BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL- 作:Soburero
筆が乗ってるうちに書き進めます。
多分次から最終章に入ります。
さて、プロットを整えねば……。
『マダム……。何故ここに呼ばれたのか、お分かりですか?』
『大方、“アレ”の対処についてでしょう?』
『ベアトリーチェよ、黒服から警告は受けていただろう。何故無視した?』
『事実ミメシスは、奴によって焼き払われた。それでも、奴の制御を試みると?』
『……何の役にも立たない木偶が。あなたがもっと使える作品を寄越せば済んだ話でしょう?』
『……本当に、力押しが効くとでも?“アレ”のテクストは、闘争の権化と呼んで差し支えないそれですよ。』
『追い詰められるほど、その戦いは切れ味を増す。それに対応できる算段でもあるのですか?』
『おや?限界の二文字を忘れたのですか?テクストとやらは存外適当なのですね。』
『そういうこったァ!!!』
『……マダム。あなたは自分が何をしたのか分かっているのですか?』
『“アレ”はいずれ、我々の存在に勘付くでしょう。そうなれば、ゲマトリアの壊滅だけでなく、全研究成果の焼失もあり得るのですよ。』
『ならそうなる前に手中へと納めればいい。“アレ”が生徒である以上、ヘイローが砕ければそれまでです。』
『“アレ”に怯える必要など、何処にもないのです!その力さえ取り込めれば、私は一気に崇高へと近づくのですよ!』
『………………。』
『……ゴルコンダ。』
『……致し方ないでしょう。』
『……デカルコマニー。』
『……そういうこった。』
『……マエストロ。』
『……仕方あるまい。』
『……ベアトリーチェ。』
『只今をもって、あなたをゲマトリアから除名とします。』
『……良いでしょう。指を咥えて見ていなさい。』
『私が、あなた達が追い求めた、崇高に至る瞬間を!』
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古聖堂防衛戦の翌日。一先ず脅威が去ったという事で、トリニティで直接集まっての会議が開かれる事となった。
議題は、アリウス分校制圧の手筈。既に死に体といえど、抵抗する手段が残っていないとも限らない。
案内された先のドアを開けると、目に入ったのは大きな円卓。既に俺以外のメンバーがそろっている。
”レイヴン、ここに座って。”
先生に促されるまま、空いた席に座る。他のメンバーはティーパーティーの3人と、正実のトップ2人。
普段であれば、目の前には紅茶で満たされたティーカップが置かれ、机の上にはたくさんの茶菓子が並んでいてもおかしくないだろう。
だが今日は、資料が目の前に置かれているのみ。
まず話し始めたのはナギサだった。彼女にだけティーカップが用意されているのは、何とも不思議な光景だ。
「お久しぶりですね、レイヴンさん。古聖堂の戦い、見事でした。」
「仕事をしたまでだ。それで、念のため確認するが、今日の議題は?」
「……アリウスの、処遇についてです。まず、アリウス分校を制圧し、生徒達を保護、ベアトリーチェを確保する。ここまでは決定事項です。」
「しかし、その後のアリウス達をどう扱うべきなのか、各派閥で意見が分かれていて……。」
「パテルの皆が、かなり強く反対してるんだよね。攻撃してきた奴らを許すのか~!って。」
「でも、このお話の悪役は、アリウスをトリニティに引き込んだ私と、アリウスを虐げてきたベアトリーチェ。生徒達は悪くない。」
「私としては、トリニティで幸せを掴んで欲しいなって思ってるんだけど、説得が中々上手く行かないんだよね……。」
「サンクトゥスは静観しているね。引き込めば慈悲深さをアピールできると言う者も居るが、そう上手くは行かないだろう。」
「私個人としても、決めかねているところだ。」
ティーパーティー3人の意見はそれぞれ。だが、内容に本題が含まれていない。完全に油断している。
眉根にしわが寄るのを感じながら、自分の意見を飛ばす。
「今更そんなことを話しているのか。救護騎士団とシスターフッドに預ければいいだろう。」
「もちろんそのつもりです。ですが、それはあくまで、アリウスがトリニティでの生活に慣れるまでの、一時的な処置に過ぎません。」
「生活に慣れた後、アリウス分派を復興させるべきか、あるいは他の分派へと預けるべきなのか、ティーパーティーでも判断が付かないのです。」
横目で先生を見ると、困ったような笑みを浮かべるばかりだった。シャーレ主導で更生させるくらいの意見を出して欲しいものだ。
腕と足を組み、背もたれに寄りかかって、ナギサ達の眼を見つめる。
「……それは政治家の、ひいてはお前達の仕事だろう。何より、アリウス分校を制圧した気になっているのも気に入らない。」
「アリウスの最大の脅威、ベアトリーチェがまだ残っている。奴を叩き潰し、アリウスの息の根を止めなければ、いずれまた同じことが起こるぞ。」
「その通りです、ナギサ様。ベアトリーチェこそ、アリウスの病巣。元凶から切除せねばなりません。」
「しかし、ナギサさんの不安も尤もかと。教えられていたとはいえ、今もアリウスは、トリニティとゲヘナを憎んでいる。」
「憎む相手の一部となる事を、強く拒絶する者もいるでしょう。」
救護騎士団の団長、蒼森ミネと、シスターフッドの長、歌住サクラコからも声が上がる。
このままでは、本題に入ることなく会議が終わってしまいそうだ。
テーブルを叩いて黙らせようかと考えた時、ハスミから問いが投げかけられる。
その表情は、理解できないモノを見ている時のそれであった。
「……1つ教えてください、レイヴン。」
「何だ?」
「あなたは、戦いに精通しすぎています。作戦立案や、戦闘能力もそうですが、ユスティナの出現の様な、イレギュラーへの対応が正確すぎます。」
「ただの傭兵というには、余りにも優れています。あなたは一体、何者なのですか。」
『……それを聞いて、どうするんですか。』
エアがそう問うも、ハスミは答えようとしない。他の奴らも、顔をこちらに向けて来る始末だ。
答えなければ進まなさそうなので、出来るだけぼかして伝えることにした。
「……俺は元々、資源戦争の尖兵だった。イレギュラーに対処できなければ死んでいた。これで良いか?」
「……その技術は、誰から――」
「ハスミ。」
「……失礼しました。」
ツルギに咎められたことで、矛を収めたハスミ。全員微妙な表情をしているが、一先ず話を戻すことにする。
「話を戻すぞ。アリウスを制圧する算段はどうなっている。」
「ハスミさん、お願いできますか?」
「お任せください。」
「まず、スクワッドからの情報提供により、アリウス分校の位置が判明しました。トリニティから北に離れた、廃墟群を根城としているようです。」
「スラムを通る事になりますが、地上ルートも繋がっています。恐らく、例の兵器は、このルートを通って運ばれたのでしょう。」
「先の防衛戦により、アリウスの戦力はほぼ失われており、直接乗り込んだとしても、最小限の抵抗で済む予想です。」
「ですので、我々正義実現委員会と風紀委員会の混成部隊により、地上から侵攻します。」
「アリウスに乗り込み、ベアトリーチェを捕縛し、安全が確保出来次第、アリウス生の保護を行います。」
風紀委員会が動くとは。恐らく、マコトの頭に血が上っているせいだと思われるが、味方の数が増えるのはありがたい。
アリウスに乗り込むまでは良いとして、問題は中に入ってから。廃墟群となれば、構造も大きく変わっているはずだ。地図なども役に立たないだろう。
「内部の構造はどれだけ分かっている?」
「……情報はほぼゼロです。アリウス全体の地図でもあれば、話は変わってくるのですが……。」
『……それなら、私達が偵察します。』
「偵察?どうやって?ヘリでも飛ばすの?」
ミカの疑問は尤もだ。実際、俺はヘリを個人で所有、運用しているが、相手が対空武装を持っていると厄介だ。
エアもそれを分かっているため、あるプランを提示した。
『地上ルートとは反対方向から、レイヴン単騎による強行偵察を行います。』
『レイヴンがアリウス内部に侵入、直接交戦し、その間に、私がアリウス全体をマッピングします。』
『十分な時間交戦した後、地上部隊に情報を伝達。その後、余裕があれば戦闘を続行し、ベアトリーチェを確保。それが難しければ撤退する作戦です。』
そのプランを提示した瞬間、全員がお互いの顔を見合わせ始めた。特に先生は、かなり渋い顔をしている。
”……無茶だよ。サオリも言ってたけど、アリウスに戦える子は居ない。そこまでする必要は無いって。”
「手負いほど、何をしてくるのか分からんぞ。最悪、俺達をアリウスごと吹き飛ばして来るかもな。」
「……レイヴン。これは、保護作戦だ。ベアトリーチェは殺さず、生かして捕えるんだ。分かっているな。」
そう語るツルギの顔は、確かにこちらを睨みつけているが、同時に何かに怯えている眼をしている。
ベアトリーチェを殺したいと考えている事も伝わっているようだが、これが依頼である以上、クライアントの要望には従うしかない。
ここが傭兵の辛い所だ。
「分かっている。奴には聞きたい事が山ほどあるからな。まあ、死んだならそれでもいいが。」
「……お前は、人の死を何だと思っている。」
「……俺からすれば、銃撃戦で誰も死なない方が異常だ。戦いに死は付き物、必ず付いて回るものだ。」
「むしろ、お前達にとって、死とは何だ?」
「……死狂いが。」
「それの何が悪い。」
部屋はすっかり静まり返り、空気も完全に冷え切っている。ツルギの眼からは、俺に対する怯えが見える。
どちらにせよ、俺が話しておきたい事は話せた。これ以上の長居は無用だろう。
「……動くなら早い段階で動け。奴らに力を蓄えさせるな。」
そう言い残して椅子から立ち上がり、ドアをくぐって出ていく。
正直な話、今すぐにでもアリウスに乗り込みたかった。今夜制圧を決行すると言ってほしかった。
とっととベアトリーチェを殺さなければ。
俺の過去が、広まる前に。
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作戦が決行されたのは、会議から2日後。重たい雲が空に漂う日。政治家にしては動きが早いと思う事にした。
今正実や風紀が集まっているのは、トリニティのスラムの1歩手前の場所。
歩兵部隊や、それを運ぶための装甲車はもちろん、万魔殿のマークが描かれた戦車が1両出ている。どうもマコトが押し付けてきたらしい。
ただ、今回はアリウス生の確保を目的とするためか、非武装の車両や医療班が多いのが目立つ。
後30分で作戦が始まる。ストーカーの状態は問題なし。ナイトフォールも被弾で装甲が少しへこんでいる程度。昨日パージした発振器も取り換え済みだ。
視界に移ったモニターでアリウス周辺の状況を確認していると、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
「レイヴン!」
「……スクワッドか。お前達が動く予定は無かったはずだが。」
サオリを先頭に、ガスマスクを外したアリウス生が、ストーカーのハッチの前に集まっていた。
全員を覚えているわけでは無いが、ベアトリーチェからの依頼を受けた時に叩き潰した奴らだろう。
サオリが俺に1歩近づくと、俺の眼をまっすぐ見つめながら口を開いた。
「私達も連れて行ってくれ。必ず役に立つ。足を引っ張るようなことはしない。」
「地上部隊に付いていけばいいだろう。何故俺と来る。」
「お前がアリウスを倒した後、私達が説得する。私達の話なら聞いてくれる奴もいるはずだ。それに……。」
「……マダムには、言いたいことがある。」
初めて会った時から、随分と雰囲気が変わったものだ。諦観が詰まっていた目には、決意の火が灯っている。
ミサキやヒヨリ、他の連中に顔を向けると、程度は違うがサオリと同じ変化が見える。
「……他の連中はどうだ。」
「リーダーを1人で突っ込ませるのは、マズいから。それだけ。」
「アリウスに残ってる子達は、今も辛い目に合っているはずなので、見捨てたくなくって……。へへ……。」
「僕たちが抱えていた憎しみは、僕たちの物じゃなかった。そんなものに従ったって、虚しいだけ。」
「だから、僕たちでアリウスの憎しみの呪いを解く。マダムを倒してね。」
そう言って1人が銃を掲げると、他の奴らも共振するかのように銃を掲げた。
やる気があるのは結構だ。だが気になるのは、誰がスクワッドに情報を漏らしたのか。大体予想は付くが。
”レイヴン、連れていってあげて。私も手伝うから。”
やはり先生だったか。お前は付いてくるなと言いたいところだが、こいつの頑固さはACの装甲を凌ぐ。
ため息を付きながら、機内を確認して、連れて行っても問題ない数を考える。
ナイトフォールを投下するときに、邪魔になってはいけない。
「……シャーレと、あと3人だけだ。残りは地上部隊に付いていけ。このヘリは定員が少ない。」
サオリがハンドサインを送ると、スクワッドの3人以外は地上部隊へと向かった。
先生を先頭に、スクワッドがストーカーへ乗り込んでいく。
「……レイヴン、感謝する。」
サオリが俺にそうこぼしたが、俺は何も言わなかった。サオリの体が、スクワッド全員の体が、微かに震えていたから。
奴らにとって、ベアトリーチェは恐怖そのものだ。だからこそ、ベアトリーチェにも教えてやろう。
死そのものが、眼前へと迫る恐怖を。
特にトラブルも無く、作戦は時間通り決行。俺とスクワッド達を乗せたストーカーは、アリウスに向けて飛んでいった。
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『作戦エリアに接近、フェーズ1を開始。行きましょう、レイヴン。』
「もうすぐアリウスの防衛ラインだ。準備しろ。」
轟音の響くキャビンの中で、各々の武器の弾倉を確認するスクワッド。先生はシッテムの箱を起動したようだ。
スクワッドにキャビンの中央からはける様に伝え、そこに運転席側を向いて立つ。
天井から2本のアームが降りて、両肩を掴み、機体を僅かに持ち上げた。
”レイヴン。無理だけはしないで。”
先生の言葉に軽く頷き、バイザーを下ろして戦闘モードを起動。後部ハッチが開き、機体が押し出されていく。
下に見えるのは、荒れた地面。1度は整備されたのか、道路の残骸のような物が見える。
全速で前進するストーカーの後ろで、落下の衝撃に備える。
『投下まで5秒……。3、2、1。』
『ストーカー上昇、広域スキャン開始。』
切り離された直後に着地。ブースターの出力を上げて一気に前進する。
石造りか、あるいはコンクリートか。トリニティの建築様式の面影を感じる瓦礫をかわしながら、地上を全速で滑っていく。
アリウス分校まで、そう距離は無い。通常推力で順調に近づいていく。
『レイヴン、作戦エリアに到達。フェーズ2に移行。』
遠くに見えてきたのは、瓦礫で造られたバリケード。こちらからの侵入は想定されていないのだろう。大した高さは無く、防護機銃などの設備も無い。
速度を維持し、バリケード目掛けて突っ込んでいく。
『なあ、あそこ。何か見えないか?』
『……レイヴンだ。黒い鳥が来たぞぉ!!』
エアが傍受した、アリウス達のノイズ混じりの通信。
アリウスが俺の存在に気付いたが、弾幕を張ってくるどころか逃げ出し始めた。
ある意味では正しい選択だが、今回は無意味だ。バリケード一帯をロックオンして、ミサイルを発射。
目標に衝突する直前で子弾頭が展開され、16発のミサイルが、バリケードとその付近にいたアリウスに襲い掛かる。
もはや防壁の意味をなさなくなったバリケードを飛び越え、正面にいた1人に7.62mm弾の雨を浴びせる。
着地しても勢いを緩めず、左側にいた銃を構えた奴をガトリングガンでノックアウト。
逃げ出してる連中はミサイルで追撃。着弾観測はせず、一帯の掃討を続ける。
大きく弧を描くように反転しながら、ガトリングガンで戦う意思を見せている者から処理。
2人を仕留めた後、1人が瓦礫の裏に隠れたのが見えたので、そいつ目掛けてクイックブースト。瓦礫ごと蹴り飛ばして無力化する。
足を止めた瞬間、後ろから聞こえる叫び声。左に急旋回し、その勢いで左腕のシールドを叩きつける。鉄パイプで殴りかかろうとしたようだが、それは蛮勇というものだ。
周辺をレーダーで確認すると、一切の反応はない。これで片付いたようだ。
「着陸地点確保。スクワッド、降りてこい。」
そう指示した瞬間、急降下してくるストーカー。地面スレスレで停止し、開いたハッチからスクワッドと先生が降りてくる。
全員が降りた瞬間、ストーカーはフレアを撒きながら、一気に高度を上げる。先生が着地するときに手を付いていたが、サオリがすぐに引っぱり起こした。
「私達はバシリカに向かう。スクワッド、行くぞ!」
サオリを先頭に、4人はアリウスの奥地にあるという場所に向けて駆け出した。
俺はさっき逃げ出した奴らが走っていった方向に加速する。
『あそこにいるのは、スクワッドか!?死んだはずだろ!レイヴンに殺されて!!』
『アハハッ!もうおしまいだ!私達、みんな黒い鳥に殺されちゃうんだ!アハ、アハハハハ!!!』
『嫌だ!私、死にたくない……!死にたくないよぉ!!!』
『敵部隊、約半数が逃走を開始。』
倒れていた集団を飛び越えながら旋回。通信していた場所に奴がいるであろう場所に向けて、着地と同時に榴弾を放つ。
爆発が直撃した廃墟は、ガラガラと音を立てながら崩れていく。何人か生き埋めになったようだが、エアによって場所がマークされている。救助も問題ないだろう。
そのまま地上部隊の侵入口の方へ移動しながら、瓦礫の影に隠れた奴らをガトリングガンで撃ち抜き、パルスシールドで瓦礫ごと弾き飛ばす。
その大半が交戦の意図はなく、例えこちらを見つけても逃げ惑うばかり。そうした連中も決して逃がすことはせず、徹底的に殲滅していく。
途中で背を向けて逃げているグループを見つけ、その背中を撃ち抜こうとしたが、そのうちの1人が振り返り、両腕を広げて立ちふさがった。
健気だが、無意味だ。そいつが言葉を発する前にパルスシールドで衝突、集団に向けて弾き飛ばし、逃げる足を止める。
そして、全体の動きが止まった瞬間、榴弾を集団の中央へ叩き込んで殲滅。後退しながら、意識が残った連中をガトリングで仕留める。
そうして広い場所に戻ったタイミングで、エアから報告が入った。
『……マッピング完了。地上部隊に共有します。』
『データを受け取った。これより進軍を開始する。』
地上部隊が移動を始めた。十分な打撃を与えているから、これ以上アリウスを追う必要は無い。
姿勢を整え、バシリカへ向けて加速する。
『敵部隊、壊滅状態です。レイヴン、戦闘継続に問題なし。これよりバシリカに向かいます。』
アリウスをここまで強く叩いていたのは、アリウスにとっての恐怖を、ベアトリーチェではなく、俺で上書きするためだ。
俺から逃れられるなら、何だっていい。そう思わせる必要があった。そうすれば、トリニティに取り込まれることに、文句を言う奴らはいなくなるだろう。
物語には、悪役が必要だ。トリニティの天使達が、アリウスの亡霊達を救う物語。この物語の悪役は、俺でなければならない。
俺以外に、出来る者はいない。
元より、俺は恐怖なのだから。
――――――――――――――――――――――――――――――――
バシリカの至聖所にて。ベアトリーチェは、ただ待っていた。
彼女が欲する力を持つ者を。自身に復讐を誓っていた者を。
だが、先にたどり着いたのは、自身が最良の駒と思っていた者だった。宿敵である、シャーレの先生を連れて。
「ベアトリーチェ!!」
「……おや、サオリ。それに、ミサキに、ヒヨリ。アツコはどうしました?脳を焼かれて死にましたか?」
”生きてるよ。救護騎士団から治療を受けてる。強いストレスで気絶しただけだろうって。”
「……ああ、あなたの差し金ですか。シャーレの先生。道理で、その子達が私に噛みついてきたわけです。」
「……ベアトリーチェ。このアリウスの内戦を止めてくれた事は、感謝している。だが……!」
「お前は、私達を、アリウスの仲間を苦しめた!私の家族を、苦しめ続けてきた!」
「私達は、もうお前の武器ではない!!お前は、私の敵だ、ベアトリーチェッ!!!」
ベアトリーチェに銃を向けるサオリ。その銃口は僅かに震えていたが、確かに、ベアトリーチェの顔に向けられていた。
それでもベアトリーチェは、余裕の態度を崩すこと無く、あきれたように4人を見下ろした。
「……何を言い出すのかと思えば。既にあなた達は用済みです。あの木偶のせいで水泡へと帰しましたが。」
「アツコが持つ神秘も必要ありません。これから来る“アレ”が、それ以上の代わりに――」
その言葉と同時にステンドグラスを突き抜け、サオリ達の前で停止。
シールドと姿勢を戻しながら、赤肌の女と向かい合う。
「……来ましたね、C4-621。」
「ようやく会えたな、ベアトリーチェ。」
「ええ、よく来てくれました。この祭壇へ!」
祭壇、というが、正面に見えるいびつな十字架以外、何かがあるようには見えない。
ベアトリーチェはドーザーなのではという疑いが強くなった時、エアは彼女の言葉を一蹴する。
『何か勘違いをしているようですね。ここは、あなたの墓場です。』
なお余裕の表情を見せる彼女に苛立ちが募っていくが、もう彼女に手札は残っていないと、一先ず相手の動きを待つことにした。
ベアトリーチェは俺と、俺の顔の横をじっと見つめてから、ゆっくりと口を開いた。
「……やはり素晴らしい。キヴォトスだけでなく、全てを焼き尽くす、その力……!」
「その力、子供が握るべきものではありません。私に預けなさい、621。そうすれば楽に殺してあげます。」
”……この子には、レイヴンという名前がある。番号で呼ぶのはやめろ!”
先生がそう啖呵を切った瞬間、ベアトリーチェは両頬を大きく吊り上げる。
彼女は大きく両腕を広げ、先生を嘲笑う。
「くくくっ……!それが偽名だと既に知っているでしょう、シャーレの先生?」
「丁度いい、教えてあげましょうか。その野良犬の正体を!」
”どうだっていい。”
「……何?」
”この子の正体なんかどうだっていい!レイヴンが今ここにいる、傭兵として生きている、沢山の事を見てきた子。それだけ分かっていれば十分だ!”
これまで余裕を見せていたベアトリーチェだが、その表情が一気に歪んだ。先生の答えが余程気に入らなかったらしい。
開いていた扇子を閉じ、自身の手へ何度か打ち付けながら、こちらへと降りてきた。
「……つくづく、私を苛立たせてくれますね……!まあいいでしょう!」
「621もここに居る!儀式に必要なものは整いました!後は、その力を使い、私が高位の存在へと至るのみ!」
『無理ですよ。』
「……ほう?」
ベアトリーチェの歩みが止まる。背中のヒートシンクを開き、ブースターの推力を引き上げる。
『あなたにレイヴンは殺せない。』
『私には分かります。死ぬのはあなたです。』
「――ッ!やってみなさい、野良犬ふぜ――」
その瞬間、ベアトリーチェと俺の距離は大きく詰められ、シールドを叩きつけられた勢いで、真っ直ぐ壁へと叩きつけられた。
土煙に埋もれたベアトリーチェに、ゆっくりと歩み寄る。
『この程度の攻撃もかわせないのですから。』
壁に埋もれていたベアトリーチェの長い黒髪を掴み、サオリ達の方向へ放り投げる。
受け身も取れず、地面へ叩きつけられた彼女は、せき込みながら痛みにもだえている。
「なあ、ベアトリーチェ。俺はお前の何が気に入らないのか、分かるか。」
「……サオリ、ミサキ、ヒヨリ……!私を、助けなさい……!」
サオリ達に這い寄ろうとするベアトリーチェを足でひっくり返し、その腹を勢いを乗せて踏みつける。
さっきのタックルで死ななかったのだ。どうせこれで死ぬことは無いのだろう。
「お前は、俺の過去を知った。」
もう一度踏みつける。ボキッという音と感触が響く。
「俺の選択を笑った。」
もう一度踏みつける。ベアトリーチェが血を吐き始めた。
「俺の、俺達の過去に、土足で踏み入った事、その1点だ……!」
もう一度踏みつける。彼女の口周りは、完全に血に覆われた。
痛みにあえぐベアトリーチェから足を離すことなく、ゆっくりと言葉を続ける。
「この場でお前を殺してもいいが、お前の話を聞いて、何だか馬鹿らしくなってきた。」
「人の使い方も知らない、策を弄することも出来ない、挙句、自分が神になれると思い上がっている。」
「依頼を投げてきた時は、ある奴の顔がちらついたが、蓋を開けてみれば、とんだ小物だ。」
「もうお前には、殺す価値もない。」
シールドの先端に造られた刃を振り上げ、ベアトリーチェの両足に向けて振りぬく。
何の抵抗も無く焼き切られ、ベアトリーチェは焼け付く痛みに叫びながら暴れだす。
”レイヴン!?何やってるの!!”
「指示されたのはこいつの生け捕りだ。五体満足で捕らえろなんて一言も言われてない。」
ブレードを振り下ろす。今度は左腕を切り落とす。抵抗が激しくなる。
「今のこいつに必要なのは、喋るための口と脳、それらを生かす胴だけだ。違うか?」
ブレードを振り上げる。右腕を切り落とす。痛みで朦朧として来たのか、抵抗が緩くなった。
「ああ、そうだ。手足を無くす苦しみは、後から効いてくるらしい。楽しみにしておけ、ベアトリーチェ。」
そう声を掛けると、恐怖に濁った眼を俺に向けるベアトリーチェ。
その後、サオリ達に顔を向けるが、向けた瞬間3人とも後ずさりした。
「……これで、分かったでしょう……!本当に排除されるべきは――」
頭を踏みつけて黙らせる。色々とやってしまったが、まだ生きている。処置をすれば十分生きられるだろう。
ベアトリーチェの脇腹を握り、小脇に抱えて、サオリ達に声を掛ける。
「行くぞ。帰るまでが遠足だ。」
至聖所を出ていこうとする俺に、4人は付いていこうとしなかった。理由など明白だ。
あいつらも、俺を恐れているからだ。
この後、事の発端であるベアトリーチェは、トリニティにて裁きを受け、その生涯を更生局の特別収容室で過ごすことが決定された。
アリウスをトリニティへ引き入れ、混乱を招いたパテル派首長、聖園ミカは、当時の状況を鑑みて、権限の一時剥奪と奉仕活動への強制参加に留まった。
百合園セイア襲撃の主犯、白洲アズサについても、マインドコントロールの影響下にあったとして、彼女の処分は厳重注意に留まっている。
そして、アリウスの生徒の大多数がトリニティによって保護され、シスターフッド主導の元、穏健な再教育が始まった。
初めこそ、多くが施しを拒絶したが、時間と共に、環境の変化を受け入れていった。
ただ、最後までアリウス自治区に残っていた者は、深刻なPTSDを患い、カラスに対して強く怯えるようになった。
何が恐ろしいのかと聞けば、彼女たちは、口を揃えてこう答える。
黒い鳥が、恐ろしい。人の形をした破滅が、恐ろしいと。
という事で、ベアトリーチェ無期懲役エンドで、エデン条約はフィナーレです。
ゲマトリアが助けに来ることもありません。やったね。
ベアトリーチェって良い悪役ですよね。
どんなに殴ったって罪悪感湧かないんだもん。
どっかの陰険カタツムリみたいに殴りやすい。 ワタシハキギョウダゾ!?>
次回
罪人たち
それは、超えてはならなかった一線
次回も気長にお待ちくださいませ……。