BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL- 作:Soburero
量が全体的に多いので、暇なときにでもどうぞ。
書いてるときは楽しいけど、コレ読みやすいんか?
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ある生徒の随想録。
レイヴンについて書かれているようだ。
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『戦略兵器』、『勝利の象徴』。
強さを表現する言葉は様々だが、『黒い鳥』に勝るものは無いだろう。
私は1度、彼女の眼を見た。
昏く、深く淀んだ、多くを失って来た者の眼だ。
だがその奥には、確かに、炎が灯っていた。
全てを焼き尽くす、黒い炎が。
トリニティから少し離れた場所にある合宿所。今は補習授業部が使っている場所。
その建物から離れた空き地に、ストーカーを着陸させる。
何故俺がここに居るのか、それは単純に、先生から仕事を受けているから。
後部ハッチを開くと、今回の雇い主である、シャーレの先生がそこには居た。
「よく俺を宅配代わりに出来るな、シャーレ。今回は高くつくぞ。」
”え~、安くならないの?”
「誰がするか。満額で請求するからな。」
”そんな~……。”
「あっ!レイヴンさ~ん!」
聞き覚えのある声が、砂利を踏みしめる音と共に近づいてくる。
ツインテールの金髪に、あの妙な鳥のアクセサリーが付けられた銃。
阿慈谷ヒフミ。アビドスと共に、ブラックマーケットで探し物をした時以来か。
「ヒフミか。久しいな。」
「はい!お久しぶりです!あれからどうですか?」
「順調だな。名前もキヴォトス中に売れている。しかし、お前がここに居るという事は、あの癖も変わってないんだな。」
「あっ、ハイ。お恥ずかしながら……。あはは……。」
この補習授業部、ナギサが裏切者の疑いがある奴を放り込んでいるが、実際に成績不良者が集められているという話をシャーレから聞いている。
ヒフミはテストをすっぽかした結果、ここに放り込まれたらしい。
そして、部として成立しているという事は、メンバーがヒフミ1人ではないという事。
「あら♡ヒフミちゃんったら、どんな悪い癖があるんですか?もしかして、この人と外で、とか♡」
浦和ハナコ。元々天才と呼ばれるほどの学力を有していたが、最近になって急激に転落。結果、ここに放り込まれた。
「ハナコ!エッチなのは駄目!というか、あんた、誰なのよ!」
下江コハル。元正義実現委員会。こいつは単純に成績不良らしい。エリートを自称しているそうだが、現実は厳しい。
”コハル、この子はレイヴン。傭兵をやってるんだ。”
「レイヴン……。レイヴン!?なんであんたがここに居るのよ!?」
「むっ?知ってるのか、コハル?」
白洲アズサ。こいつも単純な成績不良。だが、こいつの経歴には空白が多く、謎が残る。
それに、奴が首から下げているブローチ。それに描かれているエンブレムを、どこかで見ていた気がする。
「こいつ、正義実現委員会で危険人物扱いされてる奴なのよ!」
”大丈夫、私が呼んだからここに居るだけ。それに、レイヴンはそんな子じゃないしね。”
「後者については同意しかねるが、シャーレの言う通りだ。仕事が済んだら、すぐに出る。」
「えっ?すぐ行っちゃうんですか?ちょっとゆっくりしていっても……。」
「ええ。みんなでお話ししましょう?丁度お茶もある事ですし。」
「あっ、いけない。自己紹介をするのを、すっかり忘れていました。」
「私は、浦和ハナコ。この補習授業部の2年生です。よろしくお願いしますね。ふふっ♡」
「私は白洲アズサ。ここで“黒い凶鳥”に会えるなんて、思ってなかった。」
「……下江コハル。言っとくけど、あんたと仲良くする気なんか無いからね!」
「えっと、私を含めたこの4人が、補習授業部です。先生が、この部活の顧問ですね。」
「改めて、よろしくお願いします、レイヴンさん!」
補習授業部から思い思いのあいさつを受け取る。1人噛みついてきた奴がいるが気にしない。あの“狂犬”に比べれば、可愛いものだ。
良くも悪くも、個性的なメンバーだ。こんな所に裏切者がいるとは思えない。強いて言うなら、白洲アズサが怪しいか。
やはりナギサは、命を狙われたことで焦っている。こんな関係の無さそうな連中を1か所に集めるほどには。
それはそれとして、気になったことが1つある。
「……また仕事を増やしたのか、シャーレ。」
”……えっと、その、ハイ……。”
「どうせ今シャーレは空なんだろう?事務員の1人でも雇え。」
”それは、生徒には自由でいて欲しいから――。”
「黙れ。お前は自分の立場と権限を考えろ。お前が倒れたらどうなると思ってる。」
”……返す言葉もございません……!”
「ま、まあまあ!先生は頑張ってくれてますから!荷物を運んだら、みんなで休憩しましょう?」
面白いくらいに目が泳いでいるシャーレの言葉を一蹴すると、ヒフミが仲裁に入ってきた。
これであの鳥に入れ込む趣味さえなければ、ここに居る必要などなかっただろうに。
「そうだな……。手伝ってくれ、少し数が多い。」
機体の操縦席まで歩き、床に積まれている段ボールを、3つまとめて持ち上げる。
先生や補習授業部と協力して、ストーカーに積まれていた荷物を、合宿所まで運び込んだ。
その後、アズサから1戦手合わせをお願いされたが、腕を掴んで振り回し、砂地へ放り投げてやった。
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「……それで、話は?」
ストーカーの中で、簡易ベッドに腰掛けた先生に問いかける。
普段では決して受けない配達依頼を何故受けたのか。それは、シャーレから依頼とは別に、暗号化されたメッセージが送られてきたからだ。
《連邦生徒会が動いた》と。
らしくないやり方だとは思ったが、それほど切羽詰まっているという事なのだろう。
先生は初めて見るしかめっ面で、俺に問いかけてくる。
”……レイヴン、最近の君がなんて呼ばれてるのか、知ってる?”
「黒い凶鳥のことか?大層なあだ名だが、ありがたく使ってる。」
”それもそうだけど、そうじゃなくて……。”
”……最近、連邦生徒会で緊急会議があったんだ。その議題が、君についてで……。”
「回りくどい。結論から言え。」
”……連邦生徒会は、君を危険因子って呼び出したんだ。これからどうなるかは、私にも分からない……。”
ナイトフォールを整備する手が、一瞬止まる。
危険因子、もはや懐かしい響きだ。ルビコンでそう呼ばれたのは確か、ウォッチポイント・アルファ、そこにあった巨大高炉に近づいた時だったか。
「……存外遅かったな。それとも、行政としては普通か?」
”レイヴン、このままじゃ君は、みんなの敵になる……!そう扱われるんだよ……!?”
「分かった上で言っている。そう言われるだけの事はしてきたしな。」
「……続きは?ただそれを伝えるために呼び出したわけじゃないだろう?」
先生は再び黙り込み、何かを考え込んでいるようだった。
しばらく無音の時間が続いた後、先生はゆっくりと口を開いた。
”……実は、シャーレ直属の、特殊部隊を作ろうと思ってるんだ。”
「……SRTを再編成するのか。お前にしては、思い切った判断だな。」
”その1番隊長を、君に任せたい。”
危険人物の独立傭兵を、連邦生徒会傘下の独立捜査機関保有戦力の第1隊長に据える。
余りにもバカバカしい考えに、先生と顔を見合わせてしまう。
俺の内心を知ってか知らずか、先生は立ち上がって説明を、俺の説得を始めた。
「……やはり大バカだよお前は。そんな事連中が許可するわけが無いだろう。」
”するよ。連邦生徒会は、君の力と、君の次の動きが読めない事を怖がってるんだから。”
”君がこの部隊に入れば、連邦生徒会は君の味方になる。君が仕事をきちんとこなすことは、あの子達も分かってるから。”
”そうすれば、君は連邦生徒会の敵にならなくて済む。何かあった時も、私が助けられる。”
「それを俺が受けると思ってるのか?」
”レイヴン、君には私の権限で、シャーレ専属で学籍を用意する。もし良ければ、シャーレに居住区があるから、そこを家にしてもいい。”
”給料だって、君からしたら少ないかもだけど、安定して渡せるはず。ボーナスだって付けられるかも。”
”今みたいに、1人で危険な仕事をする必要なんかない。私がさせないから。”
何を考えているのかと思ったが、こいつは単純に、俺の事を心配しているらしい。
だが、俺はそんなものを望んではいない。
背中のヒートシンクを拭いていたタオルを投げ捨て、先生と正面から向き合う。
「……もしその話を受けたら、俺は誰の敵になればいい?」
”――え?”
「お前の下に付くという事は、連邦生徒会の首輪を付けるという事だろう?つまり俺は、連邦生徒会の敵を狩る事になる。」
「結局のところ、狩る相手と、恨みを買う相手が変わるだけだ。首輪を付けられ、息苦しくなるだけだな。」
「そんなものは、俺の生き方じゃない。」
”生き方って……!そんな生き方してたら早死にしちゃうよ!”
「独立傭兵やってる奴が長生きしようなんて考えてる訳が無いだろうが!」
肩を掴んで俺を揺すってくる先生を、胸のあたりを軽く押して突き飛ばす。
焦りの感情を浮かべていた顔は、見る見るうちに嘆きのそれへと変わった。
「……お前、結局何がしたいんだ?俺に構う前にやるべきことが山ほどあるんだろう?」
”それじゃあ、どうするの……?連邦生徒会はきっと、君を全力で捕まえようとする……。”
”それに、1人で立ち向かうって言うの……?”
「……そこで捕まえるって判断が出るあたりが気に入らない。殺すつもりで来ればいいものを。」
”……レイヴン……。私は、誰にも死んでほしくない……。君にだって、生きていて欲しいよ……。”
”お願い、自分を大切にしてよ……。もう、君が戦う必要なんか、ないでしょ……。”
シャーレの言う通り、俺自身が戦う必要は無い。ただ、生きるために手っ取り早かったのが、傭兵だったというだけだ。
だが今では、この立ち位置に居るからこそ出来ることもある。
簡易ベッドにへたり込んだ先生に対し、自分の言葉を正面からぶつける。
「……シャーレ。俺はな、自分の意志でこの生き方を選んでる。自分の意志で、戦う事を選んでる。戦いの中で生きることを選んでる。」
「お前が誰かを大切にすることは結構だ。だがな、自分も助けられない奴が誰かを助けられると本気で思ってるのか?」
「俺を助けたいなら、まず自分を助けろ。それすら出来ないなら、その生き方は捨てることだ。」
「……これは、お前の友人としての忠告だ。」
こいつは何度も過労で倒れ、騒ぎになっている。銃弾1発で死ぬことを分かっていながら、前線で指揮を執っている。
救いようのない阿呆のために、犯罪スレスレの行為に手を貸したりもする。すべては、生徒達の為だと嘯きながら。
これほどまでに狂っていたから、今まで生きてこられたのか。それとも、ただ運が良かっただけなのか。それは分からない。
ただ俺が言えるのは、俺に先生の助けは必要ない。そして、俺はお前の生徒になったつもりなどない、という事か。
”……レイヴン、1つ聞いてもいい……?”
しばらく無言の時間が続いた後、ベッドに座った先生が、うつむいたまま声を上げる。
「……何だ?」
”……レイヴン、君は……。死ぬのが、怖くないの……?誰かを殺すって、怖くないの……?”
「……無い。誰かが死に、誰かが生きる。勝者とは、生き残った者。それが、戦いの摂理だ。」
「もし戦いの中で死んだなら、俺もそれまでだったというだけだ。」
「戦いの中で生きる、それの何が悪い。」
”……歪んでるよ……。”
「……ようやく気付いたか。人間は、初めから歪んでるんだ。」
俺は、その歪みの象徴。人道を無視した施術を施して生まれた、旧世代型強化人間。ACを効率的に動かすためだけに造られた、生きた部品。
そして俺も、名前も顔も知らないような奴らを、大勢殺してきた。知っている奴だって、大勢。前に立ちふさがるなら、友人だろうと撃ってきた。
何より俺は、世界を、その枠組みそのものを焼いている。こんな事が出来る存在を、その種族を、他にどう表現すればいい。
ガトリングガンに弾を詰めようと、弾薬箱を取り出そうとした時、コンコンと3回のノックが機内に響く。
音につられてハッチを見れば、白い制服を着た誰かがそこに居た。
「えっと、ごめんね。お話し中かな?」
聖園ミカ。ティーパーティーのトップの1人。パテル派の長。
そして、今俺の中で、最も裏切者の疑いを向けられている者。
先生も顔を上げて、ミカに対応することにしたようだ。
「……聖園ミカ、何故ここに居る。」
「あれっ?私の事知ってるんだ。」
「色々と調べているからな。それで、要件は?」
「……う~ん、これは2人とも、かな……。」
「ねえ、2人とも。ちょっとおしゃべりでもしようよ。」
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ミカの手招きに誘われるまま、たどり着いたのは、合宿所に備え付けられたプール。
トリニティの校舎はもちろん、合宿所からも距離があるため、密会をするならうってつけの場所だ。
ハイヒールと革靴、そしてコンバットブーツの足音がプールサイドに響く。
「お~!ここに水が入ってるの、久しぶりに見たな~。」
「こんなところまで連れ出して、することが世間話か?」
”まあまあ。確かに、私達を呼び出した理由は気になるけどね。”
「むぅ、お堅いなぁ。ちょっとしたアイスブレイクだよ。」
確かに、ただ親睦を深めたいだけ、という可能性もある。だがこいつが自分の立場を分かっていないとは考えづらい。
今とる行動としては、余りにも軽率だ。
コロコロと表情の変わるミカの顔を正面から見つめる。
「この時期にティーパーティーのお前が、護衛も付けずにここに来ること自体が異常だ。」
「ティーパーティーにも知られたくない話をするから、ここまで俺達を連れてきた。違うか?」
「……もしかして、レイヴンさんは結構知ってる感じ?ま、いっか。それじゃあ、早速本題に入るけど――。」
「ねえ、2人とも。ナギちゃんから何かお願いされなかった?例えば、裏切者探し、とか。」
微笑みをたたえながらも、緊張感を纏ったミカが、俺達にそう問いかける。
ナギサが俺を頼ろうとしたことに勘付いていたようだな。
”――ッ!”
「……ああ、確かに頼まれた。断ったがな。」
”えっ?レイヴンも頼まれてたの?”
どうやら先生も裏切者探しを頼まれていたようだ。
俺に質問する先生を無視して、ミカは話を続ける。
「やっぱり?最近のナギちゃん、疑り深くなってるからね~。レイヴンさんが来てからは特にかな?」
「レイヴンさん、ナギちゃんになんて言ったの?」
「……裏切者は近くに居ることが多い、そして決して1人ではない、とな。」
「あちゃ~、それはナギちゃんも怖がっちゃうね。だから様子が変だったんだ……。」
”変って言うと?”
「……余計に疑り深くなっちゃってるんだよね。ナギちゃんの部下とか、私も信用されてないみたいでさ。」
「無理もないな。奴にとって考えたくない可能性だったんだろう。」
「それで、その話を俺達にした理由は?」
俺の言葉を聞いてから、ミカは1度周りを見渡して、誰も居ない事を確認した。
そして、俺達しかいない事が分かった後、ミカは今までとは異なる妖しげな笑みを浮かべながら、口を開いた。
「……私、知ってるんだ。裏切者が、誰なのか。」
「……話せ。」
「……補習授業部、白洲アズサ。彼女が、このトリニティの裏切者。」
「あの子は、トリニティの生徒じゃない。元々はトリニティが総合学園になる前に存在した分派、アリウスの子なの。」
白洲アズサが、アリウスの1員。この言葉を聞いてようやく思い出した。
奴のブローチと同じエンブレムが、サオリのジャケットに描かれていた。
気になるのは、アズサはどうやって潜り込んだのか。何故ミカはそれを知っているのか、という事だが、いずれ語られるだろうと考え、今は口にしない。
「そして今は、分校を名乗っている奴らの1人、という事か。」
「あれ!?何で知ってるの!?」
「そいつらから仕事を受けたからだ。罠だったがな。」
「そっか~、大変だったんだね……。」
「いつもの事だ。続きを頼む。」
”いつもの事なんだ……。”
「いつもの事なんだ……。」
ミカと先生が、俺を憐れむような目線を同時に向ける。ちょっと腹が立ったので、ミカと先生に見えるようにしかめっ面を向けた。
「……まあ、話を戻すけど。」
「……トリニティにとってアリウスは、いわば負の遺産。今でこそ、私達は豊かな暮らしをしてるけど、その過去では、仲間だったはずの人達を排斥してきたの。」
「今のアリウスは、苦しい生活を強いられてる。だからアリウスは、私達トリニティを恨んでる。私は、その過去を清算したい。」
「アズサちゃんには、トリニティとアリウスの和解、その象徴になって欲しかったの。」
「……だからお前が手を回し、アズサをトリニティに編入させた。」
「そういう事。だからある意味では、裏切者は私。エデン条約を放って、大昔の問題を何とかしようって動いてるわけだからね。」
確かに、この時期に反対派が動くのは、ナギサとしては避けたい事だろう。パテルの反対が特に強く、その長も協力する気は見られない。
ミカとパテルが、奴の頭痛の種である事は間違いない。
だが、ナギサが探している人物は、ミカが知っている人物とは違うだろう。
視界の端に、手に入れた情報をまとめたメモを出しながら、自分の考えを口にする。
「……ナギサの言う“裏切者”、どうもそういうニュアンスではなさそうだったぞ。」
「え?どういう事?」
「直接的にティーパーティーの命を狙う者、という事らしい。事実、俺も護衛を頼まれた。断ったが。」
「……そっか、だからナギちゃんはレイヴンさんを呼んだんだね。」
「私、あなたが呼ばれた理由、分かるかも。」
「百合園セイアの暗殺、だろう?」
瞬間、辺りの空気が一気に凍てついた。冷気の発生源は、今目の前にいる、ティーパーティーのトップ。
先生はナギサから聞かされていなかったようで、大きく目を見開いていた。
大きく雰囲気が変わり、射抜くような目線を向けるミカと、真正面から向き合う。
”暗殺……!?どういう事!?”
「……ねえ、どうしてそこまで知ってるのかな?どうやって調べたの?」
「企業秘密だ。」
「……そっか。簡単には教えられないよね。ティーパーティーしか知らないような事を知る方法なんて。」
「……その通り。セイアちゃんは、ヘイローを壊された。だからナギちゃんは、身の安全を確保しようとして、レイヴンさんを呼んだ。」
「レイヴンさんがナギちゃんを守り、先生に補習授業部で裏切者を探させて、見つかり次第理由を付けて退学させる。そんな計画だったみたい。」
「だがその計画は、準備段階で崩壊した。」
「そうだね。結局ナギちゃん1人で何とかするしかなくなっちゃったみたいだし。可哀そうだけど、私にとっては都合がいいかな。」
「これが、私が知ってる事全部。ねえ、どう思う?」
”どう思うって……。”
「ちょっと待て、少し聞きたいことがある。」
「何かな?何でも聞い――」
歩み寄りながら腰からリボルバーを引き抜き、銃口をミカの眉間へと押し付ける。
少し驚いた様子を見せたミカだが、すぐに冷静さを取り戻し、俺の眼を真っ直ぐ射抜いてくる。
”――ッ!?レイヴン、何して――!”
「何故ナギサに何も伝えなかった。友人が殺されたという割には、随分冷静じゃないか。」
「裏切者どもの次の標的はナギサだ。その次は、お前が狙われる。それに考え付かなかったのか?」
「……伝えようとはしてたんだよ?ヤバいからエデン条約なんて止めた方がいいよって。でも、中々良いタイミングが無くて。」
「タイミングが無かった、なあ。バレないやり方だって、いくらでもあっただろうに。」
「あのね、トリニティにはどこにでも目と耳が付いてるの。ちょっと変な事をするとすぐ噂になるんだから。ティーパーティーの動きは特にね。」
「ほう?なら何故お前は廃墟に行っていたんだ?」
「……何の話?」
ミカの目線がさらに鋭くなるが、さらに銃口を押し付けて対抗する。
視界の端のメモを、ミカのスマホのGPS履歴に切り替える。
「とぼけるな。お前が地下通路を通って、トリニティ北の廃墟に行ったことは分かってる。その廃墟に、お前以外の誰かが居たこともな。」
「……本当に、何でそんなことまで知ってるのかな?」
「……そうだよ。アズサちゃんを編入させるために、廃墟に行って、アリウスと会ってた。その時が、アズサちゃんとの初対面だったかな?」
「嘘を吐くな。エア、教えてやれ。」
『トリニティの生徒名簿を調べました。白洲アズサがトリニティに編入したのは3か月前。監視カメラにアズサの姿が映り始めたのも、同じ時期です。』
『ですが、あなたのGPSのタイムスタンプには、今日から1週間前と記録されています。あなたの証言とは会いません。』
『私達に嘘をついても無意味です、聖園ミカ。知っていることを、全て話してください。』
「……怖いなぁ。何でこんな子を頼ろうとしたかな、ナギちゃん……。」
「……分かった。もう降参。全部正直に話すよ。」
手を顔の横でフラフラと振り、ため息を付きながらそう言うミカ。
ミカが次に顔を上げた時には、最初に見た朗らかな少女の面影は無く、抜身の攻撃性を露わにした怪物が、そこに居た。
決して照準を逸らすことなく、リボルバーの撃鉄を起こす。
「……ナギちゃんが探してる、トリニティの裏切者。セイアちゃんの襲撃を指示した人。それは、私。」
”――ッ!ミカ、どうしてそんな事を……!”
「おかしいと思わない?どうしてナギちゃんは、あそこまでエデン条約に入れ込んでるのかな?」
「どうしてエデン条約には、『ETO』っていう武力組織を作る事が織り込まれてるのかな?トリニティとゲヘナの、和平の為の条約なのに。」
「分かるでしょ?ナギちゃんは、桐藤ナギサは、エデン条約とETOの私物化を目論んでる。私は、それを阻止したいの。どんな手を使ってもね。」
「それに、私個人としても、エデン条約なんて結びたくない。ゲヘナの角付きと仲良くするなんて絶対ムリ。」
「でも、アリウスと和解したいって言うのは本当。まあ、エデン条約が立ち消えになるまで、私の武力として手伝ってもらうけどね。」
「これが、私の本当の目的。でも、それを知ってどうするの?正義実現委員会に突き出すのかな?」
「ティーパーティーのトップである私と、キヴォトス中で危険人物扱いされてる独立傭兵のあなた。どっちの証言が信用されるのかな?」
「……エア、どうだ?」
『嘘ですね。話を始めた瞬間、ミカのコルチゾール値が急上昇しました。』
引き金を引き切り、50口径の鉛玉をミカの頭に叩きつける。
衝撃でよろめいた隙を逃さず、左腕を掴んで背中まで回し、足を引っ掛けてうつ伏せで寝かせる。
後ろに回させた腕を膝で挟み込み、頭は髪を掴んで地面と銃口で挟み込む。
「嘘を吐くなと言ったはずだ、聖園ミカ。もう一度聞くぞ。今度こそ正直に答えろ。」
「お前の目的は何だ。何故アズサを引き込んだ。」
「ハァッハァッ……、あはっ。」
「何がおかしい。」
「ねえ、今あなたがしてることの意味、分かってる?あなたは今、ティーパーティーのトップを撃ったんだよ?」
「ああ、分かってる。俺はトリニティのお尋ね者になり、お前は行方不明になる。」
「……やっぱり、あなたは連れてこない方が良かったかもね。」
「今更後悔しても遅い。質問に答えろ。お前の目的は、何だ。」
ミカは押し倒されてもなお余裕の表情を崩さない。それがいつまで続くか見ものだ。
暴れることを止め、質問に答え始めたが、銃口は押し付け続ける。
「……アリウスとは和解したいけど、エデン条約を結ぶのはイヤ。それは本当。」
「和平の象徴としてアズサちゃんを引き込んだのも本当。でもね……。」
「……今、アリウスの子達が、どんな生活をしてるのか、知ってる?」
「知ったことじゃない。何故セイアの襲撃を指示した。誰にしたんだ。」
「……アリウスに。私がヘイローを壊せって指示した。」
『嘘です、レイヴン。』
50口径をもう1発、今度はこめかみに撃ち込む。
痛みで暴れるミカだが、彼我の体重差が振りほどくことを許さない。
.500S&W弾の直撃を2発喰らっても気絶しなかったのは、こいつが初めてだ。
流石に嘘が通じないと理解したのか、その表情には焦りが見える。
「――ッッ!?ハァッ!それをゼロ距離で撃つって正気!?」
「質問に答えろ。今お前に出来るのはそれだけだ。」
「うぅっ……!アリウスに指示したのは、本当……!それを聞いてどうするの!?」
「ならだれがセイアのヘイローを壊した?パテルの人間か?」
「やらせる訳ないじゃん!一応私の部下なんだよ!?」
「なら何故パテルが闇ルートで武器を買い集めてる。お前の指示か?」
「…………えっ?冗談だよね、それ……?私、知らないんだけど……?」
ここまで威勢よく答えていたミカだったが、ここに来て急激に失速した。
だがさっきの事から、演技である事も考えられる。冷え切っていない銃口をさらに強く押し付ける。
「とぼけるな。奴らがなんの意味も無く、強力な武器を買い漁るわけが無いだろうが!」
「いや、だからそれは本当に知らない!!何で皆そんなことやってるの!?」
「お前、この期に及んで……!」
『待ってください、レイヴン!どうやら嘘では無いようです。』
エアがそういうと、視界の端にミカのバイタルが表示された。
確かに、さっきの質問に答えようとした瞬間を確認すると、ストレスは感じているが、嘘を吐いている反応ではない。
むしろ、俺の質問を聞いた瞬間に、ノルアドレナリンの値がスパイクを描いている。
銃に掛けた力を緩めながら、尋問を続ける。
「……どこまで指示した。」
「……武器については、私は何も知らない……!セイアちゃんの襲撃は指示したけど、ヘイローを壊せとまでは言ってない……!」
『……本当です。』
「何故パテルは武器を買い漁ってると思う。」
「知らないよ……。私が知ってたら止めてたって……!」
「憶測でいい、話せ。」
「…………多分、クーデター。ナギちゃんを襲撃して、パテルをホストにする気なんだと思う。パテルは、私みたいに、ゲヘナが嫌いな子が多いから……。」
”……エデン条約を、制定させないために……。”
「なら、お前が襲撃を指示した理由は。」
「……ちょっと脅かすだけで良いって言ったのに……。ただ、セイアちゃんがちょっと口うるさかったから、仕返ししたかっただけなのに……!」
「私は、セイアちゃんを殺せなんて……!一言も、言ってないのに……!」
”ミカ、君は……。”
『……本当です、レイヴン。どうやら彼女は、アリウスに踊らされたようですね。』
さっきまでの様子とは打って変わって、その目元には涙が浮かんでいた。
銃を放し、拘束を解くと、ミカは少し驚いた様子で、座り込みながらこちらを見ていた。
「……それなら、お前に朗報だ。百合園セイアは生きてるぞ。」
”………………え?”
「………………え?」
「厳密には、まだ死んでない、だがな。詳細が聞きたければ、救護騎士団の団長に、話を聞くといい。」
「…………それ、本当……?嘘じゃないよね……?」
「ああ、本当だ。こんな事で嘘は吐かない。」
「…………そっか……。そっかぁ……!よかったぁ……!」
「……セイアちゃん、ごめんね……!ごめんなさい……!うぅ、ううぅうぅ……!!」
バイタルを確認すると、この涙も嘘ではないようだ。ミカにとってセイアの殺害は本意ではなかった。ただ、アリウスに利用されたに過ぎない。
今まで俺達に手を出せなかった先生がようやく動き、ミカの隣にしゃがんで話を始めた。
”ミカ、君はずっと、罪を背負って来たんだね。確かに、君が指示したことは、悪い事。でも……。”
”君は本当の意味で、誰かを傷つけることはしなかった。君は、アリウスの思惑に巻き込まれて、罪の片棒を背負わされただけ。”
”君が、悪者になる必要なんかない。こんな時こそ、私達を頼って欲しい。助けて欲しいって、声を上げて欲しい。”
”私は、大人で、先生。生徒達の味方、君の味方だから。私が何とかする。”
”もう大丈夫。私が君を、君たちを、助けてみせる。”
「ううっ……!ほんとうに、いいの……!?わたし、わたし、わるいこなのに……!」
”うん、いいよ。私がそばにいる。必ず、君達を助けるよ。”
「うぅぅ……!うぁああぁぁあぁ……!!」
ミカは先生の胸に顔を埋め、わんわんと泣き出してしまった。無理もないだろう。むしろ、普通のキヴォトス人が、良くここまで耐えてきたものだ。
自分の友人を、自分のせいで殺してしまったという、罪の意識に。
俺はミカが落ち着くまで、プールサイドのフェンスに寄りかかって、待つことにした。
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ミカが泣き出してから数分後、先生の胸から顔を上げたミカ。
メイクは涙で崩れ、顔全体がぐしゃぐしゃだが、どことなく憑き物が落ちたような感じがする。
「……落ち着いたか?」
「……うん。まさか、セイアちゃんが生きてるなんて、思わなかったなぁ……。」
「てっきり、私のせいで……!ううぅ……!」
「……もう泣くな。お前の泣き顔も見飽きたぞ。」
「うぇ!?いきなり殴ってくるじゃん!?そこはさぁ!普通慰めの言葉をかけるところでしょ!?」
「俺にそんな気遣いを求めるな。そういうのはシャーレに言え。」
「あ~もう!!ハイハイ分かりました!!もうあなたには頼みませんよ~だ!!」
これだけ元気に罵倒出来るなら、随分回復したんだろうな。というより、そうでなければ困る。
こいつには事態の解決に協力してもらわねばならん。
”レイヴン、今のは良くないよ。謝ろう?”
「黙れ。自分の世話も出来ん奴に言われたくはない。」
”グフッ……!それを言われると……!”
「ハァー、全く……。」
そうしてため息を1つ付くと、すぐにエアからの報告が入った。
『レイヴン、風紀委員長から通信です。どうしますか?』
”風紀委員長……。ヒナから?”
「……なんでゲヘナの風紀委員長?仲いいの?」
このタイミングで、ヒナからの通信。恐らく内容は、裏切者について。
丁度いい、トリニティの裏切者もここに居ることだ。こいつらにも聞かせておこう。
「……繋げ、スピーカーでな。」
『レイヴン、今いい?』
「問題ない、どうした?」
『……裏切者が割れたわ。トリニティじゃなくて、ゲヘナのだけど。』
”――ッ!?”
「……どういう事?私、ゲヘナに知り合いなんていないんだけど。」
この通信は、俺とエアの声だけが入る様になっている。それでも念のため、人差し指を唇に立て、2人に指示を出す。
2人が頷いたのを確認してから、ヒナに返答する。
「……分かった。場所も回線も安全だ、話してくれ。」
『……ゲヘナの裏切者は、万魔殿議長、羽沼マコトその人よ。』
「……奴がそうなのか。理由は?」
『ここ1ヶ月、万魔殿議事堂周辺で、不審な人物が見られた。それも何度も。そいつを尾行してみたら、マコトと密会していたのよ。』
『当然、密会の現場を押さえて、両者共に確保。マコトは少し強めに締め上げたら、色々話してくれたけど、問題は連絡役の方ね。』
『妙に口が堅いの。まるで、尋問に耐える訓練でも受けてるみたいに。けど、そいつが身に着けていた物で、辛うじて身分は特定できた。』
『そいつは、アリウスっていう、トリニティに存在していた分派の1員。言ってしまえば、トリニティの過去の亡霊ね。』
「やはりアリウスか……。トリニティでも、アリウスの連中が動き出してる。俺個人にも接触があった。詳細は後で暗号化して送る。」
『頼んだわ。思っていたより、動きが早いわね……。』
『それで、マコトの目的だけど、トリニティの転覆ね。アリウスと共にエデン条約の調印式を襲撃して、トリニティの首脳陣を一網打尽にする計画だった。』
『ただ問題は、アリウスは、トリニティだけじゃなくて、ゲヘナも恨んでるという事。』
『実際、万魔殿が保有してる物を全部調べたら、マコトが調印式で出そうとしてた飛行船に、大量の爆薬が仕込まれてた。マコトが用済みになったら、それで吹き飛ばすつもりだったんでしょうね。』
『そして、アリウスの目的だけど、多分あなたの見立て通り。トリニティとゲヘナの、全面戦争による共倒れ。それを狙って無ければ、ここまで手を回す必要は無い。』
「同感だ。とすると、アリウスが本格的に仕掛けてくるのは――」
『……エデン条約の調印式。そこで、トリニティとゲヘナを、根絶やしにするつもりでしょうね。』
『アリウス達がどこに潜んでるのかは分からない。けれど、キヴォトス三大校であるトリニティとゲヘナに、アリウスが正面から戦争を仕掛けられる兵力を持ってるとは思えない。』
『……私なら、会場に何かを仕込んでおく。両校の連中を一掃できるようなモノをね。』
「……俺がアリウスだったら、俺だってそうする。これで、敵はハッキリしたな。」
『そうね。敵は、旧トリニティ分派、アリウス残党。保有兵力、兵器類、ともに不明。これだけ分かれば十分。』
『情報をまとめ次第、先生に伝える。事情を良く知ってるってことで、あなたも推薦しておくから、いずれ声がかかるはず。準備しておいて。』
「了解した。俺はティーパーティーに情報を流しておく。ゲヘナの、特にお前の手を取る様に言っておこう。」
『分かった。頼むわよ、レイヴン。気を付けてね。』
「お前もな、ヒナ。レイヴン、アウト。」
大体は予想通りの内容だが、マコトの奴が通じていたとは思わなかった。やるかやらないかで言えば、確実にやる奴だが。
今度会ったときは角を全部へし折っておこう。あるいは、ヒナが既にやっているか。
先生とミカに目を戻すと、両者とも目をぱちくりさせている。それだけ裏切者が意外な人物だと思ったのだろうか。
”……いつの間に、ヒナと仲良くなってたの?”
違ったようだ。確かに、治安部隊の長と、独立傭兵が仲良くしていることは、異例と呼んでいいだろう。
俺達の出会い方が散々だったから、なおさらだ。
「仕事を回してくれるんだ。今ではお得意様だよ。」
「……よくゲヘナの子と仲良くできるよね。」
「確かに、ゲヘナの治安は最悪だ。だが、個人を見れば、話が通じる奴も居る。マコトは通じない最たる例だが。」
”……とにかく!アリウスはゲヘナとも関わってた。しかも、トリニティとゲヘナ、両方を潰すために。それは確かだね。”
先生は手を1つ叩いて、話をまとめてくれた。それに俺は頷くことで答える。
ミカを見ると、悲しみが落ち着いた分、別の感情が湧いてきたのか、自分の二の腕を強く握っていた。
「……私の和平の願いも、体よく利用されたって事だよね。」
「そういう事になる。だがお前は、アリウスへの復讐を考える前に――。」
「分かってる!ナギちゃんに謝って、全部伝えなきゃ……。こんなはずじゃなかったんだけどなぁ……。」
「信用を取り返す時間くらいはあるだろう。自分がナギサの味方だと、お前の行動で教えてやれ。」
「うぅ~!言ってること正論だから余計に腹立つぅ~!!」
”それじゃあ、ミカ。私と一緒に――”
「待て、シャーレ。お前は俺に付き合ってもらう。」
”えっ?いや、先にミカとナギサの――”
こいつらにはまだ伝えていない、俺だけが知っている情報がある。そして、奴らは俺が誰かを連れてくる事なんて考えてないはずだ。
少なくとも、ミカがアリウスに協力する理由がなくなった以上、今伝えておくべきだろう。
「俺の仕事の話を覚えているだろう?それで仕掛けてきたアリウスの連中を、病院送りにしてる。」
「……決して脱走させないようにと、一言添えてな。」
「それって、つまり……!」
「アズサに声を掛けろ。あいつの友人達に、会いに行こうじゃないか。」
奴が何故戦っていたのか、俺は知らない。同じ戦う者として、聞いておきたい。
錠前サオリ、お前が戦う理由は何だ、とな。
アリウスの存在と思惑がメインの人物全員にバレました。
これからのベアおばの足掻きにご注目ください。
まあ、黒い鳥を敵に回した時点で結末は、ね……?
次回
猟犬たちのキリエ
『選ぶのはいい事だ。選ばない奴とは、敵にも味方にもなれない。』
次回も気長にお待ちくださいませ……。