BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL- 作:Soburero
ツイッター見てるとガンブレ4も結構面白そうなんですよね。
このままロボゲー界隈が盛り上がってくれると良いなぁ。
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40mmグレネード弾:「トールハンマー」
エアの技術提供を受け、エンジニア部が開発した特殊弾頭。
暴徒鎮圧を目的とした非殺傷弾頭であり、空中で電撃をまき散らし、相手を感電させる。
弾頭が長く、単発式のランチャーでの運用が求められる。
最初は「雷光1号」という名前が付けられる予定だったが、
既に商標登録されていたため、やむなく変更した経緯を持つ。
『独立傭兵レイヴン!これは、カイザーコーポレーション本社からの依頼だ。』
『目標は、旧カイザー第6工廠に存在するデカグラマトン、『ケテル』の排除だ。』
『過去に貴様が破壊した第6工廠だが、解体のために作業員を送り込んだ所、彼らはこの工廠に住み着いた、デカグラマトンから攻撃を受けた。』
『我々はこれを排除するために、対デカグラマトン部隊を送り込んだが、あえなく壊滅している。』
『そこで、貴様に白羽の矢が立ったというわけだ。』
『独立傭兵レイヴン!第6工廠に突入し、デカグラマトンを排除しろ!』
『相手は、上部を換装可能な4脚型だ。ガトリングとミサイルを装備したタイプを中心に、3種類の装備が確認されている。』
『工廠の生産ラインの一部復旧も確認している。既に解体予定の場所だ、工廠内の被害は問わん。好きなだけ暴れてくれ。』
『以上だ!独立傭兵レイヴン、確実な遂行を期待する!』
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エデン条約調印式まで、あと2週間。
対アリウスで粗方出来ることはしておいたので、サオリ達の治療による赤字を取り返すために、生業である傭兵稼業をしていた時の事。
「カイザーか……。随分久しぶりの依頼主だな。」
ストーカーの中で、レーションのサンドイッチをかじりながらそう独り言つ。
出来立てと比べれば味気ないが、それでも下手な缶詰よりはマシだ。以前買ったイカ飯の缶詰は酷いものだった。
臭みが酷くて食べられたものじゃない。どうすればあそこまでマズく作れるのか知りたくなったほどだ。
『アビドスの1件以来、私達に依頼を出しては来ませんでしたからね。ですが、今回は特例のようです。』
保存食について考え込んでいると、エアからそう補足される。
実際、アビドスでカイザーを相手に暴れまわったことが効いていたのだろう。これまで連絡を取ろうとすら来なかった。
しかし、今回は相手が悪かったらしい。アビドスの砂漠で排除したものとは別の個体のようだ。
ヒマリから聞いた話によると、アビドスで仕留めたのは『3番目』。『預言者』は他に5体が確認されているそうだ。
『依頼に含まれていた情報によると、ケテルは強固な物理装甲を有しています。ですが、対戦車兵器で対処可能な範囲内です。やや大きい4脚MTを相手取ると思ってください。』
『左腕のブレードが役に立つでしょう。』
「ようやく、こいつの本領発揮だな。」
そう呟きながら、ナイトフォールの左腕に取り付けられたパルスシールドに触れる。
こいつのブレードの出力は、他の兵器やアビ・エシュフの主砲と比べて高く、キヴォトス人すらうっかり殺しかねないため、生身の人間に使わないようにしていたのだ。
だが、機械が相手なら遠慮は不要だ。
『……ただ、いくつか気になったことが。』
「どうした?」
『カイザーの通信記録を探りましたが、ケテル出現の報告が、連邦生徒会を含めた何処にも行われていません。』
『第6工廠はゲヘナ自治区内、風紀委員会の管轄です。一言報告すれば、ある程度は支援が得られたはず。カイザーが見栄で支援を要請しなかったのでしょうか?』
「……それは考えづらい。不祥事として取り沙汰されるのを恐れたか……?」
デカグラマトンの存在は、カイザーやミレニアムもそうだが、連邦生徒会も知っているはず。
エデン条約の調印式に、そこに来るであろうアリウスに備えているとはいえ、風紀委員会が1人も動かないという事は無いはずだ。
何より、カイザーはベイラムとは異なり、見栄を重要視することは無い。得られる支援は出来るだけ受けようとするだろう。
『……一先ず、カイザーの動きを警戒しておきます。風紀委員会と連邦生徒会、念のためシャーレにもケテル出現の報告を入れましょう。』
「分かった、頼むぞ。」
妙な胸騒ぎを抱えながら、右手に持っていたサンドイッチを口に押し込み、MORLEY用の砲弾を取り出す。
何が起きても良いように、ナイトフォールに弾薬を積めるだけ積み込むことにした。
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ゲヘナ学園自治区上空、やけに雲が重い空を、ストーカーが飛んでいく。
操縦席から見えるのは、コンクリートの壁に囲まれた、建物の残骸と思われる瓦礫たち。
俺が潰した時から、現場の状況はそう変わっていないようだ。
『工廠周辺を確認しました。今のところ、何の動きもありません。』
「一部が復旧しているという話だったろう。それはどうだ?」
『それが、修復された痕跡が、どこにも見当たりません。信号はおろか、電源すら通っていないようなのです。この状態で動くとは思えませんが……。』
「カイザーの連中が見間違えたか……?降りて確認するぞ。」
ストーカーの中央に立ち、天井から肩に向かって、2本のアームが降りて来る。
アームが肩を掴むと、後部ハッチがゆっくりと開き、ストーカーは工廠の上空へと移動する。
体が僅かに持ち上がり、外に向かってゆっくりと押し出される。ストーカーとアームの動きが同時に止まり、真下にはアスファルトの地面が広がる。
備え付けられたランプが赤から緑に変わった瞬間、アームはナイトフォールの肩を離し、俺は重力に従って地面に引き寄せられていく。
ブースターを吹かして落下スピードを調節。地面スレスレで大きく吹かして、優しく着地。それでもガシャンという大きな音が、工廠の壁に反響する。
ゆっくりと姿勢を正してから、スキャンを最大出力で実行。工廠全体の地形データが、頭の中に流れ込んでくる。
深呼吸しながらデータを確認すると、敵性反応はなし。ただ、建物と兵器の残骸が広がっているばかり。
目視で確認しても、状況は変わらない。タコのエンブレムが描かれた迷彩柄のオートマタや戦車の残骸が、そこにあるだけだ。
「……多少戦闘の痕跡が増えているくらいか。」
ブースターを使わず、ゆっくりと歩を進める。爆発に巻き込まれたのかバラバラに壊れた銃や、戦車かケテルに放ったであろうロケットランチャーが、辺りに転がっている。
様々な弾薬が大量に使われたのだろう。たくさんのマガジンを初め、5.56mm弾や.50BMGの薬莢、ショットシェルが一面に散らばっている。踏みつぶされたのか、ひしゃげていたり、潰れている物も珍しくない。
地面に黒く残った、タイヤの跡。それを辿ってみれば、先で装甲車が壊れている。下からの爆発によって破壊されたのか、右側のタイヤの先の地面がえぐれている。
『この残骸、殆どがカイザーの物ですね。本当にデカグラマトンがいるのでしょうか……。』
ここまで見かけた残骸はほとんどが迷彩柄、つまりカイザーに属しているものだ。
デカグラマトンは、末端まで白で統一されている。少なくとも、ヒマリからそう聞いている。
事実、いくつか白い残骸を見ることが出来た。少なくとも、ここに居たのは間違いない。
工廠内の道路を、ゆっくりと進んでいく。景色は変わらず、コンクリートの灰色を中心に、時折迷彩や金色、白が散らばっている。
しばらく歩いていると、色の比率が変わり始めた。白の割合が増えてきたのだ。
恐らくは、ここがデカグラマトンにとっての防衛ラインだったのだろう。カイザーはその防御を破る事が出来ず撤退した、という事だろうか。
『……レイヴン。オートマタの残骸を見つけました。カイザー製ではなさそうです。調べてみましょう。』
マーカーが指し示したのは、生産ラインの建屋だったであろう、残骸の壁。
歩いて近づいてみると、そこにあったのは、下半身が吹き飛ばされた、白いオートマタ。辛うじて電源が生きているのか、バチバチと火花を散らしながら、腕や頭を動かしている。
「この損傷、地雷でも踏んだか。」
オートマタの構造はカイザーが生産しているものと変わらないようで、胸部にバッテリーが、頭部にセンサー類とCPUが配置されている。
その2つが無事だったおかげか、オートマタのメモリーにアクセス出来るようになっていた。
『メモリーを解析します。少し時間をください。』
エアがナイトフォールを介して、オートマタに接続する。
念のため周辺を警戒しつつ、自分もオートマタのデータを確認することにした。
だが、視界の端に映し出されたのは、常に変化する数列。人間が理解できる言葉ではなかった。
『……これは、極めて強固なプロテクトです。パターンもキヴォトスで一般的に用いられるものではありません。』
エアがそう呟くと同時に、数列の開錠が始まった。パターンを解析して、プロテクトの穴を見つけようとしているのだろう。
4A、F8、55、6B。少しずつ暗号が解読されていく。複数の防壁によって保護されているようで、鍵を1つ解いたら、3つ壁が現れる。
ハズレの壁を引かないように、慎重に解析していくエア。最も深い階層まで、壁は後1枚。
『……あと少しで終わります。後はここを――』
エアがその壁に干渉した瞬間、頭の中に電流が走り、視界が真っ白に染まる。
体の制御が一瞬奪われ、脳に発生した激痛が神経を介し、全身へと伝わる。
「ギッッ!?アアァアアッッ!!」
『レイヴン!?大丈夫ですか!?』
焼けるような痛みが残る頭を左手で押さえながら、ナイトフォールのシステムをチェック。未だノイズが走る視界には、『System Corruption』の警告が映し出されている。
あの一瞬で、ナイトフォールのシステムに侵入してきたのか。
「ハァッ、ハァッ……!今のは、何だ!?」
『すみません、レイヴン。攻勢防壁を作動させてしまいました……。気分はどうですか……?』
「……問題ない、大丈夫だ。お前ですら突破できんプロテクトとはな……。」
『……無事で何よりです、レイヴン。』
頭に響く、エアのほっとした声。頭の痛みも、少しずつマシになっていく。
これほどの痛み、脳が焼け付くような感覚は、ウォッチポイント・デルタ以来。センシングデバイスを破壊した後の、コーラルの逆流に飲み込まれた時以来だ。
それが俺とエアの初対面だったのは、今となっては笑える話だ。ウォルターは気が気でなかっただろうが。
『それにしても、あのオートマタ……。預言者にとっては、手足の細胞の1つのようなもののはず。ここまで強固に守られる理由は、一体……。』
余りにも強固なプロテクト。これをケテル本体ではなく、ただのオートマタに仕込む理由。
人間には想像できない目的があるのか。それとも、こいつらのプライバシーを重視してるのかは分からない。
少なくとも、今考える事ではないだろう。そう気を取り直すと、エアがマーカーの表示と同時に言葉を発する。
『……レイヴン、ごく一部ですが、通信履歴を回収できました。確かに、この工廠内にいる、何かと通信していたようです。』
『位置をマーカーに表示します。まずは、そこに行ってみましょう。』
マーカーは工廠の製品検査場を指している。この“何か”がケテルで間違いないだろう。
既に離脱されていたとしても、俺の報酬以外には関係の無い事だ。
ナイトフォールの全機能を確認、問題が無い事を確かめてから、検査場に向けてゆっくりと歩いていった。
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製品検査場。この第6工廠で数少ない、建物の形を保っている場所。
この周辺は迷彩柄の残骸がほぼ転がっておらず、大量の薬莢と白い装甲の破片が少し散らばっている程度。
カイザーはここまで踏み込めなかったようだ。であれば、稼働しているオートマタやドローンの1体でもいるものだろうが、その気配すら感じない。
仕事を受ける前に感じていた胸騒ぎが、どんどん大きくなる。
『周辺に反応なし……。デカグラマトンは、カイザーと一緒に壊滅したのでしょうか……?』
「そうであれば、俺を雇う理由はない。少なくとも、ケテルは仕留め損ねているだろう。」
『……慎重に進みましょう、レイヴン。』
検査場の正面にシャッターは無く、外に向けて開かれている。
工廠の道路を歩き、検査場の正面に回ると、その中央にひと際大きい白い機械が横たわっていた。
「……あいつか。」
中央から伸びる4本の足の上に、3つの黄色の丸い眼が付いた箱が乗せられている。
その両側には、3本の銃身を持つガトリング砲が1丁づつ備わっており、後部にミサイルポッドが取り付けられている。
大きさは、5m程だろうか。エアの事前の話通り、自分と相手の体格差から、やや大きいBAWS4脚、といった印象だ。
『排除目標、ケテルを確認。機能停止しているようです。』
だが気になるのは、何故機能を停止しているのか。検査場に向けてスキャンを実行するも、敵性反応はなし。
動くものはないようなので、近づいて直接確かめることにした。
検査場に足を踏み入れると、中には小型ドローンとオートマタがいくつか残っていた。
どれも機能を停止しているようだが、壊れているというわけでもなさそうだ。どれも目立った損傷はなく、被弾したような痕もない。
ケテルの目の前まで近づいて、表面の白い装甲を確認すると、やはり被弾痕は見られない。
攻撃によって機能を停止したわけでは無いだろう。
「……やけに綺麗だな。1発も被弾しなかったとは思えない。修復されているのか?」
『そのようですね。修復した痕がいくつか見られます。しかし、何故停止しているのでしょうか……。』
もう一度辺りを見回すも、やはり戦闘の痕跡は見られない。
これほどの巨体を仕留めようと思ったら、戦車かミサイルが必要になるはずだが、爆発痕はなく、弾痕がごくわずかにある程度。
薬莢も転がってはいないため、この検査場で放たれたものではなく、流れ弾でついた傷だろう。
なら何故止まっている?ハッキングか?デカグラマトンに傷をつけることなく停止させる方法、その仮説が頭を巡る。
『――ッ!?隔壁が作動しました!』
エアのその言葉と同時に、辺りは警告灯で赤く染まり、ブザーによって聴覚が塗りつぶされる。
本来延焼を防ぐための隔壁が、ケテルを中心に閉じられていく。そして、検査場にいた無人兵器も一斉に起動し始め、その眼に光を灯す。
『工廠内の無人兵器が起動……!生産ラインの稼働再開……!』
後ろから響くモーターの音。それにつられて振り返ると、3つの眼から光を放つケテル。
4本の足で体を持ち上げ、ゆっくりとこちらに眼を向けて来る。ケテルが1歩動くたび、検査場全体が揺れる。
ブースターを吹かして後退し、ケテルから距離を取る。
『デカグラマトン、ケテル!起動します!!』
「……機械の割に、小賢しい手を使うじゃないか。」
どうやら、待ち伏せされていたらしい。自身や無人兵器、工廠の機能そのものを眠らせてエアの探知から逃れ、十分近づいたところで叩き潰す、そんな腹積もりか。
なめられたものだ。その程度の作戦で俺を殺すつもりだったらしい。
ヘルメットのバイザーを下ろし、戦闘モードを起動する。
『レイヴン、応戦を!』
人間の恐ろしさを、教えてやる。
盾をケテルに向けながら右側に回り込み、ケテルの後ろにいるオートマタをガトリングで引き裂く。
ケテルの照準が追いつく前に跳躍、ケテルの周りにいるドローンを中心にロックオン、余った4発はケテルに向けて放つ。
着地先にいるオートマタをガトリングで排除。着地と同時にミサイルが分裂して、ドローンとケテルの脳天に着弾。
ドローンはミサイルの直撃と同時に爆散。ケテルは持ち前の装甲によって、多少よろめいた程度。
そのまま右側を滑りながら、盾でガトリングによる弾幕をいなす。
検査場の入り口側まで1周し、オートマタに盾を構えながら突撃。隔壁まで大きく吹き飛ばす。
残っていたもう1体はガトリングで排除。取り巻きを全滅させ、結局ナイトフォールの機動性に追いつかなかったケテルと、正面から向かい合う。
『大量の無人兵器がこちらに向かってきます!手早く片づけましょう!』
背中のミサイルポッドから垂直に飛んでくるミサイルを、ケテルとの距離を詰めるように、クイックブーストで回避。同時に7.62mmをケテルの顔面に向かって叩きつける。
俺を踏みつぶそうと持ち上げられた足を左に潜り抜け、足の間から跳躍。照準が追い付く前に、MORLEYの榴弾をミサイルポッドに放つ。
それをかわす機動力を持たないのか、榴弾はそのまま直撃。ミサイルポッドを破壊する。
ブースターを上に向けて急降下、盾でガトリング砲を防ぎながら後退。ガトリングガンで反撃しながらミサイルを放つ。
ケテルはそれを撃墜しようとも、かわそうともせず、16発全弾が直撃。だが、目立った損傷を与えることは出来ず、なおも放たれる砲弾がパルス防壁を叩く。
そのまま盾で防ぎながら、カッティングパイの要領で、ケテルを中心に一定の距離を保ち応戦。
ケテルが残ったミサイルポッドを傾け、発射姿勢をとった瞬間、アサルトブーストで急接近。
盾の先端の発振器を展開し、赤いブレードで切りかかる。左上から振り下ろされた刃は、右側のガトリング砲の銃身を切り落とし、すかさず放った追撃の刃が、ケテルの顔に深い傷をつける。
大きく怯んだケテルの顔を足場に後ろへ飛び上がり、榴弾を切り口に向けて叩き込む。炸薬の衝撃でケテルの顔の半分が消し飛び、中の部品類がむき出しになった。
大きくよろめいたケテルだったが、そのまま止まることは無く、後ろの足からいくつのもワイヤーを射出し、天井に向けて食い込ませた。
『敵機、離脱しようとしています!』
「させるか!」
今度は盾の片側の発信器を展開、パルスエネルギーを刃へと変え、腕を2度下から振りぬいて光波として放つ。
斜めに飛んでいく赤い光波は、まず右側のワイヤーを切断。既に体を持ち上げ始めていたケテルは、大きくバランスを崩す。
2発目の光波が左側のワイヤーを切断した瞬間、ケテルは重力に引かれ顔面から落下。
ひっくり返る事こそなかったものの、衝撃によって多くの部品が破損、既に満身創痍と言った状況か。
無人兵器の反応もかなり近づいて来ている。合流される前に仕留めなければ。
再び先端の発振器を展開、パルスエネルギーを充填しながら、アサルトブーストでケテルとの距離を一気に詰める。
ケテルは残った左側のガトリング砲をこちらに向けるが、銃身が回転を始めた瞬間に、ブーストを解除して着地。
飛び上がって砲弾を回避しながら、盾をパイルモードに切り替え。コーラル混じりのパルスエネルギーが、光の杭へと変換される。
ブースターを上空に向けて全開で吹かし、ケテルへ向かって急降下。ケテルの頭に着地すると同時に、切っ先を頭に叩きつけ、エネルギーを解放。
押し込められたエネルギーが解放された瞬間、それは大きく膨張。ケテルの装甲を容易く蒸発させながら浸食する。
そして、過剰なまでのエネルギーは、ケテルの足の付け根に存在した制御部まで到達。勢いは衰えることなく、容赦なく制御部を焼き払う。
それでも有り余るエネルギーがケテルの底を貫き、地面のコンクリートすら焼き溶かす。そうしてケテルの脳天から、円錐状の大穴を作り上げ、赤い光の杭はようやく止まった。
反動を受け止めて、打ち上げられた左腕。赤熱した発振器を全て展開し、強制的に冷却しながら、ブーストを吹かしてケテルから後退する。
叩き落された時から、立ち上がろうと足を動かしていたケテルだったが、今のがトドメになったようで、全ての足をだらりと延ばして這いつくばっている。
『デカグラマトン、ケテルの排除を確認。』
『……工廠の生産ラインや、無人兵器も停止しました。ミッション完了です。』
これで、依頼されていた分の仕事は終わりだ。
ため息を付きながら、冷却が終わった盾を戻し、バイザーを引き上げて、戦闘モードを解除する。
検査場の警報は止まっているが、隔壁が開いていない。手動で開けなければならない仕組みだろうか。
「手間をかけさせてくれる……。エア、隔壁を解放しろ。周辺を確認してから――」
『――ッ!?砲撃!?回避を!!』
エアの警告の直後に、検査場の天井が吹き飛ばされる。瓦礫を避けるため、後方にブーストしながらバイザーを下ろす。
その直後、さらに多数の警告。開いた天井から降り注ぐ砲弾の雨。盾を展開して爆風を防ごうとするが、それは榴弾ではなく、閃光弾。
あらゆる角度から撃ち込まれる爆音と閃光によって視聴覚を奪われ、想定されていない負荷がナイトフォールのシステムを混乱させる。
『SOF!?何故ここに!?』
さらに、全ての隔壁が爆薬によって吹き飛ばされ、そこからグレネードランチャーを構えた、カイザーの精鋭部隊がなだれ込んでくる。
事前のスキャン情報を頼りに、SOFから距離を取ろうとするが、ブースターを吹かせる前に、電撃弾頭がナイトフォールの背中に向けて撃ち込まれる。
「ガアアアァァアッッ!!」
『レイヴン!?機体制御が……!』
超高電圧がナイトフォールのシステムをかく乱し、それに直結している俺の意識までかき乱していく。
俺の動きが止まったタイミングを逃さず、さらに大量の電撃弾頭が撃ち込まれ、確実に俺の意識を削り取っていく。
『レイヴン!離脱してください!!レイヴンッ!!』
ナイトフォールがあらゆる警告を発し、異常を検知したヘイローアンプが自動的に出力を落とす。
機体制御に干渉して再起動させようとするが、SOFは弾頭を撃ち込み続けることでそれを許さない。
電撃を流し込むために機体に食いついた弾頭が、ナイトフォールのシルエットをヤマアラシのように変えた時、ついに俺は自重を支えきれなくなり、膝をついた。
「……きさ、まらッ……!」
辛うじて残っていた意識で、無機質な顔面にガトリングガンを向けようとするが、足で容易に抑え込まれてしまう。
俺の頭に突き付けられるグレネードランチャーと、黒い顔面に1つ浮かぶ黄緑色の眼。
弾頭が頭に撃ち込まれる衝撃と、電流がバチリと脳を焼く感覚。それが、その日俺が感じた最後の感覚だった。
『いや、いやッ……!お願いです……!動いてください……!レイヴン……!』
その日、ブラックマーケットのバウンティボードから、レイヴンの名前が消えた。
「……目標を無力化。」
「――はい。すぐに“施設”に移送します。」
〔!ネタバレ!〕このままでは終わりません。
黒い鳥に直接手を出した者がどんな末路を辿るのか、歴代レイヴンの皆様なら、お分かりですね?
次回
大脱走
『あのビジターの大脱走だよ。劇場で見ないでどうすんだい。』
次回も気長にお待ちくださいませ……。