できる算段でもあるのですか?』

 

 『おや?限界の二文字を忘れたのですか?テクストとやらは存外適当なのですね。』

 

 『そういうこったァ!!!』

 

 『……マダム。あなたは自分が何をしたのか分かっているのですか?』

 『“アレ”はいずれ、我々の存在に勘付くでしょう。そうなれば、ゲマトリアの壊滅だけでなく、全研究成果の焼失もあり得るのですよ。』

 

 『ならそうなる前に手中へと納めればいい。“アレ”が生徒である以上、ヘイローが砕ければそれまでです。』

 『“アレ”に怯える必要など、何処にもないのです!その力さえ取り込めれば、私は一気に崇高へと近づくのですよ!』

 

 『………………。』

 『……ゴルコンダ。』

 

 『……致し方ないでしょう。』

 

 『……デカルコマニー。』

 

 『……そういうこった。』

 

 『……マエストロ。』

 

 『……仕方あるまい。』

 

 『……ベアトリーチェ。』

 『只今をもって、あなたをゲマトリアから除名とします。』

 

 『……良いでしょう。指を咥えて見ていなさい。』

 『私が、あなた達が追い求めた、崇高に至る瞬間を!』

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 古聖堂防衛戦の翌日。一先ず脅威が去ったという事で、トリニティで直接集まっての会議が開かれる事となった。

 議題は、アリウス分校制圧の手筈。既に死に体といえど、抵抗する手段が残っていないとも限らない。

 案内された先のドアを開けると、目に入ったのは大きな円卓。既に俺以外のメンバーがそろっている。

 

 ”レイヴン、ここに座って。”

 

 先生に促されるまま、空いた席に座る。他のメンバーはティーパーティーの3人と、正実のトップ2人。

 普段であれば、目の前には紅茶で満たされたティーカップが置かれ、机の上にはたくさんの茶菓子が並んでいてもおかしくないだろう。

 だが今日は、資料が目の前に置かれているのみ。

 まず話し始めたのはナギサだった。彼女にだけティーカップが用意されているのは、何とも不思議な光景だ。

 

 「お久しぶりですね、レイヴンさん。古聖堂の戦い、見事でした。」

 

 「仕事をしたまでだ。それで、念のため確認するが、今日の議題は?」

 

 「……アリウスの、処遇についてです。まず、アリウス分校を制圧し、生徒達を保護、ベアトリーチェを確保する。ここまでは決定事項です。」

 「しかし、その後のアリウス達をどう扱うべきなのか、各派閥で意見が分かれていて……。」

 

 「パテルの皆が、かなり強く反対してるんだよね。攻撃してきた奴らを許すのか~!って。」

 「でも、このお話の悪役は、アリウスをトリニティに引き込んだ私と、アリウスを虐げてきたベアトリーチェ。生徒達は悪くない。」

 「私としては、トリニティで幸せを掴んで欲しいなって思ってるんだけど、説得が中々上手く行かないんだよね……。」

 

 「サンクトゥスは静観しているね。引き込めば慈悲深さをアピールできると言う者も居るが、そう上手くは行かないだろう。」

 「私個人としても、決めかねているところだ。」

 

 ティーパーティー3人の意見はそれぞれ。だが、内容に本題が含まれていない。完全に油断している。

 眉根にしわが寄るのを感じながら、自分の意見を飛ばす。

 

 「今更そんなことを話しているのか。救護騎士団とシスターフッドに預ければいいだろう。」

 

 「もちろんそのつもりです。ですが、それはあくまで、アリウスがトリニティでの生活に慣れるまでの、一時的な処置に過ぎません。」

 「生活に慣れた後、アリウス分派を復興させるべきか、あるいは他の分派へと預けるべきなのか、ティーパーティーでも判断が付かないのです。」

 

 横目で先生を見ると、困ったような笑みを浮かべるばかりだった。シャーレ主導で更生させるくらいの意見を出して欲しいものだ。

 腕と足を組み、背もたれに寄りかかって、ナギサ達の眼を見つめる。

 

 「……それは政治家の、ひいてはお前達の仕事だろう。何より、アリウス分校を制圧した気になっているのも気に入らない。」

 「アリウスの最大の脅威、ベアトリーチェがまだ残っている。奴を叩き潰し、アリウスの息の根を止めなければ、いずれまた同じことが起こるぞ。」

 

 「その通りです、ナギサ様。ベアトリーチェこそ、アリウスの病巣。元凶から切除せねばなりません。」

 

 「しかし、ナギサさんの不安も尤もかと。教えられていたとはいえ、今もアリウスは、トリニティとゲヘナを憎んでいる。」

 「憎む相手の一部となる事を、強く拒絶する者もいるでしょう。」

 

 救護騎士団の団長、蒼森ミネと、シスターフッドの長、歌住サクラコからも声が上がる。

 このままでは、本題に入ることなく会議が終わってしまいそうだ。

 テーブルを叩いて黙らせようかと考えた時、ハスミから問いが投げかけられる。

 その表情は、理解できないモノを見ている時のそれであった。

 

 「……1つ教えてください、レイヴン。」

 

 「何だ?」

 

 「あなたは、戦いに精通しすぎています。作戦立案や、戦闘能力もそうですが、ユスティナの出現の様な、イレギュラーへの対応が正確すぎます。」

 「ただの傭兵というには、余りにも優れています。あなたは一体、何者なのですか。」

 

 『……それを聞いて、どうするんですか。』

 

 エアがそう問うも、ハスミは答えようとしない。他の奴らも、顔をこちらに向けて来る始末だ。

 答えなければ進まなさそうなので、出来るだけぼかして伝えることにした。

 

 「……俺は元々、資源戦争の尖兵だった。イレギュラーに対処できなければ死んでいた。これで良いか?」

 

 「……その技術は、誰から――」

 

 「ハスミ。」

 

 「……失礼しました。」

 

 ツルギに咎められたことで、矛を収めたハスミ。全員微妙な表情をしているが、一先ず話を戻すことにする。

 

 「話を戻すぞ。アリウスを制圧する算段はどうなっている。」

 

 「ハスミさん、お願いできますか?」

 

 「お任せください。」

 「まず、スクワッドからの情報提供により、アリウス分校の位置が判明しました。トリニティから北に離れた、廃墟群を根城としているようです。」

 「スラムを通る事になりますが、地上ルートも繋がっています。恐らく、例の兵器は、このルートを通って運ばれたのでしょう。」

 「先の防衛戦により、アリウスの戦力はほぼ失われており、直接乗り込んだとしても、最小限の抵抗で済む予想です。」

 「ですので、我々正義実現委員会と風紀委員会の混成部隊により、地上から侵攻します。」

 「アリウスに乗り込み、ベアトリーチェを捕縛し、安全が確保出来次第、アリウス生の保護を行います。」

 

 風紀委員会が動くとは。恐らく、マコトの頭に血が上っているせいだと思われるが、味方の数が増えるのはありがたい。

 アリウスに乗り込むまでは良いとして、問題は中に入ってから。廃墟群となれば、構造も大きく変わっているはずだ。地図なども役に立たないだろう。

 

 「内部の構造はどれだけ分かっている?」

 

 「……情報はほぼゼロです。アリウス全体の地図でもあれば、話は変わってくるのですが……。」

 

 『……それなら、私達が偵察します。』

 

 「偵察?どうやって?ヘリでも飛ばすの?」

 

 ミカの疑問は尤もだ。実際、俺はヘリを個人で所有、運用しているが、相手が対空武装を持っていると厄介だ。

 エアもそれを分かっているため、あるプランを提示した。

 

 『地上ルートとは反対方向から、レイヴン単騎による強行偵察を行います。』

 『レイヴンがアリウス内部に侵入、直接交戦し、その間に、私がアリウス全体をマッピングします。』

 『十分な時間交戦した後、地上部隊に情報を伝達。その後、余裕があれば戦闘を続行し、ベアトリーチェを確保。それが難しければ撤退する作戦です。』

 

 そのプランを提示した瞬間、全員がお互いの顔を見合わせ始めた。特に先生は、かなり渋い顔をしている。

 

 ”……無茶だよ。サオリも言ってたけど、アリウスに戦える子は居ない。そこまでする必要は無いって。”

 

 「手負いほど、何をしてくるのか分からんぞ。最悪、俺達をアリウスごと吹き飛ばして来るかもな。」

 

 「……レイヴン。これは、保護作戦だ。ベアトリーチェは殺さず、生かして捕えるんだ。分かっているな。」

 

 そう語るツルギの顔は、確かにこちらを睨みつけているが、同時に何かに怯えている眼をしている。

 ベアトリーチェを殺したいと考えている事も伝わっているようだが、これが依頼である以上、クライアントの要望には従うしかない。

 ここが傭兵の辛い所だ。

 

 「分かっている。奴には聞きたい事が山ほどあるからな。まあ、死んだならそれでもいいが。」

 

 「……お前は、人の死を何だと思っている。」

 

 「……俺からすれば、銃撃戦で誰も死なない方が異常だ。戦いに死は付き物、必ず付いて回るものだ。」

 「むしろ、お前達にとって、死とは何だ?」

 

 「……死狂いが。」

 

 「それの何が悪い。」

 

 部屋はすっかり静まり返り、空気も完全に冷え切っている。ツルギの眼からは、俺に対する怯えが見える。

 どちらにせよ、俺が話しておきたい事は話せた。これ以上の長居は無用だろう。

 

 「……動くなら早い段階で動け。奴らに力を蓄えさせるな。」

 

 そう言い残して椅子から立ち上がり、ドアをくぐって出ていく。

 正直な話、今すぐにでもアリウスに乗り込みたかった。今夜制圧を決行すると言ってほしかった。

 とっととベアトリーチェを殺さなければ。

 俺の過去が、広まる前に。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 作戦が決行されたのは、会議から2日後。重たい雲が空に漂う日。政治家にしては動きが早いと思う事にした。

 今正実や風紀が集まっているのは、トリニティのスラムの1歩手前の場所。

 歩兵部隊や、それを運ぶための装甲車はもちろん、万魔殿のマークが描かれた戦車が1両出ている。どうもマコトが押し付けてきたらしい。

 ただ、今回はアリウス生の確保を目的とするためか、非武装の車両や医療班が多いのが目立つ。

 後30分で作戦が始まる。ストーカーの状態は問題なし。ナイトフォールも被弾で装甲が少しへこんでいる程度。昨日パージした発振器も取り換え済みだ。

 視界に移ったモニターでアリウス周辺の状況を確認していると、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。

 

 「レイヴン!」

 

 「……スクワッドか。お前達が動く予定は無かったはずだが。」

 

 サオリを先頭に、ガスマスクを外したアリウス生が、ストーカーのハッチの前に集まっていた。

 全員を覚えているわけでは無いが、ベアトリーチェからの依頼を受けた時に叩き潰した奴らだろう。

 サオリが俺に1歩近づくと、俺の眼をまっすぐ見つめながら口を開いた。

 

 「私達も連れて行ってくれ。必ず役に立つ。足を引っ張るようなことはしない。」

 

 「地上部隊に付いていけばいいだろう。何故俺と来る。」

 

 「お前がアリウスを倒した後、私達が説得する。私達の話なら聞いてくれる奴もいるはずだ。それに……。」

 「……マダムには、言いたいことがある。」

 

 初めて会った時から、随分と雰囲気が変わったものだ。諦観が詰まっていた目には、決意の火が灯っている。

 ミサキやヒヨリ、他の連中に顔を向けると、程度は違うがサオリと同じ変化が見える。

 

 「……他の連中はどうだ。」

 

 「リーダーを1人で突っ込ませるのは、マズいから。それだけ。」

 

 「アリウスに残ってる子達は、今も辛い目に合っているはずなので、見捨てたくなくって……。へへ……。」

 

 「僕たちが抱えていた憎しみは、僕たちの物じゃなかった。そんなものに従ったって、虚しいだけ。」

 「だから、僕たちでアリウスの憎しみの呪いを解く。マダムを倒してね。」

 

 そう言って1人が銃を掲げると、他の奴らも共振するかのように銃を掲げた。

 やる気があるのは結構だ。だが気になるのは、誰がスクワッドに情報を漏らしたのか。大体予想は付くが。

 

 ”レイヴン、連れていってあげて。私も手伝うから。”

 

 やはり先生だったか。お前は付いてくるなと言いたいところだが、こいつの頑固さはACの装甲を凌ぐ。

 ため息を付きながら、機内を確認して、連れて行っても問題ない数を考える。

 ナイトフォールを投下するときに、邪魔になってはいけない。

 

 「……シャーレと、あと3人だけだ。残りは地上部隊に付いていけ。このヘリは定員が少ない。」

 

 サオリがハンドサインを送ると、スクワッドの3人以外は地上部隊へと向かった。

 先生を先頭に、スクワッドがストーカーへ乗り込んでいく。

 

 「……レイヴン、感謝する。」

 

 サオリが俺にそうこぼしたが、俺は何も言わなかった。サオリの体が、スクワッド全員の体が、微かに震えていたから。

 奴らにとって、ベアトリーチェは恐怖そのものだ。だからこそ、ベアトリーチェにも教えてやろう。

 死そのものが、眼前へと迫る恐怖を。

 

 特にトラブルも無く、作戦は時間通り決行。俺とスクワッド達を乗せたストーカーは、アリウスに向けて飛んでいった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 『作戦エリアに接近、フェーズ1を開始。行きましょう、レイヴン。』

 

 「もうすぐアリウスの防衛ラインだ。準備しろ。」

 

 轟音の響くキャビンの中で、各々の武器の弾倉を確認するスクワッド。先生はシッテムの箱を起動したようだ。

 スクワッドにキャビンの中央からはける様に伝え、そこに運転席側を向いて立つ。

 天井から2本のアームが降りて、両肩を掴み、機体を僅かに持ち上げた。

 

 ”レイヴン。無理だけはしないで。”

 

 先生の言葉に軽く頷き、バイザーを下ろして戦闘モードを起動。後部ハッチが開き、機体が押し出されていく。

 下に見えるのは、荒れた地面。1度は整備されたのか、道路の残骸のような物が見える。

 全速で前進するストーカーの後ろで、落下の衝撃に備える。

 

 『投下まで5秒……。3、2、1。』

 『ストーカー上昇、広域スキャン開始。』

 

 切り離された直後に着地。ブースターの出力を上げて一気に前進する。

 石造りか、あるいはコンクリートか。トリニティの建築様式の面影を感じる瓦礫をかわしながら、地上を全速で滑っていく。

 アリウス分校まで、そう距離は無い。通常推力で順調に近づいていく。

 

 『レイヴン、作戦エリアに到達。フェーズ2に移行。』

 

 遠くに見えてきたのは、瓦礫で造られたバリケード。こちらからの侵入は想定されていないのだろう。大した高さは無く、防護機銃などの設備も無い。

 速度を維持し、バリケード目掛けて突っ込んでいく。

 

 『なあ、あそこ。何か見えないか?』

 

 『……レイヴンだ。黒い鳥が来たぞぉ!!』

 

 エアが傍受した、アリウス達のノイズ混じりの通信。

 アリウスが俺の存在に気付いたが、弾幕を張ってくるどころか逃げ出し始めた。

 ある意味では正しい選択だが、今回は無意味だ。バリケード一帯をロックオンして、ミサイルを発射。

 目標に衝突する直前で子弾頭が展開され、16発のミサイルが、バリケードとその付近にいたアリウスに襲い掛かる。

 もはや防壁の意味をなさなくなったバリケードを飛び越え、正面にいた1人に7.62mm弾の雨を浴びせる。

 着地しても勢いを緩めず、左側にいた銃を構えた奴をガトリングガンでノックアウト。

 逃げ出してる連中はミサイルで追撃。着弾観測はせず、一帯の掃討を続ける。

 大きく弧を描くように反転しながら、ガトリングガンで戦う意思を見せている者から処理。

 2人を仕留めた後、1人が瓦礫の裏に隠れたのが見えたので、そいつ目掛けてクイックブースト。瓦礫ごと蹴り飛ばして無力化する。

 足を止めた瞬間、後ろから聞こえる叫び声。左に急旋回し、その勢いで左腕のシールドを叩きつける。鉄パイプで殴りかかろうとしたようだが、それは蛮勇というものだ。

 周辺をレーダーで確認すると、一切の反応はない。これで片付いたようだ。

 

 「着陸地点確保。スクワッド、降りてこい。」

 

 そう指示した瞬間、急降下してくるストーカー。地面スレスレで停止し、開いたハッチからスクワッドと先生が降りてくる。

 全員が降りた瞬間、ストーカーはフレアを撒きながら、一気に高度を上げる。先生が着地するときに手を付いていたが、サオリがすぐに引っぱり起こした。

 

 「私達はバシリカに向かう。スクワッド、行くぞ!」

 

 サオリを先頭に、4人はアリウスの奥地にあるという場所に向けて駆け出した。

 俺はさっき逃げ出した奴らが走っていった方向に加速する。

 

 『あそこにいるのは、スクワッドか!?死んだはずだろ!レイヴンに殺されて!!』

 

 『アハハッ!もうおしまいだ!私達、みんな黒い鳥に殺されちゃうんだ!アハ、アハハハハ!!!』

 

 『嫌だ!私、死にたくない……!死にたくないよぉ!!!』

 

 『敵部隊、約半数が逃走を開始。』

 

 倒れていた集団を飛び越えながら旋回。通信していた場所に奴がいるであろう場所に向けて、着地と同時に榴弾を放つ。

 爆発が直撃した廃墟は、ガラガラと音を立てながら崩れていく。何人か生き埋めになったようだが、エアによって場所がマークされている。救助も問題ないだろう。

 そのまま地上部隊の侵入口の方へ移動しながら、瓦礫の影に隠れた奴らをガトリングガンで撃ち抜き、パルスシールドで瓦礫ごと弾き飛ばす。

 その大半が交戦の意図はなく、例えこちらを見つけても逃げ惑うばかり。そうした連中も決して逃がすことはせず、徹底的に殲滅していく。

 途中で背を向けて逃げているグループを見つけ、その背中を撃ち抜こうとしたが、そのうちの1人が振り返り、両腕を広げて立ちふさがった。

 健気だが、無意味だ。そいつが言葉を発する前にパルスシールドで衝突、集団に向けて弾き飛ばし、逃げる足を止める。

 そして、全体の動きが止まった瞬間、榴弾を集団の中央へ叩き込んで殲滅。後退しながら、意識が残った連中をガトリングで仕留める。

 そうして広い場所に戻ったタイミングで、エアから報告が入った。

 

 『……マッピング完了。地上部隊に共有します。』

 

 『データを受け取った。これより進軍を開始する。』

 

 地上部隊が移動を始めた。十分な打撃を与えているから、これ以上アリウスを追う必要は無い。

 姿勢を整え、バシリカへ向けて加速する。

 

 『敵部隊、壊滅状態です。レイヴン、戦闘継続に問題なし。これよりバシリカに向かいます。』

 

 アリウスをここまで強く叩いていたのは、アリウスにとっての恐怖を、ベアトリーチェではなく、俺で上書きするためだ。

 俺から逃れられるなら、何だっていい。そう思わせる必要があった。そうすれば、トリニティに取り込まれることに、文句を言う奴らはいなくなるだろう。

 物語には、悪役が必要だ。トリニティの天使達が、アリウスの亡霊達を救う物語。この物語の悪役は、俺でなければならない。

 俺以外に、出来る者はいない。

 

 元より、俺は恐怖なのだから。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 バシリカの至聖所にて。ベアトリーチェは、ただ待っていた。

 彼女が欲する力を持つ者を。自身に復讐を誓っていた者を。

 だが、先にたどり着いたのは、自身が最良の駒と思っていた者だった。宿敵である、シャーレの先生を連れて。

 

 「ベアトリーチェ!!」

 

 「……おや、サオリ。それに、ミサキに、ヒヨリ。アツコはどうしました?脳を焼かれて死にましたか?」

 

 ”生きてるよ。救護騎士団から治療を受けてる。強いストレスで気絶しただけだろうって。”

 

 「……ああ、あなたの差し金ですか。シャーレの先生。道理で、その子達が私に噛みついてきたわけです。」

 

 「……ベアトリーチェ。このアリウスの内戦を止めてくれた事は、感謝している。だが……!」

 「お前は、私達を、アリウスの仲間を苦しめた!私の家族を、苦しめ続けてきた!」

 「私達は、もうお前の武器ではない!!お前は、私の敵だ、ベアトリーチェッ!!!」

 

 ベアトリーチェに銃を向けるサオリ。その銃口は僅かに震えていたが、確かに、ベアトリーチェの顔に向けられていた。

 それでもベアトリーチェは、余裕の態度を崩すこと無く、あきれたように4人を見下ろした。

 

 「……何を言い出すのかと思えば。既にあなた達は用済みです。あの木偶のせいで水泡へと帰しましたが。」

 「アツコが持つ神秘も必要ありません。これから来る“アレ”が、それ以上の代わりに――」

 

 その言葉と同時にステンドグラスを突き抜け、サオリ達の前で停止。

 シールドと姿勢を戻しながら、赤肌の女と向かい合う。

 

 「……来ましたね、C4-621。」

 

 「ようやく会えたな、ベアトリーチェ。」

 

 「ええ、よく来てくれました。この祭壇へ!」

 

 祭壇、というが、正面に見えるいびつな十字架以外、何かがあるようには見えない。

 ベアトリーチェはドーザーなのではという疑いが強くなった時、エアは彼女の言葉を一蹴する。

 

 『何か勘違いをしているようですね。ここは、あなたの墓場です。』

 

 なお余裕の表情を見せる彼女に苛立ちが募っていくが、もう彼女に手札は残っていないと、一先ず相手の動きを待つことにした。

 ベアトリーチェは俺と、俺の顔の横をじっと見つめてから、ゆっくりと口を開いた。

 

 「……やはり素晴らしい。キヴォトスだけでなく、全てを焼き尽くす、その力……!」

 「その力、子供が握るべきものではありません。私に預けなさい、621。そうすれば楽に殺してあげます。」

 

 ”……この子には、レイヴンという名前がある。番号で呼ぶのはやめろ!”

 

 先生がそう啖呵を切った瞬間、ベアトリーチェは両頬を大きく吊り上げる。

 彼女は大きく両腕を広げ、先生を嘲笑う。

 

 「くくくっ……!それが偽名だと既に知っているでしょう、シャーレの先生?」

 「丁度いい、教えてあげましょうか。その野良犬の正体を!」

 

 ”どうだっていい。”

 

 「……何?」

 

 ”この子の正体なんかどうだっていい!レイヴンが今ここにいる、傭兵として生きている、沢山の事を見てきた子。それだけ分かっていれば十分だ!”

 

 これまで余裕を見せていたベアトリーチェだが、その表情が一気に歪んだ。先生の答えが余程気に入らなかったらしい。

 開いていた扇子を閉じ、自身の手へ何度か打ち付けながら、こちらへと降りてきた。

 

 「……つくづく、私を苛立たせてくれますね……!まあいいでしょう!」

 「621もここに居る!儀式に必要なものは整いました!後は、その力を使い、私が高位の存在へと至るのみ!」

 

 『無理ですよ。』

 

 「……ほう?」

 

 ベアトリーチェの歩みが止まる。背中のヒートシンクを開き、ブースターの推力を引き上げる。

 

 『あなたにレイヴンは殺せない。』

 『私には分かります。死ぬのはあなたです。』

 

 「――ッ!やってみなさい、野良犬ふぜ――」

 

 その瞬間、ベアトリーチェと俺の距離は大きく詰められ、シールドを叩きつけられた勢いで、真っ直ぐ壁へと叩きつけられた。

 土煙に埋もれたベアトリーチェに、ゆっくりと歩み寄る。

 

 『この程度の攻撃もかわせないのですから。』

 

 壁に埋もれていたベアトリーチェの長い黒髪を掴み、サオリ達の方向へ放り投げる。

 受け身も取れず、地面へ叩きつけられた彼女は、せき込みながら痛みにもだえている。

 

 「なあ、ベアトリーチェ。俺はお前の何が気に入らないのか、分かるか。」

 

 「……サオリ、ミサキ、ヒヨリ……!私を、助けなさい……!」

 

 サオリ達に這い寄ろうとするベアトリーチェを足でひっくり返し、その腹を勢いを乗せて踏みつける。

 さっきのタックルで死ななかったのだ。どうせこれで死ぬことは無いのだろう。

 

 「お前は、俺の過去を知った。」

 

 もう一度踏みつける。ボキッという音と感触が響く。

 

 「俺の選択を笑った。」

 

 もう一度踏みつける。ベアトリーチェが血を吐き始めた。

 

 「俺の、俺達の過去に、土足で踏み入った事、その1点だ……!」

 

 もう一度踏みつける。彼女の口周りは、完全に血に覆われた。

 痛みにあえぐベアトリーチェから足を離すことなく、ゆっくりと言葉を続ける。

 

 「この場でお前を殺してもいいが、お前の話を聞いて、何だか馬鹿らしくなってきた。」

 「人の使い方も知らない、策を弄することも出来ない、挙句、自分が神になれると思い上がっている。」

 「依頼を投げてきた時は、ある奴の顔がちらついたが、蓋を開けてみれば、とんだ小物だ。」

 「もうお前には、殺す価値もない。」

 

 シールドの先端に造られた刃を振り上げ、ベアトリーチェの両足に向けて振りぬく。

 何の抵抗も無く焼き切られ、ベアトリーチェは焼け付く痛みに叫びながら暴れだす。

 

 ”レイヴン!?何やってるの!!”

 

 「指示されたのはこいつの生け捕りだ。五体満足で捕らえろなんて一言も言われてない。」

 

 ブレードを振り下ろす。今度は左腕を切り落とす。抵抗が激しくなる。

 

 「今のこいつに必要なのは、喋るための口と脳、それらを生かす胴だけだ。違うか?」

 

 ブレードを振り上げる。右腕を切り落とす。痛みで朦朧として来たのか、抵抗が緩くなった。

 

 「ああ、そうだ。手足を無くす苦しみは、後から効いてくるらしい。楽しみにしておけ、ベアトリーチェ。」

 

 そう声を掛けると、恐怖に濁った眼を俺に向けるベアトリーチェ。

 その後、サオリ達に顔を向けるが、向けた瞬間3人とも後ずさりした。

 

 「……これで、分かったでしょう……!本当に排除されるべきは――」

 

 頭を踏みつけて黙らせる。色々とやってしまったが、まだ生きている。処置をすれば十分生きられるだろう。

 ベアトリーチェの脇腹を握り、小脇に抱えて、サオリ達に声を掛ける。

 

 「行くぞ。帰るまでが遠足だ。」

 

 至聖所を出ていこうとする俺に、4人は付いていこうとしなかった。理由など明白だ。

 あいつらも、俺を恐れているからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後、事の発端であるベアトリーチェは、トリニティにて裁きを受け、その生涯を更生局の特別収容室で過ごすことが決定された。

 アリウスをトリニティへ引き入れ、混乱を招いたパテル派首長、聖園ミカは、当時の状況を鑑みて、権限の一時剥奪と奉仕活動への強制参加に留まった。

 百合園セイア襲撃の主犯、白洲アズサについても、マインドコントロールの影響下にあったとして、彼女の処分は厳重注意に留まっている。

 

 そして、アリウスの生徒の大多数がトリニティによって保護され、シスターフッド主導の元、穏健な再教育が始まった。

 初めこそ、多くが施しを拒絶したが、時間と共に、環境の変化を受け入れていった。

 ただ、最後までアリウス自治区に残っていた者は、深刻なPTSDを患い、カラスに対して強く怯えるようになった。

 何が恐ろしいのかと聞けば、彼女たちは、口を揃えてこう答える。

 

 黒い鳥が、恐ろしい。人の形をした破滅が、恐ろしいと。




という事で、ベアトリーチェ無期懲役エンドで、エデン条約はフィナーレです。
ゲマトリアが助けに来ることもありません。やったね。

ベアトリーチェって良い悪役ですよね。
どんなに殴ったって罪悪感湧かないんだもん。
どっかの陰険カタツムリみたいに殴りやすい。  ワタシハキギョウダゾ!?>

次回
罪人たち
それは、超えてはならなかった一線

次回も気長にお待ちくださいませ……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。