BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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やっぱり創作って難しいですね。(再確認)
プロットが崩れてちょっと手直ししようとすると、結局全部変える事になるってのが恐ろしい。
皆さんも似たような経験、ありません?

―――――――――――――――――――――――――――――――

ある生徒の随想録。
エアについて書かれているようだ。
彼女の正体にも勘付き始めている。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

極めて高いハッキング技能を持つ、『黒い鳥』の忠実な右腕。
彼女の功績の半分は、右腕の活躍によるものだろう。

体を持たぬという噂も、あながち間違いでは無いようだ。
もし、彼女が造られた存在では無いとしたら……。
2人が仲違いなどしなければ良いのだが。


31.Pulling Strings

 アリウスのナギサ暗殺を阻止した翌日、先生からシャーレに来て欲しいというメッセージが届いた。

 俺の過去について話が有るのかもしれない。あの場で喋るのは悪手だったか。

 出来れば深く追及されない事を願いながら執務室のドアを開けると、見覚えのあるエンブレムが描かれたジャケットを羽織った生徒がいた。

 

 「……お前は、珍しいお客さんだな。」

 

 錠前サオリ。本来であればここに居ないはずの人間。

 腰のリボルバーに手をかけながら詰め寄ろうとすると、先生が間に入り込んできた。

 

 ”レイヴン、落ち着いて。サオリは私達の味方になってくれるんだよ。”

 

 「味方、か。こちらに付くのは結構だが、理由は何だ?」

 

 警戒を解くことなく、リボルバーから手を離すと、サオリはこちらに近づき、俺の眼を見据えてきた。

 敵意は無く、決意だけがこもった瞳だ。

 

 「……レイヴン、私から、提案がある。」

 

 「提案?お前が俺に提案するのか。」

 

 「ああ、そうだ。」

 「……マダムの居場所、アリウスの兵力、エデン条約調印式の襲撃、全て教える。だから……!」

 「だから、アリウスの皆は、生かして欲しい……!」

 

 「……俺達を殺しに来る相手を生かしておけと?随分と虫のいい話だな。」

 

 「……それでも、私の仲間だ。生きていて欲しい。」

 「もし、もしマダムを殺しても気が収まらない時は、私を殺せ。その代わり、アリウスの仲間には手を出すな!」

 

 決意はある、だが方法が伴っていない。ベアトリーチェがどんな教育をしていたのかは知らんが、余りにも未熟だ。

 仲裁しようとする先生を無視しながら口を開く。

 

 ”サオリ、そんなことしなくたって、アリウスの皆は――”

 

 「お前、寝ぼけてるのか?」

 

 「……何?」

 

 「何度も言ったはずだ。俺は、お前の首に興味などない。邪魔をするなら殺すだけだ。」

 「俺にとって、お前の命など無意味だ。」

 

 「……!」

 

 「確かに、俺はベアトリーチェを殺す。邪魔をするなら、アリウスを焼き尽くす。だがな……。」

 「お前は、アリウスの滅びに手を貸すことになるんだぞ。それを理解しているのか?」

 

 「――ッ!」

 

 目を大きく見開きながら、1歩後ずさりするサオリ。

 サオリは、誰かを救いたいと手を伸ばした結果、そいつを含めた全てを焼き払う羽目になることがあるのを知らんようだ。

 誰かを救いたいなら、時に自らの手で、全てを焼き尽くす必要があるというのに。

 

 「お前はこれから、ベアトリーチェに弓を引くことになる。お前は、仲間を守るために、仲間の敵になるんだ。」

 「お前は、仲間を撃てるのか?アリウスに火を付ける覚悟が、お前にあるのか?」

 「かつての仲間を殺す覚悟が、お前にあるのか?」

 

 「………………。」

 

 サオリは顔を伏せ、しばらく考え込んでいたが、再び顔を上げた時、その眼には炎が灯っていた。

 話し始めた時の、僅かな体の震えも収まっている。

 背負ったようだな、サオリ。

 

 「……ああ、ある。やって、みせる。それで、仲間を守れるというのなら……!」

 

 「……ようやくまともな答えが聞けたな。」

 「いいだろう、善処しよう。アリウスの連中は生かしておく。」

 

 ”善処って……!”

 

 「悪いが、追い詰められて自殺するような奴や、突っ込んできて自爆するような奴は対象外だ。それ以外は、病院送りにとどめておこう。」

 

 「……分かった。それでいい。」

 

 僅かに迷った様子を見せたサオリだったが、直ぐに頷き返してきた。

 これでめでたくサオリが味方になったわけだが、本題はここからだ。

 3人で立ったまま話を続ける。

 

 「よし、取引成立だな。まずはベアトリーチェの居場所を話してもらおう。」

 

 「……バシリカ。アリウスの奥地にある、聖地。そこに、マダムは居る。」

 

 「……アリウスに侵攻すれば、おのずと会えそうだな。なら焦る必要はない。」

 「そういえば、他の連中はどうした?」

 

 ベアトリーチェが仕掛けてきた罠。そこに居たのはスクワッドの3人だけではない。

 安いオマケがいくつかくっついていた。そいつらも同じ病院に放り込まれているはず。

 俺の問いに対して、サオリは今までの様子とは打って変わって、冷静に応対する。

 

 「私が逃げるように指示した。あいつらはもう、アリウスじゃない。」

 

 「そいつらが追跡されてる可能性は?俺やシャーレと話したことがバレるとマズいんじゃないか?」

 

 「その辺りは心配いらないだろう。アリウスでも有数の実力者だった者達だ。簡単には捕まらないはず。」

 

 「それならいいがな。アリウスの兵力は?」

 

 「正確には分からないが、お前の捕獲に失敗した時点で、精鋭はほぼ失ってる。」

 

 やはり、アリウスには潤沢な兵力があるとは言い難いようだ。20人程度で精鋭が総崩れとは。

 だが気になるのは、ミカの手引きに付いてきた奴らだ。

 

 「そういえば、最近ナギサを襲撃しようとした連中を始末したんだ。30人程な。そいつらについて分かるか?」

 

 「始末!?殺したのか!?」

 

 「生きてるぞ、正実の捕虜としてだが。それで、何か分かるか?」

 

 「――ッ。そうか……。そいつらは多分、失った精鋭の代わりの部隊だ。しかし、そいつらも失ったということは……。」

 「……もう、アリウスにまともに戦える戦闘員は、ほぼいない。マダムは、非戦闘員も動かそうとするだろうが、自衛出来るかどうかも怪しい奴らばかりだ。」

 

 「なら、調印式に来るのは――」

 

 「急造の部隊になるはずだ。経験は少なく、能力も足りない奴らが攻め込んでくるだろう。利点は数だけだな。」

 

 「しかし、それでも攻め込んでくるというのなら、アリウスは、状況をひっくり返せるだけの何かを持っている。」

 

 「その通りだ。アリウス、というより、マダムには、調印式で使うはずの切り札が2つある。」

 

 自身の記憶を掘り起こしているのか、目を伏せて1つため息を付いてから、サオリはアリウスの手札を広げた。

 

 「1つ目は、ユスティナ聖徒会。エデン条約をトリガーとすることで、ユスティナのミメシス(複製)を呼び出すことが出来る。」

 「マダムは、それを戦力として利用しようとしている。」

 

 (ユスティナ……。シスターフッドの前身となる組織。今はもう存在しないはずですが……。)

 

 サオリの説明を、エアが交信によって補足する。

 シスターフッドは歴史が浅いというわけでは無い。元々ユスティナだった人間が、今もシスターフッドにいるとは考えづらい。

 何より、サオリが出したある単語が引っ掛かる。

 

 「……ミメシスとは何だ?亡霊でも呼び出す気なのか?」

 

 「そう思ってくれればいい。ユスティナは、戒律の守護者。ETOのメンバーを、アリウスを守ろうとするはずだ。」

 「……もし呼び出されれば、疲弊を知らない、無限の兵力を相手取る事になる。呼び出される前に終わらせた方がいい。」

 

 「それが、今までベアトリーチェが強気に動いていた理由か。それで、2つ目は?」

 

 「……詳しくは分からなかったが、マダムはある兵器を用意していた。コンテナを積んだトラックが、アリウスに用意されていたんだ。」

 

 顔を伏せながらそう語るサオリ。ただの物資と分かっていれば、兵器だとは表現しないはず。

 だが、その内容が分からないのでは、対策の使用がない。

 眉根が寄っていくのを感じながら、サオリに疑問をぶつける。

 

 「……それが兵器であるという確証は?」

 

 「マダムは、ある人物と交渉して、それを手に入れていた。その時に、兵器という単語が聞こえてきた。教官が何人かに操作を指導していたから、間違いない。」

 

 「……可能性があるのは、コンテナ偽装型のミサイルだな。弾頭も通常のそれでは無いはず。俺なら、サーモバリックか、毒ガスを詰めておく。」

 

 「マダムも同じことを考えているだろう……。まず、ミサイルを撃ち込んで、会場全体を混乱させる。」

 「その混乱に乗じて会場に乗り込み、ユスティナを顕現させて、トリニティとゲヘナの首脳陣を一掃する。これが、襲撃時の作戦だろう。」

 

 「襲撃ルートは分かるか?予測で構わん。」

 

 「……カタコンベ、地下通路を通ってくるだろう。地上を通るのは目立ちすぎるからな。出口に罠を仕掛けておけば、動きを遅らせることが出来るはずだ。」

 

 「なら、最初のミサイルの被害をどれだけ抑えられるかが、キモになりそうだな。」

 

 まずできる対策として、ミサイル迎撃システムを備えておくことだが、キヴォトスでそんな技術を持っているのはミレニアムぐらいだ。即座に用意できるものではない。

 エアのハッキングで自爆させる手もあるが、ミサイルが極低空を飛んできた場合、起爆地点周辺で深刻な被害が出るだろう。

 調印式そのものを取りやめてしまうのが1番確実だが、そうするとアリウスの次の動きが読めなくなる。

 頭であらゆる可能性をこねくり回していると、サオリが情報をつけ足してきた。

 

 「同感だ。だが、あらゆる事態に備えておけ。マダムが別の手を用意していてもおかしくはない。」

 「……もし、別の手を使ってくるとしたら、姫の存在がカギになるだろう。」

 

 ”姫?それって、誰なの?”

 

 「……秤アツコ。アリウスの生徒会長の末裔。その血筋には、特別な力が宿る。マダムから、そう聞かされている。」

 「そして、スクワッドの1人でもある。私の、家族の1人だ。」

 「……これが、私が知っている全てだ。」

 

 ”話してくれてありがとう、サオリ。後は、私達に任せて。”

 

 サオリの両肩を掴み、目線を合わせてそう語る先生。

 だがサオリは先生の肩を掴み返し、睨むような、泣き出しそうな、何とも言えない表情で願いをぶつける。

 

 「……シャーレの先生、お前も約束してくれ。アリウスの仲間を、助けると。」

 「私達は、マダムの支配から逃れられなかった。残された奴らは、今もマダムの恐怖の中にいる。」

 「仲間を、無意味に傷つけることは、しないでくれ……!」

 

 ”勿論。必ず、全員助けるよ。約束する。”

 

 「……感謝する。ありがとう……。」

 

 話が一段落したところで、気になるのはサオリの行先だ。

 アリウスに戻れない事は分かっているし、かといって1人にしておくのも危険だ。

 貴重な情報源を失うわけにはいかない。

 

 「それで、これからどうする?シャーレで匿うわけにもいかんだろう?」

 

 「いや、私なら1人でも――」

 

 「バカかお前は。お前はアリウスの精鋭だったんだろう?お前の顔を知ってる奴らは多いはずだ。」

 「1人で身を隠すにしろ、まず服を着替えろ。その恰好は目立ちすぎる。」

 

 俺にそう言われて、自分のジャケットに描かれたエンブレムを見つめるサオリ。

 顔に手を当てていた先生が、1つの解決策を提示した。

 

 ”……それなら、救護騎士団の新患ってことにしよう。あそこなら常に誰かいるだろうし、サオリの体調だって診ておける。”

 

 「なるほどな、悪くないアイデアだ。サオリ、荷物をまとめろ。シャーレと一緒にトリニティに向かえ。」

 

 「あっ、ああ。了解した。随分話が早いな……。」

 

 「時間を掛けすぎても意味はないからな。ほら急げ。」

 

 サオリは言われるままに、机に立てかけていたライフルを背負う。

 俺とやり合った時から荷物は増えていないらしく、今持っている武器が全財産だという。

 先生は俺達が執務室から出たことを確認してから、席を外している事を知らせる看板をドアにかけ鍵をかける。

 俺は屋上に止めてあるヘリに向かうため、先生とサオリは電車でトリニティに向かうため、それぞれ別のエレベーターに乗り込んでいった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 その日の夜。一先ずアリウス周りで出来ることは済んだので、腹ごしらえにTim’sDinerに向かった。

 店じまいまで後2時間。お気に入りの店に向かって、静かな道路を歩いていく。

 まだ明かりが点いている店内を見ると、店主とカウンター席に座る1人を除いて誰も居ない。

 違和感を感じながらも、ドアを開けて入店。すると、店主のファットマンが焦った表情をこちらに向けてきた。

 

 「ああ、悪い。今日はもう店じまいだ。レイヴン、早く――」

 

 「……レイヴン?」

 

 「あぁ、やっちまった……。」

 

 カウンター席に座っていた女が立ち上がり、こちらに向かってくる。

 その頭頂部には、モクレンのつぼみを枝葉が囲う青いヘイローが浮かんでおり、その顔の左側には火傷跡や傷跡が残っている。

 そして、本来肌色が見えるはずの左腕は、黒鉄の無骨な義手へと変わっている。

 

 「……あなたが、独立傭兵レイヴンね。あなた達の活躍は聞いてるわ。随分派手にやってるそうね。」

 

 「マギー、そいつにちょっかい――」

 

 「黙ってて、ファットマン。」

 

 傭兵として駆け出しの時に聞いたことがある。俺が傭兵として動き出す直前に、最強とまで呼ばれた傭兵が、突如失踪したと。

 平均より少し高い身長、青の指し色が入った黒いジャケット、青いモクレンのヘイロー、そして、失った左腕。

 妙に記憶に残っていた話と、今目の前にいる女の特徴が合致した。

 

 「……ブルー・マグノリア。“完成された女傭兵”。こんな所で会えるとはな。」

 

 本名、マグノリア・カーチス。元SRTだったが、卒業を待たず独立し、傭兵に。

 その実力で順調に名を揚げ、キヴォトス屈指の腕利き傭兵となったが、ある日を境に失踪。

 そんな伝説や亡霊と呼べるような存在が、今俺達の目の前にいる。

 気になるのは、何故彼女が俺達に声を掛けてきたのか。傭兵が同業者に声を掛けるときは、大抵ロクな事ではない。

 

 『あの、私達に何か用が……?』

 

 「……あなたの二つ名も聞いてる。“黒い凶鳥”なんて呼ばれてるんでしょ?」

 「あなたは、その大元になった昔話を、聞いたことはある?」

 

 「黒い鳥の伝承の事なら、聞いたことがある。しかし――」

 「ただの世間話で、ここまで殺気立つ必要は無いんじゃないか?」

 

 俺を睨むマグノリアから放たれる、強い圧力。久しくなかった感覚に、少しの懐かしさを覚えながらも、こちらも警戒を緩めない。

 彼女が俺から目を離すことはなく、さらに青い眼光が強くなった。

 

 「……あなたは、私が何年も掛けて積み上げた実績を、たった数ヶ月で越えていった。」

 「あなたのその実力が本物なのか、確かめたいの。」

 

 「……ただの立ち合い、というわけではなさそうだな。」

 

 「察しがいいわね。私が勝ったら、黒い凶鳥の二つ名は下ろしてもらう。」

 

 「……もういいだろマギー、いつまでそれにこだわってるんだ。」

 

 これまで何度か顔を合わせてきたが、ファットマンの心配するような表情は初めて見る。

 マグノリアはそんな彼に顔を向けることなく、ただ俺だけを見据えている。

 決して大きくはない彼女の声から、非常に強い闘志を感じた。

 

 「……私は知りたいのよ。黒い鳥に選ばれる者、それに必要な素質は何なのか。」

 「それを、あなたとの戦いで、見極めさせてもらうわ。」

 

 改めてファットマンに目線を向けると、『乗るな』と言わんばかりのアイコンタクト。

 だが、ここで乗らなかったところで、彼女が納得するわけが無い。

 そこで、1つの賭けを提案することにした。

 

 「……いいだろう。ただし、俺が勝ったら、お前の傭兵稼業は終わりだ。乗るか?」

 

 「……乗ったわ。行きましょう。」

 

 俺の横を通り過ぎ、先導しようとするマグノリアに付いて外に出る。

 その途中で、恨めしそうな顔をしたファットマンに小突かれた。

 ファットマンが言わんとすることは理解しているが、それではマグノリアは止まらない。

 彼女が引退するには、傭兵としての死が必要なのだ。

 

 俺には分かる。彼女の中には、俺と同じものが眠っているのだから。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 マグノリアに付いていった先は、スラムの中にある、広大な空き地。

 決闘するならおあつらえ向きの場所だ。

 マグノリアは、現役時代から愛用していたヘッドセットを付け、右手に握るリニアライフルと左手のサブマシンガンにマガジンを突っ込む。

 

 「マギー、本当にやるのか。あの二つ名は伊達じゃないんだぞ。」

 

 「だからこそやるのよ。私はもう、何にも負けたくない。これで負けたのなら、私もその程度というだけ……。」

 「……彼女が本物だったというだけよ。」

 

 俺も右手に握るLMGの弾帯を確認し、左手のショットガンに新しいマガジンを叩き込み、太ももにレバーを引っ掛けて弾を送る。

 その間に、エアがマグノリアの情報を説明する。

 

 『マグノリア・カーチス。かつて一世を風靡した実力の持ち主です。多少のブランクはあるようですが、今まで戦ってきた相手とは一線を画すでしょう。』

 『……レイヴン。どうか、気を付けて……。』

 

 呼吸を整え、両手の銃を僅かに持ち上げ、左足を前に構え、マグノリアと向かい合う。

 彼女もまた、両手で銃を構え、右足を前に構えるスタンスで、俺と向き合ってきた。

 

 「……準備はいいか?」

 

 「……ええ。始めましょう。」

 「殺すわ、あなたを。」

 

 ヘッドセットのデバイスが、マグノリアの左目を覆い、俺はスキャンを実行して、マグノリアと周辺地形を捉える。

 俺達の間に乾いた風が吹き、それが止んだ瞬間、同時に相手に向かって突っ込む。

 

 先に仕掛けたのはマグノリア。突っ込んできた勢いそのままに、左の膝を突き出して来る。

 それを右に跳ぶことで回避しつつ、LMGで牽制。マグノリアも着地を待たず、体をひねり、サブマシンガンで応戦してきた。

 着地の瞬間を狙い散弾を発射するが、大きく屈みながら移動することでかわされる。

 LMGの弾幕で行動の絞り込みを狙うが、彼女は意に介さず、大きく飛びながらサブマシンガンを乱射。

 警告、狙撃。マグノリアの右手がこちらに向いた瞬間、放たれる2発の高速弾。1発目を屈み、2発目は大きく跳躍しながら宙返り。空中で両手の銃を向けて反撃する。

 相手も同じく着地を狙ったか、こちらに向かって急接近。再び跳んできた蹴りを左腕でいなしながら、頭に右足を振りぬくも、黒鉄の左腕で防がれる。

 お互いの攻撃の反動で大きく突き飛ばされる。体を大きく振って姿勢を取り戻し、着地した瞬間、身を襲う強烈な衝撃。

 着弾したのは、胸の中央。心臓の位置。フルチャージされたリニアライフルの弾頭が直撃したのだ。

 よろめいた隙を逃さず飛んでくるサブマシンガンの弾幕に対し、屈みながら体の左側を盾にすることで、ダメージの蓄積を回避。

 再び蹴りを入れようと弾幕を張りながら接近してきたマグノリアだが、LMGをベルトに引っ掛け空いた右手を握り、彼女に向かって低空で大きく跳躍。

 それに反応した彼女だったが、こちらの方が速い。後ろに下がろうとする直前で、右の拳がマグノリアの腹に突き刺さる。

 跳躍の勢いが乗った拳が直撃したマグノリアは大きく吹き飛ばされたが、むしろその勢いを利用して即座に姿勢を立て直し、2つの銃口を向けて来る。

 LMGを握り直し、再びマグノリアと睨み合う。

 

 この感覚、キヴォトスでは感じたことの無い、強烈なプレッシャー。そして、キヴォトスでは決して感じるはずのない、ある既視感。

 アーマードコアだ。優れたアーマードコアのパイロットと戦っている時と、全く同じ感覚。

 何故だ?何故この感覚がする?彼女は何者だ?

 その疑問をかき消す警告音が、頭の中で鳴り響く。

 

 リニアライフルのフルチャージ射撃を、今度は左に跳ぶことで回避。LMGで反撃しつつ距離を詰めていく。

 それに対しマグノリアは、一定の距離を保つことを選択。小刻みに跳ぶことで、こちらの照準を混乱させる狙いか。

 LMGで追い込み、散弾を叩き込もうとすれば、サブマシンガンの弾幕と、リニアライフルの高速弾が返ってくる。

 ジャケットと皮膚が拳銃弾を滑らせ、高速弾は空を切り、小銃弾はマグノリアの頬をかすめ、散弾は地面へと吸い込まれる。

 こちらが距離を詰めれば、マグノリアは斜めに跳んで大きく突き放し、マグノリアが駆け寄ってきたら、銃の下をスライディングですり抜ける。

 互いに決め手を欠いた撃ち合いが続くが、先に痺れを切らした方が負ける。

 LMGを乱射しつつ大きく飛び下がって、撃ち切ったショットガンのマガジンを捨てた瞬間、一気に距離を詰めて来るマグノリア。

 背中に仕込んでいたマガジンにショットガンを突っ込み、ボルトロックをリリースすると同時に大きく跳躍。

 マグノリアを飛び越えながら撃ち下ろそうとした瞬間、マグノリアは急減速。左腕の上腕から袖を突き破る、黒い砲身。

 警告と同時に体をひねり、直後にジャケットへ叩きつけられる砲弾。その衝撃は俺の体を吹き飛ばし、ジャケットを焼いた。

 だが致命傷には至らず、体を大きく振って、空中で姿勢を取り戻してから着地。未だ左腕の砲口を向けるマグノリアを見つめる。

 

 「……強い。想像よりも、ずっと。」

 「……でも、負けるわけにはいかない。負けられないのよ、私はッ!」

 

 そう啖呵を切った瞬間、後方に飛び上がりながら砲弾を放つマグノリア。撃ち下ろされる砲弾を、前に跳ぶことで回避。弾幕を張りながら着地点に急接近する。

 それをサブマシンガンとリニアライフルで迎撃しようとする弾幕を、屈みながら小刻みに跳ぶことでいなしていく。

 彼女が着地した瞬間放たれる、フルチャージされた高速弾を、右にかわしながら散弾を撃ち込む。

 それを左にかわすマグノリアは、直後壁に向けて跳躍。壁を蹴って俺から大きく距離を離す。

 LMGの乱射で圧力を掛けつつ、着地までマグノリアとの距離を保ちながら疾走。着地した瞬間にショットガンで足を狙って乱射しながら突撃。

 着弾の衝撃で僅かに姿勢を崩した隙を逃すことなく、全力で駆け寄って一気に蹴り飛ばす。

 衝撃で吹き飛ばされたマグノリアだが、直ぐに両足でブレーキを掛けながら左腕を展開し、砲口を向けて来る。

 放たれる砲弾を大きく屈んで回避しつつ全速で突撃。跳び下がろうとする直前に接触、左手でリニアライフルを掴み、右手で首を掴んで拘束する。

 即座に左腕の砲口を頭に突き付けて来るマグノリアだが、砲弾が打ち出され、互いの頭が吹き飛ばされる前に、赤い閃光と悲鳴のような音が2人を包んだ。

 威力と範囲が絞られていたとはいえ、アサルトアーマーを至近距離で喰らったマグノリアは大きく怯み、直後の左腕に振りぬいた右足によって、大きく吹き飛ばされた。

 意識が朦朧としているのか、姿勢を取り戻すことが出来ず、地面へと叩きつけられたマグノリア。

 破れた袖からケーブルやフレームが覗き、火花がバチバチと散っている。損傷した左腕に頼ることなく起き上がったマグノリアの眼には、未だ闘争の炎が灯っている。

 

 「クッ!うぅっ……!」

 

 「もういいだろ、マギー。これで終わりだ。」

 

 マグノリアを見かねたファットマンが声を掛けるが、彼女の炎は収まるどころか、さらに強く燃え上がる。

 デバイスが砕け、頭から流れた血によって塞がれているはずの左目は、その光を強めていた。

 

 「……まだやる気か?」

 

 「……まだよ!私はまだ戦える!!」

 

 リニアライフルを地面に突き立て、右手で義手を引きちぎり、投げ捨てたマグノリア。

 

 「ここがッ!!この、戦場がッ!!私の魂の場所よッ!!!」

 「私は……!あなたを超える!超えてみせるッ!!」

 「黒い鳥になるのは、私よッ!!!」

 

 リニアライフルを握り直し、その銃口を俺に向けてくる。手負いでありながら、異常な圧力を放っている。

 彼女の眼の奥に見えるそれは、最期の灯。かき消される直前に激しく燃え上がる、命の炎。

 

 「マギー、お前は……。」

 

 こうなったら、どちらかが死ぬまで止まらない。

 せめて、戦場での死を。俺に出来るのは、それだけだ。

 両手の銃を構え、睨み合いながら動きを待つ。次が最後になる、そう確信していたから。

 マグノリアが引き金を引き絞り、いずれ来る高速弾を掻い潜るために姿勢を落とす。

 

 『待ってください!周辺に不明反応多数!』

 

 エアの報告の直後、沢山のエンジン音やヘリのローター音が響いてくる。

 何台もの装甲車が俺達を取り囲み、上空からはサーチライトで照らされた。

 逆光に目を細めながらも、辺りをよく見れば、黒でまとめられた部隊が展開されていた。

 

 『独立傭兵レイヴン、およびブルー・マグノリア!ここで何をしている!?』

 『直ちに解散しろ!さもなくば攻撃する!』

 

 「マーケットガード!?どうして今来るのよ……!」

 

 このまま勝負を続けたところで、マーケットガードに漁夫の利を取られるだけだ。

 マグノリアに向けて、俺から1つ提案をすることにした。

 

 「……マグノリア、撃墜競争をしないか?俺との決着はまた後になるが、憂さ晴らしにはなるだろう?」

 

 「そいつはいい。あのレイヴンとの競争だ。マギー、負けんなよ?ハッハッハッ!」

 

 手負いのマグノリアでもマーケットガードに負けるとは考えていないのか、豪快に笑うファットマン。

 流石の彼女も続けるべきではないと判断したのか、俺に向けていたリニアライフルをチャージすると、ヘリに向けて高速弾を放つ。

 コックピット内のパイロットを正確に撃ち抜かれたヘリは制御を失い、回転しながら装甲車の後ろへと落ちていった。

 

 「……いいわ。決着はまた今度。」

 「……負けないわよ、レイヴン。」

 

 「……上等だ。エア、敵を全てマークしろ。」

 

 『データリンク開始。HUDにマークします。』

 

 エアの報告を合図に、互いに反対方向に向けて走り出す。

 装甲車の重機関銃による掃射を掻い潜りながら急接近。大きく飛び越えながらLMGを乱射して射手を排除、同時に左手に握ったスモークグレネードを落とし、煙幕を展開する。

 視界を塞がれ焦るマーケットガードを、スキャンで捕らえた奴から撃ち抜いていく。煙が薄くなったら、閃光弾で目を潰して蹴り飛ばす。

 マグノリアも、装甲越しに重機関銃の射手の足をリニアライフルで撃ち抜き排除。一定の距離を保ちながらの射撃戦に持ち込むことで、1人1人確実に排除していく。

 ヘリの増援が来たら、マグノリアはエンジンを撃ち抜いて叩き落し、俺はオートマタの残骸をローターに向けて放り投げて揚力を削ぐ。

 装甲車はドライバーの頭を高速弾で吹き飛ばし、敵からむしり取った手榴弾を、射手席の穴から放り投げて爆破する。

 そうして2人で対応しているうちに、辺りは漏れた燃料で燃え上がり、空き地にはマーケットガードの死体が積み上がっていた。

 

 『敵性反応の消失を確認。マーケットガード、全滅しました。』

 

 「撃墜数は僅差でレイヴンが上だ。惜しかったな、マギー。」

 

 「……分かってはいたけど、流石ね、レイヴン。」

 

 「お前もな、マグノリア。“完成”の二つ名も伊達じゃないようだな。」

 

 マグノリアと、今度は味方として向かい合う。彼女の眼を見れば、炎は落ち着いており、暴れたことでスッキリしたらしい。

 微笑みをたたえて称賛する彼女に、笑顔のつもりの仏頂面で賛辞を贈る。

 そんな俺達の肩を掴んで、豪快に笑うファットマン。

 

 「仲直り出来た所で、腹ごしらえと行こう。俺のおごりだ!ハッハッハッ!」

 

 「そうだな。暴れたおかげで、腹が減った。」

 

 そうして、俺達はファットマンの知り合いに治療を受けた後、Tim’s Dinerに戻った。

 後はみんなで食事をしながら、なんてことはない話を続けた。いつから傭兵になったのか。そのきっかけは。誰から戦いを教わったのか。

 俺とマグノリアが言葉を交わし、エアがそれに混ざったり、ファットマンがマグノリアをからかう。いつの間にか、そんな形が出来上がっていた。

 

 そして翌朝、ファットマンから1つメッセージが届いた。

 『お前のおかげで、あいつも踏ん切りがついたようだ。ありがとな。これからも良くしてやってくれ。』




唐突にマギーを出しちゃいましたけど、多分エデン条約編での活躍はもうないです。
ユルシテ……ユルシテ……。最終章で頑張って貰うからユルシテ……。

次回
悪しき者達
黒い鳥を制御できるとお思いで???

次回も気長にお待ちくださいませ……。
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