BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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祝!AC6発売1周年!!!
まさかアーマードコアがここまで大きな炎になるとは思わなんだ。
こんな小説書き始める位には、私の心に火を付けた作品ですよ。
いやぁ感慨深いなぁ……。
そしてもう1年たったことが恐ろしい。これが老いか……。


30.猟犬たちのキリエ

 ミカの尋問の後、まずはナギサに情報を共有する方向で話がまとまった。

 結果から言うと、ミカの処分は、エデン条約やアリウスの問題が収束するまで保留。

 補習授業部に対しては、ナギサは謝罪を送り、今後は正当なテストを受けさせることを約束した。

 マコトはアリウスと通じていたという事で一時権限剥奪、万魔殿の棗イロハがティーパーティーとの連携を担当することになった。

 そして、アリウスの処遇だが、アズサとミカの証言によって、アリウスはベアトリーチェによる恐怖政治が敷かれている事が判明。

 対アリウスの最終的な目標は、全アリウス生の保護、そしてベアトリーチェの確保、という事になった。

 そして俺は、調印式に来るであろうアリウス生に備え警備として参加、アリウス侵攻の際には切り込み隊長として動くことになる。

 

 話し合いが終わった後、俺と先生、アズサの3人は、トリニティ南の病院に来ていた。

 以前便利屋達が担ぎ込まれた病院である。奇しくもアリウススクワッドの連中も、ここに担ぎ込まれたようだ。

 念のため病院に確認を取った所、今は全員病室で大人しくしているとのことだった。“今は”の所に随分と含みがあったが。

 受付を済ませてエレベーターに乗り込み、3人で6階まで上がる。

 

 ”ねえ、レイヴン。さっき受付で書いてた、『渡鳥クロハ』。それが君の本名なの?これからそう呼んだ方がいい?”

 

 「偽名に決まってるだろ。ついさっき思いついた。」

 

 病院の見舞いに名前が必要な事は知らなかった。流石に“本名”を名乗るわけには行かないので、適当にでっち上げた。

 由来は、今の通り名である、レイヴンをもじったものだ。元々レイヴンとは、大柄なカラスの名前らしい。

 

 『私はいい名前だと思いますよ。これからそう名乗ってみては?』

 

 「エア、お前まで乗るな。」

 

 「……傭兵は、本名を明かさないのが普通なのか?」

 

 「いや、人によるな。だが、名前が売れてる奴は、大体明かしてないな。」

 

 不思議そうな顔で質問をするアズサに対して、少し目線を送りながら答える。

 当然だが、傭兵稼業は危険が付き物。自分の情報を伏せておくのも、当然の事なのだ。

 

 「そうなのか。てっきり本名が言えない理由が有るのかと思ってた。」

 

 「……言う必要もないからな。」

 

 チンッ、とベルが鳴り、鏡の様な銀色のドアが開いた。出てすぐ左にナースセンターがある。

 先生が俺達より1歩前に出て、シャーレの職員証を窓口にかざす。

 

 ”シャーレです。サオリ達との面会に来ました。”

 

 「先生、お疲れ様です。3人とも628号室に居ますよ。後ろの2人は、あの子のお友達ですか?」

 

 「そうだな。家族と言ってもいい。」

 

 「……そんな所だ。通してくれ。」

 

 「そんなに警戒しなくたって、ちゃんと受付されてますから大丈夫ですよ。628号室は、あちらの突き当り手前の部屋です。」

 

 先生は看護師に軽く頭を下げながら、どうもと言葉を送り、歩き出す。

 T字路を左に曲がり、病院特有の鼻につく臭いを感じながら歩を進める。

 突き当り手前、表札に書かれた628、そして、今回用のある3人の名前がその下に書かれていた。

 先生が閉じられたドアに手をかけようとした瞬間、アズサによって制される。

 

 「待って、確認する。」

 

 アズサは先生に下がる様にハンドサインを送り、代わりに俺にドアを開けるよう指示してきた。

 引き戸に手をかけ、反対側に張り付いたアズサが頷いたのを確認してから、ドアをゆっくり僅かに開ける。

 トラップが仕掛けられていない事を確認したアズサは、再び頷いて開けるように指示。ドアを全開にして、アズサを先頭に入室する。

 部屋に入った瞬間、腰のリボルバーを引き抜いた。

 

 「皆……。」

 

 「……アズサ?何故ここに――。」

 

 「動くな。全員だ。」

 

 3人が動く前にリボルバーの銃口を向ける。サオリの不思議そうな表情が、あっという間に憎しみに染まる。

 最後に入った先生が、後ろ手にドアを閉める。

 3人とも骨の1つ2つは折れていたと思うが、既に全員ギプスは取れているようだ。流石はキヴォトス人の回復力、と言ったところか。

 

 「シャーレの先生に、レイヴン……!?そういう事か……!この裏切者が……!」

 

 「……すまない、サオリ。」

 

 ”サオリ、ミサキ、ヒヨリ、で良かったよね。少し話を聞いてもいい?”

 

 「お前達に話すことなどない!何をされたとしてもな……!」

 

 「うぅ……!うわぁん!もうおしまいです~!私達皆、この病院で死んじゃうんです~!」

 

 「ヒヨリ、うるさい!はぁ……。」

 「……黒い凶鳥が、私達に何の用?殺しに来たなら、さっさと殺してよ。」

 

 「悪いが、考えが変わった。もうお前達を殺す気は無い。純粋に話を聞きに来ただけだ。」

 

 一先ず、脱走しようとする気配は無いので、銃を下ろして奥の窓まで歩く。

 窓の中央辺りに陣取り、背中を預ける。もちろん、銃はいつでも向けられる高さに置いたまま。

 アズサは空いたベッドに腰掛け、先生は入り口近くに立っている。

 

 「……話がしたいなら、看護師とでも話してなよ。」

 

 そう言いながら、濁った眼をこちらに向けるミサキ。というより、スクワッドの3人とも似たような眼をしている。

 

 「つれないな、どうせ戻った所で殺されるんだろう?ならここで洗いざらい話してから死んだらどうだ?」

 

 「……聞いていなかったのか?お前達に話すことなど、何1つない!」

 

 「……サオリ、聞いてくれ。」

 

 「お前もだ、アズサ。私達が受けた仕打ちを忘れたのか!?」

 

 「サオリ!トリニティとゲヘナが、マダムの存在に気づいた!マダムを捕らえるために、いずれトリニティとゲヘナがアリウスになだれ込んでくる!」

 

 サオリの肩を掴んでそう叫ぶアズサ。サオリにとっては想定外だったようで、その目は大きく開かれていた。

 アズサに目を向ける他の2人にも聞こえるように、アズサの言葉を補完する。

 

 「聞いていただろう。ベアトリーチェの奴が、このまま戦争を起こす気なら、負けるのはお前達の方だ。」

 「考えてもみろ。既にお前達の手の内はほとんど割れている。アリウス最高戦力であるお前達も、死んだと思われてる。」

 「アリウスに残っているのは何だ?まさか、非戦闘員を動員してでも戦うつもりか?だとしたら相当な阿呆だ。」

 「お前達は、そんな阿呆に付き合うつもりか?」

 

 「……お前には分からないだろうな。私達が受けてきた苦しみが、虚しさが……!」

 「これは復讐だ!私達を虐げてきたトリニティと、嘲笑ってきたゲヘナへのなぁ!」

 

 「それ、誰が言い出したんだ?」

 

 「……何?」

 

 「まさかお前、ただそう言われたから戦っているんじゃないだろうな?」

 

 アズサから、アリウスの内情は聞いている。アリウスは、教えられた憎しみに従って戦っていると。

 俺からすれは、くだらない事この上ない。

 ミサキは俺を睨みつけるが、その眼からは怒りではなく、諦観を感じる。歪んでる眼だ。

 

 「……分からないの?私達に選択肢なんかない。失敗すれば殺される。少しでもマダムの意向に沿わない奴は、ヘイローを壊される。」

 「私達は、あんたみたいな気ままな生き方が出来るわけじゃない。それとも何?マダムを裏切れって言うの?」

 

 「話が早いな、そういう事だ。今なら、お前達にも選択肢がある。」

 「大人しくアリウスに戻って、ベアトリーチェに殺されるか。奴を裏切って、俺達に寝返るか。」

 「あるいは、何もかも忘れて新たな人生を生きる、という選択肢もある。好きに選ぶといい。」

 

 「……無理ですよ。彼女は、アリウスの内戦を、あっという間にやめさせた人なんですよ?戦ったって、勝てませんよ……。」

 

 「そうかもな。で?それが何の問題になる?」

 

 「へっ?」

 

 全員の視線が俺に集まる。先生とアズサを含めて。その色は全員同じ、困惑の色だ。

 僅かな時間続いた沈黙は、サオリの言葉によって破られた。

 

 「……本気で言ってるのか?出来るわけが無いだろう。無残に殺されて終わりだ。」

 

 「俺からすれば、殺せない相手などいない。生きていれば、必ず死ぬ。ただ、やり方さえ分かっていればいい。それは、お前達だってよく分かっている事だろう?」

 

 「……狂犬が……!」

 

 「それは別の奴の呼び名だ。」

 「さて、アイスブレイクも済んだ所だ。話をしようか、スクワッド。」

 

 スクワッドが、互いの眼を見合わせている。サオリは困惑、ミサキは変わらず諦観、ヒヨリは怯えているが、何か別の意志も感じる。逃げ出そうとする気は無いようだが。

 一先ず先生に目線を送り、話をさせる事にした。まずは飴からくれてみよう。

 

 ”……どうしてアリウスは、トリニティとゲヘナを恨んでるの?何かされたの?”

 

 「……その裏切者から聞いてないのか?私達は、ずっと虐げられてきた。トリニティと、ゲヘナからな。」

 「だから、私達の手で正す。物事を、自分の都合の良いように解釈する、お前の様な奴らを排除してな……!」

 

 「具体的には?アズサ、教えてくれるか?」

 

 「……何も。むしろ、私達が虐げられてきたのは、マダムから。トリニティも、ゲヘナも、アリウスの事は覚えてない。手を出す理由もない。」

 「確かに、マダムのおかげで、内戦は終わった。けどそれは、苦しみの形が変わったに過ぎなかった。」

 

 「……とのことだが、否定できるか?」

 

 誰も答えようとはしない。さっきまで威勢よく吠えていたサオリですら、目を伏せている。

 今度は俺から、個人的に聞きたい事を聞いてみる。

 

 「……それなら、何故お前達は戦う?そうしなければ殺されるからか?」

 

 「当たり前でしょ……。ならあんたは何で戦うの?金儲けのため?」

 

 「生きるためだ。傭兵稼業は、生きるのに手っ取り早くてな。」

 

 「……くだらない。」

 

 「俺からすれば、お前達の理由も下らんがな。それなら、その前は?内戦中は、何故戦っていた?」

 「……答えろ、スクワッド。」

 

 再び沈黙。どうも俺からの質問には、答える気が無いらしい。そろそろ、体に聞くことも考えなければ。

 一番話してくれる可能性があるヒヨリに詰め寄ろうとした瞬間、何故かアズサが質問に答えた。

 

 「……私達を守るため。少なくとも、サオリはそうだったと思う。」

 

 「アズサ、お前はもう喋るな……!」

 

 「今がどれだけ辛く虚しくとも、それは全てを諦める理由にはならない!」

 「私は、サオリからそれを学んだんだ!ずっと私達を守って、鍛えてくれたサオリから、学んだんだ!」

 「どうしてだ、サオリ!?私は皆を助けたい!このままじゃ、アリウスはマダムと共倒れだ!どうしてサオリは何もしない!?」

 

 アズサの叫びを受けてか、サオリの眼の色が変わった。何かを懐かしむような、憐れむような眼。

 いい兆候だ。サオリに対しては、俺よりもアズサに話させた方が効果的かもしれない。

 

 「……アズサ、お前も分かっているだろう……!私達が戦ったところで――」

 

 「意味が無いと?なら逃げればいい。後は俺達がアリウスを潰す。」

 「結果がどうなるかは、保証しないがな。それが嫌なら協力しろ。」

 

 ”……君たちが、どんな生活を強いられてきたのか、アズサから聞いたよ。”

 ”まず言わせて。私たちは、君たちの敵じゃない。君たちを、アリウスの子達を、助けたいんだ。”

 

 「そして、俺はベアトリーチェを殺したい。お前達がどうなろうとどうでもいい。」

 「……つまり、お前達がこちらに来たとしても、俺は何も気にしない。もしベアトリーチェが何か仕掛けてきたら、俺が火の粉を払おう。」

 

 「分かりますよ、全部嘘なんですよね……。例え味方になっても、用済みになったら、ボロ雑巾みたいに捨てられるんですよね……。」

 

 「……それがお望みなら、今からでもそうしてやろうか?」

 

 「ひうっ!?」

 

 ”レイヴン!ごめんね、怖がらせて。”

 

 わざと顔をしかめ、猟犬の耳を後ろに倒しながら、ヒヨリの頭に銃口を向ける。

 先生に咎められたことで、大きくため息を付きながらリボルバーを下ろす。

 ヒヨリはほっとした様子を見せているが、もう一押し欲しい所だ。

 図らずも、俺と先生の立ち回りは、古典的な尋問手法の様相を呈している。

 

 「……レイヴン、シャーレの先生。お前達に分かるのか?」

 「誰かを失う痛みが、苦しみが。たった1人に全てを握られる、虚しさが。」

 「何も失ったことの無いお前達に、私達の苦しみが分かるのか……!」

 

 ”サオリ……。”

 

 サオリの調子が変わった。剥き出しの悪意が鳴りを潜めている。

 丁度いい。ここで強めに脅かしておけば、先生の尋問もやりやすくなるだろう。

 頭の奥にある記憶の引き出しを開け、ルビコンでの出来事を思い出していく。

 

 「……そうだな、分からん。」

 「誰かが死んだところで、俺は『ああ、またか』としか思わん。」

 

 「……何を言ってる?」

 

 「いい機会だ。キヴォトスの“外”の事を教えてやる。」

 「まず、そこは戦場だった。しかも、お前達のように頑丈じゃない人間が殺し合う場所だ。そこに居るシャーレのように、銃弾1発で死ぬ奴らが、殺し合ってたんだ。」

 「当然、毎日のように人が死ぬ。そいつらの死にざまだが、まず人の形を留めないな。」

 「爆発でミンチになった奴や、火に巻かれて黒焦げになった奴が大勢いた。ドッグタグごと粉々になって、元が人間だったのかどうかさえ分からなくなった奴も居る。」

 「……俺はな、その戦場を生き延びてきたんだ。“ヘイローが砕ける”、死がそんな生易しい表現じゃない場所をな。」

 

 「……っ!そんな話をして、私達が寝返るとでも――」

 

 「それに、戦場で生き残ったとしても、良いことはほぼ無い。捕虜になった時は最悪だ。殺してくれと懇願することになる。」

 「そこでは、拷問、洗脳、人体改造が当然のようにまかり通った。拷問で情報を吐かなければ、次を見繕えばいい。」

 「洗脳が効かなければ、生きた部品にしてしまえばいい。自我など邪魔だ、消してしまえ。そんな考えが当たり前だった。」

 「その口ぶりからして、アリウスで死んだ奴は、人の形をしてたんだろう?ならずっとましだ。」

 

 「「「「”………………。”」」」」

 

 「分かるか?俺は、そこで戦い、生き残った。他の奴らを大勢殺してな。」

 「教えてくれ、スクワッド。お前達は何人殺してきた?誰の、何を奪ってきた?」

 「これから、どれだけ殺す気だ?」

 

 スクワッド、アズサ、そして先生の目に映るのは、抜身の殺意を振り回す怪物。地獄の兵士の生き残り、と言ったところか。

 全員の眼が、恐怖一色に染まっている。狙い通りだ。先生まで怯えているのは想定外だが。

 サオリが俺の眼を見つめるが、その手は僅かに震えている。体重は、俺とは反対側の手にかかっている。

 

 「……お前こそ、何人殺してきた……!?何を奪ってきた……!?」

 

 「殺した数、か……。数えたことも無い。多すぎるからな。」

 「言っておくが、もうあの場所を知ってるのは、俺とエアだけだ。全員死んでるからな。」

 「あの場所を知っている奴は、大体俺が殺したからな。」

 

 サオリに向かって、ゆっくりと歩み寄る。1歩近づくたび、サオリは少しづつ後ずさりしようとする。

 サオリの左手がベッドの外を探った時、サオリは動くのを止めた。

 

 「……レイヴン、お前は一体、何者だ……!?」

 

 「……ただの、傭兵だ。」

 

 「……これから、一体どれだけ殺す気だ!?」

 

 サオリの眉間にリボルバーの銃口を押し付けて、後頭部を枕へ押し付ける。

 サオリの乱れた荒い息が顔にかかる。

 恐怖に支配された瞳を真正面から見つめて、言葉をサオリに投げつける。

 

 「……必要なら、何人でも。敵になるなら、お前達も例外じゃない。」

 

 サオリから離れ、窓に向けて歩きながら言葉を続ける。差し込んでくる夕日が、酷く眩しい。

 

 「……人間はいずれ死ぬ。全てが虚しいと思うなら、諦観の中で死ねばいい。それが嫌なら、戦って死んだらどうだ?」

 「もし戦うなら、自分で選ぶんだ、スクワッド。お前達自身が、戦う理由を。銃を握り、引き金を引くのは、お前達なんだからな。」

 「戦う理由は自分で選ぶべきだ。どんな環境に居たとしてもな。」

 

 ”……エア、今の話は、本当なの……?”

 

 『……本当です。私がレイヴンと出会った場所も、戦場の中でした。』

 

 全員固まっている。誰も指一つ動かそうとしない。アズサと、先生を含めて。

 

 「……それで、どうする?マダムとやらの所に戻るのか?」

 

 声を掛けても、誰も反応しようとしない。ただ、恐怖の眼が俺に向けられている。

 尋問どころではなくなってしまったようだ。

 

 「……まあいい。今決めろとは言ってないからな。」

 「俺の話は済んだ。後は、俺抜きで好きにやってくれ。」

 

 先生の肩を軽く叩いてから、病室を出ていく。

 エレベーターに乗ろうとする前に、看護師の1人から何かあったのかと聞かれたが、奴らと過去に色々あったと誤魔化しておいた。

 怪訝な顔をしていたが、もう俺が知ったことではない。それに、何か起きるとすればこれからだ。

 

 エレベーターの中で、ある人物から送られていた依頼を受ける旨を伝えておいた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 アリウススクワッドとレイヴン達の面談から数日後。

 月明りが照らす住宅街。その裏道を行軍する、ガスマスクを付けた部隊。

 その先頭に居たのは、パテル派の長である、聖園ミカだった。

 くぐもった声が、ミカを問いただす。

 

 「……ミカ、本当にここでいいのか?事前の調査と違うが。」

 

 「大丈夫、私に任せて。最近ナギちゃんが疑り深い事は知ってるでしょ?」

 

 「……分かった。付いていくぞ。」

 

 アリウスと聖園ミカは、そのまま裏道を進んでいく。ナギサのセーフハウスを襲撃し、桐藤ナギサのヘイローを、壊すために。

 しかし、いくらミカに付いていっても、セーフハウスにたどり着かない。むしろ、そこから遠ざかっている。

 私達を裏切ったのか?隊長がそう考えた時、ある廃屋の前で足を止めた。

 辺りは静まり返っていて、この廃屋の中に人がいるとも思えない。

 

 「……聖園ミカ、本当にここなのか?」

 

 「……大丈夫、あってるよ。」

 

 おもむろにミカが2つ手を叩くと、廃屋周辺に潜んでいた正義実現委員会が飛び出してきた。

 盾でアリウス達を取り囲むことで、壁が作られた。その奥からは、正義実現委員会支給のアサルトライフルの銃口が覗いている。

 

 「――ッ!伏兵!?」

 

 「どういう事だ!お前、まさか……!」

 

 「……そうだね。簡単に言うなら、同盟はおしまいってところかな。」

 

 微笑みを浮かべたミカがそうこぼした瞬間、アリウス達に投げ込まれる閃光弾と煙幕弾。

 爆音がいくつも鳴り響き、煙と閃光がアリウス達の視界を潰す。

 

 「グッ……!小賢しい!この程度で――」

 

 刹那、辺りをつんざく無数の銃声。だが、これは正義実現委員会のそれではない。

 小銃弾と散弾の雨が、アリウス達を次々と撃ち抜いていく。

 

 「――ッ!?なんだ!?何が起きてる!?」

 

 煙の中で響く、己の部下だった者の断末魔。何かがへし折れるような音と、靴底から伝わる、爆発ではない衝撃。

 そして、真っ白な視界の奥で動き回る、赤い光点と光輪。

 

 「……まさか。クソッ!!これで諸共……!!」

 

 隊長がグレネードを取り出し、ピンを引き抜こうとした瞬間、散弾によって手ごと撃ち抜かれる。

 

 「グアッ!!クッ!」

 

 それでも、“それ”は隊長を仕留めようとはせず、残った部下たちを次々と落としていく。

 真っ白な視界の中で繰り広げられる虐殺。

 

 「この戦い方、まさか、そんなはずが無い……!!」

 

 隊長は、ある1人を思い出していた。マダムから、最大の脅威と教えられていた存在。

 

 「あるんだよ、それがな。」

 

 声につられて振り返ると、右手に握っていたアサルトライフルをむしり取られると同時に、首を握られて持ち上げられる。

 そこには、ここに居ないはずの存在がいた。アリウス達にとって、居て欲しくない存在が居た。

 

 「よう。」

 

 真っ赤な瞳を隊長に向ける、黒い凶鳥。

 レイヴンは左手で握ったアサルトライフルを投げ捨てると、隊長を廃屋の壁に向かって、渾身の力で投げつける。

 人を容易に投げ飛ばせるほどの力に対抗できるわけもなく、最後に生き残った隊長は、壁に全身を強く打ち付け、そのヘイローを手放した。

 

 『敵勢力の全滅を確認。増援も無さそうです。』

 

 「お疲れ様~。こんな事頼んじゃってごめんね?」

 

 「構わない。仕事が増えるなら歓迎だ。」

 

 煙の中から出てきたレイヴンを、ミカは満面の笑顔で出迎える。

 レイヴンはそれを意に介さず、ベルトに吊り下げたLMGとショットガンを背中にしまう。

 

 「それにしても、もしかしてレイヴンさんって、いっつもこんな戦い方してるの……?」

 

 「……否定はしない。」

 

 「そっかぁ……。」

 

 ミカの視線の先にあるのは、煙が晴れたことで、その惨状が浮き彫りになった戦場。

 アリウス生たちの多くが、腕や足がへし曲がっており、ヘイローを浮かべている者は誰も居ない。

 警戒を解いている正義実現委員会達も、レイヴンの所業に戦慄していた。

 事前の作戦を思い出した正実の何人かが、アリウス生を装甲車の中へ担ぎ込んでいく。

 

 「……とにかく、これで分かってる範囲の襲撃は対処出来たな。」

 

 「そうだね。逆に言うと、これからは何にも分からないんだけどね……。いつ仕掛けて来るんだろ?」

 

 「これだけ部隊を損耗してるんだ。しばらく派手な動きはしてこないだろう。」

 

 事実、アリウススクワッドによるレイヴン捕獲作戦の失敗に始まり、マコトとの連絡員の確保や、今回の襲撃の阻止によって、アリウスの戦闘員はその数を大きく減らしていた。

 ミカは顎に手を当てながら、レイヴンの言葉に自分の意見を返す。

 

 「となると、後は調印式だけかな。それ以外に仕掛けて来るようなことなんて、無いはずだからね。」

 

 「その通りだ。後は備えるだけだ。お互いにな。」

 

 「備える、かぁ……。まあ、そうだよね。それぐらいしか出来ないよね。」

 「そうだ!パテルの武器の件で色々差し押さえてるから、その中に使える物があったら、正義実現委員会に回すってどうかな?」

 

 「いいアイデアだ、やっておけ。俺も、色々と手を考えておこう。」

 

 レイヴンがそう答えると、正実の1人が、アリウス生全員を装甲車に詰め込み終わったと報告した。

 それを受けて、ミカとレイヴンは正実の装甲車に後ろから乗り込み、その場を後にした。

 その場所には、いくつもの空薬莢と、無数の弾痕だけが残されていた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 『……リーダー、どうする?あいつの話が本当なら、いずれアリウスは……。』

 

 『マダム、とんでもない人を怒らせちゃったみたいです……!このままじゃ、私たちまでお終いです……!うぅ……!』

 

 『………………。』

 

 『……戦う、理由、か。考えたことも無かった……。』

 

 『……ねえ、何考えてるの……?』

 

 『……お前達は、どうしたい?』

 

 『……何、いきなり。』

 

 『……私は、死にたく、無いです。沢山美味しいものを食べたいですし、いろんな雑誌だって読みたいです。』

 『でも、このままじゃどちらにせよ、私達は死んじゃいますよね……?相手が、マダムになるか、レイヴンになるか、ぐらいで……。』

 

 『………………。』

 『……私が。私が、始末をつける。ミサキ、ヒヨリ。お前達は他の仲間を集めて、出来るだけ遠くに逃げろ。』

 

 『何する気?教えて。』

 

 『……私は、誰も失いたくはない。お前達も、アツコも、アズサも、アリウスも。このまま何もしなければ、アリウスには死体が積み上がる事になる。』

 『私が、それを阻止する。例え、マダムの敵になったとしても。』

 

 『むっ、無茶ですよォ!?どうやって戦うって言うんですかぁ!?』

 

 『ヒヨリ、声が大きい。』

 

 『あっ、すみません、つい……。』

 

 『……それでどうするの?生贄にでもなる気?』

 

 『……そうだ。レイヴンに、私の首を差し出す。その代わり、アリウスの皆は、決して傷つけないと、約束させる。』

 『……今は、これしか思いつかない。』

 

 『…………姉さんは、昔からそうだったよね。』

 

 『ううぅ……!サオリ姉さん……!』

 

 『……すまない、2人とも。後を頼む。』




あくまで想像ですけど、アリスクでさえも誰かを直接殺したことは無いんじゃないかなって、投稿者思うんですよ。
故に、何人も自らの手で殺してるレイヴンは、アリスクからも怯えられて当然なんじゃないかなって、投稿者思うんですよ。
初めから分かってたけど、透き通らねぇなぁ、レイヴン……。

次回
ルビコン川を越えて
(実はプロットが崩れて何にも考えてないなんて言えない)

次回も気長にお待ちくださいませ……。
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